七夕防衛戦~双子遊戯

作者:洗井落雲

●双子はジュエルジグラットを目指す
「うふふふ! ねぇ、ねぇ、コルヴォ、聞いたかしら?」
 子供の声が聞こえる。
 それは愉快気な、少女の声であった。
「あははは! 聞いた、聞いたよ、シーナ。頭の中に、確かに響いた」
 答えたのは、同じく子供。少年の声。
「命令なんて今更ね。あの人たちは、ジュエルジグラットの向こうに引きこもってしまっているわ! うふふ!」
 くるくると、少女は踊る。
「命令なんて今更だよ。寓話六塔は、ジュエルジグラットを守るために、僕たちを呼ぶんだね! あはは!」
 くるくると、少年は踊る。
「どうするの、コルヴォ?」
 少女が尋ねる。
「そうだね、行こうよ、シーナ」
 少年が笑う。
「だってその方が――あははは! とっても、とっても、楽しそう」
「そうね、そうね。その方が、とっても、とっても、楽しいわ! うふふふ!」
 悪だくみをするように、双子は喧しく笑うのだった。

●七夕に、寓話六塔は目論む
「皆、どうやらドリームイーターたちが動き出したようだぞ」
 集まったケルベロス達へ、アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)はそう言った。
 曰く、七夕の魔力を利用してドリームイーターが動くのではないか――そのように警戒し、調査をしていたレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)らが、日本各地に潜伏していたドリームイーターたちが、ダンジョン『ジュエルジグラットの手』に向けて、移動を開始しようとしていることを突き止めたのだという。
「どうやら、多くのケルベロス達がダンジョンの攻略に成功したことと、分かたれた二つの場所を繋げる、という七夕の魔力の影響で、寓話六塔の鍵で閉ざされたドリームイーターのゲートが開かれようとしているようだ」
 ドリームイーターたちは、これに対処するために、戦力を集めているのだろう。これはチャンスだ。集結する強敵たちを迎撃することができれば、七月七日、七夕の日に、ゲートへの逆侵攻が可能になる可能性が出てくる。
「さて、君たちに迎撃をお願いしたいのは、『コルヴォ』と『シーナ』……『愉快な双子』と名乗る、二体のドリームイーターたちだ。先ほど言った通り、彼らは東京都港区上空にあるジュエルジグラットへ向けて、移動中だ」
 双子は、部下などは連れていないが、常に二人で行動しているのだという。
 現在は、ジュエルジグラットに向けて移動することを最優先にしているため、移動中に一般人に危害を加えるようなことはあるまい。
 迎撃のタイミングは、ケルベロス達に一任されている。港区への途上で迎撃する場合には、一般人の避難などが必要となるだろう。
 突破されてしまった場合に後がなくなってしまうが、ジュエルジグラット直下や、ダンジョン入り口での迎撃も、視野に入れるべきかもしれない。
 いずれにせよ、進行ルートは予知されているため、迎撃自体は、問題なく開始できる。
「集結する敵を迎撃できれば、ジュエルジグラットの扉が開かれる――寓話六塔が姿を見せる可能性が高い。うまくすれば、ゲートの封鎖の解除、さらに寓話六塔を討ち取るチャンスが訪れるかもしれない。そのためにも、この戦い、負けるわけにはいかない。君たちの無事と、作戦の成功を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)
風魔・遊鬼(鐵風鎖・e08021)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
フロッシュ・フロローセル(疾走スピードホリック・e66331)

■リプレイ

●直下の戦い
 港区、ジュエルジグラット直下――。
 人気のないその場所に、喧しい笑い声が響いていた。
「あははは! 不思議だねぇ、シーナ!」
「うふふふ! 不思議ね、コルヴォ?」
 笑う。笑う。喧しく。喧しく。
 ドリームイーター、『コルヴォ』と『シーナ』は、けらけらと笑いながら、遠きジュエルジグラットを臨む。
「何か楽しいことが起こるかと思ったけれど、何もないね!」
「ええ、何か楽しい事があるかと思っていたのだけれど、何もないわ!」
 くるり、くるり。双子のドリームイーターは踊る。双子の言う楽しい事が何なのかは不明だが、少なくとも、人類にとって楽しい事ではありえないことだけは確かだ。
「このままじゃ、もう少しで到着しちゃうね、シーナ!」
「そうね、そうね! それはあんまり楽しくないわね、コルヴォ!」
 けらけら、けらけら、喧しく双子は笑う。
「――見つけた!」
 と、双子の笑い声を切り裂いて、声が響いた。
 同時に、八つの影が、地を駆け、双子の進路を妨害するように現れる。
「楽しい事をお探しなら――お付き合いしますよ」
 声の主――ケルベロス、イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が、静かにそう告げた。足元に控えるミミック、『相箱のザラキ』が、主の意思を表すように、がぶがぶとその口を開いて見せた。
「あはは! きたきた! 楽しい出来事!」
「うふふ! きたわきたわ! 楽しい出来事!」
 けらけらと、喧しく笑う双子。まるでケルベロスすら、新しい玩具が手に入った、まるでそのような様子だ。
「お望み通り、楽しませて差し上げますよ。御代は、お二方の命となりますが」
 風魔・遊鬼(鐵風鎖・e08021)が静かに、そう告げた。言葉にのせる、確かな殺気。だが、それすらも、双子にとっては状況を楽しむためのスパイスに過ぎないのかもしれない。双子の笑い声が、止むことは無い。
「あなたたちのゲートを壊す……またとない機会だもん」
 穏やかに、のんびりと、フロッシュ・フロローセル(疾走スピードホリック・e66331)が言う。ゆっくりと首元のゴーグルに手を伸ばし、それを装着するや、その瞳の輝きが変わった。にぃっ、と笑みを浮かべるや、
「ここでアンタ達を止めて、次につなげるよ!」
 先ほどまでとは打って変わったように、鋭い口調で告げる。
「あははは! やっぱりゲートが目的かぁ。そうだよね、そうだよね!」
「うふふふ! ゲートが残っていた方が、楽しいわ! だからゲートは壊させないわ!」
 双子は笑った。ゲートを巡るこの攻防すら、双子にとっては楽しい遊びでしかないのだろう。
「七夕はあんたらの願いをかなえる日じゃねえからな、こっから先は行かせねえぜ」
 グレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)が静かに、そう告げた。
「七夕の魔力……相変わらず、人々の幸せな営みを邪魔するのだな」
 フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)が睨みつけるのへ、双子は笑った。
「だってだって! 楽しい事は分かち合わなきゃ!」
「そうよそうよ! みんなで楽しまなきゃ!」
 言葉だけなら、素晴らしい物言いであるが、その実態はおぞましいものである。フィストのウイングキャット『テラ』は、主の怒りを表すかのように、その尾を膨らませた。
「お前さん方の身勝手さにはうんざりだ」
 ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)は、不愉快気な表情を隠さず、告げた。
「さんざん追いかけまわされた怨みもある。逃げ惑っていた、あの時とは違う――今度はこちらが、お前さん方を追い立てる番だ。来いよ、ドリームイーター。ありったけの鉛弾をくれてやる」
「あはははは!」
「うふふふふ!」
 その怒りを受けてなお、双子は笑った。
 楽しいのだろう。心から。
 その様子は、ケルベロス達を苛立たせたかもしれない。あるいはそれこそが、双子の狙いなのかもしれないが。
「いいねいいね! 楽しくなってきたね!」
「いいわいいわ! 楽しくなってきたわ!」
 喧しく笑う双子――同時に膨れ上がる殺気が、双子が戦闘態勢に入ったことを示していた。ケルベロス達もまた、身構える。
「それじゃあ、楽しく遊ぼうか!」
「それじゃあ、楽しく遊びましょう!」
 双子が、モザイクの手をお互いに結ぶ。そして、それが戦いの合図となり、ケルベロスたちと双子、両者は同時に動き出した。

●七夕激突
「始まるよ! 始まるよ!」
「始まるわ! 始まるわ!」
 喧しい笑い声が、戦場に響き渡る。
 しかしそれはただの笑い声ではない。魔力の込められた笑い声は、ケルベロス達の心をかき乱し、そしてその内部に毒素となって沈着する。
「ザラキ! あの笑い声を止めますよ!」
 その身を蝕む笑い声に顔をしかめつつ、相箱のザラキへと告げるイッパイアッテナ。ザラキががぶがぶと口を開閉することで応じたのを見、自身はすぅ、と息を吸い込む。
「これはすべてを跳ね返す力――護りの言葉は我が身を鋼へと変える!」
 それは、戦言葉を応用して生み出された、イッパイアッテナのグラビティである。言葉による強烈な自己暗示、それを仲間たちへと付与し、自らの肉体を頑強なるものへと変化させる!
 一方で、ザラキはイッパイアッテナは、偽りの財宝をばらまき、双子を攻撃することで、主の援護を行う。偽りの財宝――それは、双子にとっての「楽しい何か」に見えたかもしれない。
「あはははは! いいね、それ!」
 コルヴォが笑う。
 そこへ、地を薙ぎ払うように放たれた、遊鬼の巨大なるせん滅光弾が着弾した。地を抉り、爆発するその最中にあって、双子はけらけらと笑いながら、その衝撃と礫をひらひらと回避して回る。
「一筋縄ではいかないか……守りを固める! 風よ、力を貸してくれ!」
 グレインが呼びかけるのは、自然のエレメントたちである。引き出された力は球形の場となって、ケルベロス達のみを包み、癒しと盾の加護をもたらす。
「あはは! そんなことしたって、無駄だよ!」
「うふふ! 全部全部、壊しちゃうわ!」
 癇に障るような、喧しい笑い声をあげる双子。そのモザイクの右手/左手が触れた時、ケルベロス達の生み出した盾は消滅してしまうのだろう。
「織り込み済みだ……一発でも防げれば、一秒でも長く立っていられる!」
 グレインが叫ぶ。
「テラ! ヴィクトル!」
「了解した!」
 フィストの言葉に、ヴィクトル、そしてテラが答えた。フィストは、そのシッポを力強く振るい、薙ぎ払いを仕掛ける。
「おっと、おっと!」
「あぶないわ、あぶないわ!」
 けらけらと笑いながら、双子が跳躍。その一撃をかわすが、
「足を止められれば、それでいい!」
 フィストの狙いは、素早い双子の足を止める事である。空中で身を投げ出す形となった双子、シーナにテラのキャットリングが突き刺さる。きゃあ! と悲鳴を上げたシーナが吹き飛ばされ、
「まだだ! やすやすと動けると思うな!」
 ヴィクトルによってばらまかれた銃弾の雨が、双子の身体へと突き刺さる!
「いたた……あはは、やるね!」
 笑うコルヴォ。
「追撃ッ!」
 叫ぶフロッシュのガジェット、『瞬走駆輪炉』より放たれる、暴嵐の如き銃弾が、双子へと襲い掛かる。銃撃の嵐は双子の身体を強かに打ち付け、その動きを殺して見せる。
「じゃあ、約束通り!」
「その盾!」
「隠して!」
「奪っちゃう!」
 態勢を整えた双子が、けらけらと笑い、突撃してくる。コルヴォはイッパイアッテナへと迫り、モザイクの左手を叩きつける。イッパイアッテナは『救護オーラ』を全開に立ち昇らせ、その腕を持って受け止める。
「く……うっ!」
 叩きつけられるような痛みが、全身を駆け巡った。同時に、自己暗示が急速に失われていく感覚。そしてそれは、シーナの右手を叩きつけられたフィストもまた、同様であった。違いは、シーナの攻撃は、切り裂くような打撃であったことだけだ。
「怯まないでください……! 何度でも! 立ち上がれるように援護を続けます!」
 イッパイアッテナは叫んだ。再び暗示の言葉を紡ぎ、仲間たちへ援護を重ねる。相箱のザラキはシーナを狙い、噛みつく。
「いたたた! 遊んでほしいのかしら?」
 笑いながら、シーナは相箱のザラキを振り払う。べん、と地に落下する相箱のザラキ。
「妹の方へと集中攻撃を仕掛けます……!」
 静かに、遊鬼が言った。ケルベロス達の攻撃の結果、シーナの方によりダメージが蓄積されていた。同等の戦闘能力を持つ双子が相手であるならば、より倒しやすい方へと攻撃を集中させる……それが、ケルベロス達の作戦だった。
 遊鬼の召喚した黒太陽が、圧力となって双子の足を止める。攻撃の機会を、ケルベロス達は見逃すことは無い。
「盾は何度でも作り上げる! さあ、ここから更に攻めていこうぜ!」
 グレインは再び自然のエレメントへと呼びかけ、球形の結界を構築する。砕かれた保護結界を修復されたフィストが、
「もう一度だ! 合わせてくれ!」
 叫び、ヴィクトルそして、テラへと呼びかけ、跳躍した。ルーンアックスを大上段に構え、足を止められたシーナへと、落下の速度を乗せて叩きつける。痛打! 直撃、そしてテラの鋭い爪の一撃がお見舞いされ、シーナは吹き飛ばされる!
「痛い……わ!」
 うめくシーナ。体制を整えようとするが、だが、その胸に一発の銃弾が突き刺さった。
「――――我が命喰らいて穿て、der goldene Kugel des Gott」
 呟くように放たれたそれは、ヴィクトルの銃弾である。
 たった一つの願い、それを変えた銃弾であった。自身の生命を削るというその一撃は、着弾した相手の体内でさく裂し、内部より爆炎にて焼き尽くす――。
「うふ、うふふふ」
 シーナの笑い声は、激しい爆音と轟炎によりかき消された。『金色の神の破壊弾(デア・ゴルデネ・クーゲル・デス・ゴット)』に撃ち抜かれたシーナは、その銃弾の一撃で以って、この世から消滅する。
「シーナ……!?」
 さすがのコルヴォの笑い声が止まった。驚愕の声をあげるコルヴォへ、しかし超高速の影が迫る!
「アタシの速度には追い付けないッ!」
 それは、フロッシュの刃。『瞬走駆輪炉・補填装具』により一気に最高速まで加速し、【電光刃形態】へと変化させた『瞬走駆輪炉』により切り裂く、超音速の一撃!
 刃にて切り裂かれた対象に注ぎ込まれる、雷の如き電流! コルヴォの体内を、荒れ狂う龍のごとく駆け巡る!
「ぐ……うああああっ!」
 たまらず悲鳴を上げるコルヴォ。誰かに救いを求めるように、その左手を差し出した。
 だが、その手を繋ぐ相手は、もういない。
「今です! 畳みかけましょう!」
 イッパイアッテナが叫んだ。この機を逃す手はない! イッパイアッテナは『絆の戦斧Plasm』を掲げ、跳躍。電撃に痺れるコルヴォへと、叩きつけた。弾き飛ばされるコルヴォは、うめきながら体勢を立て直す。だが、遅い。遊鬼によって放たれた、無数の眼に見えぬ小さな手裏剣の群れが、コルヴォを次々と切り裂き、息を付くことすら許さない!
「……こんなことって……!」
 喘ぐように呟くコルヴォ。その身体へ、静かに、グレインが触れた。
「これで終わりだ。二人仲良く還るんだな」
 途端、螺旋の力が注ぎ込まれ、内部にて爆発。
 コルヴォの身体は爆発する螺旋の力へと飲み込まれていく。
「あーあ……これで、お終いかぁ……」
 悔し気に……遊びを強制的に中断させられた子供のように、うめくコルヴォ。その言葉を最後に、螺旋の力によってその身体はモザイクとなって霧散し、消滅していったのであった。

●次なる戦いへ
 ジュエルジグラット直下。
 今は、喧しい笑い声も消え、不気味な静けさのみが、あたりを支配している。
「ひとまずは……私たちの、勝利ですね」
 イッパイアッテナがそう言うのへ、仲間達は頷いた。
「ですが……次なる戦いのときは、すぐに迫っています」
 遊鬼が言う。その通り、この戦いはいわば前哨戦。
 此処から更なる戦いが、ケルベロス達を待っているのだ。
「まだまだ、負けてられないね」
 フロッシュが言った。
「本番はここからだ。奴らの息の根、ここで止めてやるさ」
 グレインはそう言って、ジュエルジグラットを臨む。
「ひとまず……あの憎たらしい手を叩き潰すまでは、俺は諦めんぞ。失伝者として、な」
 葉巻を一服。ヴィクトルは言った。
 次なる戦いの気配。さらなる激闘の予感。
 ケルベロス達は休む間もなく、その戦いの最中に身を投じるのだろう。
「七夕だからこそ、願いはせめて平和なものでありたいものだ。……そうであれば、良かったのにな」
 フィストの言葉は、静寂に消えて――。
 しかし今は、静かな勝利の余韻に、浸るのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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