ミッション破壊作戦～モザイクは歌う

■リプレイ

●一
　六月某日、晴天。
　群馬県高山村の山中にそびえる古城を、オニキス・ヴェルミリオン（疾鬼怒濤・e50949）はへリオンの窓から眺めていた。
「あれがロックハート城か。なかなか立派な造りだな」
「ああ、いい城だよな。俺の国にもひとつ欲しいくらいだぜ」
　小国の王族であるフレデリ・アルフォンス（ウィッチドクターで甲冑騎士・e69627）は、冗談めかした返事をオニキスに返すと、
「ま、中にいる蝋燭頭どもはご遠慮願うけどな」
　そう言って古城の魔空回廊へと目を凝らした。
　スコットランドの英雄王ロバートの心臓を預かる居城を模して築かれた、洋風建築の城。そこは今、女性の旅行者を襲う夢喰い『Ｍｒ．キャンドル』の根城と化している。
「今回で５回目の作戦か。大概しぶといよな」
　横星・亮登（百万回失恋した煩悩・e44125）は過去の報告書に目を通し終え、ふうっとため息を漏らした。
　最初の実施作戦は昨年７月。それから１年近くもの間、蝋燭頭のドリームイーター達は罪なき女性達からドリームエナジーとグラビティ・チェインを奪い続けているのだ。
（「ふざけた真似しやがって」）
　亮登は怒りに滾る心を鎮め、仲間達に声をかけた。
「頑張ろうぜ皆。奴らを今日限りで叩き潰すんだ！」
「ああ、よろしく。きっちり役に立ってみせるよ」
　頷きを返すガロンド・エクシャメル（災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925）は、既に降下準備を終えていた。その手際の良さには、半年近い実戦のブランクはまるで見られない。
「撤退の時、道に迷ったら言ってくれ。飛行して先導してみる」
「に゛ゃ。その時はお願いにゃ」
　アイクル・フォレストハリアー（ラディアントクロスオーバー・e26796）はそう言うと、小さな拳をグッと握りしめて闘志を燃やし始めた。隣の座席に座る、宮岸・愛純（冗談の通じない男・e41541）と共に。
「ローソク頭……神聖なるグンマーの地を汚した罪、今日こそ償わせてやるにゃ……」
「おのれおのれ……結婚式場で人気の古城だと……」
　『リア充爆発』と書いた鉢巻を締め、激安ファッションに身を包んだ愛純は、背に悲哀を漂わせ、グラディウスを握っている。
　嫉妬戦士の名に懸けて、此処の敵は必ずや滅ぼさねばならない。
「許さん。絶対に許さん……！」
　リア充もバカップルもデウスエクスも己が正義（独り身的な意味で）に跪かせてやる。
　そんな嫉妬の炎で胸を焦がす愛純の頭上で、降下ポイント到着のアナウンスが流れた。
「着いたみたいやね。行こか」
　グラディウスを抱えた伽羅・伴（シュリガーラ・e55610）が席を立った。
　この剣が振りまく力は、回廊にＭｒ．キャンドルの死体の山を築く事だろう。死の予感を嗅ぎ取ったジャッカルのウェアライダーは、ひとりほくそ笑んでハッチへ向かう。
「いつ見ても綺麗なお城だなー！　今度こそ取り戻すぞー！」
　開かれたハッチから吹き込む風に白色の髪を弄ばれながら、グラニテ・ジョグラール（多彩鮮やかに・e79264）は足下の古城を眺めた。
　これ以上ドリームイーターの被害者を出さないために。観光地の古城に再び人々の賑わいを取り戻すために――。
「絶対……絶対勝ってみせるんだー！」
　決意を胸に抱いたグラニテは、こうして仲間と共に大空へと飛び出すのだった。

●二
　ロックハート城に吹く風は、六月とは思えないほどに肌寒かった。
　先陣を切ってバリアへ降下するオニキスは、風に混じる戦の気配に口端を歪めて笑う。
「さあ存分に刃を交えようではないか。覚悟は良いかＭｒ．キャンドル！」
　回廊に漂う、淀んだ気配。
　それを吹き飛ばすような一喝を、オニキスはグラディウスへと込めて叩きつけた。
「この星に、デウスエクスに明け渡す土地など無い！」
　すぐさま異変を察知したＭｒ．キャンドルの群れが回廊から湧いてきた。オニキスは傲然とそれを見下ろし、吠える。
「連れ去った人々を返して貰うぞ！　五度目の正直だ、今度こそ！」
　オニキスの叫びはあ爆炎となって防衛部隊を飲み込み、爆発で城を揺さぶった。
　そこへ続けて降下したガロンドが、飄々と笑う。
「生きるために狩る、その理屈は分からなくもねーけどさ。この城を狩場に選んだのは失敗だったな、ええ？」
　言葉は軽いが、そこには確かな怒りがあった。
　人々が愛する城に居座り、女性達を狩り続ける。そんな礼儀知らずのドリームイーターに向けた、明白な排除の意思が。
「ホント、目障りなんだよ。消えろ！」
　振り下ろされる一撃。グラディウスはガロンドの意思に忠実に、雷光を放って回廊を打ち砕いていく。
　そんなガロンドとは対照的に、亮登は最初から己の怒りを全開にしていた。
「ドリームイーター、きさまの所業は絶対に許せん！」
　怒りの理由は至ってシンプル。被害者の殆どが若い女性だった事にある。
　女好きではあれども声をかけた相手には振られ玉砕――そんな亮登にとって、傷心の女性を誑かすドリームイーターはそれだけで滅殺の対象足り得た。
「全世界のお姉さんたちのために！　うりゃああああああ！！」
　亮登の怒りが爆炎となって剣から放たれ、回廊を包み込む。
　続いて降下したフレデリも、女性を狙う怒りをグラディウスに込めた。
「傷心旅行に来る女子に無体な真似しやがって！　絶対許さん！」
　かつての作戦で果たせなかった思い。その無念にも利子をつけて、フレデリは渾身の一撃を叩きつける。
「それだけでかい蝋燭頭だ、地獄でもさぞ燃えるだろうな。跡形もなく燃え尽きろ！」
　グラディウスの波状攻撃に為す術なく翻弄される回廊とＭｒ．キャンドルの群れ。それをアイクルは見下ろし、大音声の絶叫を上げた。
「ふざけんにゃ！　あたしが正統派アイドルとして君臨しているグンマーだってのに！」
　主観と願望が多分に混じった発言と共に、アイドルを自称するドワーフ少女は魂の叫びを剣に込める。すっと息を吸い、ここが自分のステージと言わんばかりに胸を張って。
　決めたのだ。
　もうこれ以上、グンマーのアイドルたる自分の目の前で――。
「狼藉を許すわけには！　いかないんに゛ゃ！！」
　爆炎と雷光がロックハート城の魔空回廊を砕き、熔かしていく。
　あちこちで火を噴き始めた回廊を狙い定め、愛純と伴が光剣をバリアに突き刺した。
「振られて旅行に来た女性を誘うという事は！　そこにつけこみ誘惑して新たな恋人の座に居座ろうとしているに違いない！　さては貴様リア充だな！！」
　燃え上がる嫉妬の炎を、残らず爆炎へと変えていく愛純。
「傷心の人ばっか狙うとは趣味悪いわぁ。うちと気ぃ合いそー……なんちゃって」
　くすくすと笑いながら、次々斃れる防衛部隊の骸に唇を歪める伴。
　非モテの怨念と嫉妬を余す事無く込めた中年男の叫びと、弱っている相手を狙う敵に昏いシンパシーを覚える伴の叫びが、
「リア充は死ね！！　死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇ！！」
「観光スポットに必要なんは安心安全。センスのないお客さんには、ちゃっちゃとご退場願わへんとなぁ？」
　一際大きな爆炎と雷光となって、グラディウスの切先から迸る。
　空気が裂ける轟音と共に、真っ白いスモークがケルベロスの視界を埋め尽くしていく中、最後の一人――グラニテが、グラディウスをバリアに突き立てた。
「絶対に……絶対に諦めないぞー！」
　先の戦いで果たせなかった願いを、今こそ果たそうと、グラニテは魂の叫びを紡ぐ。
　犠牲になった人々のため、これ以上傷つく人を増やさないために。
「ほかの人の苦しさや痛みを背負うことは、できなくてもなー……応援してる気持ちは、届けられるはず、だー……！」
　魔空回廊を破壊して、そして掴んでみせる。
　これ以上、人々がＭｒ．キャンドルの犠牲にならない未来を。
　それがグラニテが込めた、魂の叫び。
「だから！　何度弾かれたって、諦めないー！！」
　グラニテの叫びが特大の爆炎に変わり、回廊のど真ん中へと沈んでいった。
　白い光が青空へ突き抜け、ケルベロスの視界を塗り潰す。
　そして――。
「回廊はどうなった……！？」
　翼を広げたガロンドは恐る恐る地面に着地し、回廊の方角を凝視した。
　次第に色を取り戻す世界。
　息を呑むような数秒間の後、伴がぽんぽんと手を叩いた。
「おめでとさん。やったなぁ」
「よっしゃー！　思い知ったか！！」
　拳を天に突き上げる亮登。その横でアイクルはぴょんと飛び跳ねて、
「そうと分かれば脱出にゃ。インプレッサターボ、全速力にゃ！」
　仲間達と共にミッション領域を離脱していくのだった。

●三
　障害物を乗り越え、雑兵を吹き飛ばし、スモークが漂うミッション領域をケルベロス達はひたすら駆けていく。
　そして走ること数分、大きな広場へ辿り着いた先頭の伴が、手で後続の味方を制した。
「気つけてな。……大将のお出ましや」
　言い終えると同時、ひとりでに霧消するスモークのむこうには臙脂のスーツを着た蝋燭頭の紳士が一人。
　ドリームイーター『Ｍｒ．キャンドル』、その首魁に間違いない。
『――……』
「注意しろ、来るぞ！」
　避雷針を掲げたフレデリの声が飛ぶと同時に、Ｍｒ．キャンドルの炎が激しく燃え盛り、猟犬達の罰を鮮明に映し出した。狙いはフレデリのいる後衛だ。
「やらせるかよ、っと！」
　ガロンドは愛純を庇い、猟犬縛鎖を放つ。ミミック『アドウィクス』が噛みつく足を、伸縮自在の鎖が絡め捕り、大蛇の如く締め上げ始めた。
「止まってろにゃ！」
　身をよじって拘束を解こうとするＭｒ．キャンドルめがけ、拳を振り抜くアイクル。大地を割る重い拳と、インプレッサターボの炎を纏う突撃が、夢喰いの身体を打ち据えた。
『……――』
　Ｍｒ．キャンドルは派手に吹き飛んで衝撃を殺すと、颯爽と立ち上がる。
　グラディウスの攻撃に耐えただけはあり、流石に易々とはいかないと言う事か。
　オニキスとグラニテは流星蹴りを叩き込み、速攻で回避を封じにかかった。
（「この威力、クラッシャーか」）
　身体を蝕むトラウマの傷に耐え、派手な軌道で車輪の火花を散らしながら、オニキスは敵を注意深く観察する。
　既に命中は十分に確保出来た。後はスモークが晴れる前に、速攻で撃破するのみだ。愛純は嫉妬で燃え上がる地獄の炎でルーンアックスを包む。
「ぬおおおお！　リア充め嫉妬戦士の裁きを受けてみろ！」
　叫びながら空高く跳躍した愛純が、ルーンの斧で斬りつける。速度と体重と嫉妬を残らず込めた必殺の斬撃だった。
「死ねリア充め！！　あと『しっと魂』、ガロンドを回復しろ！」
「無式寂寞拳！」
　プレッシャーに足を止めた敵めがけ、繰り出される亮登の拳。
　斬撃と殴打の嵐がＭｒ．キャンドルを捉える最中、愛純のナノナノが生成するバリアと、フレデリの雷の壁、そして伴のオウガ粒子が前衛を包み、攻撃の態勢を整えていく。
『――……』
　対するＭｒ．キャンドルは未だ屈さず。
　恭しい一礼で傷を癒し、少しずつ薄まり行くスモークを指さした。それが晴れた時が貴様らの最後だ、そう言わんばかりに。
（「あまり、ぐずぐずしてはいられないな」）
　フレデリはオウガメタルを装着し直すと、後衛へ散布するオウガ粒子で炎の罰がもたらすトラウマを消し去った。
「行けアイクル、あの蝋燭頭に思い知らせてやれ！」
「おっけー、突撃だにゃ！」
　エアシューズで加速するアイクルを、Ｍｒ．キャンドルは業火に映した罰のヴィジョンで迎撃する。しかしその一撃は、ガロンドの鎖に縛られて狙いが逸れ、アイクルの横を空しく通り過ぎた。
「ぶっ飛べにゃ！」
　降り注ぐ流星蹴り。足を砕かれたＭｒ．キャンドルをガロンドが追撃で発射する轟竜砲の弾幕が捉え、回避を完封する。
「雪げぬこの血の呪い、汝にも分けてやろう。祟れ、捕喰竜呪！」
　己が血と、竜の呪いをもたらす混沌水を混ぜた礫で敵を撃ち貫くオニキス。
　直撃を浴びて悶絶するＭｒ．キャンドルめがけ吐き出されたグラニテの氷の吐息が、愛純が跳躍と共に振り下ろすルーンアックスの斬撃が、亮登の『零の境地』を載せた拳が、瞬く間にＭｒ．キャンドルを防戦へと追い込んでいく。
「なーなー、そない頭しおるけども。やっぱ断末魔の叫びーみたいの上げるんかねぇ」
　興味津々といった表情でけらけらと笑いながら、鋼鬼の拳を叩き込む伴。
　悪あがきのように愛純へ放たれた業火が映す罪の傷を、フレデリはエレキブーストで回復すると、仲間達に一斉攻撃を呼び掛けた。
「行くぞ！　決着をつける！」
「Ｍｒ．キャンドル、ぶっ●おおおおおす！　●ぁああああああっく！！」
　アイクルの拳が敵の腹にめりこんだ。
　弾き飛ばされた敵の身体を捉えたのはガロンドの『破滅の足音』だ。具現化された黄金に輝くルーン文字で、蝋燭の頭に爪痕を刻み込む。
「生者を恨む亡者の怨嗟……よお見たってや？」
　そこへ伴が怨嗟で武装した鬼を召喚し、振り上げる拳で玩具のようにＭｒ．キャンドルを吹き飛ばした。地面へ叩きつけられたところに追撃で突き刺さる、亮登の稲妻突き。
「観念せい、幕引きだ！」
　オニキスが巨大なチェーンソー剣を薙ぎ、臙脂のスーツをズタズタに裂いたその時。
　Ｍｒ．キャンドルの周囲が、群青の世界に包まれた。
「きらきら煌めく夜の中で、ひときわ輝くもの――」
　それはグラニテの描く『群青の君』の夜空だ。圧倒的なイメージが蝋燭頭の意識を宇宙へ溶かし、地球の重力に引かれた流れ星へと変える。
「ほら、きみにもきっと見えるはずだよー。だって、あれは」
「うおおおお！！　蝋燭頭のリア充は悪！！」
　大地に激突する衝撃がリアルなイメージと化し、Ｍｒ．キャンドルの体を打つ。
　その真正面から『悪を絶対殺す地獄の業火パンチ』を構えて迫る愛純。エレキブーストで加速した必殺のパンチが、ミサイルの如き一撃となって直撃した。
　それが、最後の一撃。
「地獄の業火に！　焼かれて！　死ねえええええ！！」
『――！』
　蝋燭の頭を砕かれたＭｒ．キャンドルは、そのまま灰となって溶けるように消えた。

●四
　戦闘終了から数分後――。
「危なかったぜー。皆、揃ってるな？」
　領域を離脱した亮登は仲間達の無事を確かめ、安堵の溜息をついた。
　難攻不落であり続けたロックハート城は今日解放された。僅かに残るドリームイーターの兵達も、じきに掃討されることだろう。
　スモークが晴れた古城に、モザイクが蠢く事はもうないのだ。
「良かった。これでもう、犠牲になる人はいないんだなー」
　グラニテはグラディウスが揃った事を確認すると、山の空気を胸一杯に吸い込んだ。
　平和を取り戻したロックハート城は、どんな風景なのだろう。きっと素敵な絵が描けるに違いないと思った。
「それじゃ、帰るのにゃ」
「うむ。良き戦いであった！」
　アイクルとオニキスに頷いて、ケルベロス達は帰還していく。
　そう遠からぬ日、人々の手に戻った古城の姿に想いを馳せながら――。

作者：坂本ピエロギ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年6月13日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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