大菩薩再臨~殴り合えば想いは通ず

作者:なちゅい

●ビルシャナの暗躍
 とある建物の中。
 どこからともなくやってきた鳥人間のデウスエクス……ビルシャナが同じ種族と思われる男へと声をかける。
「哲拳法師殿ですな」
「いかにも」
 その男は、屈強な肉体を持つビルシャナ『哲拳法師』。
 太い両腕で相手を殴り倒し、『殴り合えば想いは通ず』という己の教義を直接相手へと叩き込む、力業で相手を説くビルシャナだ。
「……貴殿に力を」
 やってきたビルシャナが哲拳法師へと触れ、自らのグラビティ・チェインを流し込む。
「おお、これは……!」
 体に溢れるその力に、哲拳法師は大きく目を見開く。
 一通り強化を終えたビルシャナは、哲拳法師へと告げる。
「さらなる仲間の元へ。ご同行を」
「うむ」
 そうして、2体のビルシャナは建物を出て、いずこともなく去っていくのだった。

●動き出すビルシャナ勢力
 ヘリポートにて。
 新たな事件の状況確認、及び、依頼参加の為、駆け付けたケルベロス達。
「皆の活躍で竜十字島のゲートが破壊できて、ドラゴン勢力の制圧地域の解放が進んでいるのだけれど……」
 彼らへと、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が説明を行う。
「その一部が、ビルシャナの菩薩の1体、天聖光輪極楽焦土菩薩によって破壊されてしまったんだ」
 天聖光輪極楽焦土菩薩はドラゴンの制圧地域を破壊して奪ったグラビティ・チェインを利用し、ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に強力なビルシャナを集結させようとしているらしい。
「この暴挙、見逃すわけにはいかないよ」
 ドラゴン勢力のグラビティ・チェインによって生み出されたビルシャナと、その力でビルシャナ化したか、或いは、その力で強化されたビルシャナ達を、見つけ出して撃破しなければならないだろう。

 事件が起こるのは、ミッション破壊作戦が出発していなかった『34-3 宗像大社』の近く、福岡県福津市だ。
 この地、福間駅近くに、ビルシャナ2体が現れる。
「まず、1体は天聖光輪極楽焦土菩薩の力で生み出されたビルシャナだね」
 こちらは、宗像大社の破壊により生み出された竜牙兵ベースのビルシャナだ。
 こいつは新たに一般人をビルシャナ化、もしくは元々存在していたビルシャナを強化し、仲間を集めに回っているようだ。
 戦闘においてはジャマーとしてビルシャナとしての力を使い、サポートに回るようだ。
「もう1体は『哲拳法師』。先のビルシャナによって強化された相手だね」
 このビルシャナは拳を通じて、『殴り合えば想いは通ず』という教義を相手に叩き込もうとしてくるようだ。
 クラッシャーとして拳で殴り掛かってくる他、呼び寄せた屈強な祖霊に殴り掛からせてくることもあるらしい。
「現地の状況としては朝、通学、通勤時間帯だね。人が多いところでの襲撃だから、ある程度の人的避難は必須だよ」
 また、今回はドラゴン勢力のグラビティを奪った強敵2体ということもある。
 下手な備えだと人的被害が出たり、ケルベロス側に被害が出かねないので、準備は万全にしておきたい。

 一通り説明を終え、リーゼリットはさらに続ける。
「強力化したビルシャナは、一般人を導く力を強化されているようだね」
「ここでビルシャナ達を撃破できなければ、さらに多数の人が導かれてビルシャナ化してしまうわね……」
 それに、ユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)も合いの手を入れる。被害が拡大するのは間違いないだろう。
「ただ、ビルシャナ達も強力すぎる力を持て余している部分があるようだよ」
 自らの教義に疑問を抱かせたり、あるいは、ケルベロスに自分の教義を褒め称えられたりすると、戦闘に集中できなくなって隙ができるかもしれない。
「とにかく、ビルシャナ大菩薩を再臨させることだけはさせてはならないよ」
 その為にも、ビルシャナ達の撃破を。
 リーゼリットは改めて、ケルベロス達へとそう願うのである。


参加者
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
除・神月(猛拳・e16846)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
岡崎・真幸(花想鳥・e30330)
之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)
皇・露(記憶喪失・e62807)

■リプレイ

●殴るだけでOK?
 福岡県福津市。
 ケルベロス達は朝、通勤の時間帯に目的地へと向かっていて。
「宗像大社の回廊をいつかは潰しに行く予定だった」
 岡崎・真幸(花想鳥・e30330)は元ヤンである過去もあって眼光は鋭いが、年相応のダンディさも感じさせる彼は思う。
 攻撃の機を窺ううちに、ビルシャナに先手を打たれてしまった。
 この近辺は、彼の妻が幼い頃に住んでいた場所に程違い地域。
 過去と向き合えていない彼女は、この地がなくなれば、トラウマが克服できないだろうと真幸は考える。
「俺の勝手な感情だが、放置するわけにはいかない」
 ただ、他のメンバーは相手の単純明快な教義が気になり、参加した者もちらほら。
「『殴り合えば想いは通ず』??? それはそういう特技かの?」
 まだビルシャナの姿が見えないことをいいことに、灰色の髪をベリーショートにした服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)はそんな疑問を口にすると。
「殴り合いで全てを解決する……非常に分かりやすい相手ですわね!」
 長い灰色のくせっ毛を揺らす皇・露(記憶喪失・e62807)は、楽しそうにその姿勢に乗っかる構えだ。
「今までと違って、ビルシャナの教義を否定するどころか、同意してもいいって楽でいいな」
 銀の長髪を纏めた神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)は、軽いノリで思う存分殴ろうと考えていた。
 しかし、クール系少女の機理原・真理(フォートレスガール・e08508)はそんな仲間達の態度にそっけなく言葉を漏らす。
「……そもそも、殴り合わなくても気持ちが通じるのが一番なのですよ」

 福間駅へと到着したケルベロス一行。
 ほぼ同タイミングで飛来してきたのは、2体のビルシャナだった。
「しばし、勧誘をば」
「いいだろう。存分に語ってやろうぞ」
 無感情な言葉の竜牙兵ビルシャナに対し、筋肉隆々のビルシャナ『哲拳法師』は力強く拳を握りしめて。
「『殴り合えば想いは通ず』。存分に殴り合おうぞ」
 早速片っ端から殴り掛かろうとするビルシャナ達の動きもあり、ケルベロス達もまた素早く戦闘態勢を整えようと各自動く。
「また頓痴気なビルシャナが……迷惑な話です」
 着物姿の少女、之武良・しおん(太子流降魔拳士・e41147)は呆れながらも、駆け付ける警察隊へと人々の避難要請を行う。
 この駅は東西に入口があるが、敵が現れたのは西のみやじ口。
 バスや電車の運行を止めるわけにはいかぬと、しおんは交通機関にも助力を願っていたようだ。
「ここは危険じゃぞ、早く離れるのじゃ」
「駅で手早く電車に乗るか、東のさいごう口まで逃げろ」
 無明丸は割り込みヴォイスを響かせ、真幸はわかりやすく避難方向を指示しつつ、駅に向かう一般人を庇うよう位置取っていく。
「殴り合い……すばらしいですわ! 両者の本音を全て引き出すには打ってつけですの!」
 普段のスーパーヒロイン風のコスチュームを身に着けた露は、声高に哲拳法師の教えを褒めてみせる。
「ほう……」
 そんな露へと哲拳法師が振り返り、ゆっくりと近づいてくる。
「分かりやすくてええやんか。ごちゃごちゃ言うよか動いた方が早いわ」
「殴り合って気持ちが分かるとか、スゲー楽で良いナ!」
 やや適当な感もある虎娘、八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)はにこやかな顔で教義に賛同を示すと、豪放磊落といった態度の除・神月(猛拳・e16846)も大きく頷いて。
「やっぱ、言葉とか文章だと伝わりづれーモンもあるしヨ。シンプルイズベストってやつだナ」
 神月も他メンバー同様に論戦を繰り広げる作戦をとっているが、ストレートすぎる教義は彼女もまんざらではないようで。
「あたしも殴って、気持ちを伝えさせて貰うゼ!」
 殺意のオーラを纏い、神月は肉弾戦に臨む。
 最初は、法師に対して賛同からという作戦。この為、真理は相手を牽制しつつも、一旦成り行きを見守る。
「殴り合いで通じる。……わかる」
 男同士なら……とは限らないのは置いといて。そういう行為もなければ、言葉を紡ぐのは難しいと瑞樹は告げる。
 夕日をバックに殴り合うことができれば一番と瑞樹は考えていたが、通勤時間帯であるのがやや残念だ。
「……だから、ここで思いっきり、てめぇらを殴ってしまってもいいんだよな!」
「どうあれ! 殴りたいというなら存分にするがよい! わしもそうする! 殴り合いじゃッ!!」
 瑞樹、無明丸の脳筋メンバーにはこの上なくドストレートで楽とすら感じる依頼。
 それを、後ろから見守るユリア・フランチェスカ(慈愛の癒し手・en0009)は真幸の依頼もあり、ジャマーとして仲間達のサポートに当たるようだ。
「今日は実に気分がいいな」
 上機嫌な哲拳法師に対し、戦籠手を装着したしおんは真顔で一言。
「何を言ってるか分かりませんが、とりあえず殴りますね」
 すると、それまで黙っていた竜牙兵ビルシャナが哲拳法師の背後へとついて。
「助太刀いたします」
「任せる」
 そっけないやり取りを目にしつつ、瀬理は笑いながら拳に力を集め始めて。
「ほな、やろかー」
「さぁ! いざ尋常に……勝負ッッ!!」
 無明丸も合わせ、ビルシャナ達の抑えの為、敵へと飛び込んでいくのである。

●本当に思いは伝わるのか?
 駅の周囲では、駆け付けた警官隊が通勤中の人々の避難誘導へと当たる。
 その中で、サポーターとして駆け付けた泰地が速やかな避難誘導へと務めていて。
「ここはオレ達ケルベロスに任せて、速やかに避難してくれ!」
 割り込みヴォイスを響かせる彼は時に、体勢を崩して転びそうになった一般人を抱え、直接この場から引き離そうとしていく。
「いざ、参る」
 ケルベロス達は、上機嫌になった哲拳法師はそのままに、まずは淡々とその支援を行う竜牙兵ビルシャナの討伐へ。
「…………来たれ、亡者どもよ」
 こちらは直接殴り掛かってくる素振りは見せず、取り出した経文から次々に亡者を呼び出し、ケルベロスを襲わせてくる。
 亡者は攻撃するとすぐ崩れ落ちるが、毒を与えてくるのが面倒なところ。
 そちらへと、露が飛び込んで。
「拳だけでなく、ヒップもいかがかしら!?」
 露は掌から発生させた高エネルギー体をお尻へと纏わせ、そのままヒップアタックを繰り出す。
「めんどくさい説得がないって、ホントいいな」
 ビルシャナ相手の戦いにかかわらず、相手の主張を否定するなど考える必要がないこと。
 それにいっそすがすがしさを感じる瑞樹は、自らに降ろした御業から炎弾を発射し、同じく竜牙兵ビルシャナの体を焦がしていた。

 一方で、盾役メンバーは哲拳法師への牽制を続けて。
「殴り合って理解出来るなら、殺し合いや戦争は発生しねえよ」
 エスカレートして殺し合いとなったり、力量差で殺したりする方が割合多い。理解し合えるのは、同等の力、思考を持つものに限らせる。
 真幸は挑発混じりに敵へと呼びかけながらも、異界の神を一部呼び出す。
 眠る神による感応術。白昼夢を見せつけることで、相手の攻撃を鈍らせるグラビティだ。
「お前の教義は暴力に正当性を持たせたいだけの言い訳だ」
 徐々に攻撃意欲を鈍らせる哲拳法師へ、さらに真理も続ける。
「『殴り合えば』って言うですが……」
 そこで前へと飛び出してきたのは、彼女のライドキャリバーのプライド・ワンだ。
 機体を燃え上がらせて突撃していくプライド・ワンに合わせ、真理はさらに呼びかける。
「貴方の教義だと『想いが通じる』っていう認識だけが相手に伝わるだけで、肝心の想いがどんなものなのか伝わってないですよね……?」
 直後、『神州技研製アームドフォート』より銃砲を発射し、彼女は相手の抑えへと当たる。
「……いずれ、伝わるようになる」
 反論こそしたが、相手は多少の戸惑いも見せながらも、教義を伴う一撃で殴り掛かってくる。
 下手をすれば、それだけで敵の教義に惑わされることがある。
 殴られた神月は脳内に広がるその考えに抗いながらも、哲拳法師へと問いかけた。
「テメーの教義は良く分かったけどヨ、あたしの想ってる事は伝わってんのカ?」
 ならばと、神月も試しに自身の考えを強く抱く。
 そして、殴り合い全肯定という教義もあり、彼女は思いっきり降魔の拳で哲拳法師へと殴り掛かっていく。
「まさかビルシャナの不思議パワーで伝えただけで、あたしの気持ちが分からねーとかだったら意味ねーからナ、ソレ!」
「むう……」
 ケルベロス達を解き伏せる論法を、哲拳法師は考える素振りを見せる。
 もしかすると、ビルシャナに似合わず、脳筋ゆえに敵もそこまで考えてなかったのだろうか。
 そこへ、瀬理が飛び込んで。
「なぁ! うちは! あんたらが! 大っ嫌いや!」
 敵の教義に賛同するゆえに、瀬理は『嫌いだから早く消えて』という思いを込め、戦籠手で殴り掛かりつつ鋭い突きを繰り出す。
 敵もただ殴られるばかりでなく、煌めく光を伴って連続殴打を浴びせかけてくる。
 拳の連打は広範囲に及び、盾役となるメンバー達を痛めつけてきていた。
 惑わされ、威圧に身を竦ませる仲間に、真幸は箱竜のチビへと属性注入による仲間の耐性強化に当たらせていく。
 そして、自らはダメージと異常の重なる仲間の為にと星辰の剣で地面に魔方陣を描き、思考の回復に当たっていく。
 同じく、ライトニングロッドを手にするユリアは立ち位置も利用して雷の壁を張り巡らせ、手早く敵のグラビティの残す悪影響を消し去るよう、尽力していた。

 その間、他メンバー達は竜牙兵ビルシャナを追い込んでいく。
 しおんは相手の攻撃に十分注意する。浄罪の鐘の音などは、時に彼女や仲間達を惑わそうと鳴り響いていたのだ。
「どんな主張を行うビルシャナでもデウスエクスであり、人類の敵であることには変わりはありません」
 油断は大敵としおんは達人の一撃を拳で打ちこみ、敵の体表をグラビティによって凍り付かせていく。
「わはははははははっ! わはははははははは!」
 さらに、無明丸が間髪入れず、笑いながら攻撃を行う。
 一応日本刀を下げている無明丸だが、出来る限り拳での応戦を心掛け、強かに殴り掛かる。
「…………」
 清めの光を放つ竜牙兵ビルシャナは自分達の回復へと当たるものの、すでに苦しむ状況となっていたようだった。

●伝わることのない想い
 市民の避難も順調に進む。
 サポーターの泰地がある程度避難が済んだことをメインメンバー達へと示し、戦線へと加わってくれる。
 とはいえ、すでに竜牙兵ビルシャナはボロボロな状態。
「南無阿弥陀仏」
 そこへ、しおんは握りこぶしで法を説き、竜牙兵ビルシャナを三昧の境地に導かんとする。
 まるで、ガンジーが助走付きで殴るような、ありえない状況というような強烈な一撃。
 それに、竜牙兵ビルシャナは卒倒してしまい、その身を徐々に崩してしまう。
 しおんはさらに、残る哲拳法師へと呼びかける。
「老若男女問わず、殴り合いができると? もちろんあなたも殴られるつもりはあるんでしょうね」
「無論だ」
 哲拳法師は盾役となるメンバー達へと殴り掛かっていたが、呼び出した屈強なる祖霊へと彼らをすり抜けるようにしてしおんを殴り掛からせていく。
 彼女は大きく突き上げられるように宙を舞い、受け身すらできずに地面へと落ちていった。
 幸い、大事に至らぬしおんは再び起き上がりはしたが、まだあどけなさも残る彼女を本気で殴りつける状況に、この場のメンバー達の冷ややかな視線が哲拳法師へと集まる。
「む……」
 僅かに怯む敵へと、プライド・ワンが激しくスピンを仕掛けていき、主である真理も哲拳法師の屈強な体へと砲弾を撃ち込み、肉の鎧に傷をつけていく。
 さらに、瑞樹が螺旋の力を込めた掌で触れ、内部から敵の体を破壊しようとした。
 見た目楽観的な態度の瑞樹だが、この場で敵を仕留めようとする態度には、彼の責任感の強さも窺える。
「くっ……」
 瑞樹にただならぬプレッシャーを覚えた哲拳法師はひとまず下がり、体勢を整えようとするが、すでに竜牙兵ビルシャナの姿はなく、回復支援も受けられぬ状態。
 そこへ、神月が追撃をかける。
「そろそろ、あたしの想いは伝わったカ?」
「もっと殴り合いたいということか?」
 すると、神月は首を横に振った。
 バトルジャンキーであり、彼女が心底殴り合いが好きなのは事実。
 だが、彼女は魂を喰らう降魔の一撃で哲拳法師の頬を殴りつける。
「はやくテメーをブッ倒しテ、面白教義の魂を喰ってやりてーって事だヨ! 言わせんな恥ずかしイ!」
 敵も大きく体を煽られはしたが、しっかりと地面を踏みしめて再度眩い光を発しながら拳での連打を繰り出す。
「まだまだ、殴り合いが足りんのか……?」
 戦いながらも、哲拳法師に迷いが見え始める。
 そんな敵へと、瀬理は嫌悪と拒絶をたっぷり込めた嘲笑を浮かべて。
「早よ消えて」
 瀬理は敵の体を足蹴にし、痺れを与えるほどの一撃を叩きこんでいく。
 真幸は確実に敵を押しているのを俯瞰した態度で見つめながらも、天使の翼を広げてオーロラの光を発し、仲間達を包み込んでいく。
 彼の箱竜チビもある程度、メンバーの強化を済ませたタイミングで攻撃に転じ、ブレスを吐きかけていく。
 ユリアもまた極光を放ち、教義を叩きこもうとしてくる哲拳法師の拳によって惑わされるメンバーを正気に戻していく中、露が拳に高エネルギー体を纏わせて。
「殴り合いなら、負けませんわ!!」
 強かに相手を殴りつけた露はさらに仲間の攻撃の合間を見て、哲拳法師に呼びかける。
「殴り合いで全てを決めるなんて野蛮ですわ!」
 そんなものは、ただの暴力行為でしかなく、何の解決にもならない。
「話せば済む事ですわ!」
 今度は「零の境地」を拳に載せ、露は強烈な一撃を叩きこみ、敵の体を僅かに硬直させてしまう。
「御託はもういいでしょう。本懐を遂げますよ」
 さらに、先ほど吹っ飛ばされたしおんが仕掛け、光り輝く「聖なる左手」で相手の体を引き寄せ、漆黒を纏いし「闇の右手」で殴りつける。
「殴り合えば想いは通ず。通じぬ者はただ死すべし!」
 その瞬間、しおんは相手を惑わせるべく教義を褒め称え、その肉体を粉砕するかという衝撃を叩きこむ。
 思いっきりダッシュした無明丸が敵を休ませない。
「さあ! いざと覚悟し往生せい!」
 すでに、自らの教義の正しさが揺らぎかけていた哲拳法師の顔面目掛け、無明丸はグラビティ・チェインを籠めておびただしく発光する拳を打ち込んでいく。
「ぬぅあああああああーーーッッ!!」
「ぐうううっ……!」
 無明丸の攻撃によって大きく仰け反ったそいつへ、真理が飛び込んで。
「想いは通じるなんていう割に、私達の気持はちっとも分からないのですね。分かろうとも、してないのでしょうけど」
 グラビティを込めた己の拳で真理は敵の熱い胸板を殴り、貫いてしまう。
 ――何とか戦わずに共存出来る方法はないのか探したい。
 そんな想いを胸に抱いていた真理だったが……。
「お、おああっ……」
 拳を引き抜かれた哲拳法師は目から光を失い、そのまま前のめりに崩れ落ちていく。
 そこに残された戦籠手。しおんがそれに気づいて拾い上げていたのだった。

●殴り合いの果てに
 ビルシャナ達を倒し、無明丸は拳を突き上げて。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
 その勢いのままに、ケルベロス達は事後処理に当たる。
 徐々に、この福間駅近辺も人並みが戻ってくるだろう。
 メンバー達は作業を終え、解散するタイミング。
「嫌いって気持ちは、拳で伝えるだけでええかも知れんけど」
 瀬理はスマホを取り出しながら、独り言つ。
 それに、仲間達も耳を傾けて。
「好きとか大切にしたいって気持ちは、行動だけやのうて、言葉でも伝えたいもんやね」
 自身の大切な妹を思い浮かべる瀬理はスマホ越しでその妹に土産のことを尋ねると、メンバー達はそんな彼女を微笑ましげに見つめていたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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