七夕寓話六塔決戦～寓話六塔の一角を崩せ！

■リプレイ

●阻む髭
「みなさん、行きましょう！」
　イッパイアッテナ・ルドルフ（ドワーフの鎧装騎兵・e10770）の合図と共に、８人と３体のサーヴァントがヘリオンからジュエルジグラットの手へと降り立った。周囲からも他に３班、合計３２名のケルベロス達。
「七夕の願いは、叶えてもらえるのを待つんじゃなくて、自分の力で叶えてみせるよ」
「よーし、みんなで頑張って作戦を成功させよー！　おー！」
　ヴィヴィアン・ローゼット（びびあん・e02608）と平・和（平和を愛する脳筋哲学徒・e00547）がそう言うと、ケルベロス達は駆け出した。
　目指すのは寓話六塔の一角『青ひげ』。
　その姿は簡単に見つけることが出来た。特徴的な青い髭。その風貌。見間違えるはずもない。
「地球に残された精鋭を全て呼び寄せたというのに、一体も辿り着けなかったとは。なんという役立たずどもだ」
　青ひげはそう言って忌々しげに、言葉を吐いた。
「対空攻撃の様子は、無いみたいだよ」
　周囲の様子を窺いながらリリエッタ・スノウ（小さな復讐鬼・e63102）が、『軍用双眼鏡』を目から外してそう言った。
「リリエッタさん。有難う御座います。でもホント、延び放題のひげですね。あのむさ苦しい毛をジョリジョリ剃ってやったら、案外中身はちいさいおっちゃんかもしれませんよ？」
　感謝を伝えながら、ガートルード・コロネーション（コロネじゃないもん・e45615）が目の前にいる青ひげの感想を言う。
「皆で成功させた作戦、台無しにはさせないよ。おまえを絶対に吹っ飛ばす！」
「後々残すと面倒そうだ。ここで死ね」
「死神に与する者、疾く散るがいい」
　フロッシュ・フロローセル（疾走スピードホリック・e66331）が気合の言葉と共に、ガジェット『瞬走駆輪炉』にある３つのモードが正常に作動するかを確かめ、タクティ・ハーロット（重喰尽晶龍・e06699）とハル・エーヴィヒカイト（閃花の剣精・e11231）は絶対に此処で死を与えると宣言した。
　だが突如として青ひげの髭が不気味に伸び始めた。
「ならば余の髭の餌食となるがいい」
　青い闇といった方が正しいかもしれない。地を這ってケルベロス達まで伸びた髭は垂直に打ちあがって、人の姿を形成した。
「何だこいつらー！」
　和が反応し、武器を取る。その髭の人形は無数であり、他の班の姿も一瞬で見えなくなってしまっていた。
「本より、まともに相手をする気はないという事でしょう」
　イッパイアッテナはそう言って、最前面に踊り出る。
「上等！　仲間のために、皆のために……勝利のための道を切り開く！」
　フロッシュは走駆輪炉を『風獣形態』へと変形させ、口元へ運ぶ。
『【風獣形態】、からのぉ―――GHAAAAAAAAAAA！！』
　フロッシュの咆哮という名の爆音が、戦闘開始の合図となった。

　髭人形は、それほどの強さではなかった。恐らく時間稼ぎの為だけに形成されている人形であろう。
　ケルベロス達は、髭人形をなぎ倒し前に進もうとする。
「えーい！　もえちゃえー！」
　和が炎弾を放ち、リリエッタが短いスカートを躍らせながら蹴りを放って屠る。
　だが、すぐに新しい人形が形成され、ケルベロス達を阻んだ。
「数が多すぎるな」
　ハルがそう呟くように、髭人形を全て倒しきるのに、１０分を要した。
　ただ幸いにも、ケルベロス達の連携は、青ひげの目論見を容易く超えた。大きな傷を負う事は無く、最後の１体を倒して再び青ひげと対峙する。
　他の班も同様だったのだろう。再び３２人が同時に集結したのだ。

●寓話六塔の強さ
「……頭を、垂れよ！」
　だが突如として、髭が鋭い錐となって襲いかかった。
　後方に位置した者を一瞬にして貫くその髭は、多数のケルベロス達に突き刺さっていた。
「ザラキ！」
「アネリー！」
　特にサーヴァントへの攻撃は致命傷となっていた。イッパイアッテナのミミック『相箱のザラキ』とヴィヴィアンのボクスドラゴン『アネリー』は、その攻撃で動けなくなってしまっていた。
　ヴィヴィアンの攻撃はタクティの『ミミック』が防いでいたが、大きな傷になっていた。
「ミミック、良くやったんだぜ。……それにしても、これが寓話六塔か、だぜ」
「まだ！」
　フロッシュが警鐘を鳴らす。みると青ひげは鍵束を頭上に掲げていた。
「来るぞ！」
　ハルが叫ぶと同時だった。青ひげの鍵束が拡散し、ケルベロス達に振り注いだ。
　血の糸を引くような弾道。
　その鍵が、前を行くケルベロス達に突き刺さる。
「この強さ……。流石に堪えるんだぜ……」
　タクティは動けなくなったミミックを見ながら、それでも前を見据えた。
「……皆さん、ご無事でしょうか？」
　イッパイアッテナが己の肩に突き刺さった鍵を引き抜きながら、全体を見回した。彼には髭人形との戦いでガートルードが施した光の盾と、ヴィヴィアンの紙兵があったのだが、その光は粉々に砕け散り、紙兵は風に吹かれて宙を舞って行った。そして、その傷痕が重くのしかかる。
「何とかな……。それに私達だけじゃない。いくぞ」
　しかし、まだ戦いは始まったばかりだった。ここで怯む訳にはいかない。ハルがそう言って、斬霊刀『緋月』を鞘から抜き去り、青ひげに突っ込んで行く。
「大丈夫。だから、負けるなんて、あっちゃダメでしょ……！」
　ヴィヴィアンも傷を負っていたが、もう一度紙兵に息を吹き込んだ。
　他班のケルベロス達も己が武器を手にし、グラビティを籠めて青ひげに打ち放っていく。
　リリエッタはヴィヴィアンの言葉に頷いてバスターライフル『リリ・リリ・スプラッシュ』を両手に持つ。見た目は巨大な水鉄砲だが、勿論唯の水鉄砲ではない。水ではなくグラビティを圧縮して注ぎ込み、狙いを定め始めた。
　リリエッタはその狙いの途中で、良く知るウェアライダーの少女を視界に捉える。お互いに何も語らずとも分かる感覚。それは信頼という言葉が当てはまるのかもしれない。その感覚が、指先に触れるトリガーを引くタイミングの迷いを消し去る。
（「勝つよ……」）
　水鉄砲から放たれたグラビティが氷の刃となって襲いかかると、視線を交錯させた少女もまた同時に攻撃を繰り出した。
　そこにタクティもまた、ドラゴニックハンマー『ligula desire』を肩に背負うように飛び出した。すると、少し前方に知ってい花吹雪が見えた。
「恭介、頼りにしているんだぜ」
　タクティはその彼にすれ違い様にそう言って、更に加速を増幅させて勢いのまま青ひげの肩口に武器を振り下ろした。
　どっ……！！
　鈍い音が反響する。だが彼、いや彼等の攻撃はそこで終わらなかった。花吹雪がそのタクティの攻撃を後押しし、青ひげを縛って行くのだ。
『全てを撥ね返す力を。』
『これ以上、誰も傷つけられないように守れる力を。再び立ち上がり、偽りの神を討ち払う力を……今こそ、与え給え！』
　イッパイアッテナが言葉の盾を前衛に纏わせ、ガートルードが一番傷の深いタクティに天から柔らかな光の梯子を降らせた。
「喰らえ――大咆哮っ！　そのまま止まってろ――青ひげっ！！」
　そしてフロッシュが爆音を浴びせると、他の班からも怒涛の攻撃が青ひげに打ち込まれていったのだった。

●結界
　ここで怯む訳にはいかない。この場にいる全員がその思いだった。
　すると青ひげは、たまらず自らの髭を伸ばし、傷を塞ぐ。
　だがケルベロス達の攻撃は終わらない。唯ひたすら、全力での攻撃あるのみだった。
「七夕の逢瀬の力は……再会を願う誓いと絆の力。お前等が喰らっていいものじゃない！」
　癒し手となっていたガートルードも、筋力を乗せた高速の斬撃を打ち込む。
　総攻撃だった。
　しかし、青ひげの回復力もまた凄まじかった。攻撃を与えても与えても、青ひげは倒れる事が無かった。
　それでも限界は来る。青ひげは確実に消耗していたのだ。
「おのれ。ポンペリポッサ！　魔女の長とは言え耄碌は避けられぬか！　図体だけの腑抜けめ！　役立たずめ！」
　青ひげはそう言いながらも、ジュエルジグラットの手の先を睨む。明らかなる苛立ちである。
　だが逆に、その子供じみた理論は、ケルベロス達の思考をクリアにする。
「あー、あいつ逃げようとしてるー！　あの髭ふんじゃえば良いかな？」
　和がそう言った時だった。青ひげは一つのケルベロス達の班に向かって、突っ込んでいった。
「そこをどけぇ！　余がジュエルジグラットに戻らねば、全ての計画が水泡に帰す！」
　分かりやすい逃走という行動であるが、それを赦すケルベロスなど一人もいない。全員が一つの強固な檻と成り、突っ込んでくる青ひげを押し返す。
　青ひげは、向かって行った班に無様に押し返されると、今度は此方に向かってくる。
「心を利用し、冒涜するドリームイーターの企みなど許しはしない」
　その突破をイッパイアッテナが体で受け止めた。
「こうなると、哀れなものだな」
　ハルが無数の刀剣を呼び出し始め、殺界を広げるように自分自身の領域を広げて、青ひげを覆いきる。
『我が内なる刃は集う。無明を断ち切る刹那の閃き、絶望を切り裂く終わりの剣…！　久遠の刹那(ブレードライズ・エーヴィヒカイト)ッ！！』
　その言葉は号令。無数の刀剣達が舞い、青ひげに突き刺さっていく。
「……さよならだ」
　最後にハルが突き刺さった剣の柄を握り、そのまま切り上げた。そして、同時に逆の手の愛刀を一閃したのだった。

　青ひげは、自分の目的が叶わないと分かると、また別の班に向かって突っ込んでいった。だが、ケルベロス達の形成した檻が壊れる事は無かった。
「おのれ……！　この青ひげが、ジュエルジグラットの全てを絶対制御し、モザイクを晴らすまで、後少しなのだ……！」
　そう言葉を撒き散らせ、ケルベロス達の猛攻に抗う。だが、耳を劈く轟音が空全体に響き渡った。
「なに！？」
「モザイク！？」
　フロッシュとヴィヴィアンがきらきらと降り注いでくるモザイクに気がついた。
「どうやら、ゲートが繋がったみたいなんだぜ」
　タクティの視線は青ひげに注がれていた。青ひげの表情は青ざめ、狼狽し、目が見開かれていた。
　光り輝くモザイク片は『ジュエルジグラットの手を切り離していた結界』だった。それは、ジュエルジグラットの手が再び、ドリームイーターのゲートと繋がった事を意味していた。

●目的
「おのれおのれおのれおのれ……！」
　己の内にある気持ちを隠そうという考えなど無いのであろう。憤怒するその表情と、そして空気を震わせる声が響き渡った。
「余の……モザイ……」
　恨み言をそう漏らした時、一人のケルベロスが何かに気がついて問うた。
「ドリームイーターがモザイクを晴らそうとしている事は知っています。ですが……何故なのですか？」
　モザイクを晴らすと言う執着は、確かにドリームイーターの謎でもある。すると青ひげはその問いかけに反応した。
「ドリームイーターは、ジュエルジグラットに大切なものを奪われた犠牲者の集まりだ。モザイクを晴らす事だけが、自分を取り戻す唯一の方法……しかし、それも全てジュエルジグラットの掌の上に過ぎぬ……」
　自暴自棄なのか、秘密を隠すことが出来ないからなのかは判らない。ただ、青ひげは続ける。
「モザイクを晴らすべく得たドリームエナジーは、しかし、ジュエルジグラットを肥大化させる為にのみ使われている。余達はモザイクを晴らす事は出来ぬのだ。ジュエルジグラットの気まぐれでも無い限りな」
　すると、ガートルードの思考が違和感を伝えてきた。
（「おかしい……。ゲートを閉じれば、ジュエルジグラットのドリームエナジーは枯渇していくはず。噛み合わない理由が別にある……？」）
　そう思考を巡らせた。そして、一つの答えを導き出し、それを確認する為に問うた。
「成る程。ゲートを閉ざしたのは、それが理由なのですね？」
　全てを知っているかのように、ガートルードははっきりとそう言葉を発した。すると青ひげは彼女に向かって口を開いた。
「絶対制御コードの番人たる赤ずきんが滅んだ今、ゲートを閉ざし続ければ、ジュエルジグラットはドリームエナジーを得られずに弱体化する」
（「かかりましたね……。そしてやはり、目的は『ジュエルジグラットの弱体化』だったのね」）
　ガートルードは頷き、此方の思考を表に出さずにそう結論付けた。
「あと少しで、ジュエルジグラットの制御を奪い、その力で世界の全ての者どもに、我と同じ苦しみを与えられたものを……！」
　その言葉は、ジュエルジグラットを敵としている事を意味していた。
「その身の上に同情はいたします……しかし同じ苦しみを与える、とはどういう意味です。答えていただきたい。寓話六塔」
　一人のウェアライダーがそう尋ねる。ドリームイーターの苦しみなど、地球に住む者と同じとは限らないからだ。
「決まっているだろう！　お前達の大切なものを『モザイク』に変えて、その力を奪う事だ！」
　青ひげは咆え、そしてまた髭を伸ばしていく。
「我が恨みは、モザイクを晴らすだけでは晴れる事は無い！　モザイクを持たずに生きていたモノ全てに、モザイクを植え付けねば収まらぬのだ……！」
（「え？　それって、ただの逆恨みってやつ？　……かっこわるー」）
　和はそう思いながら眉をひそめていると、同じような声が聞こえてきた。
「逆恨みも極まれり、だな」
「そうだよ。モザイクだけ晴らして満足してればよかったのに！」
　その子供じみた発想に、非難の声と攻撃が打ち込まれる。すると青ひげは目に鈍い光を携え、グラビティを髭に伝えていく。
「ぶわっはっは……侮るな番犬ども！　寓話六塔たる余の最後の力、目に焼き付けよ！」
「いけない、青ひげは自爆する気です！　とどめを！！」
　一人のケルベロスがその行為の意味を悟り、叫んだ。
「絶対制御コードを使うまでもなし！　余の髭の魔力とて、この程度は造作もない！」
　一本のナイフが青ひげの眉間に叩き込まれるが、青ひげは動きを止めない。
「ぶわっはっは、死ね、滅べ！　ジュエルジグラットよ、余を拒みし世界の全てよ！！」
　両手を広げ、高らかに嗤う。その存在を世界に知らしめるように、自分が世界の中心であると宣言するように。
　最後に一人のアイスエルフが綿雪を描き、青ひげを包み込んだ。
「んっ、完成だー！　きれいに描けたぞー！」
　蛍のように輝きながらひらひらと舞う綿雪は、青ひげの嗤い声までも包んでいった。
「ぶわっはっは！　ぶわっはっはっはっはっは！！　ぶわっ」
　そして終に青ひげは倒れた。ケルベロスによる『死』が与えられたのだった。

●モザイクと言う恐怖
「やったんだぜ……」
　互いの顔を見て安堵し、喜ぼうとした時だった。
「ちょっと待って！」
　フロッシュは、髭が急速にモザイクになっていくことに気がついた。モザイクは青ひげの全身に広がり、空間を一瞬で支配する。
　徐々に渦となっていくモザイクは、ジュエルジグラットの手を巻き込み、ケルベロス達をも飲み込んでいく。
「リリエッタさん！？　チョ、チョーカーが！！」
　ガートルードがリリエッタの首を指差し、目を見開いた。
　はじめガートルードが何を言っているか分からず、リリエッタは不思議に思ったが、確かに肌身離さずにつけていたチョーカーの感触が無い事に気がついた。
「なによ……これ！」
　確認するべく手鏡で首を映し出すと、そこにはモザイクが巻きついていた。大切なものが失われてモザイクとなる、それは恐怖でしかなかった。
「やめて……！　これは、これだけは！！」
　リリエッタは悲鳴をあげ、何とかもがこうとするがそのモザイクを掴むことは出来ない。
　ガートルード自身も、自らの左腕のガントレットの中にある感覚が奇妙である事を感じながら、ぎりっと奥歯を噛み締めた。
「他の班も、そうみたいなんだぜ！」
　タクティの言葉の通り、周囲の他のチームの何人かから悲鳴が上がっている。
　そして、普段からは聞いた事がないと思えるくらい大きな、イッパイアッテナの声が周囲に響き渡った。
「ヴィヴィアンさん！！！」
　その声に全員がヴィヴィアンに視線を移した。
「あ……ああ……」

　ヴィヴィアンの全身が、ゆっくりとモザイクに変化していっていた。

「き……きり、と……」
　その存在を感じながら戦い、青ひげが倒れた時お互いの無事を確認した大切な婚約者に視線を移しながら、その名を呼ぼうとする。だが次第に発声に力が入らず、最後は自らが自らで無い感覚と共に、目の前がモザイクで覆われてしまったのだ。
「離脱させる！　悪く思え！！」
　あってはならない異変に、ハルが勢いをつけてモザイクとなったヴィヴィアンを、ジュエルジグラットの手から体当たりをして突き落とす。
「撤退よ！！！！」
　そして同時に、フロッシュが大声を上げ、ケルベロス達は飛び降りていったのだった。

　ジュエルジグラットの手から離れるにつれて、全員のモザイクは元に戻っていっていたが、反応は様々だった。
「こわい。……な」
　見上げるモザイクの渦を見つめて、和は呟いた。彼が愛する物は『平和』である。まさかそんな物までも、モザイクとなってしまったら……。そう考えると恐ろしかった。
　ゲートの封鎖は解除できた。
　あの場所に攻め込む時が来るだろう。ケルベロス達は渦まくモザイクを見つめながら、決意を新たにしていくのだった。

作者：沙羅衝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年7月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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