七夕防衛戦~求めし希望とその影に

作者:幾夜緋琉

●七夕防衛戦~求めし希望とその影に
「……了解」
 短く、言葉を呟く少女。
 何処か可愛い服装に身を包んだ彼女は、目線を虚空に向ける。
 ……その虚空の先は、東京都港区の上空。
 そこにはドリームイーターの『萬話六塔』がゲートを閉ざした『ジュエルジグラット』。
「ったく……今頃になって何言ってやがる。ふざけやがって」
 そして、彼女の隣で舌打ち、苛立ちを露わにする黒いフードの男。
 そんな彼の言葉に彼女……『リペアディスペア』は。
「……キャス。今はその様な事を言っても、仕方ない……ほら」
 と、彼を促すと、彼……いや、『キャス・パルク』は。
「ったく……仕方ねぇなぁ……分かったよ、やってやるよ」
 と、大きく肩を竦めつつ、リペアディスペアと共に、ジュエルジグラットに向けて動き始めた。

「皆さん、早速ですが、説明を始めます」
 と、セリカ・リュミエールは、皆を見渡しながら。
「七夕の魔力を利用してドリームイーターが、動くのではないかと警戒していた、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)さんから、日本各地に潜伏していたドリームイーターが、ダンジョン『ジュエルジグラットの手』に向けて次々と移動を開始している事を突き止めてくれました」
「どうやら、多くのケルベロスがダンジョンを制覇した事、分たれた2つの場所を繋げる七夕の魔力によって、寓話六塔の鍵で閉ざされたドリームイーターのゲートが開かれようとしているようです」
「ドリームイーター達は、ゲートの封鎖を維持し、ケルベロスを寄せ付けないようにと、戦力を集めているのでしょう……皆さんには、この集結する強敵たちを迎撃して撃破をお願いしたいのです」
「彼ら集結するドリームイーターを撃破する事が出来れば……7月7日に開かれるゲートへの逆侵攻すら可能かもしれませんから」
 そして、セリカは更に相手となる者について。
「皆さんに対峙してきて戴きたいのは、二人のドリームイーターです」
「二人は『ホープ・オブリビオン』とも呼ばれるオブリビオン達の様で、一人は率いる存在『リペアディスペア』、もう一人は率いられし存在『キャス・パルク』です」
「リペアディスペアは『希望』をモザイクと化した『希望』を求めるドリームイーター。その容姿は可愛い少女の様ですが、『希望』を求め『希望』を喰らう為の行動に、悪の迷いはありません。その手の鍵から、強烈な魔法を使い、攻撃してきます」
「その一方で、キャス・パルクは『災厄』の化身たるドリームイーター。彼は、人々の『幸運』を喰らい、生きてきたドリームイーターです。彼のモザイクは、幸運を喰らう度に大きくなってきている様で……既にかなりの大きさになっています。彼もどうやら魔道師型の攻撃手法の様ですが、かなり素早い身のこなしの様で、回避力が高い様です。彼が攻撃を惹きつけつつ、リペアディスペアが後方から強烈な魔法攻撃を行う……と言った戦法を取ってくるかと思われますので、皆さんもその連携に惑わされない様、注意して下さい」
 そして、セリカは最後に。
「皆さんのおかげで、ドリームイーターのゲートは破壊寸前にまで近づきました。うまくすれば、ゲートの封鎖を解くだけでなく、萬話六塔を討ち取るチャンスにもなるかもしれません。皆様の力を発揮し、確実に作戦を成功させて頂きたく……宜しく御願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)
シェーロ・ヴェントルーチェ(青空を駈ける疾風・e18122)
コル・ヴァニタス(煌剣の焔凰騎・e24574)
琥玖蘭・祀璃(サキュバスのブラックウィザード・e44204)

■リプレイ

●頭上に聳えし
 東京都港区の上空に聳えし、ドリームイーターの籠もりしジュエルジグラット。
 そこに向けて、多数のドリームイーター達が身を潜め、『七夕』という日に合せて行動を取る、という話を聞いたケルベロス達。
 各々の撃破目標の彼らの下に向けて急ぐ道……琥玖蘭・祀璃(サキュバスのブラックウィザード・e44204)が。
「うーん……ドリームイーターもとんでもないことをするわねぇ……」
 と、肩を竦める。
 それにシェーロ・ヴェントルーチェ(青空を駈ける疾風・e18122)も。
「そうだね……昔、七夕にドリームイーターと戦った時は、ジュエルジグラットの正体が何なのか考えたりしたけど、まさかこうなるとはなぁ……」
「そうねぇ……まぁ、七夕と言えば、織姫くんと彦星ちゃんが天の川で年に一度しか出会えない大切な機会。だからこそ、ドリームイーターの力も強まるのかもしれないわねぇ……? まぁ、なんとか防げるように頑張りましょぉ?」
 くすり、と悪戯っぽく笑う祀璃、それにウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)とコル・ヴァニタス(煌剣の焔凰騎・e24574)も。
「ドリームイーターとの戦いに大きな楔を打ち込む事が出来るかもしれないこの戦い……これは、負ける訳にはいきませんね」
「そうだね……ドリームイーターの計画は、厄介だね。だから、きちんと阻止するようにしないと……」
「ええ……兎に角彼女達がジュエルジグラットに飛んでいく前に止めなければなりません。セリカさんが言うには、彼ら……『ホープ・オブリビオン』の二人は、街の影に身を潜めながら進軍し、ジュエルジグラットの下で、一気に飛び上がるとの事です。ですから、飛び上がる前に待ち伏せして、襲撃しなければなりません」
「そうだね……しかし、ホープ・オブリビオンか……いったい、どんな縁があるんだろう……」
 ウォーグに対しシェールが小首を傾げる。
 ……何だか、その言葉に彼の手の喰霊刀が、僅かに震えた様な気がするが……その理由は分からない。
 ただ……何か他人事とは思えない今回の事件。
「まぁ……上手くいけば、ドリームイーターのゲートも攻略できる様になる訳だし、出来る限りの部分でやらないとね……」
「……うん」
 コルにこくりと頷くウォーグ。
 ……そして、ケルベロス達は待ち伏せる、ジュエルジグラットの下に辿り着くのであった。

●夢と希望を欺き
『おい……この辺りでいいんじゃねえか?』
 そして、雑踏の闇に紛れながら、苛立ち気味に吐き捨てるキャス・パルク。
『……まだ。もうちょっと進む……万が一にも、失敗出来ない……』
 それを諫めながら、先を促す『リペアディスペア』。
 喧嘩している様でもあり、息がぴったりの様でもある……そんな二人の行軍は、誰にも見つかる訳には行かず、息を潜めながら裏路地を進む。
『……こっち。もう、すぐ……』
 そして、ビルを左に曲がった……その瞬間。
「……見つけた!」
 ビルの上から、蜘蛛の子をも逃さぬが如く見張っていたウォーグが声を上げる。
 その声に周りの仲間達も反応し、一斉に路地へと降下、『ホープ・オブリビオン』の二人を挟撃する様に降り立つ。
『ちっ……やっぱりケルベロス達が待ち伏せてやがったか。ほらみろ、言ったじゃねえか!』
『ん……想定済み。さっさと、蹴散らす』
 キャスの言葉に、そこまで感情を込めずに返すリペアディスペア。
「キミ達の狙いは……アレだよね? でも残念、ここから先は通さないよ」
 頭上のジュエルジグラットを指さしながら、コルが宣告。そしてシェーロも。
「そうだね……キャス、そしてリペアディスペア。お前達を、ここで倒す」
 二つの喰霊刀を構え、刀越しに真っ直ぐに見据えるシェーロ……それを見たホープ・オブリビオンの二人は。
『……リペア。あれは……』
『……うん』
 短い言葉と共に、明らかに纏う気が一際強くなる。
 そして、キャスは。
『てめぇら、邪魔しようってんなら、容赦しねえよ!!』
 と、フードを風に靡かせながら、シェーロの方へ急接近。
 かなりの素早さで、懐に潜り込んだキャスは、闇の魔法を詠唱し、周囲へと炸裂する魔法弾を放つ。
「っ……」
 手で覆い、ダメージを軽減化するが、連携してリペアディスペアは、シェーロに狙いを定めたもう一つの魔法弾を重ねて放つ。
 その一撃はかなりの効力を発揮し、数歩後ろへと押し戻される。
「大丈夫ぅ? ほら、頑張りなさいねぇ」
 シェーロの喰らったダメージを、メタリックバーストで応急的に処置する祀璃。
「ありがとう……確かに強敵だぜ」
 と唇を噛みしめるシェーロ。
 その間にキャスは離れ、リペアディスペアを護る位置へつく。
「確かにすばしっこい相手……でも、負ける訳には行きません!」
 と、ウォーグは声高らかに宣言すると、それに呼応する様にメルゥガも咆える。
 そして、次の刻。
 リペアディスペアは、再度キャスの後ろへ身を潜め、キャスは。
「まあ、何でもいい。兎も角お前達を倒して、あそこへいかなきゃならねえんでな!」
 と、その魔術師然とした風体からは創造出来ない位、素早い身のこなしでのヒットアンドアウェイの猛攻。
 その動きに決して翻弄されぬ様、敵の動きをしっかりと見極めるはコル。
「今度は左舷の方!」
 と、敵が仕掛けてくる方向を仲間達に指示し、その方向からの攻撃と、二陣であるリペアディスペアの魔弾攻撃の警戒を促す。
 とは言えその攻撃を完全に回避するのは難しく、ダメージを受ける、
 でも、そんな仲間達の傷を祀璃が。
「大丈夫かしらぁ? 回復は私に任せて、皆は少しずつでいいから、しっかりと削っていってねぇ?」
 とブレイブマインや、メタリックバーストで傷痕を回復、
「ありがとうございます!」
 と、シェーロが感謝を口に為つつ、次なる一手は絶空斬。
 そしてウォーグとメルゥガ二人は、完全に息の合った連携で気咬弾と、ボクスブレスを連続攻撃。
 最後にコルが、キャスに接近してのヴァルキュリアブラストの一閃を叩き込み、痛手を負わせていく。
『っ……』
 唇を噛みしめたキャス……それにリペアディスペアは。
『……頑張って』
 と、一歩後ろから声を掛ける。
 そして、更に数刻が経過。
 ヒットアンドアウェイで攻撃し続けていたキャスは、かなり瀕死の状態。
「……そろそろ、トドメを刺す頃合いだな」
 と短くシェーロが呟きそれに祀璃が。
「そうねぇ……ほら、気合い入れて来なさぁい!」
 とブレイブマインで壊アップ効果をシェーロに付与。
 そして、シェーロが。
「響け! 俺達の心!」
 と『鳴響詩彗~STARDUSTSYMFONIA~』の一閃を、迎撃気味に叩き込み……キャスを討ち倒す。
『……』
 仲間が倒され、己が対峙しなければならなくなった状況。
 リペアディスペアは数歩後退し、周囲を見渡す……。
「逃がさないよ! Galdstyle―Dragonic Fatal Arts―The Final Strike!BlazeVortex!」
 その不意を突いて、ウォーグが『焔嵐竜闘旋』にて、怒濤の攻撃。
 防戦の態勢を取ったリペアディスペアは、どうにか耐えるものの……更にコルが。
「……舞え、煉獄の使者よ」
 と『翠炎凰破撃』を放ち、彼女を地獄の炎へと包み込む。
『……っ……!!』
 その炎にも、唇を噛みしめて耐える。
 そして、その炎が収まりつつある中、彼女は真っ直ぐにケルベロス達を見据え、更なる魔法弾で反撃。
 至近距離から繰り出された一撃がコルに命中。
 でも、一歩も退かず、その場に立ち続けるコル。
 そしてメルゥガが、彼へすぐに属性インストールで体力を回復。
 その一方でシェーロは二刀斬霊波、そして祀璃が。
「Summon-Call! Necro-Blaze-Kerberos!」
 『死魂煉獄魔狼皇帝』を放ち、三つ首の魔狼がリペアディスペアの足に食らい付く。
『痛……!!』
 今迄に無い、明かな感情を口にする。
 そんな彼女に対し、シェーロは。
「……何か、良く分からないが……君達を倒さないといけないんだ。だから……この力で、君を貫く」
 と、少し悲しげに呟きつつ、喰霊刀二つを上方に掲げる。
 それに呼応する様に、喰霊刀は僅かに震える……まるで、目前のターゲットを一刻も早く喰らいたい、と言わんばかりに。
 次の刻も、ケルベロス達の牙はリペアディスペアを傷付け、追い詰めていく。
 強力なドリームイーターではあるものの……後衛を軸に動く彼女は、瞬く間に追い詰められていく。
 そして……。
「ほら、そろそろ見たいよぉ?」
 と祀璃が仲間達の攻撃を促し……それを受けシェーロが接近。
 震える喰霊刀に全力を籠めて……リペアディスペアを一刀両断に穿ち断つ。
『……ァアアアア……!!』
 そして、その一閃に高く叫び声を上げ……彼女の姿は、靄の如く消え失せていった。

●影を失い
「……ふぅ……」
 トドメを刺し……息を整えるシェーロ。
 キャス、そしてリペアディスペアを喰らった喰霊刀が、低い音で唸りを上げる。
「……本当、何なんだ……」
 と、その喰霊刀を見つめるが……勿論、言葉はない。
 ……ともあれ、ジュエルジグラットへ、二人のドリームイーターの合流を阻止出来たのは確かな訳で。
「……取りあえずは、作戦成功……って所かしらねぇ……?」
 祀璃の呟きに、ウォーグが頷き。
「そうだね。とは言え……まだ油断は出来ないけど……」
 頭上を見上げると、そこにはまだ、ジュエルジグラットの偉容。
 ……他の仲間達も、近くで別のドリームイーター達の進撃を食い止めている筈……そして、もうすぐ……。
「……そろそろだね……さぁ、どうなるかな……?」
 コルが空を見上げ……そしてシェーロも、刀を下ろし、空を見上げる。
 静かに……七夕の刻限に向けて、チクタク、と秒針は進んでいくのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:4人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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