大菩薩再臨~広まれ、広まれ、病気よ!

作者:ゆうきつかさ

●広まる病魔
「広まれ、広まれ、病気よ、広まれ……。そして、生まれろ病人よ……」
 大病院の屋上に陣取ったパヨカカムイが、思わせぶりな態度で高々と両手を掲げ、何やら呪文を唱え始めた。
 それと同時にパヨカカムイの体から未知のウイルスが放出され、まわりにいた人間達の身体を蝕んでいった。
 そのウイルスは初期段階であれば、一般的な薬で治るものの、数時間後には再発し、今度は薬に対する耐性が出来てしまうようである。
 そうなると吐き気、眩暈、身体の震えなどの症状に見舞われた挙句、次第に身体が蝕まれ、命を落としてしまうようだ。
 しかも、タチが悪い事に、パヨカカムイの体から漂うウイルスの症状は様々。
 風邪に似ていたり、腹痛に似ていたり、まったく異なる病気と同じ症状だったりするようだ。
 その上、パヨカカムイが拠点にしているのは、大病院。
 それ故に、このまま放っておけば、被害が拡大する事は間違いなかった。

●セリカからの依頼
「皆様の活躍で竜十字島のゲートを破壊に成功し、ドラゴン勢力の制圧地域の解放が進んでいたのですが、ビルシャナの菩薩の一体、天聖光輪極楽焦土菩薩によって、その一部が破壊されてしまう事件が起きています」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 天聖光輪極楽焦土菩薩は、ドラゴンの制圧地域を破壊して奪ったグラビティ・チェインを利用して、ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に、強力なビルシャナを集結させようとしているらしい。
「今回の目的は、ドラゴン勢力のグラビティ・チェインによって生み出されたビルシャナと、その力でビルシャナ化したか、或いは、その力で強化されたビルシャナ達を、見つけ出して撃破する事です」
 そう言ってセリカがケルベロスに対して、今回の資料を配っていく。
「ビルシャナ達はグラビティ・チェインを得るため、事件を起こそうとしています。そうなったら最後。取り返しのつかない事態になってしまう事は間違いありません。倒すべきビルシャナは2体。パヨカカムイのビルシャナと、ドラグナー系のビルシャナです」
 どうやら、セリカはパヨカカムイを危険視しているらしく、優先して倒してほしいという事だった。
 ただし、パヨカカムイと戦うという事は、その肉体が病魔に蝕まれ、戦闘に支障が出てしまうという事を意味していた。
 だからと言って、身体を治療しようとすれば、ウイルスが耐性を持ってしまい、症状を悪化させてしまうので注意が必要との事だった。
 またドラグナー系のビルシャナは、かなり好戦的な性格をしているため、必ず邪魔をしてくるだろうという事である。
「かなり強敵な相手ではありますが、皆様で力を合わせて、必ず勝利してください」
 そう言ってセリカが深々と頭を下げるのだった。


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)
シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)
七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)
黒岩・白(巫警さん・e28474)

■リプレイ

●都内某病院
「パヨカカムイ……病を広めるビルシャナ、ですか。これは後々、奴が広めた病の根絶計画が必要になるかも、ですね。その前に、まずは病源を排除しなくては……」
 シフカ・ヴェルランド(血濡れの白鳥・e11532)は色々な意味で危機感を覚えながら、パヨカカムイが拠点にしている病院に足を踏み入れた。
 病院内はパヨカカムイが広めた病原菌に感染し、身体を蝕まれた人々が倒れており、患者だけでなく、看護師や医師にまで広まっていた。
 パヨカカムイについては、かつて北海道で病を広めていた、という事だけは知っているものの、それ以外の事は分かっていないものの、シフカも何らかの病原菌に冒されたのか、身体が燃えるように熱くなっていた。
「ドラゴン残党を利用したビルシャナの一斉活動か。……いずれにしろ放っておくわけにはいかねえな。何とか食い止められる範囲は食い止めていくぞ。何しろビルシャナの増殖具合は鼠算式だからよ」
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が足元に倒れた人々を避けて歩きながら、仲間達と共に階段を上っていく。
 どうやら、上に行くほど病状が悪化しているらしく、薬品のニオイを飲み込む勢いで、辺りに腐臭が漂っていた。
 おそらく、生存者はほとんどいない。
 そう実感してしまう程、酷い状況であった。
「おやおや、私の病原菌に感染して、まだ動ける人間がいたとは……これは驚きですねぇ。まあ、その程度の症状なら、まだ大丈夫。良かったですねぇ。少しでも長く生きる希望が出来て……」
 そんな中、ケルベロス達の前に現れたのは、パヨカカムイであった。
 パヨカカムイはドラグナー系のビルシャナを従え、不気味な笑みを浮かべていた。
「不死のデウスエクスたるおぬしが病を語ったところで対岸の火事を眺める野次馬ほどにも説得力なぞありはせぬ。いざや疾病払いの厄除けじゃ」
 端境・括(鎮守の二挺拳銃・e07288)が激しい睡魔に襲われ、フラつくようにして壁に手を置いた。
 今にも瞼が落ちかけているほど睡魔が襲い掛かっているものの、自分自身と仲間達に水垢離を使っているおかげで、まだ耐える事が出来る。
 だが、パヨカカムイがバラ撒いた病原菌が内部で変化をしているのか、ほとんど気休め程度にしかならなかった。
「人を苦しめる事をよしとするなんて……許すわけにはいかないっス! 行くっスよ、マーブル、チェイニー!」
 すぐさま、黒岩・白(巫警さん・e28474)が元愛犬のオルトロス『マーブル』と、タスマニアデビルの精霊・チェイニーに声を掛け、攻撃を仕掛けるタイミングを窺った。
 チェイニーは自身が病死している事もあり、いつも以上にヤル気になっているためか、マーブルが少し心配しているようだ。
「おっと、俺の存在を忘れてもらっちゃ困るなッ!」
 次の瞬間、ドラグナー系のビルシャナが現れ、尻尾に括りつけた鐘を鳴らす。
 その影響でケルベロス達は病状が悪化したような錯覚に陥り、まるで景色が回っているような状態になっていた。
「わしが知る限り、その姿は清空なるビルシャナと名乗っていたはずじゃが……」
 それでも、括は必死に理性を保ちながら、ドラグナー系のビルシャナに冷たい視線を送っていた。
「他人の空似だろ。俺達が人間の顔を見分ける事が出来ないのと同じ。ただ……、それだけだ」
 ドラグナー系のビルシャナが、さらに鐘の音を響かせた。
 そのため、ケルベロス達は立っている事が出来ない程、精神的にダメージを受けた。
「おやおや、まさかこれで終わりじゃありませんよね? 本当の苦しみは、これから……ですよ?」
 パヨカカムイがケルベロス達の顔色を窺いながら、何やら察した様子でニンマリと笑う。
「それじゃ、この痒みは……!」
 その途端、泰地が両足に違和感を覚え、青ざめた表情を浮かべた。
 ……間違いない。
 これは……水虫だ!
 しかも、痒い。地味に痒い。
 足の裏は、もちろん。足の甲まで痒いッ!
(「考えたら駄目だ。考えたら……」)
 泰地が両足の痒みを我慢するようにして、グッと唇を噛み締めた。
 だが、そんな気持ちに反して、水虫は泰地の両足を蝕み、足の指と指の間まで痒くなってきた。
「……むぃ。まさか、この悪寒……奴の封印が!? なんだよ!」
 七宝・瑪璃瑠(ラビットバースライオンライヴ・e15685)もハッとした表情を浮かべ、険しい表情を浮かべた。
 今なら、普通にコーヒーが飲めそうなほどの勢いで、違和感が膨らんでいった。
(「……ここで屈する訳には行かんのじゃ」)
 括も激しい睡魔に襲われながら、それを表に出さないようにグッと堪えた。
「おやおや、何やら顔色が悪いですねぇ! いいんですよ、無理をしなくても……!」
 そんな空気を察したパヨカカムイが、煽るようにしてケルベロス達に囁いた。
「あなたには、病気で苦しむ人の気持ちなんて分かってないんでしょうね。だから私たちがその苦しみ味わわせてあげる」
 バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)が、パヨカカムイをジロリと睨む。
「これは、これは……また面白い寝言を。そんな身体で何が出来ると言うのですか? こうしている間も、アナタ達の身体を蝕み、死に向かって真っ逆さまに転がっていると言うのに……」
 パヨカカムイが高笑いを響かせながら、屋上を目指して階段を駆け上がっていく。
 再び屋上に立って、病原菌をバラ撒くため……。
 さらに患者を増やすため……。
「デウスエクスとの戦いが始まる前から、地球の人々は病気と戦い続けてきたんだよ。その努力、無駄にはさせないんだよ!」
 瑪璃瑠も悪化していく中二病で、右腕やら左目やらに激しい痛みを感じつつ、パヨカカムイの後を追おうとした。
「おっと! ここから先には行かせねぇぜ!」
 その行く手を阻むようにして、ドラグナー系ビルシャナが陣取った。
 ケルベロス達の目的が、パヨカカムイを倒す事だと分かっているため、少しでも時間稼ぎをしようとしているようだ。
「戦闘準備完了……では行きましょうか」
 次の瞬間、シフカが鎖を両腕に巻きつけ、ドラグナー系のビルシャナに攻撃する素振りを見せた後、仲間達を連れて素通りしていくのであった。

●某病院の屋上
「テメエら! 俺を無視するんじゃねぇ!」
 ドラグナー系のビルシャナが、殺気立った様子で叫ぶ。
 何とかケルベロス達には追いついたものの、これでは面目丸つぶれ。
 屈辱と怒りで、鐘を鳴らす事さえ忘れていた。
「……邪魔をしないでもらえるかのう」
 それに気づいた括が瑪璃瑠と連携を取りつつ、ドラグナー系のビルシャナを牽制ッ!
 瑪璃瑠とは師団で顔を合わせているものの、一緒に仕事をするのは、戦争以来……。
 それでも、まるで示し合わせたかのように、息はピッタリであった。
「これ以上、ボクの邪魔をするなら、容赦はしないんだよッ!」
 瑪璃瑠も急激に悪化した中二病の症状と戦いつつ、ドラグナー系のビルシャナにプラズムキャノンを撃ち込んだ。
 その一撃でドラグナー系のビルシャナの尻尾に括りつけてあった鐘が砕け、ケルベロス達の身体が心なしか軽くなった。
(「ま、まあ、この程度の痒みなら、戦っていれば、多少は……紛れるはずだ!」)
 一方、泰地は両足の痒みでイライラしつつ、パヨカカムイに旋風斬鉄脚を食らわせた。
 だが、痒い。
 痒いモノは、痒い。
 それこそ、戦いを中断して、両足を掻き毟りたいほどの痒さ。
 その怒りをパヨカカムイにぶつけるようにして、一撃、二撃と加えていく。
「やれやれ、困った人達ですねぇ。私に近づけば近づくほど、病状が悪化すると言うのに……」
 そんなケルベロス達を嘲笑うようにして、パヨカカムイが不気味に笑う。
 パヨカカムイは旋風斬鉄脚を喰らっているにも関わらず、余裕であった。
 むしろ、水虫に苦しむ泰地の病状を悪化させるべく、何やら呪文を唱えていた。
 その影響で泰地の両足が、更に痒くなっていき、今にもイライラが爆発しそうになった。
「あ、熱い……ッ!」
 そんな中、シフカが荒々しく息を吐きながら、服を脱ぎたい衝動に襲われた。
 だからと言って、この状況で脱ぐのは、自殺行為。
 それが分かっているため、ギリギリのところで踏み止まっているものの、今にも脱ぎ出しそうな勢いで、理性の留め金が外れかけていた。
「あまり時間が無さそうッスね!」
 それに危機感を覚えた白が、パヨカカムイに稲妻突きを仕掛けた。
 だが、白の肉体も病魔が蝕み始めていたため、思うように力が入らなかった。
「……問題ないわ。だって、私の血は……猛毒だから!」
 その間にバジルが死角に回り込み、自ら吐き出した血を、パヨカカムイに掛けた。
「グギィッ! ギギギィ! 一体、何をするんですかァ!」
 これにはパヨカカムイも驚き、血まみれになった顔を拭う。
「心配ないわ。だって、嘘だから……。でも、ウイルスに苦しみながら戦うのも悪くないわね。まあ、それを無理矢理押し付けるあなたの教義を認める気は微塵もないのだけれど……」
 バジルが軽く皮肉を言いながら、パヨカカムイと間合いを取った。
 パヨカカムイの近くにいるだけで、身体を絞られるような錯覚に陥るため、危うく意識を失いそうになった。
「病の恐怖も死の恐怖も乗り越えた君の力を見せてやるっスよ! チェイニー・悪魔進化!」
 白がチェイニーを手錠に憑依させ、その頭部を模した大きなトラバサミを具現化させた。
「そんなモノで俺達がビビると思ったのかァ!」
 すぐさま、ドラグナー系のビルシャナが全身の筋肉を隆起させ、破壊の光を放とうとした。
 だが、それよりも速く白が間合いをつめ、大きなトラバサミでドラグナー系のビルシャナの頭を砕いて、息の根を止めた。
「ば、馬鹿なっ! この状況で何故動けるッ!」
 パヨカカムイが信じられない様子で悲鳴をあげた。
 ケルベロス達の病状は悪化の一途を辿っていたが、それ以上にパヨカカムイを倒そうと言う気持ちが勝っていた。
「蘆原に禍事為すは荒御霊。荒ぶり来たらんものを通す道はないのじゃ。おぬしの悪行もここまでじゃよ」
 次の瞬間、括が【岐塞括・禍事封じの斎つ磐群(フナドノサエククリ・マガゴトフウジノユツイワムラ)】を発動させ、瞬間的に御業を宿らせた眼力でパヨカカムイの体内を巡る気の流れを見極め、此を道に見立てて塞き止めるように要石となる銃弾を撃ち込んだ。
「あなたも味わってみる? 毒を食らわば皿まで、毒を盛って毒で制す、よ」
 それに合わせて、バジルが少しヤバげな表情を浮かべ、地面に黒影弾を撃ち込み、毒を帯びた影を作り出し、パヨカカムイの身体を侵食した。

「随分と小賢しい真似をしますね。……ですが、アナタ方は既に感染済みッ! いまさら、こんな事をしたところで、手遅れですッ!」
 パヨカカムイが勝ち誇った様子で、ケルベロス達を見下した。
 状況的には最悪ではあるものの、ケルベロス達の身体が未知の病原菌に冒され、死に至るのは時間の問題……。
 それまでは、何としても、生き続ける必要があった。
「旋風……斬鉄脚ッ!」
 しかし、泰地がその時間すら与えぬ勢いで、全身全霊の力を籠め、旋風のような身のこなしで、パヨカカムイの死角から、高速かつ強靭な回し蹴りを炸裂させた。
「……ぐおっ!」
 その途端、パヨカカムイは脳が揺さぶられるような衝撃を受け、激しく両目を泳がせながら、その場に崩れ落ちた。
「も、もう抑えきれないんだよ!」
 それと同時に瑪璃瑠がメリーとリルのふたりに分かれ、抜群の連携でパヨカカムイを追い詰めていく。
「ユメは泡沫!」
 メリーの言葉に……。
「ウツツも刹那!」
 リルが答え……。
「「夢現十字撃・改め真名……ムゲン・クロノス!!」」
 ふたりの力がひとつとなって、十字斬撃砲火が放たれた。
「これぞ、我が師にして母より受け継ぎし奥義……螺旋忍法! 『鎖縛獄門開』!」
 その間に、シフカが鎖で陣を形成し、『地獄門』と呼称される異空間への穴を発生させ、そこから無数の鎖を出して、パヨカカムイの動きを封じ込めた。
「な、なんだ、これは!」
 その途端、パヨカカムイが身の危険を感じて、暴れ始めたものの、既に手遅れ。
 無数の鎖はパヨカカムイを穴の中に引きずり込み、陣の形が崩れたのと同時に異空間に通じる穴が塞がった。
「パヨカカムイ、根絶完了なんだよ!」
 そう言って瑪璃瑠が、ホッとした様子で座り込む。
 パヨカカムイが倒された事によって、体内を蝕んでいた病魔も消えたのか、何とも言えない清々しい気持ちに包まれた。
 泰地も水虫の痒みから解放され、とても晴れやかな表情を浮かべていた。
 そして、ケルベロス達は病院で亡くなって人達を埋葬するため、ゆっくりと階段を下りていくのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月19日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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