城ヶ島制圧戦~城ヶ島大橋の攻防

作者:東雲ゆう

「皆さん、ドラゴン達の戦力を大きく削ぐ手がかりが見つかったっす!」
 集まったケルベロスたちを前に、ヘリオライダーの黒瀬・ダンテが興奮気味に切り出した。
「城ヶ島の強行捜査が行われたのは、皆さんもご存知っすよね。その時に、城ヶ島に『固定化された魔空回廊』が存在することが判明したんっす」
 ダンテによると、この固定化された魔空回廊に侵入して内部を突破することができれば、ドラゴン達が使用する『ゲート』の位置を特定することが可能になるという。
「『ゲート』の位置さえ分かれば、その地域を調べた上で、ケルベロス・ウォーで『ゲート』を破壊して、ドラゴン勢力の新たな地球侵攻を防ぐことも可能、ってことっす!」
 つまり、城ヶ島を制圧し、固定された魔空回廊を確保することができれば、ドラゴン勢力の急所を押さえることができる――新たな可能性を示され沸き立つケルベロスたちを見渡し、ダンテは続ける。
「しかも、ドラゴン達は、固定された魔空回廊の破壊は最後の手段だと考えてるみたいなんっすよ。だから、電撃戦で城ヶ島を制圧して、魔空回廊を奪取することは、皆さんなら決して不可能じゃないっす。ドラゴン勢力にこれ以上侵略されないよう、皆さんの力を貸してほしいんっす!」
 ダンテの言葉に、ケルベロスたちが力強く頷く。その様子を見て笑みを深めたダンテは、机の上に城ヶ島の地図を広げた。
「今回の作戦は、警戒の薄い城ヶ島の西部から水陸両用車部隊が侵攻して市街地のオークを制圧して橋頭堡を確保した後、本隊が、島の西側から固定化した魔空回廊のある島の東側、城ヶ島公園の白龍神社に攻め寄せる……という計画っす」
 説明しながら、ダンテの指が、城ヶ島の西側の市街地から東に向けて進むが、城ヶ島公園の手前で動きが止まる。
「でも、この作戦を成功させる為には、どうしても超えなければならない問題があるんっす」
 眉間に皺を寄せ、彼の指が城ヶ島公園のやや北――三崎工場を示す。
「その問題っていうのは、この三崎工場に集められている竜牙兵の大群のことっす。どうやら、こいつらは『島への侵入者に反応して自動的に迎撃する』行動をするみたいで、その総戦力はかなりのものみたいなんっすよ」
 顔を上げた彼とケルベロスたちの視線が交錯する。何かを察した様子のケルベロスたちに軽く頷くと、ダンテは言葉をつないだ。
「そこで、皆さんには、陸側から城ヶ島大橋経由で城ヶ島へ進軍し、この竜牙兵の攻撃を引き受けてもらいたいんっす」
 再び地図に視線を戻したダンテが城ヶ島大橋を指差す。
「城ヶ島大橋は片側1車線の比較的狭い橋なんで、2チームが隣り合って戦闘をすれば、竜牙兵を抑える事ができるっす。ただ、竜牙兵は倒しても倒しても後続が現れるんで、皆さんには、敵を倒すよりもできるだけ長時間戦いを継続する事を目指してほしいんっす」
 そう言うと、ダンテはペンを取り出し、橋の上に横に2つ、縦に3つ、合計6つの丸を書いた。
「左右の戦場に、それぞれ、第一陣、第二陣、第三陣のチームを配置するんで、それぞれ30分、合計で1時間30分の間、竜牙兵の攻撃を支える事ができれば問題ないと思うっす」
 説明しながら、その中の一つの丸を黒く塗りつぶす。
「この城ヶ島大橋の作戦には全部で6つのチームが参加するんすけど、ここに集まってもらった皆さんには、『橋の左手側の二番手』をお願いしたいっす」
 そしてダンテは、それぞれのチームが、竜牙兵5体と一度に戦う事になることと、このチームの相対する竜牙兵が『簒奪者の鎌』を装備していること、そして竜牙兵は倒しても次の竜牙兵に入れ替わるだけなので、敵陣の戦力は低下しないことを告げた。
「作戦を立てるときに皆さんに考えてもらいたいのは、『いかにして戦闘を長引かせるか』『どういう状況になったら後続と入れ替わるのか』『入れ替わる時の作戦はどうするか』という三点っす」
 言葉と共に一本ずつダンテが指を立てる。
「あと、戦闘で押されて三浦半島側に押し込まれた場合、後続の竜牙兵の一部が城ヶ島公園方面に移動してしまう可能性があるんで、そうならないように十分注意して戦う必要があるっすね」
 説明を終えたダンテが、改めてケルベロスたちの顔を見回す。
「強行調査で得た情報を無駄にしないためにも、この作戦は絶対に成功させたいところっす。敵は大群で決して楽な戦いとはいえないんすけど、皆さんが協力して戦えば、きっと目的を果たせるはずっす!」
 どうか、よろしくお願いします! と深々とダンテは頭を下げた。


参加者
紅・桜牙(紅修羅と蒼影機・e02338)
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)
夜陣・碧人(語り騙る使役術師・e05022)
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)
綺羅星・ぽてと(三十路間近系アイドル・e13821)
ジャック・ランプ(カボチャ頭・e14418)
茅乃・燈(キムンカムイ・e19696)

■リプレイ

●緊迫の幕開け
 城ヶ島大橋の半ばあたり。戦いの喧騒を遠くに聞きながら、全員の時計の同期や10mおきのマーキングなど、8人は黙々と準備を進めている。
 第1陣の戦闘開始から30分経とうとした、その時だった。
「あれを見て!」
 手元にランタンを握ったジャック・ランプ(カボチャ頭・e14418)が前方を指さす。
 見ると、それまで竜牙兵を優位に押していた第1陣の陣形が大きく崩れ、その中から大柄の男性を抱えた青い髪の男性が必死の形相でこちらに向かってくる。慌てて彼らに駆け寄ると、苦しそうな声で男性が言葉を紡ぐ。
「撤退に手間取っている……! すぐにきてくれ……!」
 完全に気を失っているロードライトを抱えたマニフィカトの言葉で、皆に緊張が走る。
「先行しますわ!」
 レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)を先頭に、前衛の紅・桜牙(紅修羅と蒼影機・e02338)、夜陣・碧人(語り騙る使役術師・e05022)、山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)が駆け出す。すかさずジャックもランタンを灯し、やや離れた場所で控えている残りのメンバーに合図を送った。
 走ったその先にいたのは、怒り狂って勢いを増した竜牙兵の軍団だった。
「このままだと、押されてしまうべ!」
 ほしこが叫ぶ。先ほどまで40m地点にいた竜牙兵が、あっという間に70m地点付近まで近づいている。
「雲霞のごとき竜牙兵の群れ……。それでも抜かせはしませんわよ!」
 力強い言葉と共に、レーンは右腕の主砲を変形させ、超収束荷電粒子砲を放つ。激しい爆発と閃光の中、何とか取り残された仲間を救出できた第1陣の6名が、息絶え絶えといった様子でこちらへ走ってきた。
 駆け付けたジャックとヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)、綺羅星・ぽてと(三十路間近系アイドル・e13821)、茅乃・燈(キムンカムイ・e19696)とすれ違いざま、ポニーテールの黒髪をゆらしながら、奏音が言葉をかける。
「最期の最期で、詰められた……! ごめんなさいっ!」
「ここは任せな。早く行け!」
 敵にコカトリスボムを発射しながら桜牙が叫ぶ。
 第1陣のメンバーが全員撤退したのを確認し、8人は素早く陣形を整え、改めて敵と向き合う。どうやら、現時点では敵の武器は全て片手鎌のようだ。すかさず、前衛にいるメンバーたちにジャック、燈、碧人、そして碧人のボクスドラゴン・フレアがステータスアップのグラビティを唱え、守りを固めていく。
「あはは。いっぱいのお越し、ありがとさんだなす☆ ようこそ、おらたちのステージへ!」
 押し寄せる竜牙兵の鎌をかわしつつ、ほしこが「山彦の追憶」でメンバーを鼓舞する。
「ヴォルフくん、第1陣の戦果は?!」
 大器晩成撃を放ちつつ、ぽてとが横で制圧射撃を行っているヴォルフに問いかける。
「――30分経過、現在位置、70m!」
 視認だけで、相手の動作を詳細に認知する――それは、数々の死線をくぐり抜ける中で身につけた技術。事前の想定より良い結果に一同の胸が高鳴るが、目の前にいる敵の勢いには油断できないものがある。
「少し余裕はあるけんど、予定通り、7体撃破と引き継ぎ地点プラス100m以内を目指すべ! 攻防転換点は、今の地点から50m先の、120m! それまでは防御重視でいくべ!」
 回転する鎌の攻撃を受けてしまった燈をサキュバスミストで癒しつつ、ほしこが良く通る声で指示する。
「了解です。戦争は主動の原則、先手必勝とも言いますしね。相手をこの場に縛り付けてしまいましょう。――封陣雷陣!」
 静かな口調ながら、彼が張った敵群を取り囲む結界の中では、雨のように雷が落ちていく。それにレーンがマルチプルミサイルで続き、燈のオルトロス・レタルと桜牙のビハインド・レインディも追撃する。
 最初にレーンが攻撃した竜牙兵が弱ってきたのに気付いた桜牙が、主砲を一斉発射する。
「AF01、02アクティブ。狙い撃つぜ!」
 彼の攻撃で、ついに1体の竜牙兵が崩れ落ちた。
「5分経過! 敵撃破数、1体!」
 敵の攻撃を防御しつつ腕時計を確認したヴォルフが叫ぶ。
「撃破数、1! きっちり倒していきましょう!」
「はい、ぼく達は、負けられないんです!」
 ぽてとに燈が続く。
 ――城ヶ島側出口からの現在位置、85m。

●耐える戦い
 少し敵の圧力が弱まったように感じられたのもつかの間、敵は穴を両手鎌の兵で補充し進んでくる。
「ここを護りきれば、ゲートを破壊できるんだよ……!」
 自分自身を励ましながら、ジャックは前衛の皆に盾の守りを付与する。
 他の皆も、相手にバッドステータス狙いの攻撃を与える一方で回復を行いつつ戦っていたが、5体同時に相手をしているため決め手に欠け、少しずつ、しかし着実に押されていた。
 劣勢の空気を敏く感じ取ったのか、燈の肩でシマフクロウがばさばさ、と身じろぎする。
(「フレ、大人しくしてて」)
 皆の邪魔にならぬよう小声で窘めるが、彼女だけでなく、周りの皆にも次第に焦りと不安が広がっていく。
「10分経過! 現在位置、110m!」
 足下の線を確認したヴォルフの声が響く。するとその時、敵が両手鎌から亡霊の群れを放ったかと思うと、側に控えていた2体も続けざまにレーンに向かって鎌を振り下ろした――。
「やらせるかよ、骨野郎」
「まったく、やっかいなものを振り回してくれますね」
 2体の攻撃を受け止めたのは、桜牙と碧人だった。それを見たジャックと燈は目配せし、気力溜めとルナティックヒールで2人を回復する。
「他の前衛の皆にも回復を!」
 ヴォルフが指示を飛ばす。多少威力は削がれているものの、少なからずダメージを受けた前衛の皆をほしこが歌でヒールする。
「ちょっと眠ってもらう必要あり、かもね☆」
 回復する味方の邪魔をしようとする竜牙兵に向かって、ぽてとが「ヘリオライト」を演奏する。その横では、レインディが両手鎌の敵に対して金縛りで応戦していた。
「喰らいなさいっ……!」
 廃熱と再装填の完了した超収束荷電粒子砲をレーンが放つと、目のくらむような光と共に大爆発が起こる。
「やりましたか!?」
 爆発の煙から腕で顔をかばいながら碧人が尋ねる。レーンのビームは確かに敵を捉えていたが、まだよろよろと竜牙兵たちは立ち上がる。
「いいえ、まだまだこれからですわ!」
 決め切れなかった悔しさに唇を噛みながら、レーンが武器をルーンアックスに持ち替えた、その時。
「おい、120mラインを超えてるぞ!」
 ヴォルフの緊迫した声が響く。手元の時計ではまだ12分しか経過していない。――予定よりかなり押しこまれている。
「……よし、皆、攻撃だ! 盛り返すべ!」
 ほしこの声に最初に反応したのは、ジャックだった。両手の鎌から開放された邪念に囲まれ、目の前の敵たちの動きが鈍くなる。
「ぼくも、援護します!」
 燈の魔力の籠められた咆哮は敵の動きを封じる。
「一気に仕掛けるぞ!」
 桜牙が構えたチェーンソー剣で狙うは、両手鎌の竜牙兵の左側にいる1体。戦闘開始時から地道に重ねてきた攻撃で、かなり弱っているところに無慈悲な斬撃が襲い掛かる。
「――何処まで逃げてくれますか?」
 そこへ、ヴォルフが飛翔し痛烈な一撃を喰らわせると、ついに敵は動きを止めた。
「苦しいけど、ここで踏ん張って希望を繋ぐわよ!」
 一方、ぽてとは両手鎌の右側の敵を狙う。こちらも戦闘開始時からの攻撃の累積でかなりダメージを受けていたところに強烈な物理攻撃を受けてたまらず崩れ落ちた。
「これで、みっつ……!」
 レーンの言葉に続いて、味方の隊列に戻ったヴォルフが叫ぶ。
「15分経過! 敵撃破数、3体!」
 ――城ヶ島側出口からの現在位置、115m。

●反撃
 2体同時に撃破されたことで、ぐん、とケルベロスたちは島側に竜牙兵たちを押し戻す。仲間にマインドシールドをかけながら油断無く敵の動きを観察していたヴォルフが、ふとあることに気付き皆に声をかける。
「最初から後方に控えていた2体が、撃破した2体と入れ替わりで前衛に出てきたようだ」
 見ると、前衛の両手鎌の骸骨の両隣に、片手鎌の竜牙兵が1体ずつ控えている。最初からいるということは、少なからずダメージも蓄積しているはず。――優先順位が決まった。
「皆で力を合わせて頑張ろう!」
 ジャックが励ましの言葉とともに、前衛のメンバーを治癒する。燈も、サークリットチェインで援護する。
「まず、右側のから行きましょう!」
「了解、ですわ!」
「了解だべ!」
 回復して気合十分のぽてとが大器晩成撃を叩きつけた後、ほしことレーンの鎌がぶん、と大きく唸って竜牙兵に襲い掛かる。その猛撃は、骨格ごと敵を叩き潰した。
「敵撃破数、4体!」
 またも味方を倒された竜牙兵たちが、怒りながら鎌を振ってくる。その攻撃をレタルとフレアと共に受けながらも、桜牙と碧人は左側の竜牙兵との距離を詰めていく。
「AF04オープン。気をつけろよ、巻き込まれるぞヤバイぜ」
 桜牙が特製の卵型爆弾を発射する。その爆弾からまき散らされた液体は徐々に硬化し、敵の動きを鈍くする。
「――その首、刈らせていただきますよ」
 フレアのボクスブレスの援護を受けながら、音も無くトドメを刺したのは碧人だった。
「敵撃破数、5体!」
 ついに、戦闘開始時に戦場にいた5体の竜牙兵を撃破した。一段と志気が高揚する中、燈とジャックは桜牙と碧人に駆け寄り、傷ついた体にヒールをかける。
 改めて、8人は敵と向き合う。7体撃破のノルマまで残り2体。とはいえ、敵の方は一番最初の状態に戻ったにすぎない。しかも、後衛に両手鎌の兵が1体増えている。対してこちらは、徐々に疲労が隠せなくなってきていた。
「……20分経過!」
 ヴォルフの声に、8人は気を引き締める。
「前衛の二刀持ちを放っておいては危険ね。まずはあいつを狙いましょう」
 ヴォルフの横に立つぽてとの言葉からは、既にアイドル口調は消え、使命を背負ったケルベロスとして敵を見据えている。彼女の言葉に皆は軽く頷くと、一斉にターゲットに向かって襲い掛かる。
「攻勢、行きますよ!」
 初めに、碧人が封陣雷陣を展開する。雷で敵が身動きできなくなったところに、ほしこの熾炎業炎砲の炎が襲い掛かる。
 だが、相手もやられっぱなしではない。ヴォルフのクイックドロウに続いてレーンがフレイムグリードを放った直後、2体の竜牙兵がジャックと燈を目がけて鎌を投げてきた。
「……ぐっ……!」
 避けきれない、と2人が思った瞬間、ジャックの前には桜牙が、燈の前にはレタルがいた。どちらも胸元に攻撃が直撃してしまっている。
「レタル!」
 抱き上げた自分の腕の中でぐったりとする白狼に向かって、燈は震える声で話しかける。
「……無理させて、ごめんなさい」
 一つ息を吸うと、次の瞬間には気持ちを切り替えて敵に向かって禁縄禁縛呪を放つ。
 一方、ジャックは桜牙の回復を試みるが、傷が深くこれ以上戦える状態ではない。
「桜牙さん……」
 心配そうなジャックの頭を軽く小突くと、桜牙は最後の力を振り絞って声を出す。
「俺は、倒れねえ。――レインディ、行け」
 彼が意識を失うとほぼ時を同じくしてレインディの金縛りが命中し、そこにぽてとが大器晩成撃を打ち込む。それが決定打となった。
「25分経過! 敵撃破数、6体! 戦闘不能、1名!」
 腕時計を睨みながら、ヴォルフが声を張る。
 ――城ヶ島側出口からの現在位置、135m。

●託す想い
「あと1体! 勝利は目前、みんな気張るわよ!」
 言いながら、ぽてとが気合の入った拳で一番近くにいた敵を殴る。
「うん。ぽてとちゃん、おらたちアイドルの意地、見せつけるだ!」
 ほしこもそれに応えるかのように、ルーンディバイドを放つ。
「あとひとつ……!」
 レーンの斧が竜牙兵の鎌と激しくぶつかり、甲高い音を立てる。その背後から碧人は相手に忍び寄り、密やかにダメージを与える。
「残り3分!」
 もはや、前衛も後衛も関係ない。桜牙の分まで補うかのように、ジャックがレギオンファントムを放ったのに合わせて、タイムキーパーのヴォルフも制圧射撃で敵の足止めを狙う。
「残り2分!」
 燈の咆哮の後、レーンの地獄の火炎とほしこの放った魔法の炎が連続して敵に襲い掛かり、ついに7体目の敵を撃破した。
「!!!」
 声にならない歓喜が皆の間を駆け巡る。
「敵撃破数、7体! 残り1分、気をつけろ!」
 ヴォルフが皆に注意を促した直後、まるで今まで倒された仲間の恨みを晴らさんがごとく、2体の竜牙兵がレギオンファントムを放つ。急いでヒールのグラビティを持つ全員で回復に当たるが、その最中に碧人が、襲ってきた3体目の竜牙兵の鎌から味方をかばい、今までのダメージと相まってその場に倒れこんでしまう。
「30分経過! 戦闘不能者2名、現在地点、150m!」
 ヴォルフのはっきりとした声が、皆の間に響く。
「役割は十分果たしたわ! 撤退しましょう!」
 彼の言葉を受けてぽてとが撤退の判断を下すと、すかさず、ほしこが第3陣のアナベルに連絡を入れる。その間に、気絶した桜牙をヴォルフと燈が両脇から抱えるように持ち上げ、ぽてとは碧人に肩を貸す。
「交代完了までの時間稼ぎはわたしたちにお任せ、ですわ」
 一瞬振り向いてにっこりと笑ったのち、レーンとほしこが武器を構えなおす。2人が敵に向かって攻撃を繰り出す後ろで、
「僕についてきて!」
 ランタンを灯し、ジャックが皆を誘導する。すると、ほどなく第3陣のメンバーとすれ違った。その中で見知った顔を見つけた燈が声をかける。
「響さん、あとはお願いします」
「ええ、任せて」
 小さく頷く響たちの横を通り過ぎ、6人は素早く戦列の後ろへと下がっていく。
 前もって確認していた通り、第2陣の中衛、後衛の6人と交代で戦線に到着した第3陣の前衛が歩を進め、戦線を維持していたレーンとほしこと交代する。第3陣に攻撃を引き継いだレーンは、ふと右側を見やった。戦闘中は目の前の敵に必死で気づかなかったが、改めて見ると自分たちよりもかなり後方にいるように見て取れる。
「右側の戦闘はどう? 大丈夫かしら?」
「なんとか持ちこたえているという印象ですね。場合によっては、こちらからも援護しますが、まずは目の前の敵に集中、ですね」
 冷静に答える静菜に、撤退しながらほしこが声をかける。
「うん、その通りだべな。あとは、任せただ!」
 戦闘態勢に入った8人の横を抜け、レーンとほしこは仲間の元へと急いだ。

 第3陣の後ろに再び集まった8人は、改めて今まで戦っていた方向を見やる。
 橋は城ヶ島側に向かって高度が下がっていくため、今はもう橋の向こう側の様子を直接見ることはできない。
 それでも、作戦の成功と、皆の無事を願わずにはいられなかった。

作者:東雲ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月9日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 25/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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