七夕防衛戦~ストレイキャット

作者:天枷由良

 東京、銀座。日本一の『価値』を持つ場所。
 その路地裏で揺らめく影が天を見上げている。
 青い二つの光で、じっと彼方を見ている。
「…………」
 やがて、影は横に一度、縦に二度、首を振って呟く。
「……『価値』のない私は、ウルフクラウド様の命に従う以外、何がありましょう?」
 それから手足の生えた金貨を二枚引き連れて、ゆっくりと歩き出す。
 その先には。
 青の双眸が再び見据える先には、空に留まる巨大な“手”があった。

●ヘリポートにて
 七夕。分かたれた二つが繋がる日。
「――その日に満ちる魔力と、多くのケルベロスが『ジュエルジグラットの手』を制覇した事によって、寓話六塔が鍵をかけたドリームイーターのゲートが開かれようとしているわ」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は語り、手帳の頁を捲る。
 其処に記された予知の一端を担ったのは、ドリームイーターの動きを警戒していたレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)らである。
「ドリームイーターはゲートの封鎖を維持すべく、日本各地に潜伏していた仲間を『ジュエルジグラットの手』に集めようとしているわ」
 この集結するドリームイーター達を先んじて撃破してしまえば、七夕に開くであろうドリームイーターのゲートへの逆侵攻すら可能かもしれない。
「逆に、ジュエルジグラットへの合流を許せば、後の障害となるのは明白。皆には、この各地から移動してくるドリームイーターの一つを、撃破してもらいたいの」

 ミィルの予知に現れたドリームイーターは『迷い猫』なる者。
 迷い猫は“価値”が欠けていて、それを埋めるべく『財産的価値の象徴』を持つ経済的に豊かな人を幾度か襲撃。“価値”を奪う過程で、新たなドリームイーターも創造していたようだ。
「日本一の地価を持ち、高級品を扱うお店も多い銀座――東京都中央区近辺に隠れ潜んでいた迷い猫は、夜更けに潜伏先を発って新幹線などが走る線路沿いに南下、港区上空の『ジュエルジグラットの手』へと向かうわ」
 中央区と港区は隣接しており、ふらりと歩いて移動する迷い猫でもすぐに目的地へと辿り着ける程の距離しかないが、敵が動き出す頃合いまで判明しているので、迎え撃つのは道中でも『ジュエルジグラットの手』の直下でも、或いはダンジョン入口でも構わない。
 何処を選ぼうと人払いなどは不要。ケルベロスが考えるべきは迷い猫の迎撃方法のみだ。
「他に情報は――ああ、迷い猫はコイン型のドリームイーターを二体連れているはずよ。戦闘力は低く、脅威と呼ぶほどの敵ではないと思うけれど、恐らく迷い猫を守る盾になるでしょうから、それを考慮した作戦を立てた方がいいかしらね」

 集結するドリームイーターを打ち破り、七夕に扉の封印が解けたなら、それを再び閉じる為に寓話六塔が姿を現す可能性が高い。
「つまり、この戦いに勝利すれば、彼らを討ち取るチャンスが巡ってくるかもしれないということ。しっかりと勝利を収めて、後の戦いに繋げましょう」
 声色に期待と信頼を滲ませながら手帳を閉じて、ミィルは説明を終えた。


参加者
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)
リップ・ビスクドール(暴食の狂狗・e22116)
鍔鳴・奏(碧空の世界・e25076)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
星野・夜鷹(夜天光・e67727)

■リプレイ


 あらゆる財の寄せ集め。全てを堆く積み上げた、その頂点。
 眠らない街。陳腐な言葉だが、それは決して偽りでなく。
 其処は闇を嫌うように、煌々と輝き続けていた。
 だからこそ、戦場には相応しくないだろうと。
 ケルベロス達は敵を待ち受けるに当たり、まず銀座という土地から離れた。
 けれども全く具合が悪いことに、敵の目的地は目と鼻の先。
 港区上空。其処に揺蕩う手と、あまりに近すぎては不測の事態を招くかもしれない。
 つまりダンジョンの入口は当然の事ながら、その直下という選択肢も最初から無い。
 結局、八人が降り立ったのは中央区と港区の境目辺り。
 敵の進路とされる線路沿いの、ビルの谷間に位置する小さな公園。
 喧騒からそれほど離れたわけでもないのに、別世界のように静まり返った緑の中。
 待ち伏せにもお誂え向きと言えるだろう其処で、ケルベロス達は――。
「すげぇ、モラの毛皮に宝石が埋まる埋まる」
「私もモラにつける!」
 皆々気を張り詰めて、密やかに佇んでいるかと思えば、そうでもなく。
 鍔鳴・奏(碧空の世界・e25076)とリーズレット・ヴィッセンシャフト(碧空の世界・e02234)は間近に迫る戦いなど何処吹く風と、毛玉のようなボクスドラゴン“モラ”に装飾品を押し付けていた。
 しかし、僅かな光を受けて煌めくそれらと“もこもこの塊”は酷く不釣合い。
 さしものモラも「どうしたものか」と困り果てているようだったが、主人とその連れ合いの仕業であれば致し方なし。最後にお守りだとネックレスを巻き付けて満足げな二人を、じっと見返すばかり。
 とはいえ、一見して悪ふざけにしか思えない彼らの行いにも意味はある。モラは戦術的な理由で以て、価値あるものに塗れている。
 それにしたって弄ばれている感は否めないが――しかし、そうしていられる時間に限りがあることは、奏もリーズレットも理解しているだろう。
「……お二人とも、その辺りで」
 微笑浮かべて見守っていた西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)が、声掛けつつ眼鏡を外す。
 途端に色が失せた彼女の顔を眺めて、箱竜と戯れる二人も表情を引き締めれば、公園を満たす静寂と彼方の喧騒との合間に、ひた、ひたと何かの歩く音が感じ取れた。


 ――迷い猫。
 ぬぅっと影から湧き出るようにして現れたそれは、しかし猫と呼び難い。
 まるで闇が服を着て歩いているようだ。何処までも何処までも、底知れぬ深い暗がりの中には怪しげな双眸だけが青く光っていて、それがケルベロス達を静かに睨めつけている。
「……パッと見だと大人しそうな感じですが」
 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は呟き、ライドキャリバー“プライド・ワン”を傍らに置いて様子を窺う。
 いつの間にやら、迷い猫の両脇には金貨も並んでいたが、やはり此方を見据えたまま動かない。その視線も態度も、どうにも戦意、敵意、殺意というものに欠けている気がする。
 それでも、敵であることに間違いはない。
「行かせないよ」
 僅かな沈黙の後、リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が二丁の銃を抜きながら言った。
「この先には、行かせない」
「……でも、行かなければ。『価値』の無い私には、それしか」
 意外や真っ当な答えが、そしてまた意外にも細く頼りない声が返る。
 どちらも驚くには充分なものだ。
 だからなのか、それとも単なる気まぐれか。
 リップ・ビスクドール(暴食の狂狗・e22116)が口元の覆いの向こうから、くつくつと笑い声を漏らす。
「価値がない……なんて……可笑しな事をいう、ね」
「……?」
 それが欠落しているからこその迷い猫は、意味が分からず首を傾げた。
 けれどもリップは言葉を継がずに――正確には何某か独り言を溢しつつ、懐から小さな塊を取り出して投げる。
 ころころと転がったそれは、単なる石。
 石にしては綺麗だが、しかし万人が価値を認めるとは思えない、ただの石。
 だから迷い猫の興味を惹くには至らず。青い双眸の気配も変わらない。
 むしろ変わったのは――リップの方だ。
 迷い猫のそれと似た青が、紅く、紅く染まっていく。
 そうして露わになる彼女の本性は、口元の厳しい軛を自ら取り払って、誰に言うともなく尋ねる。
「……そろそろ……喰べて……いい?」
「いいけど、独り占めはダメだよ」
 逆刃の黒鎌を愛しげに撫でながら、カッツェ・スフィル(しにがみどらごん・e19121)が答えた。
 リップは――聞いていない。そもそも、カッツェも彼女の方を見ていない。
 視線も意識も、二人のほぼ全ては迷い猫に付き従う金貨へと注がれている。
 それはある種のマナー。食事における作法。
 メインディッシュを頂く前に、まずは前菜を平らげようとする、意志の表れ。


 そうして飢えた番犬が二人、金貨の片割れへと襲いかかる。
 虚の力を纏う刃と、怪物じみた咬合力。それらに襲われた金貨のドリームイーターは為す術なく身体の一部を――価値を奪い取られて、無様に転がる。
 瞬間、また新たな獣の咆哮が轟いた。
 臓腑を刺して抉ったような、その嘆きにも似た叫びはケルベロス達を俄に強張らせて、そのままゆらり揺れる竜の尻尾へと集う。
 其処には、これ見よがしに幾つかの宝石が付けられていた。
「――っ!」
 迷い猫の袖口から忽然と現れた鍵が逞しい尾を傷つける。
 けれどもカッツェは呻くでなく笑って。誘うように竜人の証を大きく振る。
 ならばと猫も再び腕を振り上げ、それを――死角から迫る鎖へとぶつけた。
「ちっ……」
 目論見通りとは行かず、星野・夜鷹(夜天光・e67727)が不満げな顔を見せる。
 仲間達が金貨を片付ける間、猫に牽制をかけるのが彼の担った役目であるが、しかし。
(「……近づいて叩き切る方が気楽なんだけどな」)
 何故不向きな仕事を自ら背負ってしまったかと、夜鷹は自問しながら次の機会を窺うべく間合いを取った。
 それと入れ違うように、快活な声が戦場に響く。
「リズ!」
「OK、奏くん!」
 呼び合いながら翼を広げたリーズレットが塗料をぶち撒ければ、奏は無傷だったものと体勢を立て直しかけたもの、二つの汚れた金貨をすれ違いざまに手刀で裂いて抜ける。
 その一撃で時間すらも断たれてしまったか、頼りない手足で棒立ちとなった瞬間にモラが体当たりを食らわせると、さらにリリエッタも攻勢の波に乗る。
 人目も憚らず短いスカートを翻して、星型のオーラを蹴り込む。勢いよく叩き飛ばされた金貨は、如何にもそれらしい音を響かせながら地面を跳ねる。
 それを、業炎纏ったプライド・ワンが撥ねる。
 ともすれば敵方が哀れにさえ思えるほどの集中打で、金貨は瞬く間に削れ砕けていく。
 元より迷い猫がドリームエナジーを得る過程で生み出した、謂わば残り滓のようなもの。万全のケルベロスを前にして、良いように弄ばれるのも仕方ない。
 それでもどうにか猛攻を耐え凌げたのは、霧華が心と刃を一にしようと耽り、未だ刀を抜き放たなかったからか。
 這々の体で生き残った金貨は、余力ある同胞と合わせて戦場に大量の硬貨を撒き散らす。銀と金のそれは前衛を務めるケルベロス達を惹き付けて、その視界を眩い輝きで奪う。
 すかさず反応したのは、小型治療無人機の群れを操ってカッツェの尾を癒していた真理。
 此度の戦場で癒し手を務める彼女は、不可思議な力で銅銀の硬貨に囚われた仲間達の意識を解き放つべく、ドローンの陣形を組み換えて差し向ける。
 それで大方片付いたところにモラが加われば、小竜から力を注がれたリリエッタは明瞭な世界に死にかけの金貨を捉えて、軽やかに大地を蹴りつけた。
 滑るように跳んで間合いを詰め、下から上へと脚を振り上げる。金貨は激しく回りながら空に舞い、いよいよ耐えきれず二つに分かれて――今際の際に一際強く輝くと、砂粒のように崩れながら戦場の一点へと吸い寄せられていく。
 其処には、青い双眸が在る。


 何が起きたのかは、予め知らされているのだから当然分かる。
 すぐさま奏が軍扇を振って、指図を受けた後衛のケルベロス達が迷い猫に狙い定めた。
 そしてリーズレットが矢を射ち、夜鷹が集中力を爆発という形に変える――が、しかし。
 前者は爪に叩き伏せられて、後者は小さな金の盾に阻まれる。
 つくづく運がない。夜鷹は苛立ちを一枚重ねるが、そんな彼に一瞥すらくれず迷い猫は吼えて、吼えて、吼えて。暗がりから凶暴性を晒しつつ、価値の証を求めて地を走る。
 その先には宝石付けた竜の尾が揺れる。
 一撃で切り取り損ねたが為に、それしか目に入っていないのか。
「必死になっちゃって。あーあ、価値が無いって可哀想だなぁ」
「――ッ!」
 あまりにもわざとらしい嘲笑は誰が見ても挑発だったが、其処に疑念を抱くようならば凶暴などとは呼ばない。
 迷い猫の足爪がカッツェの尾を裂く。千切れ飛ぶまでは行かずとも、それなりの傷から散った飛沫が戦場を汚す。
 そうしてされるがままにはならず、奪われた以上を奪うのが自身を死神と称すドラゴニアンの少女らしさなのだが――あっという間に眼前から消えた敵には自慢の大鎌も届かない。
 やむなく狙いを切り替え、残る金貨に竜骨の籠手を伸ばせば、そちらはやはり三下。いとも容易く捉えられて、その力の、価値の一部を奪い取れる。
 もっとも、それが満足いくものかと言えば――物足りない。到底足りない。
 その不満をぶつけるように金貨を放り投げる。
 転がった先は図らずも、腕を鋼で固めた霧華の前。
 容赦のない鉄拳が降り注ぎ、金貨が薄板へと変わった。
 それを――横からリップが掻っ攫っていく。蹴り飛ばし、爪を立て、食べやすい大きさに仕立てて口を開ける。
 しかし、其処に溶けゆくよりも先に金貨は崩れて、やはり迷い猫へと吸収されていく。
 交わらぬが故に排出されたもので形作られたお供は、奇しくもケルベロスという存在を介して、迷い猫が欲す価値ではなく、力の一部と化したのだ。
「――――ッ!!」
 猫には似つかわしくない咆哮が響く。
 箍の外れた凶暴性と、暗がりの内から湧き上がる力がそうさせているのだということは、わざわざ意識を傾けるまでもなく分かる。
 そう、分かるのだ。
 むしろそうなると知っていて、分からないはずがない。
 だから霧華の太刀筋に迷いはなく。誰の目にも留まらぬ疾さで抜き放たれ、また再び鞘へと収まった刃は、本来交わるはずもないその力を、ただ一太刀で無に変えてしまった。
「……あ……ああ……っ!」
 胸元を掴みながら、迷い猫が呻く。
 揺れる青い眼は、冷徹にさえ見える無表情さの下に、小さな狐拍の欠片を認める。
「――――!!」
 寄越せ、と言ったのか。それとも返せ、と言ったのか。
 唸り声はどちらか定かでないほどに荒々しく。
 けれども、その苛烈な声と共に繰り出された鍵を霧華が難なく凌いでみせた瞬間、この戦場における勝敗は決したようであった。


「カワイソウだな」
 初めの頃の鬱憤を晴らすように吐き捨てながら、夜鷹は猛る炎で敵を焼く。
 己の価値は己が決めるものだと。そう断じる彼には、価値だけでなく生命まで失う寸前で返せ寄越せと嘆く迷い猫の姿を、そう評するしかないのだろう。
「すぐそこに『手』があるのに、こんな所で倒されるなんて本当に価値がないなぁ」
 夜鷹の言に乗って、カッツェも嘲りながら大鎌を振る。
「可哀想だからカッツェが価値をあげようか?」
 何かしらの有益な情報でもくれたらだけど――と、そんな誘いに否と応じる辺りには、まだ矜持とでも言うか、迷い猫の求める『価値』にも一応の定義らしきものがある事が窺えたが、事ここに至ってはその事実そのものに価値がない。
 息絶える寸前のデウスエクスなど、ただ淡々と追い詰めるだけ。
 それを言葉でなく、太刀筋で示すように霧華が切り抜けていく。
 敵とのすれ違いざまには、狐拍を見せつけて。けれども迷い猫の目は、その小さな欠片でないものを求めて彷徨う。
 ――モラだ。価値と生命を補うべく、財で身を固めた子竜へと足爪が伸びる。
 しかし奪えたのは僅かで。未だ健在である相棒の姿に胸を撫で下ろしつつ、奏は呟く。
「迷い猫。価値を求めるキミの欲を、力を、全てを貰う。その夢を喰らおう」
 そう言って――仕掛けると見せかけ、遠目から炎を放つ。
 本命はその後。奏へとウィンクを送って、リーズレットが大地から喚ぶのは青藍の薔薇。
 見た目こそ美しいそれは、蔦で打ち、棘で刺して迷い猫を死の淵へと追いやっていく。
 畳み掛けるように、真理も必殺の光線を撃ち放って。
「チャンスを逃がすわけには行かないのです」
 呟けば、猫からはまだ『価値』を得られていないにと、恨むような声が届く。
「リリにも価値なんてないけど……」
 サキュバスの残霊を喚び、その手を固く握りしめながらリリエッタが言う。
「……地球を脅かすお前達よりは絶対マシだよ」
 合わせて引き金を引けば、荊棘の魔力の込められた弾丸が青い双眸の間に吸い込まれて。
 程なく倒れたそれに、リップがゆっくりと乗り上げた。
 間近で覗いても、暗がりは底知れぬ闇としか映らない。
 けれども、手を沈めれば何か形あるものに触れることが出来た。
 その感触を優しく撫で擦りながら確かめて、リップは囁く。
「一つ、間違えてる、よ……」
 アナタは、無価値なんかじゃ、ない。
 まるで母が子に聞かせるような、そんな穏やかな声。
 ああ、討ち果たす敵にすら慈悲を与えているのだ、と。
 様子を窺っていたケルベロスの中に、もしそう考える者が居たならば――きっと、酷く後悔したに違いない。
 何故ならば。
 唯一の価値が、得難い価値がアナタにもあると、頻りに語り聞かせたリップは。
 迷い猫を緩やかに抱き起こしながら、その首筋に大口開けて齧り付いたのだから。


「……」
 砕ける音、滴る音、それらの狭間で一心不乱に夢喰いを喰らう背中を見つめて、カッツェは無言のまま踵を返す。
 自らの“喰らう”と彼女の“喰らう”では、まるで意味が違う。
 そしてカッツェの喰らうべきものは既になく。また番犬としての使命も果たされた。
「帰ろっか、黒猫」
 大鎌を撫でて呟く、その姿はすぐに闇夜へと消えゆく。
 そうして一人が離れたのを切欠に、ケルベロス達は異様な光景を公園へと残したまま散り散りになっていく。
「……金貨や宝石よりも価値のあるもの、あるんだけどな」
 惜しむように囁くリーズレット。
 それを抱き寄せて、奏も呟く。
「次はキミが本当の価値がある事に気付く事を願う」

 やがて完全なる静寂が訪れた頃、穢れた口は再び夢喰いへと賛辞を送る。
 ――だって、こんなに美味しく、私を満たしてくれるんだから、と。
 それが迷い猫の欠落を埋める言葉であるかは、勿論、言うまでもないことだろう。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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