七夕防衛戦~求めるのは宿敵ッ!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
(「こんな時に青ひげのヤツめ。一体、何を考えているんだか」)
 一刃の風は苛立ちを隠す事が出来なかった。
 寓話六塔からの指令を受け、東京都港区上空にあるジュエルジグラットに向かっているものの、あまり乗り気ではなかった。
(「……斬りたい」)
 脳裏に浮かぶのは、血溜まりの中に沈む好敵手の姿。
 自分より強い相手であれば、誰でも構わない。
 そんな気持ちを胸に秘め、行く先々で辻斬り的に決闘を挑み、勝利を手にしてきたものの、彼女の心が満たされる事はなかった。
(「何故、こうもヒトは脆い……」)
 このままでは、いくら戦いを繰り返したところで、苦戦すらしないため、満足する事など出来ない。
 それでも、一刃の風は自分より強いと思しき相手に勝負を挑み、愛刀を血に染めていくのであった。

●セリカからの依頼
「七夕の魔力を利用してドリームイーターが動くのではないかと警戒していた、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)さんから、日本各地に潜伏していたドリームイーターが、ダンジョン『ジュエルジグラットの手』に向けて移動を開始しようとしている事を突き止めてくれました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「どうやら、多くのケルベロスがダンジョンを制覇した事と、分たれた2つの場所を繋げる七夕の魔力により、寓話六塔の鍵で閉ざされたドリームイーターのゲートが開かれようとしているようです。ドリームイーター達は、ゲートの封鎖を維持し、ケルベロスを寄せ付けないようにと、戦力を集めているのでしょう。皆さんには、この集結する強敵たちを迎撃して撃破をお願いします。集結するドリームイーターを撃破する事が出来れば、7月7日に開かれるゲートへの逆侵攻すら可能かもしれません」
 セリカの話では、実際に逆侵攻する為には、ジュエルジグラット側の防衛戦力(寓話六塔)との決戦に勝利する必要があるらしい。
「あなた達が戦う相手は、一刃の風と呼ばれるドリームイーターです。一刃の風は一対一での戦闘を好んでいるようですが、彼女を慕うドリームイーターが配下となって、行動を共にしているようです」
 そう言ってセリカが一刃の風に関する資料を配っていく。
 一刃の風は高校生くらいの女子で、自らの『好敵手』を失ってしまったため、好敵手を求めて各地を彷徨っていたらしい。
 基本的に一対一の決闘しか興味を持たないが、今まで負け知らずであったため、纏めて相手をする事もあるようだ。
 また配下のドリームイーターも同じような恰好をしており、彼女に聞きが及ぶような事があれば迷わず攻撃を仕掛けて来るようである。
「うまくすれば、ゲートの封鎖を解くだけでなく、寓話六塔を討ち取るチャンスになるかもしれません。まずは集結する敵を撃破して、次の戦いに備えましょう」
 そう言ってセリカがケルベロス達に対して、一刃の風の撃破を依頼するのであった。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
除・神月(猛拳・e16846)
瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)
ルゴール・ブラッドマン(熱輝求む戦人・e66139)
エレック・トロン(蒼雷と黄雷を携える械人・e68647)
 

■リプレイ

●都内某所
「こりゃあ、ヒデエな。手当たり次第じゃねぇか」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は一刃の風に殺されたと思しき男性の死体に駆け寄り、険しい表情を浮かべた。
 男性の死体は正面から一刀両断ッ!
 抵抗するのもなく、瞬殺された感じで、命を落としていた。
 しかも、同じような殺され方の死体が、東京都港区に向かって、数体ほど見つかっていた。
「なるほど、一刃の風は好敵手を探しているのか。……良いねえ! 実にジブン好みじゃねえのよ。七夕の魔力とやらを利用すればゲートのカギを破壊する好機でもある。いや、ここまで面白い戦闘は久しぶりだねぇ!」
 それとは対照的に、ルゴール・ブラッドマン(熱輝求む戦人・e66139)がハイテンションでドローンを飛ばし、手元の通信機器に映像を映しつつ、一刃の風の移動ルートを推理した。
 亡くなった一般人達には申し訳ないが、ここで躊躇っていたのでは、犠牲者が増えるばかり。
 ならば、一般人達の犠牲を最小限に抑えるためにも、一刃の風を見つけ出す事を優先すべきであると言う結論に至ったようである。
 一応、一刃の風は無差別に一般人を襲っている訳ではなく、自分よりも強い相手を選んで戦っているようだが、今のところ全戦全勝ッ!
 その上、一刃の風は全く傷を負っていない可能性が高かった。
「宿敵探しとは面白ぇじゃねーカ! このあたしが宿敵ニ……ア、でもそーなっとモザイク晴れちまうのカ? ま、今回でぶっ倒しちまえば関係ねーカ」
 除・神月(猛拳・e16846)が苦笑いを浮かべて、軽く流す。
 どちらにしても、一刃の風を倒してしまえばイイ事。
 ただし、一刃の風には、彼女を慕ってついてきたドリームイーター達がいるため、その事も踏まえた上で戦う必要があるだろう。
「よく分かんねえが、とにかくぶっ飛ばせばいいんだろ!? なら得意だぜ、ハッハハハハハハハハァ!!」
 エレック・トロン(蒼雷と黄雷を携える械人・e68647)も難しい事を考えず、高笑いを響かせた。
 とにかく、襲い掛かってきた相手を倒せばいい。
 それでも、襲い掛かってくるようであれば、動かなくなるまで攻撃をすればいい。
 そんなノリで、ヤル気満々ッ!
「……とは言え、まずは居場所の特定をしねーとナ。辻斬りしながら向かってるみてーだシ、辻斬り事件のあった現場を順番につないで線にすりゃー進路も分かんだロ」
 神月が辻斬りに遭った被害者達の場所を地図に記していき、一刃の風の移動ルートを絞り込んだ。
 一刃の風は真っ直ぐ東京都港区に向かっており、その行く手を阻む相手を排除しているようだ。
「……見つけました、この先です!」
 そんな中、瑠璃堂・寧々花(甲冑乙女・e44607)が翼飛行で高所から一刃の風と思しき一団を見つめ、慌てた様子で仲間達のところに戻ってきた。
 ルゴールが操作していたドローンも一刃の風と思しき一団を見つけ、同じように仲間達に声を掛け、現場に向かって走り出すのであった。

●ドリームイーター
「早く、安全な場所に!」
 現場に降り立った寧々花は、ドリームイーターに襲われていたサラリーマン風の男性を守るようにして陣取って、即座に避難を促した。
「は、はい!」
 それに応えるようにして、サラリーマン風の男性が傷口を庇いつつ、そそくさとその場から逃げ出した。
「んあ!? なんだ、テメエは!」
 その途端、心臓にモザイクが掛かったドリームイーターが、イラついた様子で叫ぶ。
 その手に握られていたのは、数打物。
 切れ味云々に関係なく、大量生産されたモノだが、気持ちだけなら誰にも負けていないと言わんばかりの勢いがあった。
「……敵か。だが、私にも時間が無い。ここはコイツらに任せて……」
 一刃の風がドリームイーター達に視線を送る。
 それに気づいたドリームイーター達がゲスな笑みを浮かべ、ケルベロス達に迫っていった。
「オラオラァ! てめーを倒すサイキョーの宿敵様だゼ。宿敵っつーより天敵になってやっけどナァッ!」
 すぐさま、神月がドリームイーター達の間を擦り抜け、一刃の風に攻撃を仕掛けていった。
「な、なんだとぉ!」
 その途端、ドリームイーター達が、驚いた様子で目を丸くさせた。
 まるで幻を斬っているような感覚で、神月が刀を避けていったため、ドリームイーター達は狐に化かされたような気持ちになっていた。
「……なるほど。そう簡単に行かせてはくれない……と言う事か。だが、私もお前達と遊んでいるほど、暇ではないのでなッ!」
 一刃の風が落ち着いた様子で、神月の攻撃を避けていく。
 しかし、神月の攻撃は正確で、一瞬でも気を抜けば、確実に当たってしまう程のレベル。
 それに危機感を覚えたのか、反撃を仕掛ける事が出来ず、守りを固める事に専念していた。
「よぉーっしこいや、ドリームイーター! 宿敵ってならバカデカい雷と価値あってこそってもんだろうが!!! だから、どんどん轟いて行こうぜぇ!! さあ、稲妻合戦の始まりだぁっ!!!」
 そんな空気を察したエレックがアームドフォートを操り、バチバチと雷を撒き散らしながら一刃の風を挑発すると、ミサイルポッドから焼夷弾をばら撒き、ドリームイーター達を炎に包んだ。
「グギャアアアアアアアアアアアアアア!」
 これにはドリームイーター達も悲鳴を上げ、ケルベロス達から離れていった。
「卑怯な真似を!」
 一刃の風が険しい表情を浮かべ、ドリームイーター達を守るようにして陣取った。
 途端に、怒りの感情が剥き出しになっていたものの、この状況で冷静な気持ちを失う事は自殺行為でしかないと判断したのか、自らの気持ちを落ち着かせるようにして深呼吸をし始めた。
 まわりにいたドリームイーター達も、ここで情けない姿を見せる訳にはいかないと言う気持ちになったのか、同じように深呼吸。
(「あのドリームイーターのゲートにかけられた鍵……そいつを破壊できるまたとない機会なんだな。一年に一度、七夕しか使えねえ方法ならば、おそらく今しか機会はねえだろう。来年は向こうも対策考えるだろうしな。……必ず成し遂げるぞ」)
 そんな中、泰地が自分自身に気合を入れ、天空より無数の刀剣を召喚すると、ドリームイーターめがけて解き放った。
「負けて……たまるかァ!」
 それに気づいたドリームイーター達が刀を振るい、自分の体に触れる前に刀剣を弾くと、そのままケルベロス達に攻撃を仕掛けてきた。
「邪魔ダァ! 退ケェ!」
 それを迎え撃つようにして、神月が如意棒に紅蓮の炎を装填し、襲い掛かってきたドリームイーターを焼き払った。
 寧々花も仲間達に声を掛けながら、ドラゴンブレスを吐きかけた。
「ち、畜生ッ! コイツら、強ぇ!」
 それを目の当たりにしたドリームイーターが、驚いた様子でたじろいだ。
 他のドリームイーター達も自分より格下の相手とばかり戦っていたため、現実を受け入れる事が出来ないらしく、どうして自分達が苦戦しているのか、まったく分かっていないようである。
「さあ、存分に喰らい合おうじゃあねえかい、夢喰いよぉ!!」
 続いてルゴールがゲイルブレイドを仕掛け、横薙ぎによって強烈な旋風を生み出し、ドリームイーター達を斬り飛ばした。
「お、俺達だって、負けられねぇんだァ!」
 左目にモザイクが掛かったドリームイーターが、ケモノのような叫び声を響かせ、ケルベロス達に再び攻撃を仕掛けてきた。
 それに合わせて、他のドリームイーター達も刀を握り、一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「取り巻きだからっテ、容赦しねぇゼ!」
 それに合わせて神月が間合いを詰め、旋刃脚でドリームイーターを蹴り飛ばした。
「オラオラ! そんなチンタラしていたら、あっと言う間に消し炭になっちまうぞ!」
 その間にエレックがドリームイーター達を同時にロックオンすると、無数のレーザーで一掃するのであった。

●一刃の風
「まさか、お前達がここまでやるとは……」
 一刃の風が信じられない様子で、ケルベロス達を睨みつけた。
 その隙をつくようにして、寧々花が一刃の風の刀を弾き、溜め斬りを仕掛けた。
「なかなか、やるようだが……。私を甘く見てもらっては困るな」
 一刃の風が冷たい視線を送り、傍に落ちた刀を拾い上げた。
 他のドリームイーターと異なり、一刃の風の刀は業物らしく、簡単には破壊する事が出来なかった。
 しかも、寧々花の攻撃は間一髪で避けられ、まったく攻撃が当たらない。
「雑魚は引っ込んでいろ!」
 それに苛立ちを覚えた一刃の風が、寧々花を挑発するようにして、勢いよく刀を振り下ろした。
「今、解き放つぜ! 癒しのオーラを、はああああああっ!」
 すぐさま、泰地が寧々花を守るようにして陣取り、癒しの力を持つ優しく温かい光のオーラを体の中心から生み出すと、格好良くポーズを決めて、寧々花の傷を癒した。
「確かに、あなたを甘く見てました。……ですが、今は違いますッ!」
 寧々花がキリリとした表情を浮かべ、バスターソードを握り締めた。
 そこには迷いもなく、躊躇いもない。
 先程とは異なり、目つきも鋭く、その攻撃に……迷いはない。
 そのため、まるで藁を斬るように勢いで、一刃の風が持っていた刀を破壊した。
「ば、馬鹿なっ! 私の刀が……!」
 その現実を受け入れる事が出来ず、一刃の風が激しく動揺した様子で身体をぶるりと震わせた。
「知らねーんなら教えてやるヨ、あたしってばサイキョーなんだゼ!」
 次の瞬間、神月が胸の前で左の掌に右拳を打ち付け、盛大な音と共に自らを鼓舞すると、全速力で一刃の風に突っ込み、右拳で真っ直ぐ殴りつけた。
「黄の雷は猛者の証! 超絶的にブッ飛んじまいなあっ!!」
 それと同時に、エレックがグラビティと科学技術によって発生させた電撃を遠慮なく乗せ、左腕を黄雷纏いし大山羊の上半身に変形すると、雷、腕力、蹄の三段加速で一刃の風を吹き飛ばした。
「まだまだ、こんなモンじゃねぇだろ!」
 ルゴールが興奮した様子で笑みを浮かべ、精神を極限まで集中させることで、一刃の風を爆破した。
「ここで死ぬ訳には行かんのだ!」
 即座に、一刃の風がモザイクを使って、自らの傷を修復。
 間一髪で致命傷を避ける事が出来たものの、身体の大半がモザイクに覆われていた。
「一発、一発、殺意を込める! せめて殴り終えるまでぇ……立っててくれやぁ!!」
 その間に、ルゴールが地獄化した右腕の出力を一時的に上げ、左腕にブラックスライムを纏いながら、一刃の風に連打を撃ち込んだ。
「クッ……、刀さえあれば……」
 一刃の風が受け身を取りながら、足元に落ちていた刀に視線を送る。
 それは配下のドリームイーター達が使っていた数打物。
 業物ではないが、ないよりマシ。
 例え、使いモノにならなかったとしても、今より状況が悪化する事はない。
 すぐさま、足元に落ちていた刀を拾い上げ、ケルベロス達に斬り掛かっていく。
 そして、斬れなくなったら、別の刀。
 また、斬れなくなったら、別の刀を拾い上げ、ケルベロス達に斬り掛かっていった。
 だが、ルゴールの攻撃は止まらない。
 全身血まみれになっても全く気にせず、一刃の風にトラウマを刻み付ける勢いで攻撃を仕掛けていた。
「そろそろ、終わりにしようゼ!」
 すぐさま、神月が再び如意棒に紅蓮の炎を装填し、一刃の風の身体を炎に包む。
 それに合わせて、ルゴールがニヤリと笑い、力任せに鉄塊剣を振り下ろし、刀ごと一刃の風を叩き潰した。
「む、無念……」
 その一撃を食らった一刃の風が血反吐を吐き、そのまま血溜まりの中に沈んでいった。
「……終わったか」
 泰地がホッとした様子で、深い溜息をもらす。
 一刃の風にとって、それは不本意な戦いだったかも知れない。
 だが、これで二度と一刃の風が動く事はないだろう。
 それでも、ケルベロス達の戦いは終わらない。
 そんなケルベロス達を嘲笑うようにして、東京都港区方面から禍々しいオーラが漂ってくるのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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