七夕防衛戦~扉を護り、正義を奪う

作者:のずみりん

「七夕の魔力が満ちる時、鍵は砕けジュエルジグラットの扉が開く……委細、承知」
 放棄された倉庫街より、正義だったものは立ち上がった。
 護るべきの象徴たる装甲服は固く、分厚く、筋肉のようにしなやかな波を描く。右腕に収めたブレードの手入れは怠りなく、バイザーに覆われた顔はただ正義であるかのように無貌。
 ただ胸のモザイクだけが、彼のものを彼の者たらしめたであろう象徴を埋めるモザイクが、彼の者がデウスエクス・ジュエルジグラット、ドリームイーターと呼ばれるデウスエクスであることを示していた。
「万を三十と重ね、ジュエルジグラットの錠に綻びさせるほどの信念。ならば、あるいは」
 喪われた名前と正義をなぞり、『イニシャル・ジェーイ』は独白する。
 寓話六塔からの指令はゲートの封鎖と防衛。だが来るだろう、ケルベロスたちは。
「ナビゲート、湾岸エリア」
『Caliber Come Closer』
 ジェーイの声に電子音声が応える。倉庫から飛び出す大型バイクに跨った彼に、機械仕掛けの猟犬が付き従った。
「往くぞ」
 呼ぶべき鬨を失った男は、ただ短く出立を告げた。

『七夕に向け、ドリームイーターを警戒していたレーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)たちから情報が入った』
 話を聞いて集まったケルベロスたちに、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は二つの話だと切り出した。
「まず一つ。ドリームイーターのゲートが再び開かれようとしている。多くのケルベロスがダンジョン『ジュエルジグラットの手』を制覇した事で、2つの場所を繋げる七夕の魔力により寓話六塔が施した鍵に綻びが生じてきているらしい」
 ジュエルジグラットの鍵が開かれるということは、ドリームイーターたちのゲートに逆侵攻し決着をつける事が可能になるということ。
 これは大変な朗報であり、ドリームイーターたちにとって最も恐れていた事態に他ならない。
「……それが、二つ目の話だ。日本各地に潜伏していたドリームイーターが、ダンジョン『ジュエルジグラットの手』に向けて移動を開始しようとしている。恐らくはジュエルジグラットを護る寓話六塔が指令を出したのだろう」
 ドリームイーターたちはゲートの封鎖を維持し、ケルベロスたちを近づけないよう目論んでいる。鍵を再び開くには、まずこの集結するドリームイーターたちを叩かなければならない。

 皆に頼みたい相手だが……と、リリエは広げた都内の地図に一本の線を引いた。
「神奈川から首都高、渋谷線へと高速道路を侵攻中のドリームイーターが確認された。すぐに現地に飛ばすが、あまり猶予はない。敵がジュエルジグラットに至る前に迎撃を頼む」
 正義と名を失ったドリームイーターをリリエは『イニシャル・ジェーイ』と呼称した。
「ジェーイはヒーローの最大公約数的な姿のドリームイーターだ。正義を問い、喰らう者という情報が得られている」
 防衛の指令と共に、ケルベロスたちの正義へと着目したのだろうか? デウスエクスの考えはわからないが……と、リリエは話を戻す。
「敵はジェーイと彼を支援する配下……大型バイクと、ロボット犬型のドリームイーター、計三体だ」
 ジェーイ自身は接近戦を得意とする肉弾派のドリームイーターだ。心を抉る鍵は右腕のアームブレード、相手の武器を封じる格闘術、それにモザイクヒール。
 遠距離攻撃を持たない武人肌だが、その弱点を補うのが配下たちだ。
「配下二体の特性はそれぞれ、サーヴァント『ライドキャリバー』と『オルトロス』に酷似している……そうだな、彼の者に倣うなら、『ジェイキャリバー』『ジェイハウンド』とでも呼ぶべきか」
 二体は能力傾向が似ているだけでサーヴァントというわけでない。会敵時はジェイキャリバーに騎乗している可能性が高いが、注意してほしいとリリエは付け加えた。

「……考えることは多いが、ここが正念場だ。集結する彼らを撃破し、ジュエルジグラットの扉を開くことができれば寓話六塔を討ち取るチャンスもできるだろう。だがここで撃ち漏らせばジュエルジグラットの護りはいやまして強固になるだろう」
 寓話六塔、ドリームイーターとの決着には、一歩ずつ階段を進まなければならない。これはまずその一歩目だとリリエは力強く言った。


参加者
ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)

■リプレイ

●『J』は風の中を来る
 渋谷方面へ首都高を走るバイクの姿は、降下する橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)たちの目にもはっきり見えた。
 幾分遅れ、自動二輪独特のエンジン音が風を切る。
「ハイ、ジェーイ!」
「む……!」
 風を切るライダーの愛機に、挨拶代わりの残像剣。巧みに蛇行回避する『ジェイキャリバー』が前輪をウィリーさせて機銃を放つ。
「っと!」
 激しい機動での初戦初撃は互いに有効打なし。だがその目的には十分だ。
『こいよ、ヒーロー!』
 テレビウム『九十九』のLEDが洋画めいた字幕の『テレビフラッシュ』で誘う。
 正義を求めるドリームイーターと、合流を阻止したいケルベロス。両者の思惑は奇妙に一致し、主戦場へと戦士は導かれる。
「ここまでね。捕まって」
「っと、ありがと」
 リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)の駆る『エアロスライダー』に拾われ、芍薬は空中をショートカットして先回る。
 その間も視線は後方を離さない。人騎一体の正確さで分岐を下るデウスエクスの姿は、どこか同類めいて彼女に見えた。
「なーんかダモクレスっぽいわねこいつ。元々はそっち系だったのかしら?」
「少なくともヒーローなんかじゃない」
 どことなく語気の強いリティに応える間もなく、主戦場が二人を迎える。
「五時・七時の角度だ、ぶちあげるぞ!」
「承知しました、受けて立ちます!」
 ジュエルジグラットの手が浮かぶ渋谷駅からほど近い、今は封鎖された首都高渋谷線。
 突入してきたジェイキャリバーと、それを駆る装甲服の戦士へ、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)とフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)は、護りの質量全てを叩きつけた。
「ぬぅっ!」
「ぐぅぅぅぅ……ふんッ!」
 それはバイクの弱点である側方……斜め方向からふたりの同時の体当たりだ。
 衝撃を受け流すフローネの二枚盾『アメジスト・シールド』『【トゥルー・ヴァイオレット】』の紫に照らされ、みなぎる晟の筋肉がデウスエクスを乗騎ごと浮かせ、横倒す。
「なるほど。噂に聞いた力、支える信念が満ちている」
「信念て、ぁふれる、んだっけ……?」
 ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)の声は聞こえたかどうか。緒戦を制したケルベロスだが、素早く立ち直る彼を追撃はできない。
「グゥゥゥ……!」
 ボクスドラゴン『リリ』がうなりを上げ、迫る存在にブレスを放つ。迎え撃つのは瘴気めいた腐食の吐息。駆け付けた機械犬『ジェイハウンド』が護り、傅く現代の騎士こそ『イニシャル・ジェーイ』、招聘されたジュエルジグラットの護り手だ。
「コチラこそ聞いてるゾ、ジェーイ! 正義を探し奪ッテるッテナ!」
「先手は討たせていただきましたが、改めて。銀天剣、イリス・フルーリア――参ります」
 そのせいではないだろうが……アリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)に続く、イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)の名乗りへ、ジェーイは沈黙のまま、奇妙な空気で拳を握った。
「自分が本当に正しい……とでも思ってるのか? 自分を本当に正義と信じるなら、素顔を晒して事を為せばいい」
 行動で示すように『電子戦・連携支援ユニット』をあげるリティに、ジェーイはアルカイックスマイルの口元に手をあてる。
 その表情は変わらないか、心なしか困っているようにも見えた。
「あのー……もしかして、今の御顔が素顔とか?」
「いいや。ただ、できないのだ」
 思わず声をかけた愛柳・ミライ(宇宙救命係・e02784)にジェーイは言って、首を振る。
「顔とは個だ。このモザイクが晴れるまで、私は何者でもないのだろう」
 かろうじてエムブレムとわかる胸甲の紋様をなぞり、ジェーイの右腕から心を抉る刃が構えられた。
「お前たちの正義は、私を埋めてくれるか? ケルベロス」
「残念ですが、私達の正義は貴方に奪われるほどヤワではありません! 今からそれを見せつけてあげます!」
 先陣を切ったジェーイの相棒……ジェイハウンド、ジェイハウンドの突進ににイリスは『冽刀「風冴一閃」』を高く掲げた。

●正義のハンター
「ん、ぉわった……眠ぃしなんだか人一杯ぃるし何とかなる……ダメ?」
「ダメです!」
 やる気無げなラトゥーニの『飛来する威力』を華麗にスルーしたジェーイに対し、立ちふさがるのは彼女をどかせたフローネの『全身防御』。
 再びジェイキャリバーへと騎乗せんとするジェーイを、そのリーチを存分に生かした『サファイア・グレイブ』の六刃穂先が牽制し、アームブレードを巨大な鉤爪が絡めとる。
「すぐに参ります、今しばらく、お願いします!」
 中央分離帯を挟んでの声はイリスのもの。ケルベロスたちの作戦は分断と各個撃破だが、それをデウスエクスもやすやすとは許さない。
「光よ、かの敵を束縛する鎖と為れ!」
「グァゥッ!」
 猛犬に首輪つけるがごとく襲い掛かる『銀天剣・玖の斬』、全天より叩きつけられる光の鎖をジェイハウンドはがっちりつかみ、互いに拮抗しあう。瞬間、線を断ち切るジェイキャリバーの突進。
「くっ!」
「問おう、其の正義は何か!」
 鈍い音を立てて鎖が弾ける、転がるイリスに再びジェーイが飛びかかる。
「いかせません、イリスさんたちの所へは」
「それが君の正義か、紫水晶の盾」
 ほつれる『虹女神のパトロン』からの光を遮るように、高速振動するグレイブの穂先がブレードを弾き、双方大きく間合いを開ける。
「わかりません。ですが、己がココロに恥じないか、『義』に悖っていないか……それを問うことが、問い続けることが、私にとって正義なのかもしれません」
 身に受け継いだ武具を手に襲う家族のトラウマにもひるまず、フローネは上方から襲うジェイキャリバーを溜め斬り払った。
「……ありがとうございます、ミライさん、ポンちゃん」
「お気にせずです! 私に出来るのは、皆の正義を、信じることだけだから……」
 為せたのは、支えるミライと彼女のボクスドラゴン『ポンちゃん』のインストールする属性あってのものだ。
 フローネだけではない、彼女が手にした『Angel voice』より流れる『想捧』への癒し、オラトリオヴェールの輝きは敵味方乱れる戦場を力強く支えている。
「私の正義は、全て……全て、護ることなのです。私自身の正義も、それから……『あなた』の正義も」
「興味深い、良い話だ。だが私の心を埋めるには合わない正義だ」
「いえ、どうぞどうぞ! 私達の分はまた新しいの、すぐ、用意しますから」
 正義を狩る者にしても、その姿は眩しすぎたのだろうか?
 奪い合いでなく共有できたらと語る少女に振り向かず、ジェーイはただ大地を蹴る。
「まダだゾ! 食事ノ時間だゾ!」
「といって、聞くとは思えない……!」
 大空より襲い掛かるは『ジェイハウンド』を追うケルベロスたちの主力。
 二回転ひねりからの踏み蹴りが晟たちを躱し、アリャリァリャ、そしてリティに刺さり隊列を乱す。
「前後左右でいい! 軌道を!」
「正面! 十時方向、くる!」
 更にもう一撃。再跳躍へ叫ぶ晟に、リティは歪んだ『強行偵察型アームドフォート』のサブアームを己が腕で支えて答える。
 速度は負けていない、軌道さえ読めれば。
「その意地を正義とするか、蒼竜!」
「わざわざ口に出すものでもなかろう!」
 力と力のぶつかり合いは背を押すボクスドラゴン『ラグナル』のブレスぶん、晟が勝った。跳ねのけた勢いで突き出す『蒼竜之戟【淌】』の竜頭がジェイハウンドを打ち据える。
「素晴らしい……心が滾る。やはり私と君たちの正義は戦いの中で繋がっている」
「あったま固いのよ、正義がどうとか!」
 突き上げられた身体に叩き込まれる芍薬のドラゴニックスマッシュ。苦し紛れに放たれたジェイハウンドの熱線を正面から受け、芍薬は言葉と共に槌を叩きつけていく。
「答えるなら、正義とは自分の信念を貫くこと。そして私の信念は、如何なる脅威に対しても臆することなくその悉くを断ち斬り、地球を守り抜く事!」
「降りかかる火の粉は払わねばならん。話してわかる相手でもないのだろう? ただ、それだけのことだ」
「降りかかる火の粉か……ふっ!」
 イリスと晟に相対するジェーイの答えは皮肉か、自嘲か。僅かな間隙を置き、戦場は再び動き出す。

●正義の剣
 吹き上がる吐息は闇夜の如く、ジェイハウンドの瘴気ブレスが戦場を再び覆う。
「ならば見事、払ってもらおう!」
「受けて立ちます! 束縛せよ、魔呪の邪光!」
 逆手より放たれるイリスのペトリフィケイションを、展開されたブレードが受ける。石とかしたブレードを投げ捨てる忠犬の援護に、ジェーイとキャリバーが左右から狙う。
「キャリバー! スクランブル!」
「おォッ! アッつイナァ!?」
 ジェーイの呼応するキャリバーのスピン、中央分離帯を焼く摩擦熱の炎にアリャリァリャはしかし、歓喜の声を上げて突進した。
「問おう、汝の名と正義!」
「キサマらをちゃんと殺スのがウチの正義ダゾ! ウチは剣ダカラナ!」
 並列双刃のチェーンソー剣を両手に二丁、殺意を形にしたようなアリャリァリャの姿と笑みから、問いかけへの答えは狂喜。
「アト、美味しいものをおいしく食べルコトもナ! ダカラ、ゲートの鍵もパーっと開けルゾ、ウチの正義が欲しけレバもってくがイイ!」
 殺意無き殺意とでも、それを呼ぼう。
 全てを救い、全てを護る。その一点において、アリャリァリャとミライは極めて近しい求道者だ。ただ違うのは救いの解釈。
 一見してどうしようもない狂気の実験機と見える彼女だが、ジェーイの目にはどう見えたか?
「ライ、じんッ!」
「……面白い!」
 雷の霊力を帯びたチェーンソー剣が、突き出されたジェーイのブレードと激突、相殺する。クロスカウンターのように切り裂かれた肉体から、互いに鮮血が吹き上がる。
「アリャリァリャさん!?」
「平気、ヘーキ! まだウチは死ネるゾ! 貴様はドーだ!?」
 癒しを構えるミライを制し、牙をむいてアリャリァリャは笑う。
「死を持たぬ我らは命に足りぬか、悪食!?」
「安心するがイイ、ウチが死ぬまで大事にすルゾ!」
 命には始まりがあれば終わりがある、死を感じ生にあがく事こそ人間賛歌。その信念のもとに、彼女は正しく正義の剣で、死ねないデウスエクスは庇護対象だ。
 主とアリャリァリャの問答は、同じデウスエクスの従者すら困惑させて見えた。
「んー……どぅすりゅ?」
『答えは一つ』
「ぶつかる正義をぶったたく!」
 ラトゥーニへの芍薬の答えは『九十九』の応援動画のように簡潔だ。
 戦場に生きた彼女にとって、正義は単なる相対だ。弱きを助け強きを挫く、だが挫く者もまた何処かの正義かもしれないと。
「あんたが自分の正義を語るなら、私は私の正義のために押し通らせて貰う!」
 飛び込んでくるジェイキャリバーをドラゴニックハンマーで打ち返し、通った射線へフローネが構える。
「ドローン各機、座標指定完了。まとめて食い止めたい、光を分けてもらえる?」
「承知しました! サファイア兄さんの技、お借りします――」
 そこにはリティの配置した『リフレクタードローン』の包囲網。逃さじと『アメジスト・シールド』を接続した『サファイア・グレイブ』が展開され、ビームランスの穂先が伸びる。
「閃光のように疾り、穿つ!」
「グラビティフィールド展開。レーザー反射角演算、センサー感度最適化……!」
 高速演算に赤熱する演算回路、キャリバーの機銃を対要塞戦用追加増漕に受けながら調整を続けるリティの包囲へ、フローネの『紫蒼閃光突』が突き刺さり、余剰エネルギーが乱反射する。
「ォン……!」
 レーザーと共に、余すことなく打ち返される紫蒼閃光。閃光の結界の中、ジェイハウンドの咆哮が消え去った。

●炎に消える
「あとは……っ!」
「ん、いってこーぃ」
 リティの索敵に意外なほど素早く反応したのはラトゥーニで、投げ飛ばされたのはボクスドラゴンの『リリ』だ。彼女のサーヴァントへの扱いはいつもまるで変わりない。
「ぶみゃっ!」
 閃光を飛び出すジェイキャリバーと相討つリリだが、そこにジェーイが動いた。
「友よ、意志は確かに受け取った!」
「その思いがあるのなら、もう芽生えていませんか! 他者から奪わなくても、そのココロを見つめれば!」
 ジェーイを載せ突っ込むキャリバーにサファイア・グレイブは間に合わない。躊躇わず手放したフローネは、ココロの指輪を『アメジストシールド』に同調、マインドシールドで受けて流すがダメージは大きい。
「存分に戦おう、最期まで!」
「まず分断しないと、まずい……」
 人騎一体を取り戻した二人のドリームイーターの機動に並ぶ、トラウマのレプリカントハンターがリティをあざ笑う。
「リティさん、あと少し! ゼロを1に変える魔法はまだきっとかかってる!」
 ミライの『「KIAIインストール」』ももはや傷を癒しきることはできないが、小うるさいトラウマが消えただだけで十分だ。
「熱い想い、涙、悪への怒り……それが詰まったヒーローの心がモザイクな訳がない! 人の夢を貪ろうなんて、浅ましい考えは微塵もない!」
 機銃掃射の衝撃に砕けたHMDを『増設レドーム・センサーユニット』からパージ。生の身体の過熱も顧みず、リティは作戦を計算し、仲間たちの心を繋ぐ。
「グラネット君の役は引き受ける、いけるな?」
「言うまでも!」
 渡された作戦に熱エネルギーを集中した芍薬の拳が輝き、並び立つ晟を赤く照らした。
 何度目かのターンを仕掛け、突っ込んでくるジェーイ目掛け、『蒼竜之戟【淌】』が突き出される。激突の瞬間を半歩ずらし、回転する車輪へと。
「ぬぉっ!」
「砕き刻むは我が雷刃。その両輪を……穿たん!」
 普通なら腕が砕け、吹き飛ばされているであろう小技だが、一瞬だけなら充分十全。
「流星となれ、駆けよ白銀!」
 停止する一瞬をついたイリスのスターゲイザーがジェイキャリバーに突き刺さり、爆発。投げ出されるジェーイが地に着くより早く、炎が舞った。
「エネルギー充填100%! いくわよ、アリャリァリャ!」
「二度焼きダナ! ダイ、コン――百枚おろーし!!!!」
 チェーンソー剣が『火葬』のエネルギーを巻き込み、ジェーイ目掛け叩き込まれる。『名物・大魂颪焼』の連撃による摩擦を載せた猛攻はモザイクごと装甲を割り、爆炎に包み込んで殲滅する。

 包まれた炎の中、アリャリァリャは声を聴いた。
『取り戻すことは叶わぬか……だが感謝する』
「名前カ、そうダナ……『カリカリモザイク渋谷風』」
『謹んで辞退する』
 バイザーに透けたそれは穏やかで、だからアリャリァリャは心のままに答えた。

 音が風を切った。
「今の……?」
「終わったゾ、ミンな」
 周囲に動くデウスエクスはなく、不思議そうなミライに、アリャリァリャは短く告げた。

作者:のずみりん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。