七夕防衛戦~不壊ならぬ忠誠

作者:黒塚婁

●忠誠なき騎士
 ――ジュエルジグラットに向かえ。
 声なき指令に、騎士は白銀の鎧を鳴らして応えた。
「……御意に」
 短いいらえに揺るぎはなく。寸分の疑いもない。
 されど、彼は欠損している。騎士たる身の上で、もっとも重要なものが欠けている。
 その証左とばかり、彼の剣はモザイクに包まれていた。
 空虚なる剣は――それでも、今の所、振るう道行きが定まっているらしい。
 寓話六塔、彼らの望む行き先へ。
 からんからんと、ランタンを揺らし。
 重いマントを翻し、重厚なる歩みを以て――堂々と、表通りに進み出たのであった。

●迎撃指令
「七夕と言えばドリームイーターが動く……という法則か」
 今年も然り。雁金・辰砂(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0077)はやや惘れ混じりにそう告げた。
 だが自体はそう気易いものではない、と彼は言う。
 今年もドリームイーターたちが七夕の魔力を利用すべく、動くのではないかと警戒していた者達――レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)、セルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)、空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)の懸念通り。
 日本各地に潜伏していたドリームイーターが、ダンジョン『ジュエルジグラットの手』に向け移動を開始したのだ。
 多くのケルベロスがダンジョン制覇したことと、分かれた二つの場所を繋ぐ七夕の魔力により、寓話六塔の鍵で閉ざされたドリームイーターのゲートが開かれようとしているらしい。
「ドリームイーターどもはゲートの封鎖を維持すべく、戦力を集めているのだろう。ゆえに、貴様らにはそれらを迎撃してもらいたい」
 集結するドリームイーターを撃破すれば――七月七日に開かれるゲートへの逆侵攻が可能かもれぬ。
 無論、このドリームイーターを廃した後にも様々なことがあろうが、実に重要な一戦となろう。
「さて、貴様らに討伐を依頼したい相手は――シー・ランタンという、甲冑騎士の姿をしたドリームイーターだ」
 片手にロングソード、片手にランタンを持つドリームイーターで、攻撃手段は見た目通り。配下などは持たず、騎士らしく、正々堂々と正面から掛かってくる。
 モザイクがかかった剣による剣戟は見極めが難しいかもしれぬが、実直な戦いぶりを見せるであろう。
 そして、それの欠損は『忠誠』――ゆえに、忠誠、或いは『主人』を匂わせる動きがあれば――『従者から』それを奪おうと優先して仕掛けて来るかもしれない。
 戦場における合理性を優先するとは思うが、ひとつ心に留めておくとよいかも知れぬ。
「ただし、奴は強敵であることを警告しておく。こちらが見た限り、ケルベロス八人で普通に渡り合える技倆を持っているのは間違いない。容易にひとりが攻撃を引き受けられると思うな」
 そこまで語り、そして戦場だが、と辰砂は続けた。
 ジュエルジグラットの手は東京都港区上空にある。シー・ランタンは大通りをゆき、其処へ向かうらしい。港区までの移動途中、ジュエルジグラット直下、ダンジョン入口、何処で仕掛けるかはケルベロスの自由である。
「奴らを退けても、最終的には寓話六塔が出てくるだろうが――ゲートを奪うまたとない好機。確りと討ち取り、次への布石とするがいい」
 不遜な視線をケルベロス達へと送りながら、辰砂はそう告げ説明を終えるのだった。


参加者
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)
星宮・莉央(星追う夢飼・e01286)
一式・要(狂咬突破・e01362)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)

■リプレイ

●遭遇
 重ねられた鋼が音を立てる。白銀の鎧を纏う騎士の足取りに迷いはない。真っ直ぐにそこを目指すつもりなのだろう。
「やっぱりあのときのドリームイーターですね」
 ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)の声が響く。
 表情の代わりに兜から零れる炎は、細くゆるりと渦を巻いた。相手の気を引く放言のようでいて、全くの適当というものでもない。
 地獄の彼方に揺らめくヴィジョン――最早何処だったかも定かではない海辺――うっすら浮かび上がったそれは記憶の端から、追い立てられるように地獄の炎に呑まれていく。
 彼の――兜の中で起こる小さな変化を汲み取れるものは仲間にもおらぬ。
 あちらも当然、胡乱げな反応を見せた。
「さて――こちらに憶えはないが」
 騎士は小さく声を発した。闇夜ではないが、それを掲げてケルベロス達を見た。からん、ランタンが揺れて鍵が音を立てた。
(「当然ですね。あの頃は地獄もないダモクレスでしたから」)
 ラーヴァとて深く追求するつもりはなかった。
 ――倒さねばならぬ、ただの敵なのだ。
 彼の言葉に多少虚を突かれた節はあるものの。徐に、じりと粉塵を砕くような脚使いで騎士は身構えた。容赦の無い戦意がずらりと居並べば、当然であろう。
「ふむ……其方、なかなかの遣い手と見た」
 鋭い金眼をますます細め、ガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)が言う。
 刀身のすべてはモザイクによって掴めぬが、その剣が重量のあるものだとは解る。それを片腕で易く御す様は、己とスタイルが異なるにせよ、参考になるだろうか。
「この先は通行止めだ。さっさとお引き取り願おうか」
 ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)が煙草を揉み消し、口の端を上げた。
 不敵に拳を鳴らす彼女の隣、微笑む一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)は、纏う空気の穏やかさとは裏腹に、既に銃を組み替え臨戦態勢である。
「ジュエルジグラットに近づかれても厄介ですからね」
 隙を見せれば撃ち込むという姿勢でいて、微笑を向ける。
 周囲を確認し乍ら、やや遅れてそこに加わった一式・要(狂咬突破・e01362)が、薄く笑みを浮かべた。
「避難誘導もいらないみたいね。じゃ、遠慮無く暴れようか」
 好戦的な姿勢を隠さず言い放てば、傍らで赤提灯も一升瓶にあつあつおでんという凶器を振り回し、やる気に満ちている。
 そして、じっと黙ってギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)は合図を待っていた――仕掛けるその瞬間まで、脚を溜めているような姿勢だ。
 皆の様子を一瞥しつつ、藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)は眼鏡に手をかけた。
「ふふ、最早夢喰いは七夕の風物詩ですね。とはいえそろそろ、それも終りにしなければ」
 穏やかに告げ、腕を下ろせば――ゆらり、藤色が淡く揺らめく。
 そう、七夕。彼の言葉に思わず天を仰ぎ、星宮・莉央(星追う夢飼・e01286)は考える。
(「定命の者が多く自給できると云われる想像力、ドリームエナジー。確かに俺達が使おうと思えば使えるのかも……?」)
 不意に浮かんだ思考を、首を振って追い払う。
 今は――目を瞬き、敵を見据える。
「戦いに集中だ……油断してたら一瞬でやられる」
 自身に囁くように言い、ケルベロスチェインを手繰る。
「忠誠をなくした騎士に負ける道理はありません――どうぞ、御覚悟を」
 いつ抜いたのか。白く輝く斬霊刀を正面に景臣は穏やかに宣告した。

●邀撃
 対峙するドリームイーターとケルベロス――両者は弾けるように地を蹴り、衝突する。
 ただそれだけでアスファルトが削れて、礫が舞った。
 重い踏み込みと同時に、斬撃が来る。合わせるのは、景臣かガイストか。
 相手の刀身が伸び縮みすることはないだろうが、衝撃の範囲は尚更掴みづらい。
 ゆえに守りの強さを盾に、先行した景臣が様子見と感覚で合わせる。
 噛み合った刃は重い。斬るよりも砕く――そういう剣だ。そして、景臣にして腕が痺れる威力。
「これはなかなか」
 笑うような吐息を零す。横から、ガイストが踏み込んでくる。
 思うや、ただすれ違う――、
「――抜かせたか」
 鍔鳴りが背後で響いた。視界に残像と残るは白雷の尾。瞬く間に閃いた龍は、その気配を爆ぜる火花と報せるばかり。
 目にも止まらせぬ鮮やかな一刀にてガイストはその胴を居抜き、切っ掛けに、景臣も力で押して、跳び退いた。
「これは長期戦は望ましくないね?」
 確認するように、ラーヴァは紙兵をばらまいた。ひらひらと落ちる護符が、彼の前で僅かに焦げた。
 残念だ、とでも言いたいように。
「さてと…あんまり怪我しないようにね」
 要がバトルオーラを変質させて薄く透き通った水の盾を展開する。個々の前に浮遊する薄氷の守り。更に、莉央の敷いた魔法陣が輝き、傷と堅固な守りを重ねる。
 赤提灯がぶんと大振りに酒瓶を振るい、脛に叩きつけ、意識が下に向いたタイミングで、低く構えたギルフォードが爆ぜるように跳んだ。
 刀に雷の霊力を纏い、一直線に結んだ彼の一撃は、鎧の隙間を突くように鋭い。
 ――だが、シー・ランタンは怯まず、正面から剣でそれを受け止めると、ぐいと押し返される。
 相手が並以上であれ、劣らぬ自負を持つギルフォードであるが、地面を押したが如き圧には思わず脚が下がり――忌々しそうに小さく舌打ち、即時、離脱を試みるが、相手が踏み込んで押さえ込んでくる。
 轟くのは、対の射撃。ほぼ射撃戦用と改造された砲撃形態のハンマーと、取りなしやすいように備えたガントレットを組み替えたライフルと。
 放たれた二対の竜砲弾は後方から仲間の合間を鋭く走り抜け、甲冑の肩と、兜の側頭部に多段の衝撃を与え、吹き飛ばす。
「同じ立ち位置で何より。嘘でもお前に仕えるのは御免だ。仕えられるのも……寝首を掻かれそうだな」
 見届けたハンナがライフルを担ぐように姿勢を変えながら嘯けば、
「そうかな? 結構、従順だと思うんだけど」
 瑛華は僅かに首を傾げる。多少作った、きょとんとした表情は彼女が相手だからこそ向けるもの。
 しかしすぐに、いつもの憂いを帯びたような、艶を覚える笑顔を浮かべた。
「でも確かに、そのうち急に噛みついちゃうかも」
 苦虫を噛み潰したような表情で、ハンナはそういうとこだ、と指摘する。
「ま、従順なだけのお前ってのも気持ち悪いしな」
 ひどい、と笑って訴える瑛華を置いて、彼女は軽く横へ跳ぶと、くるりと片手でライフルを操り、素早く次の弾丸を叩き込んだ。

●夢穿
 騎士の剣が薙ぐ。風圧が距離を詰める者達を裂き、勢いを削ぐ。ぱりぱり、と小気味よい音が響いて割れる。要の施した盾が立てる音だ。
 莉央の歌声が強く響く。傷を癒やし、仲間の背を押す。更に赤提灯が、おでん片手に、消耗を重ねる景臣とガイストを交互に応援していた。
 血飛沫が空に花と咲かせながら、滑らかに景臣が細剣を繰る。美しき花の嵐が騎士を包む――幽玄の光景を鋼の鬼が突き破ってくる。
 オウガメタルで装甲纏ったギルフォードの強烈な拳が強かに鎧を撃つや、対極よりドラゴニック・パワーを噴き出し加速したハンマーが振り下ろされた。
 シー・ランタンは青いマントを翻し、剣を手首で返す。ガイストの手元へ向けて剣を楔に、その威力を殺そうという動きだった。
 騎士の足元で突如と、水が爆ぜる。要が虚を突くように仕掛けた衝撃は、相手のリズムを崩す。
 そこへ戦場を貫くエネルギー光弾が畳み掛ける。
 背を襲う光弾を浴びて、膝を着くように前へ揺らいだ騎士へ、
「……捉えました」
 脚を撃ち抜く的確な射撃が、戦闘で痛んだ装甲を吹き飛ばす。
 おらよ、掛け声一つ、地獄の炎を纏う拳でハンナが直接仕掛ければ、騎士は前のめりの体勢から、素早く地を叩いて、もう片方の腕を上げた。
 カン、と金属同士が叩き合う音がして、ランタンが激しく揺れた。然し彼女の叩き込んだ火種は、確りと鎧を伝い、白銀を不思議な色で染めた。
 攻撃される勢いを借りて、横に退いた騎士は、そのままランタンを掲げ続ける。内部に燃える焔が強く輝き出す――。
 その行動の意味を知っているケルベロス達は、それぞれに判断を下す。
 とろりとした火が溢れ、視界を埋める。いきれの苦痛よりも、身を蝕むような不快感が先に立った。体力を削り、奪われる不快感だ。
 盾と走るものの脚が止まれば、ラーヴァ目掛け、騎士は構えを取り直す。彼に因縁があるというより、順序の問題だろう。
「無口な方のようですね」
 無言で次の段取りへと移ろうと鎧を鳴らしたそれへ、彼は考えるようなポーズを見せた。
「忠誠、主従でしたか。たしか此方にもそんな者たちがいましたが……」
「いけません! 高貴なお体にえーと……お怪我があれしては!」
 騎士の後ろで、要が声をあげた。
「心遣い、ありがとう。だけど此処で俺も身体を張らなければ」
 咄嗟に合わせ、応えたのは莉央だ。冷や汗をかく要の隣、恭しく視線を下げた景臣が続ける。
「莉央様をお守りする事が、僕の務め故」
 全身に朱が刻まれようが次の構えを取る。寡黙に頷くガイストが先んじて一歩前に進む。宵色の鱗に籠もる力が増し、守りを譲る気は無いと競うように。
 果たして、騎士の注意は再度そちらに向けられる。従者を殺して忠誠を奪おうとする、それは傾向として確かなようだ。何処まで固執してくれるかは、不明だが。
「――佳境だな。どっちに転ぶか」
 ハンナが呟く。そうだね、と瑛華も応じた。状況としては狙い通りに進んでいる。前衛で守りを分かち合い、二人とラーヴァが撃ち込んだ呪縛は確実に動きを鈍らせている。
 消えぬ氷と炎が苛み、体力も削れているはずだ。
 莉央と要、赤提灯の援護も充分。ギルフォードの攻撃もほぼ芯を捉えだした。こうなれば、あっという間に勝敗は決するだろう。
「ひとりも倒れず、それが理想ですけどね」
 最も体力を削られている景臣が微笑んだ。それへ誰かが口を挟む前に、騎士の鎧が軋む――来る、と展開する切り替えも早い。
 騎士の動きはここに来て加速した――従者を捉えたからであろうか。
「その忠誠、貰い受ける――!」
 唐突に口をきき、高く振り上げた剣が、要の頭上で唸った。
「忠義ね……柄じゃないけど、まあ、番犬ってくらいだからね。誰のために、何に剣を向けるかくらいはきっちり定まってるわけよ」
 淡く笑んで、ゆるりと構えを直す。自ら前へと跳んで、淀みない水のオーラ纏わせた蹴撃を振るう。
 はらりと落ちる自分の黒髪を見送りながら、水平に貫く横蹴りが、騎士の甲冑を正面から砕く。
 中身は、無かった。鎧が肉体であるならば、胸に穴が空いたも同然か。
 ――空虚、そんな言葉を莉央はそれに見た。
「誰かに忠誠を抱くから、護りたいと思うから『騎士』だと思ってたけれど、彼の場合は、何が在る故に騎士なんだろう」
 仮に彼らを倒し、自分を主と仰いでどうするのだろう。
 そんな思考を遮ったのは、瑛華の声。
「そろそろ、終わりにしましょう」
 涼やかに告げ、無造作に空を蹴る。鋭い蹴撃から生じた星のオーラが騎士の手元を襲う。振り上げる動作で威力を弱めたそれの懐へ、金の髪が踊る。
「じゃあな」
 ひゅ、と風を切る回し蹴り――黒い軌道が鎧へ斜めに傷を残す。やはり、血は溢れず、空洞が覗くばかりだ。
 莉央は軽く瞑目し、息を吐く。
「この力を振るう先は揺るがない――何時までも。俺の『夢』の力……見縊らないように」
 夢という自身が信じる力において、譲るつもりも、負けるつもりもない。
 彼は大切な何かを包むように、両手を合わせる。
「―さぁ起きて。"夢"の続きを始めよう」
 鹵獲した魔の欠片を手の隙間から広げる。輝きは、猫の姿で四方に分かれ、仲間の元に駆けていく。
 癒しの力を持つ猫を肩に乗せた景臣の黒髪の向こう、藤色が揺れる。
「さあ、遊びましょう?」
 誘う言葉と共に、焔が花と舞い踊る。閃いた剣閃に呼応し、陽炎がその視界を乱す。
 旋風が幻想が如き光景ごと巻き上げて、進化の可能性を奪う槌撃が横から強か撃つ。
 熱と氷。散々に痛めつけられた鎧は、ガイストの一撃で大きく戦慄き、全身に亀裂を走らせた。
 そこへ、影が奔る。
「・・・nonsenseだ・・・。」
 両手の得物、オウガメタルの鋼糸、剣属性を付与された十本の投げナイフ――ギルフォード自身が四重の刃をもつひとつの武器となりて、騎士の脇を駆け抜けた。
 四つの凶刃は甲冑の守りも物ともせず、四肢を斬り込む。
 されど、攻撃は止まぬ。彼の背より、熱が迫る――。
「我が名は熱源。余所見をしてはなりませんよ」
 冷徹な声音。
 長重な機械仕掛けの脚付き弓をラーヴァは全身を使い限界まで引き絞っていた。強靱なる弦が、屈強なる鋼の矢を空へ解き放つ。
 轟、と炎が中天で蜷局を巻いて、滝と降り注ぐ。四肢を深く損傷した騎士に、最早、躱す術はない。最後の抵抗と何とか剣を振るい、注ぐ炎に合わせたが。
「――おお、我が忠誠、取り戻せぬ儘……私に相応しい主は……」
 白銀は灼熱にみるみる内に呑み込まれ――くぐもった低い断末魔を響かせながら、炎と共に消え去った。
 そして――からんと乾いた音を立て、ランタンだけが転がった。

●灯火
 ラーヴァはランタンを拾い上げる。ドリームイーターの魔力で灯っていた炎は消えている。
「うん、この光を覚えていたんだよねえ」
 海辺で見た、美しい光。
 ゆえにシー・ランタンと彼は記憶し――地獄の淵においても消えぬそれを、同一と認めた。
 過去を繋ぐような貴重なモノを前に兜からこぼれる赤はより赫と輝き。
 戴いていこう、と確りと確保しながら、
「これでお終いでもございませんしね」
 振り返るは、ジュエルジグラットの方角。ケルベロス達の視線も揃う。一仕事終えたばかりだが、ギルフォードの金眼が鋭い光を放った。
「あそこにいつまでも居座られても、困るしね」
 仰ぐすっきりとせぬ空に、莉央が嘆息を向けた。
 されど、戦いの合間の小休止――。
 火の付いていない煙草を咥えつつ、ハンナが景臣に声をかけた。
「お疲れ――お前に、そろそろ疫病神だと思われてそうだぜ」
 厳しい戦場において――景臣が負傷するのを度々見かけることへの、労いに。ハンナが言うの、と瑛華が惘れ笑うのは見ない振りだ。
「いえいえ、好きでやっていることですから」
 対する景臣はしれっとしたものだ。穏やかな微笑み、仲間が無事ならば良しという軸がある限り、きっと変わることはない。変えるつもりもない。
「ちゃんと生きてるんだから万事問題無しね」
 のんびりと要が応じる。
「頼もしくて結構だ。老骨の折り甲斐がある」
 ガイストは獰猛に似た笑みを零すと、虚空を振り返る。
「――モザイクの無い其方に会ってみたかったものだ」
 そして、陣笠を深く被り直し、歩き出す――次なる戦いが未だ控えている。

作者:黒塚婁 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。