ミッション破壊作戦~あの日消された街を忘れない

作者:ほむらもやし

●雨で始まる7月
「2019年も半分が過ぎたね。早く感じた人、遅く感じた人感じ方は様々かも知れないね。で、今月もまた使えるグラディウスが揃ったから、ミッション破壊作戦を進めたいけど、構わないかな?」
 ケンジ・サルヴァトーレ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0076)は軽めの挨拶をすると、早速仕事の話を始める。
「雨が続いていて滑りやすくなっている所もあるかも知れない。僕らも慎重に作戦を続けよう。初めての方もいると思うから説明を繰り返すから少し待ってね。——まずこれがグラディウス。見た目は、こんなふうに小さな剣だけど『強襲型魔空回廊』を攻撃できる戦略兵器だ。魔空回廊を守るバリアに刃を接触させるだけで機能は発揮される。そして一度使うと機能は失われるけれど、持ち帰るのを忘れない様にして下さい。グラビティ・チェインを吸収させれば、時間は掛かるけれど、再び使用できるようになるから」
 ミッション破壊作戦が開始されてから31ヶ月が経過しようとしている。
 今回、皆に貸与されるグラディウスも、皆で大事に使い続けて来たものである。
 作戦のスケジュールは、魔空回廊への攻撃と、撤退戦の二つの段階からなる。
 それぞれに対策が必要であるが、前者は思いの強さ、後者は素早い行動と仲間との連携が鍵となるとされている。
「撤退作戦の苦戦が伝えられる場合もあるけれど、敵を早く倒す為の作戦を立てて、撤退方針も他人に道案内をする感じでイメージすれば、そうそう迷う人はいない。あと、予想できる障害があるのなら、当然、何かしら手立てを講じなければいけないよね」
 今から向かうのは、攻性植物のミッション地域のいずれか。
 具体的な行き先はパーティで相談して決められる。
 最大の注意点はミッション地域の中枢部は、通常、ケルベロスの手の届かない敵勢力下であること。
 煙を焚いて視界を悪くした敵陣を、単騎で強行突破しようとしているようなものだから、悠長なことをやっていれば、そこかしこにいる敵に捕捉されて撃滅されるのは当然である。
 上空から叫びながらグラディウスを叩きつけるようなド派手なことをしているのだ。
 いくら敵がグラディウス行使の余波である爆炎や雷光、同時に発生する爆煙(スモーク)によって、混乱しているとしても、一度も戦わずに逃がしてくれるほどお人好しではない。
「スモークが有効な濃度を保っている時間は一定ではないけど、グラディウスの行使を終えてから何十分も保持される性質のものではない。向かった場所やその日の状況で多少の違いはあったとしても、極端な違いは無いはずだよ」
 時間に限りがあると強調したが、今のところミッション破壊作戦中に、ケルベロスが死亡した事例は無い。
 ケルベロスの戦闘技量も向上しているため、これが有利に働く場合もある。
「それからグラディウスの使用時は気持ちを高めて叫ぶと威力が向上する。『魂の叫び』と言われるぐらいだから、思い切り気持ちをぶつけた方が良いと思う」
 ミッション破壊作戦では、繰り返しの攻撃によるダメージの蓄積で、強襲型魔空回廊の破壊を目指す。
 この戦いは、多くのケルベロスが抱く、さまざまな思いを結集して、大きな敵を打ち倒すものである。
 ミッション地域は、現代の日本の中にあっても、人類の手が及ばない敵の占領地。
 立ちはだかる敵の戦闘傾向は、既に明らかになっている情報を参考できる。
「絶対不可能ってことは冷静にみてみると意外に少ないよね。ただし不可能に見えることを成し遂げるには、根気強く善行を積み重ねて行くことが必要だと、僕は感じるよ」
 憎しみには憎しみで、暴力には暴力で応じるのは容易いが、それは悪行かも知れない。
 悪行に対して善行で応じるとは、どういうことなのだろうか?
 目の前に見える世界が、平和に見えても、侵略を受けている日常は危機である。
 力が無ければ危機から逃げることしか出来ないが、ケルベロスはこの危機に立ち向かう力を持っている。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
レイシア・アクエリアス(穿つ雪兎・e10451)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)

■リプレイ

●波打つような雲海
「着いた」
 アラームが目標上空への到達を告げると、アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)は扉を開け広げた。季節を忘れさせるような冷たい空気がヘリオンの内部に流れ込んでくる。
 視線を下方に向ければ、低空は白く濃い雲に埋め尽くされていて、地表の様子が分からない。しかし遙か下方、この高度からでは、指の先ほどの存在感ではあるが、魔空回廊の位置はハッキリと知覚できる気がした。
 後ろの方から、降下の準備を終えた、空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)の気配を感じて、アルベルトは扉の手前にある滑り止めのゴムを強く踏み込み、大空に飛び出した。
 強い空気の抵抗は感じるが、重力による加速の方がずっと強く、降下速度は急速に勢いを増す。
 加速は壁のように見える雲に突っ込んでも変わることは無かった。
 上も下も無い様に錯覚する非現実的な真白の空間の中で、過去と現在、空想と現実が入り交じった様な不思議な幻が浮かんでは消え、消えてはまた浮かんで来るような気がした。
「もうすぐ夏なのか。これは川を下って遊んでいるのか?」
 どこかで目にした、みなかみ町の観光情報の記憶なのか、それとも誰かの強い思いが幻を見せているのか、或いはそんなものは無くて、単なる思い過ごしなのかは分からない。——分からないままに、雲の塊を抜けると、そこには巨大な防護バリアの平滑な面が、鏡の様に空と風景を映していた。
「確かにこれは一筋縄では行かないだろうな。——しかも腐ってる上に固いとは面妖だな」
 不可解への皮肉と共に声を上げ、身につけていたグラディウスを抜き放ち、バリアに向けて構える。
 恐らくは今の声で敵は気づいているだろうが、迎撃を時間などあるはずも無く。
「こんな奴に踏み躙られた人々の無念は拾い上げるさ。生きている住民には空気が綺麗な故郷を返し、犠牲者にはその尊厳を取り戻す!」
 続く叫びと共に、閃光が雲を斜めに引き裂いて雷鳴の如き衝撃音が轟いた。
「今度こそ木端微塵になれ!」
 閃光は1秒も経たない内に火球を作り出し、火球は急速な膨張を始めながら、熱線と衝撃波を同心円状に広げて行く。
 続いて突撃姿勢を取ろうとしていた、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が閃光の眩しさに瞼を閉じる。そして再び開けた時には周囲を壁の様に覆っていた雲が、雪の壁に熱湯を掛けたが如くに消えていた。
「ミッション破壊作戦、開幕なのデース!」
 グラディウスを抜いて、構えるまでの刹那に眼下で膨張を始めた火球に突っ込んで行くシィカ。
 火球の熱が作り出す、凄まじい上昇気流を割き、それと同時に鼻を突いたのは強烈な異臭。
「駅の近くこんな臭いを撒き散らされたら、近所迷惑どころの騒ぎじゃないデース!」
 前方には広大な鏡面の如きバリア。
「花は見るのも嗅ぐのもイイものの方がロック! キミたちを追い払って——そういうのが見れる場所を取り返すのデス!」
 二つに裂けたまま上昇して行く炎をバックに、グラディウスを構えた自分自身の姿が映っている。
「レッツロック!」
 揺るがない思いを声に込めて、叫びと共に、バリアに映る自身の像を目がけて一直線に突っ込んで行く。
「ボクのロックを聞けーーデーーース!!」
 爆発。この日二度目の閃光が広がり、風景が震える。
 ひと月の間に焼き爛れた山に繁茂した不気味な植物群が再び燃え上がり、灰となって散って行く。
(「地形そのものが変わったわけではなさそうやね」)
 田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)は、雲海に穿たれた広大な穴から見える山々に視線を巡らせると、静かな怒りを孕んだ声と共にグラディウスを抜き放つ。
「上毛高原の夏は山水の恵みを人が謳歌する、活気あふれる夏なんです」
 何ごとも無ければ、今ごろは木々の緑も淡い緑から濃い緑に変わって行く時期だったはず。
 梅雨の雨、人間には嬉しくない気温の上昇も、植物に取ってはすべて恵みだろう。
 接近するにつれて、急激に本来の巨大さを感じさせる防護バリアに、その切っ先を向ける。
「それやのにその山水を汚すデウスエクスに居座られたらおちおち夏も楽しめへん」
 夏休みを迎えれば、魂の叫びではなく、都会から帰省した、あるいは豊かな自然の中で過ごそうとやって来た、子どもたちや親子の歓声が谷にこだましていたかも知れない。
「それどころかこの地の人達は何時デウスエクスの餌食になるかと不安な毎日を今でも送っとるんや!」
 回廊攻撃の様子は遠く離れた場所からも知覚できるかも知れない。
 攻撃の度に、期待と失意、そして状況は良い方に向かっていると自分に言い聞かせる——を、避難を続けている人たちは繰り返して来た。占領が長期に及ぶほど、住み慣れた場所に戻ることも出来ないまま、体調を崩し亡くなってしまう方も増えて行く。攻性植物さえ攻めて来なければ、当たり前に享受できた日常を理不尽に破壊された人々に思いを馳せれば、マリアの胸の内から尽きることのない思いが溢れ出す。
「上毛高原の本来の夏、活気溢れる人々の姿を返せや! 魔空回廊!」
 そう、グラディウスによる攻撃は、長きにわたって攻められ続け、防戦一方であった人類勢力にとって、ようやく手に入れた反抗の牙。クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)は、背中に固定した得物の状態をベルトに触れて確認すると、すぐにグラディウスの柄を確りと握りしめた。
 グラディウスを手にした者だけが目にすることの出来る強襲型魔空回廊の全容。苛烈かつ凶悪な攻撃性を見せる雷光や爆炎に対する加護、グラディウスが所持者にのみもたらす不思議な力を意識するだけで、クリムの胸の中に熱い思いがこみ上げてくる。
「この距離でも感じる……魔力の流れが、悲鳴を上げているかのように歪んでいる。山は全ての命を育む場所、私達人間——もその恩恵を受けて生きている」
 空中を乱舞する矢の如き雷光が、グラディウスを持つ自分を避ける様に針路を変えて飛び抜けて、上昇気流に巻き上げられた異形の植物、そして正常な植物をも貫き、塵に変えて行く。
「この悲鳴を止めるために、命育む場所を守る為に……」
 ひとたび戦いが始まれば、その命を育む場所が戦場の過酷に晒される。敵だけではなく守りたい命までもが傷つき果てて行く矛盾に直面しながらも、この地での戦いに終止符を打つことを望んで、クリムは満身の力を込めてグラディウスを振るう。
「今ここで破壊しなければ――違う、必ず破壊する!!」
 今日、ここで、戦いに終止符を打つことが出来れば、新たな苦しみが生み出されることは無い筈だ。
 青銅の鉢を打ち鳴らしたような鳴動音がバリアから響き渡り、大気と大地を揺さぶった。
 しかし、クリムの満身の叫びをぶつけても、バリアは健在だった。
「……あと、一回」
 既に攻撃を終えて、地上から見上げる無月の目に上空から突っ込んでくる、レイシア・アクエリアス(穿つ雪兎・e10451)の影が映っていた。
「………これが占領した敵……。何これ?! ………嫌……… 嫌………!」
 何度もグラディウスを打ち付けられながらも、今だに破壊に向かう気配を見せないバリア。
 レイシアはこの日最後の攻撃となる、自分に向けられる期待を直感しながら、叫びに気持ちを込める。
「れいしあの生まれた、死と終わりの臭いがする……! 混ざって狂う、皆ぐるぐるするあの匂いが……!」
 有機物の焼ける臭いと攻撃の余波が生み出す無差別な破壊と殺戮の気配と記憶の中にある光景が重なる。
「……やだ……、……嫌、やだ、駄目……! れいしあを、れいしあにしないで……!」
 硬く重い物が触れ合って軋むような高音の響きと共に叫びに合わせるように爆発の炎が次々と膨らむ。
「この、これは倒さないといけない花……これ以上ぐるぐるさせるの、やだ……嫌だ……!」
 閃光が広がり、炎を孕んだ様な、赤と黒のマーブル模様を描く茸雲が空高く立ち昇る。
「……綺麗さっぱり、氷に変えて、臭い一つかき消すくらい、れいしあで、飛ばす……!」
 このままじゃあ終われない、残る力を絞り出す様に叩きつけるも、バリアは不気味な鳴動音を響かせるばかり。そして響きは急激な変化も起こさずに、根負けしたかのように次第に低くなり、ついにバリアは大きな亀裂を生じることもなく持ちこたえた。

●撤退戦
「さ、急いで退散や」
 頭上を押さえつけられるようなプレッシャーは変わらず、魔空回廊も健在であった。
 落ち込んでいる暇は無いとマリアは撤退を促すが、この地が解放されることに期待寄せる人たちに思いを巡らせて、胸が締め付けられるような気持ちになる。
「……そっち。……わかる……ついて行けばいい……」
 地表はグラディウス行使の余波による爆煙に覆われていて通常ならば全く視界が利かない状況だ。しかしグラディウスを所持する者は、それによって仲間の位置や方向や地形が分からなくなることは無い。
 従って撤退に支障をきたすことも無さそうだ。視界を遮られるのは敵だけなのだ。レイシアは抱いていた懸念が杞憂であったと知ると、空に向けていたバスターライフルを脇に持ち直し、合流した仲間と共に走り出した。
 走り始めてしばらく、谷間を埋めるほどの盛大な土砂崩れ、そしてこの付近の悪臭が他の場所よりも強烈に感じられるのに気がついて、マリアの表情が緊張に引き締まる。
「……どないしよ。嫌な予感しかせえへん」
 迂回をしても崩れた場所が此所だけとは限らないし、針路を変えて時間を掛けるくらいなら、最短で撤退できそうなルートを進むべきだろう。刹那に判断して頷き合う一行。そして覚悟を決めて皆で進もうとした瞬間、10メートルほど前方で泥水が噴き上がり、頭部のようにも見える赤く巨大な花を咲かせた攻性植物『腐敗の華』が姿を現した。
「——ここで来るか」
 横に跳び、地面を強く踏み込むマリアと、アルベルトはほぼ同じタイミングで反応するが、アルベルトが紙兵を撒くほうが少し早かった。花吹雪のように舞う紙兵を介して広がる加護が、敵の攻撃によってもたらされる憂いに対しての備えとなる。
「まずは動きを抑えます!」
 次いでマリアは砲撃形態に変形させたドラゴニックハンマーから砲弾を撃ち放つ。
 山なりの放物線を描いて飛翔する巨大な砲弾はラフレシアの如き赤い花弁に上方から襲いかかり、吸い込まれるように着弾、数秒の間を置いて、大爆発を起こした。
 シィカは慣れた手つきで愛用のギターをギュインと掻き鳴らして、音程を確かめると、観客に呼びかけるようにして声を上げた。
「レッツ、ロックンロール! ボクのロックを見せつけてやるのデス!」
 天高らかに響く声が、同じく前衛にポジションを取る、クリムと無月の背中を押し、続くレイシアの全身から舞い上がった銀色の光の粒が不思議な感覚を目覚めさせる。
 破れない壁などあるはずがない。今までに積み重ねられた沢山の仲間たちの叫びも、自分の叫びも、いつか花開く時が来るはず。未来の為に起こした行動は必ず役に立つ。
「その通りだ。こんな所で立ち止まっている場合じゃないね」
 このまま畳みかけよう。
 素早く踏み込みクリムは一挙に間合いを詰めると卓越した技量からなる鋭い一閃を放つ。
 袈裟懸けに刻みつけられた傷口がパックリと開き、同時に悲鳴の如き咆哮が上がる。深い傷から粘りのある体液が溢れ出て黄色の蛍光塗料をぶちまけたような水たまりを作る。
「……行こう。華空……わたし達の力、刻んで果てて……!」
 間髪を入れずに前進した、無月が乱舞させる中、漂う煙の中から現れた青髪の少女の残霊が連続で発砲する。
 赤熱する銃弾が、無数の斬撃の筋を刻まれた巨体に突きささり拳ほどの大きさのくぼみを次々と穿った。
 攻撃は明らかに優勢。勝利は間違いないと誰もが確信を持てたが、手厚い相互の支援や連携により目立った傷を負う者は居なかったが、その代わりに戦いは長引いた。
 未来の可能性を奪う超重の一撃がもたらす冷気が傷だらけの巨体を霜で覆う。
「スバラシイがんばりデス! 敵として出会いたくなかったデーース!!」
 6人の猛攻を受けても受けても、この谷は絶対に通さないとばかりに立ち塞がる敵の姿がやけに健気に感じられた。勿論この敵に知性があるのかどうかなど判断はつかないし、一刻も早く倒さなければならないのもシィカには分かっている。
「穿て。穿て。穿て。咲いた花が散るように。満ちた月が欠けるように。――私の槍からは逃げられない」
 クリムは正面から限界まで高めた突きを繰り出し、左右からシィカと無月が攻撃を重ねる。
「負けるわけにはいきません!」
 マリアの放った竜砲弾が前衛の頭上を飛び越えて敵に命中、大爆発を起こす。
 様々な想定が出来た筈の相手だ。よほどのことが無ければ負けない筈だが、よほどのことがあったときはどうすればいいのか? その可能性を考えている者は誰も居なかった。
 空中に巻き上げられた煤を含んだ雨が降り始めていた。薄くなった煙の隙間から、崩れて横に広がった茸雲が見える。地上にある爆煙は敵の連携を阻むのに充分な濃度を保っているようだが、
「信じるだけだ」
 アルベルトは比較的被弾が多いクリムに癒力を集中させ、そのダメージを一挙に回復させた。
 賽は投げられている。今からやり直すことも引き返すことも出来ないことは皆わかっている。
「……れいしあはれいしあ……作戦通り、戦うだけ……」
 手になじんだバスターライフルを引くと同時、放たれた極太の光条が仁王立ちする攻性植物『腐敗の華』の上半分、ラフレシアの如き花を瞬きの間に焼き払った。
 左右に腕の様に広げられて、暴れ回っていたハエトリグサの如き部位が風船から空気が抜けるように萎んで動かなくなり、上半身を失った身体も腐った野菜の様に液状化している。
「今だ!」
 アルベルトは破壊した敵の残骸を、躊躇なく踏み越えて、谷を下り始める。
 焼けただれた森を抜けて、緩衝地帯に入る頃にはスモークは完全に消え、その一方、煤を含んだ雨は勢いを増した。
「ここまで来ればもう大丈夫だよね?」
「そうやな−。まあ、ここならどうにでもなるやろ」
 クリムの確信めいた言葉に、以前にもこの辺に来たような気がすると言う、マリアが同意で返す。
「早く帰って風呂に入りたいね」
「まったくだな」
「……ひどいにおい……れいしあもおふろ……はいりたい」
 レイシアの一言は、彼の地が未だ攻性植物に占領されされたままだという現実を象徴しているようだった。

作者:ほむらもやし 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月18日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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