城ヶ島制圧戦～黒水晶の竜

■リプレイ

●竜との邂逅
　咆哮が聞こえてくる。
　遠くに見えるのは数多の竜たち。
（「島ひとつにこんなに湧いちゃってなんとまあ……」）
　八上・真介（徒花に実は生らぬ・e09128）が冷ややかな視線を向ければ、
「ドラゴンにゃちょいと思うところもあってな、一つ狩らせてもらおかね」
　隣の嘩桜・炎酒（星屑天象儀・e07249）が対照的に熱い独白を漏らす。
　自ずと高まっていく緊張感。
「ドラゴンですか、さぞかし強力な怪物なのでしょうね」
　素朴な感想を口にしたのは、バジル・ハーバルガーデン（薔薇庭園の守り人・e05462）。
「……強敵ですね。けどここで退く訳にはいかない。皆の為にも頑張らないと!」
　それにエレノア・クリスティン（オラトリオの鹵獲術士・e03227）が応えると、
「ええ、ドラゴンへの反撃のチャンスを見逃すわけには行きませんからね。此処で必ず勝利してみせましょう」
　バジルもその決意を口にした。
　ちょうど、どこかで戦いが始まったのか――剣戟や銃声が耳に届き出す。
「さすがに戦うのはちょっと……と言える状況ではないね」
　自分に言い聞かせるように、浦葉・響花（ウェアライダーのブレイズキャリバー・e03196）がつぶやいて周りを確認する。もう、いつ戦いが始まってもおかしくない状況だ。
「今回は全てが他の作戦にも影響を与えるようですし、必ず敵を討つ……今回ばかりは引くことはできません」
　強行調査に係わっていた、鳴門・潮流（渦潮忍者・e15900）も胸の内を口にする。
　その調査は上手く行かなかっただけに、今回は必ず成功させたいと意気込みが強い。
「うむ、この制圧戦でドラゴンどもへの反撃の足掛かりを得るかどうかが掛かっておる……滾ってくるわ。必ず成し遂げてみせよう」
　最後に、鷹谷・徹彰（鬼哭・e07870）が宣言する。
　仲間たちからそれぞれの形で肯定が示され、ケルベロスたちの士気が高まる。
　と、その時だ。
　どこからか風を切る様な音が聞こえてきた。
　辺りを見回し、上へと視線を遣ったところで巨大な何かが文字通りに『降って』きた。
　強烈な地響き。
　立ち上る土煙。
　そして、空気を震わす強大な咆哮。
「で、でけえっス」
　獺川・祭（カワウソのゲスコット芸人・e03826）の視界を埋める黒い影。
　土煙が風に運ばれると、陽光を浴びて光沢を放つ岩のような黒い表皮が見えた。
（「黒水晶の竜か……見た目は綺麗そうなんだがなー……」）
　真介は思ったことを直ぐに打ち消す。
　あれが生半可なものでないことはヘリオライダーから嫌というほど聞いている。
「聞くだけではこの相手のでかさは実感できませんでしたが、目前にするとデカイですね。でも、驚いてばかりいられんな。さぁ行こうか！」
　口調が変わりながら、潮流が呼び掛ける。
　さあ、激闘の始まりだ。

●黒水晶の竜
　エレノアが素早く周りに目を走らせる。
　障害になりそうな物は無く、逆に遮蔽物に利用できそうな物も無い。
　この状況では真っ向からぶつかるのみ。
「ふんっ、ドラゴンとは言え所詮このような前線に出張る奴は概ね三下風情だろう……どれ、相手になってやるから命の限り足掻いてみせよ」
　と、ここで徹彰が黒竜を挑発した。
「虫けら風情がさえずりよる。……ならば、少しは骨のあるところを見せてみよ」
　悠然と応え、巨体が動き出す。
　再び鳴り響く地響き。
「嘩桜、タイミングを合わせて」
「任せとけや」
　それに２つの影が先んじる。
　エレノアが魔法の光線で、炎酒が心を貫くエネルギーの矢で出鼻を挫きに掛かった。
　だが、攻撃は直撃すれども黒竜は痛む様子すら見せない。
「所詮は虫けらのすることよ」
　激震を走らせながら巨体を回せば、大き過ぎる尾が前衛の視界を埋める。
　巻き起こる衝撃が過ぎ去った後には、かなりの傷を負ったケルベロスたちの姿が……。
　特に直撃を受けた徹彰と、響花をかばった祭のミミックはかなりの痛手だ。
「……さすがにとんでもないっスね」
　祭は心の中で涙目になるくらいにビビっている。
　だが、ここで弱い自分に負けたくない。それに自らのサーヴァントも頑張っているのだ。弱いところは見せられないとマインドシールドを張りながら黒竜の前へと踏み出す。
　そして、そんな前衛を立て直すべく、
「大丈夫ですか、すぐ治します」
　バジルが急ぎ薬液の雨を降らせる。
「俺は鷹谷を」
「では、私はミミックを癒します。光の聖霊よ……我ら同法に光の加護と祝福を！」
　加えて、これでは足りないと、真介と、エレノアも回復に回った。
　……しかし、それでも足りない。
　一気に守勢に回ったところへ、今度は瘴気のブレスが後衛を襲う。
　敵の圧倒的な火力に対して、メディックやディフェンダーが足りない。
　それは結果的にケルベロスたちの火力も削いでいく……。
　防戦に回されて焦りが募る。
（「以前、世話になった恩師が言ってたわね」）
　響花がそれを思い返しながら、黒竜の側面へと回り込んだ。
　確か師はこう言っていたはずだ。
　――強敵の対処法は見方を変えれば、勝てないと思ってる時点で終わっている。
　――例えばこれは戦いではなく、狩りだと。
　頭の中で師が問う、目の前にいるのは黒い竜か……と。
「いいえ。あれは獲物よ」
　独白して、響花は黒竜の死角から捕食モードに変形したブラックスライムを解き放つ。タイミングを合わせて正面からは、徹彰が斬り込んだ。
　だが、それらを押し潰さんと落ちてくる黒竜の爪。
　大きな地響きが鳴り響く。
「その程度でワシを倒そうなどと、よくほざけたものよ……うん？」
　黒竜が狙った響花は前足の横に。
　足を退けてみれば、咄嗟にかばった祭のミミックが倒れている。
「ムダなことを。ただ、倒れる順番が変わっただけのこと、くっ」
　今度は尻尾で薙ぎ払おうと動き出したところ、体が痺れて黒竜は挙動を鈍らせた。
「大きい図体をしているだけに、かなり鈍感のようだな」
　声は間近から。
　いつの間に忍び寄っていたのか、潮流が攻撃を終えて下がろうとしていた。
　黒竜の体は彼の放った紫電に縛られている。
　他にもケルベロスたちの攻撃によって蓄積したバッドステータス。
「貴様は弱った者しか攻撃できないのか？　黒蜥蜴」
「この程度の小細工で、ぐおっ」
　潮流の挑発を黒竜が鼻で笑おうとしたところへ被せる様に漆黒の巨大な矢が突き刺さる。
「……これ(弓)が俺の爪だ」
　言い放ちながら、真介は即座に移動。
　黒竜の首が邪魔をした者を探して、ゆるりと動く。
　鉱物特有の輝きを放ちながら真介を見つけて口を開けば、中から漏れ出す濃厚な瘴気。
「動く水晶洞みたいだな。でも中身は毒か……」
　ならばと、真介は接近する。
　その前に後衛へと瘴気が霧状になって噴き出された。
　ケルベロスの半数近くが回復に回っていても、まだ追いついておらず……。
　危険な状態で瘴気が蔓延するも、
「……ツァイス！」
　炎酒のミミックが主をかばって戦闘不能に。
　かろうじて後衛は誰も倒れなかったが……残ったディフェンダーは祭のみとなった。
（「……こええっス、でも」）
　それでも逃げるわけには行かない。
　黒竜の前に立って、下がりそうになる足を必死に踏み留める。
「さあ……く、くるっスよ！」
　勇気を振り絞りながら自らに再び光の盾を具現化。
　一撃、二撃……三撃まで耐える。
（「……厳しいっス」）
　祭にもとうとう限界が見えてきた……いや、限界なら一度超えた。
　仲間たちもその間に黒竜に攻撃を重ね、回復を集めている。
　それでも、
「……後は任せるっス」
　無慈悲に振るわれた竜の尾が徹彰をかばった、祭を薙ぎ倒す。
　その光景に幾人かの動きが一瞬止まろうとして、
「ぼさっとしない各自散開！」
　響花の檄が我に返す。
　感傷に浸っている暇など無いと、響花はディフェンダーの代わりに矢面に立った。
　隣には、徹彰が並び。
「知恵があるだけあって生半可でなことでは誘導できんようだ」
　先ほどから徹彰は黒竜の注意を引こうとしていたことが、上手く行っていない。
　そして、黒竜の次の狙いは、
「後衛を……！」
　ブレスの態勢に入ったのを見て、響花は思わず声を上げる。
「恐れるな、わしが必ず活路を拓いてみせる」
　言い放って、徹彰が動く。
　黒竜の足から伸びた鉱石のような突起物を足場にして、眼前へと飛び込んだ。
　緩やかな弧を描く斬撃を鼻頭へと打ち込んで強引に注意を向ける。
「邪魔な虫けらが」
　直後に振るわれた竜爪の一閃で叩き落されたが、それでも狙いは変わった。
　大きな傷を負いながらも、徹彰の口角が上がる。
　再び眼前に迫ろうと走り出したところへ、響花も追随。
「合わせるわ」
　２人は右と左から身をさらすようにして攻撃を繰り返す。
　それによって稼ぎ出される時間。
「嘩桜さんは前衛の二人をお願いします。僕は後衛を」
「おおよ、敵さんぶっ飛ばすまでは何度でもってな！」
　バジルが呼び掛けながらウィッチオペレーションを、炎酒も気力溜めを施し、
「紫電に巻かれ、跪け！」
　潮流が雷を帯びた腕で黒竜を殴り付ける。
　他の者も攻撃を集めて、更にバッドステータスを重ねるが――黒竜の脅威は衰えない。
　邪魔者を排除すべく、巨大な尾が黒竜の周りを薙ぎ払う。
「くっ……」
　遂に、響花と、徹彰も危険域に。
　そして、黒竜も先に邪魔者を排除しようと牙を剥く。
「――この一太刀、貴様は凌ぐ事が出来るか？」
　竜の爪にカウンターを取る形で、徹彰が刀を振るった。
　研ぎ澄まされた太刀筋が前足に食い込み、直後に徹彰は吹き飛ばされた。
　倒れると、起き上がることは出来ない。
　これで残るケルベロスは６名……。
　だが、彼の放った一撃が確かに黒竜の前足に裂傷を作っていた。

●勝利を信じて
　力の差は歴然だった。
　だが、重ねられたバッドステータスは黒竜を縛り、遂には弱点をさらけ出した。
　これもケルベロスたちの知恵と勇気の賜物だ。
　……されど、これでもまだ五分と五分。
「見えた！　狙うのは右前足だ！」
「分かっとるわ。合わせてやるさ、ここ一番で外せるかよ……ッ！」
　エレノアの発した声に、炎酒が応えて銃に手を伸ばす。
　次いで炎が走る。
　後を追って銃声。
　片方が急所に当たって表皮の鉱石が砕けて周囲へと舞い散る。
「砕けた黒水晶ってのも中々良いもんだな」
　つぶやきながら、真介は敵意や殺意といった強い負の感情を魔力として織り上げると、
「永遠に咲く花などないだろう。お前はここで散っていけ」
　纏まったものを１本の矢として射ち出す。
　吸い込まれるように突き刺さると、続け様の痛打に黒竜が咆哮を上げる。
「……虫けらがやってくれたな！」
　双眸に怒りが篭った。
　吐き出される瘴気が再び後衛を襲い――汚染していく。
「回復は僕に任せて、皆さんは安心して戦って下さい」
「いや、私も回復に回ろう」
　バジルの呼び掛けに、潮流が異論を挟む。
　互いに顔を見合わせて逡巡したのは一瞬のこと。
　次の瞬間には、メディカルレインと、分身の術が仲間へと飛ぶ。
　優先すべきは弱点を突くために揃えた３人のスナイパー。
　そして、その思いは響花も同じだ。
「わたしを忘れてもらっては困るわ」
　眼前に飛び出すなり、再びブラックスライムを捕食モードにして襲い掛かる。
　執拗なまでの挑発攻撃。
　だが、黒竜も最も脅威なものが何であるか分かっている。
　連続することこそ無いが、狙いは間違いなく後衛だ。
　再びぎりぎりの均衡が起こり、
「あと少し……あと少しだけ……」
　遂に他の回復を優先させていた、バジルの膝がブレスの前に崩れ落ちる。
　これでメディックも倒れた……。
「こうなったら攻め勝つのみ」
　言い放って、エレノアは古代語の詠唱を始める。
　他の仲間たちも同様に。
　かくなる上は打ち合いだ！　最後にこちらが立っていればいい！
　光を、炎を、銃弾を、爆発を、出来うる限りの攻撃を。
　襲い来る竜爪や瘴気を掻い潜って撃ち込み続ける。
　双方共に、血が飛び散り、動きが鈍くなっていく。
　とうとう前衛の最後のひとり、響花も倒れ……。
　代わりに鉱石のような表皮にも無数の亀裂が走っている。
「そろそろ終わりにしようや！」
　炎酒が黒竜の懐に飛び込む。
「目標確認・距離OK・圧縮ばっちり。さぁて、ひとつ奥の手でも見て行けや！！」
　放つは圧縮した空気。
　零距離から弾丸として撃ち込まれたそれが亀裂を繋ぎ、大きくしていく。
　それによって片翼が崩れ落ちる。
　されど、
「まだ、終わらぬ！」
　黒竜の意地か。
　崩壊し掛けた体で、また瘴気を吐き出す。
「……ここまでか」
　真介が意識を失い。
　隣ではエレノアも倒れ掛けて――魂がぎりぎりで踏み止まらせる。
「……まだ終わらない」
　残った気力を振り絞って「御業」を呼び出すと、炎が唸りを上げて黒竜へと。
　当たると同時に、無数に走った亀裂から炎が噴き出す。
　だが、炎に包まれたまま黒竜はケルベロスたちへと向かう。
　体を崩壊させながら一歩、二歩、三歩と。
　四歩目にして、潮流の前まで来るとその首がゆっくりと崩れ落ちていった。

●激闘の果てに
　長い時間を要した激闘はようやく終わりを迎えた。
　ケルベロスたちは動けるものですら傷だらけ、もう満身創痍といった方がいいだろう。
「……重傷者は出てしまいましたが、無事に勝てて本当に良かったです」
　横になりながら、バジルが安堵の息を吐く。
　際どい勝利ではあったが、それでも出来る限りのことをしての勝利だ。
　今は達成感がケルベロスたちの胸中を占める。
　とはいえ、ゆっくりもしていられない。
「さあ、新手の敵が来る前に帰るわよ」
　響花が仲間の肩を借りて立ち上がりながら呼び掛ける。
　まだ、ここは戦場だ。
「後は大本命に想いを託すだけですね」
　言って、潮流は魔空回廊のある方に顔を向ける。
　ならうように他の者も。
　自分たちが成すべき事は成した。
　勝利を祈りながら、ケルベロスたちは戦場を後にする。
　そんな彼らを労わるように、心地よい風が吹き抜けていった。

作者：キジトラ	重傷：獺川・祭（ヘタレックスチュアン・e03826） 鷹谷・徹彰（鬼哭・e07870）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年12月9日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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