大菩薩再臨~因果応報かくあるべし

作者:椎名遥

「「「衆合合切衆合無、衆合合切衆合無、導く菩薩は如来に至る……」」」
 荒れ果てた社の中に声が響く。
 声を紡ぐのは3つの影。
 それは、人とも鳥ともつかない、鳥人間とでもいうべき異形の姿を僧服に包んだ存在――デウスエクス『ビルシャナ』。
 白の衣を纏ったビルシャナが、慈愛と共に語る。
「善行は善果にて報われるべし。善の道を歩むことが損であるならば、誰も後には続こうとしないだろうから」
 黒の衣を纏ったビルシャナが、怒りと共に語る。
「悪行は悪果にて報われるべし。悪の道を歩むことが得であるならば、誰もが悪の道を選ぶだろうから」
 対ともいえる姿と言葉。
 それらを見つめ、最後の一人である青の衣を纏うビルシャナは静かに頷く。
「ならば、汝らに我が主からの力を託そう――全てはビルシャナ大菩薩の再臨のために」
 目を閉じ、両腕を広げ、詠唱を紡ぎ出すにつれて、青のビルシャナから光の粒子が巻き起こる。
 それは、あふれんばかりのグラビティ・チェインの光。
 祈りと共に、生み出された光は渦を巻いて2体のビルシャナへと吸い込まれ、さらなる力を彼らに与えてゆく。
 より強い力を。より強い心を。
「「「衆合合切衆合無、衆合合切衆合無、導く菩薩は如来に至る……」」」
 そうして、光の渦が止んだ時、
 全てのグラビティ・チェインを放出した青のビルシャナは崩れ去り。
 そして、2体のビルシャナは受け継いだグラビティ・チェインを全身にみなぎらせ、一度短く祈りをささげると町へと向かい歩き出す。
 さらなる力をもって、より多くの人々を正しき道へと導くために。
「善因善果」
「悪因悪果」
「「因果応報かくあるべし」」


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
 集まったケルベロス達に向き直ると、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は深々と一礼する。
「ドラゴン・ウォー、そこから続くミッション破壊作戦と、本当にお疲れさまでした」
 先月行われた竜十字島の決戦の結果、ケルベロス達の活躍によってドラゴン勢力の本星と地球を繋ぐゲートは破壊された。
 本星ドラゴニアにはまだドラゴンや配下種族が残っているものの、地球への移動手段であるゲートを失った以上、これ以上の侵攻は不可能となる。
 そして、地球に残っているドラゴン勢力に制圧された地域についても、ケルベロス達によって掃討が行われた結果、多くの地域が解放されるに至っている。
 こうしてドラゴン勢力との戦いは一先ずの決着を迎え、戦後処理も順調に行われていた。
 ――だが、
「まだ解放作戦が行われていなかったいくつかの地域が、ビルシャナ菩薩の一体『天聖光輪極楽焦土菩薩』によって破壊されました」
 セリカの告げた言葉に、ケルベロス達の表情が厳しくなる。
 それは、単身でドラゴン勢力が制圧する地域を蹂躙できるだけの力を持ったビルシャナが動き出したということであり――同時に、その地域にあったグラビティ・チェインがビルシャナ勢力に奪われたということでもある。
「それによって奪ったグラビティ・チェインを利用して、天聖光輪極楽焦土菩薩は、ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に強力なビルシャナを集結させようとしているようです」
 本来であれば、それだけの力を持ったビルシャナを集めることは難しい。
 だが、豊富なグラビティ・チェインがあるならば話は変わってくる。
 人をビルシャナ化し、今いるビルシャナを強化し、目的を達成できるだけの力を持ったビルシャナを集めることは、大量のグラビティ・チェインの後押しがあれば決して不可能ではないのだから。
「この動きを放置すれば、かつての鎌倉でビルシャナ大発生の引き金を引いた大菩薩が、当時以上の力を持って出現することになります」
 無論、それを許すわけにはいかない。
「福岡県の宗像大社――破壊された地区の一つであるこの場所の一角に、2体のビルシャナの存在が確認されました」
 与えられたグラビティ・チェインによって強化されたこの2体のビルシャナは、信徒を増やして更なるグラビティ・チェインを得る為に町へ向かおうとしているようだ。
「今から現地へと向かえば彼らが動き出す前に接敵することができますので、そのまま戦闘、撃破をお願いします」
 幸い……と言えるかは微妙なところではあるものの、現地はビルシャナによって焼き払われているために、戦闘の邪魔になるような障害物は無く、戦い倒すことだけを考えれば十分な状況となっている。
「2体のビルシャナの名は『修行僧・果報』、『修行僧・因報』。因果応報を教義とするビルシャナです」
 『他人に授けた施しは返されなければならない』という教えを説き、他人に何らかの施しを授けた人に周囲から利を奪う幸運を授ける『果報』。
 『他人から受けた報いは返さなければならない』という教えを説き、他人から何らかの被害を受けた人に報復を行う力を授ける『因報』。
 対になっているとも言える教えを掲げる2体は、戦いとなれば息の合った連携で襲い掛かってくるだろう。
 ドラゴン勢力のグラビティ・チェインによって大幅な強化を受けた上で、さらに連携も取ってくる2体のビルシャナを相手取るのは、ケルベロス達にとっても簡単なことではない。
 ――だが、突破口になりうる弱点が無いわけではない。
「2体のビルシャナですが、大幅な強化を受けてから間もないためか、その力を完全には使い切れていないようです。ただ戦うだけであれば問題ないようですが……教義に疑問を抱いたり、逆に教義をたたえられたりして精神の安定を失うと、実力を発揮できなくなる可能性が高いです」
 教義に疑問を抱けば身のこなしが失われ、防御や回避に影響が出るだろう。
 また、教義を褒められれば攻撃の手が鈍り、命中率に影響が出るだろう。
 それだけで勝てるほど甘い相手ではないけれど、それだけあればケルベロス達でなら十分勝機をつかみとれるはず。
「強化によって戦闘面のみならず、一般人を導く力も飛躍的に高まったビルシャナの暗躍を許せば、より多くの人々がビルシャナ化することになります」
 だから、とセリカはケルベロス達を見つめて一度頷いて、
「多くの人々を守るために――皆さん、よろしくお願いします」


参加者
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
リュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
幸道・スラッグ(一族家老・e48014)
 

■リプレイ

「……これは」
 焼け野原となった周囲を見回して、付け髭を揺らしてウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が言葉を漏らす。
 福岡県宗像市。
 かつては交通安全の神として信仰を集めていたこの土地は、ドラゴン勢力によって人の手から奪い取られ――そして、奪い取ったドラゴン勢力は、ビルシャナ『天聖光輪極楽焦土菩薩』によって壊滅させられた。
「……ひでぇもんじゃ」
 今や名残すら残らない『かつて』の光景を思い返して、幸道・スラッグ(一族家老・e48014)は一度小さく息をつく。
 ドラゴン勢力によって制圧され、ビルシャナによって焼き払われ……デウスエクスによって破壊されつくした土地は、ケルベロスの力でも元に戻すことは容易ではない。
 そして、それ以上に優先しなければならないこともある。
「……まずは、ビルシャナを止めましょう」
「はい。歪んだ教義を広めようとしている果報と因報は許せませんね!」
 イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)の言葉にリュセフィー・オルソン(オラトリオのウィッチドクター・e08996)も拳を握って頷きを返し――、
「歪んでいるのは貴様らだろう、ケルベロス!」
「善因善果、悪因悪果、因果応報を受けるがいい」
 その言葉を、二つの声が遮る。
 白の衣をまとうビルシャナ『果報』。
 黒の衣をまとうビルシャナ『因報』。
「善と悪……それを判断するのは誰ですか?」
 彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)の問いかけにビルシャナ達は静かに頷き、
「無論、ビルシャナ大菩薩より啓示を与えられし我らだ」
「そして、我らを阻むケルベロス――汝らは悪である。罰を受けよ!」
 直後、跳躍した因報が放つ蹴りを、同時に踏み込んだ悠乃の流星の煌めきを宿す蹴りが迎撃する。
「カァッ!」
「はっ!」
 二つの蹴撃がぶつかり合い、僅かな拮抗を作り出し――押し勝つのは因報。
 降りぬかれる脚の勢いを受け流しつつ、悠乃は後ろへと飛びのいて。
「ウィゼさん!」
「うむ!」
 入れ替わるように踏み込んだウィゼが、捕食形態へと変じさせたブラックスライムを解き放つ。
 リュセフィーのエレキブーストを受けて威力を高めたその一撃が因報の腕に絡みつき、動きが鈍った因報へとリュセフィーのミミックが飛び掛かり、
「舐めるな!」
 拘束を振り払った因報が放つ八寒氷輪が、ミミックのばらまく愚者の黄金を打ち払う。
「我らの力、使命――」
「やすやすと阻めると思うな!」
 そのまま止まることなく放たれる氷輪が、天から降り注ぐ光の柱が――呼吸を合わせたビルシャナ達の連携が、前衛に立つウィゼとイッパイアッテナを襲い、凍てつかせ、
「まだです。大地の力を今ここに――顕れ出でよ!」
 イッパイアッテナが地面に突き刺すグラビティチェインを籠めた戦斧が、この地と彼方の龍穴を繋ぎ共鳴させることで大地に眠る清浄な力を呼び覚まし、呼び出された癒しの力が仲間達を蝕む魔氷の呪縛を拭い去る。
「そらよ!」
 同時に、踏み込んだスラッグが雷の霊力を纏わせた大鎌を一閃する。
「……貴様ら」
「……ちっ」
 胸元から流れる血をぬぐい、舌打ちして憎々し気ににらみつける因報。
 その視線を正面から受け止めて、スラッグもまた小さく舌打ちする。
 攻撃はしのぐことができている。手傷を負わせることもできる。だが――まだ浅い。
 決して勝てない相手ではないけれど、確実に勝てるとも言えないほどには、相手は強い。
 だから、
「それでは、打ち合わせた通りに」
「ええ」
 リュセフィーの言葉に頷いて、イッパイアッテナも相手を見据える。
 相手の事は、ある意味では本人達以上に知っている。
 その特性も、弱点も。
「敵の迂闊な強化の隙を突いていきましょう」


「お主ら、その教義で仲間増やすならわしらの味方してくれるんか? 一緒に地球の為に他のデウスエクスと話し合ったり倒したり追い払ったりしてくれるんか?」
 刃と共に、スラッグは言葉を相手へと撃ち込む。
 大幅な強化を受けて間もないビルシャナ達は、まだ与えられた力を完全に自分のものにできてはいない。
 普段であれば気にも留めない言葉で心を揺らし、そうして信仰心が揺らげば強化された力を十分に発揮することがかなわなくなる。
 ――だが、
「無論だ」
「――な!?」
 『信者を増やして人を奪っていくのなら、お前は代わりに命を差し出せるのか?』その問いを込めたスラッグの言葉に即答する果報。
 思わず声を漏らすスラッグに、果報は手を広げて語り掛け、
「汝らが矛を収め我らの仲間となるならば、争う理由はどこにもない」
「共に教えを抱き大菩薩再臨を願う仲間ならば、我らは命を懸けて守ろう。そして――正しき教えを拒むならば、悪として滅ぼそうぞ」
「……ち、そこから違っているんか」
 拳を握り見据える因報に、スラッグは小さく舌打ちして距離をとる。
 ビルシャナ達にとって、教えを広め信者を集めることは正しい道に導く『善行』。
 それが人を奪うという『悪行』だという意識がない以上、この方向では信仰は揺らがせられない。
「退かぬか――ならば、悪因悪果、因果応報を受けるがいい!」
「……くっ!」
 下がるスラッグを追って因報が振るう炎を宿した拳を、割り込んだイッパイアッテナの斧が受け止める。
 得物越しにも伝わる衝撃と熱に苦悶の声が口から洩れるも、それでも下がることなく歯を食いしばって押し返し、
「因果の繋がりを教義に掲げながら、その行動理念はまるで信賞必罰が如きものでしょう!」
「『他人に授けた施しは返されなければならない』とか、『他人から受けた報いは返さなければならない』とか言ってますが、結局は人から幸せを「奪う」事には変わりないじゃないですか! そんな事、私も他のケルベロスの皆も許しませんよ!!」
 イッパイアッテナとリュセフィー、教えを糾す二人の言葉にビルシャナ達はわずかに沈黙し、
「……否。禍福を正しき形で配分するのは我らが責務だ」
「元より汝らの許しを得る必要は無い」
 数舜後、因報の放つ蹴りがイッパイアッテナを弾き飛ばす。
「だめなの!?」
 体勢を崩したイッパイアッテナの傷をウィッチオペレーションで回復させながらも、悲鳴のような声をあげるリュセフィー。
「いえ――確かに効いています」
 こたえると同時に、鋭利な刃と化して飛来する悠乃の羽根が、追撃をかける果報の経文を言葉ごと切り裂き縫い留める。
 攻撃の力は落ちていない。けれど、その身のこなしは間違いなく鈍っている。
 強化された力は強いけれど、軸が揺らいでしまえばその力を十分に発揮することはできなくなる。
 無論、時間があれば自己解決してしまうだろうけれど――それを与えるつもりはない。
「勝手に善と主張する事が認められるなら悪人は自らを不当に善と主張して自らの悪業を正当化するでしょう。勝手に悪と主張する事が認められるなら悪人は他者を不当に悪と主張して他者を害するでしょう」
(「このようにな!」)
 悠乃の言葉に続け、走りこんだウィゼは胸中で軽く笑いながら果報に手を伸ばし――発動させるのはウィッチオペレーション。
「な!?」
 驚愕の声を上げる果報に、ウィゼは不敵な笑みを向ける。
「さて、施しをしたわけじゃが、どうするのかのう?」
 ビルシャナ達にとってみれば、正しい行いを阻むケルベロス達は罰するべき悪。
 だが――傷を癒す行いは、善行以外の何物でもない。
 善因には善果あるべし、悪因には悪果あるべし。
 ならば、悪から善行を受けたならどう応えるか。
「施しに施しを返すか否か。己が教義を貫き通せるか?」
「ぬ、ぐ……」
 ウィゼの言葉に、果報は目を見開いて苦悩し……。
 そして、
「……善行には、善果が返されねばならぬ!」
 血を吐くような声で果報の放つ癒しの光が、前衛に立つウィゼとイッパイアッテナを包みこんで傷を癒していく。
「果報!?」
「認めよう。我が信仰が不完全であると。だが、二度は無い!」
「……今一度信仰を見つめなおす必要があるか。奴らを排除した上で!」
 因報の声に苦悶の表情で首を振り、果報はケルベロス達をにらむ。
「信仰を取ったか……まあ、それもいいじゃろう」
 殺意を高めるビルシャナ達に、ウィゼは小さく頷く。
 流石に、もう一度回復を施しても、回復が返ってくることは無いだろう。
 だがそれは、今のビルシャナ達の信仰に大きな揺らぎが生まれたということ。
 ならば、後はこのまま戦い倒すのみ。
「ゆくぞ、合わせよ!」
「――!」
 タイミングを合わせて飛び掛かるウィゼのスピニングドワーフとミミックのガブリングが、果報の呼び出す天の光に迎撃され。
 体勢を崩しながらも着地する二人の傷をリュセフィーのオラトリオヴェールが癒す中、左右から切り込む悠乃の月光斬とスラッグの雷刃突が因報を捉えて十字の傷を刻み込み。
 距離を取ろうとする二人を追って因報が放つ氷輪の群れをイッパイアッテナが振るう如意棒が撃ち砕き、そのままお返しとばかりに撃ち込む斉天截拳撃が因報の胸を捉えて退かせる。
 劇的というほどの変化は無くても、ビルシャナ達の心の揺らぎは確実に身のこなしに現れている。
「ま、これで十分効果はあったわな」
「はい。このまま決着をつけましょう!」
 得物を構えなおすスラッグに、リュセフィーも頷きを返す。
 少しづつ、確実に、戦況はケルベロス達へと傾いてゆく。
 だが、
「まだだ!」
 ケルベロス達の攻撃を幾度も受けながら、それでもなおビルシャナ達の闘志は衰えない。
 ウィゼのブラックスライムに絡みつかれ、悠乃の刃に身を裂かれながらも、因報の放つ蹴りはミミックを捉えて跳ね飛ばし、果報の唱える経文はイッパイアッテナの精神を蝕んでゆく。
「我らの教義も完全ではないのだろう」
「だがそれでも、退くわけにはいかんのだ――奪われるだけの弱者のために!」
 そうして、信念と共にビルシャナ達が高らかに唱えるその言葉を、
「――いい加減にしろ」
 スラッグの振るうガジェットの一撃が阻む。
「貴――」
「そこを見な!」
 にらみつける因報の言葉を遮り、スラッグは周囲を――周囲に広がる焼け野原を指し示す。
「ここに何があったのか、知ってるか?」
「……ドラゴンどもの拠点だろうが」
 怪訝な声でそう答える果報に、リュセフィーはそっと首を振る。
「宗像大社です」
「人々の心の拠り所となるその場所をドラゴンどもが奪って――残っていた名残を、お前達が焼き払ったんだよ」
「――なっ!?」
 リュセフィーの言葉を引き継ぐスラッグの表情に苦いものが混じる。
 かつて、スラッグが防衛に行くことができなかった土地。そして人。
 信仰の対象だった宗像大社も、その地に住む信者達も、間に合わず守り戦えなかったことは、彼の中で重く残っている。
「我らが……弱者を踏みにじった悪、だと……馬鹿な、そんなはずが!」
「いいえ、あなたがたは悪です」
 呆然としたまま首を振る因報の言葉を、悠乃が突き付ける刃の光が遮る。
「善と悪、それを定めるのは人々が自ら築く社会の規範です」
 善悪の判断を誰がするか、それは極めて難しいことである。
 善と悪が入れ替わることこそそうあるものではないが、善悪の行為の重さは常に移り変わるものであり、そうでなければならないものだ。
 だからこそ、悪を裁くためには地球の社会においては裁判があり、裁判官がそれを判断し、なおかつそれは多数の段階を経て行われる。
 そして、
「――侵略者であるデウスエクスは地球の社会に属しているわけでもない外敵。そんな存在の決める善悪なんて何の意味もありません」
「牙兵だったり鳥だったり、いい加減にしろ」
 言葉と共に、弧を描いて閃く刃が因報の両腕を切り裂き、続くスラッグの大鎌の一閃が首を断ち切って――悪因悪果を掲げたビルシャナに『悪』への報いを下す。
「因報!?」
 対ともいえる存在の消滅に、果報は悲鳴のような叫びをあげる。
 前衛に立って攻撃を受け止めていた因報に対して、主に後衛からの回復支援を行っていた果報の体力はまだ余裕はある。
 だが、攻撃も担当していた因報が倒れた今、果報だけでは今の状況を覆すだけの戦力は持ちえない。
 降り注ぐ天の光はケルベロス達を打ち据え、動きを鈍らせるも、その呪縛はリュセフィーの広げるオラトリオヴェールが拭い去り。
 動きを取り戻し、距離を詰めたウィゼが突き出す手にあるのは――女子力満載な料理の数々。
 頭にボケの花咲くオラトリオの姿をした残霊と共に作り出す無数の料理が果報の口の中へと吸い込まれてゆき……。
「さて、あたしの手料理が食べられるという素晴らしい施しを受けたお主はどんな施しを返してくれるのかのう?」
「それは来世で聞くとしましょう」
 天にも昇るような味わいに残る生命力を奪い去られ、倒れ伏した果報にイッパイアッテナは苦笑しつつ肩をすくめる。
「そもそも、最初から間違っていたんです」
「因果応報とは良い行いも悪い行いもいずれ自身に返ってくるから、今の行いに責任を持ちなさいということなのじゃ」
 倒れ伏した果報に送るイッパイアッテナの呟きに、ウィゼも頷き言葉を繋ぐ。
 良い行いは、今は他者の為に行っていてもいずれ自分に良い結果となって返ってくるから、今は我慢をして他者の為に行動しなさいということ。
 悪い行いは、今は己が利になっていても、いずれ自身に悪い結果として返ってくるという戒めだ。
 そしてそれは、現世だけでなく来世での幸福も含めた結果の話。
「現世で損得を判断するのは早計にして独善であり――そもそも他人が与えるものでもないのです」
「お主達のように他者に己が行動に対して結果を求めるものではなく、自身への戒めとするそれが因果応報なのじゃ」

作者:椎名遥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月4日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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