大菩薩再臨~笑いとアドリブの相乗効果

作者:雪見進


 背中に禍々しい触手を生やしたフラミンゴを彷彿とさせるビルシャナが静かだが、気味の悪い『言葉』か『異音』か判断出来ない音を口から吐き出しながら、別のビルシャナへと光を注ぎ込む。
「キシャァァ!」
 光を受けたビルシャナは恍惚とした笑みを浮かべながら、徐々にに身体が屈強になったり、羽が伸びたりと、見た目に変化が起こる。
「……」
 そのビルシャナの変化を静かに見つめる、もう一体のビルシャナ。こちらはすでに『強化したビルシャナ』のようで、屈強な身体から溢れるグラビティチェインが、それを感じさせる。
 背中に禍々しい触手を生やしたビルシャナが、光を注ぎ込み終わると、静かに語り始める……。
「ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に、より多くのグラビティ・チェインを捧げなくてはならない……」
 そこ言葉が虚空に消えると共に、そのビルシャナは消滅した。どうやら、この禍々しい触手のビルシャナは、一般人の『ビルシャナ化』か、それとも『ビルシャナを強化』を二度行うと消滅してしまう様子だ。
 そんな怪異な状況、漆黒の闇の中……光を放つのは、ビルシャナの白い羽……ではなく、ハリセン。
「どういう事やねん!」
 ハリセンを一閃。目の前で強化されたビルシャナに突っ込みを炸裂させる。
「知らん! だが、我々がこの場にそろった事に意味がある。分かるな!」
 『分かるな!』などと自信満々に語る孔雀型のビルシャナ。しかし、その脳内には『アドリブで何とかする』以外の言葉は無い……。
「せやな!」
 そんなアドリブに乗るハリセンが目立つビルシャナ。このまま『何か使命を託された』的なシリアスムードをぶち壊すべく、意気投合した。
 ハリセンが目立つビルシャナ・シリアスブレイカーと、孔雀型ビルシャナ・アドリブ明王。
「いざ行かん! 我らの使命の為に!」
「そんなポーズ、誰も見とらんわ!」
 何となくアドリブでポーズを決めるアドリブ明王にハリセンを一閃するシリアスブレイカー。
 何故、この二体のビルシャナを強化すべきと判断したのか……それを知るものは、もはや虚空へと消えていた……。

「皆さんの活躍で、ドラゴン勢力の制圧地域開放が進んでいたのですが……」
 ドラゴン勢力との戦いに勝利したケルベロスたち。その後、ドラゴン勢力に制圧されていた地域を開放する戦いが進んで、数カ所の地域が開放されたところだった。そんな状況なのに、チヒロ・スプリンフィールド(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0177)には色々な感情が混じった表情が浮かべられている。
「その一部が、ビルシャナ菩薩の一体、天聖光輪極楽焦土菩薩によって破壊されてしまう事件が起きてしまいました」
 そこで想定外の事態が起きてしまった。天聖光輪極楽焦土菩薩は、ドラゴンの制圧地域を破壊して奪ったグラビティ・チェインを利用して、ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に、強力なビルシャナを集結させようとしているらしい。
「このまま、では大変な事になります」
 起こってしまった事件は仕方ない。これ以上の被害を出さない為に行動するしかない。
 ドラゴン勢力のグラビティ・チェインによって生み出されたビルシャナは、少し状況が複雑。
 ドラゴン勢力のグラビティチェインによって『ビルシャナ化』したモノ、或いは、そのグラビティチェインによって『強化されたビルシャナ』の二種類。
 今後、様々な場所で、ビルシャナ勢力が行動を起こす事が想定される。それを見つけ出し撃破しなければならないだろう……。

「そのビルシャナなのですが……」
 倒すべきビルシャナなのだが、その説明をするチヒロの顔がさらに複雑になる。
「シリアスブレイカーという名のビルシャナと、アドリブ明王というビルシャナです」
 いつものようにイラストを掲示して説明するのだが、その並びがどう見てもコント。イケメンな雰囲気を漂わせるアドリブ明王に対して、笑いを誘うような鼻眼鏡にピエロのような衣装、そして輝くハリセンのシリアスブレイカー。
 ある意味、非常にビルシャナらしい。アドリブ明王の主導で小さなコンサート会場を占拠し、そこでお互いの教義について漫才形式で語り、信者(観客)をビルシャナ化させうようという作戦らしい。まあ、アドリブ明王の事を考えると、なんとなくアドリブでそんな事をしようという事になったのではないかと思われる。
 ちなみに二人の教義は『笑いこそ至高』と『アドリブによる悟り』である……と思われる。
 現状では、観客は教義に感化されている訳ではないので、ケルベロスである事を言えば、すぐに指示に従い、避難してくれます。観客への説得などは必要ない模様。

「ドラゴン勢力のグラビティ・チェインを奪った、強力なビルシャナ2体と戦う必要があります……」
 そこで、一呼吸置くチヒロ。
「しかし、皆さんなら、倒せると信じています」
 ドラゴン勢力との戦いにも勝利したケルベロスたちを信じて後を託すチヒロだった……。

「ビルシャナでござるか……」
 何かを思い出すように、苦虫を噛み潰した顔になるウィリアム。しかし、今回の状況で手をこまねいている状況ではないのは理解している。一人のケルベロスの力など微々たるもの。しかし、それが集まれば膨大な力となる。
「微力でござるが、助力に向かうでござるな……」
 静かに荷物を背に立ち上がるのだった……。


参加者
熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)
板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)
レヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)
朱桜院・梢子(葉桜・e56552)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
クリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)

■リプレイ


「むぅ、ビルシャナ大暴れ」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)は、大きな荷物を手に現場へと向かう。信者を増やされる前に駆除したいところだ。
「自宅テレビでお笑い番組を堪能する自分にとって相手に不足無し!」
 やる気なのは熊谷・まりる(地獄の墓守・e04843)。
「どんなネタでも、笑って差し上げよう、表面上は!」
「そうだな! 敵のコントに徹底的にノってやるぜ!」
「わたしも、どんなに寒いネタでも、うけてあげるんだもん」
 まりると共にやる気を見せるレヴィン・ペイルライダー(秘宝を求めて・e25278)とリューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)。今回のビルシャナは二体でコンビを組んで漫才を披露しているらしい。
「これって相乗効果って言うんです?」
 素直な疑問を感じるのはクリスタ・ステラニクス(眠りの園の氷巫女・e79279)。
「……どうでござろう?」
 クリスタの言葉にウィリアム・シュバリエ(ドラゴニアンの刀剣士・en0007)が首を傾げながら答える。やはり分からない様子。
「そういえばこの鳥、何しに来たん?」
 何故、ビルシャナが二体で漫才をやっているのか、単純に疑問を抱く板餅・えにか(萌え群れの頭目・e07179)。
「漫才ですよね!?」
 えにかの質問に答える朱桜院・梢子(葉桜・e56552)だが、その瞳はキラキラと輝いている。どうやら、素直に漫才が楽しみな様子。
 そんな話をしながら現場へと突入するケルベロスたち。会場では、すでに漫才が始まっていた……。


「今宵、笑いって大切っていうじゃないですか」
 会場で語っているのは、白鳥型のビルシャナ・シリアスブレイカー。他の場所ではビルシャナたちが大暴れしている状況だが、この場所だけは、何故か穏やかで楽しそうな様子。
「懐かしいな、その鼻メガネ!」
「着ぐるみもよく出来てるじゃないか!」
 観客は、何も知らない一般人。シリアスブレイカーとアドリブ明王の事を着ぐるみを着た漫才師だと思っている様子。
「この鼻メガネに注目とはお目が高い。そう、帰り際の物販店で販売しているから、ぜひ買ってってくれよ」
 そんな観客からの茶々に、アドリブで答えるアドリブ明王。
「おい、俺は今『笑い』について、熱く語っとるんやから、邪魔すんなや!」
 まるで年季の入った漫才師にように流れるような動きでハリセンを繰り出すシリアスブレイカー。
「いったぁ!」
 響くハリセンの音。しかし、そんなに痛くない事くらい誰でも知っている。
「あははは!」
「いい音した!」
 しかし、綺麗なハリセンの音が響く会場の雰囲気は悪くない。そんな会場へと乱入者が現れた。
「……」
 それは、無表情なペンギン。
「……」
 一瞬、シリアスブレイカーの動きが止まるが、そこへ流れるようにアドリブを挟むアドリブ明王。
「おっと、ここへ『笑い』に対する反論のように現れたのは、ユーモアブレイカー!」
 無表情のペンギンは、ペンギンの着ぐるみを着たリリエッタ。
「なんでやねん」
 そんなアドリブ明王に対して、無表情のままツッコミを返すリリエッタ。
「こら、わいの出番を取るな!」
 そんな乱入リリエッタにご不満な様子のシリアスブレイカー。
「ツッコミもええ、乱入もええ、だがせめて笑えや!」
 突っ込みどころは、リリエッタの無表情さである辺りは、『笑いを信条』とするビルシャナらしい。
「あはは!」
 そんな乱入者にも観客は楽しそう。二体のビルシャナも満足そうな顔で完全に油断している様子。
「そうだな。ならば、我のアドリブ力により、貴公を笑わせてしんぜよう!」
 リリエッタの無表情にはアドリブ明王も気になっている様子。
「それならば、やるべき事は一つ!」
 そこへ乱入したのはえにか。観客席からのマイクパフォーマンスによる乱入。
「貴様、何奴!」
 追加の乱入者にご満悦な表情を浮かべながらも口調は、しっかりと驚く演技を加えているのはさすが。
「わかってるわかってる、皆まで言うな」
 その演技も利用して、『わかってる』風な雰囲気でそれっぽく話を展開させてく。
 そんな乱入したえにかと共に『スタッフ』と書かれたたすきをかけ、メッセージボードに『アドリブでなんとかして』とコメントを見せスタッフを装うアリャリァリャ・ロートクロム(悪食・e35846)。
 色々と混沌としてきた会場は、突っ込みきれない状況になっている。
 そんな状況の中でも、観客は笑いながら漫才を楽しむ反面、観客席の出口付近ではレヴィンとウィリアムたちが観客を安全に避難させるべく動いていた。
「拙者はケルベロスでござる。彼奴は危険なデウスエクス。今、仲間が時間を稼いでいるでござる。今のうちにゆっくりと逃げるでござる」
 ウィリアムは丁寧に状況を説明し、一人一人外へと案内していく。
「この先で警察が待っている。もう、大丈夫だぜ」
 出口で警察へ引き継ぐレヴィン。この会場から外へ出ればもう安心だ。
「ここはオレ達ケルベロスに任せて、焦らず速やかに避難してくれ」
 共に避難誘導を手伝うのは、駆け付けてくれた相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)。
 ゆっくり一般市民の避難が行われる中で、こっそりと観客に加わるのは、リューイン、まりると梢子。
「しりあすぶれいかー……素敵ね! 面白いわ!」
 観客と一緒になり、梢子は目をキラキラさせながら、目の前で繰り広げられる漫才に、大喜び。対照的に困惑した表情なのは一緒に座っているビハインド・葉介。漫才なんて理解出来ない様子で、終始困惑気味。
「うーん、これはとっても面白いですねー」
 と、ある程度一般市民の避難に目処が付いたところでクリスタも観客に入り、ころころ笑う。
「う〜ん、面白いかな?」
 寒いネタだと思ってしまう時もあるが、それでも笑ってあげる優しいリューイン。歓声をあげたりしながら場を盛り上げ、ビルシャナたちの油断を誘う。
「なんでやねん」
 そんな裏で続く避難の時間を稼ぐ為に、さらに続く乱入者を加えたアドリブ漫才。
 ツッコミとかよくわかっていないリリエッタのペンギン着ぐるみ無表情の棒読みツッコミがアドリブ明王に炸裂し続ける。
「はふぅ! お前の妙なツッコミに変な声が出てもうたやねん!」
「なんでやねん」
「右の羽で突っ込まれたら、左の羽で突っ込めは、常識やけど、ええ加減にせいや!」
 無表情ツッコミに対して、全てアドリブで違う反応を返し続けるアドリブ明王。繰り返す系の芸にしても、アドリブ明王の反応がいちいち笑いを誘うので、思いのほか笑いが絶えない。
「うむうむ、ええでええで」
 そんな盛り上がりにご満悦なシリアスブレイカー。他でビルシャナとケルベロスが激しい争いをしているであろうこの時、こんな意味不明な笑いに包まれている状況に満足している様子。
「その衣装面白いですねー」
 そんなシリアスブレイカーにも観客から声が飛ぶ。まあ、この声は観客に紛れているクリスタなのだが……。
「せやろ、この鼻メガネがいかすねん!」
「綿菓子頭、おいしそうダナ。食い倒れっテいうカ、フライドチキン感っテいうカ」
「フライドチキンは知らんが、飴ならほら!」
 シリアスブレイカーが自分の鼻を引っ張ると、フサフサ頭が割れて、そこから鳩が飛び、飴が出て来る。たぶん、シリアスな雰囲気をぶち壊す為の仕掛けがシリアスブレイカーの衣装の各所に仕込まれているのだろう。
「ソウ……なら、オフタリに差し入れダゾ!」
 そんな貰った飴を噛み砕きながら、アリャリァリャが用意していたのは、熱々おでん。
「蒸し暑い季節にピッタリなー熱々おでん!」
 『ジャーン』っという効果音と共に、用意したのは漫才のある意味鉄板な熱々おでん。
「そうやな、こんな暑い季節にゃ、熱々おでんやなぁ!」
「なんでやねん」
 アリャリァリャのおでんにお約束を返すアドリブ明王と突っ込むリリエッタ。
「味しみしみでおいひイ!」
 その熱々の大根をアドリブ明王に食べさせようとするアリャリァリャ。
「あ、いやまって、ちょっとフーフーして!」
 お約束な展開で熱々おでんから逃げようとするアドリブ明王に対し、こちらもお約束で後ろから羽交い締めにするえにか。
「大丈夫です。会場の皆様の安全は十分考慮されております」
「まって、まって、ちょっとでええから、フーフーしてや!」
 笑顔で羽交い締めにするえにかに、暴れながらも、逃げ出す様子を見せないアドリブ明王。彼もいっぱしの芸人なのだろう。
「万が一ということがございますので、前三列の方々は静かに席を立ち、会場後方へと移動をお願いします」
 そんな漫才をしながらも、避難誘導のフォローを行うえにか。
「ほ、ほら、熱々のおでんの汁が危険やから、ちょっとまってーな」
 アドリブ明王にしても、シリアスブレイカーにしても観客に被害を出す事は望まない。なので、きちんと観客が移動するまでアドリブで場を持たせる。
「……ソウだ。ジャあ今の内に、コっちの巾着二……」
 一度大根を熱々の鍋に戻し、より熱く冷めにくい巾着へと変更するアリャリァリャ。
 そのまま、腕を高速回転させ、熱々の汁をほとばしらせながら、アドリブ明王の口におでんを食らわせる。
「アッツーぃ!」
 悲鳴を上げ、のたうち回るもその動きはどこか演技っぽい。
 そんなアドリブ明王のリアクションを見て、理解したケルベロスたち。続けて、ツッコミを入れるまりる。
「スベっとるわ、もっとおもろい笑いみせてみぃ!」
 セリフはツッコミだが、実際には攻撃。ステージの袖からこっそりと背後を取り、そこからスパーンと将来性を感じさせる一撃を繰り出す。
「それじゃダメなんだよ」
 さらに反対側から、リューインが流星の力を込めた蹴りで、ツッコミを重ねる。
「そ、そのツッコミは厳しすぎるでぇ!」
 さすがにダメージになるようなツッコミに真面目な反応をするアドリブ明王。
「なにいっとる! それこそ真のツッコミやろうが!」
 そんなアドリブ明王に続けて突っ込むシリアスブレイカー。さすがに攻撃ではなく、怪しい光で傷を癒す。しかし、ケルベロスへ反撃しないのは、油断しているからだろう。
「貴方達最高ね! もっと、もっとネタを見せて頂戴!」
 手を叩き、腹を抱えて笑う梢子。梢子のは演技ではなく、本気の爆笑。笑いながらビハインド・葉介の背中をバンバン叩いての爆笑っぷり。
 その様子に満足そうなシリアスブレイカー。
「うむうむ、素晴らしい!」
 その様子に、このままアドリブ明王から各個撃破を目指すケルベロスたち。
「……邪魔」
 ツッコミという名の本格的な攻撃が始まると、さきほどまで着ていたペンギンの着ぐるみを脱いで、シャツ一枚とスパッツ姿の薄着になるリリエッタ。
「なんでやねん」
 そのまま、着ぐるみという負荷の無くなったリリエッタの華麗な旋刃脚がアドリブ明王の顔面へと炸裂する。
「それ脱ぐんかい!」
 最初から無表情で突っ込まれ続けたアドリブ明王も、色々な意味で想定外だったのか額に汗を浮かべる。
 その隙を見逃すケルベロスたちではない。ツッコミという名目の連続攻撃に加わる他のケルベロスたち。
「全部食べなきゃダメじゃねーか!!」
 レヴィンは、さきほど食べ残したおでんを自分の口に入れながら轟竜砲を展開させる。
「代わりにこっちを喰らえ!」
 食べ物は粗末にせず、アドリブ明王に喰らわらせるのは竜砲弾。
「溜息出ちゃいますねー」
 クリスタはそっとアドリブ明王の背後へと回り込み、そっと吹きかけるのは、アイスエルフ特有のグラビティ・氷の吐息。
「フヒョー!」
 全てを凍てつかせるクリスタの吐息で、ひっきりなしにアドリブで場を盛り上げてきたアドリブ明王が、アドリブでない素の反応をしてしまう。
(「なんか、このビルシャナのアドリブオーラって私のてきとーオーラと似てるなー」)
 などと心の中で思いながら、えにかがオリジナルグラビティを発動させ、会場が一瞬暗転する。
 暗転後、何故か会場には娘とおじいさんが出現。娘はおじいさんに言いました。
「絶対に中を覗かないで下さい」
 しかし、おじいさんは気になって、中を覗いてしまいました。
「なんじゃと!」
 その中には、自分の孔雀の羽をむしって機織りをするアドリブ明王と、一緒に羽をむしるリリエッタの姿。ビルシャナがむしった羽で布を織りながら叫びました……。
「こ、こんなのどうやってアドリブせやいいんや……」
 次の瞬間、えにかのグラビティによって形成された謎空間が消滅し、羽をむしられたアドリブ明王が倒れていた。


「……」
 アドリブ明王すらアドリブを返せないほどの状況に、一瞬だけ会場が沈黙に支配される。しかし、それもほんの一瞬。
「ブッ……アハハハ! なにこれ面白すぎ!」
 すぐに梢子の爆笑が引き金となって、会場が謎の爆笑に包まれる。
「うむうむ!」
 相方がやられたのに、状況を理解していないのだろうか。爆笑に包まれる会場に満足そうな顔のシリアスブレイカー。
「小倉山……ププッ……峰の……ククク……」
 このままの流れでシリアスブレイカーも倒してしまおうと、梢子も攻撃に参加すべくグラビティの詠唱に入ろうとするのだが、先程までの漫才が面白すぎた様子で、詠唱が上手に出来ない様子。
「ナーンデヤネーン!」
 そんな梢子の様子はともかく、この流れを途切らせないように攻撃するのはアリャリァリャ。
「ダイ、コンーーおろーし!!!!」
 両手のチェーンソー剣を華麗に操り、ビルシャナを摩り下ろすが如く、猛烈な連撃を繰り出しながら、周囲の機材を巻き込み破壊。その粉塵でビルシャナを包み発火!
「うーん、丸焼け!」
 アリャリァリャの凄まじい攻撃を受けて、全身真っ黒になるシリアスブレイカー。しかし、羽は黒くなろうとも鼻眼鏡とハリセンは死守。昔のコントのように真っ黒になってポーズを決める。
 しかし、次の瞬間には白い羽を羽ばたかせ復活する。
「ぷぷ……今ひとたびのみゆき待たなむ!」
 そこへ攻撃をするのは梢子。詠唱に時間が掛かったが、やっと発動した彼女のオリジナルグラビティ。
 百人一首の歌に込められた想いを具現化する事で、シリアスブレイカーの動きを止め、その背景に紅葉の幻影が浮かび上がる。
「爆笑しながらの攻撃とは、やるな!」
 どう見ても自身のピンチなのに、楽しそうな様子のシリアスブレイカー。しかし、ケルベロスたちのチャンスなのは間違いない。
 そのチャンスに二つの影が重なって動く。
「旋風斬鉄脚!」
「流水斬翼閃!」
 グラビティを全身に込め、旋風のような身のこなしで蹴りを放つ泰地と、流水の如き動きで斬撃を放つウィリアム。二人が戦闘に参加しているという事は、観客の避難が完全に終わった事を意味する。
 それを理解したケルベロスたちが最後の全力攻撃へと移る。
「ルー、力を貸して!」
 ルーシィド・マインドギアと手を繋ぎお互いの魔力を循環させるリリエッタ。
「神々より託されすこの一投、神殺しの一撃を受ける名誉をあなたに授けましょう」
 リューインは鎌を弧を描き、投擲する。
「そして真の死をあなたに。……グングニルバスター!!」
「これで決めるよ、スパイク・バレット!」
 リューインの投擲した鎌が弧を描きビルシャの背中へ突き刺さると共に雷光が振り下ろされ、ビルシャナを焼き尽くす。さらに限界以上の魔力を込めたリリエッタの魔弾が、ビルシャナを貫く。
「とーっても……」
「喜びな!」
 シリアスブレイカーを氷結輪で指し示すと同時に、その周囲へと巨大な氷の結晶を多数生み出す。さらにレヴィンがリボルバー銃を高速でリロード。
「冷たいですよー!」
 その巨大な氷の結晶を散弾のように打ち出し、弾幕を形成するクリスタ。
「全弾プレゼントしてやるよ!」
 散弾のように発射されたクリスタの氷の隙間を縫うように、打ち込まれたレヴィンの弾丸が、的確にビルシャナの急所を撃ち抜いていく。
「そもそも、口調すら統一されてねーじゃねーか」
 全弾撃ちつくし、嬉しそうな笑顔のまま最後のツッコミを入れるレヴィン。たしかに、口調がコロコロと変わるのは漫才としてもどうなのだろうか。
「……」
 しかし、ケルベロスの連携攻撃を受けたシリアスブレイカーに返答する余裕は無く灰塵と化し消えていく……。
「ナイスツッコミ! じゃが……それも笑いの一つや!」
 と、思ったら灰塵と化した身体が一瞬で復活し、頭に花を咲かせて再登場するシリアスブレイカー。
「木漏れ日が揺れる道で、切なさを知る理由は君に……」
 そんな復活芸を繰り出すビルシャナにとどめとなるグラビティを繰り出すまりる。その結果、瞬間のような永遠のような、切なさを何度も繰り返し……そのままシリアスブレイカーは跡形もなく消滅した。


「平和な世界に笑いは欠かせないけど、自分が笑いたいネタでじぶんの意志で笑う!」
 最後の一撃となったまりるが笑顔を見せる。その通りであろう。笑いは強制されるものではないはずだ。
「もーだめ、笑い過ぎて死んじゃいそう」
 そんな中で最後までお腹を抱えながら、笑う梢子の姿がある意味、シリアスブレイカーが役目を全うした結果なのかもしれない……。
「これで終わりですねーお疲れ様でしたー」
 最後にクリスタの言葉が響き、無事に勝利した実感がやっと出てくる、そんな戦いであった……。

作者:雪見進 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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