恐怖! 機動ビッグ・レッグ

作者:雷紋寺音弥

●金平糖と巨大円盤
 愛知県稲沢市。かつては尾張国の国府が置かれ、政治の中心でもあった都市。
 そんな歴史ある稲沢市では、現在、アジサイ祭りの真っ最中。中でも目玉は、アジサイを模して袋詰めにされた、赤と青の金平糖。
 だが、そんな甘い香りに誘われて現れるのは、なにも観光客だけとは限らない。祭りの賑わいに誘われたのか、突如として大地が大きく揺れ、建物を突き崩しながら巨大な影が現れた。
「……システム、再起動……」
 円盤から足が生えただけの、なんとも無骨な異形の機械。それは、中央に備え付けられた単眼を動かして左右を見回すと、正面に位置する口のような部分に、凄まじい勢いでエネルギーを集約させて行き。
「グラビティ・チェイン……収集開始……」
 極限まで凝縮した光の粒子を、一筋の光線として放出する。それは、瞬く間にビルを薙ぎ払い、大地さえも抉るように蒸発させ。
「うわぁっ! ば、化け物だぁっ!」
「に、逃げ……ぎゃぁっ!!」
 巨大な足で人々を踏み潰しながら、円盤の外周からも光線を発射して街を蹂躙して行く。数分の後、祭りで賑わっていた稲沢の街は既になく、周囲は瓦礫と人々の亡骸が横たわる、無残な廃墟と化していた。

●アジサイ祭り、やらせはせんぞ!
「招集に応じてくれ、感謝する。ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)の懸念していた通り、腕の無い異形の二本足巨大ロボが出現することが予知された」
 例に漏れず、こいつも大戦期にオラトリオによって封印された、巨大ロボ型のダモクレスだ。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、事件の詳細について説明を始めた。
「敵の出現が予知されたのは、愛知県の稲沢市だ。出現時刻は昼。当日はアジサイ祭りが行われる予定だったが、事情を考慮し、延期してもらうことになっている」
 住民の避難が終わっているため、戦いに専念できるのは幸いだ。街にはそこまで巨大な建造物もないため、高層ビルの倒壊に巻き込まれるような心配もないようだが。
「敵のダモクレスは、円盤から巨大な二本の足が生えたような姿をしているぞ。コードネームは……そうだな、『ビッグ・レッグ』とでも呼称するか。武器は、円盤の外周から発射する全方位レーザー砲と、機体正面に備え付けられた大口径のビーム砲だな」
 特に、ビーム砲の方は凄まじい威力を誇り、一撃で大地を抉り、山をも穿つというのだから恐ろしい。加えて、敵は電磁バリアを張る術にも長けており、中途半端な威力の攻撃では大したダメージも与えられない。
 グラビティ・チェインの枯渇で本来の性能が発揮できないとはいえ、なかなか厄介な相手である。機動力こそ低いものの、攻守ともに優れた性能は、正に拠点防衛用の機動城塞と言っても過言ではあるまい。
「巨大ロボ型ダモクレスの例に漏れず、こいつも戦闘開始から7分で、魔空回廊を開いて撤退する。また、戦闘中に一度だけ、捨て身のフルパワー攻撃が可能というのも同様だ」
 ただでさえ凄まじい火力を誇るダモクレスの一撃を、全力で受けたらどうなるか。考えただけでも恐ろしいが、このフルパワー攻撃を使ってしまうと、敵も反動で大きなダメージを受けてしまう。
 勝機を見出すなら、そこに賭けるのも一つの手だ。もっとも、場合によっては確実に複数名の戦闘不能者を出すことに成り兼ねないため、油断や過信は禁物だが。
「仮に、このダモクレスが回収され、量産されることにでもなったら……それによる被害は、想像を絶するものになるだろうからな。本来の力を取り戻せていない今、徹底的に破壊してしまった方がいいだろう」
 アジサイ祭りに降る雨が、人々の血と涙であって良いはずがない。そう言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
迅・正人(斬魔騎士・e44254)
アッシュ・キューブ(クレイジーバニラケーキ・e72061)
 

■リプレイ

●恐怖の機動円盤
 小雨の上がった稲沢市。アジサイ祭りには絶好の天気であったものの、その日の街は静かだった。
 轟音と共に、建物を崩して現れる巨大な円盤。だが、それは飛行することなく、下部に生えた二本の脚で、しっかりと大地を踏み締め歩き出した。
「現れたか……」
 ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が見上げれば、そこに迫り来るのは巨大な影。彼自身、ケルベロスの中でも大柄な方だが、その2倍以上の体躯を誇る巨体を前にすれば、どうしても身体に力が入る。
「大戦期の巨大ダモクレスか……。こんなの、まだまだいるのかね」
 同じく、敵の巨体を見上げながら、ティユ・キューブ(虹星・e21021)もまた苦笑しつつ溜息を吐いた。
 デウスエクスの侵略が再び激化してから、この数年で蘇った巨大ロボ型ダモクレスは、百体は下らないかもしれない。その大半がワンオフ機のような姿形をしていたが、こうまで大量に埋まっているとなれば話は別だ。
「大戦期には、このような敵が普通に跋扈していたのか。この巨体で量産型……とは、考えたくないものだな」
 あまり想像したくない考えが、迅・正人(斬魔騎士・e44254)の頭に浮かんで消えた。仮に、今までの巨大ロボ型ダモクレスが量産型だったとしたら、1機でも母星に帰還させたら大変なことになる。
 敵は未だ全機能を取り戻していないが、しかし複数のケルベロスを同時に相手取るだけの戦闘力を持っている。そんな存在が、仮に真の力を取り戻した上で量産され、本気でグラビティ・チェインを強奪しに来ればどうなるか。
 考えただけでも、恐ろしいことだ。だからこそ、この敵は徹底的に、この地で破壊しなければならない。
「愛知の街と、アジサイ祭りの催しを滅茶苦茶にしようとするダモクレスは許せません!」
 蹂躙される街並みを見ていられなかったのか、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が開口一番に飛び出した。狙うは、敵の巨大な足だ。まずは、あそこに組み付いてさえしまえばと思ったが……しかし、敵は突っ込んでくるミリムになど目もくれず、正面から彼女の突撃を受け止めた。
「……痛っ!!」
 強靭な装甲に弾かれ、ミリムの身体が反対に吹っ飛ぶ。いや、装甲だけで防いだのではない。敵はこちらの姿を確認するや否や、全身に電磁バリアを張り巡らせることで、防御を固めて来ていたのだ。
「守りを固めて来ましたか。その分、こちらも準備する時間は取れましたが……」
 銀色の粒子を散布しつつ、アッシュ・キューブ(クレイジーバニラケーキ・e72061)は改めて敵を見上げた。
 大きい。実際のサイズは10mにも満たないとはいえ、しかし圧倒的な威圧感が、その巨体を必要以上に大きく感じさせているのかもしれない。
「行くぞ! これ以上、やつの好きにさせてなるものか!」
「ああ、任せろ! この街も、人々の命も、やらせはしない!」
 駆け出すジョルディと正人の二人。炸裂する戦斧や大剣が火花を散らす中、ティユは冷静に仲間達の戦う姿を見届けつつ、相棒のボクスドラゴン、ペルルに命令し。
「まぁ、もぐら叩きは確実に、だね。ペルル、あれのバリアを砕くんだ」
 いかに強力な障壁でも、破る方法はいくらでもある。ティユが輝く星々の瞬きを以て星図を空に描く中、白き小竜の入った箱が、絶対の防壁を打ち破った。

●哀しき性
 圧倒的な装甲と火力を誇り、二本足で歩きまわる円盤型のダモクレス。
 空こそ飛べないものの、その性能は正に歩く起動城塞。全方位に放たれる光線は敵を寄せ付けず、そうかと思えば逐一バリアを張り直して来るので面倒だ。バリアを解除する術は持ち合わせているが、解除に手を取られることで、こちらの戦いの流れが乱されるのは如何ともし難い。
「むぅ……既に4分が経過してしまったか」
「だが、決定打に至る損傷は与えられていない……。拙いぞ、これは」
 歯噛みしつつ、ジョルディと正人は互いの顔を見合わせた。
 敵は圧倒的な攻撃力と、厚い装甲を誇っている。その一方で、見た目通り機動力は決して高くない。
 だが、そんな重装甲、高火力な相手に対し、彼らの選んだ作戦は命中率を重視したものだった。確かに、強敵相手の戦術として間違いではないが、そもそも今回の敵は、強さの方向性が違うのだ。
 狙いに慎重になり過ぎた結果、瞬間の火力が低下しては本末転倒。常に最大火力で戦える者がジョルディしかいない今、少しでも敵の体力を削れる何かが欲しかったのだが。
「うぅ……やっぱり、一発攻撃した程度では、そうそう簡単に混乱しませんよね……」
 同じく、ミリムも矢を番えながら、しかし自分の与えた技が大した効果を発揮していないことに気付いていた。
 相手を怒らせ、時に幻覚を見せて攪乱する技は、持久戦でこそ真価を発揮する。しかし、今回のように制限時間が極めて短く限られた戦いでは、運よく相手が一回でも狙いを逸らせてくれれば良い程度。
 せめて、これが中衛の正人から仕掛けたものだとしたら、あるいは少しは違っただろうか。だが、それでも肝心のダメージに直接影響することがない以上、このままでは攻撃力不足で逃げられる。
「ペルル、行くよ。もう、フォローは十分だ」
 これ以上は遊んでいる時間もないと、ついにティユが攻勢に出た。確かに、今まで彼女は味方のフォローに回っていたが、しかし決して攻撃の手を休めていたわけではない。
(「元の攻撃力を上げても、それだけじゃ、この敵は倒せない。装甲の弱い部分を探して破っても、僕の力だけじゃ敵わない。でも……」)
 その損傷を修復される前に、更に傷口を開かれれば話は別だ。敵の狙いが自分にないことを確認し、ティユは側面から巧みに回り込むと、脚の付け根部分である装甲の隙間に攻撃を叩き込み。
「今だ! ペルル、ブレス攻撃!」
 敵が態勢を整えるよりも先に、相棒に命じて攻撃させる。小竜の吐息は無数の泡となって装甲の亀裂に付着すると、まるでその部位を侵食するかのように、溶かしながら傷口を広げて行った。
「まるで強酸だな。あそこを狙って攻撃すれば、あるいは……」
 勝機を見出し、正人が駆ける。自分の役割は、主に攪乱。あの場所に必殺の一撃を食らわせれば、あるいは状況を覆せるかもしれないと。
「うぉぉぉぉっ! 食らえ、我が必殺の……」
 土煙を上げ、肉薄する正人。しかし、その姿を捉えた敵が、何もして来ないはずがない。
「これは……敵機、ジェネレーター出力及び機体温度が急上昇! 危険です!!」
 後ろからアッシュが叫ぶが、間に合わない。瞬く間に充填を終えた敵の巨砲は、もはや誰にも止められない。
「止せ! 死ぬ気か!?」
 慌ててジョルディも止めたが、一度走り出してしまった以上、もはや敵の攻撃の射線から逃れることは不可能だった。
「全力攻撃への無謀な特攻……残念ながら、戦場の習わしにござる!」
 ここで自分が倒れても、敵も大ダメージを負うのは同じこと。ならば、そこを逃さず叩いて欲しいと願い、そのまま突っ込む正人だったが……それで納得して行かせられるほど、この場に集まった者達は非情ではなかった。
「……駄目ですよ、そんなの! 絶対に、やらせたりしないです!」
 全身の防御を固めたミリムが、突如として正人の前に飛び出したのだ。
「な、なにをする! このままでは、そちらが敵の攻撃に……!」
「ええ、分かってますよ、それは」
 自分の前に光の盾が出現したのを見て、ミリムが意味深な笑みを浮かべた。
 今の盾は、恐らくアッシュが作り出したものだろう。ならば、後はそれと自分の力を信じて、全身全霊で受け止めるだけだ。
「うぅ……ここで頑張れば、ボクだって不可能を可能に……」
 だが、そこまで言った瞬間、ミリムの身体は光線の勢いに負けて、唐突に宙へと放り出された。あらゆる物質を破壊する光線。そんなものを正面からまともに浴びれば、無事でない方が不思議だった。
「な、なんて威力!? 冗談じゃないよ!」
 想像以上の破壊力に、余波で吹き飛ばされたティユが目を疑った。見れば、他の者達もそれぞれがビームの余波で近くの建物の壁に叩きつけられており、ミリムを倒して行き場の失った光の奔流は、街外れの山の裾を大きく削って穴を開けていた。

●逆襲の番犬達
 戦いは佳境に突入していた。フルパワー攻撃により装甲が大破したダモクレスだったが、それでも未だ強大な火力と優秀なダメージコントロール能力は健在だった。
 結論から言うと、ミリムは戦場に戻ることはできなかった。正人の代わりにビームの直撃を受けた彼女の身体は薙ぎ倒された建物の残骸の中に飲み込まれ、そこから先は分からない。
「な、何をしているのです? やめてください! わ……わ……私たちは、あなたを殺そうとするふりをしました」
 味方を失い、状況は最悪。そんな空気に当てられたのか、とうとうアッシュが敵に命乞いを始めた。
 それは、あくまで演技の一環で、本当は敵を油断させる目的があったのかもしれない。しかし、今回の相手は心を持たないダモクレス。命乞いをしたところで、敵は油断もしなければ、こちらが同情を誘うこともできない。
「やっぱり、一筋縄じゃ行かないか。でも……ここが、踏ん張りどころかな?」
 光線の雨を避けながら、ティユがにやりと笑う。状況的には決して好ましい状態ではないが、それは敵も同じこと。最大出力でビームを放った反動で、装甲に亀裂が生じている今であれば、そこから砕くことも、また容易い。
 ここからは、もはや出し惜しみをしている場合ではない。とにかく叩く。ひたすら叩く。己の持てる、最大最強の火力にて。
「戦闘は最終段階に近づいています。ここから先は、私も攻撃に参加します」
 気が付けば、残り時間は1分を切っている。もはや、回復の必要もないと、アッシュでさえも前に出て、そのまま鋼の拳で敵を殴り飛ばし。
「正面は凄いけど、さっきから真下はガラ空きだね。だったら……!」
 すかさず、下方に回り込んだティユが足の関節を狙って蹴り飛ばし、追い打ちでペルルも体当たりを食らわせた。
「……ッ!?」
 鋼の巨体が、ぐらりと揺れる。この手の機械は、脚部をやられると意外な程に脆い。
「さあ、最後の仕上げだ。行くぞ!」
「承知した。そちらこそ、遅れるなよ」
 互いに頷き、散開するジョルディと正人。敵も拡散ビームで牽制して来るが、今の彼らはその程度では止められない。
「HADES機関フルドライブ! 戦闘プログラム『S・A・I・L』起動! 受けよ……」
「我が一撃が悪を断つ! 喰らえ!」
 更に迫り来る光線を強引に防ぎつつ、二人は高々と刃を掲げ。
「「無双の必殺剣!」」
 光線を避け、声を合わせて同時に跳んだ。大上段に構えた大剣が、雲の切れ間から顔を覗かせた陽光を受けて鈍く輝き。
「無双迅流口伝秘奥義! 冥王破断剣!」
「ライジィングサンダァァァボルト……マキシマム!!」
 ジョルディの杭打機から射出された鉄杭が、真上から敵の装甲を穿つ。それを更に深々と押し込めるように、二人は武器を叩きつけたのだ。
「……せ、戦闘……続行……不……能……」
 激しい火花を散らせながら、最後にダモクレスはそれだけ言って、静かに足を降り、崩れ落ちた。
 瞬間、敵の背から飛び降りたジョルディと正人の後ろで、盛大に巻き起こる大爆発!
 かくして、アジサイ祭りを延期させた空気の読めないダモクレスは、ケルベロス達の手によって、今度こそ完全に破壊された。

●祭りだ、祭り!
 戦いを終え、ケルベロス達は改めて、この地で行われるアジサイ祭りについて考えていた。
「帰りにはアジサイ祭りも覗きたいね。ペルル、金平糖好きだろう?」
 自分達が修復した街並みを眺めつつ、ティユは相棒に尋ねた。破壊された街並みは元通りになってはいたが、しかし吹き飛んだ山の裾までは、さすがに元に戻せなかった。
「こちらにケーキもご用意させていただきました。よろしければ、皆さんでどうぞ……」
 見れば、アッシュがどこからかケーキを取り出して、それをズラリと並べていた。折角のアジサイ祭りは延期になってしまったけれど、それに代わる何かを用意しようという想いは皆同じ。
「……至福なり」
 早速、ジョルディがケーキを受け取り、食べ始めたところで、他の者達も一斉にケーキへと殺到して行く。やはり、いつまでも殺伐とした戦場にいると、心が安らぎを求めてしまうのだろうか。
「……はぁ、酷い目に遭いました。光の盾を受け取っていなかったられない。、今頃は本当に死んでいましたね」
 見れば、ミリムもちゃっかりと復活し、彼女もまたケーキを戴いていた。
 街を襲った危機は去り、明日からは再び祭りの続きが行えるだろうか。雲が晴れ、降り注ぐ暖かな光が生み出す虹が、抉られた山裾から大きくアーチを描いていた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月1日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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