解かれた封印

作者:零風堂

 住宅や商店、飲食店などが立ち並ぶ平穏な街並み。
 派手さはないが、そこに暮らす人々の生活が、確かにそこにある……そんな場所に、突如として、強大な脅威が襲い掛かる!
「グォォォォォォォッ!」
 歩道橋が両断されて崩れ、電柱が倒れて火花が散る。
 天に向かって雄叫びを上げる巨大な影は、ドラゴン――かつて地球に封印されたはずの戦闘種族だった。
 ドラゴンは建物を次々に破壊し、街の中心部へと進んでゆく。
「グアアッ!」
 逃げ惑う人々を嘲笑うかのように、ドラゴンの口から灼熱の炎が放たれた!
 紅蓮の炎が街を、命を包み、黒き灰塵へと焼き尽くしてゆく。
 瓦礫と化した建物の崩れる音に混じって、人々の悲鳴が響き渡る……。

「これは……一大事っすよ!」
 ヘリオライダーの黒瀬・ダンテはかなり慌てた様子で、集まっていたケルベロスたちの元へと駆け込んできた。
「ケルベロスの皆さん、大変っす! 長崎県のある都市にドラゴンが現れて、街を破壊し暴れまわるっていう予知が出たっす!」
 まくしたてるように喋るダンテに、落ち着いて説明してくれと皆は言う。
「す、すんません……。ええと、ドラゴンは先の大戦末期に、オラトリオによって封印されていたはずなんすけど、どういうわけだかその封印が解かれたみたいなんす」
 ダンテは、多少は落ち着きを取り戻したらしく、先ほどよりはゆっくりと話し始めた。しかしそれでも、危険な状況を察してか、幾らか焦りのようなものが、その口調からは感じられる。
「復活したばかりのドラゴンは、グラビティ・チェインが枯渇しているせいか、飛行はしないっす。それでも街を破壊しながら、人が多くいる場所へと進んで、多くの人間を殺そうとしているみたいっす」
 このままでは、多くの被害が出てしまうだろう。
「ドラゴンはたくさん人間を殺してグラビティ・チェインを奪い、力を取り戻したいようっすね。力を取り戻して飛べるようになったら、飛び去ってしまうっす」
 その頃には、廃墟と化した街だけが残されることだろう。
 ダンテは険しい表情で続けた。
「そんなことにならないように、弱体化しているドラゴンを撃破してほしいっす!」
 攻めるなら、力を回復される前だ。とダンテは力強く言う。
「ドラゴンは10メートルはあろうかという巨体で、大抵のものは尻尾で薙ぎ払いながら街を進んでいるっす。あと、炎のブレスを吐く能力もあるっすね」
 いかに弱体化しているとはいえ、かなりの強敵だとダンテは説明する。
「あと、付近の住民には避難勧告が出されるっすから、ケルベロスの皆さんがそっちに戦力を割く必要はないっす。街の建物についても、後でヒールで治せるっすから、ドラゴンとの戦いに全力を注いで欲しいっす」
 今回は確実に倒すことが最優先だとダンテは言う。
「どうして復活したかは分からないけれど、ドラゴンに街の皆さんが虐殺されるなんて許せないわね」
 ユリア・フランチェスカは少し硬い表情でそう言ってから、仲間たちの方に向き直る。
「ドラゴンは強敵みたいだけれど……大丈夫。私達なら、きっとうまくいくわ」
 ユリアはそう言って、仲間たちに微笑みかけるのだった。


参加者
ルナ・リトルバーン(地球人の刀剣士・e00429)
リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)
堂々院・孜々緒(地球人の降魔拳士・e01763)
逢川・アイカ(レプリカントの降魔拳士・e02654)
野木・九(獣装拳魔・e02945)
ルシエンヌ・ロッシュランベール(サキュバスのミュージックファイター・e03660)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)

■リプレイ

 巨大な体が木々をなぎ倒し、公園のベンチが踏み潰される。
「グォオオオオッ!」
 高らかに咆哮を上げるドラゴンの通り過ぎた後には、ただの瓦礫に変わり果ててしまった街の姿があった。
「うぉー、でけーなこの野郎」
 野木・九(獣装拳魔・e02945)は、吼えるドラゴンの声にビリビリと振動を感じながら息を吐く。
 見つからないように建物の陰に隠れつつ、仲間たちと視線を交わした。
「ドラゴン退治とは心躍るな! 痺れて蕩けるほどに、良い戦いをしよう、な?」
 傍ではリーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)がニッと笑みを浮かべ、拳を突き出す。
 九もそれに応えて、拳をコツンと合わせた。
「初依頼びしっといこーぜ」
 九はそう言ってユリア・フランチェスカ(オラトリオのウィッチドクター・en0009)にも拳を突き出した。ユリアは遠慮がちに拳を合わせて、よろしくねと頷く。
「私の物語の開演を告げるには相応しい相手ですね。では、行きましょうか」
 霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は、警戒しつつドラゴンの姿を物陰から確認し、呟いた。
「出来るだけバレないように……移動するよ!」
 ルシエンヌ・ロッシュランベール(サキュバスのミュージックファイター・e03660)の合図で一行は移動し、建物の陰から陰へと移る。
「……やっぱデカイわぁ」
 ルシエンヌは悠々と進むドラゴンの背をちらりと覗き見て呟いた。
 胸が高鳴り、手にじりじりとプレッシャーが感じられる。
「怖い? 逃げたい? ……ううん。期待してる? ……うん! この胸の高鳴りはドラゴンちゃんのせい!」
 ルシエンヌは自身にそう言い聞かせるように呟いて、仲間たちと共に敵の背後を取れるよう、瓦礫に足を取られないよう進んでいった。

「……隠れて移動も結構難しいもんだぜ」
 堂々院・孜々緒(地球人の降魔拳士・e01763)は、暴れるドラゴンに気づかれぬよう建物の陰に隠れ、数名の仲間と共に別方向へと向かっていた。
「…………」
 トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)は、孜々緒の台詞を聞いたのか否か、もう一方の班を視線で見送ってから、ほんの少しだけ頷く。
 位置についた後は、仲間たちの攻撃に合わせて突っ込む役目だ。張り詰めるような緊張感の中で一同は息を潜め、その時のために神経を研ぎ澄ませてゆく。
 左文字やジウーニャといったサポート参加者も、周辺に逃げ遅れた者が居ないよう、警戒を開始していった。

「……嗚呼、私のハジメテになんと相応しい相手でしょうか。存分に楽しみましょう、この逢瀬を……」
 絶奈がドラゴンの背を射程に捉え、ブラックスライムを槍の形に変形させてゆく。
「みんなにもこの攻撃に合わせてもらいたいかな! ユリアは制圧射撃よろしく!」
 ルシエンヌが仲間たちに呼びかけて、タイミングを見計らう。
「……向こうも準備オッケーっす」
 逢川・アイカ(レプリカントの降魔拳士・e02654)がアイズフォンでの通話から聞こえた返答を伝え、口元で笑みを浮かべた。
「っしゃー! いくぞオラー!」
 九が手の平からドラゴンの幻影を解き放ち、ユリアも制圧射撃を仕掛ける。
「少しでも頑張ります」
 サポートに駆けつけたリセがドラゴンの幻影を召喚し、ディーンもゾディアックソードの切っ先を突き出し構えた。
「痺れて蕩けるほどの、戦いを! 死闘をっ!」
 リーファリナが構え、裂帛の気合いで咆哮を上げた! ドラゴンにも引けを取らぬド迫力が、ビリビリと大気を震わせる。
 絶奈もどこか冷酷さを感じさせる微笑を浮かべながら、黒き毒槍をドラゴンへと突き伸ばした。
「キメるよ!」
 ルシエンヌの精神に黒き鎖が応え、高速でドラゴンへと突き進む。
「この光からは逃げられませんよ!」
 アイカは両手足の機械部位、リボン状のケーブルの先からRAINBOW◎JALEの鮮やかな光輪を次々に射出する。ケルベロスたちがタイミングを合わせて放った遠距離攻撃が、一斉にドラゴンへと向かっていった。

「……よっしゃ、大物との勝負だな。腕が鳴るぜ」
 時を同じくして、ルナ・リトルバーン(地球人の刀剣士・e00429)を初めとした接近戦組も、携帯電話の通話状態を維持し、攻撃の時に備えていた。
「先陣は俺が斬らせてもらうぜ!」
 ルナは合図と同時に言い放ち、斬霊刀を抜いて駆け出した!
「どんな相手でも、それが敵なら戦うだけ……だよ」
 トエルも駆け出す。戦う決意と共に、胸奥に秘められた地獄の炎が溢れ出し、武器へと集まりつつあった。
「どんなヤツでも俺の拳でブち抜くだけだ!」
 孜々緒が仲間の動きに合わせて飛び出し、拳を握り締める。僅かに遅れて絶奈のテレビウムが、凶器を片手に走っていた。
 突撃してくるケルベロスたちに、ドラゴンが気づいてその頭を向けた。
 ――だが、次の瞬間!

 絶闘裂帛がドラゴンを威圧し、ブラックスライムが突き刺さる。続いてケルベロスチェインが片脚に絡みついて、制圧射撃が着弾する。
 腕には光輪が命中したかと思えば、ドラゴンの幻影が炎をぶち撒けてきた。
「……流石、本調子ではないとはいえ仮にも最強を嘯く程の種族……」
 絶奈は意識せず、そう呟いていた。
 ケルベロスたちの一斉射撃を受けたドラゴンだったが、大きくは揺らがず、僅かに意識をこちらに向けた程度だったのだ。
「ルナ・リトルバーン、推して参る!」
 しかしその隙に、ルナが間合いへと踏み込んだ。渾身の力を込めて斬霊刀を振り下ろし、ドラゴンに斬りつける。
「先手必勝だ!」
 孜々緒が炎の拳を叩きつける。続いてテレビウムが殴りかかるが、ちょうどそのタイミングで、ドラゴンが足元に視線を向けた。
 ぶおん、と風音が唸りを上げる。前衛陣が反応するよりも早く、その巨大さに似合わぬ速度でドラゴンの尾が振り抜かれた!
「引き受ける……ね」
 トエルがドラゴンの正面から、ブレイズクラッシュを叩き込む。その傍らにはダメージを受けたテレビウムが転がっていた。トエルを庇って尾撃の直撃を受けたのだ。
「陣形を支えてやらー」
 九とリーファリナが急いで接近組へと向かっていたが、射撃組の一斉攻撃に参加していた分、間に合わなかったようである。

「……まだです」
 絶奈が紙兵を解き放ち、前衛陣の回復にあたる。ユリアもオラトリオヴェールを発動させて、テレビウムらの治療にあたっていた。
「痺れて蕩けるほどの戦いをしようっ!」
 リーファリナが皆を守るように前へと突っ込み、ドラゴンに漆黒を纏った拳を突き出した。直撃したものの……硬い手ごたえがリーファリナを歯噛みさせる。
「グォォッ!」
 一瞬遅れて、灼熱の炎が前衛陣を包んで燃え盛る!
「うぉっ……早めに鎮火しねーと!」
 九は転がりながらもすぐに立ち上がり、縛霊手から紙兵を展開させてゆく。肩の炎を払い、精神を集中させつつ、九は奥歯を噛んで前へと戻った。
「やれやれ……厄介事はごめんなのだけどな」
 サポートに駆けつけていたミーナとオラトリオヴェールを発動させ、仲間の傷を癒していった。
「確実に叩かないと……ね」
 トエルの生命エネルギーをぐんぐん吸収し、攻性植物が蔓を伸ばす。それは巨大なドラゴンの片足を囲い、ぎりぎりと締め始めた。
「楽しいなぁ……戦闘はよぉ!」
 ルナは炎に焼かれながらも、その只中を突っ切ってドラゴンの脚部を駆け上がり、腹部まで迫っていた。そのまま鋭く突き出した刃が、強靭な皮膚を破って血を噴き出させる。
「あたしも補佐するよ!」
 ルシエンヌがうっとりした表情を浮かべながら、桃色の霧を放出してルナの傷を癒してゆく。戦いに高揚する戦士たちは、この緊張した雰囲気に酔い、闘志を高めているようであった。
「ブちかます!」
 孜々緒が正面から踏み込み、達人の一撃でドラゴンを狙う。だがドラゴンは片脚を蹴りあげて、硬い爪で孜々緒の身体ごと攻撃を弾き返してしまった。
 瓦礫の山に突っ込み、がしゃんと盛大な音が鳴る。しかし怯んでいる暇などないとばかりに孜々緒はそこから飛び出し、再び前線へと躍り出るのだった。
「まだまだ厳しいっすねー」
 アイカがヒールドローンを操り、味方前衛に展開してゆく。なんとか持ちこたえて欲しいと胸中だけで願いながら、アイカは激闘を続ける仲間たちの背を見つめ続けた。

「伊達や酔狂で、こんな物を持っているわけではない!」
 ルナが二刀の斬霊刀に力を集中させ、強烈な衝撃波を解き放つ! 一撃はドラゴンに命中したものの、構わずに振り抜かれた尾撃がルナの胴を砕く。
 べきべきと体の中から、何かが砕ける嫌な音が響く。
「ピンチなー……みんな、頼むぜ」
 九が全身を包むオーラを凝縮させ、ルナの傷を癒しにかかる。敵の一撃は重く、前衛陣の傷も深くなってきた。
 こちらの攻撃もドラゴンにダメージを与えてはいるが……未だに致命的なものには至っていないようだ。
「急所……狙っていきますよ!」
 アイカが一瞬でドラゴンの懐へと飛び込み、鋭い蹴りを叩き込む。同時にユリアも翼から鋭い光を放ち、ドラゴンを貫いた。
 その時、ほんの僅かであったが、ドラゴンが迷惑そうに身を捩る。
 リーファリナが豪快に、開いたスーツの下でワイシャツが乱れるのにも構わず駆け出していた。
 気づいた孜々緒が並走し、視線を交わす。そして同時に地を蹴って跳び上がる!
「刮目せよ! 奥義、破天・轟々誘凪!」
 孜々緒が吼えると同時に、リーファリナがその背を蹴って更に高く跳び上がった。
「貴様の魂、喰らわせてもらうぞ!」
 リーファリナの降魔真拳がドラゴンの腕を撃ち抜き、魂に食らいつく。その僅か下、脇腹に、孜々緒が回転しながらの飛び蹴りを捻じ込んだ!
「グォォォォッ!」
 苦呻の叫びを上げ、両腕を振り回すドラゴン。弾かれ地面に叩きつけられる二人だったが、一発ぶち込んでやったと笑みを浮かべていた。
「なんなのよ――もう、もういいわ――消えて頂戴! もう、もう、目の前から消えて消えて消えて無くなればいいんだッ!」
 ルシエンヌの絶叫と共に、魔力の奔流がドラゴンを捉える。その只中に、トエルが突っ込んだ。
「……戦うだけだよ。この炎が、燃え尽きるまで」
 ほんの少しだけ切った髪を媒介にして、白銀の茨を召喚する。
「鍵はここに。時の円環を砕いて、厄災よ……集え」
 みしみしと体を縛るように伸びる茨が、トエルの攻性植物と絡み合って刃を形作る。その歪な武器を携えて、トエルは地を蹴った。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝」
 絶奈が狂気を帯びた笑みを零しながら、詠唱を開始する。その眼前にトエルの背を見据えながら、幾重にも魔法陣を展開していった。
「かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
 あまりにも巨大な力を感じさせる存在が、絶奈によってその一部だけ姿を見せる。槍のようなそれが、いっそう深くなった絶奈の笑みと共に、ドラゴンの腹部へと刻み付けられた。
 裂かれた傷口に、白銀の茨が突き入れられる。そこから敵の全身を、内部を貫き蝕んで、茨はトエルの手に戻った。
「グォオオオオオッ!」
 断末魔の叫びと共に、遂にドラゴンの巨体が崩れ、地面へ倒れゆく。
「なんとか……やったな!」
 孜々緒は砂埃の中で相手の最後を確認し、仲間たちへ声を上げていた。
「良い戦いだったな!」
 リーファリナも笑みを浮かべながら手を上げて、ハイタッチなど交わしてゆく。
「はぁ……♪」
 ルシエンヌは満足した表情を浮かべつつ、その快楽の余韻に浸っていた。
「とりあえずはこんなもんか、もっと強い敵とやりあいたいぜ」
 ルナは斬霊刀をぶんと一振りしてから鞘に納める。

 アイカは戦闘で壊れた建物の修復を始めていた。電線や水道管を優先的にしつつ、可愛い女の子の家とかも忘れない。
「女の子に優しい逢川、逢川アイカをよろしく! にひひっ」
 アイカはそう言ってケルベロスカードを手渡し、笑顔を見せる。
「奈落の力、螺旋の定めに従い、満ちよ」
 九も復旧を使用して魔力の波動を放ち建物の修復をしていたが、どうもお祭りテイストに修復されたりされなかったりしていたようだ。
 こうしてケルベロスたちは街の平穏を見事に取り戻し、その場を後にするのだった。

作者:零風堂 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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