大菩薩再臨~一番イケてる髪型はハゲ!(大嘘)

作者:質種剰

●鷽と禿鷹、集結
 天聖光輪極楽焦土菩薩は、強襲型魔空回廊の現存していた8つの地域から奪ったグラビティ・チェインを使って、3種のビルシャナを生み出した。
 オーク系、竜牙兵系、ドラグナー系である。
 人間社会に解き放たれたそのビルシャナたちは、一般人を強力なビルシャナへ仕立て上げようと暗躍を始めた……。
「悪意ある嘘、可愛げのある嘘、思い遣りから出た嘘。全て善行であるッ! 嘘は真理へ至る為の標、浄土への道を照らす光にも等しく素晴らしい!!」
「禿げ頭こそ至高の髪型である! 潔く断髪する勇気と日々手間をかけて維持するその忍耐強さや美(よ)し! 古来より体毛を棄て、代わりに智慧を得て文化を醸成させてきた人類は、今こそ頭髪を脱ぎ捨てて新たな高みへ到達すべきである!!」
 薄暗い路地裏。
「鷽自在菩薩、頭髪絶対絶滅させる明王よ……」
 地道に布教活動を続けていたビルシャナ2体へ、抑揚のない声で呼びかけるのは、オーク系ビルシャナ。
「ビルシャナ大菩薩を再臨させるには、より多くのグラビティ・チェインを捧げねばならぬ……」
「ははっ……!」
 畏る2体のビルシャナの内、1体は鷽という鳥に似たビルシャナで、まるまると太ってお腹に妙な威厳がある。
 鷽とは、頭部が黒く、首から腹部が赤みがかった鳥の種類だ。
 鷽自在菩薩と名乗るだけあってその服装は重々しく、長い烏帽子を被って下袴を穿き、まるで平安時代の文官が着るような束帯姿をしていた。
 もう1体は、両腕に携えた巨大なハサミと鋭い嘴から鮮血を滴らせる、大きなハゲタカ鳥人。
 その黒い羽毛に覆われた巨躯へボロ布を引っ掛けただけという出で立ちだが、奴の一番目立つ特徴は、何と言っても白く眩しく禿げ上がってキラリと光る頭だろう。
 ましてやその目は血走っていて、嘴には誰のものとも知れぬ髪の毛を血がついているのにも構わず咥えているのだから、これを狂気と言わずして何を言おうか。
「貴君らの働きに期待する……」
 それだけ言い残して、フッと姿を消すオーク系ビルシャナ。
「はっ、ビルシャナ大菩薩ご降臨と嘘で塗り固められた世界の為に!!」
「ビルシャナ大菩薩ご降臨と、全人類禿げ頭計画の為に!!」
 鷽自在菩薩と頭髪絶対絶滅させる明王は、志気も盛んに布教活動を再開した。
 多量のグラビティ・チェインを得る為に。


「皆さんのご活躍によって竜十字島のゲートが破壊された事で、ドラゴン勢力の制圧地域の解放が着々と進んでいましたが……」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が、深刻そうな面持ちで話し始める。
「残念ながら、残りの地域が、ビルシャナの菩薩の一体、天聖光輪極楽焦土菩薩によって破壊されてしまう事件が起きました……」
 天聖光輪極楽焦土菩薩は、ドラゴンの制圧地域を破壊して奪ったグラビティ・チェインを利用し、ビルシャナ大菩薩を再臨させる為に強力なビルシャナを集結させるつもりらしい。
「この暴挙を見逃すわけには参りません。皆さんには、ドラゴン勢力のグラビティ・チェインによって生み出されたオーク系ビルシャナと、その力で強化されたビルシャナ達を、見つけ出して撃破していただきたいのであります」
 どうかよろしくお願いいたします——頭を下げるかけら。
「皆さんに向かっていただきたいのは、沖縄県本島のアラハビーチ、ホルスタインメイカーなるオークが占拠していた場所であります」
 そこで今、グラビティ・チェインを得る為に事件を起こそうとしているのが、『鷽自在菩薩』『頭髪絶対絶滅させる明王』という2体のビルシャナである。
「鷽自在菩薩、頭髪絶対絶滅させる明王は、『嘘はつき続けると実になり真理へ至る』『禿頭こそが最高の髪型』という教義を吹き込んで信者を増やそうと画策しているであります。皆さんは彼らの開いている集会へ割って入って、2体を撃破なさってください」
 なお、彼らは強化されてからまだ日が浅く、活動を再開したばかりである為、集会に集まっている一般人の説得などは気にしなくて良い。
「ですが、2体のビルシャナは強力な力を得たばかりである為、その力をまだ充分に使いこなせていないようであります。この不安定な時期にもし……自らの教義に疑問を抱いたり、或いは、ケルベロスに自分の教義を褒めたたえられたりすると、戦闘に集中できなくなり隙ができるでありましょう」
 つまりは、彼らの教義——『嘘を言い続ければ真理に至る』と、『ハゲは精神を鍛えるのに最適かつ世界一素晴らしい髪型』の2つを、論理的に否定するかひたすら褒め称えるかすれば、戦闘を有利に進められるようだ。
「今はまだ不充分でも、彼らは一般人を導く力を強化されているようであります。ここで撃破できなければ、多くの人が導かれてビルシャナ化してしまいますから、心してかかってくださいませね」
 かけらは説明を締め括ると、彼女なりに皆を激励した。


参加者
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
ペーター・ボールド(ハゲしく燃えるハゲ頭・e03938)
大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)
白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)
黒須・レイン(海賊少女・e15710)
白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)
井関・十蔵(羅刹・e22748)
ルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)

■リプレイ


 沖縄県、アラハビーチ。
 ケルベロスら8人は、焦土と化した強襲型魔空回廊周辺で信者もとい新戦力獲得に余念のないビルシャナ2体の集会へ乗り込んでいく。
「なまじ真実などがあるから世界は苦痛に満ちるのだ! 甘美な嘘こそ浄土に相応しい!」
「必ずや頭髪を宇宙より絶滅させてみせる! 全人類ハゲ頭計画の為に!!」
 見たところ、でんと構えて反りくり返っている鷽自在菩薩は後衛、血と毛髪のついたハサミを振り回して好戦的な頭髪絶対絶滅させる明王は前衛のようだ。
「ついに見つけたぜ禿鷹野郎!」
 ペーター・ボールド(ハゲしく燃えるハゲ頭・e03938)は、明王の教義に関係なく個人的な恨みから戦意を滾らせて息巻いている。
 実は彼の頭髪を毛根から毟り取った相手こそが、頭髪絶対絶滅させる明王なのだ。
 そんなただならぬ因縁のある敵を前にして、怒りに我を忘れる事なく冷静さも発揮するペーター。
「ほらほらテメーら、散った散った! 側にいると巻き添え食らって危ねーからよ!!」
 菩薩と明王の説法を見物している一般人に聞かせようと声を張り上げ、避難を促した。流石イカした男である。
「嘘は嘘800と言いますが真実はいつもひとつ。なので嘘偽りなく宣言しますわね」
 エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)は、着々と地裂竜鱗砲槌【メーレスザイレ】の爪を開きつつ、まずは明王を油断させるべく熱弁を振るう。
「私にとって殿方の理想の髪型はハゲイコールスキンヘッドです。だってカッコイイではないですか……一切無駄なく毛を剃り落として照り光らせたあの頭部装甲の艶やかさ……たまりません」
 ハゲへ惜しみない賛辞を送るのに加えて、かつて病魔ハゲロフォビアの患者碓氷に対しても、
『あら私は坊主頭の殿方のが素敵だと思っていますわよ?』
 とハゲ増し——励ました己が発言が嘘偽りない言葉だと補足する。現に当時のモヒカンカツラにも彼女のセンスが光っていた。
「今の時代ハゲは恥みたいな文化が根付いているからハゲの方の肩身が狭くなりますのよね……ハゲはもっと広めるべきなのです!」
「その通りだ! ハゲは恥という誤った認識を我々で打ち破るのだ!!」
 頭髪絶対絶滅させる明王は、エニーケの論調に大層気を良くして有頂天になる。
「必ず最後にハゲが勝つ! その気持ちを持ち続けましょ!」
 その隙を突いて、地裂竜鱗砲槌の砲塔から竜砲弾をぶっ放すエニーケ。
「私が憧れるハゲなら! 潔くボートに乗ってください!」
「グェーッ!!?」
 すっかり油断していた明王へ全弾を見事命中させて、文句のつけようもない放送自粛もとい大打撃を与えた。
「フハハハ……我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領!!」
 大首・領(秘密結社オリュンポスの大首領・e05082)は因縁ある鷽自在菩薩へ向かって、自らの苦い経験を思い返しながら語りかける。
「嘘とは己に返って来るものだぞ?」
 何せ、日頃から部下に対して威厳を保もうと見栄を張ったり知ったかぶりを繰り返し、その場のノリと勢いによる言動で自らの首を絞めている事もしばしばなのだ。
 かように嘘で塗り固めた仮面を被って首魁らしく振る舞う、本当は小心者の領だから、鷽自在菩薩の教義を肯定するにしても否定するにしても複雑な心境に違いない。
(「ま、まぁ我が組織はベンチャー企業のようなものだし、商人の嘘は神もお許しと言うから、私の場合はノーカンだな!」)
 もしかすると、内心で己すら騙そうとしている領を、鷽自在菩薩は敬虔な信者だと認識しているのかもしれない。
「嘘は真実に比べれば何も恐れる事はあるまい」
 領の忠告を全く意に介さない鷽自在菩薩だが、
「即ち、ハゲの髪型に対して、嘘の肯定をするならば、お前もハゲにならなければならないということだ!」
 次いで飛び出した指摘には、流石に目を見開いて驚愕した。
「な、何だと!?」
「さぁ、そこなハゲタカよ! 布教の基本は身内からだ! その素晴らしい禿を称賛している鷽を禿にしてあげなさい!」
「成る程、貴様の言い分も尤もであるな! そんな長い髷など不要!!」
 ドブシュッ!!
「止めろ貴様明王の分際で! ギャァァァ我の烏帽子を毟るなッッ!!」
 慄く鷽自在菩薩へ構わずに頭髪絶対絶滅させる明王を煽り立てて、まさかの同士討ちを誘発させる領。秘密結社の大首領の面目躍如といったところか。
 そして、領は菩薩の髪強奪へ熱中する明王を背中から撃つ——もとい手も触れずに爆破させた。
「……明王のトラウマって、抜いた筈の毛がモサモサ生えてくる事だったりして……」
 白石・明日香(愛に飢え愛に狂い愛を貪る・e19516)は黒色の魔力弾を明王へ向かって撃ち込みつつ、そんな事を呟いた。
「ギィャアアアア!! 毛が! 毛がー!! おのれ人類の敵め!!!」
 想像通り、毛が生えたらしき悪夢に苦しむ明王。
 ある意味、世の薄毛に悩む男女にとって羨ましい夢ではある。
「ぐぬぬぬ……! ハゲは不滅……頭髪が世に蔓延るなら幾らでも刈り取ってやるぞ……!!」
「嘘の持つ現実すら跳ね返す力を今こそ我に……! 民が喜び飛びつくセンセーショナルな嘘こそ至高の甘露!!」
 菩薩と明王は、それぞれ決して主張を曲げようとせずに、攻撃を放ってきた。
 血と髪が乱れ飛ぶ斬撃も、豚の集団が木から飛び蹴りしてくる様も、いやに迫力がある。
「うるせぇ! 1人ずつ話せ!!」
 そこでついにキレたのが白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)。
「ったく、2人がそれぞれ違う主張してたら混乱しちゃうだろ。あたし頭あんまよくないんだから、1人ずつ言ってくれよ……」
 パコーンと2体の頭へ景気良く飛び蹴りをかましてから、勝鬨の戦斧とネームドスレイヤーをそれぞれ掴んで高々と掲げた。
「それと、何事もほどほどが一番っていうか……嘘は必要だけどずっと嘘ついてたら嘘の意味もなければ信頼も落とすだろ?」
 嘘を突き続けたら嘘の意味が無くなる——嘘を真理に至る道と定義している鷽自在菩薩にとって、かなり鋭い指摘である。
 嘘は真実の中に少量混じってこそ嘘として悪臭も甘い匂いも放つもの。
 嘘しかない世界になれば、せっかくの嘘が飽和して無味無臭になってしまう。
「ハゲ頭だって、全員ハゲたら個性も何もないじゃないか、それを縛るなんてよくないと思うぜ」
 ミリアは同じ論理で明王へもショックを与えつつ、奴の肩をクロスに斬りつけた。
「まーたビルシャナが変な事言ってるのかー! そっちがそのつもりなら私も容赦なくやったるぜー!!」
 と、囲炉裏の栗のようにポンポン怒るのは黒須・レイン(海賊少女・e15710)。
「今回は個人的な事情もある故、その世迷言、真っ向から否定させて貰う!」
 本人曰く、親しい友の怨敵と相対する故にいつもより真面目モードとの事だが、ぷんすこ怒っている姿は見た目も相まって可愛らしい。
「嘘を言ってると立派な人間になれないとお爺様が言ってたのだぞ!」
 早速レインは『人体自然発火装置』をくっつけたボトルシップハンマーを構えて、ド正論のお説教をかます。
「そうでなくても、偉大な海賊は嘘などつかず! 嘘をつけば信頼が失われる! 信頼の無い者には誰もついて来ない!」
 ハンマーと振り抜くと共に、明王を自然発火した炎で火達磨に包みながら、実に健全な海賊論を振りかざした。
「孤独な嘘吐きが辿り着くのは闇だ、そこには何も無い」
「ぐっ……」
 鷽自在菩薩も、澄み切った赤い瞳に射竦められ、嘘教義を完全否定されては内心の動揺を隠せない。
「ああ、だから私は偽らざる真実を語ろう」
 言いつつ、チラとペーターを見やるレイン。
「禿だって悪くはない。私は、強く生きている奴を知っているから」
 レインにしろミリアにしろ、ペーターがハゲ頭を最高だと信じる気持ちまで無闇に傷つけまいと心に決めて、決してハゲ自体を否定はしない。
「だが、それはそいつ自身の力だ! 決してお前の行為で得た物ではない!」
 レインがどんな教育を受けてきたかよく判り、亡き両親や祖父の人柄が偲ばれる、簡潔にして素晴らしい主張である。
「お前はただ、奪うだけだ! 失わずとも、人は強くなれるはずだ! 私はお母様から賜ったこの髪をくれてやるつもりはない!」
 勇ましく啖呵を切る海賊船長の瞳は、火達磨の明王よりも熱く燃えていた。
 その傍ら。
(「俺がこの歳になってどれだけ頭皮のケアに必死なのか解ってんのかっ鳥公ぉぉ!」)
 井関・十蔵(羅刹・e22748)は何故だかつるっ禿げのカツラを被ったまま、血の涙を流しそうな勢いで忿怒していた。
(「毎朝枕に付いた戦友を弔い、鏡を見る度デコが広がってるような錯覚と戦い続ける日々……それを無に帰そうってかハゲタカ野郎おお!」)
 傍から見れば豊かな毛量を保っているように見えても、十蔵自身は年々戦い敗れていく戦友もとい抜け毛に落胆し、生き残った髪を殊更大切に手入れしてストレスと隣り合わせの日々を送っていたらしい。
(「させねぇ! 髪々の黄昏は俺が阻止してやる!」)
 ちなみに髪々の黄昏と書いてラグナロクと読む。
「ありのまま、真実の姿、そんなものは独善だ! 嘘で塗り固められた姿にこそ人としての輝きがあるのだ」
 ともあれ突然わけの解らない事を叫んで、サラサラヘアーのカツラを被る十蔵。
「今こそ偽りの仮面を被り……俺はハゲをやめるぞぉ!!」
 明王を否定して動揺させる反面、菩薩を肯定して油断させるという、決してインパクトだけでない綿密に練られた作戦の上で発した絶叫だから効果も抜群。
「き、貴様、折角素晴らしいハゲ頭をヅラで隠すとは! 言語道断!!」
 予想通りに明王を激怒させるのへ成功した。
「そぉら、よっと!」
 暴れる明王を見て手応えを感じつつ、十蔵は菊の花弁舞う旋風を巻き起こし、前衛陣へ活力を与える。
「スキンヘッドは嫌いじゃねぇっすけど頭髪を絶滅するレベルはやりすぎな気がするっす! それに、嘘はつき続けても良いことなんてあるはずねぇっす」
 ルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)もルフで、無茶な教義を掲げる明王や菩薩に対して真っ当な義憤に駆られていた。
「嘘は悪の道の一歩って言われてるっす。そんな悪の道に進ませるような教義絶対嫌っすね」
 まずは鷽自在菩薩の教義へ、彼らしい潔癖さの表れた意見を述べる。
「それに、嘘をつき続けても虚しさと偽っちゃったことの罪悪感しか残らねぇっす。そんな嘘だらけで嫌な気持ちになる心理より、本当の真実こそがスッキリした至高じゃねぇっすか?」
「嘘をついたからとて虚しさなど……」
 噛みつこうとする菩薩だが、図星を突かれたのか反論に勢いはない。
 世界を嘘に染め上げる理由の一つとして、罪悪感を無くす事もあったのだろうか。
「んで、嘘と言えばそこのハゲシャナはなんて危険な教義を説いてるんすか!」
 菩薩を着実に弱らせる一方、ルフは魔力を籠めた咆哮と一喝も明王へ浴びせた。
「そもそも髪は外敵から守るために生えてるんすから、絶滅すれば夏の日射しの暑さとか冬の寒さをもろに受けるってことっすからすっげぇ危険なんすよ?」
 ルフの主張は至極正しい。身体の中で一番デリケートな器官である頭部を変化著しい外気温から守っているのだ。
「むぐぐぐ……何も髪に頼らずとも頭皮、いや心の持ちようで」
「精神論で暑さ寒さを回避なんて冷静に考えて無理っすからね!」
 理屈の通らぬ反論をあっさり一蹴されて、ますます目を血走らせる明王。
「テメーにハゲにされた俺だが、だからこそ地獄ヘアーに目覚めてケルベロスになれたわけだからな……ああ認めてやるよ、ハゲは鍛えるのに最適でイカス髪型だ」
 そこへ追い討ちをかけるのが、かつて明王に髪を毟られたペーター。
「だが無理矢理ハゲを増やすやり方だけはイカしてねえ! ハゲは最高の髪型だが、テメー自身はハゲの風上にも置けねぇぜ!」
 明王の卑劣な手口は軽蔑するとキッパリ言い切って、
「全世界のイカしたハゲ達を代表して、テメーだけはここでぶちのめす!」
 地獄の頭髪を青く変化させると、凍てつく冷気を勢いよく噴きつけ、明王を凍えさせた。
「くっ……まだ毟らねばならぬ髪が沢山……」
 鋭い嘴を寒気に震わせながら、ついに絶命する頭髪絶対絶滅させる明王。


「ウソはどこまでもウソにしかなりませんよ。嘘から出た実なんてあるわけないでしょ?」
 明日香は鷽自在菩薩へ向き直って辛辣な言葉を投げる。
「事実は取り消せないのですから……というかあなたそもそもいる意味ないですよね?」
「馬鹿な……!」
 自身の存在すら真っ向から否定されて、菩薩はライトニングロッドから迸る雷以上に衝撃を受けていた。
「現実から目を背けさせてくれる嘘は素晴らしいですわ。妄想の世界から一歩も出たくないですもの」
 エニーケは菩薩の喜びそうな事を言って、自慢の美脚へエネルギーを充填。
「そうであろそうであろ……グェッ!?」
 油断したところへ鋭いローキックを見舞うと、奴を無様に転倒させた。
「地獄じゃ生温い!! 更に底まで墜ちやがれぇええ!!!」
 手にした緋爪を何度も何度も何度も何度も叩きつけ、菩薩を滅多打ちにするのはミリア。
「俺、この戦いが終わったらフサフサの髪でピチピチギャルをナンパしに行くんだ……」
 十蔵は竹光と共に傷の手当てに奔走していたが、攻撃する余裕が生まれると何故か妙なフラグを立てながら、傍刃の卓越した一太刀を菩薩へ浴びせている。
「眠れ。十字架の下に」
 レインはここぞという決戦用の十字架の先端で菩薩へ殴りかかる。
 砲弾射出機構より零距離射撃をぶちかまして、祖父から受け継ぎし武器の威力を見せつけた。
「俺の髪を毟った奴の理屈を認めるのは癪だが、いくら自分に嘘をついたところで無駄だ」
 ペーターはバスターライフルからエネルギー光弾を撃ち出し、菩薩のグラビティの弱体化を狙う。
「事実ってもんはねじ曲がりようがねえ」
 ハゲ頭自体を素直に肯定する事で間接的に嘘を否定し、菩薩を精神的にも追い詰めていく辺り、地獄ヘアーに包まれた頭の回転は速い。
「我撃ち出すは白銀の蛇。その蛙をむしゃっと残さず食らい尽くせ!」
 口寄せの術式が彫られた銀弾を撃ち込むのはルフ。
「き、貴様ッ、我を誰と心得る!?」
 召喚された大きな白蛇に噛みつかれ、菩薩がもがき苦しむ。
「下手に嘘をつくと自分の身に苦境が降りかかることを、過去を遡ってよくよく考えるといい」
 領は自らの言葉に内心自分でもダメージを受けつつ、戦鎚ヴァルカンにグラビティ・チェインの破壊力を宿す。
 天から降るように疾った光の亀裂が凄まじい音と共に鷽自在菩薩を地面へ叩きつけ、その息の音を止める。
「我が破れるなどある筈が……嘘、だ……」
 最後の最後まで菩薩は現実から目を背け、嘘に縋り続けて、逝った。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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