隻眼の白竜

作者:洗井落雲

●舞い降りる竜
 草原――。
 穏やかな風が吹き抜けるその場所で、レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)は一人、佇んでいた。
(「ドラゴンとケルベロスとの闘い……その決着はつきました。ですが――」)
 その心に泡立つ何か。それをこらえるために、レフィナードは一人になりたかった。
 自身の心をさざめかすものの正体を、レフィナードは知っている。そして、それは、容易く解決できるものではないという事も。
 故に、一時でもその心を慰めるため、レフィナードは独り、果てなき草原にて風に吹かれ、その風に心のさざめきを散らしていたのだ。
 ふと、強い風が、レフィナードの身体を打った。続いて、大きな雲が陽光を隠したみたいに、あたりに大きな影が差す。
 本能的に、レフィナードは身構えた。次の瞬間には、レフィナードの眼前に、巨大な白いドラゴンが舞い降りたのだ。
「お前、は」
 呆然と、レフィナードが声をあげる。
 ドラゴン――『ノエル』は、静かに告げた。
「我々の命運の灯火は、わずかな灰明かりを燃やすのみ――ですが」
 ノエルはその翼をはばたかせ、
「私の命尽きる前に――あなたの憎悪と恐怖を糧に、僅かながらでも生き永らえさせていただきます」
 その隻眼の眼を見開いた。
「良いでしょう、こちらにとっても好都合」
 レフィナードは、笑んだ。
 憎悪の笑みだった。
「我らが因縁――ここで断ち切らせていただきます」

●宿縁は繋がり
「すまないが、緊急の依頼だ」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達へと向かって、そう告げた。
 なんでも、レフィナードが単独行動中、デウスエクスに襲撃されるという予知がなされたという。慌てて連絡を取ろうとしたものの、どうにも連絡がつながらない。
 こうなっては、予知された襲撃のタイミングに合わせ、救援に向かうしかないのだ。
「敵は『ノエル』と呼ばれるドラゴンだ。本来は、策を弄することを好むタイプのようだが、昨今の事情を考えれば、よほど追い詰められ、直接打って出てきたのだろうな」
 ノエルは定命化の進行により、弱体化著しいようだ。よって、少数精鋭でも充分、勝機は見える。
「だが、弱体化していても相手はドラゴン……くれぐれも、気を付けてほしい」
 周囲はもとより人気のない場所だったが、ノエルの手により人払いがされているのだろう、周囲に人影は存在しない。レフィナードの救援と、敵の撃退に、注力してほしい。
「以上だ。くどいようだが、くれぐれも気を付けてくれ。それでは、皆の無事と、作戦の成功を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送りだした。


参加者
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)
ノル・キサラギ(銀花・e01639)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
月隠・三日月(暁の番犬・e03347)
グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)
キース・アシュクロフト(氷華繚乱・e36957)
黒澤・薊(動き出す心・e64049)

■リプレイ

●邂逅
「そちらから来て下さるとは……探す手間が省けました」
 改めてうっすらと、レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)は笑った。
 先ほど、一瞬に浮かべた憎悪のそれとは違う、穏やかな笑みであった。
 それは、意図的に、常なる穏やかさを保っていたからである。
 その心中は、如何ほどのものであったか。
 内心にたぎる炎、衝動、そう言ったものを抑える苦痛。だがそれも、眼前の敵を討つために、耐えた。
(「本当に――永く、永く――この時を、待っていました」)
 胸中で、呟く。あえて事態を俯瞰する。手にした刃、それを奴に――『ノエル』に突き立てるために。
「貴方の憎悪が見えます。私が憎いようですね」
 そのレフィナードの様子など心外だ、とでも言わんばかりに、他人事のように、ノエルが言う。レフィナードの内にたぎる憎悪、それを掻き立て、冷静さを失わせることが、目的であろう。
「いやはや……随分と憎悪を育てたものです。ですが、私を恨むなど、お門違いでは?」
 あざ笑うように、ノエルが言う。レフィナードはしかし、穏やかに、穏やかに、笑って見せた。
「かも、知れません。未熟であったのは、あの時の自分。ともに朽ちることを選べなかったのも、あの時の自分。そして、私は未だに、未熟者のままです」
 ぎり、と、刃を握る手に、力を込める。穏やかな笑み、しかしその双眸には、昏く燃え滾る憎悪の炎の色があった。
「故に――これは未熟者の私闘ですよ。身勝手なのは、お互い様でしょう?」
 じり、と距離を詰める。
 ノエルは笑んだ。
 食らう。目の前の相手を。
 それは、この場にいる二人が、想いを一つにした瞬間である。
 と――。
「なるほど。ならばその私闘、混ぜてもらうぞ」
 その空気を切り裂いて、一つの声が、あたりに響いた。
 同時に、降り立った声の主――ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)が、レフィナードを庇うように、傍に立ったのだ。
「ディークス殿――?」
 あっけにとられた様に、レフィナードは声をあげた。ディークスは、安心させるように、笑って見せた。
「水臭いな。月並みな言い方だが、一人で何もかも背負おうとするな」
「そう言う事だよ」
 声――ノル・キサラギ(銀花・e01639)の言葉に振り向けば。
 友が、居た。
 仲間が、居た。
「一人でなんて、無理だ。頼りないかもしれないけれど、おれも頼ってほしいな」
「ノル、殿……」
「スケットさんじょーう、なんてね」
 グレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)が、言った。
「ノエル、って言ったっけ? 悪いけど仲間をこれ以上傷つけやしないよ」
 その言葉に、ノエルがくっくっと笑って見せた。
「よもや、獲物が増えるとは。よりどりみどりとはまさにこのことでございますね」
 挑発するように言うノエルへ、グレイシアは肩をすくめた。
「どうやら、オレ達に勝てる気でいるみたいだねぇ」
「奴がノエル……その外見とは裏腹に、強く邪悪な気配を感じるな……」
 月隠・三日月(暁の番犬・e03347)は、武器に手をやりつつ、言った。
「弱体化しているとはいえ、そこはドラゴンと言った所か」
 伏見・万(万獣の檻・e02075)は、懐からスキットルを取り出すと、その液体で唇を湿らせて見せた。
「皆……これは、これは、私の私闘なのですよ……」
 胸に溢れる何かをこらえるように、レフィナードが声をあげる。
「おう。だが、俺は借りは返す主義なんでな」
 万は、笑って見せた。
「私闘であろうと……過去の清算を行えるのなら……ルナティーク殿が戦いを望むなら、いくらでも協力しよう」
 三日月も、頷いて見せる。
「俺たちは、いくらでも力になる」
 キース・アシュクロフト(氷華繚乱・e36957)も、また、そう告げた。
「どうか、わたしにも、あなたを守らせてほしい」
 黒澤・薊(動き出す心・e64049)もまた、静かに頷いた。
「く……くくっ。ハハハ! いえ、素晴らしい関係のようですね」
 ノエルは、そんな仲間たちの想いを踏みにじる様に、哄笑をあげた。
「今ここで、それを破壊してやれば……あなたはさぞや、美味くなるのでしょうね」
「ノエル……!」
 薊は思わず、その邪悪なプレッシャーにたじろぐ。だが、ノエルの悪行を想えば、今ここでその悪を絶たねばならないという勇気が、その手に武器を握らせる力をくれた。
「自信満々だねぇ。いや、過剰って奴かなぁ?」
 グレイシアが、言った。
「調子に乗らないでほしいな。俺たちは、そう簡単に倒れはしない」
 ノルが、構え、ノエルへと告げる。
「ここで奴を倒し……皆で、帰ろう」
 三日月もまた、そう言った。
「奴を倒したところで、何かが戻るわけではない。だとしても、奴を倒さなければ先には進めない」
 キースもまた、想いを同じくするように、言葉を紡ぐ。
「守って見せる……あなたと言う悪意から、仲間たちを!」
 薊がその手に、刃を握る。
「フォローはしてやらァ、精々気持ちよくぶっ飛ばしてやれ」
 笑いながら、万はレフィナードへ、そう告げる。
「後列に攻撃が向かう事は少ないだろうが……気を付けてな」
 ディークスは、後列にて援護を行うフレア・ベルネットへと、声をかけた。フレアは笑いながら、
「任せて! 皆で無事に帰ろうね!」
 と、返して見せる。
「と、いう事だ。レフィ、共に戦い、共に帰ろう」
 ディークスの言葉に、レフィナードは深く、深く、頷いて見せた。
「ええ。すみません……いいえ、違いますね。ありがとうございます」
 自身の激情を、仲間達には見せぬよう、気遣いながら。しかし、集まってくれたこと、助けに来てくれたこと、手を取ってくれたことへ、最大限の感謝の意を示しながら。
「手を、貸してください。奴を、討ち取ります」
 その言葉を合図に。
 白き邪龍とレフィナード達の戦いが、始まった。

●先へ進むために
「美しき友情と言った所ですか? ですが、その絆、私の風により腐らせて見せましょう」
 ノエルがその翼をはばたかせると、巻き起こる風が白の色を伴い、ケルベロス達へと襲い掛かった。切り裂くようなその風の、傷口に継続的な痛みが走る。
「毒……ですか。お前らしいやり口ですね」
 レフィナードは、しかし恐れることも、苦痛に苦しむこともない。それは、仲間たちもまた同様である。
「まずは狙いを定めるよ!」
 『Kreuz-eX:X-0《Via Lattea》』、その十字架型のアリアデバイスを触媒に、謳い上げるは『想捧』。失われし愛しい想いよ、今を生きる者たちの力になれと、歌詞に込められた想いは力となりて、仲間たちの傷を癒し、活力となす。
「その厄介な翼、封じさせてもらいたいね?」
 如意棒をヌンチャク型へと変形させ、グレイシアは跳んだ。狙うは翼、その動きを少しでも阻害させられれば、こちらの有利となるはずだ。付け根を狙った一撃が突き刺さる。だが、まだ浅いか。ノエルは身じろぎしつつ、翼をはためかせてグレイシアから距離をとる。
「狙いは見えています」
 告げるノエルであったが、息つく間もなくディークスの波状攻撃が、ノエルを狙う。
「頭を使う事は得意か……成る程、面白いな。だが……!」
 『晶樹の手鎚』を、その身体へと叩きつける。がきり、と鱗を砕く音を響かせつつ、ノエルは呻いた。
「木っ端が! 味な真似をしてくれますね!」
「ドラゴンの強さは理解してるんでね。手抜きはしねぇ、全力で食わせてもらうぜ」
 万は、グレイシアの傷つけた翼の付け根を狙い、敵の攻撃をかいくぐった。一息に接敵すると、その刃を傷口に突き立てる。
「ぐ、おお!?」
「それが武器なら、徹底的に、だ」
 突き立てたナイフを引き抜けば、傷口を深く切り広げ、鮮血がほとばしる。その力逃れるように、万は身を引いた。
「おのれ、木っ端ども……!」
 憎悪に表情を歪ませるノエル。だが、ケルベロス達の攻撃がやむことは無い。いかに定命化の進行により弱体化しようとも、相手はドラゴンである。現に、その翼に傷を負ってなお、その攻撃の弱体化は、決して大きいものではない。
 やはり、強敵。
 で、あるならば、一瞬たりとも攻撃の手を緩めることはできない。
「お前より放たれる魔……私たちには、通じん!」
 三日月は、ケルベロスチェインを放ち、地に守護の魔法陣を描く。描かれた魔法陣は、ノエルより放たれる毒を打ち払い、対抗する光となって、仲間たちを守護するのだ。
「ノエル……お前の死角は、右でしたね」
 ノエルの失われた右目、それを狙ったレフィナードの斬撃。とっさに身じろぎしたノエルの頬を、その刃は切り裂いた。呪詛の力を込めながら、しかし美しく振るわれる刃。鮮やかな剣閃が閃き、迸る鮮血。
「如何ですか? あの時、取るに足らぬと利用して見せたものに、その隙をつかれる思いは」
「貴様……!」
 レフィナードの挑発に、ノエルはその牙をむきだして見せた。レフィナードは追撃を警戒して退避。そのタイミングに合わせて、放たれたキースの石化魔術が、ノエルの身体を強く硬直させた。
「気に入らないな……お前のやり口は」
 そのシッポを怒りに膨らませ、キースは淡々と告げる。ぐ、とかざした手を力強く握れば、石化魔術はさらにその強度を増し、ノエルの身体を石化させたかのように激しく、強く、硬直させていく。身じろぎするノエルへ、薊の流星の如き跳び蹴りが突き刺さった。衝撃が体を駆け抜け、その脚部に痺れとなってはじける。
「動かさせない……固まって、沈め」
 冷たく言い放つ薊。ノエルは激高し、吠えた。
「な、めるなぁぁぁぁッ!」
 その翼を、身体を震わせ、拘束を解いて見せたノエルが空を舞う。その瞳には、冷静さや知の色は見えない。追い詰められたが故か、あるいはこの凶暴さが本性か。いずれにしても、未だノエルが落ちる気配は見受けられない。
「我らが偉大なるドラゴンにとって、獲物でしかない脆弱な種族どもが……そろいもそろって、図に乗る……!」
 咆哮とともに放たれる白き風は、ケルベロス達の身体を衝撃となって駆け抜け、強い痺れとして現れる。
「こんなもので……俺たちは! とまらないっ!」
 叫びと共に、ノルは舞う。仲間たちを鼓舞する、オーラを放つ輝きの舞。その光は仲間たちの身体から、ノエルの毒素をすべて消し飛ばす!
「結局そうやって、自分たち以外を見下しているのが、お前たちが負けた理由だよ」
 グレイシアが、その右手をかざした。途端、輝く冷気が放たれ、ノエルを激しく打ちのめす。逆巻く冷気は、ノエルの動きを鈍らせる――『アブソリュート・ゼロ(ゼッタイニニガサナイ)』その言葉のままに、その攻撃は相手を逃がすことは無い。
 冷気に激しく打ちのめされたノエルが、その身体を地へと落とした。地響きがなる中、その足元には、ディークスのブラックスライム――『闇蜥蜴-with-』が、すでに居た。
「with、貫け」
 ディークスの言葉と共に、足元のwithは、その身を槍のごとく変化させ、一気にノエルの身体を貫いた。その傷口より侵蝕したwithは、中よりその身体を蝕む毒と化す。
「ぐ……お、お、お……!?」
 その激痛に、ノエルが身じろぎするのへ、ディークスは頷いた。
「策を弄ぶものは、策に溺れるものだ……そんな風にな」
 自身が扱い、弄ぶ毒。それを返された形のノエルは、そのプライドをズタズタにされていただろう。もはやその眼には、憎悪の色しか存在しない。
「殺す……殺してやるぞ、ケルベロスども……!」
「シンプルでわかりやすいじゃねぇか」
 万は笑った。その傍らには、幻影の獣を侍らせ。万の命に応じて、幻影の獣は走り出した。ノエルへと接近するや、その牙でノエルの肉体へと食らいつく。鱗を破壊し、その肉を、牙にて切り裂いた。
「っと、やりすぎないようにな。人の獲物を横取りして食う趣味はねェ」
 その視線の先には、レフィナードの姿があった。
「その通り……決着をつけるのは、ルナティーク殿、あなただ」
 傍に立つ、三日月の『分身』。
「積年の想いを、今、果たす時だ」
 キースが、力強く、頷いた。
「本懐を……遂げてほしい」
 薊もまた、そう声をあげた。
 仲間たちの声を聴いて、レフィナードは――。

●決着
 仲間たちの奮闘。そして幾度となく繰り広げられる剣戟の応酬。
 双方、確実に披露していったが、その戦局は少しずつ、そして確かに、ケルベロス達の側へと傾いていった。
 ノエルは、その醜悪な本性をさらけ出し、今やただ、破壊をまき散らす暴風と化した。
(「あの時――私は、自らに着せられた汚名をそそぐこともできず、主君を守ることも、共に死ぬこともできなかった」)
 レフィナードは思う。
(「私は――私は、未熟だった。いや、きっと今も、未熟なのだろう。私は多くの友の力を借りて、ここに立っているのだから」)
 だが、今はそれを、恥だと思うことは無いだろう。
 多くの友の力を借りて、生きている。
 それは決して、恥ずべきことではない。
 人は独りでは生きていけず。
 手を取り合い、生きていくのだから。
「ノエル……ここで私たちの因縁、断ち切る……!」
「ほざくな、木っ端がぁ!」
 死に瀕したノエルが、方向と共に翼をはためかせた。死に際の抵抗か、巻き起こる激しい暴風が、レフィナードへと襲い掛かる――。
「大丈夫、レフィナードの歩みを、とめさせはしないよ」
 そこへと立ちはだかったのは、グレイシアだった。
 おのが身を挺して、レフィナードを庇ったグレイシアに、レフィナードは静かに、小さく頭を下げると、暴風を切り裂いて、飛び出した。
「レフィナード!」
 ノルが叫んだ。その手に輝く『雪熾』の刀身。
 その刀が食らった魂のエネルギーが、今ノルの想いとなって、レフィナードへと注がれた。
「レフィ、行け!」
 ディークスが、言った。
 その想いは、仲間たちも同じくするものであった。
 友の想いを載せて、レフィナードは跳ぶ。その手に燃え盛る、地獄の炎。地獄化した心臓が生み出す、地獄の灼熱。その熱が、想いが、怒りが、正義が、レフィナードの手に、今焔となって燃え盛る。
「あなたを倒したところで失ったものが帰ってくるわけでも、ありません」
 それでも。
 嗚呼、それでも。
 ――――。
「身勝手さはお互い様、でしょう?」
 呟きと共に、その灼熱の拳が振るわれた。外皮を破壊し、中へ、中へ。ノエルの肉体深く、深く、すべてを焼き尽くす焔の拳が、今、今、何もかもを燃やし尽くしながら、すべての思い出を浄化しながら、すべての過去を浄化しながら、突き進んでいく。
「おの……れ……!」
 その白が、焔に焼かれる。
 悪しき白が、猛き赤に焼かれる。
 やがて、その拳の炎が、ノエルの心臓へと到達すると、一際煌々と、焔が巻き起こった。
 やがてその炎はノエルの全身を包み込む。レフィナードはその手を抜き去って、後方へと跳んだ。
 ノエルが燃える。
 悪夢が燃える。
 過去が燃える。
 レフィナードが着地すると同時に、ノエルはその身を、地へと横たえた。やがてその身体がすべて燃え尽きてしまうまで、僅かな時間もかからなかった。

●帰還
 草原――。
 穏やかな風が吹き抜けるその場所で、レフィナードは一人、佇んでいた。
 少しだけ目を閉じて、手にしたペンダントを、強く握った。
 祈りは、ほんの一瞬。
 そして、目を開いた。
 今は、一人ではない。
 仲間たちが、居た。
 友の姿が、そこに在った。
 キースは、その裏手で、とん、と、レフィナードの肩を叩いた。
 お疲れ様。
 その想いを込めて。言葉には出さなかったが、それで充分だった。
「……さすがに、強かったねぇ……? ちょっと休みたいよぉ」
 いつも通りの様子で、グレイシアが言った。敵は強敵だった。
「まったく。肝が冷えたぞ……?」
 ディークスが、言った。安堵の表情を浮かべていた。ひどく、心配させてしまっただろう。
「借りは返したぜ」
 万はそう言って、笑った。万もまた、不必要な言葉をあげることは無い。だが、それだけで、充分想いは伝わるのだという事を、誰もが分かっていた。
 三日月もまた、微笑んでいた。言葉は、いらないのだ。重要なのは、レフィナードが今ここで、こうして友の下へと帰ってきた。そこなのだから。
 仲間たちの様子を、少し離れた場所で、薊は眺めていた。自分は、皆の役に立てたのだろうか? それは、今仲間たちが、こうして無事でいることが答えだ。だが、薊はしばし、自問自答を続けるのだろう。
「……帰ろう? 今度、約束したお菓子作り、教えてほしい」
 ノルが、おずおずと、そう言った。
 約束がある。
 帰る場所がある。
 だから、友へと感謝の想いを載せて。
「えぇ。帰りましょうか」
 レフィナードは、言った。
 もう、独りではなかった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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