勝負せよ! セキトリンガーX

作者:baron

『お前の力を示せ。……この町より人間どもを追い出すのだ。皆殺しでも構わん』
『ごっつあんデース!』
 とあるダモクレスに指令が下された時……。
 そのダモクレスは前半分のみを聞いて出撃した。
 勝負が大好きで戦う事が大好きなそいつは、許可が出たことで居ても経っても居られなくなったのだ。
『勝負勝負!!』
『……直情で操り難いが、こう言う時は使い易い……』
 大阪城より命令を下した者は、その様子を見て満足そうに見送ったと言う。


「大阪城には幾つかの勢力が集結して居ます。その一つが領域を広げようと人々を襲撃させます」
 セリカ・リュミエールが地図とメモを手に説明を始めた。
「軍勢では無く、単体のデウスエクスによる襲撃ですが、この襲撃で被害が出た場合、大阪市街の住民たちに不安が広がってしまうのは避けられません」
 そうなれば、実際の被害以上に大阪城周辺地域の住民の多くが避難してしまうだろう。
 無人となった地域がデウスエクスに制圧されていく事になってしまうのは間違いが無い。
「これが今回現われた敵なのですが……」
「こっこれは! 敵も中々判って居るッすね!」
 敵の姿を描いたメモを見て、本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)が瞳と心をを燃やした。
 そいつは相撲取りの姿をしており、どこか子供が描いたようなデフォルメされている。
 頭身が低い筈なのにむしろ力強さを感じるのは、そいつの姿が相撲取りのようだからだ。
「是非とも相撲で勝負してみたいっす!」
「敵の作戦を阻止する為には、この襲撃を被害を出さずに防ぎきる必要があるでしょう。よろしくお願いしますね」
 えみかは手を上げるよりも先に四股を踏み始め、セリカ達は微笑ましい表情を浮かべたが、話の続きを始めた。
「この敵は見ての通り関取風のダモクレスで、基本的には格闘を得意とします。射撃戦も可能でしょうが、あえて後方から挑発攻撃をしなければ、使わないものと思われます」
「相撲取りならば当然すよ! 強い力士は変化を嫌うッす」
「真面目な話、近接火力が高いなら射撃する意味は無いしな」
 セリカの言葉に、えみか達は頷いて続きを待つ。
「また、この敵は強者を正面から打ち破る事を好む様です。広い場所で勝負を挑めば住民よりもこちらを優先するでしょう」
「それなら土俵を描くッすよ。何か簡単なの無いっすかね」
「まあその辺はチョークでもテープでも適当に用意できますわ。しかし竜牙兵みたいですわね」
 戦闘重視のダモクレスで、細かい任務よりもヘビーな戦闘を好むらしい。
 その辺も合わせて、実に外見イメージ通りと言えよう。
「いずれ、攻性植物との決戦も避けられませんが、今は、防衛に徹して、これ以上敵の勢力が拡大するのを防ぐことが重要でしょう」
「大阪市民を護り、そのまま住めるようにしてあげないとね」
「残った残った~っす!」
 そういってセリカが出発の準備を始めると、ケルベロス達は相談を始めたのである。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)
皇・露(記憶喪失・e62807)

■リプレイ


 そのダモクレスはとある神社を見付けると、真っ直ぐに神社を目指した。
『ドスコイ!』
 真っ直ぐ、文字通りに真っ直ぐ。
 もし誰も止めなければ、周囲の損害は大変だったろう。
 だがしかし!!
『敵来い!! 敵乞いカムッヒーア!』
 雄たけびをあげるダモクレスにケルベロス達が立ち塞がった。
「来たッすよー!」
 呼べば来たぞ、現われるぞ。
 待たせたな!!
『ごっつあんデース!!』
 両者は獰猛な笑みを浮かべ、獣の様に睨み合った。
 良識と遠慮は置いて来た。
 これからの戦いに付いて……いや、突いて来れそうにないからな!

 道路の中央にチョークで白い円が描かれており、ケルベロスの前衛が待ち構えている。
『土俵ドッヒョウ努兵!! インストール!』
「ダモクレスも転げる、大阪場所の開幕っす!」
 恐ろしいことに言葉はいらない。
 本田・えみか(スーパー電車道娘・e35557)は言葉では無く、肉体で語るべき時だと理解した。
 なんと、今回の相手の流儀も相撲でっす!
「相撲の力士型のダモクレス……強そうですわ!」
 皇・露(記憶喪失・e62807)はくっすっと笑って隣を見た。
 景気良さそうなので、分けてくださいませ……と。
「……前はオークの力士と戦ってひどい目に遭いましたけど今回は本気の相撲ができそうですの! 戦うならば是非、心行くまで戦いたいものですわ」
「愚門っす。土俵には全てが埋まってると言うッす。勝負は勝ち獲るモノ、活躍は奪うモノでっす!」
 露の言葉に、えみかはニカっと笑って答えた。
 引かば押せ、押さば押せ!
 いつも以上に気合も入っている彼女に、遠慮という言葉はない。
「同じ土俵に立った以上、えみかの相撲に付き合ってもらうっすよー!」
 えみかは言葉は要らないと知りつつも、いつものように指をつきつける。
「行くぜ。色々あるが、此処で止めなくちゃなんねーからな」
「そうですわね。……セキトリンガーZ!是非とも勝負ですの!!」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が一声かけてグラビティを高め始めると、露は頷いてマントを広げる。
 土俵入りが相撲レスラーの作法ならば、スーパーヒロインの作法は三段カットのカメラ目線である!


 炸裂する気合いと気合い。
「おーっりゃあ!!」
『残った、ノコッター!』
 八卦良し! と放つ掌より闘気が奔る。
 泰地の突き出しより放たれる闘気を浴びながら、セキトリンガーは進み出た。
「こっちものこったですわ!」
(「なんだか場違いな様な、これで良い様な……」)
 露が四股を踏むような動作で挑発し、ソレを受け止める。
 その様子を後方から眺め、ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は無言で自問自答した。
 メディックであるはずの泰地まで半裸の格闘家スタイルなので、一人だけ浮いて居る気がしたのだ。
(「一々付き合う気はないけれど、邪魔するほどではない……かな」)
 そしてルーチンに従い、即座に判断。
 彼女は遠距離戦を得意としているし、仲間が前衛で食い止めるならば願ったり叶ったりだ。
 その仲間を誤射しない様に撃てるわけだし、あえて口出しする義理もないだろう。
(「まずはその動きを止める」)
 冷徹なティーシャはクールなままに、暑い連中と付き合うのを止めた。
 とはいえそれは何もしないと言う事ではない。
 援護のために衝撃波を放ち、ダモクレスの動きを阻害する。
「ふんぬー!」
『けたぐり、グリグラグロロ!!』
 えみかは改めて四股を踏み、小さくそれで居て強烈にセキトリンガーの足を捉える。
 だが奴はそれに対して軽く膝を入れ、火力を半減させてしまった。
「巨体なのになんたるテクニック。やりますわね」
 セキトリンガーの関取とは、一定以上の力士を現す総評である。
 ソレをイメージしたダモクレスだ、弱い訳が無い!
「あれは……こう、でしたわね。はああああ!!」
 露は両掌から発生させた闘気を、打ち合わせることで全身に滾らせた。
 体を覆うエネルギーと心の昂りを練り合わせ、ダモクレスに組み付いて投げ飛ばしに行く。

 多少違えども、これぞ相撲スタイル!
 古代の相撲では、血飛沫があがり国すら奪う!!
 汚れてはいけない? そんなことはない。神様自ら、相手の腕を引き千切ってるもんな。
『テンテンテン……テケケケ♪』
「機嫌良さそうじゃねえか。手出し無用とか言うなよ」
 セルフBGMで相撲をやってる敵を見ながら、泰地は思わず苦笑した。
「ばっちこいっす! なんか意味違う気がするけど、問題無いと轟き叫んでいるッす!」
「ぜんぜん意味違げーよ。まあ、この場に限ってそんなに変わらねえか。とりあえず、治療するぞ」
 炎のように燃えてゴキゲン。
 えみかの様子に泰地は笑って闘気を送り込んだ。
 だが、これは先ほどの様な攻撃ではない。
 彼女を癒し、組み付かれた態勢をなんとかする為の力である。
「ふんぬー! ただのえみかでは居られなくなくなったっす!」
 バン! と気合い十分、ダモクレスのボディに組み付かれていたが、弾き飛ばして脱出に成功。
 まあ相撲なのだから再び組み合う気もするが、自分の間合いで手を獲れるのは良いことだろう。
 こうして戦いは最初からクライマックスに突入した。


 嵐だ。
 コンクリートの土俵に、力士という名の嵐が現われた。
『ワッセイ、ワッセイワッセイ。打ダだ!』
「なんという……。なんと猛烈、なんと激しい攻撃。これは一重に、愛ですわね!」
 それは相撲への愛であった。
 ガードしたはずの露が弾け飛び、全身の筋肉が躍動する。
 張り手に継ぎぐ張り手が、次々に見舞われる。
「相手はダモクレスの死角、強くて当たり前とは言いますが……ふふふ。まさかこれほどとは」
 そのツッパリを喰らえば、露の大胸筋が震えて行く。
 腕で受け止めているのに、全身が揺さぶられるのだ。
 オッパイも揺れている? 何を言ってるんだ、こんな暑苦しい御色気シーンがあってたまるかというほどに強烈だった。
「なんという腰の入り様。えみかも見習いたいっす」
「そんな事言ってる場合? 直接受けて無いのに、足元なんかもうグズグズなんだけど」
 連続で繰り出される突っ張りは、腕その物が、えみかやティーシャの胴体よりも太い。
 それほどまでの攻撃を受けて人間の形状を保てているのは、単純に露がケルベロスだからに過ぎない。
 足元のアスファルトは、直接攻撃されていないのに、余波だけで砕け散って居た。
「問題ありませんわ。この露を沈めたくば……三倍もっていらっしゃいな!」
 露は血へどを吐きながらも態勢を立て直すと、笑って突っ張りを返した。
 敵の攻撃は強烈だが、それでも彼女の守りを完全には突破できなかったのだ。

 余力十分、これならば反撃に出るべきだろう!
「お願いできまして?」
「任せときな。攻撃に専念させてやるよ」
 露の質問へ泰地は正確に応えた。
 敵が次の攻撃を繰り出す前に、何とかするくらいのことはできる。
 いや、して見せる!
「……このまま攻撃を続行する」
 ティーシャはその様子を眺め、心配は不要だと判断した。
 容易く前衛が崩れては戦線が維持できないが、あの様子では大丈夫だろう。
 ならばと精密照準用のライフルを切り替え、先ほど放った重力弾を外し、今度は凍結弾を射出する!
「負けてられないっすよー! はっけよーい……のこったー!」
 えみかは一度両手を地面に付け、仕切りの態勢に戻す事で精神をリセット。
 燃え上がる心に火を点つつも、全身に循環するエネルギーを集約させた。
『寄り切り斬り! 残った! ノーコッタ、リーコッター!』
「のこったのこったー!」
 えみかが低い姿勢で突撃すると、セキトリンガーがそれに応える。
 体当たり気味に弾丸の様な勢いで組み付くと、それに応じてガップリ四つ。
 グルグル回って勢いをいなしつつ、互いに相手を土俵の外に押し出そうとした。
「混ぜていただきますわよ。先ほどのお返しですわ!」
『ごちゃんデース!』
 露は二者の態勢が崩れたところで横合いから割って入り、強烈な張り手を決めた。
 怒りと言うよりは、強敵を得た歓びを叩きつけて行く。
 セキトリンガーもそれを受け、避けること無く、身じろぎすらしなかったのだ。
「元気なのは良いことだが、ちったあ注意しとけよ」
「もちろん、注意しますわ!」
 泰地が回復の為に闘気を注ぐながら声を掛けると、露は別の意味で理解した。
 怪我に注意するのではなく、愉しく闘う為に、意識を注ぐと書いて注意である。
 こうして戦いは激動のままに中盤戦へと進んだ。


 中盤戦へと進んだとか言ったな?
 アレは嘘だ。
 戦いは最初から最後までフル・スロットルである!!
「ふんすー! ここまで来たら、意地の勝負っす!」
『ガハハ! がっちんこ勝負尚武!』
 えみかの強烈な張り手がセキトリンガーの顔面を砕く。
 既に頭部装甲でまともな形状をして居るのはチョンマゲくらいのものである。
「押し切りますわよ!」
「ろうかい。じゃなくて、了解っす!」
 露が炎すらまとう足払いを掛けると、えみか血を拭きながらは少しだけ離れて再び突進した。
 セキトリンガーも再び突撃して来たからだ。
「どんだけ闘ってんだか」
「十分を越えてる」
 泰地の質問にティーシャが冷静に答える。
 お互いに決め手を欠くこともあり、既に超巨大ダモクレスとの戦闘時間を越えて居た。
「道理で俺もウズウズして来た所だ。多少なら我慢出来るつもりだったんだけどな」
 そう言って泰地は、累積して居るダメージが比較的に軽い事もあり攻撃に出た。
 稲妻の様な踏み込みで、ぶちかましをかける!

 その一撃でかろうじて残って居た頭の装甲が剥げ、マゲもポロっと落下した。
 だが口元は楽しげに空いたまま、リズムを奏でて両手を広げる。
『テレレレレ。テンテン♪ イヨー!』
「今度は私が止めますわ。露の本気を舐めないでくださいまし!」
 セキトリンガーは露を鯖折りに掛けるが、そこにイヤらしさはない。
 やはりオークとは違うのだろう。
 メキメキと肋骨が痛むが、不思議と笑いがこみ上げる!
「この状態だと、狙うのは足元か」
 ティーシャは狙い難い事もあり、スライディング気味に敵の足を狩る。
 摩擦で炎が上がると、たまらずに両手を離し、その間に露は脱出した。
「お礼を言っておきますわ」
「攻撃のついでだから不要」
 露は着地と同時に口を開くが、返って来たのはライフルを構え為す音だった。
 ダモクレスは満身創痍、後少しであれば、気を抜くくべきではないだろう。
「地球を愛する気はないっすか? そこまで相撲ができれば問題無いっす」
「負けたらハラキリ切りサッパーリ!」
 じゃあ仕方無いっすね!
 えみかは一応の降伏勧告だけすると、最後までセキトリンガーに付き合う事にした。
 敗北して残骸になるならば、最後まで力士で居させて上げるべきだ。
 それが彼女の手……いや、相撲を愛する者の攻撃であるならば最高だろう。
「いくっすよ! 土俵の果てまで!」
『技はウッチャリ! 喧嘩はカッタリ!』
 一歩、二歩。
 そこで踏み留まり、三歩目は下がることはなかった。
 だがとうとう下半身にも傷が入り、胴体に大きなへこみができる。
「せめて苦しまない様にしてあげるべきですわね。トドメは、えみかさんにお任せします」
 露はそう言って再び回しを掴んで投げ飛ばした。
 最初は揺るぎもしなかったものだが、今では膝を着かないだけで精一杯である。
「だ、そうだぜ」
「どちらかといえば火力の問題。無理に譲る気はないから」
 泰地は傷付いた仲間に気力を移して回復したが、ティーシャとしてはトドメが誰に成っても良いのだ。
 今から最大の攻撃を放たないのは、単純に命中精度の問題である。
 逆に言えば命中力の問題で致命傷を与えたら、それはそれで仕方がない。
「こういうのは運かな。クラッシャーだしね」
 そもそもクラッシャーだから、火力の問題で二倍の可能性がある。
 ティーシャの放った冷却弾で倒せなかったのは、単にその程度の理由だとクールに微笑んだ。
「土俵を割れなかったことだけが、心残りっす」
『決まり手は……突き倒し。突き倒しで決着でごんす』
 えみかにとって不運だったのは、ローテーションの問題でフィニッシュ・ホールドで押し切れなかったことだろう。
 だが立派に自分の手で倒し、相撲道で決着を付けたのである。

「これで終わり」
 ティーシャは相手が動かなくなったことを確認して、ライフルを降ろした。
「戦い終わった後でなんですが、どこか見覚えがあるような相手でっしたねぇ」
「まあ良くある絵だったしな。アンドロイド型が小学校とかを占拠した時期もあったし、工場にでもしたんだろうぜ」
 えみかは満面の笑みで手刀を構え、十字の四点をチョンチョンとやる。
 その後で首を傾げたのだが、泰地は適当にあり得そうな事を答ておいた。
「そんな事もあったのですね。相撲……熱くなりましたの! 次はヒーローなりスーパーヒロイン対決はないものでしょうか?」
「流石にそれは無いんじゃない」
 私服に着替えた露の言葉に、ティーシャは最後までクールに返した。
「それもそうですね。残念ではありますが、ヒールをして帰りましょうか」
「町を元に戻すまでが依頼っすね!」
 露の言葉にえみかも頷き、ヒールは持って来てないので残骸の整理を始めた。
「そんじゃ一気に片付けんぞ。変異した場所があったら再調整な」
 そういって泰地は塩でもまくかのように腕を振り、風を吹かせて修復を始める。
「これにて一件落着~っす」

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月9日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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