薔薇色の花園で

作者:木乃

●おうさまさんぽ
「ご機嫌いかがかな、『梅雨』というのは心地よい季節だね! したたる雨音の合奏に心が洗われるようだよ」
 じめじめした雨季もオリヴィエ・マクラクラン(タイタニアのミュージックファイター・en0307)には良い刺激らしい。
 暖かな陽ざしのように破顔する妖精王は、思い出したように「ところで時間がある者はいるだろうか?」と切り出した。
「なにかあったの?」
「うむ。静岡県熱海市にあるバラ園がデウスエクスに襲われてね。美しい花園の一部が焼けてしまい、見頃であるバラが痛ましい状況なのだよ。そこでだ諸君!」
「修復を手伝ってもらいたい!」 腰に手を当てどや!と決め顔。
 自然の丘陵地に拓かれた花園には、蔓薔薇のアーチが連なり。
 淡色のオールドローズに、黄金色のバラなど、香り高い花で満たされているそうな。
「バラ園は西洋風のランドスケープで、熱海の海も景観の一部となるよう設計されている。花々が咲き乱れるとてもロマンチックな場所のようだよ。庭園内にあるカフェでは、バラを使った紅茶にサイダー、ジャムやアイスクリームがあるそうだ!」
 修復が終わったら散策してみようと思って、とオリヴィエは一人想像を膨らませる。
 ひとりで羽を伸ばしに行くのも、誰かと一緒に出かけるにも丁度良さそうだ。
「実は、余は庭園というものに赴くのは初めてなんだ。かつて居を構えた森は自然の姿を大切していたが、庭園は真逆に人の手で作り上げた植物の芸術……風景そのものをキャンバスにした、と聴いては興味が尽きぬというもの! 余一人で向かうのも味気ない故、諸君らも共に過ごしたい者に声をかけてみてくれるかな?」
 降り注ぐ雨と咲き誇るバラのコントラストの中、きっと素敵な時間を過ごせるぞ!
 ――無邪気に顔を綻ばすオリヴィエは、もう待ちきれない様子である。


■リプレイ

●荒れ庭
 ――本日の天気は晴れときどき曇り。所により小雨がぱらつくでしょう。
 ケルベロスはオリヴィエ・マクラクランに連れられて、目的のバラ園へ。
 麗しい風景を歪にした痕跡は至るところに。
「さて、俺たちもやるか」
 【2F】のメンバーを引き連れ、櫟・千梨は爪先で地べたを小突く。
「グランドロンが降ってきたり襲撃されたり、熱海も災難続きだね」
「人だけでなく動植物にも言えますネ」
 オーラの花と舞うウォーレン・ホリィウッドの傍で。
 エトヴァ・ヒンメルブラウエも焼け焦げた花を星の光で照らす。
 垣根を見上げていたルイーゼ・トマスだが、ふと千梨の背を見て思い出したことが。
(「歌を聞いてみたい、とリクエストされていたな……よし」)
 髪留めにしたデバイスに触れると、ルイーゼは透き通った歌声を響かせた。
 朝露のように透明感のあるソプラノボイス――澄んだ歌声に千梨も自ら出した要望を思い出す。
(「善き歌への拍手代わりになればいいけど」)
 ゆったりした歌声に合わせた感謝の舞は、周囲を色とりどりの花びらで彩っていく。

「ここは派手に行くか!」
 花壇の近くではパトリック・グッドフェローの舞踏、朱桜院・梢子の血桜が吹き抜け、辺り一帯に快癒の波紋が広がる。
 さて、やる気に満ちたタイタニアはもう一人。
「初めてのお仕事です! 美しさを取り戻した薔薇を見れば、きっと人々も笑顔になってくれます……よね?」
 リルル・アルルーンは気合を入れて宙にルーンを描く。
 掌に収まってしまうほどの小さなバラは、リルルの手で次々と目覚め。
 ミリム・ウィアテストが呼び出したゴースト達も花園を飛び交う。
「よしよし、これで元通り……そういえば」
 オリヴィエはどこへ? ミリムが視線を巡らせると、視界の端に黄翅が飛び込んだ。
「なん、だと……花木がボールのように育っている……!?」
 まあるい薔薇に妖精王は驚愕していた。
 黄色いレインコート姿のシルディ・ガードも一緒だ。
「こういう種類なのかな、でも欠けちゃってるね」
 実際は『トピアリー』と呼ばれる造園芸術の一種だが、あいにく解説役は不在。オリヴィエも「こういうものか」と納得し始める……ツッコミ不在の恐怖なり。
「では、本来の姿に戻してみようか」
 シルディがオウガ粒子を風に乗せる中、オリヴィエも軽やかに筆を滑らせる。
 欠けた球体は光と絵具を浴びると、むくむく膨らむように欠損を埋めていく。
「そうだ、オリヴィエさんも庭園って造ってみたい? いつか妖精の森が再現できたら素敵だよね」
「庭園は見る専になりそうだが、再現だけなら地球の技術力で実現できそうだね。VRだったか」
「そっか、どんな場所か見てみたいなぁ!」
 綺麗な泉に花と動物。心躍る森では、翅を持つ妖精が楽しく暮らして――想像を膨らませ、シルディは未知の世界に想いを馳せる。

 ――小雨が降り始める少し前、庭園は元の形を取り戻した。
 花を愛で、雨音に耳を傾けるにはたっぷりの時間が必要だろう。

●賑やかティータイム
 カフェは英国風カントリーハウスがモチーフ。
 木目調の内装と生成り色のテーブルクロス。
 窓辺に吊されたアイビー、薄い色の薔薇が彩を添えている。
 素朴な雰囲気の中で、かしましい様子だったのはマリオン・フォーレとルル・サルティーナ。
「子供ながら実によく働くのに、どうしてお勉強だけは全力で拒否るのか!」
 四則計算はおろか、数を確かめるのだって危ういのに!
 マリオンは『昨年の宿題が終わったら』と約束したようだが、当のルルは、
「なんで席を立とうとしとるんや!?」
「野良ちゃ、く、首が締まるぅ!」
(「『薔薇の楽園にご招待!』って言われたのに、なんでお説教されるの……!?」)
 ――そもそも おぼえて いない!
 とはいえ、勤労精神まで否定するマリオンではない。
「でも、お仕事はすごく頑張りました。ご褒美の千円をあげましょう」
 財布から紙幣を取り出し、
「ただし――メニューの中で一番得する組み合わせを考えること!」
 マリオンの特別授業が開始する。 問題は……、
(「なにこのおじちゃんの写真? 交換? これで食べ物と?」)
 ――そもそも なにか わからない!
 少女の将来に不安が増す一方……そこに永喜多・エイジが近づけてきた。
 勉強を回避するための知恵には長けるルル。エイジを見遣り。
「わぁ~これで好きなものが食べられるのかぁ、これとこれは食べられるのかなぁ~~?」
 チラチラと『教えて!』と視線を送り、エイジも気付いた――が、喜んだのも束の間。
「どれも美味しそうだよねー」
 察しの悪いエイジは「いまお勉強なのでっ」とマリオンが釘を刺される。
 あえなくルルの頼みの綱は離れていく。
(「なんで来ちゃったのぉぉぉおおおおおおおおおお!?」)
 お勉強はまだ始まったばかり――ルルの学習成果や、いかに!?

 そうと知らぬエイジはミリムとの相席に戻る。
 テーブルにはジャムと紅茶、薄紅のアイスが。
「薔薇ジャムなんてあるんですね」
 深い赤はイチゴジャムのようで、掬ってみると濃いピンクに映る。
 アイスに絡めてエイジは賞味してみた。
「エイジさん、美味しいです?」
「なんか酸っぱめのイチゴみたいかな」
 感心するエイジをみて、ミリムもスプーンに手を伸ばす。
 紅茶にジャム一匙落とすと茶湯の中で花片が踊り、口に含めば心地よい甘酸っぱさが。
(「他の人にもお勧めしてみましょうか」)
 ミリムが外に目を向ければ、雨雫の浮かぶ薔薇は口ずさむように上下している。
 ――退屈な長雨を、甘い香りと過ごすのも悪くない。

●ルン・ポワン
 小雨の中の庭園は晴れた日とは違った趣がある。
 雨雲で薄暗くなった景色で、花の鮮やかさはいっそう際立ち、雨水は宝石のよう。
 舞踏会に集う淑女のように立ち並ぶ花木の間を、ぱたぱたと駆け抜ける姿があった。
「あのっ、オリヴィエ様、こちらを!」
 小雨が降りだすや、リルルは真っ先にオリヴィエの元へ。
 自身の傘とは別に用意してきた傘を、憧れの人に差し出す。
「おお、気を遣わせたね。リルル嬢も体を冷やさぬようにな?」
(「わ、わたっ……私の、名前を!!?」)
 優雅に笑むオリヴィエの言葉に、少女は硬直し、
「あら、ごきげんよう」
 ……遠くに聞こえる声に、リルルはハッと正気を取り戻す。
「ぁ、ありがとうございますっ、それでは失礼しますね!」
 耳先まで真っ赤なリルルは逃げるように走りだした。
(「遠くからでもお姿を拝見できれば、と思っていたのですが……!」)
 リルルの火照った頬を冷ますには、肌寒い風は心地よいものだった。

 当のオリヴィエは「元気があってよいなぁ」と呑気に見送りつつ、声の主――梢子のほうへ向き直る。
「此度は薔薇園へのお誘いありがとうね。私、熱海にはいつか来たいと思ってて」
 薔薇園への誘いに感謝を述べつつ、梢子は懐から一冊の文庫本を取り出す。
「これ、わたしの好きな『金色夜叉』という話でね! 熱海の名を世に知らしめた名作なのよ!」
 小説家・尾崎紅葉の綴った未完の名著で、駅前には名場面を再現した銅像もあるほど。
 あらすじはこうだ――ある青年の許嫁は金に目がくらみ、大富豪に心変わりしてしまった。
 捨てられた青年は絶望と復讐の念に駆られるまま、高利貸しへ身を堕とす。
 ――雅文で表現された男と女、怨恨と悔悟、金と愛の情念舞台がこの熱海。
「何度も舞台劇になっててねぇ。台詞回しも芝居的だから、演劇にも造詣が深いオリヴィエさんも楽しめると思うわ!」
 ワンブレスで語りきった梢子に、拝聴していた妖精王は感心した様子で頷いていた。
「梢子嬢をここまで魅了するとは素晴らしい作品だね! 機会があったら探してみるよ」
「ええ、ええ! 気に入ってもらえたら嬉しいわぁ」
 こころなしか、彼女のビハインドも梢子の姿を満足げに見守っていた。

●王の片鱗
「ほう、門に沿って薔薇が伸びるよう作られているのか」
「よ、妖精王!」
 散策を再開した王が薔薇のアーチを眺めていると、緊張ぎみなパトリックがやってきた。
「先日の超会議で地球の娯楽に興味を示し、仲間になって頂き本当に有難く思う」
「真面目か! いまや余も一般ケルベロスだよ」
 パトリックの緊張ぶりにオリヴィエは肩を揺らして笑う。
 僅かに頬を緩めつつも、パトリックは気まずそうに切り出した。
「その、実は……」
 パトリックは自身のサーヴァント――暖かな紅白の箱竜を遠慮がちに差し出す。
 それをオリヴィエも不思議そうに抱きかかえ。
「物語に出る妖精女王にあやかって、ティターニアって名付けたんだ。まさか、妖精8種族にもいるとは思わなくてな」
 ――遠い昔に封じられ、周知されたのも最近。
 頬を掻くパトリックに妖精王は唸り声をもらし……予想外の言葉が。
「地球ではこれを縁(えにし)というのだろう? 同じ名、それも縁と呼べないかな」
 予想に反してとても前向きな言葉に、パトリックは呆気にとられてしまった。
 楽天的な彼らにしてみれば、むしろ好意的な印象だったのだろう。
「縁か……なら、オレもこの縁を大事にさせてもらうな!」
 季節の変化も、異国の文化も、定命の未来も。この王は最後まで楽しむ――パトリックの脳裏にそんな想像がよぎる。

 挨拶もそこそこにパトリックと別れて、オリヴィエは斜面に広がる薔薇庭へ。
「オリヴィエさーん!」
 振り返ると水たまりを軽々と飛び越え、エマ・ブランがやってきた。
 散歩がてらと花道を通りつつ、話に花を咲かせていく。
「この前の救助でお花の絵を描いてたよね? 今日も薔薇園を気にかけてたし、オリヴィエさんはお花が好きなの?」
「確かに花は好きだが、一番は『地球の芸術』をもっと学びたいからかな。森は整備はしても最低限だったからね」
 夜空に星が煌めき、川に魚が泳ぐように、森には樹や草花が芽吹く――妖精の森とて例外ではない。
 だが『偶然の産物である森と、人が造る庭園の生まれは真逆』とオリヴィエは語る。
「なるほど、芸術のお勉強でもあるんだね。どれも綺麗にお手入れされてると思ったけど――」
 エマは改めて視線を巡らせてみた。
 この空間の全てが計算された美の産物だと思うと、景色が少し違って見えてくる。
(「こんなにたくさんの薔薇が咲いてるのも、大切に育てられてるからなんだね」)
「――この綺麗な景色を守る為にも、デウスエクスをやっつけなきゃだね」
 改めて脅威に立ち向かう決意をみせるエマに、オリヴィエは大きく頷き返す。

●ふたりで
 グレッグ・ロックハートとノル・キサラギは真っ白い東屋を訪れていた。
「寒くないか、ノル」
「大丈夫! でもいっぱい動いたから、お腹空いたかなぁ?」
 期待の眼差しを送るノルに、グレッグはノル待望のランチボックスを開く。
 唐揚げにハンバーグ、卵焼き、彩りも考えたサンドイッチの絶品ランチであう。
「おれが好きなものいっぱいだ!」
「気づいたら、ノルが作ってくれた弁当に似てしまったんだ」
 それだけノルのお弁当はグレッグにとって思い出深いのだろう。
 取り皿とカトラリーを一緒に用意すると、「いただきます」とランチタイムへ。
「今日もとってもおいしい!」
 頬袋を膨らませ、目を輝かせるノルはぱくぱく食べ進めていく。
「そんなに空腹だったのか」
「グレッグの作ってくれたご飯が、一番おいしくて安心するからだよ」
 屈託なく笑うノルにグレッグも笑みを返し、食後は静やかな薔薇園の散策に出かけた。
 降りしきる雨は世界と隔たる壁のようで、傘の下で感じる互いの距離も近い。
「雨の中の薔薇って、なんだか不思議だね」
「ああ、目を惹かれる美しさは変わらないが儚さを覚える」
 見慣れぬ景色を見渡していると「あ!」とノルの驚く声が。
「ねえ、あのイングリッシュローズ!」
 なにごとかと訝しむグレッグの手を引き、ノルは件の薔薇へ近づいていく。
「……やっぱりそうだ、グレッグがくれたブーケの花と同じ……」
「確かに、この薔薇だったな」
 可憐に咲く淡い薔薇が放つ、優美な香りは二人の記憶に強く訴えかける。
 特別な意味が込められた『それ』は、ノルにとって一生忘れられないもの。
「……ノル、長く続く雨の中でも、幸せで楽しい思い出は増えるのだな」
「そうだね。雨の中に咲いてる薔薇も、一緒に傘を差して歩くのも、一緒なら幸せで綺麗な思い出になっていく」
 情愛を確かめるように、気づけば互いの手を取り合っていた。
 ――心地よい沈黙が流れる中、冷たい雨がすこし優しく思える。
「…………今度は、甘い菓子を楽しもうか」
 空色の傘はゆっくりと次の場所へ向かう――その足取りは、もう少しだけ長く続くよう緩やかに。

 ひとつの傘を二人で使えば、自然と距離が近くなる。
 そんなことは重々承知の九条・小町だが……、
(「……近い」)
 隣に寄り添うクレス・ヴァレリーと肩がぶつかりそうなほど近くて、目に映る薔薇の庭園を落ち着いて鑑賞できない!
 緊張のあまりクレスのほうも向けずにいる。
「あそこの白薔薇、真珠みたいな色だよ。葉の陰で見えにくいかな……ほら」
 さりげなく小町の側に傘を持つクレスは空いた手で指さし、
「君のように清廉で美しい花だね」
 耳元に囁きかければ、驚き半分恥ずかしさ半分で凝視された。
「わ、私が清廉? そんなこと言うのクレスくらいよっ」
(「うう、顔が熱い……からかってるのか素なのか、全然読めないわ」)
 ぷいっとそっぽを向く小町だが、真っ赤な耳はクレスにも見えていて。
「俺はそう思うんだけどなぁ?」
 ――その素直な反応が清廉だ、と彼女は気づいているだろうか?
 一息ついて気を取り直し小町は「そ、そうだ!」と話題転換を図る。
「前に一緒に青い薔薇を見たけど、この庭園にも咲いているかしら?」
「黄金色の薔薇はあるって言ってたな」
 言われてみればと、クレスも気になってきたようだ。
 考えこむ様子に小町はしばし逡巡すると意を決して口を開く。
「だったら、二人で探してみる?」
「え?」
「……誕生日、何も贈れなかったし、今日の『思い出』を贈り物に…………とか言ったら、どう思うかな、って……」
 小町の不安に比例して、声量はだんだんと小さくなる。
 思わぬ提案に驚かされたクレスだが、彼女の誘いを断るはずがなく。
「すごく嬉しいな。いつか見た青い薔薇と出会えたら嬉しいし、一緒に探すのだって……きっと大切な思い出のひとつになるよ」
 はにかむクレスに、小町の表情はすぐに明るさを取り戻す。
「そうと決まれば青薔薇探し開始よ、やっぱり現代バラのところかしら」
 小町の表情は万華鏡のようにくるくる変わっていき、クレスは眩しげに横顔を見つめる。
 雨の雫を帯びた青い薔薇、人の手で作り上げた奇跡の薔薇……それは二人に束の間の夢を与えるだろう。

●願望
「あれー?」
 作業途中からウォーレンは一人はぐれていた――ヒトそれを、迷子という!
 薄く霧がかった庭園は見通しが悪い、せめて目印でもあれば……と、キョロキョロしていると、
「ウォーレン殿、なにか困りごとかな?」
「こんにちは、オリヴィエさん。実は」
 ――相談相手の黄色い翅が目印として機能したようだ。
「オリヴィエ……と一緒だったか」
「って、いたー」
 千梨とルイーゼ、エトヴァも探し人に手を振り駆け寄ってくる。
 傍らの妖精王を見つけ、エトヴァはおっとり一礼。
「オリヴィエ殿、ようこそ地球へ」
 気遣うエトヴァにオリヴィエの眉はハの字に。
「諸君ら気を遣いすぎではないか? 乳房を揉むと治るアレか」
「違う」
 気さくというか、根明というか、。王様の俗っぽい発言にはルイーゼも困惑。
 怪しい話題から千梨が強引に切り替える。
「まあ楽しんでいるようでなによりだ」
 全身からハッピーなオーラを醸し、妖精王は満面の笑みを浮かべ。
「うむ、今日も学びが多かった! 数百の薔薇、空間をキャンバスにする技術、そして植物を素材にした発想!」
 遠くを臨むオリヴィエは、名画に心奪われたようにうっとりする。

 芸術家肌からか着眼点が違うな、とルイーゼは感じた。
「たしかに自然の美と人工的な美では趣が異なる。バラに限らず、品種改良がなされている動植物は多いと聞く」
「人が望めばこそ、これだけの種類が生まれたのでショウ」
 ――より強く、より美しく。人の願いを受けた結果がここにある。
 エトヴァの言葉に、千梨がそれでも少なく思うのは、ヒトの欲深さによるものだろうか。
 品種改良といえば「名付けも由来がある」とルイーゼは記憶の糸を手繰り寄せる。
「人名を授かった品種には、美しさで名を馳せた者にあやかることも多いらしいな」
「あと不思議な名付けも多いな、『舞扇』とか」
「まいおうぎ?」
 疑問符を飛ばす妖精王は千梨に連れられて行くと――、
「おお……!」
 感嘆の声をあげた。
 舞扇。薔薇の中でも花径が10センチを超すこともある、大輪の花。
 ときに人の高さを越えるほど育つ丈夫な品種。
「優雅な佇まいデスネ」
 長身のウォーレンとエトヴァも背丈ほどある花茎と背を比べる。
「千梨さん、翅とこの薔薇つけたら素敵な目印になりそうー」
 ウォーレンの提案に頭を抱える千梨だが、エトヴァは「似合いそうデスのに」と呟き。
 自身の手と花を比べるルイーゼに、オリヴィエはそっと耳うち。
「この星は素晴らしい者ばかりだね」
 王の称賛に少女は誇らしげな笑みを返す。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月27日
難度:易しい
参加:16人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 3
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