七夕防衛戦~失われた浪漫(ゆめ)を求めて

作者:土師三良

●夢幻のビジョン
「……うむ……そうか……判った……」
 甲冑に身を包んだ金髪の騎士が虚空を見上げて、ぶつぶつと呟いていた。
 テレパシーを用いて、ここにはいない何者かと語り合っているらしい。
「……任せてくれ、『継母』よ」
 そう言って、騎士は顔を下げた。
 距離を置いた会話は終わったのだろう。しかし、彼の言葉は途切れなかった。今度は自分自身に語り出したのだ。
「他ならぬ『継母』からの御指名とあれば、断れるずはずもないが……しかし、そうでなかったとしても、俺は馳せ参じていたことだろう。この魂に足りぬものを得るために」
 騎士が青いマントを翻すと、どこからともなく数冊の厚い本が現れ、鳥のように周囲を舞い始めた。どの本も開かれているが、煌めくモザイクが頁の表面を覆っているため、文章は読めない。
「ケルベロスたちよ。この『奇跡を求めるヘルメスティア』に見せてくれ。おまえたちの心躍る浪漫を。美しき物語を。語り継ぐべき奇跡を」
 抑揚のない声。顔もおそらく無表情なのだろうが、判別することはできなかった。
 本と同様、モザイクに覆われているからだ。

●音々子かく語りき
「レーグル・ノルベルト(ダーヴィド・e00079)さんやセルリアン・エクレール(スターリヴォア・e01686)さんや空国・モカ(街を吹き抜ける風・e07709)さんの調査によって、ドリームイーターたちの不穏な動きを事前に知ることができましたよー」
 ヘリポートに緊急招集されたケルベロスたちの前でヘリオライダーの根占・音々子が語り出した。
「ドリームイーターたちは、ダンジョン化した『ジュエルジグラットの手』に戦力を集めようとしているんです。どうやら、ゲートの封鎖を維持することが目的のようですねー」
 本来ならば、戦力を集めずともゲートは維持できるだろう。しかし、多くのケルベロスがダンジョンを制覇したことによって、かたく閉じていたはずのゲートが開かれようとしているのだ。
「ダンジョンの制覇数だけじゃなくて、七夕の魔力も影響してると思われます。ほら、七夕っていうのは、彦星と織姫という超遠距離カップルの逢瀬のイベントですから、遠く離れた二つの場所を繋げてしまう効果があるんですよ」
 なんにせよ、ゲートの解放は、ケルベロスにとっては大きなチャンスだ。場合によってはゲートから逆侵攻することも可能かもしれない。
 そのチャンスを掴むためには、『ジュエルジグラットの手』に集結するドリームイーターたちを倒さなくはいけないが。
「というわけですから、敵が防衛線を築く前に迎撃してやっつけちゃってくださーい。皆さんのチームの標的は『奇跡を求めるヘルメスティア』という名のドリームイーターです。そいつは騎士のような姿をしておりまして、顔がモザイク化されています。もっとも、顔が欠落しているというわけではありませんけど」
 ヘルメスティアに欠落しているのは、『物語』や『ロマン』と呼ばれる類のもの。
 そして、欠落している故にそれらを強く求めている。
「皆さんが『物語』だの『ロマン』だのを体現するかのような戦い方をすれば……そう、たとえば、派手なポーズを決めたり、ドラマチックな台詞を口にしたり、なにやら色々と盛り込んで演出したりすれば、ヘルメスティアは興奮して攻撃も防御もおろそかになるかもしれませんねー」
 音々子が例示したのは判りやすいパターンだ。派手なポーズやドラマチックな台詞に頼らず、さりげなく『ロマン』的なものをアピールするのも有効かもしれない。さりげなさすぎると、相手に気付いてもらえないかもしれないが。
「では、行きましょう!」
 ここにヘルメスティアがいるわけでもないのにダイナミックなポーズを決めて、音々子は後方のヘリオンを指さした。
「奇跡を求めてる敵にカッコいい奇跡を見せてやってくださーい!」


参加者
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)
影守・吾連(影護・e38006)
金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)
遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

■リプレイ

●ロマンが来たる
 顔をモザイクで覆われた騎士がビルの屋上に立ち、夜空を見上げていた。
 いや、夜空に浮かぶ巨大な手を。
 騎士は少しばかり腰を落として脚を曲げた。跳躍して手に乗り込むつもりなのだろう。
 だが、彼の足裏が地を離れる前に――、
「『奇跡を求めるヘルメスティア』とお見受けする」
 ――凛とした声が背後で響き、その声の主を含む八人の男女が次々と現れた。
 素早く振り返り、モザイク越しの視線を八人に向ける騎士ヘルメスティア。
「ケルベロスか?」
「さよう」
 と、頷いたのは、バイオレンスギターを携えたサキュバスのセラフィ。彼女こそが声の主である。
「卿の求める地へ至りたくば、我らを倒し……って、ダメだ。やっぱり、こういうのはぼくの柄じゃないや。交代、交代」
 大仰な物言いから一転、笑いを堪えて肩を小刻みに揺らしつつ、セラフィは仲間たちに助けを求めた。
 それに応じて、銀狼の人型ウェアライダーであるリューディガーがずいと前に出た。
「ここから先へは一歩たりとも通さん! 人類の守り手にして希望たる、俺たちケルベロスがいる限り!」
「そう、絶対に通さない。通すわけにはいかない。私たちが――」
 リューディガーに続いて口を開いたのはレプリカントの真理。
「――最後の砦なのですから」
「入りたければ、私たちを倒してから行け」
 サキュバスのマルレーネが勇ましい声をあげて、恋人たる真理の横に並んだ。
「むぅ……」
 ヘルメスティアは呻きを漏らし、体を震わせた。恐怖ではなく、歓喜と興奮がもたらした震えだろう。ケルベロスたちの芝居かかった言動に見出したのだ。自分に欠落しているものを。
 そう、ロマン溢れる物語を。
 彼の心を更に刺激すべく、狐の人型ウェアライダーの篠葉がものものしい口調で語り出した。
「この地には怨念、怨嗟、怨恨が満ちている……早々に立ち去らねば、汝に禍いが降りかかるでしょう」
 篠葉は敵に目を向けず、自身のネクロオーブを覗き込んでいた。この地に満ちているという怨念や怨嗟や怨恨がそこに映し出されているかのように。
 篠葉と違って、レプリカントのかごめはヘルメスティアを凝視していた。無表情であるにもかかわらず、その目は狂喜と狂気を湛えているように見える。
 ヘルメスティアが地球のサブカルチャーに精通しているなら、静かな狂喜/狂気を含んだかごめの目を見て、ある言葉を連想するだろう。
 ヤンデレだ。
 そして、ヤンデレもまたある種のロマン。その証拠にヘルメスティアの震えが激しくなっている。
「もし、立ち去るつもりがないのであれば――」
 篠葉が顔を上げ、オーブからヘルメスティアに視線を移した。
「――それ相応の覚悟を持ってかかってきなさい」
「もっとも、覚悟を持っても無駄だけどね」
 と、人派ドラゴニアンの吾連が雄々しく胸を張り、ホラーやヤンデレに染まった物語を正統派のヒーローの路線に戻した。
「だって、俺たちケルベロスが必ず守り抜くから。この先への道も……そして、人々の未来も!」
 ケルベロスコートを翻して、ポーズを決める吾連。ちなみにコートの背から尻尾や翼は出ていない。ある目的のため、収納しているのだ。
「ええ、守り抜きます! この拳で!」
 吾連に負けじと叫んだのは、ゴリラの獣人型ウェアライダーの小唄。
「拳で語ることこそが漢(おとこ)のロマン!」
 黒い拳を突き出して、小唄は眼光鋭くヘルメスティアを睨みつけた。
 赤いバンダナを巻き、逞しい体躯を白いベストとブルージーンズに包んだ姿は実に漢らしいが、その実体は素敵なロマンに憧れる現役女子大生。ヘリオンでの移動中は『人前で派手なポーズを取ったり、くさい台詞を言ったりするなんて、ちょっと恥ずかしぃ……』などと言って、体をもじもじさせていたのである。
 その時の光景を思い出して微笑みながら、セラフィがギターを構え――、
「これが映画なら、ここでバーンとタイトルが出るんだろうね。こんな感じで!」
 ――オープニングロールに相応しい音楽を奏で始めた。

 KERBEROS PRESENTS 『失われた浪漫を求めて』

 ☆ STARRING ☆

 機理原・真理(フォートレスガール・e08508)

 リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)

 葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)

 マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)

 セラフィ・コール(姦淫の徒・e29378)

 影守・吾連(影護・e38006)

 金剛・小唄(ごく普通の女子大学生・e40197)

 遠野・篠葉(ヒトを呪わば穴二つ・e56796)

●ロマンを見せる
「これがロマンか。実に素晴らしいが――」
 大きく深呼吸して、震えを止めるヘルメスティア。
 その周囲に数冊の魔導書が出現して飛び回り始め、その手に鍵型の剣が出現して鈍い輝きを放つ。
「――俺の欠落を埋めるほどではない!」
 叫びとともに剣が振り上げられた。
 アイスエイジの精霊が一瞬にして召喚され、ケルベロスに氷の礫を浴びせていく。
 だが、標的となった後衛陣の一人である真理は傷を負わなかった。マルレーネが身を挺して守ったのだ。
「ああ、マリー。私のためにそんなにボロボロにならないでください…」
 気遣わしげな目でマルレーネを見つめながら、真理は神州技研製のアームドフォートからヒールドローン群を射出した。
「この程度はボロボロのうちに入らないさ。いや、たとえボロボロになろうとも、私は決して倒れない。君の応援がある限り」
 優しい微笑を恋人に返すマルレーネ。このように歯の浮くような台詞を口にしているのは、『ロマン』なるものを体現して敵の戦闘力を下げるためなのだが、真理を想う心に偽りはない。真理の想いがそうであるように。
 そんな二人を祝福するかのように、愛らしい天使が頭上を舞った。そして、聖なるオーラの光でケルベロスたちを照らし出す……という態で、清浄の翼をはためかせた。そう、それは天使ではなく、ウイングキャットの点心。食べること以外にはあまり興味のないサーヴァントなのだが、今回は主人の小唄にイチゴ大福で懐柔されて天使になりきっているのだ。ロマンを強化するために。
「見たか、ヘルメスティア」
 ヒールドローンと清浄の翼に癒されながら、マルレーネは無貌の騎士に指をつきつけると、その手を拳に変えて胸の前に引き戻した。
「私を倒さずして――」
 地を蹴り、ヘルメスティアに飛びかかる。
「――真理に傷一つつけられると思うな」
 戦術超鋼拳が炸裂し、ヘルメスティアの甲冑の一部が砕け散った。
 それらの破片がまだ宙にあるうちに銃声が響いた。リューディガーの『Heulende Wolf(ホイレンデ・ヴォルフ)』。威嚇射撃でありながら、ダメージを与えるグラビティだ。
 その攻撃によって機動力を鈍らせたヘルメスティアに別のケルベロスが肉薄した。
 ヤンデレの(あくまでも演技だが)かごめである。
「会いたかったわ、彦星様」
 彼女は防具特徴の『プリンセスモード』を用いて華やかな姿に変身し、織姫になりきっていた。
「今宵は年に一度の逢瀬の場。今年こそ貴方の魂を奪ってみせる。そうすれば、私たちはいつまでも一緒。さあ、剣のワルツを踊りましょう」
 剣ならぬパイルバンカーが風を切り、ヘルメスティアの胸にイガルカストライクが打ち込まれた。曲が終わるまでに踊り手を死に至らしめる凄惨なワルツ。
「……七夕というのは彦星と織姫が殺し合うイベントなのか?」
 と、首をかしげて呟くリューディガーを無視して、返り血にまみれたヤンデレ姫は同じ言葉を繰り返した。
「お、ど、り、ま、しょ、う」
 ロマン溢れる猟奇的な言動に対して、ヘルメスティアは反応を示すことができなかった。
 その隙を与えることなく、小唄が獣撃拳を顔面に叩きつけたからだ。
(「ロマンか……あたしもそういうのに憧れちゃうなぁ」)
 小さなモザイク(折れた歯だろう)を撒き散らして吹き飛ばされるヘルメスティアを見るともなしに見ながら、小唄は心中で溜息をついた。
(「乙女ゲームみたいにかっこよく戦って、イケメンの王子かカッコいい騎士と出会って、恋に落ちたりして……あ? そういえば、このヘルメスティアとかいうのも騎士だっけ?」)
『見るともなし』をやめて、ヘルメスティアにしっかりと焦点を合わせる小唄。
 だが、どんなに目を凝らそうと、騎士の顔はモザイクに隠されたまま。仮に理想通りの美男子だとしても、今の攻撃で何本もの歯がへし折れているので、ひどい有様になっているだろうが。
(「ダメだね、これは……」)
 可愛いゴリラ娘はしょんぼりと肩を落とした。
 その間にヘルメスティアは立ち上がっていたが、篠葉も行動を起こしていた。
「今日のわくわく呪い、いってみよー! おろしたての靴下に穴があいちゃうとか、ヘアムースと間違えてシェービングムースを髪に塗りたくっちゃうとか、そういう地味ながらもけっこうイタい呪いを喰らえーい!」
『怨嗟嚶鳴之呪(エンサオウメイノマジナイ)』という名のグラビティが発動し、地面から引きずり出された怨霊がヘルメスティアにしがみついた。それによって靴下に穴があく等の呪いがかけられたかどうかは判らないが、回避力が低下したことだけは間違いないだろう。
 回避力低下のグラビティはそれだけでは終わらなかった。
 間髪を入れず、竜砲弾が撃ち込まれたのだ。
 夜空から。
 それは垂直の線を引いてヘルメスティアの頭頂部に命中し、爆発した。
「頭上注意ってね!」
 爆煙の上で叫んだのは、砲撃形態のドラゴニックハンマーを構えた吾連。呪いのグラビティを使っていた篠葉を飛び越えて、滞空中にヘルメスティアめがけて発射したのである。
 吾連が弧を描いて(華麗なるジャンプだったが、翼はまだ収納したままだ)着地すると同時に『片翼のアルカディア』が流れ出した。
 演奏者はセラフィ。
「君は知らないんだろうね、ヘルメスティア。ぼくらが奇跡のような勝利を積み重ねてきたことを」
 ギターを奏でる手を止めず、セラフィは騎士に語りかけた。
 爆煙が晴れ、傷だらけのヘルメスティアの姿がまた現れた。体がまた震えているが、それは痛みがもたらしたものではないだろう。
 ロマンに酔っているのだ。
 セラフィがニヤリと笑う。
「奇跡を見せてあげるよ。そう、番犬がカミサマを食い殺す、ありふれた奇跡を!」

●ロマンに燃える
「まだまだ、戦いはこれからだよ! 第二形態移行!」
 ロマンに彩られた戦いが開始されてから五分ほどが過ぎた頃、吾連が場を更に盛り上げるべく第二形態を披露した。もっとも、翼と尻尾を出しただけだが。
「第二形態だとぉ!?」
 大袈裟に驚きながらも(欠落していたものがかなり埋まっているようだ)ヘルメスティアは魔導書から黒い触手を招来した。
 その標的は第二形態の吾連であったが――、
「哀しいわ。私というものがありながら、他の人にうつつを抜かすなんて……」
 ――ヤンデレ姫のかごめが盾となって、攻撃を防いだ。
「今の触手攻撃、ロマンっぽくてカッコいい! ねえ、もう一回やってー!」
 篠葉がリクエストとともにクリスタライズシュートを放った。
「よかろう!」
 氷結輪に斬り裂かれながら、再び触手を繰り出すヘルメスティア。
(「まさか、本当にやってくれるとは……」)
 心中で呆れ返る篠葉の視線の先で触手がマルレーネを狙って蠢き……そして、虚しく空を切った。見切りが生じて躱されたのだ。
「大丈夫ですか、マリー!?」
 マルレーネに声をかけながら、真理がコアブラスターを発射した。恋人が攻撃を回避したことを知った上で演技をしているのか、それとも本気で心配しているのか、もう当人にも判っていない。
「大丈夫に決まってるじゃないか。言っただろう? 君の応援がある限り、倒れないって……」
 コアブラスターに合わせて、マルレーネがゼログラビトンを発射した。間を置くことなく、ライドキャリバーのプライド・ワンがデットヒートドライブで追撃。『リア充、爆発しろ!』とばかりに爆音を轟かせながら。
 そして、炎を纏った黒いプライド・ワンにはね飛ばされたヘルメスティアに同じく黒い色の魔力弾が撃ち込まれた。セラフィーの発射したトラウマボールだ。
「ロマンを求める君がトラウマを見るなら、どんなものかな?」
「おおう!?」
 驚愕の叫びを発するヘルメスティア。トラウマの幻覚が見えているのだろう。
「虚無だ……虚無だ……」
「キョム? ロマンを求める騎士さんにとっては、なにもないことこそが恐怖なんですかね」
 そう言いながら、ヘルメスティアとは別の意味でロマンを求めている小唄が光輝く右手のバトルガントレットで相手を引き寄せ、漆黒を纏う左手のバトルガントレットで叩きのめした。セイクリッドダークネスだ。
 その攻撃が終わるやいなや、セイクリッドではないダークネスな存在――ヤンデレ姫が喰霊刀で斬りかかった。
「虚無など、私が取り除いてさしあげるわ」
 取り除くどころか、虚無が更に大きくなったかもしれない。今の斬撃はトラウマを生み出す凶太刀だったのだから。
「……!?」
 幻覚に攻撃を受けたのか、ヘルメスティアは声も上げずに身をのけぞらせた。
 それによって、視界に入っただろう。
 翼を広げて頭上を舞う第二形態の吾連の姿が。
「常世で眠れ!」
 吾連が腕を振り下ろすと、フクロウの群れが虚空から出現し、次々と急降下してヘルメスティアに爪を立てた。『梟宴(キョウエン)』という名のグラビティだ。
 群れが消え去ると、セラフィがまたギターを奏で始めた。とどめを刺すべくヘルメスティアに迫るリューディガーのためのBGM。
「奇跡を求めるヘルメスティアよ。奇跡とは求めるものでもなければ、乞うものでもなく、ましてや奪うものでもない」
 ワーグナーの楽曲をジャーマン・メタル風にアレンジしたBGM(ドイツ出身のリューディガーに合わせたのだ)が流れる中、リューディガーはゲシュタルトグレイブを構えた。とても真剣な表情だ。しかし、本当は羞恥心に苛まれていた。
(「妻にはとても見せられんな。こんな芝居じみたことをしている姿は……」)
 もっとも、心の片隅には『この勇姿を妻が見ていないのは残念』という意識もある。
 そんなアンビバレンツな胸中を表に出すことなく、愛妻家の戦士はヘルメスティアに稲妻突きを見舞った。
「奇跡は己の手で……そう、意思の力で起こすものだ!」
「うぐぁ!?」
 苦鳴をあげて絶命するヘルメスティア。
 その顔を覆うモザイクが消えていく。欠けていたものを得ることができたのだろう。
 しかし、素顔が晒されたのはほんの一瞬。モザイクに続いて、死体も消えてしまったのだ。
 そして、セラフィの奏でる音楽が変わった。
 エンドロールに相応しいものに。

 ☆ THE END ☆

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。