大阪市街戦~酷薄なる歯車の天使

作者:坂本ピエロギ

 その日、大阪のとある街が灰燼に帰した。
 生きる者は皆殺され、焦土と化した地。死の空気が充満する街の空を、翼を広げた天使のような男性型ダモクレスが悠然と見下ろしている。
「やれやれ。つまらない仕事だ」
 男の視界に映るのは、数人の生存者だ。
 彼らは悲しみも怒りも憎しみも、あらゆる感情を失った顔で、男を呆然と見上げていた。
 正確には、男が抱えている小さな子供達の死体を。
「人間は愛する者を失うと、皆同じ顔をする」
 自分を見上げる地球人達が、子供達の家族である事を男は知っている。
 街を破壊して子供を殺したのは男であり、家族をわざと生かしたのも男だからだ。
「大阪市街地からの人間を一掃する、か。ジュモーの手駒となるのも気に食わないが――」
 男は言葉を切り、子供達の骸に目を落とす。
 研究のため、種族の未来のため、このくらいの『戦利品』は許されて然るべきだろう。
「喜ぶといい、地球の虫ケラくん達。この子達は必ず返してあげるよ」
 ――この僕が、立派な屍隷兵に作り変えてね。
 研究の成果が実を結ぶよう期待に胸を膨らませ、男は大阪城へと飛び去っていく。
 彼は屍隷兵を研究するダモクレス。感情なき、酷薄な歯車の天使。
 名を、ラファエル・ミゼーリオという。

「招集の呼応、感謝する。大阪城のデウスエクスに新たな動きが見られた」
 昼のヘリポートで、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)はケルベロス達に告げた。大阪城に集結した複数のデウスエクス種族が城周辺の制圧を行うべく、市街地への襲撃を行おうとしているというのだ。
「今回予知された襲撃は軍勢によるものではなく、単独の襲撃だ。しかしこの襲撃によって被害が発生した場合、街の住民に不安が広がるのは間違いない。彼らが街を離れてしまえば無人となった地域はデウスエクスに制圧されていくだろう」
 それを阻止するため、事件を起こすデウスエクスを何としても撃破して欲しい――王子はそう言って話を進めていく。
「敵はラファエル・ミゼーリオというダモクレスだ。ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)の調査によって判明したこの男は、屍隷兵の研究者のようでな。その詳しい内容や目的までは、予知では判明しなかったが……」
 ラファエルはオラトリオの体をパーツに利用しており、オラトリオとダモクレスの両種族のグラビティに似た能力を使用し、妨害に優れた力を持つようだ。
 性格は酷薄で、興味の対象は研究のみ。事件を起こしたのも、大阪城のダモクレスを率いるジュモーの意向であると同時に、自身の研究の為でもあるようだと王子は付け加える。
「ラファエルは市街地外れの駅前、大勢の人で混雑する場所に現れる。残念ながら敵の出現前に避難誘導を完了させる事は難しい。何とかして敵の注意なり興味なりをひけば、犠牲者を出さずに済む事も可能だろうが……」
「敵は私達と市民の命では、後者を狙うと? 犠牲者を出す事態は極力避けたいですが」
 ジュスティシアの言葉に、王子は頷きを返した。
「市民を殺戮し、市街地から人を追い払うのが奴の仕事だからな。とはいえ、お前達の攻撃を受けてまで殺戮を優先する事はないだろう」
 最悪、ある程度の犠牲はやむを得ない。
 ただし想定以上の被害が出た場合、作戦は失敗となる恐れがある。
 王子はそう言って説明を終えると、ケルベロス達へ向き直った。
「大阪城に集ったデウスエクス達は、主導権を得る為の実績づくりとして各勢力の戦力を街へ送り込み始めたようだ。奴らの野望を砕くためにも、確実な遂行を頼むぞ」


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
オリガ・ローズウッド(愛をうたうオラトリオ・e21987)
エマ・ブラン(銀髪少女・e40314)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)
トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)
ジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)
アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)
フレデリ・アルフォンス(青春の非モテ王族オラトリオ・e69627)

■リプレイ

●一
 6月下旬、大阪市。
 市街地へ到達したラファエル・ミゼーリオを出迎えたのは、トリューム・ウンニル(碧き天災の運び手・e61351)らケルベロス達の迎撃だった。
「ようこそダモクレスそして死ねえええぇぇぇぇ!!」
「おやおや、待ち伏せか」
 ラファエルは空中で小さく嘆息すると、光の翼を広げて接近して来るトリュームへ迎撃の刃を向ける。
「僕は忙しいんだ。邪魔をしないでくれるかな、羽虫くん」
 天使の四肢から発射されたミサイルが、意志を持った魚の大群のように、トリュームらの隊列を爆撃で包み込み、大阪の街の平穏を一瞬で消し飛ばした。
 水をうって静まる雑踏。次いで、あちこちで上がる市民の悲鳴が静寂を塗り潰す。
「刃蓙理さん、避難誘導よろしくね!」
「任せて下さい……エマさん……!」
 エマ・ブラン(銀髪少女・e40314)は誘導班の死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)を見送ると、バスロータリーの路上にゾディアックソードで守護星座を描き始めた。
(「麻痺効果のあるミサイル、放っておいたら大変!」)
 街中には多くの市民が避難できずに残っている。幸いにもミサイルの被害を受けた市民はいないようだが、ここで自分達が行動不能に陥れば、犠牲が出るのは時間の問題だ。
「オープン・ユア・ハァァート!!」
 エマの上空では、トリュームがラファエルへと攻撃を仕掛けていた。
 青空を染める着弾の黒煙を突き破り、『ハートキャッチ! グラブる!!』で射出された機械腕がラファエルの腹に命中。鳩尾にめり込んだ拳が高圧電流を流し込む。
「ギョルソー! やられた仲間を回復よ!」
「行きますわよ皆さん。市民の犠牲、食い止めてみせましょう」
 トリュームの箱竜に属性をインストールされながら、オリガ・ローズウッド(愛をうたうオラトリオ・e21987)もガトリングガンの砲門をラファエルへ向け、爆炎の魔力を込めた弾丸をばら撒き始めた。
 トリュームとオリガの正確な狙いはラファエルに市民を狙う隙を与えない。少しでも避難がスムーズに進むよう、オリガはナノナノの『いちこ』へ指示を飛ばす。
「いちこさん。避難誘導のお手伝い、頼みますわよ!」
 了解とばかり飛んでいくいちこ。助けを求める市民の悲鳴に刃蓙理の割り込みヴォイスが響いたのは、その時だった。
「皆さん……危険ですから速やかに離れて下さい……」
「ボク達はケルベロスです! 急いでここから逃げて下さい!」
 最終決戦モードの武装を纏い、人々の混乱を可愛い天使の姿で鎮めるのは平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)だ。和は隣人力を駆使しつつ、突然の事態に足が竦んだ人を落ち着かせて避難させていく。
「動けない奴はいるか! いたら手を挙げて俺に掴まれ!」
 フレデリ・アルフォンス(青春の非モテ王族オラトリオ・e69627)は翼を広げて辺りを伺い、動けない人を片っ端から怪力無双で担いで安全な所へと運んでいく。
(「よし。あと1分もあれば終わりそうだな……」)
 ラファエルと戦闘中の仲間に、フレデリはちらりと視線を送る。
「足止めは頼んだぜ、アルベルト! もうじきこっちも終わる!」
「任せろ。しかし、あの敵……姿に似合わず胸糞悪い奴のようだな!」
 アルベルト・ディートリヒ(昼行灯と呼ばれて・e65950)はそう返すと、滑空して来たラファエルを睨みつける。
 地球人を殺し屍隷兵へと作り変える研究者。どう転んでも相互理解など望めぬ相手を。
(「我が隣人も、とんでもないのを追ってたんだな」)
 稲妻を帯びたゲシュタルトグレイブの刺突を放ちながらアルベルトがちらと視線を向けるのは、知己であるジュスティシア・ファーレル(エルフの砲撃騎士・e63719)だ。
「逃げ遅れた方はいませんか? 急いでここを離れて下さい!」
 改良型のドローンを展開しつつ、拡声器を手に避難を手伝うジュスティシアの振る舞いはあくまで冷静だった。
 普通なら因縁のある敵を目の前にして、平静な心境でいるのは難しいだろう。だが彼女は感情に呑まれる事なく、自身に課された仕事を一つ一つこなしていく。
「俺は俺の仕事をするか……おっと!」
 降り注ぐ凍結光線からエマを庇いながらアルベルトはラファエルを睨み据えた。
「ダモクレス。これ以上、貴様の好きにはさせん!」
 アルベルトの意思を受けて、後衛に散布される濃厚なオウガ粒子。
 エアシューズの爪先を矛と成し、空中から流星蹴りを叩き込むトリューム。それを浴びたラファエルがぐらりと制御の姿勢を崩す。
「大阪の街を、デウスエクスに渡すもんか!」
 エマは乙女座の紋様を地面に描き、星座の保護で再び後衛を包み込んだ。
 ラファエルの妨害の力は、高い。パラライズ効果によってブラックスライムを放ち損ねたオリガをキュアで回復するエマ。しかしそんな尽力をあざ笑うかのように、ラファエルは上空から更なるミサイル弾幕を浴びせんとミサイルポッドを展開して迫る。
「吹き飛べ。ケルベロス――」
「そうは……いきません……」
 ラファエルの攻撃が、寸前で遮られた。
 避難誘導チームの刃蓙理が放つ、虹を纏う蹴撃によって。
「待たせたな皆。もう大丈夫だぜ」
「どんどん回復しちゃうからねー!」
 純白の翼を広げてパイルバンカーを装着したフレデリが、オウガメタルを装着した和が、次々に隊列へと加わってくる。
「この街も……人々の命も……貴方には渡しません……!」
「……極光歯車起動。回避運動回路、回復シーケンスに移行」
 訥々と告げる刃蓙理に眉一つ動かさず、歯車が放つ回復の極光を浴びるラファエル。
 その光景を『J&W2000 対物狙撃銃』の照準越しに捉えながら、ジュスティシアは静かに精神を研ぎ澄ます。
 避難は済んだ。殺界形成での人払いも万全。
 これで――これで、戦える。
(「やっとこの日が来た。みんなの無念を晴らす時が!」)
 追い求めた敵が、いま目の前にいる。
 引き金を引けば、当たる場所にいる。
 ジュスティシアはその事実を噛み締めながら、ライフル銃にグラビティを込めていく。
「エド……私を見守っていて」
 赤い瞳は、どこまでも冷徹に。
 ライフルが放つグラビティの光が、死闘の火蓋を切る。

●二
「逃がさない……!」
 ジュスティシアのフロストレーザーが、ラファエルの脇腹へと命中した。
 攻撃的ヒールドローンのサポートによって増強された力によって、瞬く間にその身を氷で覆われていくのも構わず、ラファエルはミサイルを前衛へと発射する。
「負けるなよ皆、いま命中を強化する!」
「ヒールするよ! 痛いの痛いのー……飛んでけー!」
 降り注いだミサイル弾幕のダメージは、しかしアルベルトの散布するオウガ粒子と、和のケルベロスチェインが描く魔法陣の力によって回復されていく。
 火力こそ低いが妨害力が高いラファエルの攻撃は、フレデリを庇ったアルベルトの身体を麻痺で蝕んでいた。後衛のエマはすぐにガネーシャパズルの真白い光蝶を放ち、状態異常を取り除いていく。
「えげつない真似しやがって! 俺達がボコってやるぜ、覚悟しろ!」
「隙あり……です……」
 フレデリが『メドゥーサ・スラッシュ』を突き出し、回避を封じにかかる。息を合わせて刃蓙理の蹴飛ばす星型オーラがラファエルの背に命中し、その服を破った。
 ケルベロスから狙われる度、氷に身を刻まれていくラファエルは、しかし未だ冷静だ。
 トリュームの機械腕で動きを縛られても、オリガが放つブラックスライムの刺突で毒に侵されても、その動きに乱れはない。
「五月蠅いケルベロス共だ。しかし、あの女の戦い方……」
 ラファエルの視線はいま、眼下のたった一人に注がれていた。
 機械のように正確な射撃で動きを封じにかかるジュスティシアに。
「まいい、あまり調子づかれても面倒だ。黙っていてもらおう」
「ぐっ!?」
 ラファエルのグラビティが死者の嘆きの力へと変換され、標的を捉えた。
 嘆きの声に覆われたジュスティシアの手が、反射的に止まる。
「み、皆……エド……!」
 彼女の目の前に浮かぶのは、かつて共に戦った仲間達。
 屍隷兵となってしまった、上官であり、かつて恋人だった男性。
 幻影によって傷を増やすジュスティシアに、ラファエルはちらりと一瞥を投げる。
「トラウマの光景は本人にしか見えないのが難点だね。もし僕にも見えたら、研究のヒントになるかもしれないのに……残念だよ」
「研究ですって。……あなたの研究なんて大したことないわ、ううっ……!」
「ジュスティシアさん、いま癒すよ。真白き蝶の祝福を!」
 エマが後衛から放つヒーリングパピヨンが、トラウマの力を弱めていった。ギョルソーのインストールした力に包まれて、ジュスティシアの荒い息が少しずつ整い始める。
 その上空では残るケルベロスが、ラファエルと戦闘を継続していた。
「逃がしません……今度こそ……!」
「愛する人の命を奪って屍隷兵にするだなんて、許しませんわよ!」
 天高く跳躍し、再び虹色の蹴りを叩き込む刃蓙理と共に、オリガはガトリングガンで炎弾を発射。合わせて和がケルベロスチェインで魔法陣を描き、ミサイルを浴びた前衛の負傷を回復していく。
「これで火だるまにしてあげるよ!」
「どうした? 隙だらけだぞ」
 ラファエルの頭上から、トリュームとアルベルトが摩擦熱の赤と虹色の尾を引いて蹴りを放った。
 炎に覆われたラファエルの狙いが、無意識に刃蓙理とアルベルトへ向く。
 ラファエルは歯車の光で怒りと氷を解除するが、フレデリから受けた治癒阻害ウイルスの効果によって、傷の治りは芳しくない。
「決着をつけるわ。行きましょう、皆」
 仲間の回復支援でトラウマを振り切ったジュスティシアが、銃口を再びラファエルへと向ける。
 狙うは肩。高速演算で導き出した構造的弱点だ。
 発射されたグラビティの弾丸が、反撃開始の機をケルベロス達へ告げる。

●三
「まただ。またあの女ケルベロスが――」
 バスターライフルの弾に肩を射抜かれたラファエルは、己がメモリに手を伸ばした。
 熟練したチェスの指し手のように精緻で誘導的な射撃。機体の構造的弱点を一瞬で見抜く観察眼。どこかで目にした気がしたのだ。
「この感覚は、一体……」
 ラファエルの思索は、しかし次の瞬間打ち切られる。
「考え事か!? 随分と余裕だな!」
 アルベルトがマインドリングにありったけのグラビティを込め始めたからだ。
 アルベルトだけではない。周りに散らばる全てのケルベロスが、ラファエルの首を狙って一斉に牙を剥いて襲い掛かる。
「女の子には秘密がいっぱいだよ☆」
「吹き飛ぶがいい」
 エマのスカートがふわりとめくれ、覗いた白い脚から一丁の銃が取り出された。
 一瞥もくれずミサイルを発射するラファエル。エマは頬を膨らませ銃撃を浴びせる。
「えーなにそれー乙女のプライド傷つくー」
「いや、俺はドキドキしたぜ! すっごいした!」
「本当に? やった☆」
 ジグザグスラッシュを見舞い服を破るフレデリに、ウインクを返すエマ。
 そんな二人のやり取りを嘆息して見守るアルベルトは、フレデリを庇った刃蓙理を光の盾で回復する。
「さあ行け刃蓙理、全力で叩き込んでやれ!」
「闇で償え……超多重高密度暗黒縛鎖……!」
 刃蓙理の暗黒縛鎖が、一点集中して射出された。
 傷をジグザグに切り裂かれ炎上するラファエル。そこへ和が、トリュームが、更なる追撃を浴びせにかかる。
「今だ! 必殺のー……てややー!」
「この氷結輪をくらえー!」
 和の知識を詰め込んだ本が振り下ろされる。本の角を肩に受け、よろめくラファエルの脇を氷結輪が通り過ぎた刹那、ラファエルを自然発火装置の力で追撃の炎に包み込む。
「ウッソー! キャハハハ!」
 けたたましく笑うトリュームの頭上で、ラファエルは態勢を立て直そうと翼を広げる。
 しかし、オリガがそれを許さない。
「ここまで、ですわよ!」
 捕食モードのブラックスライムが、歯車の天使の足に噛みついた。制御を失い、ゆっくりラファエルが地上へと落下していく。
「こ……れは……」
 墜ちゆくラファエルはその時、目の前に描き出される光景に戸惑いを覚えていた。
 参照してもいない、任務に無関係なはずの膨大な情報が、彼の意思とはまるで無関係に次から次へと再生され続けているのだ。
 ダモクレスとして生を受けた時の記憶。思うがままにグラビティ・チェインを奪ってきた地球人の顔。研究の果てに生み出された屍隷兵たち。
 今までラファエル・ミゼーリオとして生きてきた彼の、ありとあらゆる情報の洪水が。
(「何故だ。何故こんな意味をなさないデータが勝手に……」)
 次の瞬間、彼のメモリがひとつのデータを再生する。
 それは、かつてとある異国の部隊を壊滅させた時の事。仲間を喪い、愛する者を奪われた者だけが浮かべる表情で、自分を見ていた女軍人の顔だった。
 それが今、自分に向かってライフルを構えるジュスティシアの顔に重なった時――。
「終わりよ。ラファエル・ミゼーリオ」
「……そういうこと、か」
 発射されるフロストレーザーを呆然と見つめながら、全メモリの集積が突きつけた、ただひとつの事実をラファエルは悟る。
「僕は、ここで、死――」
 グラビティの光に頭を吹き飛ばされ、歯車の天使は空の塵となって消えた。

●四
 街が平穏を取り戻しても、ジュスティシアは呆然と空を仰いだままだった。
 赤い炎に包まれ、粉々に飛散したラファエルの遺骸。爆発の痕跡を示す灰色の煙塊も、既に大阪の風に吹かれて薄れつつある。
「やれやれ。ラファエルのやつ、随分派手に暴れてくれたな、フレデリ?」
 そう言ってアルベルトは、フレデリの肩をポンと叩いた。
「片付けに人手が要りそうだ。すまんが手伝ってくれないか」
「ああ、分かった」
 フレデリはジュスティシアとすれ違いざま、犠牲者が出なかった事を手短に伝え、
「俺達の勝ちだぜ。――お疲れ様だ」
 そう言い残して、アルベルトや仲間達の後を追いかけていった。
 ジュスティシアはバスターライフルを地面に落とし、静かにその場へ座り込む。
「やった……」
 あのダモクレスは、もうこの世界にはいない。
 討ったのだ。自分が、この手で。
「エド……」
 破損したドッグタグを握りしめ、ジュスティシアは呟く。
 上官であり、恋人であった男性の名を。
「エド。ようやく終わりました……」
 明日になれば街はまた雑踏で溢れ、ここで行われた戦いも人々の記憶の渦に埋もれていく事だろう。その時には、きっとジュスティシアにも新しい戦場が待っている。
 けれど。
 けれど今この時だけは、ケルベロスでも兵士でもない、一人の女性として。
「やりました。エド、私はやり遂げました……」
 滲む視界にたった一人の男性を映し、ジュスティシアは大粒の涙を零す。
 どこまでも続く青空を、静寂の街でひとり仰ぎながら――。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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