大菩薩再臨~It’s My Life

作者:そうすけ


 ――何がロックだ。

 薄闇の中で紅・煌龍は独りごちた。いや、その名は国を出た時に捨てた。この国で新たな力を得て、竜派ドラゴニアンこそ至高明王となったのだ。
 全てはドラゴニアンとしての出自を否定した息子、紅・鋳朱を、父である己自身の拳で正すためである。
(「恥さらしの半端者めが。竜族の誇りを捨て、人間の成りをして生きるなど言語道断! 」)
 単純に否定するだけ、ただ否定を叫びたてるだけなら、たやすいことだ。自己自身の正当性を主張するため、息子と袂を分かったあの日から、自分なりに『ロック』とは何かを考えてきた。
 鋳朱よ、ロックな生き様とは、『ありのままの自分』を受け入れ、信念を持って生きる道ではないのか? ならば、人に迎合し、ドラゴニアンとしての姿を否定して生きるお前はロックではない。竜派ドラゴニアンとして生き、極め、悟った我こそがロックであろう。
「我が子であり、紅家の嗣子であるお前を、これ以上好き勝手にさせておくわけにはいかん。紅家の名に泥を塗った罪、死をもって償わせる」
 だが――。
 及ばない。いまの自分ではとても、鋳朱……赤羽・イーシュと名乗るケルベロスを粛清することなどできないだろう。
 力が欲しい。さらなる力が。
 部屋に差し込む薄い光を睨みつけていた竜派ドラゴニアンこそ至高明王は、目を閉じ腹に深く息を吸った。それを鼻からゆっくりと吐く。腹の底にたまった最後のひと息まで吐き出してから目を開けた。
「その願い、叶えてしんぜよう」
 ちりん、と小鐘の音が闇の中で響いた。
 眼前の漆黒が崩れ、蒼い輪郭が浮かび上がる。
 天聖光輪極楽焦土菩薩の使い――そう頭で感じた瞬間に、竜派ドラゴニアンこそ至高明王は、竜の力が新に全身に漲っていくのがわかった。
 また、ちりん、と小鐘の音が響く。
「ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に、より多くのグラビティ・チェインを捧げなくてはならない。他のものと協力して、グラビティ・チェインを集めるのだ」
「お望みとあらば。鋳朱とその仲間たちを屠り、人間どものグラビティ・チェインをビルシャナ大菩薩に捧げましょう」


「解放されたドラゴンの元制圧地域が、ビルシャナによって破壊されたんだ。すでに事件は大きく広がりだしている。今すぐ手を打たないと、ビルシャナ大菩薩が再臨するかもしれないんだ」
 力を貸して、とゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は、集まったケルベロスたちに叫ぶようにして言った。
 ケルベロスたちの活躍により竜十字島のゲートは壊滅。ドラゴンによって制圧されていた地域の解放が進んでいたのだが、その一部の地域が、ビルシャナ菩薩の一体、天聖光輪極楽焦土菩薩によって破壊されてしまった。
 どうやら天聖光輪極楽焦土菩薩はビルシャナ大菩薩を再臨させる為に、ドラゴン制圧地域を破壊して奪ったグラビティ・チェインを利用して、強力なビルシャナを集結させようとしているらしい。
「断固阻止、だ!」
 ドラゴン勢力のグラビティ・チェインによって強化されたビルシャナたちを、早急に見つけ出して、撃破しなければならない。
「みんなに倒してもらうビルシャナは2体。一体は天聖光輪極楽焦土菩薩の使いで、そんなに強くない。もう一体のビルシャナに力を与えて強くし、べつのビルシャナの元へ導くのが主な役目みたい」
 戦闘ではどちらかというと後ろから支援するタイプだ。ゼノが得た予知では、ビルシャナ経文 、浄罪の鐘、清めの光を使う。
「問題はもう一体、強化されたビルシャナの方だよ。ビルシャナにしては珍しく、肉弾戦が得意みたいなんだ。ビルシャナ化する前はドラゴニアンで、遠近、両方の攻撃を使い分けてくるよ」
 竜派ドラゴニアンこそ至高明王と名乗るビルシャナは、ビルシャナ閃光と孔雀炎の他に、テイルスイング、竜爪撃を使うという。
「別の個体と合流する前に、この二体と戦って倒して。いまから向かえば、二体が半壊したビルの中から出て来たところを襲うことができるから」
 そこでゼノは言葉を切ると、視線を足元へ泳がせた。
「竜派ドラゴニアンこそ至高明王の元の名前は、紅・煌龍。赤羽・イーシュ(ノーロックノーライフ・e04755)さんの……お父さんなんだ。イーシュさんとは考え方の相違があったみたいで……人派ドラゴニアンを否定し憎んでいる」
 明王は元々とても強いドラゴニアンだったようだが、ビルシャナ化して更に強くなっていた。そこへ新たにドラゴン勢力のグラビティ・チェインを与えられ、ますます強力になっている。
「いまはまだ、新たに得た力を使いこなせてないみたいだね。それでも強敵には違いないんだけど、人派の魅力をアピールして教義に疑問を抱かせることができれば、戦闘に集中できなくなり隙ができるかも」
 ビルシャナ大菩薩を再臨させるわけにはいかない。どんな因縁があろうとも、それを乗り越え、倒さなくてはならないのだ。
「皆の力を合わせて戦い、勝ってほしい」
 そう言うと、ゼノはヘリオンの扉を開いた。


参加者
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
赤羽・イーシュ(ノーロックノーライフ・e04755)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)
ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)

■リプレイ


 ヘリオンが飛び去ったあたりから西側の空は雲に覆われていたが、雲の下端を朱色に染めながら初夏の太陽が沈んでゆくのがわかった。ケルベロスたちは血のように赤く染まるアスファルトに並んで立ち、半壊したビルの入口を睨んだ。
「……殺っていいんデスね?」
 目を前に向けたまま、シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が確認するように問う。
 赤羽・イーシュ(ノーロックノーライフ・e04755)もまた、前を見据えたまま押し殺した声で答えた。
「ああ。手加減する必要はねぇ。そんなのは……ロックじゃねぇからな」
 シィカがわざわざ問い掛けてきたことの意味は解っている。父殺し……。いまから拳を交える相手が、デウスエクスになったとはいえ、実の父であることに違いはない。たとえ、遠い昔に自ら縁を断っていたとしても。
 丹田に力を籠め、もう一度呟く。
「相手はデウスエクスだ。ケルベロスとして全力でヤツを倒す!」
 日没を過ぎると風がざわざわと急に強くなった。蒸した空気が押されるようにして動く。ふと、顔をあげると、東の空に星がいくつか見えた。
「来たぜ」
 タクティ・ハーロット(重喰尽晶龍・e06699)は普段は隠している竜の翼をを広げ、わずかに冷たさを含む夜風にさらした。前に立ち、角だけではドラゴニアンと気付かれないことが昔あったためだ。
 自分は仲間たちの誰よりも前に出て、『竜派ドラゴニアンこそ至高』という男の気を引かねばならない。友の為に。
 脇で固めた拳に応えるように、死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)がつぶやく。
「愛と憎しみは表裏一体……。哀しい漢ですね……誰よりも息子さんへの愛深き故に」
 あたかも登場を促されたかのように、暗いビルの入口にひときわ黒い影が二つ現れた。まだこちらに気づいていないのか、影たちは躊躇うことなく残照が作る暗い赤色の中に進み出てきた。
「……まずはご挨拶を」
 刃蓙理は足を蹴り上げた。鋭く、高く。つま先が半弦の月を描き、絶対零度の美しき結晶を放つ。
 月の欠片は影二つの間を切り裂くように飛びぬけて行った。
「――!! 何者っ、名を――」
 天聖光輪極楽焦土菩薩の使いの誰何を、竜派ドラゴニアンこそ至高明王は腕を上げて遮った。
「くだらん事を聞くな。見ればわかる」
「そのとおり!」
 ロージー・フラッグ(ラディアントハート・e25051)はギダーの弦をかき鳴らした。
「ケルベロスのアイドル、ロージー・フラッグ! ヨロシクです!」
「ほう、アイドル……貴様はロックではないのか? そこにいる鋳朱と違って」
「俺を鋳朱と呼ぶんじゃねぇ!」
「ちょっと、割り込まないでください。いま話しているのは私なんですから」
 牙を剥きだしにして唸るイーシュを押しのけ、前に出る。
「アイドルというあり方はロックと真逆と言われますけれど。私は私が一番輝ける道を選び、それがアイドルと呼ばれるものだっただけ。私は私のあるがまま、望むままに歌うのみ。それが私のロックです!」
 明王は鼻を鳴らし、彼女の主張を無視した。
「親から貰ったな名を捨てるとは――」
「捨てたわけじゃねぇ。お前と一緒にするな!」
 むっとしたして腕を組んだロージーが、そーだ、そーだ、と加勢する。
 スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)は、放っておくと前へ前へと出て行きかねないオラトリオの肘を引っ張った。
 箱竜のマシュがパートナーの意を汲み、ふたりを守るように前に出る。
「イーシュさんのお父さん……イーシュさんがどう感じているかわからないけど……でも、できる限り助けになれるように、だよ?」
 そう、自分たちは後方から仲間を癒して支えなければならない。イーシュが心置きなく戦えるように。
「そうでした。下がります」
 スノーエルはマシュにも声をかけた。
「マシュくんも。下がろ?」
「アギャ」
 空いた穴をタクティが埋める。
「ええい、いつまでくだらんお喋りを続ける気か? 早くこやつらを倒して菩薩に捧げるのだ!」
「キーキーうるせえ鳥だな」
 マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)は使いを指さし、せせら笑った。
「ドラグナー系のビルシャナか。相手にとって不足はない。かかってきな」
 手のひらを上向けて、伸ばした指をクイクイッと曲げて挑発する。
 相棒の飛猫ネコキャットも、目を細め、にゃ~んと粘っこく鳴いた。
 さらに氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)が追い打ちをかける。
「まぁ、戦いの基本的には弱そうなところから狙うのは理にかなっているのよね」
 冷ややかな眼差しを向け、弱そうなところ、でとくに大きな声を出して強調した。
 かぐらは口元に含みを持たせた笑みを湛えると、砲撃形態にしたドラゴニックハンマーを持ち上げた。狙いをまっすぐ使いに向ける。
「お、おのれ……言わせておけば! キサマらなど我一人で十分!!」
 よせ、と腕を握った明王の手を振りほどき、挑発に乗った天聖光輪極楽焦土菩薩の使いが突進してきた。
「親子喧嘩のお手伝い……じゃなかった。大変なことにならないようにここで止めさせてもらうわね」
 氷竜の咆哮が轟く。


 かぐらから攻撃を受けても使いは走り続け、尾の先の鐘をやかましく振り鳴らした。
「ザコに私たちの主張――歌を聞かせてやることはないデス! さっさと倒すデス!」
 シィカはバイオレンスギターを腰の後ろへ回すと、取り出したドラゴニックハンマーを砲撃形態にして、腕を伸ばした。
 引き金を引く瞬間、使いの斜め後ろに竜派ドラゴニアンこそ至高明王の姿が視界に入った。
「使いはオレがやる。明王を牽制してくれ」
 タクティが一歩前に踏み出す。目前にまで迫った使いの頭を目がけ、凄まじいパワーとスピードでハンマーを振り降ろした。
 使いはタクティの攻撃を避けようとしたが遅かった。左の肩に重い一撃を食らって体を沈める。
 シィカは狙い明王につけてトリガーを引いた。
 デウスエクスを穿つ重力の弾が轟きながら飛ぶ。
 被弾の直前、明王は羽根の生えた腕を上げて頭をかばった。
「ふん。意外とやるではないか。だが、甘い!」
 まだまだ余裕を感じさせる声で憎まれ口を叩くと、明王は地に赤い羽根を散らせた翼を鋭く振りぬいた。
 死角をついて攻撃しようと横から走り込んできたイーシュを孔雀炎が襲う。
「――!!?」
「おいおい、焦るなよ。『トリ』のお前はもっと後でステージに上がってくれ」
 イーシュの目の前にマサムネが立っていた。灼熱の嘴がイーシュの胸に触れようかというとき、盾となって守ってくれたのだ。
「すまねえ、助かったぜ。大丈夫か?」
「問題なし! ネコキャットがモリモリ耐性つけてくれたからな」
 マサムネは強がって見せたが、直後に孔雀炎を受けた腕を押さえて顔をしかめた。
「へっ……この程度は傷の内に入らない。ますます燃えてくるぜ」
「みなさん一旦下がって……回復させます」
 刃蓙理は割れたアスファルトに手をつくと、ここで命を落とした者たちの記憶を吸い上げた。志半ばで倒れた者たちの怨念を魔力に変え、仲間に活力を注ぎ込む。
「ナイスフォローだ、刃蓙理。よし、一気にたたむぞ!」
「ほざけ! このままお前たちの好きにさせると思うな」
 膝立ちになったまま、肩を潰された使いが印を結ぶ。
「おん あぎゃべ びべしゃろう まがぼだら まにまに ばらばらたりや うん!」
 低く読経する声が睡魔の波となって広がった。
「私がみんなを起こします!」
 ロージーは飛ばしたヒールドローンにベルの音を流させ、眠りこんだ仲間を叩き起こした。
 ドローンはそのまま警護に当たらせておく。
 スノーエルが纏うオウガメタルの装甲が光輝き、光の粒が空中に拡散する。同時にマシュが、呪いのかかった息を吹きかけて、使いの動きを封じた。
「ここはしっかり狙って……使いに的を絞り、確実に倒していきましょう」
「スノーエルさん、ありがとう」
 前に出ながら、かぐらはハンマーの砲撃形態を解いた。手にした得物に雷をまとわせ、格好の的となった使いの頭を突く。
「親子の対話にあなたは邪魔。消えて!」
 使いは頭を仰け反らせ、アスファルトへ倒れ込んだ。がぼっ、と口から血のようなものを吹きだし、肢体を震わせる。
「よくも!」
 太い尾を振ってかぐらを打とうとした明王をマサムネがブロックした。
 イーシュが欺瞞を暴露する曲を奏でて毒を撒き、下がらせる。
 シィカは使いが胸で印を結んでいるのを見た。
「使いが何か企んでいるようデス! 早くトドメを!」
 言った傍から使いの体が柔らかな光りを放つ。
 光は帯となって空を飛んだ。明王を取り巻き、目に見える傷を埋めていく。
「往生際が悪いぜ」
 タクティは使いの体に拳を突き落とし、再び印を結ぼうとしている指ごと胸を食らった。


 明王は顔に邪悪なものを張りつかせ、口元に人を見下したような笑みを浮かべた。
 仲間が討たれ、たった一人で四方からケルベロスに殺気を向けられているというのに、自然体でいる。大したものだとイーシュは思う。その性根の是非はともかくとして。
「さて……まずは目障りな人派から死んでもらおうか。貴様らの姿を見ていると虫唾が走る」
 その言葉に反発してシィカは中指を立てると、ギターを激しくかき鳴らした。
「レッツ、ロックンロール! ボクのロックを見せつけてやるのデス!」
「面白い! 聞かせてもらおう!」
 スーパーダッシュを決めて、アスファルトに炎の筋をつける。繰り出された爪をスクワットでかわして急停止。体を跳びあがらせながら、燃える足を振り上げた。
「人派のくせに、なかなか鋭い蹴りを放つ。だが、竜派を極めたわしには届かん!」
 追撃をかわしながら、シィカが叫ぶ。
「確かに、自分の在り方をひたすら貫くのは実にロック! デスがそれはそれ! 誰かの在り方を否定したり、見下す理由にはならないのデス!」
「黙れ、竜派こそが至高! 人派に価値なし!」
 明王は下がる相手に対して後ろ足から三戦立ちで移動前進し、中段へ正拳突きを繰り出してきた。
 タクティは前に出ると、マインドリングからとりだした光の剣で明王の爪を受けとめた。
「竜派こそが至高ねぇ……人派も捨てたもんではないと思うのだぜ?」
「ああん?」
 爪を押し返し、勢いのまま光剣で切りつける。
「俺はこの人の姿になれるのは地球が我々の想いに答えてくれた結果だと思うのだぜ。弱者を搾取するのを見ていられなかった我々に対する祝福として!」
「ぬかせ、若造。わかったような口を利くな」
「ああ、そんなんだから……あんたはドラゴニアンとしての形を捨ててビルシャナ何かに落ちる羽目になってんじゃないかな!」
 刃蓙理は二人の間に滑り込んだ。
「私は……えっと……さすらいのロック闘法研究家「マグマ死道」。今日は、あなたにロック闘法をご紹介しに来ました」
 斜めに走る傷口に、凍つく重い一撃を叩き込む。
「野暮な事を言うようですが……。今のあなたの姿は、竜派でも人派でもない「鳥派」になってませんか……?」
 明王が放った閃光から手で目を庇いつつ、刃蓙理はマサムネの後ろへ逃げ込んだ。
「息子さんは少なくともドラゴニアンのままではあるようですよ……」
「やつの姿のどこがドラゴニアンだというのだ!」
 ロージーはアップテンポのポップサウンドをギターで奏でた。明るく元気な声ですべてのものを受け入れる地球の愛を歌い上げ、仲間たちの体に勇気と戦う力を与えた。
「カタチに囚われるコトに意味はなく、それこそロックから最も遠いもの。竜派というカタチに固執するあなたのように!」
「黙れ!」
 孔雀の形をした業火炎がロージーを襲う。
 すぐさまスノーエルとマシュ、ネコキャットが揃って回復させる。
「ありのままとするならば人派も竜派もどちらも受け入れてこそ、至高というものだよ。ありのままというなら今のイーシュさんの姿を見てから言うんだよ、イーシュさんのお父さん!」
「スノーエルのいう通り! 竜派ドラゴニアンばかりが偉いわけではないんだ! 竜派が人派を見下していい理由にはならないよ」、とマサムネ。
 明王はイーシュを見た。
 ケルベロスたちの動きはどれも、イーシュに攻撃を繋げようとしているものだ。武に打ち込み、数多の部下を抱えて暗黒街で生き抜いてきた。だから解る。息子が人種の垣根を超えて、仲間たちと強く絆を結んでいることが。
(「もしかしたら、わしのほうが……」)
「まずはオレ達の奏でる音楽に酔いしれてみようぜ」
 明王の物思いをマサムネの低く地を這うようなダークボイスが破った。呪いのかかった歌に足を取られてすくむ。
「否!」
 明王は気を吐いた。すくんだ足に活を入れる。
「竜派を極めてからこそ、いまのわしがある。この力を授かったのだ!」
「でも、今のあなたの力って、そもそもはゲートが無くなって弱ったドラゴンの勢力から奪ったものなんでしょ?」
 かぐらは冷ややかな声で明王の主張を否定し、前に出ようとした明王に轟竜砲を浴びせた。
「あとは親子の間で決着をつけてちょうだい」
 ケルベロスたちは左右に別れ、イーシュを前に進ませた。
 息子と対面した明王は、顔に苦々しいものを浮かべた。
「……親父。俺が人派で居るのは、この国にもロックに戦ってるやつが沢山居るって気づいたからだ。種族とか何派とかの垣根も越えて、かつては敵対してたやつですら、今や地球の一員になって戦う姿が、最高にロックだって思ったからだ」
「なにが――」
「黙って聞け!」
 圧を含んだイーシュの叫びに打たれ、明王は口を噤んだ。
「ドラゴニアンの、それも竜派だけが至高の存在だなんて思いあがってるアンタに、その輝きが分かるのか?
 俺は確かに紅鋳朱として生まれた。だけど今は赤羽イーシュだ。竜派の親を持ってようが、違う生き方なんて幾らでも選べる。それを今から証明してやるよ、紅煌龍!」
 明王が全身から怒りを放つ。
「ならば証明して見せよ!」
 明王はイーシュの心臓目がけ、禍々しく尖った爪を繰り出した。
『境界なんて関係ねぇ! 雲の上から地の底だって、俺のロックを響かせてやる!』
 人が人であり続けるために最も大切なもの、他人と共有できる想い、命が何によって輝くか――気付けば思いの丈を声に託し、全身全霊で叫んでいた。

 イーシュの肩に父の――紅煌龍の声が触れる。
「……強くなったな、鋳朱。いや……イーシュよ。わしが間違っていた」
 紅煌龍はイーシュに預けていた体を起こすと、ふっと笑った。まだ残っている左腕で、 息子の肩を叩く。
「なぜ泣く? お前は悪しきデウスエクスを倒したのだ。胸を張って仲間の元へ戻るがよい」
「ま、まだ間に合う。一緒に来て――」
 さらり。
 残る体の形が崩れていく。
「親父ーーっ!」
 竜派ドラゴニアンこそ至高明王、いや、紅煌龍は清くこの世から消え去った。

作者:そうすけ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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