城ヶ島制圧戦~腐敗竜ギフト

作者:柊透胡

「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 ヘリポートに集うケルベロス達に向き直り、都築・創(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0054)は静かにタブレットに目を落とした。
「先だっての強行調査により、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在する事が判明しました」
 その眼鏡越しの双眸は冴え冴えとして、いつもに増して鋭い。
「この固定化された魔空回廊に侵入し、内部を突破出来れば、コードネーム『デウスエクス・ドラゴニア』の『ゲート』の位置を特定する事が可能となります」
 即ちドラゴンの『ゲート』の位置さえ判明すれば――現地調査の必要はあるにしろ、ケルベロス・ウォーによる『ゲート』の破壊さえも、現実味を帯びてくる。そして、『ゲート』を破壊出来れば、ドラゴン勢力は新たな地球侵攻を行えなくなるのだ。
「つまり、固定された魔空回廊の確保は、そのままドラゴン勢力の急所を押さえる事に直結する訳です」
 強行調査の結果、固定された魔空回廊の破壊は、ドラゴン達にとって最後の手段であると推測される。
「これは、絶好のチャンスです。電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取する……更なるドラゴン勢力の侵略を阻止する為にも、皆さんの力をお貸し下さい」
 瑠璃鱗の竜の尾が小さく揺れた。ドラゴニアンのヘリオライダーの感情が窺えるのは、その僅かな挙措でのみ。創は粛々と説明を続ける。
「今回の作戦は、先陣が築いた橋頭堡より、ドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍する事になります」
 彼がケルベロス達に見せたタブレット画面には、城ヶ島公園への進軍ルートが、詳細に記されている。
「進軍の経路等は全て、ヘリオンの演算により割り出されています。必ず、この通りに移動して下さい」
 固定化された魔空回廊を奪取するには、ドラゴンの戦力を大きく削ぐ必要があり、言うに及ばず、ドラゴンは強敵だ。ヘリオライダーの予知から大幅に外れた行動を取った場合の危険性も、いつもに増して高いだろうから。
「正直に言えば、私は気合だけに頼る事を良しとはしていません。ですが、敢えて言いましょう。必勝の気概で、挑んで下さい」
 タブレットの画面が変わる。緑豊かなその画像は、城ヶ島公園の一角だろう。
「元は、手入れの行き届いた芝生広場でしたが……現在、この辺りは『腐敗竜ギフト』によって、異臭漂う腐敗の泥濘と化しつつあります」
 『腐敗竜ギフト』の姿は、ドラゴンゾンビとでも言おうか。辛うじて鈍色の鱗と知れるが、骨のみとなった翼広げる体躯は腐液に塗れて半ば腐り、骨が覗いている箇所さえある。
「動きは些か鈍いですが……力は強いですし、知性も低い訳ではありません。狡猾な性質で、吐き出される言葉も毒に充ちています」
 全身より腐敗の毒が充ち溢れる『腐敗竜ギフト』は、そこにいるだけで大地を穢し腐らせる。そうして、徐々に自らのテリトリーを広げていくのだ。
「幸い、腐敗の泥濘はまだ大きくありません。一般人ならば足を踏み入れる事すら出来ませんが、ケルベロスの皆さんなら大丈夫。ギフトを撃破出来れば、腐敗の進行も止められます」
 腐敗竜ギフトが使うグラビティは、標準的なドラゴンとさして変わらない。手足の爪を超硬化して呪的防御ごと超高速で貫く「ドラゴンクロー」、「ドラゴンテイル」は太い尻尾を振るい敵を纏めて薙ぎ払う。
「やはり、注意するべきは『ドラゴンブレス』でしょう」
 『ギフト』の呼び名に違わず、そのブレスは敵群を広く毒に侵す。戦いの長期化は、避けるべきかも知れない。
「もし、ドラゴンに敗北する事になれば……魔空回廊の奪取作戦を断念する場合もあり得ます。作戦の成功は、皆さんの力に懸かっているのです」
 徐に、ケルベロス達を見回す創。ケルベロスへ信頼を寄せる眼差しも又、変わらない。
「強行調査で得た情報を無駄にしない為にも……宜しくお願いします」


参加者
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
ジン・フォレスト(悠々飄々狒狒械械・e01603)
セラス・ブラックバーン(竜殺剣・e01755)
パール・ホワイト(サッカリンミュージック・e01761)
言葉・紡(むぎむぎわーるど・e01938)
藤・小梢丸(カレーの男・e02656)
嵐城・タツマ(ジョウブレイカー・e03283)
蓬栄・智優利(覚醒ヒロインイズム・e13618)

■リプレイ

●腐敗の泥濘
 進むにつれて、ジワジワと空気が変わっていくのが判る。
 城ヶ島公園ならではの緑の息吹と潮の香り入り混じるそれから、澱み切った汚泥の腐臭に。
「凄い泥と臭い……こんなのが広がっていくなんて、だめ。止めなきゃ……!」
 ヌチャリとした靴裏の感触に顔を顰め、言葉・紡(むぎむぎわーるど・e01938)は小さく頭を振った。
「……負けない、よ。むぎだって戦えるん、だから」
 これまでに増して、失敗は許されない。決意の言葉とは裏腹に、手は緊張に震えている。
(「こうして自分が調べた事が役に立つと、何ともいえない嬉しさがあるね!」)
 一方で、パール・ホワイト(サッカリンミュージック・e01761)の笑顔は、相変わらず明るい。
「調査の時はこっそり見つからないようにだったけど、今度は真正面からばーんといけるね!」
 正面から突撃する方が、自分らしくて良い――ヘリオライダーが示すルートを辿る少女の足取りは、寧ろ軽やかだ。
「ま、ここでボケる必要は無いし。腐敗してるドラゴンなんて気分悪いけど、さっさとぶっころー!」
「うん、全力でいくよ!」
 そうして、同じ旅団の誼で相当に気安い藤・小梢丸(カレーの男・e02656)と頷き合っている。
 果たして――腐敗の汚泥の最たる処に、腐敗竜ギフトは在った。
 ――――。
 蹲る腐敗竜は瞑目している様子。動く気配も無い。時に毒気泡立つ泥濘広がる中、腐肉纏う巨躯はその汚泥を全身に被ったかのよう。骨の翼が嫌に白く見える。
「何とも不気味なデザインの龍だ……この場所も気持ち悪いな」
 ジン・フォレスト(悠々飄々狒狒械械・e01603)は心底の嫌そうな面持ちで、背中のリュックからマスクやらゴム手袋やら、掃除用品を取り出しては着けている。
「ギフトねぇ……貰えるもんは面倒と病気以外、何でも貰う主義っすけど、よりによって面倒くさい病気持ちとは」
 ぼやきながら頬を掻くグーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)。
「不死身のクセにわざわざそんな姿をしてるって事は、相当根性が捻じ曲がってるんだろうよ」
 嵐城・タツマ(ジョウブレイカー・e03283)は、荒っぽく吐き捨てる。
「ま、どうでもいいや、とっとと叩き潰してやる」
「ああ、さっさと終わらせて帰るとしよう」
「大丈夫、何時でも行けるよ! ごくーさん!!!」
 ジンの呟きに否やは無く、小さく身震いする蓬栄・智優利(覚醒ヒロインイズム・e13618)。
(「記憶がなくてもわかる……これは、武者震いだ……!」)
「ダイナマイトモード☆ドレスアップ!!!」
 明るい掛け声と共に、智優利の衣装が華々しく変化する。激戦を前にした仲間を鼓舞せんと。
「鎌倉じゃあ、いいように暴れてくれたからな。今度はこっちの番だ」
 勝気な笑みを浮かべるセラス・ブラックバーン(竜殺剣・e01755)。しっかと握る竜殺剣ラグナブレイズは、今にも鬨の声を上げんばかり。
「ゲートを暴いて、この地球から叩き出してやるぜ!」
 ここまで来て、躊躇うケルベロスなどいない。各々武器を構え、彼らは一斉にドラゴンへと駆け出した。

●腐毒の災禍
 正々堂々、真正面から挑むケルベロス達を透かし見るドラゴンの双眸は、半ば腐った体躯に反して炯々として。
「怖イモノ知ラズカ、只ノ阿呆カ……重力ノ底ニ這イズル地虫風情ガ」
 ――――!!
 吐き散らかされたのは腐敗の毒。居並ぶ前衛を越え、後衛の3人へ降り注ぐ。
「……っ」
 ゾクリと悪寒が背筋を這う。肌をチリチリと灼くような痛みに、紡は顔を顰める。
 誰何の言葉1つ無かった。定命の者如きと歯牙にも掛けぬ態度に、グーウィは眉を顰める。
(「まだ、舌戦する価値もないという事っすか」)
 挑発等にまともに取り合う心算は無かったが、これはこれで癪に触る。
 憮然の面持ちのまま、掲げた黄金の果実の聖なる光を浴びて――ドワーフの少女の表情がハッと変わった。
 メディックのキュアを以てして、解毒し切れない事に気付いたのだ。
「ジャマーっすか……」
「うん」
 確信の呟きに頷く紡。ドラゴンの手数を減らすべく、徐に息を吸う。腐臭をものともせず、敵を見据える表情は、正に預言者のそれ。
「言霊に込めて紡ぐ、よ。あなたは動けなく、なる……!」
 紡ぐ音には呪力が交じる。具現化される厄は、麻痺。
「さて、そろそろ本気出すか」
 敢えてキリッと表情を引き締める小梢丸。
「いっちょやってやろうじゃないか……帰ったらいっぱいカレー食べるんだ」
 お約束のフラグをぶち上げ、やはり黄金の果実を掲げる。
 その間に、タツマは腐敗竜へ飛び掛る。
「デウスエクスだろうがゾンビだろうが、俺達の前に立てば死ぬって事をわからせてやる」
 闘争本能の塊に、ドラゴンの脅威など無いも同然。奔る拳に躊躇いなど皆無だ。
「行くぞ!」
「うん!」
 ジンの掛け声に、智優利は血気盛んに大きく頷く
(「ごくーさんの背中はわたしが守る!」)
 最初の一撃はドラゴニックミラージュ――否!
「ごくーさんとの合体技、ケラオニックララースュ!!」
 奔るドラゴンの幻影の軌跡を追い、ジンのリュック型鎧装よりケイオスランサーが迸る。
 相次いで敵を貫けば重畳であったが……スナイパーの智優利とディフェンダーのジン、その命中精度の差はあまりに大きい。
 竜語魔法の炎は腐敗竜を舐めるも、黒き槍は僅かな挙措でかわされる。
 序盤はやはり、命中からして覚束ない。当たらなければ厄を撒く事も叶わず、ジグザグの効果も低いだろう。
「地獄送りにしてやるぜ!」
 猟犬の縛鎖が奔る。セラスの攻撃に続き、いっそ甘やかな笑みを浮かべるパール。
「ボクの歌でキミをどろどろからトロトロに変えてあげる!」
 シュガー・ハート・アタック――甘い甘い囁くような歌声を魔力に変えて、ドラゴンを骨抜きにせんと。
 ――――!
 だが、その応酬は激しい竜尾の薙ぎ払い。容赦なくジャマー2人の足許を掬う。
 ケルベロスの編成は前から3人、2人、3人。満遍なくバラけていた結果――ドラゴンの範囲攻撃も余す所なく暴れる事となる。時に鋭爪に抉られれば、その威力はグーウィのジョブレスオーラだけでは回復量が足りず、シャウトが響き渡る事もしばしば。
「……クセェ魂だ、強力だがな。クラッときたぜ」
 不敵を口にするタツマだが、降魔真拳の使用が回復の不足を示している、
 格上の敵に対するには、弱体化が不可欠だ。例えば、敵の行動を失敗させるパラライズは、発動さえすれば強力だ。敵が動けなければ、ダメージも被らず――つまり、継戦力を上げる効果と言える。
 だが、その発動率は相当に低い。そして、時間稼ぎ出来たとして、攻撃が当たらなければ無為となる。あらゆる厄は、まず敵に命中しなければ撒く事すら叶わない。
 故に、如何に迅速に『全員の攻撃が当たる』状態にするかが肝心となが……捕縛は足止めに比べれば即効性は低く、ジグザグが付加する厄はランダム性が高い。敵が強力であればある程、付与する厄の優先順位を考慮しなければ、先にこちらがすり潰される。
「危ない!」
 或いは、回復が間に合えば保ったかもしれない。だが、ケルベロス達が動くより速く、毒のブレスが迸る。
「まだ……」
 幼い頃から病弱で怖がりだった。だけど、強くなりたくて、怯えながらも奮起していた。毒充ちる中、最後まで一矢報いようと、紡の縛霊手に浮かび掛けた竜の幻影が――掻き消える。
「……っ」
 ドワーフの少女は、思わず唇を噛み締めた。
 ブレスの度、こまめな回復に努めてきたグーウィ。それでも、ジャマーの毒の侵蝕スピードが上回った。バッドステータスの『毒』の発動率は、高い。そして、元より地力の高いドラゴンの攻撃力は、持続ダメージの威力も侮れず。結果、最も打たれ弱い紡が、まず膝を折る事となる。
 列攻撃を多用し厄を振り撒く強敵に対して、メディック1人は少し荷が重かったかもしれない。だが、他がヒール補助するにしても、誰かが回復に回ればその分火力が落ちるのだ。BS耐性を始めとするエンチャントは、ジャマーが撒く方が効率が良い。グラビティ活性化には限りがある。ポジションに即した役割分担が重要だ。
「彗星のごとき青き光をまとう――スターゲイザー!」
 『氷』と『炎』を優先させていた智優利のエアシューズが、漸く唸りを上げる。
 同じスナイパーで、やはり足止めの術があった紡の脱落は、戦況においてけして軽くない。倒れた彼女は後で診なければならないが、今はこれ以上、膝突く者が出ぬよう、グーウィは只管回復に専念した。

●狡知を破る
「……汚泥ニ這イズルダケアッテ、シブトイ」
 戦いは長引いた。中衛を抉らんとした竜尾を、ディフェンダー2人が庇うに至り、漸く腐敗竜は口を開く。
「何よ!」
「悔シケレバ、隠レズ出テコイ……脆イ羽虫ホド、五月蠅イモノダ」
 唇を尖らせる智優利を、グーウィが止める。
「口から漏れるは偽に塗られた真、ああ汚く腐れた素晴らしき正直者よ」
 彼女とて言葉が武器の『インチキ』占い師。それらしくも中身の無い言葉であしらうのはお手の物。
「ブツブツ煩いんだよ、インド洋に沈め」
 小梢丸はもっと直截的な言葉で、ブラックスライムをけしかける。
 大きく広がった黒塊はドラゴンを丸呑みするも、すぐ噛み裂かれた。それでも、ディフェンダーの一撃が、竜を縛した――その戦況こそが転機を報せる。
「二つの魔導よ! 今1つになって大いなる魔力になれーっ!」
 魔導書2冊を同時に開き、智優利の詠唱が響き渡る。
「制限解放! 黒き触手☆ いっけぇええ!」
 生と死の境界線からおぞましき触手を招来する。幾重もの触手の奔流は、適格にドラゴンを貫き、その命を啜る。
「残りの皮と肉も削ぎ落として、骨格標本にしてやるぜ」
 構造的弱点を見抜いた痛撃が、肉を、鱗を抉っていく。徹頭徹尾、只管に殴り続けるタツマ。バトルガントレットが腐肉に埋まろうと、構わない。
「オ、オノレッ!」
 ドラゴンの慟哭に力を得て、ケルベロス達はグラビティに思いの丈を込めて叩き付ける。
「パール、こずぅ! いつもので行くぜ!」
 それは、闘技場での黄金パターンであり得意の連携。セラスの掛け声に応じて、真っ向からドラゴンの爪を受けた小梢丸は声を張る。
「豊穣なる大地の恵みを受けてほんわか辛い、御出でませい華麗魔神! ああ、カレー食べたい……」
 小梢丸に滾るカレーへの願望が1つの形をとる時――顕現するは、ムキムキマッチョなナイスインドの華麗魔神。ホットな拳が、鈍色の鱗を叩き割る。
「さぁー、これでフィナーレ!!」
 見開いた緑の瞳が、熱を帯びてドラゴンを射抜く。極限の集中の果て、大きく息を吸うパール。
「地に還れ、腐敗竜ギフト!! ロックンロール!」
 大音声で叩き付けた言葉が爆ぜたかに見えた。
「その死にかけの体にきっちりトドメをさしてやるよ! 地獄に落ちろ! 焔舞い!」
 爆発に乗じて斬り上げた勢いで、刹那、竜躯が宙を泳ぐ。その隙を逃さず、セラスは炎纏う斬撃の乱舞を叩き込む。
「俺は竜を殺す剣。ドラゴンハンターセラスだ!」
「グゥゥッ……」
 くぐもった呻きを上げ、腐敗竜はどうと横たわる。ビクビクと骨覗く身を震わせ、程なく沈黙する。
 ――何とも言えぬ静寂が暫し。
「やっつけた?」
 身構えたまま、智優利が小首を傾げた、次の瞬間。
 ――――!
 突如、長首をもたげた腐敗竜の顎が大きく開く。セラスに警告の暇があればこそ、毒の息吹がケルベロス達を襲う!
「私が守る!」
 だが、この期に及んでの死んだ振りも、ケルベロス達にはお見通し。智優利を庇い、意気軒昂に吼えるジン。
「ぞして、雷の愛を与えてやろう!」
 一転、長い手足を竜躯に回して背中のリュックで雷を起こせば、絶叫が地を這い轟く。
「ふう、こいつが無ければ即死だったぜ」
 グーウィを庇った小梢丸は、懐からケルベロス特製万能型強化防弾カレールー(中辛)を取り出した。
「うめえ。こうやって非常時には食べる事もできるんだぜ」
 毒を浴びたばかりで、カレールーを幸せそうに齧るとは……彼のカレー好きも筋金入りだ。
「お金があれば大体のことは何とかなります。しかしどうにもならないこともある」
 そんな小梢丸の肩越しに、グーウィは初めて攻撃した。滅びの結末を映す水晶玉を腐敗の眼前へ突き付ける。
「例えばそう、ここに見える貴方の終焉のように」
「バ、馬鹿ナ! ソンナ世迷言ナゾ!」
 見るも無残な結末描く幻に愕然と叫ぶ腐敗竜を、至近距離から魔力の塊が強襲する。
 ――――!
 甲高い末期の咆哮が、腐臭充ちる汚泥に響き渡った。

●激戦の跡
「ふはははは!! ドラゴンに敗北というギフトを与えてやったぞ!」
 大いに胸を張るジンの目の前で、崩れ去るドラゴンの骸は、あたかも砂上の楼閣の如く。そして、まるで砂に水が吸われるように、腐敗の汚泥が消えていく。
「ごくーさん、お疲れッ! えーいっ☆」
 満面の笑みを浮かべて勝利を分ち合い、智優利はジンににだいしゅきホールド☆ 満身創痍にグラビティ・チェインを注いで癒している。
 ドラゴンの骸と腐敗の泥濘が失せた後、残ったのは黒々とした剥き出しの地面。芝生の類は腐敗の泥濘に呑まれたようだが、腐敗竜が倒されたお陰でこの辺りの土はまだ死んでいない。新たに芝生を植え直せば、緑豊かな広場に戻るだろう。
「でもさ、出来たら、ここら辺を元の綺麗な芝生に戻してあげたかったかなぁ」
 大地にヒールを掛けたいパールだったが、シャウトの効果は自身のみ。他者回復の技は用意していない。ケルベロスが取り戻した場所と示したかっただけに、残念そうだ。
「……大丈夫。そこまで傷は深くないっすよ」
 青息吐息の紡を診たグーウィの言葉に、安堵するケルベロス達。オーバーキルが発生しそうな近距離攻撃でなく、範囲型のブレスに耐え切れず、という呈が却って良かったようだ。華奢な紡と言えど身長差30cmあっては、流石に小柄なグーウィが背負うのも厳しいから、幸いだったと言えよう。
 一方、紡自身は最後まで逃げなかった自分に、そして、一先ず仕事を終えられた事に、ホッとしているようだ。淡く笑みを浮かべて、兎の縫ぐるみを抱き締めている。
「他の戦場は……?」
「ああ、立てる内は戦い続けたいもんだ」
 血気盛んなセラスとタツマは、他のドラゴン戦も気になる様子。援護に馳せ参じる勢いだが……戦闘不能者を放置出来ないし、実際、激闘の末に誰もが疲労困憊だ。
 折角、ドラゴン相手に勝利を収められたのだ。無理は禁物。程なくして、ゆっくりと撤収を始めるケルベロス達。ちょっぴり後ろ髪引かれるけれど、他の戦場もきっと大丈夫。頼もしい同胞達は、必ずや勝利を掴んでくれる。
「よし! 今夜は特盛りカレーだ!!」
 大仕事の後の大好物は、きっと最高の味。嬉々とした小梢丸の宣言が、初冬の空に響き渡った。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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