雨音、紫陽花、梅雨のお祭り

作者:白鳥美鳥

●雨音、紫陽花、梅雨のお祭り
「ねえ、みんな。この間、大きな戦争が起きたよね? みんなの頑張りで多くの人を護る事は出来たんだけど、ちょっと弊害も出てしまったんだ」
 デュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)は、そう言うと話始める。
「この季節の花って言ったら紫陽花だよね? その紫陽花を沢山植えて、観光名所にしている所があるんだ。……だけど、残念ながら、その時に被害を受けてしまって、紫陽花が大ピンチなんだよ。だから、来年にはまた綺麗な紫陽花が咲いて欲しいって思っていて……みんなにヒールの手伝いをして貰えないかな? 紫陽花が、来年も綺麗に咲くように」
 そう言ってから、デュアルは続ける。
「勿論、ここは観光地で、紫陽花が見渡せる素敵なビュッフェもあるんだよ。……今回は紫陽花は見る事が出来ないけれど、観光地の人達がお礼にビュッフェを楽しんでほしいって言ってくれているんだ。美味しい料理やデザートが一杯だそうだし、時間も気にしなくて良いし、楽しんでほしいって言って貰ってるんだ。紫陽花へのヒールもお願いするけど、ビュッフェも楽しんでほしいな。みんな、力を貸してくれないかな?」


■リプレイ

●雨音、紫陽花、梅雨のお祭り
「みんな、紫陽花のヒールに来てくれてありがとう! それから、ビュッフェも楽しんでいってね!」
 ヒールに来てくれたケルベロス達に感謝の言葉を伝えるのはデュアル・サーペント(陽だまり猫のヘリオライダー・en0190)。紫陽花にとっても、ケルベロス達にとっても良い一日になる事を願って。

 ナルナレア・リオリオ(チャント・e19991)は、傷んでしまった紫陽花を、丁寧にヒールをしていく。花畑が途絶えてしまう事は非常に惜しく感じるからこそ、心を込めて。そんなナルナレアを見て、隣を歩いていたゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)が、声をかける。
「……随分念入りにヒールするな。そんなに紫陽花が好きなのか」
「紫陽花だけでなく花は好きですよ。髪にも咲かせるくらいですから」
 最後のは冗談ですけど、と付け足しつつ優しく微笑むナルナレアを見て、ゼノアは彼女の頭をぽふ、と撫でる。情緒に疎いゼノアからするとナルナレアの笑顔はとても素直で心に響くのだ。
「……お前が頑張りたいなら俺もとことん付き合ってやる」
「ありがとうございます」
 ゼノアの言葉に、ナルナレアは感謝の気持ちと共に満面の笑みで答える。そして、二人で並びながら紫陽花のヒールをしていった。

 クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)と深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)夫婦は、一緒に仲良く紫陽花にヒールをしていく。
 ふと、ヒールをしていた先で、ウイングキャットのシフォンを引き連れたミーミア・リーン(笑顔のお菓子伝道師・en0094)を見つけた。
「あ、クレーエちゃんとルティエちゃんなの! 元気そうで良かったの!」
 声をかけようとした矢先、向こうが先にこちらに向かって走ってきた。
「この前、僕の宿敵が出たときはありがとうね?」
「ミーミアさん、先日はクレーエ共々お世話になりました。とっても助かりました。シフォンさんもありがとうございますね」
「クレーエちゃんが無事でミーミアも凄く嬉しかったの! クレーエちゃんもルティエちゃんも今日は笑顔で、とっても嬉しいの!」
 先日、クレーエが襲われる事件があり、少しだけミーミアもお手伝いをした間柄。だからミーミアにとって二人が笑顔でいてくれる今がとても嬉しいのだ。
「にゃんマシュマロ、すごく可愛かったの! だからね、お礼に猫型どら焼きと猫型缶入りの金平糖どーぞ♪ シフォンにはにゃんこ用の野菜クッキーあげるね。もふもふさせてくれてありがとー♪」
 クレーエがお礼にと渡してくれた猫型どら焼きと缶入り金平糖にミーミアは目を輝かせる。そして、クレーエにぎゅーっとシフォンを押し付けた。
「シフォンのもふもふならいくらでもどうぞなの!」
「本当? じゃあ、お言葉に甘えて……」
 嬉しそうにシフォンをもふもふしているクレーエをルティエは微笑ましそうに眺めていた。
 ミーミアと別れた後、再びクレーエとルティエは紫陽花のヒールに戻る。
「紫陽花、来年は綺麗に咲くといいね」
「わふ、そうだねぇ、どんな色で咲くのか来年が楽しみだね」
 クレーエの行うヒールは絆を元に生れた幸せの青い鳥。翼を広げて飛び回る青い鳥は美しい花を咲かせる来年に繋げてくれるだろう。
「来年、紫陽花がどーなってるかまた見に来ようね?」
 クレーエの言葉に、宝石のような雨粒を載せて咲く紫陽花がルティエの脳裏に浮かび、思わず尻尾が揺れる。
「もちろん! 今から来年が楽しみ」
「へへ、夫婦になってもデートはたくさんしたいもんね♪ もっともっと二人で色んなことしよーね?」
「色んな所に行って色んな思い出作ろ」
「約束だよ?」
 差し出されたクレーエの指に、ルティエも指を絡ませる。ゆらりゆらりとご機嫌に尻尾を揺らしながら。そして、二人で手を繋ぎながら、紫陽花だけでなく、多くの未来に想いを馳せるのだった。

「デュアルさん、ミーミアさん、宜しくお願いしますね」
「うん! ミーミアもミリムちゃんに負けない位頑張るの!」
 ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)とミーミアは、互いに顔を見合わせると微笑みあう。
「俺はヘリオライダーだからヒールは出来ないけど、自力で出来る範囲は頑張ってみるよ」
 そんな二人の様子を見て、デュアルは微笑んだ。
 ミリムは、惨劇の記憶から取り出した魔力を地面に描いた守護星座に込め、2つの癒しの力を合せたものにすると、それを用いて紫陽花達を癒していく。
「紫陽花の園に合わせて少しハイカラな感じでどうでしょうか?」
「はいから? どんな感じなの?」
 癒しの雨とオーロラで癒していたミーミアは、ミリムの言葉に首を傾げた。ミリムの思い描く姿をミーミアはうんうんと頷きながら聞き、一緒にヒールをしていく。
 丁寧にヒールした後、ミリムは緊張の糸を切らしてホッと息を付く。
「紫陽花は少し寂しい花言葉があるそうですけれども、辛抱強い愛情、元気な女性、寛容と言う言葉もあるそうです。また来年、その言葉に期待して此処の紫陽花を見に来ましょう。……忘れていなければ、ね!」
 しんみりとして話していたミリムの最後の言葉に、デュアルとミーミアは思わず笑ってしまう。
「ビュッフェにも行ってみない? そこから見る紫陽花が素敵だったらしいから忘れないかもしれないよ?」
「それは良いかもしれませんね」
「美味しいお菓子があると良いの!」
 料理が得意なデュアルとミリム、お菓子好きのミーミアは、来年がどうなるのかと楽しみにしつつ、もう一つの観光地にも足を向けた。

●ビュッフェにて
 ビュッフェには色々な物が揃っており、綺麗で華やか。来年、ここから紫陽花の花も見る事が出来たら最高だろう。そう思わせる所だった。

 ゼノアとナルナレアは、それぞれ分担して料理を取りに行く。ナルナレアはデザート……食感の滑らかなものや酸味もあるもの、それ以外ものを取ってテーブルへと戻ると、ゼノアが持って来た肉や魚がこんもりと盛られていた。ナルナレアの予想と見事に合っている。
「やはり蛋白質を摂らんとな。身体を動かす猟犬には特に必要だ……。ほら、お前ももっと肉を食え。これとか分厚いぞ」
 カットステーキをずずいとゼノアに口元へと持っていかれ、ナルナレアは慌てる。
「そちらも好きですから頂きます、が……分厚いのはもう少し切らせて貰っても宜しいでしょうか?」
「ああ。しっかり食べるのなら、それで良い」
 そんなやり取りをしつつ、ステーキ等、蛋白質類を美味しく戴いた後、デザートへ。
 折角なのでゼノアもデザートを食べる事にする。甘すぎないフルーツ系のムースを手に取った。
「うむ……さっぱりしていて丁度良い」
「それは良かったです」
 そんなゼノアの表情と言葉に、笑顔を浮かべるナルナレアだった。

「ビュッフェですか、沢山の料理が食べられて素敵ですわよね、沢山食べていきたいですわ♪」
 楽しそうにしているのはカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)。今日は、婚約者の武田・克己(雷凰・e02613)と一緒だ。克己はビュッフェの様な所に来る事は余り無いので、少々緊張気味だったりする。とはいえ、料理は美味しそうだし、楽しい時間が過ごせそうだ。
 二人で色々な料理を見てまわる。克己が、どれがおいしいかな、どれも美味しそうと目移りしていると、持っているお皿に鶏の唐揚げが盛られる。盛った相手はカトレアだ。
「克己、これも美味しそうですわ。良かったら食べてみて下さいませ」
 そう言うと次はパスタも盛ってくれた。
 そんなカトレアに、克己も美味しそうなローストビーフを見つけて彼女のお皿に盛ってあげる。
「美味そうだったんでな。一緒に食おうぜ」
 無邪気に笑い合いつつ、美味しそうなものを目移りしながら探し、お互いにお互いが美味しそうだと思ったものをお皿に盛りあって。
「わぁ、こんなにたくさんの美味しそうな料理が、どうもありがとうございますわね」
 克己が盛ってくれた分の肉料理系の数々に、カトレアは嬉しそうに微笑む。そんな彼女を見て克己も嬉しそうに微笑んだ。
 互いが互いを想って盛り付けた料理を、楽しく戴く。大好きな人が自分を想ってくれた料理は本当に美味しいものだ。
「絶妙な味わいで、とても美味しいですわ。克己、今日はご一緒に来てくださってありがとうございますわね♪」
「俺も楽しかったぜ」
 そう言って微笑みあう、楽しい一時だった。

『この前ヒナキが誕生日だったんで、お祝い兼ねて美味しいもの食べよう?』
 神楽・ヒナキ(くれなゐの風花・e02589)を、そう誘ったのがスバル・ヒイラギ(忍冬・e03219)。スバルのお言葉に甘える形で、ビュッフェにやって来る事になった。
 そう、普段はヒナキが作った料理を一緒にご飯を食べているけれど、今回はたまにの外食なのだ。
「ビュッフェ、美味しそう……」
「料理どれも美味そう! 何から食べるか迷うなぁ」
 好きな料理を色々と悩みながら選んで、テーブルで乾杯する。
「改めて、誕生日おめでとうヒナキ!」
「……ありがとう」
 ビュッフェでの誕生日祝い。いつもと違う場所、雰囲気。……新鮮で、一層ご飯が美味しく感じられて……。
(「きっと、スバルもそう感じてる……よね? ……なんて」)
 どきどきしているヒナキの前には、美味しそうに料理を食べているスバルがいる。……同じ気持ちでいてくれているのかな、そんな事をヒナキが思っていたら……。
「ヒナキがいつも作ってくれる料理も好きだけど、たまには外のご飯も良いなぁ。……あ、このおかずはヒナキの味の方が好きかもしれない」
「……!」
 スバルに何の飾りも無くそう言われて、ヒナキはどきどきする。普段と違って一層ご飯が美味しく感じていたのに、自分の味が好きだと言って貰える事が凄く嬉しくて。
「……今日は、ありがとう。今度はスバルの誕生日の時に、こうやって二人でご飯食べに行こうね」
「どういたしまして、ヒナキも楽しんでくれたなら良かった! 俺の誕生日かぁ、そう言えば次で俺二十歳になるんだよなぁ。うん、楽しみにしてるよ」
 普段と違う時間が過ごせた事はやっぱり嬉しくて、ヒナキはお礼と一緒にスバルの誕生日も……と誘う。それを、嬉しそうにしてくれるスバル。
 二十歳いう言葉に、彼ももう大人になるのだと思うけれど、大人になっても追い付くから待っててね。そう心の中でヒナキは呟く。こうして幸せを共有できるのならば、ずっとスバルと一緒にいたい、そうヒナキは心から願っているから。

「ビュッフェって好きなのとっていいんだよね? ね?」
「好きなだけ取って食べてもいいが……ちゃんと噛んで食べろよ」
「わぁい、いっぱい食べるー!」
 ビュッフェで大はしゃぎのフリューゲル・ロスチャイルド(猛虎添翼・e14892)は、たたたっと料理の所に走って行き、それを御堂・蓮(刃風の蔭鬼・e16724)、オルトロスの空木が追っていく。
 せっせと肉料理を取っていくフリューゲルは、空木にお皿を見せる。
「空木もお肉食べる? どれがいい?」
「空木には骨を抜いた肉をやるな」
 蓮は火の通った骨なし肉を、空木用にと別のお皿に受け取った。
 蓮にとって弟の様な存在であるフリューゲル。肉料理ばかり取っている彼は猫科のウェアライダーではあるが、正直な所、食事のバランスが心配だ。という事で、ここぞとばかりにフリューゲルのお皿に山盛りの野菜を盛った。
「だ、大丈夫だよ、野菜もちゃんと食べるよ! お肉の方が好きなだけで、野菜も嫌いじゃないもん!」
 盛られた野菜を見て、野菜も嫌いじゃないと主張するフリューゲル。そんな彼は、ビュッフェのとある箇所に気が付いた。デザートが沢山ある、その中に見つけたものは。
「……! 蓮、蓮! 見て見て、紫陽花のゼリーがあるよ! 今年は無理でも、来年はこんな風に綺麗な花が咲くのかな? ヒール頑張ったもんね、きっと綺麗に咲くよね!」
 無邪気で純真なフリューゲルの言葉に、蓮は目を細める。
「……そうだな、花は来年な。きっと綺麗に咲くさ」
「うん! 来年綺麗に咲いたら、色んな人が見に来て楽しめたらいいなぁ。こんなに美味しい料理もあるんだもんね」
 来年の光景を思い浮かべる。きっと、素敵な場所になるに違いない。
「今は食べられる紫陽花を楽しむといい」
 蓮はそう言って紫陽花ゼリーで彩られた大きなパフェを指してから、こう加える。
「野菜もきっちり食べた後にな」
 それに、大きく頷くフリューゲル。
「はーい、野菜もデザートもいっぱい食べる!」
「いい返事だ」
 そう言って、蓮はフリューゲルの頭を撫でてやる。そんな温かな時間が流れていた。

 来年、この場所では素敵な紫陽花と美味しいビュッフェが待っている。その時は、今は観られない景色がこのビュッフェから見渡せるに違いない。
 紫陽花と共に過ごせるその日を楽しみに。また、来年、この場所で――。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月22日
難度:易しい
参加:11人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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