城ヶ島制圧戦~フロストドラゴン

作者:質種剰


「城ヶ島の強行調査により、城ヶ島へは『固定化された魔空回廊』が存在することが判明したであります」
 小檻・かけら(サキュバスのヘリオライダー・en0031)が、集まったケルベロス達へ説明を始めた。
「この固定化された魔空回廊へ侵入して、もし内部を突破できたら、ドラゴン達の使用する『ゲート』の位置を特定可能であります」
 『ゲート』の位置さえ判れば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーにより『ゲート』の破壊を試みることもできるだろう。
「『ゲート』を破壊すると、ドラゴン勢力は、新たな地球侵攻を行うことができなくなるでありますよ」
 つまり、城ヶ島を制圧して固定された魔空回廊を確保すれば、ドラゴン勢力の急所を押さえることができるのだ。
「強行調査の結果、ドラゴン達は、固定された魔空回廊の破壊を最後の手段と考えているようであります。故に、電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取することは、決して不可能じゃないのでありますよ」
 ドラゴン勢力の、これ以上の侵略を阻止する為にも、皆さんお力添え宜しくお願いします!
 ぺこりとお辞儀するかけら。
「今回の作戦は、他班が築いてくれた橋頭堡から、ドラゴンの巣窟である城ヶ島公園に向けて進軍することになるであります」
 進軍の経路などは全て、ヘリオライダーの予知によって割り出しているので、その通りに移動して欲しい。
 また、固定化された魔空回廊を奪取するには、ドラゴンの戦力を大きく削ぐ必要がある。
「強敵ではありますが、必勝の気概で挑んでほしいでありますよ!」
 かけらはぐっと拳を握ってから、ドラゴンの説明へ移る。
「今回皆さんに倒して頂きたいドラゴンは、厚い霜のような鱗に覆われていて、氷の息を吐いて攻撃してくるであります」
 氷のドラゴンブレスは、頑健さの活きた遠距離攻撃で、複数の相手を氷漬けにする可能性がある。
 また、手足の爪を超硬化し、呪的防御ごと敵を超高速で貫く、近距離の単体攻撃――ドラゴンクローも使ってくる。
「その上、太い竜の尻尾を振るって近くの相手を複数まとめて薙ぎ払い、足止めしてくるでありますよ」
 かけらは説明を終えると、彼女なりにケルベロス達を激励した。
「敗北したら、魔空回廊の奪取作戦を断念する場合もありえます。作戦の成功は皆さんの力にかかっているであります。宜しくお願いします!」


参加者
青泉・冬也(人付き合い初心者・e00902)
トリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)
エリヤ・シャルトリュー(鵲の梯・e01913)
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
ラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)
酒嚢飯袋・豚野郎(百グラム辺り五十円のナマモノ・e03273)
鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)
多武峰・飛鳥(ダークムーン・e17845)

■リプレイ


 城ヶ島公園。
「公園にドラゴン、なんだかシュールな感じですが、大仕事、始めましょうか」
 氷山の連峰のような外見をしたフロストドラゴンを見上げ、静かな声で呟くのはラーナ・ユイロトス(蓮上の雨蛙・e02112)。
 艶めいた緑の髪やいつも笑っている風に見える穏やかそうな顔、透き通るかの如き色彩の角と翼が印象的な、とても落ち着いた風貌のドラゴニアンの女性だ。
 フロストドラゴンの元へ辿り着くまで、念を入れて不意打ちに警戒していたラーナは、戦闘の幕開けを告げるかのように軽やかな声音で歌い出す。
「雨、アメ、降れ、降れ、ケロケロケロ♪」
 ザーーッ!
 怪雨が降り注ぎ、フロストドラゴンにダメージと毒を染み渡らせた。
「この戦いは、負けられないですね……竜退治、頑張っていきましょう!」
 青泉・冬也(人付き合い初心者・e00902)は、気合充分といった様子で皆へ呼びかける。
 内向的な性格ながらも心に熱いものを秘めている冬也は、もう幾度となくデウスエクスとの戦闘を重ねてきたからか、初めてエインヘリアルと戦った時のような緊張は感じられない。
 人付き合いへの苦手意識は簡単に薄まらないものの、短く整えた青い髪に包まれている引き締まった表情からは、彼の成長の程が看て取れる。
「まずは足止めしないと……!」
 それでも戦闘中には素に戻る冬也だが、バスターライフルの照準に迷いはない。
 精密な軌道でばら撒かれた弾丸は、その大半がフロストドラゴンの後ろ脚に命中、ダメージを与えると共に反射神経を鈍らせた。
「この作戦が上手くいけば、ドラゴンの喉元に大剣を突き付けたようなもの……絶対成功させよう!」
 ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)は、爽やかな声音で仲間達へ呼びかけてから、ライドキャリバーのディートのハンドルを握る。
 常在戦場の心構えで地球を守らんと戦う、イタリア生まれの美青年。
 心を地獄化した彼にとって、ディートは大切な相棒であるようだ。
「さ、気合いを入れて行こうかディート」
 まずは、ディートが内蔵ガトリング砲を発射、フロストドラゴンの命中率を下げるべく奮闘し、怪我を負わせる。
 ――ドゴッ!
 次に、ヴィットリオの縛霊手を嵌めた拳が、フロストドラゴンの脇腹へと減り込ませた。
 同時に広がった網状の霊力が青白い巨体を包み込んで、様々な挙動へ影響をもたらした。
(「ドラゴン……強大な敵ですが、ここで倒して戦力を削がないと魔空回廊まで行く事も奪取も出来ない」)
「怖いけど……びびってもいられない、命……怖がるな!」
 と、鳴神・命(気弱な特服娘・e07144)は自らを奮い立たせて、フロストドラゴンへ挑みかかる。
 鋭い目の輝きや、特服を纏った全身から滲み出る迫力から、近寄りがたい雰囲気満載な命。
 その実、戦い自体好きじゃない彼女は、怖い目に遭うと泣きたくなるメンタリティの持ち主だったりする。
 だが命もまた、数多の戦いを潜り抜けている故に、ギリギリのところで恐怖心をひた隠し、毅然とした態度を保っていた。
「そろそろこの地からお前らを駆除しないとならないから、倒すよ」
 威勢良く言い放つや、雷の霊力宿した斬霊刀で、神速の蹴りを繰り出す。
 バリバリバリッ!
 正面からぶち当てた雷刃突の威力は凄まじく、フロストドラゴンの霜のような鱗の一部が、バラバラと剝がれ落ちた。
「相手にとって不足なし。存分に暴れさせてもらいましょう」
 トリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)は、フロストドラゴンの真ん前に陣取って、巨体を見据える。
「さぁ、こちらが相手です」
 両手のガントレットをぶつけ合わせ、音で居場所をわざと伝えてから、俊敏に飛びかかるトリスタン。
 ズブゥッ!
 電光石火の蹴りを見舞って、フロストドラゴンの分厚い胸を貫き、微かな痺れを与えた。
「折角掴んだ機会です、逃すわけにはいきませんよ」
 と、丁寧な口調で笑うのはエリヤ・シャルトリュー(鵲の梯・e01913)。
 強敵と戦える事に半分は緊張を覚えながらも、ぞくぞくする高揚感を抑えきれず、思わず笑みが零れたのだ。
(「相手は強敵、まずは確実に攻撃を当てていかないと」)
 そんな彼は、紫のエリカの花を咲かせたハニーゴールドの長い髪を緑のリボンで飾った、物腰柔らかな青年。
 見た目に違わずおっとりのんびりした性格ながら、やはり強敵に出会うと闘争本能を刺激されるのか、翠の瞳が熱意に燃えている。
「急く思考、されど足は終ぞ追いつかず……」
 エリヤが呟くや否や、ゆらりと魔女の幻想が揺らめいて、光の結界が姿を現す。
 結界より生まれた火の玉が大きな輪に変じ、フロストドラゴンの胴回りを覆って、行動範囲を狭めた。
「爬虫類風情が氷使ってくるとか、理不尽感パないの」
 酒嚢飯袋・豚野郎(百グラム辺り五十円のナマモノ・e03273)は、可愛らしい口調に反してなかなかに辛辣な意見を、フロストドラゴンへぶつける。
 大変血色の良い豚のウェアライダーな彼だが、理由あって逃亡生活を送っているらしい。愛称はらんらん。
 初手でヴィットリオを『真に自由なる者のオーラ』で包み、異常耐性を高めてから、豚さんのド根性で再行動する豚野郎。
「冬眠しないなら、らんらんたちが眠らせてあげるの!」
 改造スマートフォンを振りかざし、なんやかんやで洗脳効果のある電波を放出、フロストドラゴンを催眠状態へと陥れた。
「……私を愚弄するとは、生意気な奴らめ」
 謎のなんやかんやが相当痛かったのか、唸り声をあげるフロストドラゴン。
 ブォンッ!
 身を捩った勢いで太く長い尻尾をぶん回してきた。その際に、フロストドラゴン自身も毒による苦痛を受けている。
「……大丈夫ですか?」
 重い打撃で骨が軋むのを感じつつもエリヤを庇ったトリスタンが、普段の無表情を捨てて薄く笑う。
 どうやら、巨大な敵と直接殴り合いが出来て、内心少しテンションが上がっているようだ。
「ドラゴン。やっぱり強いし、怖い相手だね……」
 ――下手をすると一撃で昏倒するかもしれない。
 しかし、トリスタンの決して少なくないダメージの喰らい様が、多武峰・飛鳥(ダークムーン・e17845)の表情を微かに曇らせた。
 ウェーブがかった漆黒の髪と意思の堅そうな瞳を持つサキュバスで、その容姿端麗さもさる事ながら、男性みたいな服装が目を引く。
「でも、自分にできる事を行い、後悔しないようにする」
 面倒見の良さからか責任感も強い飛鳥だが、性格そのものはさっぱりしているだけに、すぐさま腹を括ってフロストドラゴンへ立ち向かう。
「そう……今はそれだけ」
 早速、愛用のバイオレンスギターで、立ち止まらず戦い続ける者達の歌を弾き、前衛陣を奮起させると共に彼らの守りを固めた。


「どうやらキュアを持ってないらしいのが、こちらにとって幸いだったな……」
 冬也は、フロストドラゴンを更に弱体化すべく、グラビティを中和するエネルギー弾を射出。
 正確に狙い澄ませたが故の激痛を太い尻尾へと与え、その氷柱のような鰭をも撃ち砕いてみせた。
「……その程度で私を御したつもりか?」
 低い声でせせら嗤うフロストドラゴン。
 ビュゴォォォ――!!
 カパッと開いた大口から、猛吹雪に似たブレスを吐き出してきた。
「大丈夫、皆は僕とディートが守るよ!」
 ヴィットリオがラーナを背中に庇いつつ、笑顔を努める。
 ディートも豚野郎の前に立って、代わりに吹雪を受け止めていた。
「流石に手強いね……でも負けるつもりはないかな!」
 と、ファミリアシュートを繰り出すのはヴィットリオ。
 小動物をフロストドラゴンの前脚へとぶち当て、奴の身体に残る痺れを強めてみせた。
 ――ギャギャギャギャギャギャ!
 ディートは激しいスピンでフロストドラゴンの大きな後ろ足へ突撃、煙を上げつつ容赦なく轢き潰していく。
「氷漬けとか勘弁して欲しいの。らんらんの肉質落ちちゃうの」
 可愛く妙な抗議しつつ、掌から『ドラゴンの幻影』を放射するのは豚野郎。別に自分が焼豚になる訳ではない。
 焼き捨てられそうな程の高熱をフロストドラゴンへ浴びせて、翼に酷い火傷を負わせた。
(「もしもの時は、生きて帰る為にどんな事でもする、それが私である事を辞める事でも――」)
 空の霊力を斬霊刀へ宿し、悲痛な覚悟で斬りかかるのは命。
 ザシュッ!
 絶空斬の威力は凄まじく、フロストドラゴンの胸の鱗や、尻尾の鰭をますますポロポロに破砕した。
「うおぉぉぉ!」
 トリスタンは咆哮をあげてフロストドラゴンへ肉薄、盾のように構えたバトルガントレットから、セイクリッドダークネスをぶちかます。
 光輝く左手でドラゴンの前脚を掴み、漆黒に覆われし右手で殴りつけ、大きなダメージを与えた。
「前回は目覚めたて、今回は完全なドラゴン、寒さも違ってきますでしょうか――でも、ここで勝てなければ先にも進めません」
 力強い言葉と共に、薬液の飴を振り撒くのはラーナ。
 メディカルレインが静かに降り注ぎ、ヴィットリオやトリスタン達前衛陣の負傷を瞬く間に癒し、凍傷も治した。
「まさかに、逃げたりしないとは思いますが……」
 エリヤは注意深くフロストドラゴンの動向を観察しながら、ファミリアロッドを小動物形態に戻して、魔力を込める。
 ボコン!
 小動物をフロストドラゴンの首へぶつけて、魔法撃を見舞うだけでなく毒や捕縛の効果をも強めた。
「まだまだ行くよ!」
 ベキッ!
 飛鳥はとにかくフロストドラゴンの攻撃を失敗させるべく、神速の蹴りを胸へ繰り出して、かなりの打撃を生む。
「煩い小童どもが……」
 フロストドラゴンが苛立たしげに威嚇した。


 究極戦闘種族などと謳われるだけあって、ドラゴンは簡単に倒れてくれそうもなく、超硬化した爪を振り下ろしてくる。
 その際、冬也やエリヤの攻撃の効果で毒が3倍回って、ドラゴン自身もダメージを受けていた。
 ザクッ!
 ヴィットリオの胸に氷柱のような刃先が深々と食い込み、飛び散った鮮血は痛々しく映る。
「まだまだ……倒れるわけにはいかないんだ……!」
 けれども、ヴィットリオは膝を着かない。意識を失いそうな激痛に耐え抜き、ただただ皆を守りたいという一念のみで、不屈の闘志を燃やし地に足着けて立っている。
 そのまま、極限まで精神を集中させて――。
 ボンッ!
 突如、フロストドラゴンの顔面を遠隔爆破してみせた。
 ディートも彼の意思に忠実に、炎を纏って突撃、フロストドラゴンへダメージを与えた。
「回復しますね」
 ――凍てつく痛みを乗り越え、勝利を掴まなければ。
 ラーナは生命を賦活する電気ショックを飛ばして、ヴィットリオの深傷を塞いだ。
「凍ってるドラゴンさんは出荷よー?」
 と、惨殺ナイフを抜き払うのは豚野郎。
 フロストドラゴンが心の奥底に秘めたトラウマをナイフの刀身へと映し、それを具現化してけしかけた。
「……フン、何度挑んで来ようとも無駄な事だ……」
 余裕ぶって嘯くフロストドラゴンだが、謎のトラウマを知覚している時点で、豚野郎の術中に嵌っている。
「さっきより動きが遅くなっている……?」
 飛鳥もこの機に乗じて追い打ちをかけようと、黒色の魔力弾を解き放つ。
 ブゥゥゥゥン!
 正確無比な照準でフロストドラゴンへとぶち当て、更なる悪夢を見せるのだった。
「ここは通してもらいます」
 ――ビスッ!
 トリスタンは、指一本の突きでフロストドラゴンの気脈を断って、石化に似た状態へと奴を追い込む。
「まだまだ戦える……!」
 冬也も気力を奮い立たせて、アームドフォートの主砲を一斉発射。
 ドドドドド――!
 決定的な砲撃で、フロストドラゴンの体力を大幅に削っていく。
「ええ。皆さん、頑張りましょう!」
 エリヤはフロストドラゴンへ手を翳すと、ドラゴニックミラージュを撃ち放って火傷を重ねてはダメージを蓄積させる。
「これが私の最大火力、吹き飛べぇ!」
 単砲から連装モードへと変形したアームドフォートを構えて、連続砲撃での飽和攻撃を叩き込むのは命だ。
 ドガガガガガガ!!
 皆の足止めが功を奏して、砲弾は見事フロストドラゴンに命中したものの、射撃の反動で彼女の方が後ろへ吹き飛びもした。
「……私が、かように脆弱な奴等に、負けるとは……無念……」
 だが、そんなデメリットの甲斐もあってか、ケルベロス達は遂にフロストドラゴンを討ち倒した。
「やった……!」
 命をも投げ出す覚悟で気を張っていた飛鳥が、初めてホッとした声を出す。
「強敵でしたが、無事に倒せましたね!」
 エリヤから笑みが溢れた。
「皆さん、お疲れ様でした」
 仲間達へメディカルレインを振り撒くのはラーナ。
「他のチームの援護へ行けると良いのですが……」
 冬也は、自らの怪我の具合を確かめていたが、薬液の雨でこれが癒えると、公園内をきょろきょろと見渡す。
「……肉は冷たい訳ではないのか……」
 同じく傷の癒えたトリエラーは、フロストドラゴンの裂けた肉に噛みついていた。降魔拳士としてというより、ステーキハウス店主としての興味かもしれない。
 その様を見て。
「らんらん、冷凍肉にならずに済んで良かったのー。らんらん☆」
 豚野郎が胸を撫で下ろしている。
「ディートもお疲れ様、いつも助かるよ、ありがとう」
 ヴィットリオはディートの座席を撫でて彼を労っている。
 命は、ふうと大きな息を吐いて、前方を見上げた。
「これで道を繋げる事は出来た……かな」

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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