七夕防衛戦~天を翔けるアマキツネ

作者:baron

 木の上から人々を眺めて居たナニカが不意に顔を上げた。
『……今から移動? せっかく襲撃する所なんだがなあ』
 そいつは冷ややかな顔をして、虚空を越えた誰かに返事をした。
 テレパシーか何かで会話して居るのだろう、新しい会話に不満そうに応える。
 見えない相手に中指を突き立て、おととい来いとでも言わんばかりだ。
『……気が向いたらな。知らん。せっかくの獲物を逃す方が惜しい』
 そう口にする、そいつの鼻は異常に長かった。
 言葉を口にすると鼻が長くなったかのようにヒクヒクと動かす。
『ああ面倒だ。楽しそうな獲物じゃないし、連中の獲物を横取りに行くのもいいかもなぁ』
 別に狙いたい獲物などない。
 冷やかな顔には侮蔑の表情、胸にはモザイクが掛り、本心など何処にもない。
 ただ命令されたから拒否し、しかし、命令を拒否する理由もないから向かう。
 そこに彼が狙う真実の目標など無く、冷笑と塗り固めた嘘が、彼の行動を命令に沿った行動を、ついでであるかのように演出する。
『さあて、適当に駆け付けて美味しい処を頂こうじゃないか』
 そう言いながら鴉の様に黒い翼をはばたかせて、空を翔けるナニカが居た。
 港区に向かうその流星の様な姿は、まるで天狗のようであったという。


「七夕の魔力を利用してドリームイーターが動くのではないかと警戒していた、レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)さんから、日本各地に潜伏していたドリームイーターが、ダンジョン『ジュエルジグラットの手』に向けて移動を開始しようとしている事を突き止めてくれました」
「ケルベロスがダンジョンをクリアしたったから、なんとかしようてことなのかな?」
 セリカ・リュミエールの言葉に写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)が首を傾げる。
「そうですね。分たれた2つの場所を繋げる七夕の魔力により、寓話六塔の鍵で閉ざされたドリームイーターのゲートが開かれようとしているようです」
「フム。ドリームイーター共はゲートの封鎖を維持し、我らケルベロスを寄せ付けないようにとしているのか? 戦力で上回る為だな」
 セリカが答えると別のケルベロスが頷いた。
 この集結する強敵たちを迎撃し、人々を守ることに否応など無い。
 そして集結するドリームイーターを撃破する事が出来れば、7月7日に開かれるゲートへの逆侵攻すら可能とあれば、断る理由など無いではないか。
「各地のドリームイーターが見受けられたのですが、ひとまず判る範囲で列記して行きますね」
「あ、じゃあさあ。コレなんかどう?」
 セリカが数枚のリストをテーブルに置くと、在宅聖生救世主がその内の一枚を取り出した。
 その姿は天狗のようであり、赤い雷を身にまとっている。
「この敵は雷と嘘……物語りを操ります。それと格闘は勿論可能でしょう」
「雷でLie(嘘)とは気が効いているナ」
「雷は判るにせよ、嘘って?」
 セリカが軽くデータを読み上げると、ケルベロス達が詳細を尋ねた。
 実際にこの敵と戦うかどうかは別にして、疑問はその都度確認するに限る。
「トイレに妖怪が出ると言えばトイレから。村に狼が出たと言えば、本当に狼が襲って来ます。もっとも嘘なので一時的にしか保てず、物語りのような核がないと行使できないようですが」
「都市伝説を武器にするというか、魔術の幻術よりってとこだね」
「まあグラビティで姿を作ってるだけ、その効果だけが真実ってとこかな」
 セリカはそんな感じでメモに詳細を書き、リストに応じて次々にデータを読み上げて行った。
「みんなのダンジョンの攻略が、ドリームイーターを撃ち破る力となったようだね♪」
「まだまだゲートだけだよ」
「ふっ。同じことダ。敵はみなまで食いつくし、次も叩き潰すまで」
 そういってケルベロス達は相談を開始するのであった。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)
セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)
ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)
ディオニクス・ウィガルフ(否定の黒陽爪・e17530)
伽羅・伴(シュリガーラ・e55610)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)

■リプレイ


「やはりドリームイーター活発化したか。しかも雷使いとは」
 町を通過する赤い雷。
 ソレはまるで地図の上に、赤いペンで線を引くかのようだ。
「できれば、外れていて欲しかった予想だったんだがな……。まぁ、当たっていたものは仕方ない。全力で殲滅を行うことにしようか」
 セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)らがヘリオンより降下し、殺意の結界を張り始めた。
『鎧袖一触、蹴散らしてくれようかの』
 赤い雷を放つ天狗は豪語ではなく、嘘吹いた。
 同じ様な意味合いに使われるのだが、こいつにとっては、文字通りの意味だ。
『死にたくなければそこをのけい!』
「来たぞ! 予定通りに動けよ!」
 ディオニクス・ウィガルフ(否定の黒陽爪・e17530)はビルの上に仁王立ちに成る。
 そして敵の前に移動する為に、ビルから近くのアパートへ飛び移った。
「わかったの、だー……」
「準備Okですえ」
 グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)や伽羅・伴(シュリガーラ・e55610)が横合いから現われ、少し離れた位置に陣取る。

 正面に向かった者や、やや遅れて横入りする者等、緩やかなU字で包囲態勢に。
『急々召雷。九・天・応・元・雷・声……』
「その状態で呼べるかよ!」
 ジグザグ軌道で通り抜けを狙う敵の前に、ディオニクスが移動する。
 打ちで相手の体当たりをブロック。ついで蹴りで蹴りを打ち落とす、交差法で迎撃した!
「あん夢喰いはん。思いっきり雷精召喚しよったのに……」
「さっきの詠唱込みで嘘なんだろーねー」
 伴の言葉に写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)が苦笑いしながら応えた。
 相手はドリームイーターであり通常とは異なる思考をしている。
 こいつは嘘を吐く敵だから、平然と違う事を口にしたのだろう、と。
「相手は嘘使いの雷使いという話だったね」
「そだねー。この手の相手は話し半分どころじゃなくて、適当にスルーしないとー」
 セルリアンはナイフを抜いて走り出し、在宅聖生救世主もそれに続いて走り出した。
「虚言に惑わされないように注意しつつ、どちらの雷が上か見せつけてやるとしよう……かなっと!」
『横入りか。姑息に欺瞞、戦に置いては戦術計略、それもまた善し!』
 セルリアンの振るうナイフは高速で、まさしく疾風迅雷。
 影よりも早く斬り付け数本の筋が入る。
「言葉に出せば嘘ですがー、言葉に出すことで事実とするー。といった処ですねー」
「……この反骨精神、何処かで見たな……。全く……面倒臭い連中だ」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)はいつもの笑みを浮かべ、ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)は溜息を吐くと、側に居た1mもの蜥蜴に視線を移した。
 すると黒き蜥蜴は色彩を変じ、銀色の姿となって緩やかに動き始める。
「何やら難儀な性分をしてらっしゃるようですがー、神通力を極めた様はー、このようなものやもしれませんわねぇー」
 二人も動き出し、先に仕掛けたメンツとは逆サイドを塞ぎに掛った。
 フラッタリーはカンカンとビルの横壁を駆けあがり、少しずつ炎を漏らし始める。
 金色は禁色に通じるとか。
「大捕り物ですのよー。神妙にお縄についてくださいましー。環Zeン無欠ヲ謳オウtO……」
 金色の炎が溢れるにつれ、フラッタリーの意識は戦いに染まりゆく。
 だが、それだけではない。煉獄を覗く視界は世界を同じ地獄として見なし、敵を捉える視線はそのまま炎の縛鎖となった。
 敵を捉えんとする意識そのものが、縄の様に敵へと迫る!


 ケルベロス達は町を舞台に暴れ回る。
 最初に離された者達も、仲間が道を塞いだことで追いついて来た。
「さて、半可通の嘘吐き天狗のお手並み拝見と行こうカ」
 ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)は腕を組んだまま飛行していたが、翼を畳みながら滑空する。
「ジュエルジグラットの前の前菜の様なものではあるが___逃がすつもりはナイ。天に輝く七の星を見よ……オマエに死を告げる赫赫たる星こそが我……」
 組んで居た腕を解いたウォリアが、稲妻の様な角度で敵に降り注ぐ。
「裁かれるべき虚言者よ、その二枚舌ごと地獄に堕ちる覚悟はできているな? ……さぁ、オレ/我がオマエを此処で殺す……終焉の時は、来たれり」
『かかか、地獄とはこの世のことよ! 誰にとってものう』
 ウォリアに蹴り飛ばされながら天狗はクルリと回転。
 確かに喰らって居る筈なのに、ケロっとした表情で笑って見せる。
「確かにお前は素早いかも知れないが……この攻撃群……避け切れるとは思わない事だ。with……支援を」
 ディークスはその様子を眺めながら、オウガメタルを解き放つ。
 銀色の蜥蜴は流体金属を散布し、仲間達のガイド役を勤め始めた。
「よーし、ここなら闘っても良さそうだなー。まずはえんごだー」
「とっかーん。ドッカーン♪」
 グラニテがハンマーを振り被ると、在宅聖生救世主は笑いながら突撃。
 ドカンと音がするのはグラニテのハンマー、突貫するのは在宅聖生救世主の方だ。
 もちろん敵に付き合って嘘を言って居る訳では無く、単にその場のノリであるそうな。
「さぁ、狩りの始まりだ。よぉーく狙えよォ?」
 ディオニクスはオウガメタルを放つと、火打石でも合わせるように両手の拳を打ち鳴らした。
 肩まで燃え上がる漆黒の炎が籠手を作りあげて行く。
「手伝わないってこたあねえが、メディックの嬢ちゃん、状態異常の回復は頼むぜェ?」
「それがうちの役目やし……って、にーさんにーさん。うち……行ってもーた。せっかちやねえ」
 ディオニクスが再び走り出したので、伴は大切なことを伝え忘れた。
「まあええわ。後で幾らでも伝えられるやろ。まずは気張って仕事しますえ」
 伴……『彼』の正体は……。
 実は男の娘だったのです。
 しかし伝えようとした相手が移動してしまった事もあり、ガイド役のオウガメタルを後衛にも展開する。
 まずは何枚もの結界を戦場に張り、長期戦に備えていった。

 そして低い立地に場所を移しながら、高速機動で敵味方が暴れまくる。
『くかかか! ワシの動きに付いて来れるか! でなければ置いて行くぞ!』
 赤い稲妻をまとい再び上昇したかと思うと、回転しながら突撃して来る。
 その動きは凄まじく、落下と同時に広範囲に赤雷が振り巻かれた。
「あアァ、LAらら雷イィ!?」
「何が置いて行くだ。嘘も吐き続けりゃ誠に……ならねェよ!!? お前、舐めてンのかコラ。洗脳狙おうと嘘は嘘だっつの」
 フラッタリーが突如、吹っ飛んだ。
 同じ様にディオニクスも跳ね飛ばされて、周囲に雷電がバチバチと弾ける。
 敵が上昇して低地へ再突入した際に、雷鳴をまとっていたのだ。
「天狗さんなぁ、でもウソ吐きちゅーことはその鼻、ウソ吐きすぎで伸びてしもーたんかなぁなんて。あ、うち男……」
「あーあーあー!! きこえないぞー!」
 伴が相手の事をピノキオに例えた後、先ほどの続きを言おうとした。
 だが残念。先にグラニテが耳を塞いで嘘対策をした後、ワーワーわめいて聞こえなかったのだ。


 戦いが進めば敵に大ダメージを与える事もあれば、逆に思わぬ攻撃を喰らう事もある。
 カバーは100%ではないとはいえ、手痛いダメージではあった。
『形状は天狗だが……白兵戦、雷撃、そして召喚術……。何処の魔王だ』
「アハハ。きっと本体は顔が三つあるんだよね~」
 誰かが冷静に戦況を分析して居ると、在宅聖生救世主は思わず冗談で返した。
『呼んだかね?』
「そんなウソに私が騙されクマー!! ……ギャー出た~!?」
 どうやら幻覚攻撃を喰らったのは在宅聖生救世主だったようだ。
 ということは、さっきの会話は現実では無くトラウマ。剣と本を持ち巨城に隠れた小人で顔が三つあるとか……全ての宿敵の特徴が合体した大魔王なんか居ないはずだ。
「何だ? 誰かあとで治療しといてやれ」
「メディックがやられなかったので良しとしておこう。……ひとまず確実に動きを止める。戦いはそれからだな」
 ディオニクスが首を傾げるが、そんな様子を気にする事もなく、セルリアンは刃で空を引き裂いた。
 まるで白昼の残月が、断罪のギロチンか何かの用ではないか。
 空間ごと引き裂くことで、敵に絡まるグラビティの負荷を引き上げて行く。
「神足天耳ニ通ジレド、心通サヌ虚ロ之囚ワrE。責テ宿命尽クヲ焼キ果テヨ!」
『左様。ワシにとって所構わず天地全ては灰燼。みなコレナリ』
 フラッタリーの言う事も、もっともだ。
 通じない筈の言葉に応じたかと思うと、ソレは自分では無くお前達の事だと言い返す。
 それに対してフラッタリーは構う事なく、呪符を握って壁に拳を突き入れた。
「hiひ避、Lai神!」
 フラッタリーが引き剥がした鉄筋コンクリートは、呪符と彼女の力で汚染されて行った。
 神鳴りを散らして削減する避雷針と化す。

 そして砕かれたコンクリートの中を、炎の化身が無数に現われる。
「雷もLieも、均しく焔で焼き尽くしてやるさ」
 それは紛れもなくウォリアだった。
 複数の彼が存在して居るのは、それは地獄の炎で構築された分身だからだ。
 弓を構えた個体が支援を始め、槍を構えた個体が突進。動きを止めた所へ、斧や鉄槌を掲げる個体が飛び込ん込んで行く。
「嘘吐きは相手にするだけ無駄とはよく言ったものだが、早めに処分してやらなければ被害が出る。……特に現実に影響が出る程の嘘なら、尚更な」
 ディークスは最初、攻撃役の支援をしていたが、一刻も早く倒す為、途中から狙撃役の援護に切り替えた。
「火力も補えば……充分だろう?」
「たすかるー。あ、そだ。そのトカゲ絵に描いてもいーかな?」
 ディークスが月光の加護をもたらすと、グラニテはペンを握ってブンブン。
 その言葉に彼は真顔で頷き、こう返したと言う。
「恰好良く描いてやってくれ」
「わかったー。まかせろー」
 表情を変えずにディークスが口にすると、グラニテも真顔で頷き空に銀色の絵具で描いていく。
「わたしが歩んできた世界。すごくきれいだったから、きみにも見せてあげたいんだー。……ちょっとだけ寒いかも、だけどなー?」
 グラニテはまずディークスを描いて、その黒い蜥蜴を脇に描いた。
 そして彼の体にトカゲを摸した銀色の鎧を付けると、周囲に銀色の雪が舞うことで冷気が拡散して行く。
「ねーさん、回復要るんちゃいます?」
「いるいるー。ギッタンギッタンにしてやるう~」
 伴が念のために尋ねると、在宅聖生救世主はチェンソー剣を支えに立ちあがった。
 大丈夫だ、ギッタンギッタンとか死語を口にして居るが本人は無事である。
「受けよ我が……明日から本気出す!」
「ちょっとまて。そこは自分を信じて斬り掛るところじゃねえのか?」
 在宅聖生救世主が剣をポイっとヤる気ごと捨てると、ヤる気は相手の足もとに飛び火する。
 その様子を見てディオニクスは苦笑した。
「嘘ですごめんなさい、明日本当に本気出すかは正直微妙でした! 寝てたい!」
「じゃ、俺が一丁お前の代わりに返してやるか。……嘘でも誠になンだよなァ? ……過日の幻、薄暮の現、黄昏の夢、宵闇の真――、汝が脳裏に刻まれし、棄て去れぬ者の面影よ」
 他人のヤる気を拾い上げ、面倒見の良いディオニクスは牙を剥いた。
 精霊を介して心を抉る力を、肉を抉る感触と共に注ぎ込んで行く。
 それは彼がまとう炎を凝縮して流し込み、心を破壊する!
『馬鹿な! 女神のアバターだとでもいうのか!』
「女神おすか? 聖女おへんの? これも嘘?」
「だろうね。男による攻撃だから女、あるいは本当に追い込まれたのは女性だがそいつはデウスエクスだったのか」
 伴はセルリアンの話しを聞いて居て、こいつは魔女の配下なのかもと思った。
 従う事も不本意だからトラウマで、嘘ばかり言って居るのかも。
「まあ、ええわ。追い込んどるのは確かやし、さーて、あんさんはどない風に死ぬんかなぁ。死ぬ時も本心言わへんのか気になるねぇ」
 伴のもたらす月の加護は癒しの力だが、それは同時に攻撃力を高めるために精神を高揚させている。
 生と死は隣り合わせであり、伴の好むところだ。
 場合によっては自らも攻撃に加わるタイミングを見据えていた。


 更に数分が経過し、戦場に破壊痕が増えて行く。
 雷と炎で空中が赤く染まり、中から狂気の産物が顔を出す。
『みたか我が技、これぞ荒らぶる……ぐあ!?』
「ツカ魔E……」
 フラッタリーは絡み突かせた縄を手繰り寄せる。
 そこへ飛び込む影が一つ。
「悪いな、個人的な恨みはないが、こちらも世界の命運がかかっているのでな。遠慮なく討たせてもらうよ……月影よ、終天を満たせ」
 セルリアンの攻撃は雷を放つと同時に、電光石火の速度を有して居た。
 既に残像すら追いつかず、振るう剣閃はまるで桜の花が咲くかの如く天を染め上げて行く。
「死NO循環Deth」
「寄こセ。縁…さぁ、オレ/我がオマエを此処で殺す……終焉の時は、来たれり」
 フラッタリーが繰り出す一撃は、もはや斬るというよりは体当たりである。
 乱打の果てに斬り落とすと、ウォリアが着地点で待って居る。六尺棒や狼牙棒を構え獲り物だ。
『まだ……』
「勝っている、と嘘吐き鼓舞すれば、真実になるとでも思っているのか。救い様が無いな」
 偽りの鼓舞で士気が上がるのは、味方や弱い者だけ。
 ディークスはさっさと終わらせるべく、周囲の炎に手を突き入れた。
「高まる熱に上限は無く……絡まる深さに際限は無い」
 呼び起こす灼熱を、既に放たれている炎と寄り合わせ連鎖。
 炎は再び鎖と化し、天狗の四肢をまた一つ封印した。
「わたしは逃げない様に、道を塞いでおくなー」
「逃げてジュエルジグラットの手に行かないように、気を付けないとねー。まあ、トドメ刺しちゃうけど♪」
 念のために抑えに回りたい事もあり、グラニテはトドメを譲る。
 在宅聖生救世主は頷いて剣を大上段に構え、振り降ろしてトドメを刺す。

『死ぬには佳い日であった』
「……その生命、糧と成れ」
 真っ二つに成って消え行く敵にディオニクスは短いながらも祈りを捧げる。
「最後の最後まで、嘘の吐き通しでしたわねー」
「死の実感がないとか、生きてること自体が嘘みたいでしたなあ」
 その様子にフラッタリーと伴は苦笑しながらも見送った。
「でも嘘って困るなー。相手の方が強かったら、どう対処したらいいんだー?」
「その為に仲間が居るだろう?」
「そうだナ。大抵はそれでなんとかなる」
 グラニテが首を傾げると、セルリアンやウォリア最も簡単な方法を教えてくれた。
「究極の武器は仲間ってね」
「ふむ。どこかで使えそうなセリフだな」
 そんな風に在宅聖生救世主が評するとディークスが真顔でメモにとり、この場での戦いは幕を閉じた。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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