隠れ潜む魔の手、電動貯金箱の怪!

作者:baron

『ちょっきーん』
 何年も前に閉店した駅前のシャッター商店街。
 その一角から、謎の声が聞こえた。
『ちょー金!』
 バンとシャッターを割って現われたのは、レジにも似た機械だった。
 だがメーターはあってもボタンはなく、お金を振り分けるべき場所には、玩具のコインが収まっている。
『貯金!』
 そいつはコインを弾丸の様にばらまくと、シャッターの降りた店を粉砕。
 しかしながら閉鎖された店に人は無く、住民も出稼ぎにいって居ない。
 更に言えば日に数本の電車が来るのみで、お客を殺す事も出来ない。
 そいつは寂れて無い町を目指して、田園に面した道路へと向かって行った。


「既に使わなくなって久しい家電製品の一つが、ダモクレスになってしまう事件がおきるようです」
 セリカ。・リュミエールがレジのようでいて、似て非なる物をテーブルに置いて説明を始めた。
「閉鎖されたシャッター商店街なので再ウィァにもまだ被害は出て居ませんが、ダモクレスを放置すれば、多くの人々が虐殺されてグラビティ・チェインを奪われてしまうでしょう。その前に対処をお願いいたします」
 セリカはそう言って、玩具のコインや本物の通貨をテーブルの上に追加で並べた。
「このダモクレスは電動貯金箱が形した、ロボットのような姿をしています」
「電動……?」
「レジじゃなくて?」
 周囲が首を傾げるのも当然だろう。
 形状はどうみてもレジであり、貯金箱が電動である必要は無いのだ。
「覚えている方は電池で動く玩具付きの貯金箱を思い出してください。アレの大仰な者といいますか……仕分け機能や計算なども付いた電動型です」
「……家庭用のレジ二した方が売れたんじゃないか?」
「言うな。企画を考えた奴は売れると思ったんだろう」
 実際、少数は売れるらしい。
 問題なのはたくさん売れる訳でもないので、修理するパーツが無いのだとか。
「攻撃方法は玩具のコインを飛ばしたり、コインをしばう場所で噛みついたりします。また全体的にヒーローの使うロボットを摸しており、ビームを放つ摸様ですね」
「あー。やっぱり玩具を兼ねる方が売れるよね」
「でも攻撃方法はダモクレスなんだな」
 そういってセリカは攻撃方法を説明し、ケルベロス達も頷いていた。
「罪もない人々を虐殺するデウスエクスは、許せません。被害が出る前にお願いしますね」
「今は居ないからいいけど、移動すると大変なもんね」
 セリカが出発の準備に向かうと、ケルベロス達は相談を始めるのであった。


参加者
レイシア・アクエリアス(穿つ雪兎・e10451)
燈家・彼方(星詠む剣・e23736)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)
エレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)
 

■リプレイ


 都会だと、駅中・駅近というのは大型店だ。
 しかしながら古い沿線だと、過疎化に伴いシャッター商店街が多く成る。
 ここもそんな町の一つなのだろう。
(「寂れた商店街は寂しいですが、今回は幸いしたゆう感じでしょうか」)
 内心でそう思いながら、田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)は周囲を確かめる。
「往時の賑わいがあったら危なかったでしょうね。ダモクレスが現われ次第、片付けましょ」
「そうですね。今回は確か……電動貯金箱、ですか」
 マリアの言葉に頷きながら、燈家・彼方(星詠む剣・e23736)も同じ様にキョロキョロと探して行く。
 その視線の先に見付けたのは、店先に飾られた動物の人形だ。
「電動、貯金箱? それはまた、何と言って良いかわからない代物ですね?」
「電池式は結構あるみたいですよ」
 エレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)が首を傾げると、彼方は貨幣を店先の人形の頭に載せてから後ろに回り込んだ。
「お金を置くとこんな風に収納するらしいです。……玩具兼用、ということは子供用に売れたのでしょうね。もっとも、紙幣が入らないなど、色々と微妙な商品だったのですけど」
 人形の後ろに隠れたままの彼方は、手を伸ばして頭の上の貨幣を回収した。
「あ……ちょっと楽しそう」
「おー……。消えたぞー。もういっかい、もういっかい」
 レイシア・アクエリアス(穿つ雪兎・e10451)の位置からは見えなかったのか、爪先を伸ばしてピョンピョン。
 その様子を見ていたグラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)は、ポッケに詰め込んだ玩具のコインを置いてみる。
 なお、何故持って来たのかは不明である。
「電池でソレなら、電気式だともっと楽しくなるような機能があるようですね」
「子供たちにお金を扱う楽しさを知ってもらう為に、作られた玩具なんやろうかね」
 エレインフィーラとマリアは玩具の機能に会話の花を拓かせる。
「そんなものが人を傷付けるために使われるんは悲しいことです。早う倒してあげましょ」
「ウン。面白そうだけど、でも容赦しないし、したくない……倒さないと、ね」
 マリアの言葉にレイシアは頷き、遠くで聞こえた物音に耳を立てた。

 耳を動かし首を巡らし、その様子に仲間達も視線を追って行く。
「この音……かな。電池で動かないなら……いまは太陽光かな……グラビティかな」
「いずれにせよ行ってみましょう。ダモクレスであれば倒さないと」
 レイシアが首を傾げると彼方が先導したので、レイシアは貨幣を取り出した。
 さきほどグラニテがやったように、目立つ場所に貨幣を置いて誘き寄せて見る算段である。
「念のために様子を……見る」
『ちょっきーん』
 レイシアが貨幣を投げると、ソレを攻撃と見なしたのか口の様なナニカが迫って来た。
 まるで下唇の大きい人が牙を剥く様に、ガブリと突撃してくるのだ!
「やはりそうですね。みなさん、お気を付けて」
「ん、周りに人がいないうちにばっちり終わらせるぞー!」
 彼方は自分の片腕を噛ませて割って入ると、逆手に刀を抜いて口をこじ開ける。
 それを支援すべくグラニテは攻撃を開始……じゃなくてコイントスを開始した。
 レイシアに遅れてしまったが、ガブガブやって口を開けるかもしれないと試したのである。
『ちょー金!』


 ケルベロス達は人々が居ない事を確認すると、即座に防御に出た。
 ガブリと噛みつくダモクレスに対し、盾役がカバーに出る。
 そしてまずは町の方に向かわせない様に、壁を築いて通せんぼだ。
「誰も居ないし、いくぞー……」
 グラニテはポッケにつ目込んだ夢……じゃなくて、コインをまきながら突撃。
 勢いよく蹴りつける。コインを持って居るのは、きっとその場で動きを止める為に違いない。
 まあ、普通にグラビティで良いのですけれどね。
「大丈夫ですか? ほな、少しでも皆さんのお力に」
「問題ありません。助かります」
 マリアは爆風を吹かせることで、彼方と敵を引き離しつつ回復を図った。
 その風は同時に、仲間達の行動を援護する為の追い風となる!
「さて、それでは楽しい機能とやらを見せて頂きましょう。私目掛けて使ってみてくださいな」
 更にエレインフィーラが流体金属を散布し、皆の援護に割り当てた。
 オウガメタルは傷口を塞ぎつつ、囁いて仲間達に助言を行うのだ。
「人々を守る為に、斬らねばなりませんね。とはいえ先ほどの手並みを考えれば、即座に身を起こすのも危険でしょうか」
 彼方は相手の攻撃を防いで傷付いた腕が治ったのを確認すると、姿が二重にブレ始めた。
 それは彼とは真逆、反対方向の手で抜刀して居る分身だった。
 この段階では判り易いのだが、それぞれに、もう一刀を抜いて二刀を構える。
「売れなくなった玩具のトラウマ……見させてあげる……再月の光よ……」
 レイシアは一族に伝わって居た、月の力を開放した。
 蒼き瞳に映る戦場に、狂気、いや恐怖の光景を作りあげる。
 ダモクレスはこの戦場に何を見たのか? それは敵ならぬケルベロスに知る余地は無い。
 何しろ売れ残った経験など、ケルベロス達にはないのだ。

 狂える機械は狂乱し暴走する。
 何者をも近づけまいと、無数にコインを射出し始めた。
「お……。なんか飛んで来る……コインだー、ボーナスタイムって言うんだ様な―。わたし、知ってるぞー」
「例え楽し気な物であっても仲間に被害を出させはしません。グラニテさん、少し下がってくださいな」
 無表情ならがもキャッキャと楽しそうなグラニテを抱えて、エレインフィーラは回避しつつハンマーで弾いて行く。
 だが全てを打ち落とす事は叶わず、手足や氷の仮面にぶち当たってしまった。
「エレンー大丈夫かあ? とりあえず仇……って死んでないよな。でも仇には違いないから頑張るぞ」
 グラニテは鋭く透き通ったレイピアを振るうと、次々にコインを刺して捕まえようとする。
 バーベーキューだか御絵描きだか判らない程に、ブンブンふって空を刻んでいった。
「火力は大したことありませんが、受ける負荷が面倒ですね。マリアさん、手分けいたしましょう」
「さいですね。異常の回復は任せてください」
 エレインフィーラは混沌の水を大より湧き出させ、マリアは天より薬剤の雨を降らせた。
 異相は異なるもののその目指す効果は同じ。
 仲間達の傷を癒し負荷を取り払う水が、世界を覆いケルベロス達を立ちあがらせる!
「とりあえず……片っ端から、撃ち落とす……」
「近付けないとは言いませんが、面倒ですね」
 レイシアはライフル構えてビームを乱射し、敵を攻撃しながら牽制を始めた。
 その弾幕の下で彼方は二刀を振るい、分身ともども彼女に当たらぬように奮戦する。


 戦いが進み時間が経つと、周囲にコインの山がザックザク。
 弾丸として撃ち込まれて前衛は傷付き、なんとなくオコサマーズ(精神年齢含む)は御機嫌である。
『一、十、百、千……。ケイサンダー、ビーム!』
 ダモクレスはレジのような外見に隠された、目から怪光線を放つ。
 同時に口から何かを書いた物がプリントされ始めた。
「……当たったられいしあ小銭になったりしない…? 大丈夫……?」
「私がなってないので、大丈夫だと思いますわ……。しかし、プリント機能もついているとは。だからこそ電動だったのでしょうか」
 レイシアを庇ってエレインフィーラがビームを防御する。
 防御には成功するのだが、ダモクレス化した事もありヒーローというよりはロボット物のように思われた。
 とはいえ彼女はヒーローにもロボットにも詳しくないのだが。
「みせてみせてー。ダモクレスになってもちゃんと動いてくれるかー? 交ぜた本物は今何円分あるでしょう、だー!」
 グラニテは飛び蹴りを浴びせた後、ちゃかりプリントされた紙を拾って来たらしい。
 初めて見るおもちゃに子供が夢中になるかのようだ。
「いち、に……たくさん!」
「うーん。中にもあるみたいだから判んないなー。後で確かめないと―」
 レイシアも一緒に成ってキャーキャー言ってる。
 共に無表情ながら、グラニテともども楽しそうな声である。
「……どうやら射撃と格闘がセットで、数回に一回ほどアレになるサイクルのようですね」
「採算なんちゃいます? まあ毎回レジ締めませんしねえ。せやけ今回は、ええですよ」
 エレインフィーラは相手の行動を読みながら、攻撃するタイミングを測った。
 盾役以外は傷付いて居ないし、単体攻撃が続いたので累積する傷も少ないからである。
 そして次が範囲攻撃であるなら、攻撃するとしたら今だろう。
「そゆうわけで、バンバンに行ったってください。回避したら、うちも攻撃しますけ」
 マリアは再び変えを吹かせ、来るべき攻撃に備えて回復に奔る。
 そして知っての通り、その風は仲間に勝機をもたらす風でもある。

 相手の動きは鈍り、こちらの布陣もバッチリ。
 そろそろ転機、攻勢に移る時である。
「人を楽しませようという気持ちは分かりましたので、そろそろ制圧しましょう。当戦い易くなって来た筈ですしね」
 エレインフィーラはハンマーを素早く振って、衝撃波を叩き込んだ。
 衝撃波は風を巻き込んで烈風隣、翔け抜けて動きを縫い留めた所に仲間達が攻撃を集中する!
「なら一気に行きましょう。時間を掛けて、誰か来ても困りますしね」
 彼方は星の力を宿した刀で、天を引き裂き始めた。
 流れ星の様に戦場を駆けながら、相手の逃げるべき場所を空間ごと削りとっていく。
 こうすることで、更に追い込んで行く為だ。
「今の内に……倒す。りょうかい」
 レイシアは冷静になったところで、ハンマー担いでピョーンと跳ねた。
 風に乗って恐るべき勢いで降りて来る。
 ハンマー振り切り、一気にガツーンと行く気だ。これまでは当たり難かったので控えめにしていたが、もう構わないだろう。


 戦いの時間が過ぎて行き、終盤になると段々寂しく成って来る。
 最初は注意して居ても当たらなかったり、負荷で酷い目に合う事もあった物だが……。
『ちょっきーん。ちょ……き、ん』
 ダモクレスも最初の様な勢いが無く、コインも本物と偽物が混ざって居るのが判るくらい。
 最初はお金のシャワーのようで、敵の攻撃ながらも楽しかった物だが。
「範囲攻撃が来ます。ここで止めますね」
「それもですが、逃げられない様に注意しましょう」
 もはや倒すよりも、仲間に怪我させない、敵を逃がさない為の戦いだ。
 彼方とエレインフィーラはコインの嵐を叩き落とし、耐えて行く。
 だがここで一番怖いのはカバーできないことくらいで、もはやこのくらいはヘッチャラである。
「そっかー。もうおわるのかー。残念だ~」
 グラニテは少しだけ悲しそうにした後、ダモクレスを天にあげてお星様にしてあげることにしました。
 ギリシア神話で良くある表現ですが、お星様になったら報われるわけでもないのですけどね。
「きらきら煌めく夜の中で、ひときわ輝くもの。ほら、きみにもきっと見えるはずだよー。だって、あれは……」
 群青色に染め上げられた空に、お星様がキャッシュコーナーを形造る。
 その星の名前は銀行座。
 金が入ってるけど銀行座。いつもお思けど不思議だよなー。
「お金もコインもキラキラだー」
「……綺麗ですけれど、まさか本物でやったりしてませんわよね?」
 グラニテはグラビティでコインや貨幣を浮かせて流星のようにぶつけ、最後にはダモクレスを地面に叩き落とした。
 しかしなぜだろう、エレインフィーラの言葉が否定できないのは。
「んんー……。お金、なー? うん、貯めておくのは大事、だよなー。うん、わたしもそれはわかってる……ぞー……?」
 ぶつけてるから無いのではありません。
 欲しいモノを買って居るから無いのです。
 グラニテは衝動に流されて、我慢しないタイプのようですね。
「判って居るのならば良いのです。では、そろそろケリを付けましょうか」
 エレインフィーラは右から回り込んで、ダモクレスの後方から蹴り付けた。
 逃走路の一つを潰しつつ攻撃したのだが、それで敵は口に当たる部分がしまらなくなる。
「空きっぱなしのキャッシャーゆうのもなんか情けないですねえ。さて、残り少しなら、うちも攻撃しますか」
 マリアは銃を抜くと弾倉に相手の神経……この場合は伝達系を阻害する弾を込める。
「ゆうても反撃の目もあるのも確か。その厄介な勢い、止めますよ!」
 マリアの放つ弾は伝達系に流れる命令、電気信号を遮断する。
 同時に別方向に電気を溢れさせることで、内部から破壊するのである。
「後少しですね」
「……楽しそうなのに…どんな悩みを抱えてるんだろ……でもそれもここまで。もう悩まなくて、いいよ」
 彼方は頷くと、鋭い踏み込みでダモクレスの装甲を引き剥がして行く。
 こじ開けられた内側を見て、レイシアは蒼い瞳を再び開放した。
 しかしその瞳に悪夢が映ることは無く、ただ、ダモクレスが悲しそうに崩れ落ちただけである。

「溜めたお金で、新しいボディ買っちゃえばよかった……のに……」
「そおやあ、いつのまにかダモクレスの工場になって、人が改造されたり、機材が改造されたりする事件が以前にありましたねえ」
 動かなくなった周囲でレイシアがキョロキョロと確認。
 マリアはその話を聞きながら、ちょっと前の話を思い出した。
「さてと、いつか誰かが帰ってきた時の為に綺麗にしといた方がええでしょうね」
 マリアはそう言うと薬剤の雨を降らせて修復を始める。
「そうですわね、ヒールを始めましょうか」
「んー……わたしは片付けだなー。ばら撒かれたコイン、そのあたりに散らばってないかー?」
「けいさん……さっきの……集計」
 エレインフィーラも氷で周辺を固定し始めると、グラニテとレイシアは残骸を集め始める。
「……揃ってたら、部品を拾って、お家で貯金箱に改造してみたい……かな?」
「ダモクレスに利用された機械の残骸を集めるんなら手伝いますよ。本当は誰かに楽しんでもらう為に作られた機械やったら、本懐遂げたいやろうしね」
 レイシアが部品を拾ってフー、汚れを落としてコインとは別の場所に置く。
 その様子を見たマリアは微笑んだ。
「なら少しだけ急ぎましょうか」
 彼方は分身しながら四方に散って、あちこちを人海戦術で修復して行く。
「願いましては~♪」
「それ、なんだー……?」
「高速演算を覚える為の歌ですよ」
 マリアが唄い始めると、首を傾げる仲間に彼方が注釈を入れる。
「おもしろ……そう。コインが一枚……」
「お金が一円……これも一枚が良いですわね」
 その唄にレイシアやエレインフィーラ達も加わりながら、町のついでに電動貯金箱も修復するのであった。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月14日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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