ヴァオの誕生日~おにぎりを抱いて翔べ

作者:土師三良

●ヴァオかく語りき
 七月十八日、二十三時四十五分。
「はうあっ!?」
 ヘリポートの片隅でケルベロスたちと談笑に興じていたヴァオ・ヴァーミスラックス(憎みきれないロック魂・en0123)がいきなり奇声を発した。
「明日は俺の誕生日じゃん! いや、明日っていうか、十五分後だけど。忙しさにかまけて、すっかり忘れてたぜぇ」
「こんな時間までずっとダベってた人が『忙しさにかまけて』とかよく言えますね……」
 ヘリオライダーの根占・音々子(ねじまきヘイオライダー・en0124)が呆れ顔を見せた。
 とはいえ、心根の優しい(?)彼女のことではあるから、呆れるだけでは終わらず、ヴァオが望んでいるであろう方向に話を進めた。
「で、誕生パーティーだのなんのだといったイベントでもするんですか? 今日の今日ですから、なんの準備もできてませんけど」
「うん。オニパでもやってみっか。たいして準備もいらないし、実は前からやってみたかったんだよねー」
「おにぱ?」
「オニギリ・パーティーだよ、オニギリ・パーティー。皆で食材を持ち寄って、いろんなおにぎりを作って、一緒に食べるんだ」
「なるほどー。シンプルながらも楽しそうですね」
「だろ? じゃあ――」
 満面の笑顔でケルベロスたちを見回すヴァオ。
「――各自、米とか自分の好きな具を用意して、十五分後に再集合するよーに。音々子は食堂から業務用のでっかい炊飯器を借りてきてくれ。それから、ここにいないケルベロスたちへの連絡もよろしくー」
「いやいやいやいや!」
 突然の要求に対して、音々子は激しくかぶりを振った。
「ちょっと待ってくださいよぉ! 明日のお昼とかじゃなくて、今すぐ始めるんですか!?」
「うん」
 しれっと頷くヴァオ。
「善は急げって言うだろ。それにこういうのは昼間よりも夜更けにやるほうが盛り上がると思うんだ。夜更かしってのは楽しいからなー。美味しいおにぎりと楽しい夜更かしのコラボレーション――ミッドナイト・オニギリ・パーティー! 略してMOPだ!」
「略す意味が判らないんですが……」
 またもや呆れ顔をする音々子に構うことなく、十数分後に五十三歳の誕生日を迎えるドラゴニアンは夜空を見上げてシャウトした。
「皆でMOPしようぜぇーっ!」


■リプレイ

●おにぎり夜想曲
「さん、にー、いち!」
 深夜零時に向けてのカウントダウンがヘリポートに響く。
 声の主は、任務を終えて帰還したばかりのシルディ・ガードだ。
「ぜろぉーっ! ヴァオさん、お誕生日おめでとー!」
「おめっとさーん!」
 ナクラ・ベリスペレンニスがギターでバースデーソングを奏で始めた。
「ヴァオも一緒に弾かね?」
「おう!」
 ミッドナイト・オニギリ・パーティー――略してMOPの主催者であるヴァオ・ヴァーミスラックスもギターを弾き出した。
「店にあった材料で作ってみまシタ」
 ギターの二重奏が流れる中、エトヴァ・ヒンメルブラウエが料理を並べていく。薄焼き卵で包んだおにぎりと和風かきたまスープ。
「僕は、みけ太郎のおやつを兼ねたニボシを活用させてもらった」
 愛猫の名前を出しながら、ジェミ・ニアも二種類のおにぎりを並べた。ニボシやアオサ等を材料にしたふりかけのおにぎりと、ひじきを混ぜ合わせてシソでくるんだおにぎり。
「俺はお弁当用のおかかを使いました。ちなみにこのお米は学校で育てたやつなんですよ」
 農学部に在籍している筐・恭志郎(寝間着代わりのジャージ姿だ)のおかかおにぎりはバラエティーに富んでいた。山椒おかか、中華風おかか、クリームチーズ入りおかか等々。
「こんなに種類があるんだ。僕、辛いのに興味ある!」
「俺はチーズが気になりマス……あ? チーズと鰹節、すごく合うのデス! ジェミのおにぎりも彩りが綺麗ですネ」
「エトヴァさんのスープも絶品ですよ。奥深い旨味にふわふわ優しい味わい……」
 至福の笑みを浮かべ、各々の料理を味わう三人であった。

「お米を炊くのとか手伝うよー! れっつ、MOP!」
 元気よくヘリポートを駆け抜けるシルディ。
 それを横目で見送りながら、スウェット姿の空国・モカが言った。
「任務でもないのにヘリポートに召集されるというのは――」
「――不思議な感じがしますね」
 玄梛・ユウマが後を引き取った。
「でも、良い経験になりそうです。MOPという専門用語があることも知りましたし」
「いや、それはヴァオ先生の造語ではないのか?」
 なんとも言えない顔をして首をかしげるモカ。
 その反応に気付くことなく、ユウマは焼きおにぎりを作り始めた。
「自分、料理はできませんが、焼くのだけは得意なんですよ。ブレイズキャリバーだけに!」
「地獄の炎で脂肪も燃焼できればいいのにねー」
 大弓・言葉が冗談半分(つまり、半分は真剣だ)で願望を述べ、女子力を盛り込んだエビマヨおにぎりを食べ始めた。
「だって(もぐもぐ)夜中に炭水化物を(もぐもぐ)食べまくったら(もぐもぐ)太っちゃうしー(もぐもぐ)」
『全世界の炭水化物に謝ってほしいっス』とでも言いたげな目でボクスドラゴンのぶーちゃんに見られていることも気にせずにおにぎりを口に放り込んでいく言葉。
 だが、ヴァオが演奏を終えたところで食事を中断した。
「はい、ヴァオくんに高級ツナ缶をプレゼント!」
 言葉に続いて、ユウマが焼きおにぎりを、モカがめんたいバターおにぎりをヴァオに手渡した。
 その様子を眺めていたナクラが鼻をひくつかせた。エルス・キャナリー、君影・リリィ、巽・清士朗たちの用意した豚汁の香りが漂ってきたのだ。
「豚汁まであるのか。突発イベントにしては豪勢だなぁ。それもこれもヴァオの人徳ってやつ? よっ、本日の主役!」
「よせやい。なはははは!」
 と、高笑いするヴァオの傍に――、
「主役さん! 笑ってないで、ご飯を冷ましてくださいな!」
 ――リリィがやってきて、団扇を握らせた。

「このような深夜の悪ノリは嫌いではない」
 豚汁を配り終え、静かに呟く清士朗。
 リリィが彼の横にぴたりと寄り添い、特製(ご飯を冷ましたのはヴァオ)の海鮮おにぎりを差し出した。
「師匠、どうぞ……あ?」
「清士朗様、あーん!」
 リリィに先んじて、反対側に寄り添っていたエルスもおにぎりを差し出した。いや、当人は先んじたつもりなどなく、リリィの行動に気付かなかっただけなのだが。
 しかし、如才のない清士朗はしっかりと気付いており――、
「エルスもリリィもありがとう」
 ――優しく微笑み、二人のおにぎりを食すのであった。
「これ、炊き込み御飯のおにぎりなんですよ」
 嬉しそうにおにぎりの解説をするエルス。
「具は股肉とか鮭とかうずら卵とか……」
「具とか生ぬるいこと言ってるんじゃないです!」
 と、叫んだのはペテス・アイティオ。
「男は黙って塩むすび! ねー、りゅーくん!」
 自分だけに見える非実在性恋人に語りかけながら、ペテスはおにぎりを作り始めた。
「ラップ使うとか邪道です。炊きたてのご飯をこうやって……熱っ!? あちゃちゃちゃちゃですよ!?」

「うまく三角にならない。塩鮭もはみ出ちゃってるし……」
 ペテスと同様にヴィヴィアン・ローゼットも悪戦苦闘していたが、ペテスとは違う点もあった。
「コツつかめば案外、簡単なもんだ」
 と、横でアトバイスしてくれる水無月・鬼人が非実在性ではないことだ。
「それにしても、眠いな。もし、寝落ちしちまったら、起こして……お? ヴァーミスラックス。これ、プレセント。夜にでも飲んでくれ」
 眠気に耐えつつ、鬼人はヴァオに一升瓶を差し出した。ラベルには『清酒ちよこれいとう』と記されている。
「そのお酒、持ってきたんだ! 悪酔いするからとか言って、あたしには飲ませてくれないのにー」
 冗談ぽく頬を膨らませながら、ヴィヴィアンもヴァオにプレゼント(狐が出てくる映画のDVD)を渡した。

●おにぎり幻想曲
 ヴィヴィアンのDVDを再生したわけでもないのに、狐の尻尾がヴァオの前で揺れていた。
「稲荷寿司なら、即座に用意できたんですけどね」
 尻尾の主――ウェアライダーの御子神・宵一が振り返る。
「やはり、握り飯にはお供が必要だと思うんですよ」
 彼が作ったのは、ワカメと南関揚げの味噌汁。お供どころか、メインを張れる一品だ。
 別の場所ではアルベルト・ディートリヒも味噌汁を味わっていた。お供は塩おにぎりと缶ビール。
「真夜中のパーティーと聞いた時は、てっきり、秘密の仮面舞踏会的な18禁イベントかと……」
「そんなわけないだろ」
 勘違いしていたフレデリ・アルフォンスの頭を煙管で叩くアルベルト。
 その横ではジュスティシア・ファーレルが焼き肉お握りをもりもりと食べている。
「夜中に焼き肉というのは危険すぎるぞ」
「へーき、へーき。どうせ、ケルベロスの活動でカロリーを消費するから」
 アルベルトの忠告を聞き流し、ジュスティアは数個目の焼き肉お握りを胃の腑に送り込んだ。
 その間にフレデリが食べ始めたのも『危険』な代物だった。すき焼きを具にした人頭大のおにぎり。
 アルベルトは無言で肩をすくめて、ビールを呷った。
 げっぷの代わりにあくびが漏れた。

「このブツの具は、事務所の冷蔵庫から失敬してきた高価なイクラだ。誰にも言うなよ」
 思わせぶりに声を潜めて、櫟・千梨がブツ(おにぎり)を差し出した。
「うん! 誰にも言わない!」
 ヘリポート中の人々に聞こえるほどの大声で答えて、鬼飼・ラグナがブツ受け取り、代わりに別のブツを千梨に渡した。
「はい! ばあちゃん直伝のチーズおかかおにぎり!」
「お!? 美味そうじゃーん!」
 と、ヴァオが割り込んでブツを覗き込んできたが、千梨は渡したりしなかった。
「悪いが、これは予約済みでね」

 ここにもチーズ入りのブツを欲する者が一人。
「これは……鮭かよ。チーズはどこだ、チーズは?」
 ウェアライダーの玉榮・陣内。狂月病対策の目隠しをして、おにぎりを漁っている。
「つくる端から食ってくんじゃない」
 比嘉・アガサが陣内の尻を蹴飛ばした。足を使ったのは手が塞がっているから。ヴァオの年齢と同じ数――五十三個のおにぎりを琴宮・淡雪や新条・あかりと一緒に作っているのだ。
「あかり様やアガサ様のおにぎり、美味しそうねえ」
 にっこりと笑う淡雪。映画やドラマなら、笑顔のアップ。そして、カメラがズームアウトし、婚期を逃さぬための『ゼ○シィにぎり』やナイスバディーになれる『モテル女にぎり』などの珍妙なおにぎりがフレームイン。
 それらが見えてない振りをして、あかりが陣内を注意した。
「ほら、食べちゃダメだって。数が揃わなくなっちゃうでしょ。アガサさんにおしおきされても知らな……」
 遅かった。すべてを言い終える前にアガサは行動を起こした。
 摘み食いをやめぬ陣内を簀巻きにしたのである。
 ヴァオもろとも。
「なんで、俺まで!?」
「ごめん。つい、うっかり……」
「ふふっ」
 しれっとヴァオに謝るアガサを見て、苦笑するあかり。その手が止まっている間に、陣内のウイングキャットが主人に代わって摘み食いを始めたが、可愛いさ故に無罪だろう。
 別の小動物――淡雪のファミリアロッドの鶏が簀巻きのヴァオを激しくつつき始めた。
「ヴァオ様から美味しい匂いでもしてるのかしら?」
 首をかしげる淡雪であった。

「五十三歳か……おまえ、けっこう歳いってたんだな」
 呆れ顔をしながら、ソロ・ドレンテがヴァオを筵から解放した。すぐに呆れ顔は笑顔に変わったが。
「まあ、それはさておき、私が祝ってやる。好きな具材があるなら、遠慮なく言え! 私におにぎりを握ってもらえるなんて、滅多にないことなんだぞ」
「じゃあ、ツナマヨ!」
「確かにツナマヨも悪くないが――」
 と、アラタ・ユージーンがヴァオの前に立ち、自作のおにぎりをヴァオに勧めた。
「――こういうのはどうだ? シラス、青海苔、胡麻、粉チーズなどなどの混ぜお握り。炙りスパムと厚焼き玉子を挟んだおにぎりもあるぞ」
「美味そう!」
 目を輝かせるヴァオに新たな飯テロの刺客が現れた。
「おめでとう、ヴァオ。お誕生日だから、すぺしゃるなのを作ってきたわ」
 鬼追・薄荷だ。その手にある『すぺしゃる』な料理は、刻んだイチゴとチョコを生クリームの中に詰め込んだ『お誕生日おにぎり』。
「ちょっと地味かもしれないけど、『ロックおにぎり』というのもあるの」
 薄荷が新たに取り出したおにぎりも生クリームがメインだった。中身は三角形に切った米粉パンであり、粉末抹茶とハバネロで味付けされているのだという。
「ケーキ系なら、僕も持ってきたよ。これでもくーらーえー!」
 ピジョン・ブラッドがグラビティ『博覧怪奇の歓待』を発動させた。執事の亡霊が出現し、豪華なケーキを恭しい所作でサーブ。
「でも、幻影だから、お腹にたまらないんだよね」
「意味ねえだろ!」
「じゃあ、こっちを食べる?」
 怒鳴るヴァオに向かって、ピジョンはフライドチキン入りおにぎりを突き出した。
 そして、ソロのツナマヨおにぎりが完成し、簀巻き犯たちのおにぎりも数が揃った。
 旺盛な食欲でそれらをたいらげていくヴァオにアラタが語りかける。
「アラタのおにぎりは酒の肴にもいいと思うんだ。なぁ、ヴァオ。アラタが呑める歳になったら、一緒に呑んでくれるか?」
「おう!」
 と、ヴァオは頷いた。
「その時が来るまで、鬼人の酒を取っておくぜ」

●おにぎり狂想曲
 藍染・夜は炊飯器の前に立ち、おにぎりを作り始めようとしたが――、
「……っ!?」
 ――炊き立てのご飯の熱さに悶絶した。
「ここは我々に任せてくださいな」
 アイヴォリー・ロムが夜を押しのける。
「今年のわたくしは去年とは一味違います。おにぎり職人アイヴォリーと呼んでください」
「おにぎり職人!?」
 ヒーローを見るかのような隠・キカの眼差しを受けて、てきぱきとおにぎりを量産するアイヴォリー。
 そして、神月・龍之介がおにぎりに味噌を塗り込み、網に乗せて焼いていく。
 その手際の良さに驚嘆しているのはミレッタ・リアス。
「熟練の域に達しているわね、アイヴォリー。神月さんも見事だわ」
「判ったから、手を動かして」
 龍之介に促され、ミレッタは海苔を炙り始めた。
 キカもラップでご飯を包み、一生懸命に握っている。玩具のロボットのキキを傍らに置いて。
 やがて、皆(夜を除く)の奮闘の結果、いくつものマトリョーシカおにぎりが完成した。小さなチーズ入り味噌焼きおにぎりが詰め込まれた大きなおにぎり。
 それらをヴァオのところに運び――、
「誕生日、おめでとう!」
 ――夜が乾杯の音頭を取り、黒ビールで満たされたグラスを掲げた。
「頼むから、悪酔いだけはしないでくれよ」
 お茶を手にした龍之介が夜の脇腹を肘で小突く。
「チーズが口いっぱいに広がって……美味しい」
「黒ビールに合いますね。最高!」
 味噌焼きおにぎりに酔いしれるミレッタとアイヴォリー。
 キカもふうふうと息を吹きかけて冷ました後で一口かじり、世にも幸せそうな笑顔を見せた。
「おいしい!」

「温かいうちに召し上がってください!」
 サッカーボール・サイズのおにぎりをヴァオに渡したのはミリム・ウィアテスト。寝不足のせいで目が充血している。
「ビールサーバーも用意してきたんですよ」
「わたしもビールを持ってきたわ。お茶やジュースやチューハイも」
 各種ドリンクをテーブルに並べる五嶋・奈津美。肩の上でウイングキャットのバロンが楽しげに尻尾を揺らしている。
「もちろん、おにぎりもね。鮭フレークと黒ゴマのおにぎり。慌てないで、バロン。ちゃんとあなたの分もあるから」
「うへへ。このジュース、おいちい……」
 奈津美が持ってきた酒を飲み過ぎたのか、ミリムのテンションがおかしくなっている。
 ヴァオがそれを呆れ顔で見ていると、水貝・雁之助が声をかけてきた。
「俺、おにぎりにはうるさいほうなんだ。なにせ、おにぎり好きな某芸術家を演じた役者が名前の由来だしな」
「おまえ、『武雅』って名前だったっけ?」
 お寒いボケをスルーして、雁之助はヴァオに得意料理を振る舞った。肉味噌入り焼きおにぎりの出汁茶漬けだ。
「小夜もこれが好きだったなぁ」
 今は亡き幼馴染みの名前を口にして、雁之助は寂しそうに笑った。
「おにぎりは僕の好物なのです」
 と、述懐したのは某芸術家……ではなく、ヨハン・バルトルト。
 傍らではクラリス・レミントンが微笑んでいる。
「そんなヨハンのために今日は腕によりをかけて作ったよ」
 彼女が作ったのは鮭と梅と焼きおにぎり。ヨハンのおにぎりはごま塩と海苔。
「これは師匠がよく作ってくれた思い出の一品なんですよ。熱中症対策で塩気を強めにしているんですが……大丈夫ですか?」
「うん。あったかくて、素朴で、美味しいよ」
 二人は地面に座り込み、雁之助と同じようにおにぎりをお茶漬けにして味わった。
 そして、睡魔に敗れ、ほぼ同時に眠りに落ちた。

「ふふふ。蓮華はブイヨンを作るのだけが上手な女の子じゃないんだよ!」
 自信満々の笑みを浮かべて鮫洲・蓮華がヴァオの前に置いたのは、カレーピラフを薄焼き卵で包んだオムライス風おにぎり。
「うむ。おにぎりと言えば、カレーだな」
 と、頷いた神崎・晟の持つおにぎりは、サフランライスにシーフードカレーベースの具を詰め込んだもの。
「ヴァオ大先生はツナマヨとおかかが好きらしいから、それらもカレーに混ぜてみるか」
「いや、混ぜなくていいから!」
 ヴァオが晟の暴虐を必死に止めていると、ゴリラの獣人型ウェアライダーの金剛・小唄もカレーおにぎりを持ってきた。
「作るのに苦労したよ。点心が摘み食いしようとするから」
 カレーの色を活かしてヴァオを模したキャラにぎりの他、黒米を使ったゴリラのキャラにぎりや、白米を使った犬や猫のキャラにぎりもある。
「でも、このつぶらなお目目のヴァオさんおにぎり……食べるのはちょっとためらっちゃう」
 小唄が躊躇している間にウイングキャットの点心がヴァオにぎりにかぶりついた。
 きょとんとした顔でそれを眺める同族のぽかちゃん先生。
 蓮華も眺めているが、こちらは楽しそうな顔。
「こうして、皆でワイワイする雰囲気がいいんだよね」
 一方、晟は少しばかり厳しい顔をしていた。
「しかし、年寄りの夜更かしは感心せんな」
「年寄りじゃねーし!」
 力の限りに否定するヴァオ。
 その肩をヒマラヤン・サイアミーゼスがつついて――、
「ふわぁ……」
 ――あくびをしながら、おにぎりの乗った皿を差し出した。
「具になりそうなのがなかったから、その辺にあったやつをテキトーに入れてみたのですよー」
「テキトーって……」
 不安を覚えながらも、おにぎりを手に取るヴァオ。
 そこにリーズレット・ヴィッセンシャフトとジャミラ・ロサが現れた。ジャミラの愛犬を伴って。
「テキトーはいかんな。私が美味しいおにぎりの作り方を教えてやろう」
「本機もおかしい鬼斬りの作り方をお教えするであります」
「まず、三角巾をかぶる。次に適量の塩と一緒に炊き込んだご飯を容器に移して冷まし……」
「まずは鬼のお面をかぶります。次に適当に塩を叩き込んだご飯と陽気に写真を写して頭を冷まし……」
「ストップ!」
 と、ヴァオがおにぎり講座を遮った。
「そういう細かいコントはオチまで聞いてられないんだ。字数を食うから」
「字数って、なんだ!?」
「意味不明であります!」
「わおーん!」
 猛抗議する二人と一匹を無視して、ヴァオはヒマラヤンのおにぎりにかぶりついた。『テキトー』に入れられた具材がワサビであることも知らずに。
「うぎょわぁーっ!?」
 絶叫が響き、オチがついた。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月28日
難度:易しい
参加:44人
結果:成功!
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