ミッション破壊作戦~残火

作者:志羽

●ミッション破壊作戦
 ドラゴン・ウォー、お疲れ様と夜浪・イチ(蘇芳のヘリオライダー・en0047)はまず紡いだ。
 ドラゴンのゲートの破壊は大きな成果だと。そして新たな展開を迎えたのだ。
「ドラゴンのゲートを破壊成功したから、ドラゴン勢力のミッション地域の強襲型魔空回廊が消滅したんだ」
 それのよって、ミッション地域の完全開放が可能になったのだ。
 しかし、強襲型魔空回廊が消失したからといって、敵戦力が消えてなくなるわけではない。
「ゲートを失ったから戦力は補充されない。制圧は時間の問題なんだよね。けど、適正威力が自暴自棄になって、周辺地域に攻撃を仕掛けるようなことがあれば、被害は出る」
 だから皆には、強襲型魔空回廊を失って混乱している敵の頭上からヘリオンよりの降下作戦を行い、敵の首魁の撃破をしてきてほしいのだとイチは続けた。
「強襲型魔空回廊が消滅と、続いて首魁を失えば敵勢力も混乱するはず。そうなれば敵では無く、周囲に進撃を行うまでもなく、殲滅する事ができると思うよ」
 降下強襲作戦は危険なものではあるが、皆なら実現できるはずとイチは説明を続ける。
「向かって欲しいのはドラグナーのいる地域。降下して、そのまま敵と戦闘になると思う」
 グラディウスを使い叫ぶ必要は、もうない。
 着地すれば首魁と共に配下たる者達もいる戦場もあるだろう。
 行先を決めるのはケルベロス達なので、まだ攻略されていない地点を確認したりなどする必要もあるとイチは続ける。
「ドラゴン勢力の力を削る機会、まかせっきりになってしまう所も多いけど……よろしく頼むよ」
 皆の決めた、その場所まで送っていくと、イチはヘリオンの中へとケルベロス達を誘う。


参加者
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
平坂・サヤ(こととい・e01301)
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)
狗上・士浪(天狼・e01564)
ナクラ・ベリスペレンニス(ブルーバード・e21714)
深幸・迅(罪咎遊戯・e39251)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)
四十川・藤尾(七絹祷・e61672)

■リプレイ

●叫ばずとも、届く牙となって
 ヘリオンの扉が開け放たれひゅうと風が舞い込んだ。
 強襲型魔空回廊は消失しそこにいるのは残された敵のみ。それが今、暴れているという。
 その現場の上空に今、ケルベロス達はいる。
「ああ、剣持って叫ぶ必要がねえのは有難い事だな」
 疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)は苔色の双眸を己の手に向ける。
 そこに握るべきであったものは今日はない。敵の魔空回廊に踏み込む時必要だったものはここでは不要なのだ。
「何だ、今回魂の叫びしなくてもいいの?」
 ナクラ・ベリスペレンニス(ブルーバード・e21714)はぱちくりと瞬いて。
「一回『俺の歌をきけぇぇぇえっ!』ってやつ、やってみたかったんだけどなー」
 なぁ、ニーカとナクラは傍らのナノナノへと笑いかける。
「という訳で、俺達とスクラム組んでいこうぜ? 鬼のお姉さん」
 添う声向けられた四十川・藤尾(七絹祷・e61672)は嫋やかに笑って。
「あら、何か仰いました……? 若い燕さん」
 よしなに、お頼み申しますと藤尾は皆に向ける。
 そして名倉にはくすくすと笑み返し、上手にかわしてしまうのだ。
「おっかねぇ……おひいさんだな!」
 けらけらっとナクラは藤尾を見て笑う。
 そして藤尾はふっと、足元を見つめた。
(「哀れですね」)
 回廊という縁を断たれた種族の無念さ。
 永遠に、永らえることを諦められず断ち切られた竜たちの望みの……その。
(「なんと残酷で残忍なことでしょう」)
 藤尾は涼やかに、瞳を細めふと息を吐く。
 この足元には――池袋サンシャイン。
 水族館や展望台があるんだよなとウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)は思う。
「しっかりと取り戻して、再び訪れたいね」
 行こう、とウリルは空へ。
 次々とケルベロス達はヘリオンから飛び降りた。
 あとはもう敵の元へ降り立つだけ。
 ひとびとへと襲い掛かろうと声をあげていたリィザードマン。
 しかし、その意識は上へと引っ張られる。
 ひとびとと己の間に降り立ったケルベロス達。
「来たか、ケルベロス……!!」
 リィザードマンは歓喜の声をあげる。
 己の目の前にやってきた者達を見て不敵に、笑ってみせた。
「貴様らの正義とやらを、俺の正義でねじ伏せて悪としてやろう!」
 高らかと紡ぐその声に、とんと地面に降り立って。
「なるほど。お呼びであれば、こたえましょう」
 とんと地に降りた平坂・サヤ(こととい・e01301)は正面から敵を見据える。
「おまえの思惑など知りませんし、乗ってやる必要もないのでしょーけれど」
 でも、たすけを呼べというその言葉は悪くないとサヤは笑って。
「呼ばれて応えるはサヤのつとめですゆえ、今日のところは乗って差し上げましょう」
 その言葉にリィザードマンはそれでいいと笑う。
 どうやら敵は――このリィザードマンだけの様子。
 一対多数ではあるが、敵の力は侮れぬものがあると感じられた。
「特撮……」
 ぼそっと深幸・迅(罪咎遊戯・e39251)は零し上から下まで、その視線を巡らせやっぱり特撮だと思う。
「……特撮で言うなら三下っぽい。首魁、って感じじゃねぇんだよなァ……」
 それでも倒さなければならない相手だということは変わらない。
「ま、ドラゴンサマもゲート叩き潰されて右往左往だ。お前もそろそろ退場しとけ? な? 悪い事言わねぇからよ」
「あれは、ヒーローのつもりなのか、悪役のつもりなのか。どっちなんですかね」
 トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)と呟いて、まぁ、どちらでもいいんですけどと零した。
 叫んだりするのは性に合わず、避けていたけれど――今日は簡単。
「燃やすだけでいいならシンプルで助かります。むしろ得意です」
 うん、とトエルは頷いて燻る地獄の炎を躍らせて。
「火祭りにしてあげましょう……悪役ってこういう気分なんでしょうか」
 にやりと笑ってでも見ればもっとそれらしいでしょうかと紡ぎつつも、戦いに向かう心は真剣なもの。
「悪役じゃねーから! 俺ら!」
 と、迅はトエルに一言。
「……ありゃあ敵なのか、ヒーローなのか」
 構えを取り待っていたのだと高らかに紡ぐ敵の姿を見て、狗上・士浪(天狼・e01564)は眉間に皺をよる。
「……いや敵だな、うん。まぁ、今日で見納めだ」
 見た目はヒーローのようだ。けれど、デウスエクスであることもまた間違いない。
「お前たちは、おとなしく見ていろ! 悪を挫くには一人で十分だ!」
 周囲にいた配下達へと手出し無用とリィザードマンは告げる。
 ケルベロスの言葉にやすやす従うわけがないと高らかに紡いで、リィザードマンはケルベロス達の懐へと走りこんだ。

●正義と正義
「随分乍らくお待ちかねかい? さあさ、戦は派手に行こうぜ」
 ヒコはとんと、一度その地面をつま先で叩いて一足、走り込む。敵が張り仕込むよりも一歩速くだ。
「呼び声応えご期待通り、思いきり『正義』を叩きつけてやるよ!」
 流星の輝きと重力を乗せて蹴り込めば、敵は呻き声をあげて、しかし耐えた。
「……ドラゴン連中の残党処理、か。数年前じゃ考えられねぇこったが……」
 ようやくここまできた、と口端をかすかにあげて士浪が竜槌を振り下ろせば竜砲弾が喰らいつく。
「おかえりなさい」
 サヤは紡ぐ。【小夜坂文庫】収蔵の一節を。仮想値を観測し続けて、再起を齎す。認識、世界の浸食。極少範囲の再構成。開かない箱の中身を書き換えて、悼んだ記憶は未だ明けぬまま。
 記憶の底から重ねる面影と、道の先へと手繰る糸。
 サヤの紡いだ力は前列の仲間達へと注がれる。
 その力を受けて、トエルは走りこむ。
 攻性植物がしゅるりと、その姿を変えて敵へと向かう。けれど敵はそれをかわしてみせた。
 つまり、精度を上げるにはまだ攻撃を重ねる必要があるということ。
 その間にナクラはカラフルな爆発を後衛の皆へ。
 ヒーローものには必要だろうと。そしてニーカは前列の皆の守りを固めていく。
 九尾扇をひらりと躍らせて迅は百戦百識陣を広げていた。
「できるなら、これをラストバトルとしたいね。最初からクライマックスなのも悪くない」
 浮かべた笑みは不適なもの。
 終わりにしよう、とウリルも竜槌を振り下ろす。その砲弾は相手の足を止めるに十分なものだ。
「まぁ、面白い恰好だこと……ふふふ。気になさらないで、わたくしと遊びましょう?」
 その姿を目に、藤尾は微笑を浮かべて――あなた、と。
 ただ一言呼びかける。
 呼んだ女と呼ばれた者。
 死の底に滅めり込む春の上で対峙する二塊の焔のように、その言葉向けられた者の動きを縛る毒の夢。
 或いは――爆発物。敵の身の上で知らぬ間に爆ぜたものがある。
「この程度で倒れると思うな!」
 そう言って敵は踏み込んでくる。伸ばした手。それは手近な相手を捕まえようとするものだ。
 けれど、その間にナクラが割って入った。
 ナクラの腕をつかみ敵は格闘戦をしかける。腕をつかみ投げ飛ばされた。
 けれどその痛みはすぐ、消えていくのだ。
 サヤが巡らせた守りの盾がナクラの前に輝くと同時にその傷を癒していく。
 ナクラは守りが固く、そしてすぐさま向けられた癒しに余裕も生まれる。
 物質の時間を凍結する弾丸を、そのグレートでギャツビーなエアシューズから生み出し放つ。
 そしてもう一手。迅は再び百戦百識陣を、次は後衛へと向けた。
 ウリルは不可視の虚無球体を放つ。それは敵の身を削る様に持っていったのだ。
「むっ……! このような攻撃……!」
 敵は体の一部が消えても、挫けることがない。
 卑怯な! という声にウリルは卑怯もなにもないんだけど、と零す。
 そして敵は光線を放つ構えをとった。
 後方。この戦いで癒しを担っているサヤに向けてだ。
 けれどその斜線上にとんと、軽やかに藤尾が邪魔するように入る。
 その光線の熱は身を焼く。けれど決して耐えられるものではないと藤尾は笑って。
「狙い通りにいかずごめんなさいね」
 まるで挑発するように敵へと告げる。
「――……さぁ、可愛がってくれるかい?」
 その声は良く響いた。
 模した折紙にひとつふたつ。鈴音響き、祝詞に呪式、祷を籠めればその手より蝶たちが飛びだっていく。
 敵のその目を奪うように、ヒコの手より飛び交った蝶達はその役目を果たす。
 次は当てると、走りこんだトエルの手には鉄塊剣がある。その刃に地獄の炎が踊り、敵へと向かって――叩き込まれる。
 炎の次は、氷だ。
 氷結の螺旋を士浪が放つ。氷は地を這うように敵へと向かい、その身の一部を凍らせていく。
「こんな氷など!」
 と、高らかに。敵は叫んで己の身を癒す。それで氷が払われるわけではないのだが、気持ちの問題のようだ。
「ドラグナーにしちゃ変な奴だな。悪役として倒される為にやっているような」
 そこでふと思い浮かんだ言葉をヒコは零す。
「ドエム……」
 しかしすぐごほんと咳払いひとつ。
「特撮みてえな既視感を感じんぜ、そんなに倒されてえならいいぜ、一思いに殴ってやるよ」
 半透明の御業を喚び、その手を伸ばす。これは殴るじゃなくて掴むかと、掌に捕まれ圧される敵へとヒコは言い放った。
「ではサヤは突撃をお見舞いしましょう」
 半透明の御業、その手に続いてサヤが向かわせるドラゴンの幻影が敵の身を押しつぶす。
 ぐぬぬと唸る声が聞こえるが、二つの力を跳ね返すことは敵にはできない。
 そこへ走りこんだ士浪の足は一歩、強く踏み込んで留まり音速超えた拳が叩き込まれ敵を吹き飛ばす。
 続けて、もうひとつと。吹き飛んできた敵へとナクラもまた拳を叩き込んだ。
 もう一つおまけ。ウリルが吹き飛ぶその機動に飛び込んで超硬化した竜の爪が突き出される。
 ウリルの爪は敵の身を貫いて、その血を地へと零した。
 そこへ丁度良いとその傷へと藤尾は己の素手向ける。引き裂いて、その生気を貰ってしまえば丁度良い。
 その血、その肉を抉るようにその手を突き立てる。
 なかなかの強敵、倒すにふさわしいと敵は言う。
 攻撃をかけてもまだ立っている――その身を崩しにはまだ時間はかかりそうだ。
 しかし、絶対的に倒せない――そのようなことは、無さそうだった。

●敵の矜持
 敵は中々挫けない。己が受けた傷を癒せば、その力にブーストがかかる。
 けれどそれをすぐさま挫いて流れはケルベロスへと傾いている。
「敵さんなかなかしぶといなぁ」
 そう零し、ナクラは再び踏み込んだ。
「リィザードマンもここでずっと頑張ってるのに、本社がこんなことになって、気の毒だよなぁ」
 ただまぁ、とナクラは零す。
 水族館に安心して行きたい家族の為に此処は俺達に倒されてくれ、と。
 その言葉と共に再び拳を叩き込む。
 灯も、尽きかける。
 現の痛みを孕む、砂上の幻のようと藤尾は思うのだ。
「残火と称されるのも解りますわね」
 だからせめてわたくしは、と一歩踏み込む。
 その身は仲間から攻撃を守り。もちろん癒しの力は受けているが、それでも痛みは募っている。
「刃を交え、血を流し、与え合う痛みであなたとわたくし達の生命を讃えましょう」
 それが今、出来る事。
 振り下ろすのは琴と菊の細工で飾られた黄金の手斧だ。踏み込んで、地面を蹴って跳躍する。
 その勢いを持って頭上からその刃は振り下ろされた。
 その一撃にぎゃあああああと敵は叫び声あげる。
 耳に心地よいと言えぬ声あげながら、敵はふらふら足取りおぼつかない。
 すでに二段階変身で癒しても、攻撃続けばというところまでケルベロス達は追いつめている。
「生憎とサヤは正義の味方ではございませんが、サヤを呼ぶひとの味方ではあるのですよ」
 おうちに帰るまでが作戦ですゆえ、誰も欠けないように、がんばりましょーかとあと少しと戦局を見てサヤは紡ぐ。
 己の身の内、そのグラビティ・チェインを破壊力と変えて、サヤは振り下ろした。
 正面から、敵はそれをどうにか受けた。しかしその重さに呻き声を上げている。
 少しばかりその指先を、トエルは傷つける。敵の攻撃がその身に届くことがなかったからだ。
「戒め、砌絶つ堰よ……ここに」
 その血をもって錬成した魔力を敵へと、指さした先へとトエルは放つ。
 敵の身へと着弾した魔力は茨が如く、敵の身体を這い蝕んで、その動きを阻害する。
「見てくれに反してどうして中々……尤も、こうでなきゃ面白くねぇって……」
 迅は氷結の螺旋を放ち、敵を捉え凍り付かせる。
 動きを凍らせ阻害すれば次もまた、狙いやすい。
「終わったら、飯でも食いに行こうぜ」
 と、ヒコは――戦いの最中に紡ぐ。
 士浪は何言ってんだという顔をするがヒコは気にせず、傍らを共に駆ける。
「上空から見てさっき栄えてるところ有ったろ」
「こんな時に飯の話って」
 そう言いながらも、悪くないと士浪は言う。サヤは御馳走してくれるんですよねと笑って。
 迅もトエルも来るだろうと。そうと決まれば、とヒコが一歩先を行く。
「来世は真っ当な悪になりやがれ。この愛すべき地球でな!」
 光の剣を手にしたヒコが斬りかかる。その一刀を敵はその腕で受けにやりと、耐えて見せたと笑う。
 しかし次手はすぐ迫っているのだ。
「あの世まで持ってけよ。痛みも絶望も。テメェらが散々振り撒いてきたモンだ」
 士浪の、貫手に固めた拳先へ、瘴気に変換した氣が収束する。
 瞬時に間合いを詰め、急所めがけて抉りぬくようにそれは突き出された。
「何もかもくれてやる―――喰い千切れ!」
 力の限り叩き込む。その場所を起点に体内は蝕まれ、そして衝撃に耐えられず敵は血を吐いた。
「もう逃がさない」
 黒き竜が嗤う。禁断の契約は闇黒と血の虜となり、鎖で繋ぎ、狂宴は全てを惑わすのだろう。
 ウリルの放った一撃が敵を終わりへと導く一手となる。
「こんな……馬鹿な言葉……」
 それは、悪役の言葉とウリルは零す。
 はらはらと砕けるように敵は消え去って――この場を抑えていた首魁は倒された。
 その姿を見つつ、いつか妻と一緒に来られたらいいなとウリルは思う。
 こうしてこの地をずっと陣取っていたドラグナー、リィザードマンは倒された。
 まだ多少の残党は残っているだろう。
 しかし、統率する者がいないこの地はすでに解放されたに等しい。
 また一つ、ドラゴンの手によって支配されていた場所をケルベロス達は取り戻したのだった。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。