城ヶ島制圧戦~亢竜

作者:蘇我真

「これに、勝たないといけないのですか……」
 資料に目を落としたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は緊張の色を隠さなかった。
 集まったケルベロスたちの存在に気付くと顔を上げ、しわぶきをひとつして掠れた声を整える。
「志有る方々、よく来てくださいました。作戦についてご説明します。
 城ヶ島の強行調査により、城ヶ島の白龍神社に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明しました。
 この固定化された魔空回廊に侵入し、内部を突破する事ができれば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定することが可能となります」
 固定化されていない魔空回廊はすぐに消滅してしまうため、今までは『ゲート』の位置を特定することはできなかった。
 だが、その『ゲート』の位置さえ判明すれば、その地域の調査を行った上で、ケルベロス・ウォーにより『ゲート』の破壊を試みることもできるだろう。
 そして『ゲート』を破壊する事ができれば、ドラゴン勢力は、新たな地球侵攻を行う事ができなくなる。
「城ヶ島を制圧し、固定された魔空回廊を確保する事ができれば、ドラゴン勢力の急所を押さえる事ができるのです。
 強行調査の結果、ドラゴン達は固定された魔空回廊の破壊は、最後の手段であると考えていることが判明しています。
 電撃戦で城ヶ島を制圧し魔空回廊を奪取する……難しいですが、決して不可能ではありません」
 集まったケルベロスたちをぐるっと見渡し、セリカは声を張り上げた。
「ドラゴン勢力のこれ以上の侵略を阻止する為にも、皆の力を貸してください……!」
 セリカの喉がぜん動し、生唾を飲み込む。作戦の内容が難しいことを暗に示しつつ、それでも、その内容を伝えることに心血を注ぐ。
「強行偵察の結果、城ヶ島周辺、特に南側は戦艦竜という強力なドラゴンに守られており、海路からの突入は難しいことが判明しました。
 そのため、水陸両用車を利用した島への上陸作戦、および城ヶ島大橋からの陽動作戦などを行うことになりました。
 しかし、それらの作戦は全て『ヘリオンによる白龍神社への強襲』という、この作戦の為にあるのです」
 ケルベロスたちはセリカのヘリオンに乗り込み白龍神社へと急行し、その場を守る強力なドラゴンを撃破、固定化された魔空回廊を確保する。
 それが、今回の作戦だった。
「先程も述べた通り、ドラゴンたちは固定化された魔空回廊を破壊するのは最後の手段だと考えています。しかしいざとなれば、破壊する事に躊躇いはないでしょう。
 そして、ケルベロスたちに魔空回廊を確保されるとなれば――それは『いざ』という事態に他なりません」
 ドラゴンたちが魔空回廊の破壊を決意してから実際に破壊する前に、魔空回廊の前に座する強力なドラゴンを撃破するには、この電撃戦しか無い。
「この作戦を担当するのは私のヘリオンの他に、ダンテさん、ねむちゃんのヘリオン……合計3チームです。
 3チームが同時に降下し、魔空回廊を守護する3体の強力なドラゴンを1体ずつ相手にして戦う事になります。
 1チームでも敗れてしまえば、そのドラゴンに、魔空回廊を破壊されてしまい、目的を達することは出来ません。
 自分達の担当するドラゴンとの戦い方だけでなく、劣勢になった他のチームの援護方法などについても、考える必要があるでしょう」
 続いて、セリカは自分のチームが担当するドラゴンについて説明を始めた。
「全長10メートル、他のドラゴンよりも一回り大きく、また全身は水晶やクリスタルのような……透明で光沢感のある金属で構成されています。
 これは過去に空気中の元素から宝石を作ることに成功した錬金術師を喰らったことによる能力に他なりません」
 いにしえの錬金術により、このドラゴンの放つ攻撃は元素を変換し、あらゆる相反する事象を引き起こす。
 たとえばそのクリスタルブレスをくらえば焼けながらにして凍りつき、水晶の爪による一撃により生じた傷は石化しながら腐りだす。
「因果を捻じ曲げるこのドラゴン……たとえ皆さんといえども10回挑んだとして勝てるのは1度か2度か……それでも、皆さんはひとりではありません」
 戦う相手は違えど、その戦場には他の2チームがいる。標的のドラゴンたちは連携をしないが、ケルベロスたちは連携ができる。
「ダンテさんやねむちゃんのチームとうまく連携ができれば、きっと勝率はあがります……1+1+1を3ではなく、10に、30にできれば……!」
 古代中国では天高く昇りつめた竜のことを亢竜と呼んだ。だが、同時に亢竜悔いありという言葉もある。
「たとえどのように強くとも……生きているものはいつか、なにかに敗れるものです。そのなにかが皆さんであると、私は信じています」


参加者
アシュヴィン・シュトゥルムフート(月夜に嗤う鬼・e00535)
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
鳴無・央(黒キ処刑ノ刃・e04015)
ボル・クレイ(ゴールドボルシャナ・e05266)
タニア・サングリアル(全力少女は立ち止まらない・e07895)

■リプレイ

●心を繋いで
 ヘリオンの轟音でも、戦いの音は消せなかった。
「とんでもないところに来てしまったぞ……」
 ボル・クレイ(ゴールドボルシャナ・e05266)がヘリオンの窓から外を覗けば、城ヶ島のあちこちでケルベロスたちが戦火を交えているのが見える。
「もう、帰りたいぞ……」
 実入りの良い仕事があると聞いてノコノコやってきたボルは、その作戦の重要性を知って今更後悔し始めていた。
「何言ってんの。みんなのおかげで作戦が遂行できるんだよ」
 タニア・サングリアル(全力少女は立ち止まらない・e07895)も視線を外へと向ける。
 ドラゴンと切り結ぶケルベロスたち。
 城ヶ島大橋で竜牙兵を押し返すケルベロスたち。
 島西部に水陸両用車で乗りつけ、オークチャンピオンを打ち倒すケルベロスたち。
 城ヶ島京急ホテルで螺旋忍軍を制圧するケルベロスたち。
 ある箇所では完勝を収め、ある箇所では苦戦しつつ……どこも必死に戦っている。
「彼らのためにも、大切な人のためにも……何が何でもやらなくちゃ!」
「うぅ……こわいけど、ちょこ、私たちもなんとか生き延びるぞ!」
 ボルは開き直り、自身を鼓舞するように自分のボクスドラゴンを抱き締めた。
「カッカッカ! その意気や良し! 生き残るのは臆病な勇者よ!」
 腕を組み、悠然と島を見下ろすドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)は白い歯をむき出しにして笑う。
 まるでこれからまみえる強敵との戦いを楽しみにしているようだった。
「違いますよドルフィンさん、生き残るのは眼鏡です!」
 メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)の眼鏡が光る。
「どのような苦難があろうとも、人は心の中に眼鏡を持ち続けることで生きていけるのです!
 あなたもそう思いませんか? さあ、この布教用眼鏡をどうぞ!」
「………」
 話と眼鏡を向けられたソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)は目を閉じたまま動かない。
「あ、あのー」
「軽口で緊張をほぐそうとしてるのはわかるが、そっとしといてやりな。精神統一中だ」
 アシュヴィン・シュトゥルムフート(月夜に嗤う鬼・e00535)がメリッサへと声を掛ける。
「ソロと央は竜と連戦になるからな。緊張や不安もあるだろう」
 3チーム合同による3頭の竜の討伐作戦。ケルベロスたちは紅焔と呼ばれる1頭の竜に人員を集中して速攻で撃破、その後に残った2頭へ対処することになっていた。
「そういった感情は、もう無くした」
 当事者のひとりである鳴無・央(黒キ処刑ノ刃・e04015)は淡々と聞き返す。
「お前たちこそ、できるのか。俺たちが援軍を連れてくるまで竜の攻撃をしのぎ切ることが」
 ただでさえ勝てる見込みが薄い相手に8人のうち2人が減り、6人で挑まなくてはならない。苦戦は必死と思われた。
「できる。そのための筋肉だ」
 ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)が即答する。その真っ直ぐな瞳と実戦で鍛えあげられた筋肉に迷いはない。
「しのぐどころか、央たちが合流する前に倒しておいてやる」
「……そうか」
 それ以上、言葉はいらないとばかりに央はヘリオンの扉を開ける。
 上空、足元に白龍神社が見えた。
『皆が切り拓いてくれた道、無駄にするわけにはいかないね。絶対にこの作戦を成功させて帰るんだ……!』
 通信機から他班の少女とおぼしき声が聞こえてくる。頷く者、何事かを呟く者、拳を握り込む者……反応はそれぞれだが、気持ちは同じだった。
 作戦開始だ。皆、覚悟を決めてヘリオンから飛び降りて行く。
「私を、私たちを見くびるなよ。ドラゴン」
 最後に飛び降りたソロの呟きは、空の中に溶けて行った。

●命の価値は
 降下したケルベロスたち6人を待っていたのは、亢竜の猛攻だった。
「ガアアアァァッ!!!」
 吹きつけるクリスタルブレスに身を固める前衛のディフェンダーたち。
「さすが……キツイ攻撃だな」
 ブレスを防ぐようにして腕を掲げたアシュヴィンは、これまで負ったことのない傷に苦笑する。
 腕が焼けているのに凍っているのだ。体組織や細胞がズタズタにされていることだろう。
「さしずめ電子レンジで解凍し損ねた冷凍食品ってとこだな……」
「はっはっは、面白い例えですね!」
 ビッグメガネシールドを構えて同じくブレスを受けたメリッサも苦笑する。
「なんだ、眼鏡半分溶けてるぞ……別のに変えたほうがいいんじゃないか?」
「そうしたいのはやまやまなんですけどねえ」
 ムギの言葉にメリッサは苦笑いを崩さない。
「指が焼けたのか、凍傷なのかわかんないですけど盾にくっついちゃいまして、ははは」
 脂汗が、こめかみに浮かんでいた。
「笑ってる場合じゃないっての、メディック!」
「はいはい、タニアにお任せ!」
 回復役のタニアがすかさずブレスに合わせてサークリットチェインを発動する。
 列攻撃には列回復。亢竜の与えるダメージのほうが多いが、回復役はもうひとりいる。
「この聖域に入ってくるな、だぞ!」
 ボルが星の聖域を発動させ、回復させつつブレスに耐性を持たせていく。
「見た目が炎と氷でも、残るのは炎だけだぞ……!」
「然り! 本質と己を見極めれば強敵も敵にあらずじゃ!」
 ドルフィンがお返しとばかりに指にグラビティの力を凝縮させていく。
「では魔空回廊、破壊させて貰おうか!」
 揺さぶりをかけるべく、宣言するように叫んで亢竜へと殺到する。
「ガアァッ!」
 ドルフィンを認識し、視線を向ける亢竜。だがその動きは巨体故に思うほど速くはない。
「この巨体なら、狙いも外さん!!」
 指天殺が亢竜の澄み切った身体に吸い込まれていく。
 水晶が、ガラスのように砕け散った。
「ッ!?」
 しかし、手ごたえがない。ドルフィンはすぐに指を引き抜き、飛びすざる。
 亢竜の肉体とドルフィンの指の間に、1枚の水晶の壁ができていた。
「なるほど、それが回避の代わりか……厄介じゃのう」
 空気中の原子をピンポイントで水晶に変換、虚空に盾を作り出す。喰らった錬金術師の異能は防御にも活かされていた。
「厄介じゃが……面白い!!」
 強敵へ、ドルフィンは素直に笑いかける。血走った目で、次は己の足技で攻撃を仕掛けていく。
「うおおおおっ!!!」
「ガオオオッ!」
 旋刃脚を水晶でガードした亢竜、ドルフィンに水晶の爪が伸びる。
「くうっ!」
「!!」
 その間に、ボクスドラゴンが割って入った。ドルフィンの代わりに切り裂かれ、宙を舞う。
「ちょこ!!」
 ボルが声を掛ける。ボクスドラゴンは一撃で、石化しながら地に伏せてしまった。
「よくやった! そいつのおかげで1行動潰せた!!」
 スターゲイザーで亢竜を足止めし、動きを制限させながらアシュヴィンが声を掛ける。
「たった1分だが、されど1分だ!」
 再度繰り出されるクリスタルブレス。虹色のきらめきを含む業火に肉体を焼かれながら、ムギも倒れたボクスドラゴンの健闘を称える。
「ちょこ……!」
 ボルの目じりに涙が溜まる。
 自分の何倍もの体格がある水晶の竜。
 恐ろしくて身体が震える。
(「でも……!」)
 拳を、きつく握りしめた。
「ちょこが頑張ったのだ、私だってやるのだぞ!」
 羽ばたきで青い風を起こす。青い風は火傷だらけのアシュヴィンの身体を撫でるようにして癒していく。
「その意気だ! タニア、他の状況はどうだ?」
 アシュヴィンの声を受けてブレイブマインを掛け終わったタニアが連絡を取る。
「……女王のほう、完全に押してる! 勝てそうだって!」
「よし、じゃあ向こうが終わるまで耐えきるぞ!」
「戦闘開始から、今何分ですか?」
 必死で防御を続けるメリッサの問いにボルが時刻を確認する。
「えっと……3分だ! 3分すぎたぞ!」
「了解です! これだけ耐えてまだたった3分ですか……」
 ぼやくメリッサ。尻尾やブレスならなんとか耐えきれる。だが、あの爪でひとりに狙いを定められたら、やられるかもしれない。
 そして、運悪く亢竜の爪は、ムギを狙っていた。
「俺らの命はカップ麺より価値がある……ムギ、証明できるか?」
「やってみせる!」
 アシュヴィンの問いかけ。迫りくる水晶の爪を前にして答えるムギ。だがそれは、一撃でケルベロスを倒す鋭い攻撃だった。
 ムギの身体を保護していたプロテクターが弾け飛ぶ。
「ぐっ……!」
 ムギのむき出しになった上半身に亢竜の爪が食い込んだ。厚い胸板が、見る間に腐って固まりだす。
 それでもムギは闘志を失わない。
「俺の筋肉と、おまえの錬金術で……勝負だっ!!」
 宣言し、ムギは魔力を己の筋肉へと注ぎ込む。
「うおおおおっ!!!」
「グガアアアァァッ!!!」
 お互いに咆哮した。
 そして、鋭い一撃が、止まる。
 類まれな精神力により、魂が肉体を凌駕した。
 腐った傷痕はあっという間に塞がり、胸板を穿っていた爪が、再生し続ける筋繊維に捕らえられて抜くことができなくなる。
「お前の失敗は俺の胸を狙ったことだ……」
 魔力の反動で口元から血を流しながらも、ムギは勝利の笑みを浮かべる。
「俺の心臓は、地獄なんでな!!」
「ガ、ガアアアァァッ!!」
 まだだ、とばかりに亢竜の口が開く。
「至近距離からのブレス!? 今度こそマジでやばいよ!!」
「させない!!」
 タニアとボルが必死でムギの傷を癒す。
「筋肉の力、見せて頂きました――」
 割って入った一筋の軌跡。それは眼鏡の残した残光だった。
「ならば今度は眼鏡の力を見せるときです!」
 メリッサだ。ムギを庇い、彼の分までブレスを受けようとする。
「眼鏡に包まれて在れ……!」
 ブレスとほぼ同時に、上空に巨大眼鏡を出現させる。
 クリスタルブレスと眼鏡の光が重なり、辺りに虹のきらめきを作る。
「メリッサ……大丈夫か!」
 虹の向こうへ声をかけるアシュヴィン。
 虹の霧が晴れて行く。
「もちろん……大丈夫です!」
 熱と冷気を同時に受け、ひび割れた眼鏡のレンズ。
「眼鏡は無敵、ですから!」
 それでも、メリッサはその眼鏡を掛け続けていた。
「グウウッ!!!」
 力任せに腕を振る亢竜。その勢いに水晶の爪が折れ、身体も横に一回転する。
 遠心力も手伝って、うなりを上げて飛んでくる玻璃の尾によるなぎ払い。しかし、これも列攻撃ならなんとか耐え抜くことができる。
「今ので6分だぞ! 情勢は――」
 ボルが通信するよりも早く、遠くから凄まじい絹を割くような断末魔が聴こえてくる。
 遅れてやってくるのは勝利の雄たけび。紅焔が落ちたのだ。
「さあ、反撃の時間じゃ!」
 ドルフィンの瞳には、援軍を引き連れてやってくるソロと央の姿が映っていた。

●7枚の壁
 援軍が来てからは、ケルベロスたちが圧倒的に優勢だった。
 それまで6人だったのが、一気に12人になったのだ。
 ダメージは分散し、回復役は増える。攻撃だってできるようになる。
 ケルベロスたちの増援と紅焔の陥落。
『これで……終わりだ!』
 そこへ更に、通信機から女性の裂帛の掛け声が聞こえてくる。別班が星列刀皇を破ったのだ。
 傷ついた亢竜は悔し気に大きく唸りを上げる。
「グオオオオォォォンッ!!」
 瞬間、身を守るようにして展開される7枚の水晶の壁。
「防御を固めるつもりか。無駄なあがきを」
 央は突き出した手のひらを、その水晶の壁へと向けた。
「その壁を、打ち破る」
 瞬間、その掌に黒い槍が握られていた。穂が五本に分かれた、赤黒い雷で出来た槍だ。
「刺し穿て、黒き雷」
 狙い定めて、槍を投げた。
 槍は稲妻のように空中でジグザグに軌道を変えて――狙い過たず、水晶の壁を1枚貫いて消滅した。
「まだまだ行くよーっ! アリエットちゃん!」
「Je comprends!」
 援軍でやってきたフェクトのライトニングボルトと、アリエットのゼログラビトンが2枚目の水晶の壁を押し割る。
「援護します」
「当ててくよっ!」
 3枚目の壁は同じく援軍であるピコのコアブラスターとリルカのフォートレスキャノンがぶち抜いた。
「冥府に舞いし魔蝶の一軍よ……」
 高下駄がカラコロと鳴る。ソロの詠唱と共に、彼女の身体から黒き蝶の群れが湧き出てきた。
「闇に燻る魂を照らし、儚き夢の終わりを告げよ」
 蝶は、水晶のきらめきを吸い尽くすように、4枚目の壁へと群がる。
「胡蝶乱舞―――」
 そうして、4枚目の壁は魔蝶の群れと共に対消滅した。
「私から眼鏡を取ったら何も残らないと思ってませんか? ええ、そうですとも!」
 メリッサの2振りのチェーンソー剣がガリガリと水晶の壁を削っていく。
「私だって負けてらんない!」
 その攻撃を後押しするようにタニアがケルベロスチェインを出来た割れ目に食い込ませ、思い切り引き寄せる。
 押し切る力と引き絞る力、ふたりの力でついに5枚目の壁は両断された。
「忘れもんだ……!」
 ムギは己の胸板に刻まれたままの水晶の爪を引き抜き、ブレイズクラッシュで6枚目の壁へと叩きつける。
「お返しするぞっ!」
 壁に突き刺さった水晶へ杭を打ち込むように、ボルもまた炎を纏った剣の一撃を放つ。爪を中心に、ひび割れて砕け散る6枚目の壁。
「舞い散れ……!」
 アシュヴィンの刀が7枚目の壁ごと亢竜の眉間を串刺しにする。
「ギャオオオオォォオン!!!」
 舞い散る結晶の粒子が、血を吸った紅い桜の花弁へと変容していく。
 ケルベロスたちは全ての壁を破壊した。宙を舞う水晶の欠片たち。
 その中へ飛び込む、紫の双眸があった。
「カカカカカーッ!!!」
 ドルフィンだ。中衛から興奮と喜びを抑えきれないといった様子で疾走する。
「どんな強者もいずれは堕ちる! その時が来たのう!」
 一匹のけものが、跳躍した。そして今しがたできた眉間の傷口へと無理やりに腕を突っ込んでいく。
「カッカッカッ!!」
 哄笑と共に、腕が何かを握り込む。脈動するそれは、水晶の内に隠された亢竜の臓物だった。
「これぞドラゴンアーツの真骨頂じゃ!」
 腕が光る。練り上げたオーラを内部へ直接叩き込む。振動。
「―――――!!!」
 亢竜の頭部から、幾条もの光が放射状に漏れだした。亢竜はいななくように首を伸ばす。しかし喉は破壊され声は出ない。
 光と共に頭部から尾にかけて、ぱらぱらと水晶の鱗が剥がれて消滅していく。
「任務、完了」
 通信回線をオープンにしたまま、毅然と消えゆく亢竜を見送るソロ。
 宙に舞う水晶のきらめきは、まるで粉雪のようだった。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:難しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 36/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。