●ゴーンと鐘が鳴る音がする。
ここはとある寺近く。
一体の黒いビルシャナが、月桂冠をかぶったペンギンのようなビルシャナと『祭』と書かれた大きな団扇を持つニワトリのようなビルシャナに力を授けていた。
「聖ガンダーラ帝国OKペンギン『八月』、音頭のボン・ジリよ。ビルシャナ大菩薩の再臨のため、より多くのグラビティ・チェインを捧げよ……」
黒いビルシャナは物々しくペンギンとニワトリのビルシャナに告げ、掻き消える。
「うむうむ、再臨いいよネ!」
ペンギンこと聖ガンダーラ帝国OKペンギン『八月』はしきりに頷き、ニワトリこと音頭のボン・ジリは飛び上がった。
「再臨祭りじゃーい! ワッショーイ!」
二羽は顔を見合わせ、ハイタッチする。
「祭りってぇ!」「いいよネ!」
●ドラゴンの置き土産
ヘリポートで香久山・いかる(天降り付くヘリオライダー・en0042)は、竜十字島のゲートが破壊された影響の余波により、ビルシャナが活動を始めたことをケルベロス達に告げた。
「ドラゴンの制圧地域の一つが、天聖光輪極楽焦土菩薩っちゅうビルシャナによって破壊されたんや」
破壊によって得たグラビティ・チェインを、菩薩は仲間の強化に使っているらしい。
「菩薩の目的はビルシャナ大菩薩の再臨や」
ビルシャナ大菩薩の再臨を許すわけにはいかない。天聖光輪極楽焦土菩薩が生み出す強化ビルシャナ達を見つけ次第狩らなければならない。
「というわけで僕も早速二体の強化ビルシャナを予知したで! 聖ガンダーラ帝国OKペンギン『八月』、音頭のボン・ジリという奴らや!」
といかるが依頼のターゲットの名前を告げた。
「この二羽が人を教化してグラビティ・チェインをゲットする前に、倒すで!」
二羽はかわいくてふざけたナリをしているが、天聖光輪極楽焦土菩薩が得たドラゴンのグラビティ・チェインで強化されているため、厄介だ。
「けど、急に強い力を与えられたさかい、まだ十分に力を使いこなせてないみたいやね。自分の教義に疑問を抱かせたり、逆にめっちゃ称賛されたら、気もそぞろになってスキが生まれるかもしらん」
聖ガンダーラ帝国OKペンギン『八月』は何でもかんでもOKするのが教義だ。
そして音頭のボン・ジリは何でもかんでも祭にして大騒ぎするのが正義というのが教義だ。
ボン・ジリが挑発しながら守りを固め、八月が回復に徹するという盤石の体制で対抗してくる。
「一般人をビルシャナにされる前に、片づけてほしいんや。頼んだで」
と言うといかるはヘリオンに乗り込んだ。
参加者 | |
---|---|
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859) |
ペテス・アイティオ(オラトリオのヤバくないほう・e01194) |
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214) |
コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233) |
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083) |
美津羽・光流(水妖・e29827) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272) |
●毎日がハレの日
ビルシャナ大菩薩再臨祭で意気投合しているビルシャナ二体の前に、ヘリオンから飛び降りてきたケルベロス達が立ちはだかる。
「面白空間に来てもうたな。ほな祭りといこか」
法被に鉢巻き、褌と音頭のボン・ジリに負けず劣らずお祭りルックの美津羽・光流(水妖・e29827)は小さく息を吸い込むと、大声で叫んだ。
「ビルシャナ祭り! ワッショイ!」
ぶぅんとケルベロスチェインを振り回し、光流は己を中心に守護の円を描いた。
「わわっ、ケルベロスなのじゃ! ケルベロスいいよね! たおしたい!」
聖ガンダーラ帝国OKペンギン『八月』が跳び上がって羽ばたく。もちろんペンギン型なので飛べない。
「再臨祭じゃぁーい!」
ブォンブォンとボン・ジリが手にしている巨大な団扇をぶん回す。
祭りの旋風が巻き起こり、ケルベロスの衣服を舞い上げた。
「――緋の花開く。光の蝶」
強風など無いがごとくゆらりゆらりと優雅に飛ぶ緋色の蝶。使い手のイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)はそっと微笑む。
「うん、お祭りいいよね。でも、お祭りは大騒ぎするものじゃないよ」
御霊とか慰める行事だから、感謝してちゃんと厳かにしないとダメだからね。とイズナは言うも、ボン・ジリはクケケーと吠えた。
「お祭りは騒いでなんぼじゃーーい!」
「お祭りは確かに楽しいし、ボクも好きだよ」
と言いながら、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は空中から突き刺すような蹴りをボン・ジリに見舞う。
「でも、祭りというのはその特別感も大事なものだと思うんだ……何でもかんでも祭りって言っていたら、もうそれは『ただの日常』になるんじゃないかな」
「毎日お祭りワーッショイ!」
この程度の揺さぶりでビルシャナの狂信が揺らぐことはないようだ。
八月がなんとも愛らしいポーズを決めている。可愛らしさを全力でアピールしているらしい。
「はわわぁ、なんと可愛い生き物なんじゃぁ……」
ユーデリケ・ソニア(幽世幼姫・en0235)がメロメロと目をハートにする。
「まともにしたら負けちゃうわ」
オラトリオの羽の力で時空を凍らせ、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)はため息をつく。
ツッコミを入れようと思えば永遠にいれられそうな連中相手だ。真面目に相手をしていては向こうの思う壺である。
「お祭り楽しいよね、毎日祭りはいいよね。とりあえず今はすぐに! 血祭! 盛り上げましょう!」
生贄はボン・ジリ様よ、とエルスは叫ぶ。
「どんな意見でも極端なのはよくないです! 極論ってのは正論にはならないんです!」
ペテス・アイティオ(オラトリオのヤバくないほう・e01194)はスマホをイジる。
天から唐突に湧いた無人飛行機がボン・ジリめがけて急降下してくる。
「百合咲く舞台、修羅を包む華の芳珠。刃を種に血を吸い上げてほころぶ白の……Ah――――」
高らかな歌声と共に周囲は真っ暗になり、白い花弁が舞い降りる。
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)の声が前衛を癒やした。
「お祭りは日本独自の文化ではないわ。世界各地に有名なお祭りがある……ブラジルのリオのカーニバルとか、スペインのトマト祭りとか。でも、あなたは格好からして日本のお祭り限定だわ。海外のお祭りは一切リスペクトしていない! 既に存在するお祭りすら網羅していないあなたが、何でもかんでもお祭りにする――即ち、新たなお祭りを生み出すなんて偉業、本当に行えると思っているわけ!?」
ボン・ジリは目をまたたかせた。
「服が何でも盛り上がったらええんじゃーい! 服なんかどうでもええからワッショイして楽しく盛り上がったらなんでも祭りなんじゃーい! 細かいことは構わず皆でワッショイしたらええんじゃい! 祭りは来る者拒まずじゃーーー!!!」
オルトロス『アロン』の攻撃を避けながら、けたたましく言い返してくるビルシャナを眺め、コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)はポソリとつぶやく。
「それにしてもボン・ジリって美味しそうな名前ねえ」
きゅっと彼女の桃色の瞳孔が針のように縮む。
エルスへルーンの加護を与え、コマキはフフッと微笑んだ。
「祭りの日に食べたいわねぇ」
「OKペンギン、お主をブッコロコロしてもよいでござるか?」
ボン・ジリを凄まじい勢いで苦無で切り刻みながら、カテリーナ・ニクソン(忍んでない暴風忍者・e37272)に尋ねられ、八月は朗らかに頷く。
「殺意っていいよネ! できるもんならネ!」
護殻の御業をもって、ユーデリケはペテスを包む。
●チョロいな
「わたしの恋人、りゅーくんっていうんですけど、一緒にいると幸せなんですけど、困っている人がいるとすぐ助けに行っちゃうんです。わたしほおって。で、わたしの友達のショウくんはそれが許せないみたいで、よくりゅーくんとケンカしたり自分と恋人にならないかって言ってきたり……わたしはどうすればOKだっていうんですかです!」
ボン・ジリを攻撃しつつ、ペテスが脳内設定三角関係を八月にマシンガントークで相談する。
「いいよネ! 三角関係! 三角関係オッケーだヨ!」
だめだ、動じない。
光流は刀片手にボン・ジリに突っ込んでいく。
「ビルシャナ退治祭行くで! Fooooh!」
パッと散るボン・ジリの体液だが、みるみるうちに傷は修復されていく。
「余がすべてを肯定してやろう」
と厳かに言う八月めがけて、エルスは尋ねる。
「本当になんでもいいの? あなた今すぐ抵抗をやめて自決してもいい?」
「いぃょ……っえ……?」
いつものノリで頷こうとした八月はハタと止まる。
エルスはニッコリと笑んだ。笑いながらニワトリを喚んだ緑の粘菌に食らわせる。
「え? できないの? やっぱりなんでもいいってわけじゃないじゃん?」
「あっ、いやっ……えっ」
バグった。ペンギンバグった。
「さあさあ、ここにありますは一輪の鳳仙花。タネも仕掛けも……あるのよねー、これが!」
コマキがボン・ジリにぶちかます白いホウセンカのエーテル種弾、イズナの螺旋込めた掌底、アンセルムの撒く対デウスエクス用ウイルス、カテリーナの斬撃――。
「死ぬ死ぬ死ぬ祭ぃ~!!」
「あ、うん、それもいいよネ……?」
「よくないんじゃあああい!!」
ボン・ジリが喚くが、混乱に陥っている八月は適当に可愛いポーズを取り、ろくに彼を癒やすことが出来ない。
「おおー、効いとる」
ユーデリケは仲間にヒールをかけながら、ペンギンが戸惑う姿も可愛いのだなと思うのだが。
「……ペンギンって目は怖いでござるよ、本気」
カテリーナはボソリと言うのだった。
アロンの咥えた刃がザックリとニワトリを捌く。八月は今度こそボン・ジリを救おうとするのだが、
「ところでそこの皇帝ペンギン、なんでもOKしてくれるんなら、私たちへの回復もしてくれるわよねぇ? まさか、しないなんて言わないわよね?」
コマキの揺さぶりに八月はおたつく。
「えっ、でも、えっ……あうあう」
「八月ってなんでもOKしてくれるんでしょ? わたしたちにもヒールで回復してほしいんだけど」
あれー? とイズナが小首をかしげる。
「何でも『OK』なんだよね。ボク達の方も共鳴で回復してほしいんだ。OKだよね? OKといいつつ、まさか攻撃してくるなんてないよね?」
アンセルムも追い打ちしてくる。
「はわわわ、余は、余わ……聖ガンダーラ帝国OKペンギン、なんでもオッケー……おっけ……全てをオッケーするが正義……でもケルベロス回復はダメ……あううううOKできぬ、しかし教義、でもケルベロス、はうえばー余」
己の教義の矛盾を突かれてろくなヒールが出せない八月。
哀れ、ボン・ジリは八月のヒールが間に合わぬまま、追い詰められていく。
「ワッショオオオオオイ! ボーンジーリ音頭でワッショイワッショイ!」
捨て鉢のボンジリ音頭でペテスから生命力を吸い上げてなんとかもたせようと必死だ。
「あの音頭、よさこいソーラン祭りとか阿波踊りとかもリスペクトしていないわよね」
キアリの放つ祝福の矢がペテスの体力を補充する。
●盾が崩れればあとはあっという間
致命的なレベルで教義を揺らがされ、メディックとしての仕事が疎かになった八月を尻目に、ケルベロスはボン・ジリを一気に叩き伏せる。
「ボン・ジリって騒ぎたいだけなの? それってお祭り関係ないよね!?」
「関係あるわーぁああい、祭りじゃああああい!」
ボンジリ音頭でイズナを苛みつつ悪足掻くニワトリに、
「祭ならば、出血大サービスで盛り上げねば嘘でござろう。さあさあ、本日新装大開店! 赤字覚悟の出血大サービスでござるよ! お主がでござるがな!」
カテリーナの忍法っぽくない忍法が引導を渡した。
「ぎゃわああああ、ビルシャナ大菩薩再臨わっしょおおい…………」
音頭のボン・ジリの断末魔に、八月はハッと我に返る。
「そ、そうじゃ! 余はビルシャナ大菩薩再臨こそ最優先オッケー事項! それ以外のオッケーはその後である!」
よくわからない理屈でなんとか教義を立て直した八月、ケルベロスめがけて精一杯の可愛いポーズで攻撃する。
またもメロメロしてしまいそうになるユーデリケを、サポートにやってきたミミックを連れたドワーフが守った。
キアリの美声がケルベロスを癒やす。
「あなたたちに力を授けた相手のことを詳しく教えて? OKよね?」
「いいよネ! 天聖光輪極楽焦土菩薩! ビルシャナ大菩薩再臨いいよネ!」
キアリの質問には朗らかにオッケーした八月、アロンの刃を受けても涼しい顔で自身を肯定。調子を取り戻してきたようだ。
「ペンギンさん。攻撃をやめて、だってなんでもいいよね?」
エルスが再度揺さぶりをかけてみるも、
「うむ、オッケーじゃぞ、ビルシャナ大菩薩再臨の後でな!!」
もう八月は揺らがない。
「……うん、まぁいいか。血祭り続行ね。いけにえはペンギンに変更だけど」
エルスは肩をすくめ、黒炎を形成するべく詠唱する。
「紅蓮の天魔よ、我に逆らう愚者に滅びを与えたまえ!」
「来たれ、降りそそげ、滅びの雨よ!」
ペテスがスマホで呼ぶ飛行機がペンギンを潰す。
「畳み掛けるわよ!」
コマキの手の中にある煌く猫目石から生まれる熱無き炎が八月を焼く。
「其は、凍気纏いし儚き楔。刹那たる汝に不滅を与えよう」
空中の水蒸気を氷結させ、槍に変えてアンセルムは放つ。
大地に留められた八月だが、
「それもまたいいよネ!」
と現状をオッケーすることで精神力を補って耐えた。
「よーしよし」
「……む?」
八月がふと視線を上げると、手をワキワキさせた光流がその両手を八月に向けるところであった。
モフッ!!!!
「!!!!!!!!?」
『最果てのもふ』と称されるグラビティは、かつて存在した白い毛玉の妖獣をモフる為に当代の忍者が編み出したと伝えられる『両手で相手をモフる』技だ。
わしゃしゃしゃしゃ。
八月は光流に盛大にモフられた挙げ句、
「いい…………よ……ね……」
昇天した。文字通り。
「確かに可愛い。せやけど俺の恋人の方が可愛い」
すっと立ち、真面目な顔で言ってのける光流。
ユーデリケはそれを聞き、
「あやつの恋人とやらは、いったいどんな可愛いモフモフなんじゃろ?」
と思いを巡らせるのだった。
●帰ろう
危なげなく二体の奇妙な教義――ビルシャナは総じて教義が奇妙だが――をもつビルシャナを撃破したケルベロス。
イズナたちは戦場の片付けを始める。
アンセルムは抱いた少女人形を見下ろし、話しかける。
「楽しいビルシャナだったね。ついでにボク達のことも肯定してもらおうと思ったけど、機会がなかった。少し残念」
「ドラゴン勢力からグラビティ・チェイン奪っちゃうなんてビルシャナもすごいね」
イズナが言うと、
「ドラゴンの隙を狙って空き巣状態とは、ビルシャナもNINJA並みに汚いでござるな。まあ、NINJAにとっては『汚い』はほめ言葉でござるが」
と螺旋忍者のカテリーナが頷く。
「ビルシャナともいつか決着を、です。案外早いかもしれませんねです……」
二体の死体を眺め、ペテスがいずれ来るであろうこの変なデウスエクスと決定的な対峙の時に思いを馳せる中、
「ボンジリ……美味しそうだったわよね」
コマキがつぶやく。
「……何で六月に出てきたのかしらね、八月?」
キアリはふと浮かんだ疑問を口にしつつ、そっとオルトロスと共に戦場を後にする。
本物のペンギンを見たくなったのだ。そして小腹も減ったので、コマキの言葉に触発されたわけではないが、フライドチキンでも食べようかと思っていた。
作者:あき缶 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2019年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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