ジューンブライド、コロス

作者:星垣えん

●はいもうホント絶許
 風の爽やかな日。
 とある結婚式場には幸せに彩られた男女がいた。純白の衣装に身を包んで2人して微笑み、辺りを囲む人たちもまた心からの祝福を贈っている。
「やーすっごい綺麗!」
「2人ともおめでとうねー」
『はい。ありがとうございますー』
 お節介そうな年配女性ととりとめのない言葉を交わす新郎新婦。
 それを離れたテーブルにつく友人たちは見るともなく眺めていた。
「やー結婚まで早かったなー」
「付き合って半年ぐらい? まー長くはないけどもっと早い人たちも普通にいるでしょ」
「やっぱ6月に式やろうって話になったんかな?」
 皆が一様に『あー』と得心の声を発する。
 そう、6月とは結婚のシーズンである。
 まさに結婚式場からすれば書き入れ時であり、月内は空いている日などない。とりあえず誰かしら必ず結婚式を挙げている。つまり毎日誰かが幸せになっている。
 しかし!
 それは裏を返せば、人の幸せを許せない誰かが血の涙を流しているということだ!
「なぁにが結婚じゃオラァァーーー!!」
「6月だからって結婚せなあかん義務があるんかァァーー!!」
「え!? え!?」
「ちょ、誰ー!?」
 突然の乱入者だった。釘バットやメリケンサック、どこにあるのって感じの長い鎖を装備した女たちが大挙して押し寄せてきて、式場は一気に混乱に陥る。
 そして激ヤベェ女集団の後ろから……ずいっと姿を見せたのは当然のごとく鳥だった。
「ジューンブライド、コロス」
「聞いたか! 聞いたかお前たち!」
 カタコトじみた台詞を発した鳥さんの隣で、腹心っぽい女が叫ぶ。
「ジューンブライド、コロス」
「幸せになるべく6月に結婚するなど許せない! そんな連中は1人残らず駆逐してやる! そう言っておられるー!」
「ジューンブライド、コロス」
「武器をとれ同志たちー!!」
『うおおおおおおおおお!!!!』
 鳥さんの通訳が武器を掲げると、残りの女たちもそれぞれに武器を構えた。目につくものを片っ端からぶっ壊し、幸せの光景を惨劇の色で塗りたくってゆく。

 いやーこじらせましたねえ!

●また面倒な仕事やないか……。
「梅雨らしいジメジメした話ってとこ? 呆れた」
「本当ですよね! まったく困った人たちです!」
 興味なさげにクールな立ち姿を披露する比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)の隣で、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)がぷんすか怒ってぴょんぴょこ跳ねる。
 人の結婚をぶち壊す、そのことにねむちゃんはひどくお怒りであった。
「こんな事件は放っておけません! みんなで結婚式場に行って、ビルシャナにお仕置きしてきてください!」
「信者もいるんだっけ?」
「女の人が10人います!」
「なんで10人もついてるんだか」
 小さくかぶりを振り、肩を竦めるアガサ。
 ジューンブライドなど許さぬ――その意志に賛同する者が2桁もいるとは。
「ただただ呪文を唱えてるだけの鳥にそんなカリスマがあるとは思えないけど」
「普段は普通に喋れるんだと思います! たぶん結婚式場に入ったことで怨みパワーが強まって、『ジューンブライド、コロス』しか言えなくなってるんだと……」
 しょーもなさすぎる。
 鳥化する前にどれほどの怨念を募らせていたというのか……。
「でも取り巻きの人たちはまだ間に合います! 人の幸せを邪魔しても意味ないって教えてあげるとか……あるいはもっとひどい怨念を見せつければ逆に目を覚ますかもしれません!
 というかそうじゃないとビルシャナと一緒に敵対しちゃうので何とか目を覚まさせてあげてください!」
 ぺこっ、と頭を下げてお願いするねむちゃん。
 パない怨念を持つ女たちを相手取るのは色々な意味で危険ですしね、何としてでも正気に戻すしかありませんよね。うん。
 アガサは重い腰を上げる。
「それじゃ、馬鹿な連中を止めるとしようか」
「はい! 誰かの幸せを壊しても自分は幸せになりませんからね! 信者さんたちが虚しさに襲われる前に、助けてあげましょう!」
 割とシビアなことを言いながら、ヘリオンへ駆けてくねむ。
 かくして、猟犬たちは血の臭いがする気がする結婚式場へ向かうことになりました。


参加者
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)
シデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)
ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)
 

■リプレイ

●12人の怒れる女
「あなた達、落ちつきなさい!」
 式場に響く、女の声。
 振り向いた武装女たちが見たものは――華やかなウエディングドレスに身を包む2人の女だった。
 いや、後ろに控えるベールガールも合わせれば3人の女だった。
「ここで暴れて何になると言うのかしら! 絶対あとで黒歴史になりますわ!」
 ロンググローブにスパンコールを輝かせ、女たちに指を差すのは琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)だ。その派手なプリンセスラインのドレスが本来の目的で活躍する予定は今のところない。
「…………」
 そして淡雪の付き合いでミニ丈の純白ドレスを着る羽目になった比嘉・アガサ(のらねこ・e16711)は、無言で腕組みしている。
 どう見ても不機嫌です。
「淡雪。あたしまでドレス着る必要あった? しかも丈、短いんだけど。レースも多すぎるし」
「アガサお姉さんにぴったりのやつを用意しましたわ!」
「素敵なボブ・ド・マリエやねー。似合うてると思うっ!」
 堂々と親指を立てやがる淡雪の背後でベールガールが――ジジ・グロット(ドワーフの鎧装騎兵・e33109)が明るく笑う。あまりに悪気なく笑うものだから、アガサもそれ以上の追及はできなかった。(ただしあとで淡雪に仕置きはする)
 一方、女たちは鉄パイプや鎖に舌なめずり。
「いい度胸ね貴様ら……」
「ジューンブライド、コロス」
「教祖様がその白を真紅に染め上げてやろうと言っ――」
「サムシング・フォー!」
「いま通訳してるところでしょうがーー!」
 鳥さんのお言葉を常人にもわかるように翻訳――しようとしたところをジジの能天気な合いの手に阻まれ、腹心っぽいのが荒々しく叫んだ。
「せっかくおどろおどろしく訳せたのに!」
「サムシング・ニュー!」
「ねえ聞いてる!?」
「オールドとブルーとボロウドも合わせてバリエが5個もあるから、うちのが強いもんねっ」
「どういう理屈!?」
 45度の角度でピーンと突き出した拳を引っこめないジジに、狼狽を隠せぬ腹心である。
 ――とゆー花嫁軍団VS世紀末軍団のやりあいを、新条・あかり(点灯夫・e04291)や七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)は席に参列してじーっと眺めていた。
「やっぱり、花嫁さんって綺麗だよね。輝いて見える、あこがれるな」
「本当なんだよ! みんな綺麗で、ボクも夢見る少女になっちゃうんだよ!」
 淡雪とアガサのドレス姿にうっとり熱い視線を送りつづけるあかりの隣で、瑪璃瑠がこくりこくりと首を縦に振る。
 しかし、シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)の首は横に傾いていた。
「なんか話が違うっすね。あちしは式場で暴れる淡雪さんを止める仕事って聞いたんすけど」
 対峙する鳥と淡雪を見つめるシルフィリアス。
 その言葉だけで淡雪さんの普段の言動をお察し頂けるだろう。
 だが今日の討伐対象はあくまで鳥――あかりは蜂蜜色の瞳を鋭く輝かせ、シルフィリアスへ振り向いた。
「止めるのは淡雪さんじゃなくて鳥のほうだよ、シルフィリアスさん。ジューンブライド潰されて僕が結婚できなくなったら困……幸せいっぱいの人を邪魔するなんて許せないからね!」
「あかりさん本心が聞こえたっすよ。それに――」
 キリッとするあかりにツッコミを被せたシルフィリアスが、何か言いたげな顔で鳥たちのほうを指差した。
 そこでは、
「本当の淑女というのはね……相手の結婚を心から祝ってあげるものなの。えっと確か、今回は付き合い半年で結……ケッコン……ねぇ……ケッコン?」
「淡雪。正気に戻りなさい」
 軽く闇に堕ちかけてる淡雪(手元に弓を具現化)を、アガサが首がもげる勢いで揺さぶって止めていた。
「やっぱり討伐したほうがいいんじゃないっすかね?」
「淡雪さん……」
 さすがにシルフィリアスに反論できなかった、あかりです。

●何でもかんでも客寄せに利用して!
「コホン……失礼しましたわ」
 数分後、何とか我に返った淡雪がすまし顔で咳払いしていた。
「僻むなんていけませんわ。若く結ばれたカップルを呪おうじゃないのですの! やーい出来婚だの! ……私は二年以上友達以上なのに……一緒にどこかに行ったことすらも無いのに……とか思ってませんわよー」
「ジューンブライド!」
 だが淡雪さんの脚は鳥さんをどげしっ、と蹴っていた。
 憂さが滲み出る見事なヤクザキックだった。
「教祖ー!」
「教祖が顔面から床にー!」
 奇声を上げて前のめりに倒れた鳥さんを、武装女たちが助け起こす。
「蹴るなんて何をするのよ!」
「あなただって本当は結婚してゆく者どもが憎いんでしょう!?」
「そ、それは……」
「淡雪。躊躇しないで否定して」
 信者の勢いに押されて口籠る淡雪の背を、べしっと叩くアガサ。彼女がいなければとっくに鳥の信者が1人、いや教祖が1人増えてると思う。
 が、誘惑はなおも続く。
「ジューンブライドという悪習を一緒に叩き潰しましょう!」
「さあ、ほら!」
「そ、そこまで言うなら……」
「淡雪」
 ふらふら足を踏み出しかける淡雪をアガサが以下略。
 このままではいずれダブル教祖が現実の画となってしまう。シルフィリアスは席を立ち、てけてけと信者らのところへ赴く。
「みんな落ち着いて考えるっす」
 体ごと、話に割って入った。
「ジューンブライドだ、6月は結婚の季節だ、なんて言うっすけど日本では結婚する人が少ない季節だったんすよ。結婚式場は閑古鳥っす。それを打開するためにウェディング業界が欧米から輸入して使いだしたのがジューンブライドっす」
「なんと!」
「極悪なるウエディング業界! 許すまじ!」
 シルフィリアスの語る業界の闇に怒り、信者がぎりぎりと拳を握りしめた。
 シルフィリアスはしゅばっと手を振り、畳みかける。
「つまりジューンブライドだなんだのと言ってるのは業界の策略に乗せられた人たちっす! うらやましがるよりむしろ憐れんで見てやるべきではないっすか!」
「な、なるほど!」
「あーあー踊らされて……と思えば気が楽になる!」
「さすがですわ、シルフィリアス様!」
 パッと顔を明るませ、肯いて得心を表す女たち。淡なんとかさんも1匹混じっているが、そんなことは置いといてジジは「あのね」と信者らに緑色の瞳を向ける。
「フランセも6月に結婚しはる人ら、多いみたいやけど……ジューンブライドは聞いたことナイねんナー。なんでもフランセでは6月に結婚すると次の年の税金安うなるんやって! 超合理的~!」
「ではやはり日本のジューンブライドは業者の戦略!」
「それを知らず6月に結婚したがるとは……」
「フハハハ! 憐れよのう!」
「そうっす! どんどん憐んでくべきっす!」
 仏国の結婚事情を聞き、とうとう悪い笑いを発しはじめる信者たち。シルフィリアスの誘導に乗っかって、その声はどんどん大きくなる。
 座って機をうかがっていた瑪璃瑠は即座に腰を上げ、少女らしい可憐な笑顔で信者たちのそばに歩み寄った。
「ボクはまだ恋だってしたことないのだけど。でもでも、綺麗なドレスを着て、幸せになりますって笑い合う新婚さんたちはとっても素敵に見えるんだよ!」
 胸の前で手を組み、あらぬ方向を見上げる瑪璃瑠。
 それからちょっと間をとって、頭の中にその情景を思い描いていますよ感を醸し出すと、瑪璃瑠は金色の左眼で信者たちに笑った。
「えへへ、ボクたちもいつか、そんな日が来るのかなーって。そう想うとボクたちも幸せなんだよ!」
「ま、眩しい顔を……!」
「あれは明日を夢見る乙女……!」
 くっ、と手を顔の前にかざす女たち。瑪璃瑠の笑顔が彼女らにはいたく眩しかった。まるで過去の己を見ているような、そんな寂寥の思いが湧いてくる。
「やっぱり、女の子って可愛い服が似合うよね」
 横合いから顔を出したのは、あかりだ。信者らの胸の内を見透かしたかのように穏やかな顔をしている。穏やかな顔でハンガーラックを引きずって登場している。
 それどこに置いてたの?
「お姉さんたちもどうかな、着てみない?」
 ラックに並んだ麗しい衣装――ウエディングドレスをさらりと撫でて、あかりが勧めた。ドレスは純白はもちろん、赤や青、黄や緑など華やかな色彩を発している。パールのネックレスやイヤリング、花をあしらったカチューシャまで、店とか出せるんじゃねレベルで多様なラインナップである。
 それどっから持ってきたの?
「あー、カワイイ……」
「なにこれすごーい……」
「お姉さんたち、そんな物騒なこと言ってても隠せない位可愛いんだから、可愛い服着てきらきらしたら明日にでも見初められちゃうよ。来年のジューンブライドは君だ、なんて」
 照れたように両頬に手を添えるあかり嬢。これは想像してますね。歳の離れまくった恋人と結婚する日を、日にち単位で指折り数えてるその日を妄想してる顔ですわ。
 だが、妄想してるのは彼女だけではなかった。
「ええなあドレス……」
「こういうの着れたら……」
 がらん、ごとん、と一部の女たちが武具を取り落とす。
 かつての夢が胸に戻った音は、ずいぶんと硬質だった。

●悟りの、その先へ
「なんて愚かな!」
「結婚という幻に囚われるとは!」
 武装解除し、外に出ていった元仲間へ唾を吐き捨てる信者たち。
 だが、その前に盛大なため息が立ち塞がった。
「なあーーーにがジューンブライド、コロスだ。自分が結婚できないからって八つ当たりしてんじゃないよ、この行き遅れが」
 アガサである。
 不本意なウエディングドレスに加え、信者たちのクソ粘りで死ぬほど機嫌が悪くなってるアガサが腕組みしてふんぞり返っていた。
「こんなところで恨みつらみを振りまいてる暇があるなら少しでも自分磨きして前進できるように努力するとかしたらいいじゃないのバカなの?」
「息継ぎなしで!?」
「流れるように説教が出てくる!?」
「挙句の果てがコレだぞ? アンタ達の将来の姿がコレで虚しくならないの?」
 びしっ、と鳥さんを指差すアガサ。
 人をやめ、カタコトしか話せなくなるその姿に信者たちの視線が集まる。
「いやこうはなりたくないけど……」
「ならばお考え直しなさい」
 躊躇を覗かせた信者たちへ、式場の入り口のほうから声が届く。
 視線を流すと――そこにはマーメイドタイプの純白ドレスを装備したシデル・ユーイング(セクハラ撲滅・e31157)と、いつの間にか再びベールガールになってるジジがいた。
「すごいデジャヴ!!」
「マドモアゼル・シデルのボブ・ド・マリエも綺麗やネー」
「ありがとうございます。着る予定ないですが」
 ぱちぱち拍手してくるジジに微笑んだシデルが、いつもの仕草でスッと眼鏡を直す。
「よく考えるんです。今この場で襲撃をかけたとしても……『ジューンブライドに襲われるなんてすごい悲劇的!』と、より盛り上がられてしまうだけでは?」
「はっ!?」
「それは確かに!?」
 シデルさんの話に早速納得してしまう信者。
 これは御しやすい、とシデルは内心勝利を確信した。なにせ相手の思考が手に取るようにわかるのだ。我が事のように理解できてしまうんや。
「それに6月に結婚式が多いという事は、呼ばれる可能性も上がるという事。つまり貴女がたにとっては狩場……イエ、出会いの場が増えるという事です」
「はっ!?」
「それは確かに!?」
 あまりに的確な指摘に、信者たちが自動返答と化す。
「良く聞くでしょう。『馴れ初めは友人の結婚式で同じテーブルでした』とか。私自身、何人も見て来ましたよ。見送ってばかりですけれどもね、ええ、ええ」
「な、なるほど……」
「出会いが……!」
「他人を祝う人間と結婚式乱入者……どちらが選ばれるかをお考えなさい」
 金言だった。
 結婚どころか男っ気すらないシデルさんだけど、信者にとっては金言だった。
 からん、と薙刀とか落とした信者をぽふぽふ慰めるジジ。
「ホンマは、ちゅーかどう見てもジューンブライドになりたかってんな? なれへんくて、ヤキモチやいてしもてるンやろ」
「う、うう……!」
 信者たちが泣き崩れると、ジジは彼女らの頭を撫でた。
 そして、からっと元気に教えてあげた。
「あのね、フランセは離婚率も高いデス! 6月にお式挙げても、別れるモンは別れるの。幸せになるのは自分がガンバるからなの」
「ジューンブライドになっても安泰じゃないのね……」
「そうよね、努力ありきの幸せよね……」
「そうです」
 シデルが柔らかな微笑みで信者に手を差し伸べる。
「だいたい今の時代、結婚ばかりが幸せではありません。いいものですよ? 独り身も楽で、自由で。いつでも私は同志を歓迎します」
「独り身も……!」
「ありがとう、ありがとう同志!」
 わああ、とシデルを中心にして抱き合う女たち。
 皆がわかりあう感動的な結末――それを見てシルフィリアスはぽつり。
「むしろ取り返しのつかない道に誘ってないっすか?」
「そこまでですわシルフィリアス様ー!」
 背後からメロン(中をくりぬいたやつ)を被せられるシルフィリアス。前も見えなくなった魔法少女がふらふらとどこかへ歩いてくのを見つつ、淡雪は「ふぅ」と額の汗を拭った。
「危ないところでしたわ!」
「これで安心だね」
 淡雪の隣でこくりと頷いたあかりが、懐からホッケーマスクを取り出す。
 眼鏡でも扱うかのように普通にホッケーマスクを取り出す。
「いけないこと考える鳥は滅殺しないとネー」
「了解なんだよ! むしるんだよ!」
「ジュ、ジュ、ジュ…………!」
 うきうきと半ばスキップで迫るあかりと瑪璃瑠を前に、この日初めて動揺を見せる鳥さん。
 もちろんすぐ死んだ。

 煙のように昇天してく鳥さんを見送りつつ、ホッケーマスクを外すあかり。
「これで僕の……みんなの未来は守られたね」
「あかりさんあかりさん! 黒いドレスとかないかなー?」
「え、どうだろ。探せばあるかも……」
「ちょっとね、あったら着てみたいんだよ!」
 ハンガーラックを物色している瑪璃瑠のもとへ、てくてく歩いてくあかり。それからドレス談義でわいわいしたので、たぶんもう鳥のことは忘れただろう。
「まったく大変な仕事だったっす」
「メロン、べたつきそー。うちがお顔拭いたるネー」
「助かるっす」
 シルフィリアスはメロン果汁で地獄ってる顔を、ジジにタオルでぐしぐしと拭いてもらいつつ、大きなため息をつく。
 一方、そのため息をつかせた犯人は――。
「淡雪、シデル。今日は呑みに行こう。まだちょっと日は高いけど」
「大歓迎ですわ! 呑み明かしますわよー!」
「いいですね。私も全力でお付き合いしましょう」
 アガサの誘いに、諸手をあげて乗っかっていた。シデルもにこりと賛同し、3人は勇ましく式場の外へと繰り出してゆく。
 ウエディングドレスで。
 純白の花嫁衣裳でひたすら飲み歩く3人の女――という伝説がその町に刻まれたのは言うまでもないだろう。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月8日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。