大菩薩再臨~海の漢に憧れて

作者:久澄零太

「兄弟、お前の力と覚悟は受け取った……!」
 波が船体を打ち、飛沫と水音を立てるとある海上。船のデッキで消えていくビルシャナを支えた、海兵じみたビルシャナが散っていった同胞へ敬礼を捧げる。
「面舵いっぱーい、ヨーソロー! 本船はこのまま南へ向かう! 目指すは同胞とのランデブーポイントだ!!」
『アイアイサー!!』
 声が返ってくるが、もしこの船に乗っているものがいたなら気づいただろう。複数返ってきたように聞こえるが、全く同じ声が違う場所から聞こえただけだと。
「行くぞ同志……あ、違う。野郎ども……一人しかいないや」
 なんか締まらない鳥オバケ、シーガル・スミスは畳んでいた帆を張り、そこに描かれた髑髏マークを晒す。
「とにかく出発だ! 行くぜ野郎ども!!」
『アイアイサー!!』

「みんな集まってくれてありがとう! 皆の活躍で折角解放が進んでたドラゴン勢力の制圧地域の一部が、ビルシャナの菩薩の一体、天聖光輪極楽焦土菩薩に壊されたのはもう知ってるよね?」
 耳の速い番犬や、実際に出撃した番犬が頷く傍ら、首をかしげる者が居たことを認めたユキは。
「えっとね、ビルシャナは壊した地域からグラビティチェインを横取りして、ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に、強力なビルシャナを集結させようとしてるの!」
 そこまで聞いて、一刻を争う事態だと気づかぬ番犬はいなかった。
「みんなには、合流しようとしてるビルシャナをやっつけて欲しいんだけど……」
 ユキが広げたのは地図ではなく、海図。
「敵は海を移動してて、海賊船に乗ってるの。そこに乗り込んで強襲をかけることになるよ! 船で戦うから、常に揺れ続ける事には気をつけて欲しいかな」
 敵は荒い操舵をよしとするらしく、さぞや酷い揺れの中戦う事になるだろう。一方的に立ち回りで苦労しそうなものだが、これは同時に敵に付け入るポイントでもあり。
「敵はタコみたいなビルシャナを護衛につけてるんだけど、本人は海賊を至高だと思ってるの。だから、海賊よりカッコいい悪の組織をアピールしたり、逆に海賊そのものを演じきれれば戦闘が有利になるかもしれないよ!」
 要は、普段信者相手にやる事をビルシャナにやれと言っているのだ。
「ちょっと酔いそうな戦場だけど……頑張って! あと、護衛のタコみたいなビルシャナにも気をつけて欲しいな……違う意味で」
 詳細を聞こうとすると、ユキはそっと目を逸らした。
「一応、私がフォローに入りますから安心……はしないでください」
 四夜・凶(泡沫の華・en0169)も遠い目をしていたとかなんとか……。


参加者
日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
テティス・ウルカヌス(天然系自称超次元アイドル・e17208)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)
アーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486)

■リプレイ


「船……ですか。船かぁ……」
 現場が近づくにつれて遠い目になるシフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は、太陽機の窓をため息で曇らせる。
「酔い止め忘れてきたんですよね……戦闘中に酔うのは避けたいんですが……」
 キュアも効かねぇしな。
「折角だし、ユキちゃんも海賊コスしてみない?似合うと思うんだけど」
「え、ヤダ」
 憂鬱な顔したシフカとは対称的に、白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)はぺかーっとした笑みで黒のビキニに、黒のフリルを巻いたような丈の短いスカートに、赤い外套をセットで持ち出すがユキは即答。
「水着と露出度が変わらない衣装着せようとしたけど駄目だったかー」
 そらそうやろ、着替える必要ないんだから。
「海賊といえば船での体当たりな突撃が基本」
 これ船じゃなくてヘリなんだけど、日柳・蒼眞(落ちる男・e00793)が何考えてるかってーと。
「俺も大神の胸へ突撃するぜ!」
 ま た か よ !
「飛び込まずして何が番犬か!行くぞ大神覚悟し……」
「きゃぁあああ!!」
「ふべぅ!?」
 おぉっと何という事だろう!狭い太陽機の中で妙な真似をするから、テティス・ウルカヌス(天然系自称超次元アイドル・e17208)の射程圏内に踏み込んでしまった蒼眞!その顔面を死角から右拳が襲う!メリッ……表情筋が引き千切れる音と共に蒼眞の顔が変形し、めり込んだ拳の拳圧が蒼眞の体重を越えた瞬間、弾き返されたように太陽機の外へ。
「とぉおおりかぁじ……」
 まさか頭上でそんなことになってるとは思わぬ鳥さん(×2)は船の行く先を変えようとするが、そこへ蒼眞が直撃!吹っ飛ばされた鳥さんの手羽先を離れた操舵輪が高速回転して、船は急な方向転換によりあらぬ方向を向いた。
「初弾命中っと……おう、てめえらの全部を奪いに来たぜ」
 永代が蒼眞を蹴落としたようなツラして降下。下衆顔を見た鳥さんこと、スミスはハッとする。
「空賊だー!空賊が降りてきたぞー!!……空の賊って本当にいたんだ」
 しげしげと永代を観察するスミスの傍ら、テティスが台本(という名の依頼書)を確認。
「ふむふむ、海賊同士の諍いに、悪の秘密結社や魔法少女まで出てくるのですね」
 空から降りたから空賊だと思われてるけどな。
「パイレーツ・オブ・ナントカを超える名作を作ろうというプロデューサーさんの気合が伝わってくるような豪華出演陣ですね!海賊船でのロケだけでなく、CGでタコまで用意するなんて、今回は制作費も豪華ですし!」
「タコ?」
 奇妙な事を言いだすテティスに、スミスが首を傾げる。船には謎の空賊と自分と触手生やしたビルシャナしかいない。予知したユキがこのビルシャナをタコと表現した故のすれ違いなのだが、その辺は置いといて。
「くっ、宝の地図を追ってきた悪の秘密結社から逃げ回っていたら、海賊船に乗ってしまったなんて……!」
 突然始まったテティスの大根芝居に、スミスも開いた嘴が塞がらない。
「自分は一体何を見せられているんだ……?」
「フハハハ……我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領!!」
 突然の笑い声に振り向いたスミスが見たのは、船首から伸びた菩薩っぽい像に立って腕組みする大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)。
「海の漢か……水兵な格好をしているにも関わらず、海賊推しとは……やはり、小者であったか。だが、我が配下たちに抗う力を示すならばチャンスをやろう!」
「わーふーるー」
 バサリ、大首領がマントを翻して腕を振るえば、ネリシア・アンダーソン(黒鉛鬆餅の蒼きファードラゴン・e36221)ことワッフル怪人が降下。ワッフルの体にワッフルメイカーめいた二枚の鉄板を両手に備えた、物理防御のバケモンみたいなネリシアがわふわふ言いながらジリジリとスミスへ迫る。
「ふん、船上で自分とそんなふざけた姿で戦おうなんて、無策にもほどが……」
「所で水兵よ、船が波に押されているがいいのかね?」
「しまっ……」
 慌てて操舵輪に飛びつくスミスが一気に操舵輪を回して、船首を回転、外れてしまった航行ルートを戻そうとする。一見すると敵一人を事実上の無力化に追い込んだように見えるこの状況、その実態は。
(一先ずこちらへの攻撃は飛んでこなくなったな……い、今の内に何とかして甲板に降りなくては……!)
 開幕で蒼眞がぶつかった際に船が回頭した関係で、大首領はギリギリ海に落ちる位置へ降下してしまい、奇跡的に菩薩像の上に着地しただけに過ぎない。まさか大首領たる自分が海に落ちるわけにはいかないと、ほんの数歩で終わるのに、一歩が踏み出せない、短くて長い彼の戦いが始まった……。


「おのれ……相棒!まずはあの偉そうな仮面野郎を海に落してやれ!!」
(何ー!?)
 操舵の為に身動きが取れなくなったスミスの声に、触手をうにょらせるビルシャナが大首領を見た。
「ククク、先に頭を落とそうというわけか、その判断やよし」
(しまったー!目立つ位置にいるのにヘイトを稼ぎすぎたか!?)
 台詞と内面があってない大首領。触手を見下しつつ、彼が導き出した答えは。
「ワッフル怪人、たこ焼きにしてやれ」
「わーふーるー」
 まさかの味方に押し付けることだった。
(仕方ないだろう!?今私は身動きとれないんだから!!)
 戦場を俯瞰するような顔(仮面)して、そーっと、そーーーっと甲板に向かう大首領。その様子にスミスが気づいた瞬間、ピシッと背筋を正して。
「ワッフル怪人がタコを押さえている内に、目的の物を奪うのだ!」
(あっぶな!?)
 カッコつけて大きく腕を振ったせいで、一瞬足を滑らせそうになった大首領が踏み止まり、黒い落雷が甲板を焼く。
「首領の命令によりおまえを捕らえるっす」
 白煙より姿を見せたのは、シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)。ただし、その肌は生気を抜かれたように白く、羽毛の無い黒翼と逆巻角を備えたその頬には呪印が刻まれていて、彼女がオリュンポスの支配下にあることが覗えた。
「誰が来ようとも、この地図を渡すわけには……」
「そっすか、じゃあコレはいらないっすね?」
 拒否の意思を示したテティスにシルフィリアスが示したのは、異形化した髪に編み込むようにして囚われたアーシャ・シン(オウガの自称名軍師・e58486)とシフカの姿だった。
「助けてください!悪い人達に捕まってオークに売られそうなんです!」
「いや何で自分を見る!?」
 どう考えても話を振られる余裕のないスミスの方に助けを求めたアーシャに、スミスもビックリ。
「どうしてこんなことに……今日は母さんの命日に花を買いに出ただけなのに……!」
 買い物途中で攫われた町娘っぽいシフカはさめざめと涙を流し、二人の人質を前にテティスが歯噛みする。
「くっ、なんて卑怯な……きゃー!?」
 真正面ばっかり見てるから、背後から迫る触手に気づかなかったテティスがタコシャナに絡めとられてしまった。
「きゃ、きゃああっ、なんですか、このタコッ!?なんか本物みたいな感触ですよっ!?」
 未だCGだと信じて疑わないテティス、肌の上を這い回る生温かい肉と粘液に悲鳴をあげ、芝居どころじゃない。ついでにタコシャナは触手をぶん回し、番犬を海に弾き飛ばそうとするのだが、永代が素早く反応。指を鳴らして白煙のナイフを生むとシルフィリアスの髪を切り、シフカを強奪。
「何するっすか、すっとこどっこい」
「何って、こうするんだよオラァ!」
 一瞬にして髪が再生するシルフィリアスに空虚な目を向けられて、口角を上げた永代はシフカを蹴り飛ばし、触手の射線上へ。
「あっ……」
 無防備に投げ出されるシフカの視界を、触手が埋め尽くし……。


「って、触手が服やスカートや下着の中に潜り込んできましたっ!?」
 テティスの服の下に潜り込んだ触手は彼女の体の上を這い回り、服が内側から押し膨らまされて、ビリィ!
「脱がしてくるなんて聞いてませんよーっ!?」
 柔肌を晒して触手に弄ばれるテティスが真っ赤に染まる傍ら、顔面を殴打されるかに見えたシフカは命中と同時に巻き付かれてしまい、吊るし上げられていた。
「ぁ……ダメ……太いのが……中に……んっ……!」
 身をよじるシフカだが、誤解を招く気がするから補足説明しよう。太い『触手』が、『股や脇の内側』に回り込んで拘束しているだけで、決してあーるじうはちではない。
 何故服の内側ではないのか?シフカが気が付いたら全裸になってたからじゃないかな……。
「これ、触手に絡まれてなかったら検閲案件っすよね?」
 シルフィリアス、芝居抜きの素の話しないで。俺もこんなことになるなんて思ってなかったんだもん!まさか全裸のシフカに絡み付いた触手が拘束の為にシフカの全身を這いずり回って巻き付いて、局部を隠す最後の良心になるだなんて思わないじゃない!!
「……ていうか、オークの触手だよね……そう考えると、隠してくれるのは……ビルシャナ化の影きょ……うっ」
 ネリシアー!?甲板を薙ぎ払う一撃に対して、盾に巻き付かせて逆に捉えた触手に噛みついたネリシア。悪役を体現するべく、腕を首を逆方向に引いて喰いちぎったまでは良かった。モフモフでもドラゴンなんだなーって牙の鋭さを見せた直後、ネリシアの口内を襲ったのはぶっといミミズがのたうつような感触と男臭(意味深)と媚薬感。
 これタコじゃなくてオークだー!?って気づいた時にはもう手遅れで、喰いちぎった触手を吐き捨てた後、甲板から身を乗り出して撒餌(ネリシアに配慮したオブラート表現)する羽目に。
「えっと……一応ヒールしたほうがいいのかしら……?」
 どっちを?
「えっ」
 ちょっと演技どころじゃなくなってきたから、回復に回ろうとしたアーシャ。しかし、前方には触手で全身をまさぐられながら晒し者になるテティス&何故か局部だけやたらヌラヌラしてる粘液まみれのシフカ。
 後方には手すりに身を預けて口から魂めいた白い煙が噴き出し、空に向かって旅立とうとしているネリシア。
「こういう時は効率重視よね」
 被害者が二人いる前衛に向けて鬼鋼を構えるアーシャ……おい待て、それ使い方が間違って……。
「どぉおおおりゃぁあ!!」
 投げたー!鬼鋼投げたぞコイツ!?ビルシャナの顔面に当たってパァン!した鬼鋼が銀粉と化し、テティスとシフカを包む……が。
「なんか、余計危なくなってないか……?」
 と言いつつガン見する蒼眞である。触手で隠されてた部分が銀粉で見えなくなり、テレビで放送される時は規制が入るのに、後に出てくるディスク版だとモロに表現されるアレっぽいアレですね、分かります。
「ドーモ。ビルシャナ=サン、番犬です。海賊しにきました!」
「お前何言って……って、相棒!?」
 両手と口で、三振りの刀を構えた蒼眞がスミスの背後を取る。振り向いたスミスの視線の先、タコシャナが目を回しており。
「おのれよくも相棒をぉおおお!!」
 スミスが操舵を放棄、ついに臨戦態勢へ……!大首領マダー?
「ま、待て、後二、三歩でそっちに着く……!」


「海賊の喧嘩の売り方といえば相手の海賊旗を撃ち抜くのは定番。まずは髑髏マークを……狙い撃つ!」
 投げた!蒼眞が刀を投げた!!いいの!?
「いや、海賊感を出す為に口に咥えてただけで、アレいらないし……」
 いいんだ……それはさておき、髑髏マーク(ちゃんと人の頭蓋骨に骨が二本)に刀が突き刺さった事でスミスがプッツン。
「いい度胸だ、海の『モズク』にしてくれる……!」
 微妙に海賊力が足りてないスミスを、蒼眞がスマホでパシャリ。
「海賊といえば手配書だ。つまり顔や見た目のインパクトは大事だろう?」
 見ろよ、と蒼眞が見せたのはカモメである。微妙に猛禽っぽい眼光の鋭さはあるが、恐いかって言われると怪しいライン。
「やはりパイプより葉巻の方がいいかな……」
 自覚はあるのか、スミスは咥えていた煙草の種類について悩み始めるが。
「やっぱり、他人が真似をするのは難しい程にドスの効いた鋭い眼光、誰が見ても一発で分かる特徴が必要だよな」
 と、蒼眞が見せた手配書には乱雑に伸ばされた髪の下から、赤い眼光が射抜く四白眼の男が映っていて。
「このくらいの悪人面じゃないと、海賊味が足りな……」
「後で、お話しましょうか」
 蒼眞の肩を、手配書の御本人こと凶がポムンした瞬間である。その時の笑顔を、蒼眞は後にこう語った。
「海の底みたいな暗い視線の奥から、溶岩みたいな赤い瞳がずっとこっちを見て逃がさないんだ……あいつとだけは、喧嘩したくないって思ったぜ……」
「戦闘準備完了……では行きましょうか」
 ヘイドレクの兄貴!その痴女止めて!!全裸の両腕に鎖巻いただけで何言ってんのその人!?
「忍びたる者、外見から敵を倒すものでしてね?」
 やめてください、直視した永代と蒼眞の方がKOされてるから!
「結局いつも通りっすね」
 ため息溢すんじゃねぇよシルフィリアス、俺だってこんな大惨事になると思ってなかったわ。重傷がゴロゴロでるガチ依頼だと思ってたもん。
「めんどくさい鳥はさっさと海に沈んで、ペンギンになるといいっす」
 杖を振るい、光の奔流に飲まれたシルフィリアス。しかし、黒い光は妖しい輝きと共に彼女の服を解きほぐし、漆黒のリボンへ再編すると胸元を包むフリル、腰元を覆うスカートへ変わり、黒翼は羽ばたきと共に一回り大きく変貌して、鞭のようにしなる尾が生える。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 ポージングも髪を撫でるように、顔の側面に添えられて甲を見せ、嘲笑を浮かべてスミスを見下す(ただし、身長の関係で実際には見上げているのは秘密だ!)黒い衣装のシルフィリアスに……。
「チッ、そちらがその気なら、自分とてこの船に懸けて負けるわけには……」
「どりゃぁ!!」
 アーシャ!まだ敵が喋ってるでしょ!?
「うっさい!こちとらたまにはヒロインしようかなーなんて、慣れないドレス着てきたのにアテが外れてむしゃくしゃしてるんだ!!」
 女子力が足りなかっ……もとい、策が悪かっただけやろ?
「策士の私に、そういう事言うんだ?」ニッコリ。
 あ、いえ、なんでもありません……。
「で、お宝はどこだ?よこさねーなら……お前の命をいただくぜ?」
 さて、スミスが喋ってる途中から飛び蹴りを叩きこみ、蹴り倒すなり頭を踏んで押さえつけるという悪逆非道をしながら睨みつけるアーシャ。もはやどっちが悪党か分からない有様である。
「宝?くっ、あなたも私の地図を狙っていたスパイだったんですね!?」
 テティス、お前じゃねぇ。全裸で甲板に転がり、落ちてた海賊旗を体に巻き付けて即席のワンピースっぽく仕立てたテティスは未だ撮影だと思い込んでおり、これを見かねたシルフィリアスがクルッと尻尾で巻いて。
「うっさいっす」
 ポーン……ボチャーン!海にポイ捨てした!?
「おっと大変だ救助に向かわないと!」
 永代、せめて落ちた時に脱げたっぽい海賊旗を見ずに言えば真っ当な台詞に聞こえたんやで……。
「例え全裸だとしても、助け上げる時に全部見えたとしても、仕方ないよねん!」
 それを言わずに行けよ!?
「取り敢えず……悪の怪人とか……特撮とかの参考資料から調べてやってみたけど……何か違うかな?」
 あ、ネリシアが復帰した。
「グラファイト……アレで行こう……」
 アレとは何ぞや?と思ってたら、急に牙を打ち鳴らすネリシア。空間を小さな火花が伝播するように灯っては消えていった後、空撃ちに終わったかに見えたネリシアにスミスが碇を振りかざすと、ネリシアは大きく息を吸って。
「コレを只の目眩ましだと……」
 ほっぺを膨らませた口の端から、わずかに赤い光が零れる。
「思わないでね」
 吹き付けたそれは大気を焦がす竜の吐息。しかし、先に周囲に散布したグラファイトの破片に反応、青い炎に色彩を変えて、拡散するはずのそれは周辺の大気に漂う金属片が熱を誘導し、スミスへ集中『放』火する火炎放射となった。
「あっづぅうううう!?」
 尾羽に火がついたスミスが大慌てで海にぴょーい。尻を鎮火して事なきを得るが、彼の体は勝手に海中から浮かび出し、やがては彼を持ち上げる巨大な腕が姿を現す。
「フハハハ……無様、あまりにも無様!海賊ともあろうものが、船を捨てて海に飛ぶか!!」
 開幕早々、海に落ちかけて散々仕事しなかったアンタがそれを言うかね?
「シッ!余計な事を言うんじゃない!!」
 へいへい。
「コホン、所詮は水兵でありながら海賊に憧れる半端物……己の矮小さを知りながら潰えるがいい!」
 大首領が掌を上に腕を伸ばせば、浮遊する巨腕が軋みを上げる。
「全て我が掌の上だ……これにて、閉幕!!」
 宣言と同時に手を握り込んだ瞬間、その動きに巨腕がリンク。
「か、海賊が、海以外で死ぬなんてぇえええ!!」
 悲痛な叫びを響かせて、握りしめられた巨大な拳。その指の隙間からは赤い雫が流れ落ちたという。
「あ、このままだと血の匂いに誘われて鮫が来るんじゃ……」
「え、これ鮫に襲われるホラー映画だったんですか!?」
 永代、そのバカ早めに拾っといて……。
「うっ……」
 甲板の方ではサーっと青ざめるシフカがバターン!ついに船酔いで倒れたか……おかしいな、戦闘以外によるダメージの方が多い気がする……。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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