ひつじがいっぴき。
潮風の中を吹き抜けた。羽根を休めていた海鳥が逃げるように飛び立ち、そしてそのままの格好で地面へ墜ちる。
その羽毛は凍りついたように冷たく、濡れたコンクリートに硬い音を立てた。
海鳥の身体から、白い湯気のように抜け落ちた『熱』が、羊の身体を覆う白い毛皮……いや、白い靄に吸い込まれていく。
ああそれなのに。
立派な角は震え、大きな瞳は潤む。
――寒い、寒いよ、とっても寒いんだ。
羊は見上げた、目指す場所を。東京の空に浮かぶ巨大な『手』を。
きっと、その行く手を遮る者どもが居るだろうと、あのひとは言った。
それなら、ぜんぶこの胸に吸い込んでしまおうと、ぼくは答えた。
ケルベロスたちの身体は、血は、心は、どんな温もりがするだろう?
アイガイオス、夢喰い羊はナミダを零す。
――そのあたたかいもの、ちょうだい。
●七夕防衛戦
「もうすぐ、七夕の季節ですね」
集まったケルベロス達へと丁寧に一礼をして、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう口を開いた。
「いえ、世間話を始めるわけではないのです。七夕を狙ってドリームイーターが動くことを警戒していた、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)さんからご報告がありました」
日本の各地に潜伏していたドリームイーター達が、東京都港区の上空に浮かぶダンジョン『ジュエルジグラットの手』に向けて移動を開始しようとしている、という。
数多くのケルベロス達が『ジュエルジグラットの手』を制覇したこと。そして、七夕の魔力……分かたれた二つの場所を繋げるその力によって、寓話六塔の鍵で閉ざされたドリームイーターのゲートが開かれようとしていることを感じ取ったようだ、とセリカは告げる。
「ドリームイーター達にとっては、再びゲートを開かれるわけにはいきませんから、皆さん……ケルベロスの方々を退けるため、地球に残っている強力なドリームイーターが数多く集まってくることが予想されます」
そこで、この強敵達が集結する前に、その途上で迎撃して各個撃破を狙うのが、今回の作戦となる。
「皆さんにお願いしたい相手は、アイガイオスと名乗る、羊のような姿をしたドリームイーターです」
アイガイオスの抱えた欠損は『温もり』。羊が持つはずの暖かな毛皮ではなく白い靄に身体が覆われ、その内に宿すはずの体温は赤いモザイクと化して喪われている。
その身に欠けた『温もり』を求めて、周囲の生物から体温を奪い続ける。それは強力な冷気の攻撃としてケルベロス達にも襲いかかるだろう。
だが、アイガイオスにとって、人はそれだけではない、特別な獲物だ。
人が胸の奥に抱えたあたたかなもの――温かな記憶、誰かを大切に思う心、何かを追い求める情熱――を引き出して幻影を生み出し、それを喰うことで人の心までも侵す。
その標的となった者は、戦うための心の支えまでも奪われたように感じさせられ、人によっては戦わずして膝をつくことにもなりかねない。
それが、一見か弱く、滑稽にも見えるアイガイオスの持つ、真の恐ろしさ。
「けれど、その大切なものを守り抜く、意志を保つことができれば……皆さんなら、きっと打ち勝つことができると、信じています」
セリカはケルベロス達、一人一人の瞳を見据えて、深く頷いた。
「まずはアイガイオスの撃破、よろしくお願いします」
そして、7月7日……七夕にゲートが開かれれば、それを再び封印するため、寓話六塔が姿を見せるかもしれない。
「根気強くダンジョンの探索を続けて下さった皆さんの力で生まれた好機です。これから、激しい戦いが続くことになるかもしれませんが……皆さん、どうかご無事で、帰ってきてくださいね」
参加者 | |
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伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099) |
春日・いぶき(藤咲・e00678) |
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701) |
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859) |
君影・リリィ(すずらんの君・e00891) |
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026) |
癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458) |
イジュ・オドラータ(白星花・e15644) |
●
季節は盛夏を迎えようというのに、薄ら寒い冷気が澱んでいるようだった。
「羊さん、ここは通行止めですよ」
人払いも済み、波音だけが繰り返す港の一隅。春日・いぶき(藤咲・e00678)は緩やかな口振りと裏腹に油断なく視線を凝らす。
夢喰いの羊……アイガイオスは虚ろな緑瞳をケルベロス達に向けた。
その身に帯びた白色に羊毛のあたたかさはなく、寒々とし空虚だけが靄となって漂う。
――ぼくはとっても寒いんだ。きみたちの身体は、血は、心は、どんな風にぼくをあたためてくれる?
すがるような声色とともに身震いをすれば、アイガイオスを包む白い靄が、空気の中に溶け出していくかのように広がりはじめた。
「……寒いのはつらいね。全部じゃないけど、わたしにも分かるよ」
イジュ・オドラータ(白星花・e15644)は目の前の敵を知らない。なのに、何か奇縁めいたものを感じる。彼の気持ちの幾片かが、この胸の中で共鳴している気がする。
……でも、だからこそ。
「けど、ひとのあたたかさを奪ってはダメ。それは……」
「あったか、さ。……ほかほか?」
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)は慣れた手つきで二挺の得物を起動しながらも、少し困ったような表情をする。
「ええ。私達の温もり……奪えるならやってみよ?」
音もなく魔導書を開き、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)が小さく首を傾げると、長い銀髪が揺れた。
風もなく、海は凪ぎ、なのにアイガイオスから流れ出した白い靄は意思を持つように、はっきりとケルベロス達を狙って動き出す。
向かって来る靄はところどころで凝り固まり、丸く形作られた白い靄の中から、黒い角と短い脚が生えた。
「眷属を喚び出したのね。一、二……四体も」
鈴蘭の香が涼やかに揺れる。君影・リリィ(すずらんの君・e00891)が踏み出した一歩、その足元に相棒のレオナールが降り立ち、感情をリリィの分まで表すかのように毛を逆立てた。
「その身を危難より遠ざけるよう、灯の温もりを」
機先を制すべく、いぶきは押し寄せる冷気に抗するように、淡い色の炎を前衛に立つ仲間達へと灯していく。
アイガイオスを小型化したような丸い羊毛玉は、コンクリートの地面に大きく跳ね、高所からケルベロス達を狙う。
だが、先頭を進む一体が大きく弾かれ、黒煙に包まれた。後に続く羊毛玉が警戒して動きを鈍らせる。
「まずはこの毛玉達から減らしましょう」
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)が熱を帯びた砲台を構え直す。
弾丸の代わりに対デウスエクス用ウイルスカプセルを籠めたマキナの砲撃に、羊毛玉は身体の靄を散らしながらも、欠けた姿のまま高く躍ってメイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)の頭上に迫る。
羊らしく丸まっていた黒い角がしなるように伸び、メイザースの肩を切り裂いた。
「メイザースさん!」
癒月・和(繋いだその手を離さぬように・e05458)の声に、平気だよ、と手を挙げてメイザースは得物を握る。
「私を狙ったのが、運の尽きということさ」
一撃を加えて距離を取ろうとする羊毛玉は、けれどまだメイザースの射程圏内。宙を跳ねるその白い身体を軌道に捉え、鈍く輝くステッキが振り抜かれる。
巨神の鎚を模したステッキの鎚頭は精確に白い靄の中心を、その命の核ごと打ち抜いた。冷気を操る夢喰いの、その力を上回る凍結を浴びて、羊毛玉は霜の粒となり、陽光に煌めきながら霧散して、二度と戻ることはなかった。
その攻撃の隙をつくように、次の羊毛玉が大きく跳ねて、後衛の頭上から襲いかかろうとするが、リリィの元から力強く飛び立ったレオナールが肉球ブロックで攻撃を逸らす。
「ありがとう、レオ」
得意気に鼻を鳴らすレオナールに、リリィは口元を綻ばせた。
「リリィ様、手分けして援護しましょう」
エルスが片手に携えた魔導書をぱたんと閉じれば、もう片手の剣で地面に描いた守護星座が起動し、後衛をつとめる仲間達に加護を与えていく。頷いたリリィも息をあわせて霊力を帯びた紙兵を蒔き散らし守護にあたらせた。
和の元から飛んできたボクスドラゴンのりかーがメイザースの周りに輪を描き、泡に包み込むようにして自らの属性を分け与える。
ちらと振り向いて頷くメイザースに、和は親指と尻尾の先をグッ、と立て、
「こっちは任されたよ」
電撃杖を掲げた和の視線は、襲い来る羊毛玉ではなくその後方――アイガイオスが再び動き出すのを見逃さず、小さく振った杖の先から雷を飛ばす。
痛手を与えるというよりは、牽制のための一手。狙い通りにアイガイオスは和へと視線を向ける。
そして、今までより巨大な靄を、ケルベロス達を覆い隠すように放った。
●
過去を訊かれれば、よく覚えていない、と答える。
でも、エルスには一生忘れられない景色があった。
そう、いま目の前に広がるこんなオレンジ色。海の底から救い上げられて、初めて見た夕陽の色と、人々の顔、その暖かさ。
なのに、その景色は突然に歪み、足元は崩れ、エルスは海へ放り出された。
落ちていく。深い、暗い、寒い、海の底へ。暖かさを知らなかったあの頃へ――ううん、あんなのはもう嫌なの。力の限りに伸ばしたエルスの小さな手の先に触れる温もりがあった。
見上げれば、目映い光の中に揺れる黒髪。力強い手で水面の上へと引き上げられる感覚。そうだ、暖かい『想い』はオレンジの記憶の中だけじゃない、今も心の中に灯る、彼の温もり。
和は、夢を見ていた。
なぜなら、それは夢でしかありえなかった。もうこの世界にいない家族と、今も親しく過ごす友人達が一緒に話しているのだから。
夢でも構わない、と和が声をかけようとしたとき、どこからか現れた黒い獣が彼らの姿に喰らいついた。古い写真が日に焼けて溶けていくように、呑まれたところから穴が空き、大切な人達が消えていく。
また失うの?
――違う。そうさせないために、我を張ってでもこの道を選び取ったはずだ。和の凍えた指先にどくん、と血が巡る。この手は繋ぐために、護るためにある。そう、今すべきことは。
共に戦う仲間達のために、アイガイオスを引きつけて、時間を稼ぐことだ。
和が雷撃杖を大きく振りかざすと、弾けた稲妻が周囲を覆う靄を、幻影諸共に切り裂いた。
「りかー!」
声に応えて、りかーは一直線に飛び、放っていた靄を慌てて回収しようとするアイガイオスへと体当たりを食らわせる。
ぐらりと揺れた身体から、哀願にも似た声が響いた。
――寒いよ。この寒さをなくしたいだけなのに。どうして怒るの。どうして助けてくれないの。
「怒ってはいないよ。それよりも悲しい、かな」
やりきれない、という風に首を振る和とともに、イジュも敵に対するとは思えない、穏やかな瞳を向ける。
「わたしはあたたかいもの、いっぱい知ってるよ」
誰かの体温、寄り添う気持ち。笑顔。好きなこと、美味しいもの。そんな日常にありふれたものでさえ。
「でも、あなたをあたためることはできない。わたしの中にあるもので、あなたを満たすことはできないよ」
「温もりは奪うものじゃなく、与え、与えられるものですのよ」
エルスが放った氷の精霊は吹雪の姿を取り、アイガイオスの後方に残っていた羊毛玉達へと、冷気の靄ごと凍てつかせんとばかりに吹き荒れた。
あの深海の寒さはこんなものじゃなかったの、とエルスは呟く。
「毛玉、もくもくしてる。皆きをつけて」
と勇名が砲口を向けたその先、吹雪を受けて怯んだ羊毛玉が、大きく身体を膨らませていた。
その一体が凍てつく冷気を吹きだし、ケルベロス達の元へ吹き荒れる。
けれど纏わりつく霜風を振り払うようにイジュはくるくると舞って跳び、巻き上がる氷霜が煌々と輝いて空を覆った。
ほら、ここにも星が廻る――そう謡うイジュのリードに導かれて踊るように、白い冷気は高く舞い昇り、敵の元へと返っていく。氷の粒がコンクリートに降り注ぎ、羊毛玉達の足元を狂わせた。
そして勇名もまた、外皮を切りつけられるような痛みに歯を食いしばりトリガーに力をこめる。
アームドフォート、一斉発射。
標的は更なる冷気を畳みかけようとしている、もう一体の羊毛玉。
羊毛玉は跳ねて避けようとする、しかし足を滑らせ、次々と着弾する砲火の直撃を食らっていく。
「ずどどどーん、どかーん」
抑揚の薄い勇名の声が、爆炎の音色に重なる。溜め込んだ冷気を吐き出すこともできないまま、羊毛玉が小さな黒い煙だけを残して掻き消えると、もう一体はさらに後方へ動き出す。
「逃さないわ!」
マキナの掲げた優美な刃、そこに宿る妖精の魔力が無数の花弁を生み出し、吹き荒れる花嵐となって羊毛玉を襲う。
美しい花弁が全身を覆ったかと思うと、こちらも煙となって霧散し、残った花弁だけが床に文様を描いた。
●
十六のとき、私は全てを失ったの。
心まで亡くしたこのリリィという身体は、風に吹かれる紙風船みたいにあてもなく望みもなく漂い流れて。
そうしてこの『九龍町』という居場所とともに心を、みつけた。
――町が燃えている。全てが灰になっていく。
私は何を間違えたの。どうしてまた全てを失うの。そう泥のように渦巻いたのは束の間、リリィは駆け出していた。もう失いたくない。町長の、師匠の……大切な人の名を呼ぶ。けれど応えはない。
そうだ。あの日からずっと私の『心』になって、私の『心』でいてくれたあの子はどこ?
「レオ!」
白く染まっていく町の惨禍を破り裂いて飛び込んできたその相棒は、心配そうにリリィの顔をなめた。
蒼い炎で形作られた小さな竜を、メイザースは見つめていた。
暖かく、そして大切な、守るべきもの。
けれど、彼の目の前で、竜は尾の先から少しずつ、炎の形のまま凍りつき、砕け散っていく。
「この子はこれから大きくなっていくんだ、ここで失うわけにはいかない」
もはや上半身しか残っていない竜のもとへとメイザースは静かに歩を進め、
「……それに。簡単に食べられてしまうほど、優しい炎じゃないよ?」
そして、蒼い炎で出来た、竜の心臓に触れたとき。
花が開くように、暖かな炎が咲いて、瞬く間にそこは元の戦場へと戻っていた。
幻影に惑わされたケルベロス達を狙って襲いかかろうとしていた羊毛玉が、再びメイザースの前に迫っていた。
「私がお相手するわ!」
そこへ割って入ったのはリリィ、しかし突然刃を収めて息を整える。敵の眼前とも思えないその姿は格好の標的と羊毛玉は角を振り上げた。
「軒しろき、月の光に、山かげの、闇をしたひて、ゆく蛍かな」
だが、蛍火と名付けられたその居合いは写の位、すなわち敵の心を写し取ってくるりと身を躱しざまに刃を振り抜く。蛍の一筋を、いいえ、あの人の太刀筋をなぞって。
靄を刈り取られ大きく吹き飛ぶ羊毛玉を見て息をつくリリィ、だがメイザースは身に纏った黒い残滓を槍のように鋭く伸ばし、再び跳ぼうとしていた羊毛玉を貫いてとどめとした。
黒煙となって散る敵にメイザースは肩をすくめ、
「見たところ、斬撃は靄を散らせるが、中の本体までは届きにくいかもしれないな」
「靄の中で色々考えてしまって、身体が勝手に動いたの。メイザースさんは冷静なのね」
「最初から幻影と気づいていたから、ね」
●
最愛の人が、黒い獣によって頭から無残に喰われていく光景を見せられ、いぶきは全身から体温と、そして感覚が失われていくのがわかる。
けれど、片手だけが熱い。
そこに光るものをいぶきはよく知っている。この手の、銀の指輪に籠められた誓いこそがほんとう。それ以外はみんな幻、何も奪われてなどいない――その途端に世界は色を取り戻し、靄の晴れた周囲の戦況も窺い知れた。
未だ靄に覆われ、幻影に苛まれているであろう仲間達。そして、眷属を全て倒されて狼狽える、無垢な振りをして、悪趣味な獣。
「僕から熱を奪おうなんて、許されるとでも、お思いで?」
いぶきが扱う魔法は死と怨念の世界に属する。それは惨劇の記憶そのものから魔力を抽出できることを意味する――それが幻影であっても。
敵の描き出した惨劇の幻影から、癒しの力へと魔力を反転させ、靄に囚われた仲間達へと振り撒いていく。
「僕がやるのはここまでです。あとは貴方がたの手で、冷たい靄を払って頂きたく」
マキナはかつて、地球の侵略に訪れた兵士だった。
「この心に火を灯してくれたのは、温かな心を持つ地球の人々だったわ。やがて私自身も、笑顔を知って、愛を知って、人に温かさを与えられるようになった」
けれど、それはもう意味のないものになってしまった。地球は敗れ、全ては心の無い世界に塗りつぶされた。
マキナの微笑みは色あせ、胸元に輝く蒼いクリスタルは鈍く濁る。
「構わないわ。もう、守るものもないから」
「そうか、なー?」
白い靄の中に現れたのは、同じように地球に来て心を手に入れた、勇名だった。
「ぼくにはこころのありか、わからない。けど、マキナや皆が戦うの見て、ぼくもほかほかするもの、みつけた。思い出すとほかほかする人、ほかほかの思い出、みんな、守らなきゃいけない、だいじ、なー」
「戦う、守る……」
そう、私は守るために命を懸けて戦っていた。そして私も、勇名もこうしてまだ生きている――ああ、戦いはまだ終わっていない。
幻影を振り払い、マキナの手を引いて靄の中から飛び出してきた勇名は、駆け出す勢いのままに小型ミサイルを発射する。
「ほかほかぱうぁー、ずどーん」
アイガイオスの足元に着弾したそれは色とりどりの火花を散らして、足元の靄を吹き飛ばした。
――毛皮、ぼくの毛皮はどこ?
白い靄をこぼしながら、アイガイオスは別の道を探すようによろめき歩く。
「行っちゃだめ!」
祈るようにアスガルドの斧を掲げ、イジュは光るルーン文字から引き出した魔力で石化光線を放つ。光線に貫かれたアイガイオスの身体から、白い靄がもう一欠片吹き飛んだ。
――ぼくも毛皮がほしかった。この穴を、ふさ……、
そしてマキナが駆ける。その胸のクリスタルは以前より明るく輝き、身体は燃えるような暖かさだった。
「決着をつけましょう」
武装化したオーラを溢れんばかりに纏った拳で、アイガイオスの身体の核、白い靄の中心を打ち抜くと、それは黒い氷塊のように砕け散る。
そして、残っていた靄が、霜となってその上に降り積もった。
マキナが安堵の息をついて空を見上げれば、仲間達も共に、空に浮かぶ巨大な『手』を、彼の目指した場所を見上げた。
暫しの休息の後、また戦いの刻が来ると予感して。
コンクリートの上に残った白い霜にそっと触れて、イジュは、さようなら、と呟く。すぐに溶けてしまうだろうけれど、それでも。
「次は、あったかい毛皮を持って産まれて来れたらいいね」
作者:朽橋ケヅメ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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