城ヶ島制圧戦~その身で盾となり

作者:真魚

●城ヶ島制圧作戦
「おう、城ヶ島の偵察、お疲れ!」
 集まったケルベロス達へ、へらり笑顔を向けて。高比良・怜也(サキュバスのヘリオライダー・en0116)と名乗った青年は手短な挨拶の後、調査の結果について説明を始める。
「強行調査の結果、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明したんだ」
 魔空回廊。日本各地のあらゆる場所と『ゲート』とを繋ぎ、数分での移動を可能にする転移通路。これがあるためにデウスエクス達は神出鬼没なのだが、この『ゲート』はもちろん今回の『固定化された魔空回廊』とも繋がっている。
「この固定化された魔空回廊に侵入し、内部を突破することができれば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定することができるんだ」
 『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の調査を行ったうえで、ケルベロス・ウォーにより『ゲート』の破壊を試みることもできるはず。そして、『ゲート』が破壊できれば、ドラゴン勢力は新たな地球侵攻を行うことができなくなるのだ。
 つまり、城ヶ島を制圧し、固定化された魔空回廊を確保することができれば、それはドラゴン勢力の急所を押えることになる。
 さらに調査の結果として、ドラゴン達にとって固定化された魔空回廊を破壊するのは最後の手段であると考えているようなので、電撃戦で城ヶ島を制圧し、魔空回廊を奪取することは、決して不可能ではない。
「ドラゴン勢力のこれ以上の侵略を阻止するためにも、今、お前達の力が必要なんだ」
 だから、地獄の番犬の力を貸してほしい。そう告げた怜也は、信頼に満ちた瞳でケルベロス達をぐるり見回した。
 
「今回の作戦は、まず警戒の薄い城ヶ島の西部から水陸両用車部隊が侵攻して、市街地のオークを制圧し侵攻の拠点を確保する。その後、本隊が島の西側から、固定化した魔空回廊のある島の東側、城ヶ島公園の白龍神社に攻め寄せる手はずになっているぜ」
 だが、この作戦を成功させるためには、解決しなければならない問題がある。三崎工場に集められている、竜牙兵の大群だ。
 強行調査の結果、この竜牙兵達は『島への侵入者に反応して自動的に迎撃する』行動をするらしく、その総戦力はかなりのもの。
「だから、お前達には城ヶ島大橋から城ヶ島へ進軍し、この竜牙兵の攻撃を引き受けてもらいたい」
 語った怜也はケルベロス達に見えるよう、一枚の地図を広げる。それはこの度の戦場となる、城ヶ島大橋のものだった。
「城ヶ島大橋は、そんなに広くはない。二つのチームが隣り合って戦闘をすれば、竜牙兵を抑えることができるだろう」
 竜牙兵は倒しても倒しても後続が現れるため、この作戦の目標は敵を倒すことよりも『できるだけ長い時間戦いを継続すること』となる。
 戦場を左右に分け、それぞれ第一陣、第二陣、第三陣のチームを配置するので、それぞれ三十分、合計で一時間三十分の間、竜牙兵の攻撃を支えることができれば問題ないだろう。
「お前達には、右手側の二番手として戦ってほしい。他チームと入れ替わる時の作戦も、重要になってくるからな」
 戦闘時、一度に相手する敵は竜牙兵五体。これらを倒しても次の竜牙兵へ入れ替わるだけなので、敵陣の戦力は低下しない。
 また、こちら側が戦闘で押されて、三浦半島側に押し込まれた場合は、後続の竜牙兵の一部が城ヶ島公園方面に移動してしまう可能性がある。これは他の担当の戦闘へ影響を与えてしまうことになるので、この事態を避けるよう戦う必要もあるだろう。
 大群の相手に、いかにして戦闘を長引かせるか。どういった状況になれば後続と入れ替わるか、入れ替わる時の作戦はどうするか――難しい作戦ではあるが、仲間と連携することができればきっとできると、怜也ははっきり告げて強くうなずいた。
「きっと、激しい戦いになるだろう。でも、強行調査に向かったやつらの情報がくれた、せっかくのチャンスだ。ここはひとつ、頑張ってきてくれよ!」
 ケルベロス達なら、大丈夫。笑顔浮かべる怜也は仲間一人一人の顔をゆっくり確かめた後――いってらっしゃい、と送り出した。


参加者
トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)
軍司・雄介(豪腕エンジニア・e01431)
エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)
フィール・ロス(白のクラヴィス・e01497)
花喰・香鹿(標星の宿り木・e01575)
オルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232)
鳶風・鶸(招霊木・e03852)
カティア・アスティ(憂いの拳士・e12838)

■リプレイ


 北風吹きすさぶ橋の上、響き渡るは剣戟と放たれるグラビティの音。
 風は冷たく頬をなでるが、それが逆に彼らに戦いの熱を伝える。
 城ヶ島大橋の戦い右翼――第一陣が竜牙兵の大群とぶつかり戦う様を、第二陣であるケルベロス達は後方でじっと見つめていた。
 開戦からきっかり三分後、立ち上った合図の煙は青色で。それは、第一陣が三十分間の戦闘を選んだことを意味していた。
 じっと待つ時間は、実際の時間よりも長く感じる。けれど緊急時はすぐ前進できるようにと備えれば、自然と彼らの空気は張りつめたものになる。
「……大丈夫、大丈夫、できる、できる……」
 高鳴る鼓動を抑えようと、何度も手に人の字を書いて。カティア・アスティ(憂いの拳士・e12838)は、緊張を解すまじないを繰り返す。
 その間にも、周囲へ響くタイマーの電子音。五分毎に鳴るよう全員が設定したそれは、彼らの戦いの時が少しずつ近付いてくることを知らせていた。
 そして、そのアラームが二十五分を知らせてから、少しの後に。フィール・ロス(白のクラヴィス・e01497)の着信音が鳴り響けば、ケルベロス達は緊張した面持ちで彼を見守る。
「こちら第一陣、最終攻撃の後、撤退を開始する」
「ああ、了解した。……俺達の出番だ」
 電話越しの男性の声に、手短に答えて。通話を終えたフィールの言葉に、仲間達がうなずく。そして彼らはその瞳に気合を込めて――戦場へと、駆け出した。
 一番初めに前進したのは、軍司・雄介(豪腕エンジニア・e01431)だった。彼はその体格で風を切るよう第一陣の中へ飛び込んで、疲弊した後衛達の前に位置取る。
 彼らの姿を認めた第一陣後衛は、順番に戦線を離れていく。そんな彼らを庇うように立ち、ケルベロスチェインを橋の上に展開するのは花喰・香鹿(標星の宿り木・e01575)だ。
(「わたしたちだけでは繋げない、けど。わたしたちが繋がなきゃ」)
 決意も固く、仲間を守護する魔法陣を描いた少女は、今の戦闘地点を確認する。――九十メートル地点。これから行われる入れ替え時のロスを加味して、三分の一をわずかにオーバーする程度。
 三つのチームで三百メートルを耐える。つまり、一チーム辺りの目安は百メートル。その認識でいたケルベロス達は、想定内の状況に安堵する。
 そしてこれを、次に繋げるのが彼らの役割。
「気負わず。必ず、やり遂げよう。ね」
 角飾る花を風に揺らしながら、少女は真剣な眼差しで仲間に語りかける。そんな香鹿への同意を行動とするように、トレイシス・トレイズ(未明の徒・e00027)はロッドより迸る雷光を敵へ撃った。
 さらに続けてカティアが踵を滑らせ生んだ炎で追撃すれば、敵に生まれる僅かな隙。それを逃さず第一陣前衛を促して、彼らはさらに敵の目の前へと前進していく。
「あまり倒せませんでした。守りに入りすぎると苦しいかもしれません」
「おう、あとは任せろ!」
 すれ違いざまの和服の女性の言葉には、大丈夫と笑いかけて。雄介は飲みかけの水のボトルを彼女へ押し付けるように渡すと、ルーンアックスを担ぎ直してさらに一歩踏み出した。
「気合い入れていくぞぉ!」
 彼の叫びにはいくつも声が返り、鬨の声となり戦場に響き渡る。
 第一陣の足音を背後に聞きながら、遅れて後衛の四人も配置につき。武器を構えれば、彼らの戦いが始まった。


 彼らの前に立ち塞がるは、三種の武器をそれぞれに持った竜牙兵。骨の身体から乾いた音を鳴らして、敵はゆらりと迫ってくる。
(「言葉通り、俺達が『盾』か」)
 黒き鎖を手繰り寄せ、フィールは敵を見据えて想う。敵の命を消すことより、守る方が彼の性に合っている。この身が盾となることで先へと繋がるのなら、いくらでも捧げよう。何も、恐れることはない。
 確固とした想いを緑の瞳に湛え、彼は敵めがけて武器を揮った。
「来るが良い。ここより先は何人たりとも通さない」
 言葉と共に射出されたケルベロスチェインは、敵前方に位置していたオーラ纏う者と鎌持つ者へ毒を与える。
 その攻撃に追従する形で縛霊手を操り光線を撃ち出したのは、エスカ・ヴァーチェス(黒鎖の銃弾・e01490)だ。
「此処は通しません」
 銀の髪を風に踊らせ、敵へ向けるは狩猟者の顔。共に戦う仲間に、自分が斃す者に、自分を斃す者に、敬意を持って。彼女の攻撃を受けた敵前衛は、たまらず体を仰け反らせた。
 しかし竜牙兵達はそれだけに留まらず、お返しとばかり武器を構えて踏み込んでくる。鎌の斬撃を受けたのは香鹿、オーラの弾丸で狙われたのはエスカ。しかし中衛狙うその一撃は、トレイシスが抜刀、射線へと飛び込み『凍曇』を突き出し受け止める。
(「この背には更なる困難へ立ち向かう仲間が居る。故に数の暴力に臆する理由も無い」)
「この身を盾に、心は刃に。……いざ、参る」
 言葉と共に地を蹴って、目指すはオーラ纏う者。敵の攻撃手、まず初めに崩すべき相手。
 攻撃直後の隙を狙い一歩二歩と踏み込めば、懐へ飛び込むのは容易い。そうして至近距離で正八面体型の光弾を多数発現させて、彼は小さく唇に音を乗せる。
「眩る間なく、去ね」
 刹那、それは着弾し、眩い光が竜牙兵を包む。骨の身体を震わせた敵は、そのまま力なく崩れ落ち、消滅した。
 ――まず、一体。ケルベロス達は息つきうなずき合う。すぐさま剣持つ敵が前進してくるけれど、敵軍勢を押し返せたことに気合がみなぎる。
 そんな仲間達の顔を見て、オルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232)はふわりと笑んで。
「みんないい表情ね。あなたたちと共に戦えること、誇りに思うわ」
 柔らかな言葉と共に彼女が展開するのは、黒き鎖による癒しの魔法陣。その力は傷受けたケルベロス達を癒し、その身の守りを強くする。
「カトル、あなたも頼りにしてる。だからどうか頑張って」
 オルテンシアが声かければ、彼女のミミックは中衛にて鎌を振り上げている竜牙兵を狙う。がぶり喰らいつく攻撃に敵は驚き、その口を振りほどこうとする。
 そこへ攻撃を繋げようと、鹵獲の力を操るのは鳶風・鶸(招霊木・e03852)だ。口の中で素早く古代語を唱え、敵へ放つは石化の光線。それは竜牙兵の右足へ命中し、その足を石へと変えてしまった。
 その時、周囲へ響いたは五分経過を告げるアラーム音。今はペースとして申し分ない。このまま戦線を維持できれば、問題ないだろう。
 しかし、そこから戦況は徐々に変化する。ケルベロス達は続けて中衛の鎌使いへと攻撃を集中させたが、これがなかなか倒れない。
「そうこなくちゃこいつの試しがいがないぜ!」
 にやり笑った雄介は、砲撃斧『豪龍』を力強く握りしめ、鎌持つ中衛へと飛びかかる。馴染みの鍛冶屋で仲間と共に作り上げた武器の初陣だ、彼はその重量を活かし大きく振りかぶると、自身の体重すらも乗せた一撃で敵を脳天から叩き割る。
 まさに直撃、会心の一撃。そのまま骸となり消滅する竜牙兵に、彼は満足げにうなずいて次の敵を見定める。
 するとその時、二度目のアラームが戦場に響き渡った。戦闘開始から、十分。
「全員が、タイマーを、持って、くるのは……必要、なかった、ですね……」
 鳴り響くアラームに、カティアが言葉を零す。
 戦場は乱戦状態。目の前の敵を倒すだけの戦いで、タイマーの意味は薄い。それがあちこちで鳴ると、こちらの気が削がれ戦闘に集中できないという弊害まで現れてしまう。
 タイムキーパーは一人の方が、今回の作戦には合っていたかもしれない。そう感じつつもケルベロス達は、新たに戦闘へ加わった攻撃手へ、その攻撃を集中させていった。


 初めは小さな綻びも、戦い続けばひとつふたつと増えていく。
 彼らは三体目の攻撃手との戦闘にも手間取ってしまい、ついに橋の中央地点への侵入を許してしまったのだ。
「タイマーはまだ……十三分経過、か」
 戦況の把握に努めていたフィールが、即座に声上げ仲間達へ状況を伝える。
 少しずつ押されているという事実。その焦りを打ち消すように、彼は背中に格納していた片翼を展開する。
「アクセス。――満たせ。疾く、満たせ」
 機械仕掛けの翼は、凶烏のごとく鋭利なもの。風切る力で敵へと近付きその翼で打てば、骨の身体すらも切り裂いて敵がたたらを踏んだ。
 しかしまだ敵は倒れず、無慈悲にも十五分目のアラームが時が半分過ぎたことを伝える。竜牙兵の大群はすっかり中間地点を踏み越えて、こちらへ迫ってきている。
「左側の前線は、かなり前にあるようだな。押されているのはこちらのみか」
 冬のように冷えた斬霊刀を揮いながら、トレイシスが厳しい表情で言葉を紡ぐ。隣の戦況を眺めればいよいよこちらは危険と感じ、彼は桜吹雪纏う斬撃で前衛の敵二体を襲った。
 音を立てて骨が崩れ、三体目の敵が消滅する。じわり汗を浮かべるケルベロス達は、倒したクラッシャーと入れ違いに参戦したのがメディックだったからなおさら表情を曇らせた。
 彼らがこうも苦戦してしまった原因は、敵への攻撃方法にある。そもそも今回の作戦は、敵に押し込まれすぎないように戦うことではなかっただろうか。敵を多く倒すことが目標でないとは言っても、防戦一方ではうまくいかない。攻守のバランスが、重要だったのだ。
 そしてケルベロス達が選んだ撃破順、それは攻撃を受ける場合において脅威となりうる順である。事実、ダメージ調整という側面では彼らの作戦は最良で、ここまで誰一人倒れることなく戦うことはできている。
 しかし、それは敵の守り手を放置すると言うことに繋がる。敵防御役は要所要所でこちらの攻撃をかばってきており、それでもまだ倒れていない。
 さらに運が悪いことに、最初の敵を倒した後、敵側へ回復手が加わったのがいけなかった。効率は低下し、彼らは戦闘に相当の時間を要することになってしまったのだ。
 そして今、敵側は癒し手が二体となった。この先、どれだけの時間がかかるのか――。
 状況は苦しい。けれどこの手は止められないと、オルテンシアは愛用のタロットを一枚を引き抜いた。
「シビュラを疑え。ヴォルヴァを訝れ。――天を欺き、エヌマ・エリシュを覆せ!」
 このような窮地でも、未来に繋がる一手はある。その強い意志で引き寄せたカードは、雄介の体に活力を与える。
「香鹿、回復が追い付かないわ。こちらへ」
 友の言葉にうなずいて、香鹿は後退を選ぼうとする。しかしその隙を狙うようにカティア目がけて星座のオーラが飛んできたから、咄嗟に少女はその攻撃を受け止めた。
「こっちだって、言ってるのっ」
 簡単に倒れてられない。だから彼女は仲間達を癒そうと、後方へ駆ける。
 そんな香鹿を助けるよう、敵へ迫るのは雄介だ。
「その力、いただくぜ!」
 力強い言葉と共に、隆起するは片腕の筋肉。魔力装甲に覆われた腕から繰り出す一撃は敵の破壊と吸収を同時に行う。
 彼が敵を引きつけている間に、カティアとトレイシスも後退した。代わりに、前進するのはフィールとエスカ。
(「今はこの時間も、惜しいのですが」)
 戦闘中のポジション移動は、攻撃の機会を一度諦めると言うことだ。それは、今回のように時間的に厳しい戦いの場合、大きなデメリットとなる。
 とはいえ、今更ポジション移動を行わないことにするほど前衛の体力は残っておらず、彼らは貴重な時間を使って陣形を組み直した。
 その分は、攻撃を重ね取り戻すと。エスカのスライムの槍が敵へ傷を与えれば、四体目の敵がやっと倒れる。響くアラーム、ここで二十五分だ。
「あと五分……せめてもう一体、倒すんだ」
 緑の瞳に、最後まで足掻く決意を宿らせ。鶸が零した言葉に、仲間は皆うなずいた。
 そしてそこから、ケルベロス達の攻勢が始まる。狙うは、先ほど倒した四体目の後に加わったクラッシャー。
 回復に徹していたオルテンシアが一転、カードを繰り放つのは炎のグラビティ。合わせるように香鹿もまたドラゴンの幻影で炎を生み、敵は全身炎に包まれ大きく震えた。
 さらに、彼らの追撃は続く。トレイシスが殲滅の雨を降らせ、雄介が砲撃斧を揮い、エスカの槍が抉り、フィールの翼が広がり、傷つきよろめく敵を体を、カティアの『聖なる左手』がつかみ『闇の右手』で撃ち砕く。
 それはまさに、猛攻だった。そうして竜牙兵の体力が残りわずかとなったところに――草花を誘うは、鶸。
「迷い込んだら、さいご」
 紡ぐ声が作り出すのは、草木溢れる自然の領域。城ヶ島大橋の上に広がる美しい脅威は、やがて骨の敵へ牙剥き襲い掛かった。
 ぐらり、敵の身体が大きく揺れて、膝折ればガシャリと乾いた音。
 そしてそのままゆっくり竜牙兵の身体が消滅した時――最後のアラームが、響き渡った。


 三十分の攻防を終えた今、ケルベロス達が立っているのは二百メートル地点をわずかに越えた場所だった。第三陣と入れ替わる時にはどうしても隙が生まれ、さらに押し込まれてしまうだろう。――状況は、決して楽観できるものではなかった。
「残念ですが……時間ですね」
 鶸が口惜しげにつぶやけば、周囲の仲間達も眉根を寄せながらうなずく。彼は用意していた発煙筒を取り出し、火をつけた。赤い炎はたちまち辺りを照らし出し、その光でもって後方の第三陣へ交代の連絡を送る。
「さあ、もうひと踏ん張りだ!」
 雄介は雄々しく叫ぶと、砲撃斧を振り上げ敵へと突撃していく。それを追うように、フィールの鎖が風切り飛んでいく。
 彼らの最後の役目、それは駆け付けた第三陣がスムーズに戦場へ出られるようこの場を抑えること。五体目を撃破した時よりさらに苛烈に、ケルベロス達はグラビティを繋ぎ、攻勢を続けていく。
 第三陣が後背より現れるのに、時間はかからなかった。思うように戦えなかったことは、彼らにも一目でわかったのだろう。駆け込んできた第三陣はすぐさま第二陣後衛と入れ替わり、素早い引き継ぎに集中している。
 もっと、うまくできていれば。募る後悔、憤るのは己の未熟さゆえ。カティアの表情が歪むのは、痛む傷口だけのせいではなかった。
「……申し訳、あり、ません……! 皆さんに、託し、ます……!」
 立ち位置を譲りながら、込み上げた言葉。それに振り返ったのは、緑の瞳の少女だった。
「謝らずとも良い。貴殿等の願い、確かに受け取ったぞ」
 凛と響く、労いの声。そのまま彼女は金髪を風になびかせ、敵前へと駆けていく。
 さらに続けて駆け抜ける前衛と、並ぶ後衛達。
 そんな仲間の背中に、成功を祈って。第二陣のケルベロス達は、順に後退していく。
 入れ替え時に押し込まれた二十メートルを足して、彼らが引き継いだのは二百二十五メートル地点。
 残り四分の一の攻防を背に、それぞれの想いを胸に。彼らは、戦場を後にする。
 戦いの続きは、こうして第三陣へと託されたのだった。

作者:真魚 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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