大菩薩再臨~ビルシャナの教義は炎のごとく燃えさかる

作者:青葉桂都

●天の炎をあがめよ
 公園は夜なのに明るかった。
 赤々と燃える炎が夜の闇を照らしていたのだ。
 燃えているのは人間と同じくらいの大きさの生物。
 ビルシャナだ。3体いる。
「ホルスよ、これでお前の炎はより強くなった」
 炎の翼で、太陽のごとく明るく夜を照らすビルシャナに、ピンク色をして触手を生やしたビルシャナが告げる。
「おお! さらなる炎の加護が我に!」
 鳥面の女性は炎の翼を広げて飛翔した。火の粉が舞い、周囲に散る。
「神の炎を崇めよー!」
 歓喜の声を上げながら、ホルスは翼を羽ばたかせる。
「ああ、なんと神々しい炎なのでしょう……」
 その様を見上げて、陶然と第3のビルシャナが呟いた。
「さあ、次はお前だ、姫朱雀。天聖光輪極楽焦土菩薩がドラゴンより徴収した力を受けとるがいい」
 姫朱雀と呼ばれたビルシャナは、もはや人の姿すらしていなかった。
 まるで炎が鳥の形をとったかの如きデウスエクスに、ピンク色のビルシャナがグラビティ・チェインを注ぐ。
 火勢を増した火の鳥もまた舞い上がり、炎を撒き散らす。
「ああ、火よ! 炎よ! もっと燃え上がりなさい! 炎こそがこの世の根源、最も聖なる物なのです!」
 ホルスと共に飛翔する姫朱雀を、ピンク色のビルシャナは静かに見上げた。
「ビルシャナ大菩薩再臨のため、より多くのグラビティ・チェインを捧げねばならぬ。その火をもって力を集めるのだ……」
 すべての力を2体のビルシャナに託し、天聖光輪極楽焦土菩薩の使いであるビルシャナは消えていった。

●大菩薩再臨を阻止せよ
「厄介な事件が起こったようです」
 集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は落ち着いた表情で語りかけた。
「ゲート破壊後、ドラゴン勢力が支配していたミッション地域の解放が行われていましたが、一部地域がビルシャナの菩薩によって解放されました」
 といっても、ビルシャナがその地域を制圧したわけではない。
 天聖光輪極楽焦土菩薩は残っていたデウスエクスからグラビティ・チェインを奪っていったのだ。
「どうやら奪っていったグラビティ・チェインを利用して、ビルシャナ大菩薩を再臨させようとしているようです」
 そのために、強力なビルシャナたちを集めようとしているらしい。
「大菩薩の出現を放置しておくわけにはいきません」
 奪ったグラビティ・チェインによって新たに生まれた、あるいは強化されたビルシャナが、ミッション地域の周囲に出現しているらしい。
 見つけ出して撃破して欲しいと芹架は言った。
 多数のビルシャナたちのうち、芹架が出現を予知した者は群馬県に出現する。
 赤城山南麓の温泉郷にあったミッション地域から、車で数時間もかからない場所にある広い自然公園で、2体のビルシャナが力を得るようだ。
「片方は天の炎、すなわち太陽を崇めるホルス、もう片方は炎を信仰する姫朱雀という名のようです」
 似た系統の信仰を持つ2体だけに、たまたま近くにいただけでなく今回の事件以前からも協力関係にあった可能性もあるが、確認はしようがない。
「なんにしても、比喩的な意味でなく熱い戦いになるのは間違いないでしょう」
 ホルスのほうは後衛として行動し、手にしたウアス杖から太陽のごとく輝く炎を放つことができるようだ。
 また、熱く教義を語ることで、聞く者を炎上させる範囲攻撃を行う。
 さらに隼の両目にも見据えた者を焼く力があるが、その炎は彼女に従う者ならば癒し、敵対する者ならば燃やす二面性を持っている。
 姫朱雀のほうは前衛だ。羽ばたきによって炎の風を起こしたり、炎を撒き散らしながら飛翔することで範囲攻撃を行うことができる。
 また、炎を賛美することで自らの攻撃力を高め、傷を癒すこともできるらしい。
「いずれも強敵です。普通に戦えば、勝てないとまでは言いませんが苦戦はまぬがれないでしょう。ただ、強い力を得たばかりのため、それをまだ使いこなしていないようです」
 自身の教義に疑問を抱かせたり、あるいは逆に教義を誉め称えて慢心させることができれば、戦闘に集中できなくなって隙ができる可能性がある。
「ビルシャナは大きな公園で力を得たあと、周囲の街を燃やして一般人を虐殺し、グラビティ・チェインを集めようとします」
 とはいえ、住民は避難するよう手配しておくので被害は気にしなくていい。
 もちろん早めに倒した方がその後の消火活動がしやすくなるだろうが。
 幸い、空から炎をばらまく彼女たちは目立つので、接近するのは難しくない。
 ケルベロスが来たとわかれば、敵も戦闘のため地上付近まで降りてくるはずだ。
「ようやくドラゴン勢力を倒したばかりの状況で、ビルシャナ大菩薩の再臨などさせるわけにはいきません。立て続けの戦いとなってしまいますが、阻止できるのは皆さんたちケルベロスだけなのです」
 そう言って、芹架はケルベロスたちに頭を下げた。


参加者
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)
トート・アメン(神王・e44510)

■リプレイ

●炎の追跡
 夜空を炎に染める2体のビルシャナを探すのに時間はかからなかった。
「ずいぶん派手に燃やしてくれてるじゃねえか」
 神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)が拳を自分の掌に打ち付ける。
 赤ではなく蒼い炎が、一瞬その両手を包み込んだ。
 公園からさほど離れていない場所でビルシャナたちは炎をばらまいているようだった。
「大きすぎる炎なんて熱いし痛いだけよ……奴らが炎の教義を広めたらきっと酷いことになる。それだけは止めないと!」
 ベルベット・フロー(紅蓮嬢・e29652)が言った。
 地獄の炎に包まれた顔を持つ彼女は炎の熱さをよく知っていた。
「教義を広めるのも見過ごせませんが、あの時の様な大菩薩の再臨を許してはなりません! 人々の虐殺を防ぎにそのビルシャナ退治してやりましょう!」
 力を込めてミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が声を出す。
 炎が降り注いでいる街を駆け抜けて、ケルベロスたちはビルシャナのところへと急ぐ。
「いました! ビルシャナたちです!」
 神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)が言った。純白の翼をはやしたオラトリオの少女は、炎の翼で飛ぶビルシャナたちを見上げる。
 ケルベロスたちが武器を構えると、敵も気配を察した様子で低空へ降りてくる。
「ふむ……不死鳥は争いを嫌うはずだが。何故にこのような場所におわすのやら。人に害を為すのなら、ご退場願わねばな」
 朱雀の名を持つビルシャナを細い目でながめてビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)が言った。
 勝色の鱗を持つ彼のそばに、燃える翼を持つ火山属性のボクスドラゴンが並ぶ。
「天空と神の炎を讃えよ! 我が名、ホルスの名のもとに!」
 炎の翼を広げたビルシャナが告げた。
「ホルス……ホルスだと!」
 敵の名乗りを聞いて1人の少年が進み出る。
 トート・アメン(神王・e44510)は、両手を膝まで下げて丁寧にお辞儀をした。
「ホルスの名を持つ以上そなたは大いなる太陽……太陽神の子である。そして余もまた太陽神の子が一人。まさにこの日本の言葉では兄弟と言っても良かろう」
 敬意をこめて語るのを、ホルスは頷きながら聞いている。
「太陽とは世界を暖かく照らす光。それは命を育み万物の全てに繋がる炎よ」
 ビルシャナもケルベロスたちも彼の言葉を止めようとはしない。トートの言葉はビルシャナたちを油断させるのに十分なものだった。
「そう、天地の恵みに感謝の心を持つ事はまさに心ある人として正しき姿! 余はその行為をまさに! 尊いと断じよう!」
 あるいは、少年の言葉は本心も含まれているのかもしれない。尊大にも見える振る舞いをする少年だが、むしろ神への信心は深い。
「故に……余は残念でならぬ。その素晴らしき信仰が……ビルシャナの有象無象の信仰の一つに過ぎぬという事が……!」
 トートが揺らめく瘴気をまとったネクロオーブを手に身構えた。
 姫朱雀が素早くケルベロスとホルスの間に入る。
 味方の前衛も、すでに動き出しており、すぐに敵と対峙する。
 そして、戦いが始まった。

●炎を崇めよ
「……ホルス……大いなるホルスよ。そして炎を信仰する巫女よ。余はそなたらを……その宿業より解放しよう!」
 だが狙いをつけたトートが動き出すよりも、デウスエクスが動くほうが早かった。
「ならば太陽の恵みをまずはその身で味わうがいい!」
 高らかに炎を崇める言葉を発するホルスの言葉でトートと鈴、それに後衛のサーヴァントたちが燃え上がった。
 姫朱雀も飛び回り、前衛に出ている4人とベルベットのウイングキャットであるビーストを炎で包んだ。
「炎を纏う姿、やはり神々しい。教会、寺社。神仏の降臨には必ず炎が在るものだ」
 ビーツーが飛び回る敵を見上げて、その姿を褒めたたえる。
「全てを焼き崩し、無に帰す力への畏怖もさることながら、正しく向き合えば悪しき者を焼き払い、闇を照らし、再生に導く」
 火山の属性を持つボクスドラゴンを相方に持つビーツーにとって、それはある意味で本心ではあった。
「不死鳥は神とも魔とも称されるのだったか。正に根源たる者の象徴だな」
「そう――炎とはすべての根源、世界を明るく照らす大いなる光なのです。炎の力を求めるならば、我が巫女となって炎を崇めなさい」
 炎をまき散らしながら、姫朱雀は歓喜の声を上げた。
「燃えろ燃えろよ炎よ燃えろ♪」
 ミリムもまた、歌うようにホルスと姫朱雀を礼賛する。
「太陽の炎ホルス様は暗闇を照らす光となります。姫朱雀様の炎も食材調理にお世話になってます」
 内心の不満を隠しながら彼女は両足をそろえてデウスエクスの前に立った。
 体の両側で掲げた腕を肘から拡げてYに似た形にする。
「冬の厳しい寒さの中、両者の炎は生を得る実感を与えてくれます。生きるに欠かせない炎のがあるのはあなた達のおかげでございます」
 太陽のポーズを見せながらも、ミリムは自分の心がどこか遠い場所に離れて行っているように感じていた。
「その炎で世を彷徨う餓鬼を導いてくださいませ」
 もっとも、遠くに離れていく心をデウスエクスが見抜いていたかどうかはわからない。
 太陽のポーズから一転、末竜咆鎚を構えて一気に姫朱雀に近づき、彼女は敵の可能性を凍結させる超重の一撃を思い切り叩き込む。
 煉が棍をヌンチャク状に変形させて姫朱雀へ攻撃をしかけるが、炎を貫こうとした棍が燃え上がり、少年はわざと顔をしかめて見せる。
 その間にビーツーがトートへと祝福の矢を放ち、鈴が仲間たちの立ち位置に陣形の力を見出し、ベルベットが紙兵をばらまいて、仲間たちを支援していた。
 トートが摩擦熱で起こした炎を姫朱雀に飛ばして、自らの炎で燃え上がる敵をさらに炎で包み込む。
 ドラゴンのグラビティ・チェインを得たというビルシャナたちは多少の攻撃で敵はびくともせずにさらなる攻撃を繰り出してくる。
 煉はオウガメタルの天牙を鋼の鬼に変えて姫朱雀に攻撃をしかける。
 拳は敵を貫くが、しかし貫いた拳が溶けていた――実際には溶けたような形にオウガメタルを変形させたのだが。
「ちっ……鋼が溶けるほどの火力とはな!」
 煉が舌打ちをしてみせた。
「さあ、もっと神の炎を崇めよー!」
 ホルスが生み出した炎は鈴が空間を凍らせて作り出した盾を貫いて前衛の皆を燃やす。
「わたしの氷壁がっ! すごい……」
 元より攻撃を防ぎきるのが難しいのはわかっていたが、鈴は大げさに驚いて見せる。
「太陽は定命の者にとっては命の源と言ってもいい力。病原菌を焼き清める事から病気を退ける神聖なもの……実に納得のいく素晴らしい信仰です」
 鈴の言葉に、ホルスが満足げな表情を見せる。
「また、美しい花火のように、古来より炎は人を魅了して止まないもの……死ぬ前にもっと美しい炎を見せてくれませんか?」
「然り。理解せよ、太陽の偉大さを!」
 姫朱雀がホルスに続いて、前衛の間を縦横に駆け巡る。
「ああ、なんて美しいのでしょう! アタシはこの姿になって炎の美しさに目覚めました」
 姫朱雀の羽ばたきからミリムをかばいながら、ベルベットがうっとりとした声を出す。
「そう炎の輝きこそ美の極致! つまりアタシって超美人! そして全身炎の姫朱雀様は究極的に美しい!」
「よくわかっていますね。炎はなによりも美しいものなのです!」
 ビルシャナたちはケルベロスたちの称賛の言葉に、慢心している。
「炎は躍動する生命の象徴、お日様は洗濯の乾燥に非常に便利です」
 炭化させられながらも賞賛の言葉を述べるミリムが、緋色の闘気をまとって姫朱雀に突進し、素早く敵を切り刻む。
 その効果はやがて現れ始めた。
 防衛役であるベルベットやビーツーは敵が攻撃の見栄えを重視し、狙いがおろそかになってきていると感じていた。
 姫朱雀の羽ばたきが炎を生み出す。
 ビーツーは雑に放たれた炎を、両腕で受け止め、黒光りする鱗で弾き飛ばす。
 同時に、手にしていたフィニクスロッドを後方に向けて軽く振った。
 ボクスドラゴンは主の意を的確に読み取り、白橙色の炎をロッドへと吹き付けた。
「その身で受けてみるといい、俺達の熱を!」
 自身の力による炎もロッドを覆い、二種の炎が姫朱雀を焼く。ボクスドラゴンも彼の動きに合わせてタックルを叩き込んでいた。

●散りゆく姫朱雀
 教義への過剰な自信が、ビルシャナたちの手を逆に緩めていた。
 回復役の鈴とサーヴァントであるリュガは回復に集中しなければならなかったが、他の者たちは全員が攻撃に回ることができた。
 姫朱雀は守りを固めていたが、ケルベロスの攻撃は確実に体力を削る。
 煉は姫朱雀が自らの受けている大きな負傷に気づいたところを狙って声をかけた。
「姉ちゃん達が言うように、太陽や炎がすげぇのは確かなんだけどよ」
 蒼星狼牙棍を姫朱雀に突きつける。
「お前らの教義って、何でもかんでも焼き殺すぜとしか言ってなくね?」
 不敵に笑い、少年は言葉を投げかけた。
「炎ってのは破壊と『再生』の象徴で、命や新しいものを生み出すからこそすげぇんだぞ? 破壊したり殺すだけならただのパンチと変わんねぇんだが、そこん所どうなんだ?」
「……違います! 炎とはそこに在るだけで神聖なるもの! 破壊とか再生とか、そのような些末なものではありません!」
 姫朱雀はそう答えたが、一瞬の間が迷いを示していた。
 すでに煉は烈火の闘気を込めて伸ばした棍に、蒼炎をまとわせている。
「だまして悪りぃが俺も炎使いでね、こっからが本領発揮だ。オラオラオラァッ!」
 炎の連打を受けた敵が、炎を礼賛して自らを強化しようと試みる。
 けれど、そこにトートが黒色の魔力弾を飛ばした。鈴やビーツーの支援を受けたその一撃に加護を砕かれて、姫朱雀が悲鳴を上げていた。
「かかりましたね。気づいてももう遅いです。命名……封炎百禍陣。火は恵みと共に扱いを違えし者に禍をもたらす」
 鈴が神白の天扇を姫朱雀へと向けた。
「与え、生み出すことを忘れ、徒に命を奪う炎よ、己に焼かれ地に堕ちよ!」
 隙を見せた敵に向かってケルベロスたちが攻撃を集中する。
 ミリムが手にしたにくきゅうつきのマジックハンドが一気に伸びて姫朱雀を打つ。ビーツーもまたボクスドラゴンと連携して打撃を与えていた。
 ベルベットは地獄でできた炎の翼を背に生やし、天へと跳躍した。
「全ての力の源よ。我が身を覆いし紅蓮の炎よ。翼となりて天へと導け! ブレイブ・フェニックス!」
 地獄の炎を放出する勢いで、あたかも飛んでいるかの如く姫朱雀へと迫る。
 羽ばたいて回避する敵を、炎の勢いを調節してさらに追跡。
「アタシもこの空を……飛べる!」
 そして、彼女は必殺の飛び蹴りを痛烈に敵へと叩きこんでいた。
 ホルスの目の力も受けて姫朱雀が回復しようとするが、ビーツーの与えた炎が癒しの力を阻害した。
 鈴が天扇から放つ弾丸で凍りつき、敵の動きが止まる。
 氷の粒をまとって宙を滑る姉に、蒼炎をまとって地を駆ける弟が並ぶ。
「命を育まねぇ炎に価値はなし。俺の炎で燃え尽きろっ!」
 拳を振り上げたのは、2人同時だった。
「姉弟連牙『双星狼牙』!」
 2頭の狼と化した2人の拳が、1つの顎となって左右から襲いかかり、姫朱雀を噛み砕いていた。

●太陽神が沈むとき
「おお、姫朱雀よ、死んでしまったのか。なれどその信仰は我が太陽のうちで永遠に生き続けるであろう!」
 嘆きながらも告げたホルスの言葉がケルベロスたちの幾人かをまた燃やした。
 ミリムは体を炎に包まれながらも、全身に力を込め防御を固めた。
(「覚えてはいないのでしょうが……火傷の痛みは、忘れていませんよ」)
 内心ではこの不幸な再会に不満を覚えていたが、もうすぐそれも終わる。
 彼女の心も知らずに炎を叩きつけてくるホルスへと、ミリムは力を込めて魔法を放つ。
「夜に不審火は不要! 消え失せなさいディスインテグレート!!」
 不可視の虚無球体が、ホルスの炎を消滅させていく。
 離れていった心が戻ってきたような気がした。
 守り手を失ったホルスへと、他のケルベロスたちも一気に攻撃を集中していく。
 目線だけで合図を送りあって、ビーツーとボクスドラゴンが連携してウイルスとブレスによる攻撃を叩き込む。
「リューちゃん、最後までみんなを支えてね!」
 鈴がリュガと共にホルスの攻撃から仲間たちを守る。
「後ろは任せたぜ、姉ちゃん。てめえも後を追わせてやるぜ、ホルス!」
 支援を受けながら煉が焔を帯びた棍を叩き込んでいた。
 単独になったビルシャナを、ケルベロスたちの攻撃は確実に追い詰めていった。
「すり寄るのはもう終わり。アンタの教義を広めさせるわけにはいかないんだよ!」
 ベルベットがビースト共に仲間たちを敵の説法からかばっている。
 ホルスが限界を迎えるまで、さほど時間はかからなかった。
 トートは、その瞬間が来るのをずっと狙っていた。
 ミリムにとって因縁のある敵ではあったが、執着を見せたのは少年のほうだ。
「大いなる炎の巫女に神が子ホルスよ! そなたらは我が希望、冷たき死の海に暖かな光を齎す希望となり得よう」
 呪文を唱えて、呼び出すのは小型の太陽のごとき火の玉。
「故に之は処刑ではない! 死の先にある希望である! 我が太陽は導きの光! そなたを真の戦いの場。大いなる太陽神の御許へと送るであろう」
 魂を浄化し、死と再生――輪廻転生の輪に迎えると言われる導きの火だ。
「その信仰を元に太陽神の祝福を与えよう!!!
 太陽の導きがホルスを焼き尽くす。
「輝かしき太陽の子よ! そなたもまた我が太陽神アメン・ラーの御許にて共に冷たきデスバレスを照らす光となるのだ!!!」
 消えてゆくビルシャナを見上げ、少年は高らかに叫んでいた。
「片付きましたか……前にもひどい目にあわされましたけど、最後まで迷惑なやつでしたね! すぐに火を消さないと!」
 持ってきていた消火器で、ミリムはビルシャナが放った炎で燃えている建物を手早く消火していく。
「消火器もいいが、こちらのほうが早い」
 翼を広げたビーツーが飛翔し、薬液の雨を降らせて燃えた建物を直し始める。
「やっぱり、炎の教義なんて広めたってろくなことにはならないよね……」
 起きている火事をながめてベルベットが大きく息を吐く。
「そうですね。奪うだけの炎なんて、放置しておくわけにはいきませんから」
 鈴が頷く。
 炎をばらまくビルシャナは、ケルベロスたちが起こした炎で焼かれ、死体も残ってはいなかった。
「願わくばまた、この太陽の恵み溢れる青き星に生まれてくんのを願ってるぜ。あばよ」
 煉はデウスエクスが消えたあたりへと声をかける。
 ビルシャナ大菩薩再臨までの道のりは、これで遠のいたはずだった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月25日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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