堕ちた翼は死を望む

作者:雷紋寺音弥

●深淵に誘う残滓
 薄暗い廃病院の廊下に、鋭い靴音が響き渡る。反響する自分の足音を耳にしながら、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は朽ち果てた病院の中を改めて見回した。
 病院に幽霊が出るという噂を聞いて、心霊スポットマニアが廃墟を訪れてから戻って来ない。事件の裏にデウスエクスが絡んでいると踏んで調査に向かったリリエッタだったが、今のところは、何もない。
「暗いね……当たり前だけど」
 照明や窓ガラスが割れ、今や完全なる廃墟となった廊下に立っていると、嫌なことを思い出す。生まれた時から、自分はずっと暗闇の中にいた。その暗闇の中で、生きるために殺し、戦った。
 この場所にいると、その時の記憶が蘇って来るような気がした。所詮は気のせいだろうと割り切って、リリエッタは踵を返したが……次の瞬間、視界に飛び込んで来た青白い髪の影に、思わず自分の目を疑った。
「……嘘? エレナ……どうして!?」
 忘れようにも忘れられるはずがない。目の前にいるのは、たった一人の、無二の親友。いや、正しくは、親友だった存在だ。
 もっとも、こんな場所に彼女がいるはずは絶対になかった。なぜなら、彼女は既に死んでしまったのだから。自分が地獄を生き抜くために、リリエッタ自身が殺めてしまったのだから。
「コロ……シテ……」
 黒と白の対照的な翼をした少女は、懇願するようにリリエッタへと手を伸ばす。もはや、自分が何者で、何の目的を持って彷徨っているのかも分からないのだろう。
「アノ子に会う前に……ワタシを……コロシテ……」
 だが、口では殺せと言いながら、少女は手にした大鎌を振り被ると、それを躊躇うことなくリリエッタの頭上目掛けて振り下ろした。

●帰って来た親友
「招集に応じてくれ、感謝する。リリエッタ・スノウが、廃病院にて宿敵のデウスエクスと遭遇することが予知された。生憎、現場は電波障害が酷く、どうにも連絡が取れない状態が続いている。大至急、彼女の援護に向かってくれないか?」
 出現する敵は、オラトリオの少女をサルベージしたと思われる死神だ。しかし、どうにも今までの死神とは勝手が違うようだと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に説明を始めた。
「死神としてサルベージされた少女は、エレナ・ジーリオ。大鎌を武器にする死神だが、死神にも関わらず、自分を殺せと呟きながら彷徨っている」
 もっとも、その意識は既に混濁しており、恐らくエレナは自分が何者であったのかも覚えていない。ただ、深層意識の中に残った僅かな記憶を頼りに、自分を殺せと呟いているだけだ。
 実際、エレナは目の前に手近な人間を見つけると、自分を殺せと呟きながらも、反対にその人間を殺してしまう。既に、廃病院を訪れていた心霊スポットマニアが何人か犠牲になっており、それだけでも放置できる事態ではない。
「犠牲者達のグラビティ・チェインを奪ったエレナは、生前とは比べ物にならない力を持っているぞ。それこそ、お前達を複数同時に相手して、互角に戦えるくらいにまでは強くなっている」
 エレナの武器は大鎌だが、その他にも生前の特性を生かしてオラトリオの使用する技に似たグラビティを使ったり、黒い金魚のような小型死神を呼び出して、敵の体力を複数同時に奪わせたりするらしい。また、見た目によらず攻撃能力に特化しているため、迂闊に直撃をもらえば致命傷に成り兼ねない。
「この死神にされた少女だが……どうも、リリエッタの親友だった少女のようだな。そして……彼女を殺めたのは、どうやらリリエッタ本人のようだ」
 そこにどんな理由があり、なぜ彼女が親友を殺さねばならなかったのか。その理由までは不明だが、しかし戦い難い相手であることに変わりはない。自分が望まずとも殺めてしまった相手を前にして、正常でいられる方が異常だろう。
「今のエレナは、死神の勢力に利用されているだけの存在だ。彼女とリリエッタの関係がどうであれ、ここでリリエッタが死神に殺されなければならないという理由はない」
 リリエッタがどう思っているかは知らないが、今のエレナは哀れな死神の操り人形。唯一、今のエレナに救いを与えられるとすれば、それは第二の死を以てしかない。
 くれぐれも、余計な感傷に流されて、死神の餌食にされないように。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
エマ・ブラン(銀髪少女・e40314)
帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)
ジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)

■リプレイ

●望まぬ再会
 深夜の廃病院を彷徨う少女の霊。その噂は、ある意味では本当で、しかしある意味では嘘だった。
 いや、嘘であったら、果たしてどれだけ幸せなことか。今、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)の前に現れたそれは、亡霊というにはあまりに禍々しく、そして哀しい存在だった。
「コロ……シテ……ワタシを……ワタシを……コロシテ……」
 自分を殺せと懇願しつつ、大鎌を振るうオラトリオの少女。彼女こそ、リリエッタの無二の親友であったエレナ・ジーリオに他ならない。
 だが、そんな彼女は、今や完全に死神の手先となって、誰彼構わず殺めるだけの存在になっていた。口では殺せと叫びつつ、しかし目の前の者の命を容赦なく狩る。心と身体が離れて壊れた、哀れな操り人形として。
「エレナ……お願い、目を覚まして。あなたが目を覚ましてくれるなら……」
 幾度となく繰り出される斬撃を受けつつも、気合だけで傷口を塞ぎ、リリエッタは何度もエレナに問い掛ける。それが無駄だと理屈では分かっていても、デウスエクスと化した者は、既に人間ではなかったとしても。
「あなたが目を覚ましてくれるなら……リリのこと、殺しても構わないよ……」
 親友の心が戻ることを信じ、リリエッタは静かに目を閉じる。こんなことをしても、エレナの記憶は戻らないかもしれない。死神にサルベージされた今、彼女はデウスエクスとして、グラビティ・チェインを集めているだけなのかもしれない。
 だが、それでも構わないとリリエッタは思った。これは罰だ。かつて、親友をこの手にかけ、自分だけ悪夢から逃げ出したことへの。そして、その先で新しい友を見つけ、何食わぬ顔をして平凡な幸せに身を委ねようとしたことへの。
「アァ……コロ……シテ……。ワタシ……を……」
 エレナの呟きと共に、大鎌がリリエッタの首目掛けて振り下ろされる。この間合いでは、もう避けられない。いや、避ける必要さえもない。
 この一撃で、自分は死ぬ。そして、親友と同じ場所へと行ける。そう、信じていたリリエッタだったが、しかし振り下ろされた鎌が、彼女の首を刈ることはなく。
「リリちゃん、助けに来ましたよ!」
「大丈夫? 間一髪だったわね」
 ピコピコハンマーと多数の砲弾が、エレナの身体を吹き飛ばす。見れば、いつの間にかリリエッタの後ろには、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)とローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)の二人が立っていた。それだけでなく、広がる鎖と銀色の粒子が、まるでリリエッタを守るかの如く展開されて。
「リリエッタさん、わたし達も助けに来たよ!」
「無事か、リリ? 随分と手酷くやられたな」
 同じく、エマ・ブラン(銀髪少女・e40314)とジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・e63164)が、リリエッタの間に割って入った。
「……みんな」
 唖然とするリリエッタ。唐突に現れた援軍に、状況が飲み込めていないのだろうか。
「しっかりしてください、リリちゃん。どこか、痛いところはありませんか?」
 ルーシィド・マインドギア(眠り姫・e63107)が光の盾を張りつつ尋ねるが、リリエッタは返事をしなかった。ただ、なんとも言えぬ重たい表情になって、小さく俯いただけだった。
「ア……アァ……コロ……シテ……。ワタシ……を……」
 吹き飛ばされていたエレナが立ち上がり、再び大鎌を携えてリリエッタに迫る。やはり、あの程度の奇襲では、せいぜい一瞬だけ足を止めるのが精一杯か。
「死神……また人の身体使って悪さしてやがるのか! 何が目的だ!」
 迫り来るエレナに向かって叫ぶ帰天・翔(地球人のワイルドブリンガー・e45004)だったが、エレナの口から零れるのは、自分を殺せという言葉のみ。しかし、その言葉とは反対に、彼女の手に握られた大鎌は、獲物の血を求めて宙を彷徨っている。
「仕方がありません。詳しい話は戦いながらリリエッタさんに伺うとして、今は死神を押さえましょう」
 腕に鎖を巻き、シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)が他のケルベロス達に告げた。その間にも、エレナはリリエッタを狙って歩を進めて来たが、それよりも先にシフカが動いた。
「戦闘準備完了……。では、行きましょうか」
 腕の鎖をドーム状に展開し、敵を覆うようにして向かわせる。鎖のドームに閉じ込められたエレナの身体に、内壁と化した無数の鎖から、変異の楔が打ち込まれた。

●許されざる過去
 かつてはリリエッタの親友であったエレナ・ジーリオ。だが、今の彼女は紛うことなき死神であり、地球に住まう者にとっての脅威でしかない。
 廃病院を訪れた心霊スポットマニア達を手に掛けていることからも、それは明らかだった。しかし、他のケルベロス達が戦う中、それでもリリエッタはエレナに対して攻撃することを躊躇っていた。
「何やってる! このままだと、誰かが本当に死んじまうぞ!」
 混沌の水から成る刃で敵の大鎌と斬り結びながら、翔が叫んだ。それでも動こうとしないリリエッタに、ルーシィドは一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
(「リリちゃん……。まさか、本当に死ぬつもりだなんてこと、ありませんよね?」)
 初めて出会った頃のリリエッタは、自分の存在価値さえ見出せず、ともすれば投げやりな態度も目立っていた。そんな彼女と、今の彼女の姿が重なったところで、容赦なくエレナの鎌がケルベロス達に迫り。
「相手は人を十分に殺し力を得た死神! 油断しな……っ!?」
 振り下ろすと見せかけて放たれた氷の弾丸がミリムを貫く。小指の先程度の大きさしかないにも関わらず、その弾はほんの一発だけで、ミリムの身体を吹き飛ばして壁に打ち付けた。
「うぅ……」
 身体が標本にされたかの如く動かない。徐々に迫る、敵の大鎌。見兼ねて、他の者達が一斉に攻撃を浴びせるも、それでもエレナは止まらない。
 再び振り下ろされる大鎌。あれを食らったら、命はない。思わず顔を伏せたミリムだったが、しかしその鎌が本当に狙っていたのは彼女ではなく。
「っ……!」
 胸元を大きく斬り裂かれたのは、ミリムではなくエマだった。鮮血が白いワンピースを染め、激痛に膝が崩れ落ちる。たった一撃で、これだけの威力。直撃を食らい続ければ、本当に誰かが病院送りにされ兼ねない。
「ワタシ……ワタシ……は……」
 既に、エレナは満足に何かを考えることさえできず、本能に任せて鎌を振るうことしかできないようだった。そんな彼女の姿があまりに不憫で、そして哀れで、どうするのが正解なのかさえも分からなかった。
「リリエッタさん、しっかりして。あなたが戦わなかったら、あの子はもっと罪を重ねるよ?」
 激痛を薬物の注射で耐え、エマは気合だけで立ち上がる。出血は蒸気を浴びせることで止血し、そのまま霧の盾を生み出して。
「過去については、私も詳しくは知りません。それでも……」
 打ち込まれた楔から強引に脱し、ミリムが大剣を敵に叩き付ける。強烈な一撃はエレナの身体を廊下の向こう側まで吹き飛ばし、大鎌の刃さえ砕いて見せた。
「それでも、私の大事な親友の危機を見過ごすなんて事はできません」
 だから、共に戦おう。そして、いつものリリエッタに戻って欲しい。そんな、今の友人達からの言葉に、リリエッタも何か思うところがあったのだろう。
「……ありがとう。もう、大丈夫……」
 顔を上げたリリエッタの表情に、迷いはない。そして、そんな彼女の口から語られるのは、自分とエレナの間にあった辛い過去。
「あの子は……エレナは、私の親友だった子……。そして……私が、殺してしまった子……」
 勿論、殺意あってのことではない。かつて、デウスエクスの余興として殺し合わされ、そしてリリエッタが討ってしまったのがエレナだった。そのドサクサに紛れてリリエッタは闘奴としての生活から逃げ出したが、親友を殺めたという過去は、常にリリエッタの心を蝕んでいた。
 あの時は、仕方がなかったとも言えるだろう。だが、どれだけ弁明を重ねても、自分がエレナを殺してしまったことに違いはない。
 その友人が、過去からの刺客として自分の前に現れた。それは、彼女達が互いに傷つけ、殺し合う運命から、逃れられないことを意味してもいた。
「リリエッタさん……。辛い、辛すぎるわ……。こんなのってあんまりよ……」
 言葉にできない現実に、ローレライはそれ以上何も言えなかった。
「友達殺しなんてしちゃダメだと、あなたが泣きそうな顔で言った理由、今ならわかります」
「辛いなら、俺達に任せてくれ。二度も大切な相手を殺すことはねぇ」
 ミリムと翔も声を掛けるが、リリエッタは静かに首を横に振る。
 もう、あの時に戻れないことは分かっているのだ。そして、自分が今、何をしなければならないのかということも。
「……私も、かつての友を手に掛けた事がある。到底助からない重症を負い、死ぬまで苦しみ藻掻くしかない友をラクにする為に、な」
 それが正しかったのかどうかは分からないが、それでも確かに言えることがあるとジークリットが続けた。あの時、友は自分を殺した相手に対し、安堵の表情を返してくれたのだと。
「その方は、目の前のリリちゃんを、認識できないほどに、擦り切れて……」
 傀儡と化したエレナの姿に哀れみを覚えつつ、ルーシィドが言葉を切った。
「それでも自分が、リリちゃんを苦しめてしまう。それだけを恐れて、ずっと会わないことを祈って、彷徨っていたのだと思います」
 だから、彼女の最期がどれだけ苦しいものであろうと、最後までリリエッタのことを大切に考えていたはずだ。それだけは紛れもない事実であり、今、この瞬間も変わらない。
「彼女が求めているのは、救い……私達が協力します。ですから……永久なる眠りを、彼女に……」
「うん、わかったよ。ルーも、ミリムも、それにみんなも……リリのために、ありがとう」
 これ以上、エレナを苦しめてはならない。だから、今度は殺すためでなく、助けるために、自分の意思で彼女を撃つ。己の名前さえ忘れて彷徨うかつての親友に向け、リリエッタは静かにリボルバーの狙いを定めた。

●救済
 リリエッタが戦線に復帰すると、そこから先は早かった。
 他の者達も、最初はリリエッタに対する遠慮もあったのだろう。だが、彼女がエレナを倒すと決めた今、何も遠慮する必要はない。ただ、少しでも早くエレナを死神の力から解放させてやる。その想いだけを胸に、全力で攻撃を仕掛けて行く。
「ア……ア……コロシテ……。アノ子に……会う前に……」
 こちらの命を奪うべく、エレナが無数の小型死神を差し向けて来た。だが、そんな攻撃も見切れないほど、今のケルベロス達は甘くなかった。
「風よ……死を運ぶ怪魚を打ち払え! 烈風!!」
 迫り来る死神を、ジークリットが真空の刃で叩き斬る。通常の死神に比べても耐久力はないのか、黒い金魚の如き姿をした死神は、それだけで風船が潰れるように爆ぜて消え。
「全て浄化してあげる!」
「捉えたぜ……! ……肉片も残さねぇ……跡形もなく消えやがれ!」
「ファイアー!」
 ローレライの矢が、翔の光線が、そしてエマの弾丸が、それぞれに小型死神を撃ち落としながら、エレナの下へ殺到した。
「う……ぁぁ……」
 さすがに、これは効いたのか、爆風の中から現れたエレナは既に自力で立つだけの力も残されていなかった。そこを逃さず、シフカとミリムが斬り込んで、稲妻を纏った刃を突き立てた。
「さあ、今です!」
「終わりにしましょう、リリちゃん!」
 稲妻の爆ぜる音に混ざって響く二人の声に、リリエッタは静かに頷いた。そのまま、ルーシィドの手を取って、互いの魔力を循環させて。
「ルー、力を貸して!」
「ええ、わかりました、リリちゃん」
 二人の力を重ねれば、それは二倍ではなく二乗となる。青と緑。二つの陣が重なったところで、放たれるのは荊棘の魔弾。
「……これで決めるよ、スパイク・バレット!」
 全てを穿つ弾丸が、エレナの胸元目掛けて飛んで行く。それを見たエレナは、強引にシフカとミリムを振り払って駆け出したが……しかし、反撃をすることもなしに、その胸元を貫かれた。
「……っ!? エレナ!!」
 消滅して行くエレナに駆け寄るリリエッタ。これは同じだ。自分が彼女を殺した、あの時と。もしかすると、彼女はわざと……。
「リリ、無事で良かった……」
 最後に、それだけ呟いて、エレナの身体は闇の中へ溶けるように消えて行く。後には彼女の頭に咲いていた黒百合の花だけが、何も言わずに落ちていた。

●黒百合から白百合へ
 戦いの終わった廃病院の回廊にて、リリエッタはジークリットの胸で泣いていた。
「リリだって……リリの代わりにエレナに生きていて欲しかった……」
 結局、自分はあの時と同じように、エレナをその手に掛けてしまった。一度は決意したつもりだったが、それでもいざ実際に殺めてしまうと、あの時の感触が手に蘇って来るようで怖かった。
「……こんなの酷すぎる。……命を何だと思っているんだ!」
 震える声で、翔が叫んだ。最後の瞬間、エレナはリリエッタのことを思い出しているような素振りを見せた。いや、もしかすると、最初から解っていたのかもしれない。
 生前の意識を保った上で、しかし身体はデウスエクスの本能に従い望まぬ殺戮を繰り返す。そういう存在としてサルベージされた可能性は、無きにしも非ずだ。
 どこまでも、他者の命を弄ぶ死神。その所業は、決して許されるものではない。
「……もう少し、泣いていてもいいんですよ。その悲しみを受け止められる時まで、立ち止まっても良いんですからね」
 涙を拭いて顔を上げたリリエッタに、シフカが言った。しかし、リリエッタは静かに首を横に振ると、落ちていた黒百合の花をそっと拾った。
 親友の頭に咲いていた花。その花言葉は、呪いと復讐。
 まったく、なんという皮肉だろう。エレナの頭に咲いていた花は、しかし彼女ではなく今の自分にぴったりだ。
 だが、そんな黒百合にも別の顔が、そして別の花言葉がある。
 それは恋。そして愛。遠い北の地に残る伝承によれば、大切な人の近くへ黒百合の花を置き、それを相手が手に取ってくれたのであれば、自分の想いが伝わるという。
(「リリ……。私はもう、大丈夫だよ。だから、あなたは、あなたを許してあげて。そして、今、一緒の時間を生きているお友達を、大切にしてあげて……」)
 黒百合の花に触れた瞬間、どこからか、そんな声が聞こえたような気がした。
「うん、わかったよ……。エレナみたいな子を増やさないためにも……リリ達、もっと強くならないと」
 顔を上げるリリエッタ。友の残した花を手にした彼女の瞳には、今までとは違う新しい決意が宿っていた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 5/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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