大菩薩再臨~つがいの鳥

作者:洗井落雲

●番うものハプスブルク
「伴侶ある者こそが幸福なのです。汝よ、結婚をするのです」
 路地裏の陰、信者たちの前で、そのビルシャナは教義を嘯く。
 そのビルシャナの名は『ハプスブルク』。結婚することこそ最上の喜びと説き、共感した人間を、己が意のままに操る事を目論むビルシャナである。
「ハプスブルク……ハプスブルクよ……」
 ふと、周囲に、無機質な声が響く。ハプスブルクが空を見上げれば、天より一羽のビルシャナが飛来してきたのだ。
「あなたは……!」
 ハプスブルクは思わず、ゆっくりと頭を垂れた。
 初対面の相手ではあったが、そのビルシャナが身の中に秘める力は、何やら神聖な、強力なものを感じ取らせたのだ。
「我は天聖光輪極楽焦土菩薩の命により現れたり。我が力を以て、汝にさらなる力を与えん」
 ビルシャナが翼をはばたかせると、何やら輝きがハプスブルクへと注ぎ込まれる。ほんの一瞬の事ではあったが、ハプスブルクは自身の身体に、さらなる力が沸き上がるのを理解していた。
「おお……この力は……!」
「ハプスブルクよ、我が使命を手伝うべし。次なる仲間へと、我が力を与えん。ともに参られよ」
「御意にございます……」
 身に溢れる力に歓喜を覚えながら、ハプスブルクはその翼をはばたかせた。

●鳥は集う
「集まってもらって感謝する。まずは、先日の作戦、本当にお疲れさまだ。皆の活躍により、竜十字島のゲートは破壊できた。その結果、ドラゴン勢力の制圧地域は解放されていたのだが……」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達へと告げる。
 アーサーの言によれば、解放を待つドラゴン勢力の制圧地域の一部が、突如として何者かによって破壊されてしまうという事件が起きたのだという。
「この事件の首謀者と目されているのが『天聖光輪極楽焦土菩薩』……ビルシャナの菩薩の一体だ。こいつはドラゴンの制圧地域を破壊してグラビティ・チェインを奪い取り、それを利用してビルシャナ大菩薩を再臨させようとしているらしい」
 天聖光輪極楽焦土菩薩は、奪い取ったグラビティ・チェインを使い、自らの御使いとでもいうべきビルシャナを生み出したらしい。御使いたちは、その力を使い新たにビルシャナを生み出したり、現存するビルシャナを強化することを目的としているようだ。
「こいつらの企みを放置しておくわけにはいかない。すぐにこいつらを見つけ出し、撃破しなければならないだろう」
 今回発見されたのは、天聖光輪極楽焦土菩薩の御使いであるビルシャナと、ハプスブルクと名乗るビルシャナの、計二体だ。
 どうやら、御使いの力を授ける新たなるビルシャナの下へと移動しているようで、その途上で待ち構え、迎撃してもらう事になる。
 迎撃ポイントは、とある山の山道になり、周囲に人気はなく、新たに一般人が現れることもないだろう。
 作戦の決行タイミングは、日中になる。戦いの障害となるものは存在しないため、二体のビルシャナを撃退することに注力してほしい。
「逆に言えば、戦闘に集中しなければならないほどに、相手は強敵だという事だ。くれぐれも注意してほしい」
 とはいえ、強力なビルシャナに対しての対抗策ともいえるものが、僅かながら、存在する。
「ハプスブルクに関してのみだが、その戦闘能力と、一般人を導くための力がさらに強化されている……が、急激な強化による反動だろうか、少しばかり精神面に揺らぎのようなものが発生しているようだ。例えば、自分の教義に疑問を抱かせたり、あるいは逆に教義をほめたたえられたりすると、戦闘に集中できなくなり隙ができるかもしれない」
 アーサーはそう言って、ひげを撫でた。
「かなりの強敵が相手だが……君たちが力を合わせれば、勝てない相手ではないと信じているよ。それでは、作戦の成功と、君たちの無事を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
木村・敬重(徴税人・e00944)
キサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)
エイン・メア(ライトメア・e01402)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
鷹野・慶(蝙蝠・e08354)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
八上・真介(夜光・e09128)
フレデリ・アルフォンス(非モテ王族オラトリオ・e69627)

■リプレイ

●山道の迎撃
 緑萌ゆる山道を、二体の鳥――ビルシャナが行く。
 一体は、天聖光輪極楽焦土菩薩より遣わされた、『御使い』とでもいうべきビルシャナ。
 もう一体は、その御使いにより力を与えられ、大幅に強化された『ハプスブルク』だ。
 御使いの使命――次なるビルシャナへとおのが力を与える――を果たすため、二体は移動していた、と言うわけだ。
 このまま放置していては、強化されたビルシャナが、もう一体、現れることになるだろう。
「む……む……ぅ」
 ハプスブルクが、うなり、その身をよろめかせた。
「――不調か」
 御使いが声をあげるのへ、ハプスブルクは頭を振って、無事を伝えて見せる。
「いえ……不調ではないのです。むしろ逆――高揚感が、身体を駆け巡っております」
「急激な強化の反動であろう。心を落ち着けよ。それは、敵に付け入るスキを与える」
「敵……?」
 ハプスブルクが不思議気にあたりを見渡す。ふと、木々の木立を抜けて、拘束で飛来する何かがあった。
 それは、巨大な竜砲弾である。ハプスブルクを狙うそれを、ハプスブルクはローブを使って自身を覆う形で防御。爆発がハプスブルクの足を止めた。
 それは、ハプスブルクにとっての敵――ケルベロス達による、攻撃だった。砲手、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は、弾着を確認すると、一気にビルシャナたちの前へと躍り出る。足を止めたハプスブルクには、おまけの一撃、とばかりに、絶奈のテレビウムの凶器攻撃が突き刺さった。殴り掛かる反動を利用し、空中でくるくると回転したテレビウムが、絶奈の足元へと着地。
「貴方たちの進軍。これ以上、見過ごすわけにはまいりません」
「ケルベロス――!」
 呟くハプスブルクへ、再びの竜砲弾が弾着。それは、鷹野・慶(蝙蝠・e08354)による一撃だった。さらなる砲撃、そして慶のウイングキャット『ユキ』による追撃のキャットリングが、ハプスブルクの手を、そして足を止める。
「――スズナ!」
「はいっ!」
 砲弾の爆風冷めやらぬ中、慶の叫びがそれを切り裂き、また、その声にこたえたスズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)と、ミミックの『サイ』が爆風を切り裂き、御使いへと接敵する。放たれる、『檳榔子黒』の一撃。肉食獣の霊気を宿したその一撃は、さながら肉食獣の牙のごとく、御使いの身体に食らいつく。そして同様の鋭いサイの牙も、御使いの身体へと噛みついて見せた。
「ぬぅ……待ち伏せか……!」
 御使いが、スズナとサイを振り払いつつ、かぁっ、と気合と共に閃光を放つ。身体を焼くそれを感じながら、スズナとサイは後方へと跳躍。
「半分力を分け与えている……とはいえ、やっぱり、強いですね……!」
 御使いの一撃に眉をひそめながら、スズナが呟く。ハプスブルクが攻撃に続こうとするのへ、しかし声をあげたのは絶奈であった。
「まぁ、お待ちください。……実のところ、貴方の教義は、私としても大変興味深い所でして」
 肩をすくめつつ、その微笑は崩さず。絶奈は言った。
「人は生きている事が個々孤独で、その為にたまらず恋愛をする生物。その集大成たる結婚は幸福の極みでしょう……素晴らしい教義です」
 その言葉に、テレビウムも頷いて見せる。
「まったくだ。結婚……社会的信用、誠実さの証明、安心! そしてなにより、愛だよな! 愛の証明、愛の在処。いや、俺もサキュバスだからわかるぜ。結婚……最高だよな?」
 慶の言葉に相槌を打つように、ユキがぱたぱたと翼をはためかせる。慶は笑顔であったが、その裏にどす黒い何かが隠されていることに、慶をよく知る者であれば、気づいたかもしれない。
「そうです! 恋愛して、信頼し合って、結婚する……それはとても良い事だと思います! すれ違いや喧嘩も乗り越えて、幸せになれたら素敵ですよねっ!」
 にこり、と微笑むスズナ。カチカチと、はやし立てるようにサイが口をパクパクとさせる。
 突然の称賛――それは、揺らぐハプスブルクの精神を、狂喜の方角へと動かした。
「そ……そうでしょう! 我が教義に賛同するとは、見どころのあるケルベロス達もいたものですね!」
 その狂喜が、手元を狂わせた。ケルベロス達を切り裂くはずの魔力の刃は、しかしあらぬ方向へと放たれ、ケルベロス達はそれらを容易に回避して見せる。
(「効いてるみたいだな……単純……いや、強化の『揺らぎ』が相当強いという事か……!」)
 内心で呟きつつ、フレデリ・アルフォンス(非モテ王族オラトリオ・e69627)は『風雷剣サンティアーグ』を振るい、凍結の弾丸を生成すると、ハプスブルクへと解き放った。フレデリの内心の呟きの通り、これはケルベロス達の作戦の一環である。突然の強化故、精神の揺らぎが発生したハプスブルクは、戦闘中、そしてケルベロス達による言葉にすら、過剰に反応してしまう、という事が分かっていた。
 まずは、褒めたたえ、様子を見る。狂喜に支配された心は、油断を生じさせ、ハプスブルクの手元を激しくぶれさせるという効果を見せたのだ。
「ん、伴侶……パートナーがいるっていいよな」
 『夕昏』の弦を引き、追尾の矢を放ちながら、八上・真介(夜光・e09128)は言う。パートナー。その言葉を紡ぐ際に、慶の方へと、優し気な視線を向けていたことに、気づいたものもいたかもしれない。
「一緒にいろんなことも出来るし、してあげられるし、喜んでもらえたら嬉しいし、なんだかんだ言ってもひとりは寂しい。だから、繋がるって事は、幸せなんだ」
「むぅ……! 如何、聞くでない――」
 ケルベロス達の目論見に気づいたのか、御使いが声をあげる。だが、そこへ、
「そうだぜ、良いよなぁ、結婚。なにせこれからずーっと一緒だってことを、お互いがそれぞれの意思で決めて認めあったってコトだ」
 地を破断させるほどの威力を持つ一撃を、キサナ・ドゥ(カースシンガー・e01283)が叩き込んで黙らせた。ついでに、持ち上げの言葉を、ハプスブルクへとかけることは忘れない。
「これ以上に尊い関係性ってのはちょっと考えられねぇ。つまり至高だ。認めるぜ、あんたの教義……うひひ、くすぐってぇ~なぁ」
 口の端に笑みを浮かべつつ、キサナ。結婚に近い状態であるキサナであったが、どうにも、結婚をほめたたえて持ち上げるというのも、照れくさいものだ。
「結婚、ね。まぁ、縁の結びつきは素晴らしいものだと思うぜ」
 うっそりと、木村・敬重(徴税人・e00944)が言う。静かだが、それ故に短い一言が、ハプスブルクの心をくすぐった。照れているが故に、言葉が短いのだ。そしてそうでありながらも教義を称賛する……そのように、錯覚させたのだ。そしてその狂喜は、その身を焼く竜の幻影の痛みすら気にならぬほどであった。
「結婚ですかーぁ……良いですねーぇ! そう言われると、わたしも年齢的にそろそろーぉ、ってノリ気になっちゃいますーぅ♪」
 んむんむーっ、と笑いながら、エイン・メア(ライトメア・e01402)は言葉を紡ぐ。ハプスブルクは、狂喜の絶頂の極みに在った。エインによる砲すら、ハプスブルクにとっては快感へと転化される思いだった。絶頂。頂点。ハプスブルクの胸がはちきれんばかりに高鳴り――。
「で、そーぉいう教義を掲げているなら、アフターケアーも万全なのですよねーぇ?」
 どこか意地悪気な色を載せたエインの言葉が、絶頂の高みに立つハプスブルクを、転落させるスイッチとなった。

●転げ落ちる
「地球の社会では衣食住にかけて色々と必要なのですよーぉ? ……もしかして、婚約の薦め『だけ』を教義にされている感じですーぅ?」
 おやおやおやーっ? と、肩をすくめて見せるエイン。
「そう言う事だ。あんたは結婚がゴールだと思ってるクチ?」
 続けたのは、敬重である。言いながら、その視線をエインへと向ける。エインは、その視線と笑顔で、『やっちゃえーぇ、けーちょーぉ♪』と伝えて見せる。ふ、と敬重は笑った。もはや遠慮はいらない。
「お互いを知らず準備が出来ていない結婚が、どういう結末を齎すかについては見た上で仰ってる?」
「な……な……ぁ?」
 呆然と、ハプスブルクが声をあげた。直前まで持ち上げられていてから、一気に叩き落されたのである。『揺らぎ』の影響もあるだろうが、呆然とすることも仕方あるまい。
「愛し愛される努力をし続ける過程の一つに過ぎないだろ、結婚は。はき違えるなよ」
「お前の名前に関係した、地球の歴史を教えてやるよ」
 フレデリが、続けた。
「政略結婚による不幸を生み出し続けた……政略結婚ってのは、そりゃぁ悲惨だ。女はもちろん、男だって人間扱いされない。親きょうだいによる権力争いなんてのも起こり得る。はっきり言って、地獄さ」
 訥々と語る、フレデリ……いや、もはや彼は『結婚は人生の墓場明王』を自称する存在であった。
「恋愛結婚なら大丈夫だって言いたいか? ハッ! 恋愛でもお見合いでも悲惨なケースは山ほど! 実際に結婚してみたら性格が合わないとかな! 結婚は人生の墓場……そう言った人生の先輩は正しいと、オレは思うねッ!」
 なにがしか、私怨でもあったのだろうか。妙に実感と怨念のこもった言葉が、ハプスブルクを地の底へと引きずり落とすべく手を伸ばす。
「本能ばかりに従っては獣と変わらないわけですが。そもそも結婚とは、誰かに言われてするものではないでしょう? 貴方の行為は、恋愛感情を弄ぶこと。気に入りませんね」
 微笑を浮かべながら、絶奈はファミリアを撃ち放つ。心の隙をつくように放たれた使い魔は、傷をずたずたに引き裂き、さらにその動きを鈍らせた。
 今度は、精神の揺らぎが防御面に影響したようだ。動きは鈍り、ガードもろくにできない様子だ。
「で、お前の伴侶は? 当然いるんだろうな?」
 あざ笑う様子を隠そうともせず、慶が続けた。
「ああ、言わなくてもいいぜ? どうせ居ないんだろうし、居たとして、お前のピンチに助けに来ないようなやつはロクでもないし――どっちにしろ、お前は愛されていないんだろうさ」
「ん、愛の有無、素晴らしさは、結婚することにのみ、表されるわけじゃあない」
 真介が続ける。
「家族になるって意味では一区切りかもしれないし、法律にも守られているかもしれないけれど……そうできない人たちだっている。どんな事情があっても結婚がすべて、なんてのは……間違っていると、思う。残念だ。文鳥、可愛かったのに」
 合わせて放たれる慶のインクが、真介の炎弾が、ハプスブルクを貫いた。
「何を……何を……! 私は、間違ってなど……!」
 うめくハプスブルク。ダメ押しとばかりに、スズナは叫んだ。
「結婚っていうのは、自然にそうなる『結果』だと思います。急かして結婚しろしろって言うのは、どうかなって思います!」
 その言葉と共に、戦場を優しく吹き抜ける、夏の風。稲の開花を促すとされるその風は、スズナの狐の妖力によりもたらされたものだ。それは、仲間たちの傷を癒し、活力へと変える、『開花を祈る追い風(ファーテリティーテイルウィンド)』――。
「んむんむーっ、おっしゃる通りですねーぇ、お嬢ーぅ♪」
 その風を纏って、エインは『白秤 1.1』を掲げた。現れる、純白の人造鳩。それは奇しくも、ハプスブルクの白き羽と似たものを感じさせた。人造鳩の、血の赤き双眸が、ハプスブルクを見つめる。
「一理あるよーぉに一瞬だけ思いましたがーぁ、第三者に言われて出す結論ではなく、自分とお相手で納得のうえ出す結論ですよねーぇ。んむんむーぅ、愛情が足りてない教義ですーぅ! そう言うのは、ノーサンキュー、ですーぅ!」
 放たれた人造鳩が、ハプスブルクへと疾風のごとく接近した。鋼鉄の翼が、すれ違いざまにハプスブルクを切り裂いた。方向転換、人造鳩は再びハプスブルクへと接敵すると、その翼で切り裂く。
 切り裂く。反転。切り裂く。反転。切り裂く! 切り裂く! 切り裂く! 数度にわたる斬撃が、ハプスブルクを切り刻み、その歪んた教義もろとも、斬り捨てる!
「ば……かな……!」
 喘ぐような悲鳴を残して、ハプスブルクが消滅する。
「ごきげんよーぅ♪」
 その手に人造鳩を止まらせ、エインは優雅に一礼をして見せた。
「……無念よ。強化のし過ぎか……」
 忌々し気に、御使いが声をあげた。放つ鐘の音がケルベロス達の心へと衝撃とダメージを与えるが、この程度の攻撃など、もはや無駄な抵抗でしかない。
「あとはお前だけだ、御使いッ!」
 フレデリが放つ、一族の魔力を載せた一撃――『エル トリステ』が、御使いの身体に突き刺さり、その傷口を広げた。
「ぬぅ……おのれ、番犬ども……!」
「ったく、こっぱずかしいことさせやがってよ! こちとら新婚様だぜ! 教義なら敬えってんだッ!」
 キサナが放つ回転の突撃が、御使いを吹き飛ばした。激しく木に叩きつけられた御使いが、ぐう、とうめき声をあげる。
「良いザマだなぁ、御使いサマよ! ところで、オレたちはまだ役所に書類は出してないんだが……大事なのは役所に届けを出すコトじゃなくて、『そうあろう』とする二人の気持ち、だろ? だから、今のオレは、オレたちは、混じりけのない純粋な婚姻関係にあるとも言える! いや言うべきだ、と思わねぇか? いや、言えよ、御使いサマよ!」
 笑うキサナへ、悔し気にうめく御使い。が、さらなる衝撃が、御使いの腹を貫いた。
「まったく……ある一面については正論のように思える。だからお前らビルシャナは、面倒だ」
 衝撃の主――『Tutelary』による拳を強く叩きつけた敬重が、言った。
「まぁ、こうなってしまっては、ぴーちくぱーちくと囀ることもできまい」
 拳を引き抜く。げは、と、御使いは強く息を吐いた。
「その搦手が厄介なのが、ビルシャナの強みでしたか。しかし、強化故にその性質に揺らぎが生じるというのは、面白いケースでした。これはお礼です」
 絶奈が笑う……微笑ではない。狂ったような、狂笑――蒼き生命の力を放つ際にのみ見せる、絶奈の本質。蒼の槍が、御使いを貫く。生命の奔流が、御使いの身体を駆け抜け、強かに打ち付ける。
 趨勢は、決した。大勢は、見えた。覗く敗北の匂い。絶望が、御使いの顔を彩る。
「いいね。そう言うのが見たかったのさ」
 その絶望の顔を、慶の竜砲弾がぶち抜いた。かつて顔があった場所が、何もない空間へと変わる。
「まぁ、一瞬見ればもう充分だわ。刹那で見飽きた。さっさと消え失せな」
 どさり、と御使いが、その身体を地に投げ出した。途端、爆発するように御使いの身体が光、消滅する。
 それは、ケルベロス達の勝利を、意味していた――。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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