大菩薩再臨~この世全ての美女を金属に

作者:砂浦俊一


「美しい女性は素晴らしい……その美しさを、金属化によって永遠のものにすることこそ至高なり。これぞ我が教義!」
 薄暮の街を見下ろしながら、肥え太った鶏のような姿のビルシャナが巨体を揺らした。
 傍らには、痩せた始祖鳥のようなビルシャナが佇んでいる。
「なるほど。それが貴殿の救世か」
「いかなる美女とて容姿が老いて衰えゆくのは耐えられまい。ならば若さと美しさの絶頂期に、金属化してやるのが親切というもの」
 肥え太った鶏、金属化至高明王が不気味な笑みを見せる。
「よかろう。私の力を貴殿に授けよう……この世全ての美女を金属化するがよい!」
 始祖鳥のビルシャナが両手で印を結ぶ。
 瞬間、彼の力が金属化至高明王へと注入された。
 金属化至高明王の両目が妖しく輝き、禍々しいオーラが体から噴出する。
「おおおおお! 湧き上がる力で体がはち切れそうだ、これは素晴らしい!」
 金属化至高明王がシャドーボクシングのように拳を振る。
 その両手を覆うガントレットは金属化された裸体の女性、つまり被害者によって構成されていた。
「では行くとしようか。より多くの同志、より多くのグラビティ・チェイン、私たちにはそれらが必要だ……」
 2体のビルシャナは頷き合うと、夕闇に姿を消した。


「ケルベロスの皆さん、厄介な事件っす。まずは資料を見て欲しいっす」
 オラトリオのヘリオライダー、黒瀬・ダンテが、机の上に人数分の資料を並べた。
「竜十字島のゲート破壊の成功により、ドラゴン勢力の制圧地域の解放が進んでいたんすけど……ビルシャナの菩薩の一体、天聖光輪極楽焦土菩薩が、その一部を破壊しやがりましてね……」
 説明によると、天聖光輪極楽焦土菩薩の目的はビルシャナ大菩薩の再臨であり、そのためにドラゴンの制圧地域を破壊して奪ったグラビティ・チェインを利用、強力なビルシャナの集結を計画しているようだ。
「この暴挙は見過ごせないっす。今回、金属化至高明王なるビルシャナが出現します。こいつは『美女は金属化してこそ素晴らしい』という教義を掲げるだけでなく、金属化した女性を武器にして持ち歩くという、とんでもない野郎っす」
 ぞっとする話に、ケルベロスたちの背筋に怖気が走った。
「金属化至高明王にはドラグナー系のビルシャナが手を貸しています。こいつらが向かった先は東京都練馬区。解体予定の廃ビルの窓から人通りを眺め、ビルシャナ化に適した人間または金属化する獲物を物色するみたいっす。なので、ここへ乗り込めば周囲の被害も気にせず戦えるっすね」
 続けてダンテは敵の攻撃手段の説明に入る。
「金属化至高明王は両目から金属化光線を放ちます。それと、両手のガントレットを用いた格闘術」
 こちらまで金属化されてはたまらない。光線には用心しよう、とケルベロスたちは思う。
「ドラグナー系のビルシャナはビルシャナ経文、浄罪の鐘、清めの光を使うっす。どちらも強力なビルシャナっすけど、金属化至高明王は強化された力をまだ充分に使いこなせていないっす。また自らの教義に疑問を抱かせたり、ケルベロスに自分の教義を褒め称えられたりすると、戦闘に集中できなくなるっす」
 相手が強かろうと付け入る隙はある、ということだ。
「強化されたビルシャナは、一般人を導く力も強化されているっす。ここで撃破できなければ、更に多くの人が導かれてビルシャナ化……そんな事態は避けたいっす。皆さん、どうかよろしくお願いしまう!」
 ダンテは大きく頭を下げて、ケルベロスたちに頼み込んだ。


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
彼岸花・深未(サキュバスの鹵獲術士・e01205)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
レイシア・アクエリアス(穿つ雪兎・e10451)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
神崎・まとい(地球人の刀剣士・e23766)
ルストール・シブル(機動防壁という名の変態・e48021)
ソフィー・ベルナルド(ドワーフのガジェッティア・e62559)

■リプレイ


 日没が迫っていた。潜伏先の廃ビル、その割れた窓ガラス越しにビルシャナたちが街を見下ろしていた。
「ぐふふふ。夜の店で働く美女たちの出勤時刻か……目移りしてしまうわい」
 肥え太った鶏のようなビルシャナ、金属化至高明王が、眼下の道を歩く女性たちの姿に舌なめずりした。
「欲望を抱えた男たちも数多く見える。新たな同志と成りうる者もいよう」
 隣には痩せた始祖鳥のようなドラグナー系のビルシャナ。
 金属化する獲物、あるいはビルシャナ化する素質を持つ者を求め、彼らが行動開始しようとした、その時。
「美女を金属化、悪くないんじゃない? 綺麗な物をずっとそのまま姿で留めたいって気持ち、わかるわ。ねえ?」
「ええ。老いて美貌が失われるのは嫌よねえ……死ぬまで綺麗で在りたいし、金属になって永遠に美しく在るというのはひとつの理想よね」
 金属化を褒めつつ、ビルシャナたちの潜伏先に足を踏み入れたのは橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)とシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)。
「何奴!」
 ドラグナー系がさっと振り返る。金属化至高明王もガントレットで覆った腕をボクサーのように構えたが、先程聞こえてきた声を頭の中で反芻して小首を傾げた。
「金属の体の頑丈さには関しては全面的に同意なのじゃ」
 芍薬とシフカの後ろから姿を見せたのはルストール・シブル(機動防壁という名の変態・e48021)。かつて彼女はダモクレスの指揮官機を守る盾として金属の塊であったから、その頑丈さについての理解と造詣が深い。
「金属像って素敵ですよね! ボクもそういう綺麗な像に興味あるなあ♪」
「永遠に艶やかなぼでー、撫でる肌触り……綺麗に綺麗を足したら、至高になるのね……すごい……美しい姿、ちゃんと眺め回せる所に置いておきたくなるよね……リビングの真ん中とか……」
 続けて出てきたのは彼岸花・深未(サキュバスの鹵獲術士・e01205)とレイシア・アクエリアス(穿つ雪兎・e10451)、そこで金属化至高明王は合点がいったと言いたげに頬を緩ませた。
「なんと、金属化に理解があるのか。いや実は普段は嫌がる女ばかりでな。そういう女を無理矢理金属に変えるのが我の好みなのだが……まさか金属化に興味があるとは。我としたことが面食らってしまったわい」
 喜色満面、いいやスケベ心が丸出し。金属化至高明王は、そんな顔だ。
「何か様子が妙では――」
「そのガントレット! どこか人の形に似ているような……? 私もガントレットを持っているから、なんか親近感です!」
 ドラグナー系が金属化至高明王に注意を促そうとするも、ソフィー・ベルナルド(ドワーフのガジェッティア・e62559)が会話に割って入った。
「これは金属化した美女をガントレットに仕立て上げたものだ。持ち歩いて何時でも何処でも愛でることができれば、武器にもなる!」
「良いアイディアですね。それって戦いの中で輝く、的なことでしょうか?」
「金属にして飾るだけでは女たちも寂しかろう。こうして使ってやるのも我が愛情!」
 神崎・まとい(地球人の刀剣士・e23766)に問われた金属化至高明王は、いやらしい手つきで自らのガントレットを撫でた。
「落ち着け。何故こいつらはここへ来た? こいつらはケルベロスではないのか?」
「いずれは壁、床、柱、屋根の全てに金属化した美女を用いた聖殿を建立したい。そのために世の美女という美女を金属に変えたいのだ」
 ドラグナー系が声をかけるが金属化至高明王には届かない。有頂天の金属化至高明王は、身の毛もよだつ願望を口から垂れ流している。
(人を金属にして飾るビルシャナ……悪趣味だねー……)
 形容しがたい気持ち悪さを感じつつ、山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)は冷静に敵を見据えていた。
 金属化至高明王は図体がデカく、ドラグナー系は痩身。戦闘時は前者が前衛、後者が後衛。ドラグナー系の姿は金属化至高明王に隠れてしまうだろう。回り込まねば攻撃を当てづらいかもしれない。


「どうかな、諸君らも我が聖殿の一部になってはくれまいか? 金属化に興味のある諸君らは、一番目立つ位置に飾ると約束しよう」
 金属化至高明王が問いかけたこの時、ケルベロスたちは徐々に扇のように周囲へ広がっていた。
「九十九、やることはわかってるわね」
「戦闘準備完了……では行きましょうか」
 言うが早いか芍薬がドラグナー系にコアブラスターを撃ち、両腕に鎖を巻きつけたシフカがグラインドファイアを放つ。両者のサーヴァントは足止めするように金属化至高明王に突撃した。
 警戒していたドラグナー系は防御を固めて凌いだが、金属化至高明王は目を見開いて驚愕するのみ。
「どうしたことだ!」
 叫んだ金属化至高明王の表情はそのまま凍りつき、サーヴァントたちに蹴られ殴られても呆然としていた。
「趣味の悪い遊びは、これで終わらせるよ!」
「ちょっと、動かないで……ポーズはそれがいい……」
 涼子もドラグナー系に殴りかかり、レイシアは禁縄禁縛呪を敵の腕に絡ませた。
「だから私の話を聞けと言ったのだ。さあ貴殿も戦え!」
「我を褒め称えたのは騙し討ちのため……なんたる屈辱!」
 ドラグナー系に戦えと促されたものの、憤慨する金属化至高明王は怒りに我を忘れて地団駄を踏んでいる。
「お主にはわしと付き合って貰うのじゃ」
「踏み込んで……切ります!」
 ルストールのカーリーレイジに続き、愛刀に光の刃を纏わせたまといの俊足斬。胴を裂かれたドラグナー系が床に膝をつく。
「金属化、ってわけじゃないですけど防御はカチカチに固めちゃいますっ」
「石化とか凍結とかそういうのには慣れてます、いつでも来い、ですよっ」
 ソフィーが味方へスチームバリアを張り、深未は苦しみ悶えるドラグナー系をドラゴニックミラージュの炎で包む。
「許せぬ! 貴様らは我が聖殿の厠の部品にしてくれる! さあ、やるぞ同志――って同志どうしたその有様は、まるでヤキトリではないか!」
 ようやく金属化至高明王は傷ついたドラグナー系に気づき、焼け焦げたその姿に唖然とした。
「こうなったのも貴殿が原因だ……」
「よくも同志を!」
 苦痛に喘ぐドラグナー系は清めの光で自らを癒やし、金属化至高明王はまとわりつくサーヴァントたちをガントレットの一振りで薙ぎ払う。


 ドラグナー系を先に排除したかったが、金属化至高明王が動き出してしまってはそうもいかない。
「こ、こっちに来たっ」
「動かなくなりますよー、いきますよーっ!」
 突撃してくる金属化至高明王に深未はブラックスライムで応戦。ソフィーもマネキンパウダーで動きを鈍らせようとするが、蹴散らされてしまう。強化された敵の力は、侮れない。
「艶々とした金属の肌の触り心地……きっとイイモノでしょうね」
 サポートに入ったシフカが斬りかかりつつ、甘い声で金属化を褒め称えた。
「……ぐぬぬっ、今更おだてても無駄っ」
 ガントレットで斬撃を防いだビルシャナだが、金属化に理解を示されると悪い気はしないのか、心が揺れ動くようだ。
「惑わされるな。油断を誘うのがこいつらの手――うぐっ」
「少し……黙ってて」
 ドラグナー系を黙らせるように、レイシアのペトリフィケイションが命中する。
「わしに付き合えと言ったろうが! わしを痛めつけよ、でないとつまらぬ!」
 痛めつけられることに情熱を注ぐ被虐嗜好の持ち主であるルストールは、自身が痛めつけられないことに怒り、ドラグナー系を如意棒で打ち据えた。
「ここで散るわけには……」
「相棒の選択、間違えたのかもね」
 傷の回復も間に合わないドラグナー系を芍薬のバスターフレイムが包み込む。立てば芍薬、怒れば爆薬、放つ炎は地獄の業火。炎の中でドラグナー系が燃え尽きる。
「ど、同志が消し炭に! だが仇はとるぞ、聖殿建立の際には君を讃える像も作ろう!」
 仲間を討たれ狼狽したかに見えた金属化至高明王だが、その目が煌々と輝き出した。
「金属化……ボクは美女じゃないから大丈夫……だよね?」
「ならばおまえからだ。ボーイッシュなのも我のストライクゾーンである!」
 放たれた金属化光線が涼子を襲う。足のつま先からジワジワと固まっていく恐怖の中、少しでも進行を遅らせようと彼女はシャウトした。
「美術品なら素敵でも、被害者のことを思うとぞっとしますね……っ」
 被害者たちを救いたい、無理ならせめて弔ってやりたい。金属化至高明王に斬りかかったまといは、刀を引っかけてガントレットを引っこ抜けないか試みる。
「おまえも金属になれい!」
 再び金属化至高明王の目が煌々と輝いた。


「金属化するならわしからじゃ!」
 ルストールが金属化至高明王の顔面に組み付き、両手を頭に、両足を首に絡ませた。だが発射された光線に吹っ飛ばされ、彼女は床を転がる。その衣服は腹部が破れ、晒された素肌は金属化が進行していく。
「おお、わしの腹が金属に……ささ、もっと撃つのじゃ!」
 ルストールは恍惚とした表情で衣服をさらに引き裂き、敵へと素肌を見せつける。
「そんなに金属になりたいか!」
 三度、金属化至高明王が金属化光線を撃つ。しかし強化された力を完全に制御できていないのか、途端に狙いが逸れ出した。
「こ、これはっ」
 さらに射撃が止まらなくなり、四方八方に光線が撒き散らされる。
「ぁ……いや……れいしあの左手、かたく……なっ……」
「シフカさん危ない……! あ、これ僕が金属に……ぼ、僕、女の子のように見えて男の子なんですよ? 明王さん的にはセーフ……なんですか?」
「きれい……はっ、ええと、なんでも無いです!」
 レイシア、シフカを庇った深未、ソフィーへと、金属化光線が直撃あるいは掠めた。しかし金属化の進行はまちまちだ。片腕が完全に金属化した者もいれば、指先だけの者もいる。差が出たのは、やはり敵がまだ力を操りきれていないためか。
「ああっ、皆さんの体がキラキラ輝く金属に……本当に素敵かも」
 と口走ったまといは、首を左右に振る。このまま皆が金属になったら作戦失敗になりかねない。彼女は跳躍し、金属化至高明王へとスターゲイザーを浴びせた。
「かわせるか? 地摺り焔鮫!」
 涼子の蹴撃から放たれた炎のグラビティが金属化至高明王へ襲いかかる。
 炎に仰け反る金属化至高明王だが、乱射されていた光線がピタリと止まった。
「おお、止まった。一時はどうなることかと……って今度は出なくなったではないか!」
 いくら力を込めようとも、その目から光線が発射されない。
 力を使いすぎたのか、あるいは負傷のせいか。両方かもしれない。
「ご自慢の光線はおしまい? ところで私レプリカントで美女なんだけど。あんた的にはOKなの?」
「れいしあ、本当は氷のオブジェの方が、好き……」
 敵が光線を撃てなくなったこの機は逃せない。芍薬は味方をフローレスフラワーズで回復、レイシアは生身の左手でドラゴニックハンマーを振って叩きつける。
「まだ我には拳があるっ。それと問われたからには答えてやろう、レプリカントはセーフだが女装男子は論外っ」
 ガントレットで殴りかかってきた金属化至高明王だが、その拳は戦言葉を用いたソフィーが受け止めた。
「さあ思う存分殴ってくださいっ。倒れたらその時、です!」
「後悔するなよ!」
 金属化至高明王が拳を振り上げたそこへ、深未の放ったトラウマボールが直撃する。
「や、やめろ、思い出せるな! 私の性癖が周囲の人間にバレて、ドン引きされた日のことは忘れたいのだ!」
「それは何と言うか……あの、その、僕は石化にも凍結にも慣れていますから金属化も気にしませんっ」
「気休めの慰めなぞ……っ」
 悶え苦しむ金属化至高明王、そこへシフカが歩み寄る。
「戦闘を有利に運ぶためでしたが、教義への関心は本当ですよ」
 螺旋忍法『貼足繰快楽宴』。彼女の手が自身の体を艶めかしく撫で、頭上へと高く掲げられた時、両腕の鎖がぬらぬらとした触手に姿を変えた。鎖は金属化至高明王の全身を縛り、宙に吊るして締め上げ――頸骨の折れる音が、鈍く響く。
「でも、ごめんなさいね。今は金属化よりもケルベロスのお仕事に夢中なの」
 金属化至高明王の絶命とともにケルベロスたちの金属化も解け、元の体へ戻っていく。
 そして金属化した女性しか愛せなかった男へと、シフカは弔いのウィンクを送った。

作者:砂浦俊一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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