地獄のデスマッチ! 死神ボクサー、参上!

作者:雷紋寺音弥

●謎の道場破り!?
 灰色の雲が広がる空の下。手にした地図を眺めつつ、四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)は古びた寺を前にしていた。
「えっと……この場所で、いいんだよな?」
 最近、この辺りで起きている謎の道場破り事件。空手や柔道の道場から、果てはボクシングジムまで見境なく襲われ、その場にいたトレーナーや格闘家達は、全員死亡。彼らの死因は内臓破裂や全身打撲といったもので、まるで熊とでも戦ったかのようだったという。
 この事件の裏に、デウスエクスがいるのは間違いない。そう、自分の直感が訴えているような気がして、リーフは調査に乗り出したのだ。
「道場があるって聞いていたけど、やっぱり誰もいないみたいだな」
 今、彼女が訪れているのは、そんな襲撃のあった場所のひとつだった。寺は寺でも、少林寺拳法の道場を兼ねている寺だ。だが、今となっては師範も門下生も全てやられてしまったのか、誰の気配も感じられない。
 一通り、寺の中を見て回ったが、残念ながら大した手掛かりは見つからなかった。これは少々、勇み足過ぎたか。ふと、そんなことを思い、寺を後にしようとしたリーフだったが。
「へぇ、まだ人がいたんだ。これは、もう少しだけ楽しめそうね」
 突然、後ろから声がした。振り返ると、そこに立っていたのは髑髏型のグラブを装着したレオタード姿の女性だった。
「私はナッキ、死神よ。あなた……ケルベロスでしょう?」
 いきなり自分の素性を言い当てられ、リーフは思わず身構えた。まさか、こいつが今までの事件の犯人か。予想外の邂逅に身が引き締まる思いだったが、ナッキと名乗った死神の方は、随分と余裕な表情を浮かべており。
「私はね、強い人と戦いたいの。強い人と戦って……殺して……それをサルベージすれば、お互いにずっと戦えるしね!」
 そういうわけで、今からお前を倒してサルベージするが、文句はないか。あるのだったら、拳で語り抵抗してみせろ。なんとも身勝手な理屈を述べ、ナッキはリーフに襲い掛かって来た。

●禁断の地獄拳
「招集に応じてくれ、感謝する。四葉・リーフが、廃寺にて宿敵のデウスエクスと遭遇することが予知された。生憎と、連絡がつかない状態でな。大至急、救援に向かってくれないか?」
 出現する敵は、一般人をサルベージした死神が1体だけ。しかし、それでもリーフが独りで勝てるような相手ではないと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に警告した。
「敵の死神は、ナッキと名乗っているようだな。女のボクサーがサルベージされた存在で、既に何人もの人間を殺害し、グラビティ・チェインを奪っている」
 元が一般人だったこともあり、最初は大したことのない死神だったのだろう。だが、いくつかの道場やジムを襲い、そこにいた者達のグラビティ・チェインを奪ったことで、今のナッキは複数名のケルベロスを同時に相手取っても、互角に戦えるまでに成長している。
「元がボクサーということもあって、ナッキはパンチ技を得意としているぞ。直接殴る以外にも、拳を振るうことで発生する衝撃波で攻撃して来ることもあるから、距離があっても油断はできないな」
 その威力は一撃で大岩をも粉砕し、場合によっては戦車の装甲さえも貫通する。音速を超えた拳から発せられる衝撃波は、複数の者を纏めて吹き飛ばしながら防具を砕き、被害を更に拡大させる。
 また、ナッキはボクサーだけあって、フットワークも軽やかだ。そのステップは、時に周囲へ無数の残像さえも発生させ、身体に回った猛毒でさえも振り払ってしまうというのだから厄介だ。
「看板の代わりに、師範や門下生の命まで奪って行く道場破り……これ以上、放置するわけにはいかないぜ。それに、相手が死神だということを考えると、負けた場合は『死ぬだけ』では済まされないからな」
 ナッキの目的は、リーフを殺してサルベージすることで、自分の闘争心を満たせる人形にすることだ。デウスエクス同士であれば、戦って負けても死にはしない。つまり、ナッキに敗北してサルベージされてしまったが最後、永遠に彼女の闘争心を満たすための、サンドバックにされる運命が待っている。
 正に無間地獄、修羅の道。それを抜きにしても、これ以上のグラビティ・チェインをナッキに奪われれば、今に手が付けられなくなってしまう。
 そうなる前に、なんとしても死神ボクサーを倒し、リーフを救出しなければならない。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
カタリーナ・シュナイダー(血塗られし魔弾・e20661)
四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)
巽・清士朗(町長・e22683)
草薙・ひかり(往年の絶対女帝は輝きを失わず・e34295)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)

■リプレイ

●死神ボクサーはアホだった!?
 廃寺で対峙する二人と一匹。強者を求めて格闘家狩りを繰り返して来た死神ボクサーを前に、四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)は早々に覚悟を決めた。
「私をサルベージー!? できるもんならやってみろー!!」
 正々堂々、正面から殴り合おうというのであれば、受けて立つ。もっとも、相手は腐ってもボクサーである以上、拳だけで戦おうとすれば敗北は必至だが。
(「相手の武器はパンチだ……。それなら、キックの方がリーチは上だぞ!」)
 細身で小柄な自分でも、さすがに脚が腕よりも短いということはない。そして、真正面からの殴り合いには強くとも、それ以外の方向からの攻撃には、拳の技は滅法弱い。
「格闘家達の仇も討ってやるぞー! もらったー!!」
 正面から突撃すると見せかけて床を蹴り、リーフは死神ボクサー、ナッキの真上を取った。そのまま、爪先に意識を集中させて、研ぎ澄ました一撃を叩き付けんと脚を振り降ろす。だが……。
「甘いよ! 私のパンチは、対空だってできるんだから!」
 対するナッキも負けじと拳を繰り出して、リーフを叩き落とさんと技を繰り出す。確かに、リーチではリーフの方が上だったが、しかしナッキの拳は音速を超え、衝撃波を竜巻の如く撃ち出せるのだ。
「……うわっ!?」
 空中でバランスを崩され、リーフは何度も身体を煽られた挙句、そのまま床に落下してしまった。
「痛ぅ……。お、お尻、打ったし……」
 落下の際、受け身も取れずに打った尻が痛む。慌てて相棒のウイングキャットであるチビが、彼女の方へと風を送った。
「ふふん! どう? 私の技に、死角なんて……」
 リーフの蹴りを相殺したことで、ナッキがドヤ顔を決めている。が、その台詞を全て言い終わる前に……彼女の頭に、古びた寺の天井部分が、多数の瓦礫となって降り注いだ。
「ちょっ……きゃぁぁぁっ!!」
 哀れ、瓦礫に押し潰され、ナッキはゴミ山の下敷きである。これには、さすがのリーフも唖然としたまま、しばし何も言えなかった。
「な、なんだ、こいつ……。自分で勝手に自爆したんだぞ……」
 室内で考えなしに暴風を伴う技を、それも天井目掛けてブッ放すなど正気の沙汰ではない。グラビティ以外でダメージを受けないとはいえ、なんというかアホ過ぎる。
「遅れてすみません。大丈夫ですか、リーフさん?」
 イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)を始めとしたケルベロス達が、ナッキの開けた天井の穴から降下して来た。
「くくく……待たせたな。さて、敵はどこに……?」
「強者と戦いたいという気持ちは判らんでもないが、問答無用とはいただけ……?」
 同じく、穴より降下して来たオニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)や巽・清士朗(町長・e22683)が周囲を見回すも、敵の姿が見当たらず、拍子抜けした表情で互いに顔を見合わせている。
 奇襲? 拳を受け止める? そんな格好良い登場とは、なんとも違う微妙な空気。まあ、さすがに彼らも、まさか自分の足の下で、死神が瓦礫の下敷きになっているとは夢にも思っていないだろうが。
「……でぇぇぇいっ! さっきから、私の上でゴチャゴチャと! 邪魔するなぁぁぁっ!!」
 偶然にも踏み潰されていたナッキが、瓦礫諸共に上に乗っていたケルベロス達を吹き飛ばした。やはり、デウスエクスだけあって潰されたことによるダメージはないようだが、それでも頭に木片が突き刺さったままなのが情けない。
「なんだ、こいつは……? もしや、戦いを舐めているのか?」
 あまりに斜め上な展開に、カタリーナ・シュナイダー(血塗られし魔弾・e20661)はそれ以上何も言えなかった。
「ん~、舐めているっていうよりも……単なる馬鹿、なのかも?」
 この場合、アリア・ハーティレイヴ(武と術を学ぶ竜人・e01659)の方が、正確に的を射ていると言えるだろう。もっとも、当のナッキは大真面目なのだから、なんというか頭が痛い。
「ちょっと! この私に面と向かって、馬鹿とは聞き捨てならないわね!」
 ドン引きするケルベロス達を余所に、ナッキはまだ勝手に怒っている。自分から自爆しておいて何を言うか。そう、誰もが思っていたが、しかし誰かが再び突っ込みを入れるよりも先に、ナッキの瞳が輝いた。
「あ~っ! そこにいるの、もしかしてM.W.P.Cの草薙選手と稲垣選手!? やったー! 本場のプロでケルベロスな人と、二人まとめて戦えるとか最高じゃない!」
 馬鹿にされたことも早々に忘れ、プロのレスラーと戦えることに歓喜している。
 うん、断言しよう。やはりこの死神、筋金入りの格闘馬鹿だ。しかも、三度の飯より鍛えるのが好きとかそういうストイックな馬鹿ではなく、アホでミーハーなド天然だ。
「最近少なかったんだよね、この手の格闘技系の敵さん」
 自分の名を知ってくれていたことに調子を良くしたのか、草薙・ひかり(往年の絶対女帝は輝きを失わず・e34295)は指を鳴らしつつ身体を解す。そのまま、セコンド役の稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)に目配せすれば、晴香もひかりが何を望んでいるのかを察し。
「折角の異種格闘技戦だもの。特製リングにご招待するわ!」
 広がる鎖が四方の柱に絡み付き、さながらリングロープのように展開されて行く。
 それは、鎖の外側にいる者達を守る鉄壁の壁。そして、同時にナッキと戦うための、バトルフィールドの境界線。
 これで準備は整った。己の戦闘欲求を満たすためだけに、格闘家狩りを繰り返す死神。そんな彼女に引導を渡すべく、決戦のゴングが鳴り響いた。

●炸裂、自爆拳!?
 強い相手と戦いたい。ただ、それだけの理由で多くの格闘家達を死に至らしめ、果ては自分専用のサンドバックを求めてケルベロスをサルベージしようと企むナッキ。
 はっきり言って、彼女はアホだ。天然な性格もそうだが、そもそも自分と戦うための存在をサルベージしたところで、死神の地球侵攻作戦には何の役にも立ちそうにない。
 だが、そんな彼女とはいえ、腐ってもデウスエクス。おまけに、今まで倒してきた格闘家達からグラビティ・チェインを奪っていたのか、無駄に力が強くタフだった。
「死してなお、死神にいいように亡骸を使われるとはな……暫くの辛抱だ、少し待て?」
「はぁ? 待つぅ? ここまで来て、なんでそんなじれったいことすんのよ!」
 あくまで格闘家としての敬意を払いつつ接しようとする清士朗だったが、そんな彼の思惑など、ナッキにとっては知ったことではない。ともすれば、なかなか仕掛けて来ない彼に対し、文句を言い始める始末である。
「戦いに固執し、暴力でしか自己主張の出来ぬ醜い獣が……。むやみに力を渇望する者がどんな末路を辿るか、痛いほど思い知らせてやろう」
 あまりのアホさに興醒めしたのか、カタリーナはリングの外から非情にもナッキに砲撃を食らわせた。が、飛来する多数の砲弾を、ナッキは事もあろうか自分の拳で撃ち落とそうとした。
「そんな砲弾、私のパンチで……って、るぶわっ!?」
 まあ、そう簡単に撃ち落とせれば苦労はしない。案の定、砲弾は盛大に暴発し、ナッキの顔面は真っ黒焦げ。
「好戦的な相手は嫌いじゃないんだけどね。強くなるのはいい事だし……。ただ、それに一般人を巻き込むのは看過できないかな?」
 苦笑しつつ、雷の弾丸を形成しながら呟くアリア。
 こんなアホに負けたとか、色々な意味で可哀想過ぎる。だが、だからこそ放置はしておけないと、形成した雷弾を自らの拳で殴り撃ち出した。
「とっておきだよ。ちょっと痺れちゃうかもね」
 それは、触れただけで竜でさえも痺れさせ、動きを止める魔法弾。食らったら最後、関電は必至……なのだが、とにかく殴ることしか考えていないナッキは、そんなことなどお構いなし!
「上等じゃない! 正面から受けて立ってや……あばばばばっ!!」
 ほら見ろ、言わんこっちゃない。どこからか、そんな声が聞こえてきそうな程に、ナッキの戦い方は無謀極まりない。自分から雷弾に突っ込み、感電していれば世話はない。
「へぇ、自分から攻撃を敢えて受けに行くなんて、魅せ方が分かってるじゃない」
「正々堂々、正面から受けて立とうという覚悟……賞賛に値するぞ」
 もっとも、プロレスラーのひかりにとっては、そんなナッキの戦い方も、どこか共感できるものだった模様。同じく、戦闘民族であるオニキスにとっても、ナッキの姿勢は評価できるものであり。
「……行くわよ! 勝負!」
「くくく……よもや、吾の蹴りを避けるなどとは言わぬだろう?」
 高々と跳躍し、二人同時に必殺のドロップキック!
 さすがに、これは受けられず、ナッキの身体がリングの端まで吹き飛んだ。
「まだまだ! これも持って行けー!」
 相手との距離が開いたところに、リーフが追い打ちのサイコフォースをお見舞いする。しかし、盛大な爆発に飲み込まれながらも……ナッキは爆風を振り払い、実に楽し気な笑みを浮かべて、リーフの方へと突進して来た。
「そうそう! そう来なくっちゃね!」
 そのまま流れるように、骸骨のグラブを嵌めた剛拳で殴る、殴る、殴る!
 急所への直撃こそ辛うじて避けているリーフだったが、しかしこれは、なかなか辛い!
「そ、そんなもん、いくら食らっても蚊ほども効かないぞー!」
 ラッシュを捌きながら叫ぶリーフだったが、それが強がりになるのも時間の問題。徐々にリングの端にある、ポール代わりの柱へと追い詰められ。
「そこね! もらった!」
 止めの一撃とばかりに繰り出されるナッキの拳は……果たして、リーフの顔面ではなく、彼女の後ろにある柱を直撃した。
「ちっ、仕留め損ね……って、えぇぇぇっ!!」
 拳を引っこ抜いたナッキが見上げると、そこには自分の方へと倒れてくる巨大な柱が。調子に乗って柱をブチ壊してしまった結果、折れた柱は非情にも彼女の身体を押し潰さんと倒れ伏し。
「痛ぁぁぁっ!!」
 あろうことが、ナッキは脳天に柱の直撃を食らっていた。本日、二回目の盛大なる自爆である。ちなみに、彼女が勝手に自滅している間に、リーフはさっさと抜け出して、柱の傍から離れていた。
「おのれ、よくも! もう、許さないんだから!」
 勝手に自滅し、勝手にキレる。あまりにアホなナッキの態度に、もはやかける言葉さえ浮かんで来ない。
「今度こそ、あなたを殺してサルベージしてあげるわ! 死ね……って、きゃぁぁぁっ!!」
 拳を振り上げ、再び襲い掛かろうとするナッキ。だが、そんな彼女は唐突にバランスを崩し、顔面を盛大に床へと打ち付けた。
「残念ですね。足元がお留守過ぎますよ」
 見れば、いつの間にかイッパイアッテナの相棒であるミミック、相箱のザラキが、ナッキの足に噛み付いていた。
「なんていうか、もしかしなくても、ネタ選手だった?」
 半ば呆れながらも、セコンドを務める晴香がリーフへと気を分け与えて行く。
 いったい、なんでこんなやつが、死神としてサルベージされてしまったのだろう。色々と疑問は尽きないが……とりあえず、折角盛り上がって来たところなので、最後まで楽しませてもらうことにしよう。

●彼女は土に還ったのです
 死神、ナッキは強かった。しかし、同時にアホかった。
「はぁ……はぁ……。あなた達、なかなかやるじゃない」
 激戦の末、ナッキは既に全身がボロボロだ。その姿だけ見れば、死闘を経てなお倒れない猛者のようにも思えるが、しかし大ダメージの大半が、自分から攻撃に突っ込んで行ったのが原因では笑えない。おまけに、攻撃の度に何らかの形で自滅するため、なんというか頭が痛い。
「とりあえず、リングを囲う鎖を、もう一周させておこうかしら?」
「そうですね。ついでに、身の守りも固めておきましょう」
 アリアとイッパイアッテナが、それぞれにチェインを張り巡らせ、肉体を保護するための言霊を響かせる。あんな相手にラッキーパンチをもらってKOとか、一番考えたくない負け方なので。
「あなたにも、お見せいたしましょう。柔術とは、剣を使わぬ剣術也……」
 繰り出された牽制の拳を軽く避け、清士朗の手刀が擦れ違い様にナッキを斬る。その一撃は彼女の着ていたレオタード諸共に、脇腹部分さえも斬り裂いて。
「お次はこれに耐えられるか? 身体で受け止めたら、大したものだぞ?」
 続けて、オニキスの繰り出したチェーンソー剣の刃が、清士朗の与えた傷を広げるようにナッキへと襲い掛かる。立て続けに斬撃を浴びたことで、ナッキのレオタードはズタボロだ。
「私の拳は敵を屠るための兵器、そこに語る口などない。堪えようのない痛みと恐怖に苛まれながら、貴様は物言わぬ骸となるのだ」
 遊びは終わりだ。そう結んで、カタリーナの一撃が弱ったナッキの身体に炸裂する。瞬間、駆け抜ける凄まじい衝撃。その勢いに耐え切れず……ついに、ナッキのレオタードは、見るも無残な形で弾け飛んだ。
「えぇっ! ちょっ……きゃぁぁぁっ!!」
 慌てて身体を隠そうとするも、破れてしまった服はどうにもならない。胸が丸見えにならなかったことが幸いだが、これはさすがに恥ずかしい!
「この……よくも! こうなったら、あなた達も同じ格好にしてあげるんだから!」
 半ば、ヤケクソになったナッキが、音速を超えた拳で竜巻を呼ぶ。その衝撃はケルベロス達を纏めて吹き飛ばしたが、ひかりは敢えて正面から攻撃を受け止めて。
「……まだまだ! 天から降りた女神の“断罪の斧”に、断ち切れないもの、打ち砕けないものなんて、存在しないよっ!!」
 リングコスチュームを破られながらも、鎖の反動を生かしてカウンター攻撃!
 盛大に必殺のラリアットをブチかましたところで……とうとう、セコンドに回っていた晴香もまた、我慢できずに動いた!
「どんな巨体でも、非実体でも知ったことじゃないわ! 私の投げから逃げられると思ったら、大間違いよ!」
 吹っ飛ばされたナッキの身体を受けとめ、流れるようにバックドロップ!
 哀れ、床に顔面から突っ込んだナッキは、上半身が床に嵌ったまま動けない。
「最後は足で終わりだー!!! 落下して、蹴ーる!!」
「んぐぐ……ちょ、ちょっと待……はうぁぁぁっ!!」
 床から脱出する暇など与えずに、炸裂するリーフの踵落とし。駄目押しの一撃を食らい、寺の床下を抜けて地の底まで叩き込まれたナッキは、そのまま断末魔の悲鳴を上げて消滅した。
「ふぅ……。皆、本当にありがとなー!! 来てくれなかったらやばかったぞー!」
 額の汗を拭きながら、リーフは仲間達に礼を述べる。が、そんな彼女の傍らで、ひかりと晴香の二人はどうにも複雑な表情をしていた。
 本当は、もっと違う形で戦いたかった。次に人として生を受けたら、その時は思う存分にリングの上で戦いたいと。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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