甦りしベレトリス

作者:坂本ピエロギ

 その『匂い』をアカギツネの怪盗が嗅ぎ当てたのは、全くの偶然だった。
 ――お宝の匂いがするぜ。
 ――それも世界に二つとない、とびきりのレア物だ!
 六月某日、夜。
 ステラ・フラグメント(天の光・e44779)は静寂包む廃ビルの頂上に、輝く月を背にして立っていた。
 眠る事のないメトロポリスの外れの、デウスエクスの攻撃によって解体が決定した区画。出入りが制限された無人の地には、彼と相棒の黒猫ノッテのほかに動く影はない。
 だがステラの『鼻』は告げている。この地に自分の求めてやまない、とびきりの『宝』が眠っていると。
 隠された宝。そして浪漫。
 くたびれた大人が聞いたなら、下らない夢と一笑に付したかもしれない。
 だが果たして――怪盗ステラの勘は的中した。
「!? あれは……!」
 突如、ビルのひとつが地響きと共に倒壊を始めたのだ。
 ズズン。ズズズズズウン――。
 続いて倒れるビルは、二つ、三つと増えていく。
 跡形もなく崩れ去ったビル群の跡から土煙に紛れて現れたのは、人型のダモクレス。
 巨大な鋼鉄のメカだった。
『ゴオオオオオオオオオオン!!』
 闇夜に轟く鋼の咆哮と、少年の浪漫をそのまま形にしたようなフォルムに、ステラは目を奪われた。俺を攫っていってくれ、思わずそんな言葉さえ出そうになってしまう。
「なんて……なんて……なんて最高のお宝なんだ!」
 彼方で光るビルの夜景に誘われ、グラビティ・チェインを求めて歩き出すダモクレス。
 目的を遂げさせる訳にはいかない。
「待てダモクレス! 俺が相手だぜ!」
 ビルから響く声に反応するように、ダモクレスの目がサーチライトのように光り、ステラを捉えた。ステラは優雅にマントを翻すと、ノッテを従えてビルから飛び立つ。
「俺は怪盗ステラ! お前のコギトエルゴスムを頂きに参上したぜ!」
『ゴオオオオオオオオオオオオオオン!!』
 甦る古代の兵器に、颯爽と挑戦状を叩きつける怪盗。
 月の見下ろす夜の街で、いま戦いが始まる。

「ステラ・フラグメントさんがダモクレスと遭遇する未来が予知されました」
 月が輝く夜のヘリポートで、ムッカ・フェローチェ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0293)はケルベロス達に告げた。
「ステラさんは現在、予知のあった場所に一人でいます。彼が敵に遭遇するまで時間は殆ど残されていません。連絡も繋がらず、予知された未来を変える事は難しいですが――」
 それでも、とムッカは言葉を継ぐ。
 今からケルベロスが現場へ急行すれば、ステラを救出して敵を撃破出来る、と。
「現場は真夜中の街中です。周囲にビルが立ち並ぶエリアですが、元々解体が予定されていた区画のため、周辺に人影はありません。人払いなども不要です」
 ムッカによると、ステラが遭遇したのは『ベレトリス』というダモクレスだ。古代神話に語られ、太古より眠りについていた機械兵器が何らかの理由で甦り、グラビティ・チェインを求めて動き出したのだという。
「ベレトリスは強力なデウスエクスです。鋼の機体を用いたパンチや体当たりなどの肉弾攻撃に加え、目から破壊光線を発射する遠距離攻撃も行ってきます。非常に攻撃力の高い敵ですから、くれぐれも気をつけて下さい」
 ムッカは説明を終えると、ケルベロス達に一礼した。
「ステラさんを救出し、街の平和を守れるのは皆さんだけ。確実な遂行をお願いします」


参加者
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
暁・万里(アイロニカルローズ・e15680)
月岡・ユア(幽世ノ双月・e33389)
ステラ・フラグメント(天の光・e44779)
ニコ・モートン(イルミネイト・e46175)
 

■リプレイ

●一
『ゴオオオオオオオオオン!!』
 鉄槌のような拳が、夜空から降ってきた。
 廃棄区画を震わす鋼の咆哮。続いて轟音と振動がアスファルトを震わす。
「おっと! ……さすが、凄いパワーだぜ!」
 ステラ・フラグメント(天の光・e44779)は颯爽とマントをたなびかせると、鉄拳の直撃でクレーターと化した道路をチラリと振り返った。
 あのパンチを受ければ大ダメージは免れまい。だと言うのに怪盗ステラの目は今、少年のような憧れと好奇心でキラキラと輝いているのだった。
「カッコイイ……あのダモクレス、超カッコイイぜ!」
 甦りし古代兵器『ベレトリス』――。
 夜の街を闊歩する人型ダモクレスの勇姿に、ステラの心は興奮の極みにあった。
 要塞の如き鋼のボディが繰り出す破壊の拳。いったい馬力はどれ程だろう?
「行くぜベレトリス! 怪盗ステラが相手だ、くらえ!」
 ウイングキャットの黒猫ノッテを連れて、怪盗の青年はオウガメタルを身にまとい、唸る拳をベレトリスの脚部装甲めがけて叩きつける。
「くぅっ……この硬い手応え! 頑丈な装甲! 俺を感動で殺す気か!」
「お~い、ステラー」
 聞き慣れた声が耳をかすめた直後、破壊光線がステラへ降り注ぐ。
「ぐうぅっ!? あの光る眼、ガジェットで再現できたらどんなにいいか……!」
 光線の力で動きが鈍るステラへ、拳を振り被るベレトリス。
 ステラはそこで我に返り、ふと思う。
(「……あれ? まさか俺、大ピンチだったりする?」)
 置かれた状況に気付くと同時、ベレトリスが拳を振り下ろそうとした、その時。
「ちょっとステラ~、大丈夫?」
 ベレトリスの背後から、ルーンアックスを構えた女性が跳躍した。
 振り下ろされるスカルブレイカー。衝撃で狙いの逸れた鉄腕がステラの頭上で空振る。
『ゴオオオオオオオン!!』
 地響きを立てて転倒するベレトリス。
 呆然とそれを眺めるステラに、月岡・ユア(幽世ノ双月・e33389)は微笑んだ。
「こら~、ステラ。夢中になりすぎて大怪我したらどうするの?」
「ユ……ユア! 助かったぜ、ありがとう!」
「べっつに~。ステラったら、随分あのダモクレスにお熱みたいだね、ユエ?」
 ステラは感激の声を上げるが、ユアはそっけない態度でビハインドの妹を振り返る。
 そんな二人のもとへ、応援のケルベロスが次々に駆けつけて来た。
「まあまあユアちゃん、巨大ロボは浪漫だし。欲しくなる気持ち、僕にもわかるよ」
「協力するよステラ。恰好いい姿、見せてね?」
 暁・万里(アイロニカルローズ・e15680)と、クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)だ。
 攻性植物とケルベロスチェインで回復を開始する二人。深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)は最後列に陣取ると、心底心配そうな視線をステラへと向ける。
「ステラくん。こう、なんというか……無事、ですよね?」
「ああ、ありがとう。無事だぜルティエ!」
「良かった。あのダモクレスと戦うステラくんは、こう、その……」
 ルティエはほんの少し言い淀むと、
「まるで『俺をさらってくれ!』と、お姫様のような目をしていましたから」
「え!?」
「そうそう。怪盗さんにお姫様の役は似合わないと思うよ?」
 万里のからかいに、ステラは薄暗い灯りでも分かる程に恥ずかしがった。
 顔を真っ赤に染めた怪盗の顔を見て笑いをこらえる仲間達に、ニコ・モートン(イルミネイト・e46175)がチクリと追い打ちをかける。
「『狙ったお宝は逃がさない。浪漫に満ちた物なら猶更だ』――そんな事を言っていた怪盗さんがいた気がしますが……いやはや突っ込みが追い付かないと言いますか」
「そ、それ以上は勘弁だぜ。恥ずかしいぜ……」
 光る五線譜を夜の闇に描きながら、ニコは小さく肩を竦めた。更にそこへ、夜目を効かせたイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)も加わる。
「本当に怪盗さんだったんですね……驚きです」
『ゴオオオオオオン!!』
「おっといけない、援護を頼みますザラキ。――全てを撥ね返す力を」
 闘志を奮い立たせる『護言葉』で頑健の暗示をかけるイッパイアッテナ。
 足音を響かせて向かって来るベレトリスの足に、ミミックのザラキが噛みつく。
「さあ、戦闘開始と行きましょうか。頼りにしていますよ、ステラさん」
「よろしく頼むぜ! 皆、ありがとうな!」
 夜空に咆哮を轟かせ、ベレトリスが迫ってきた。

●二
 ベレトリスは一瞬誰を狙うか迷ったようだったが、すぐにステラのいる最前列へと狙いを定めた。近い相手から叩き潰せばいい、シンプルにそう考えたようだ。
『ゴオオオオオオオオン!!』
 黒光りする砲弾と化し、地響きを立てて迫るベレトリス。真向から立ち向かうステラ。
 人型ダモクレスと怪盗の一騎打ちを、クレーエの力で顕現した月夜の舞台が彩る。
「開演といこう。明けること無き夜、沈むこと無き月の舞台のね」
 舞台で歌う幻の歌姫が、ベレトリスの足を歌声で止めた。冷たい路上をスケートリンクのように滑走するユアが、エアシューズの流星蹴りを鋼鉄の脚へ見舞う。
「生憎だけど、ステラは連れて行かせないよ?」
 黒い尾を引いて降り注ぐユアのスターゲイザー。積み重なる足止めにも頓着せずステラへパンチを振り下ろすベレトリス。
 イッパイアッテナはヒールドローンを最前列へと放出し、戦いのリポートを開始した。
「さあ、実況と解説は私、イッパイアッテナ・ルドルフがお伝えします――ああっと!? ベレトリスのパンチが命中! 立ち上がれステラさん、頑張れステラさん!」
「大丈夫だ、耐えてみせるぜ! ノッテ、回復を頼む!」
 ステラは癒しの風を背中に浴びてエアシューズで加速。側面のビルを足場に、三角飛びでスターゲイザーを叩きつけた。
 金属のきしむ音が響き、ぐらりと姿勢を崩すベレトリス。そんな挙動のひとつひとつが、ステラの心をくすぐってやまない。
「くうう、格好良いぜ。拳も瞳の光も、フォルムも、攻撃を食らって倒れる姿も。何もかも最高なんだぜ!」
「見惚れてる場合じゃ無いですよステラさん! それは倒すべき敵!」
 ベレトリスの大きな足へ抱き着くステラ。ツッコミを入れつつ引きはがすルティエ。
 そこへユアがルーンアックスの柄で、ぺしりとステラの尻を叩く。
「ふ~ん。ずいぶん楽しそうだね……あっ手が滑っちゃったー」
「いてて!」
「いこうユエ! ステラを惑わす悪い子はぶっ壊して、バラバラにしてやるの!」
 二人の姿を微笑ましく見守りながら、イッパイアッテナは実況を続ける。
「ユアさんとステラさん、実に息が合っていますね。あっ、ベレトリスが動きました!」
 イッパイアッテナの夜目が、ベレトリスの青い両目が輝き始めたのを察知する。
 破壊光線の発射動作だ――危ない。
『ゴオオオオオオオン!!』
「あれは重力破壊光線! ライトの出力を上げ次の攻撃に繋げる効果的機能ですな!」
 ずしり、ずしりと立ち上がり、両目に破壊光線の力を収束していくベレトリス。
 今まさに光線を発射しようとした時、ルティエの放つ紫色の視線が敵の動きを止めた。
「ネェ、モットワタシト遊ビマショウ?」
 『紫月【黒百合】』。
 暗闇でも鮮やかに映るルティエの薄い笑みと共に、気づけばベレトリスは背後を取られていた。がら空きになった背めがけ、日本刀『紅華焔』で斬りかかるルティエ。しかし敵は派手な刀傷にも頓着せず、破壊光線がユアへと発射する。
「やれやれ、何ともしぶとい敵ですね――大丈夫ですかユアさん?」
 ガネーシャパズルの稲妻で敵を牽制するニコへ、ユアは笑いかける。
「ありがとう、平気」
 しかし光線の捕縛効果は、痛覚のないユアの動きを確実に奪いつつあった。万里はすぐに電撃杖の放つ雷壁で捕縛を吹き飛ばし、耐性の力を付与していく。
「安心して。ユアちゃんは傷つけさせないから」
「ベレトリス! 俺のガジェットくんと勝負だぜ!」
 流れるような動作で構えたガジェットの照準を、ベレトリスへと定めるステラ。その目には、今までとは違う決意の光が宿っていた。
「悪いなベレトリス。恨みはないけど、仲間を傷つける奴は倒す以外にないんだぜ!」
(「そうそうステラくん、誇り高き怪盗はそうでないとね」)
 万里は身にまとうバトルオーラに気力を注ぎ、更なる回復支援の準備にかかる。
 ここは彼とユアのため、全力で支援してやろうではないか。
「ステラさん、見惚れてると踏み潰されちゃいますよ!」
 ベレトリスが自己修復モードを発動し、鈍った回避力を僅かに回復した。ルティエは塞がり始めた脚部金属板の隙間を、すかさずジグザグの斬撃で切り開く。
 動きは十分に封じ込めた。これからは――逆襲の時間だ。

●三
「俺のガジェット! 素敵なダンスを踊ってくれ!」
 変形機構を備えた二機の超兵器が、一斉に砲弾を吐き出した。
 『Danza di stelle』。
 夜空を埋め尽くさんばかりのグラビティの弾幕が、踊る星屑と化して一斉にベレトリスへと降り注いでいく。
「あれは、打消しの力纏う質量攻撃!? ステラさん、危ない!」
 唸り声をあげ、巨体を震わせて迫るベレトリス。重機の如き突撃からイッパイアッテナがステラを庇う。
「さあ皆、反撃開始だよ。これがボクの歌、『激奏! ベレトリス!!』だ!」
 ユアは背中の翼を大きく広げると、オラトリオの歌声で戦場を染め上げていった。
 生を葬り死を護る、月と死を司る歌使の力で。
「『古の力を解き放ち、鋼の拳で敵を突き破ってゆけ!』」
 ユアの歌は戦場を包み、すべての音を、声を、彼女の溢れんばかりのイマジネーションが描き出す世界の一部に組み込んでいく。
 ステラが駆使するガジェットの砲撃。咆哮をあげてビルを叩き壊すベレトリス。
 ビルの崩壊音も、仲間の振るう剣戟音も、全てが『激奏! ベレトリス!!』の効果音となって、ユアの歌声を一層熱く彩っていく。
「『Go! Go! ベレトリス! 熱き力を滾らせて、戦場で暴れ尽くせ!』」
 ユアが熱唱する歌詞は、ブラックウィザードの詠唱でもある。ロックサウンドの旋律に乗って発動するグラビティが、地獄の炎となってベレトリスを包み込む光景を眺めながら、ニコはステラに視線を送った。
「うんうん、良い歌です。おやステラさん、もう少しヒールが必要ですか?」
「だ、大丈夫だ。ちょっと煙が目に染みただけだぜ!」
 ユアの情熱的な熱唱に、ステラは感激の涙を隠すようにガジェットを操り続けた。
 可憐な振り付けで踊りながら、ベレトリスの背後を襲うユエ。メラメラと炎上し溶け行く体にも構わず、ベレトリスは破壊光線を発射して暴れ回る。
『ゴオオオオオオオオオオオン!!』
「これはいいね。にゃんとものため、僕も最高の舞台を用意しようじゃないか」
 クレーエはグラビティの力を凝縮させ、『白夜に堕ちる月』を再発動した。
 ベレトリスを包むのは巨大ビルが林立する舞台だ。舞台装置のビルが破壊光線になで斬りにされ、派手な音を立てながら次々と崩れゆくなか、地を震わす振動が一層の重厚な調べとなってユアの旋律を彩る。
「ふむ。そろそろフィニッシュのタイミングのようですね」
 重力を込めた獣の手でベレトリスに拳を叩きこみながら、ニコはステラを振り返る。
「ステラさん。幕引きは任せます」
「ありがとう。派手に決めるぜ!」
 ステラのガジェットが合体、巨大な大砲へと変貌を遂げた。
 限界まで水を湛えたコップのように、砲口の縁から光の粒子が溢れ出す。
「あれは……! 古来より伝承されている全てを粉砕する幻の技『終焉超爆発』!!」
「な、なんですって万里さん? そんな恐ろしい技が!?」
「ああ。あのビームに貫かれた者は、二度と立ち上がる事はないと言い伝えが……」
 前衛への回復を継続しながら解説に加わる万里。
 イッパイアッテナも解説で合いの手を入れつつ、気力溜めで前衛をフォローする。
 ステラは充填完了のサインを確認し、フルチャージしたグラビティを一斉に放射した。
「おやすみ、ベレトリス……!」
『ゴオオオオオオオオオォォン!!』
 大口径のビームが、ベレトリスの防御を突き破る。
 断末魔の咆哮と共にコギトエルトスムが砕け散っていく。
「やった、やりました! 私達の勝利です! 実況と解説は私イッパイアッテナと――」
「暁・万里がお伝えしたよ。それでは皆、ごきげんよう」
 ベレトリスは全機能を停止させ、地響きを立てて崩れ落ちるのだった。

●四
「さてと。ヒールはこの位で十分かな」
 万里は建築物の修復を終え、一帯を見回して言った。
 重傷の仲間はおらず、ベレトリスが市街地へ乱入する事態も避けられた。まずは一件落着といったところだろう。
「ニコくんも手伝ってくれてありがとう。助かったよ」
「いえいえ。そういえばステラさんはどちらへ?」
「ああ、彼なら……」
 辺りを見回すニコに万里が指さしたのは、ベレトリスの残骸がある場所だった。
 どうやらステラは、破壊されたパーツから何やら回収を試みているようだ。
「よし……構造は大体把握したぜ」
 残骸から解析した情報に、ステラは満足の笑みを浮かべる。
 これを元にすれば超恰好いいガジェットが作れる、そんな確信があった。
「ステラ~、収穫はあったの?」
「ああ。ユアの歌、最高だったぜ。ありがとうな!」
「い~え。良かったね、お宝が見つかって」
 ――ステラのこと、すごく心配したんだからね?
 そう言おうとしたユアを、ステラは笑顔で振り返る。
 無邪気な少年のそれではない、ユアの良く知る笑顔で。
「確かにな、凄く大切なお宝だぜ。けどな――」
「けど?」
「よく考えれば、ガジェットよりも大切なものは此処にあって。……そうだろ?」
 アカギツネの怪盗は、ユアと仲間達を見回して言う。
 自分の危機に駆けつけてくれて、一緒に戦ってくれた、かけがえのない皆を。
「俺の歌姫様と仲間達。ずっと手の中にあった、最高の宝物さ!」
「ふふっ。……ふふふふふふ、もうステラったら、気づくの遅すぎるよ!」
 猫のように上機嫌になるユア。クレーエが冷やかすようにステラを小突く。
「それにしても怪盗さん。随分ロボットにお熱だったね」
「そう言うクレーエだって、結構お熱に見えたぜ」
「まあほら、僕だって男の子だし。多少はね?」
 3人の会話――主にルティエの言葉に、ぴんと聞き耳を立てるルティエ。
 そこえ万里とニコが、会話に加わる。
「ユアちゃんの歌も、本当に素敵だったね」
「ノッテくんも無事で良かったです。お疲れさまでした」
 こうして怪盗とロボ、そして歌姫と仲間達の物語は幕を下ろした。
 明日か明後日か、あるいはもっと先か――帰還を果たした彼らには、また新たなる戦いが待っている事だろう。
(「任務完了ですね」)
 イッパイアッテナが見上げる月が、舞台の跡を煌々と照らしていた。

作者:坂本ピエロギ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月26日
難度:普通
参加:7人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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