スイーツほど恐ろしいモノはない!

作者:ゆうきつかさ

●都内某所
「いいか、お前等! スイーツは敵だ! あんなモノを食ってしまったせいで、俺の腹はポヨンポヨンだ! 故に、俺は思った! この世からスイーツを消し去るべきだ、と!」
 人気のない廃屋に肥満体型の信者達を呼び集め、段々腹のビルシャナが自らの教義を語っていく。
 ビルシャナはスイーツを食べ過ぎたせいで、何処からどう見ても、メタボボディ。
 そのため、自分がこんな我儘ボディになった原因が、狂ったような食べていたスイーツにあると踏んだらしい。
 何故なら、かつてのビルシャナはスイーツ至上主義ッ!
 自分への御褒美とばかりに、スイーツバイキングに通っていたため、ぽっちゃり太ってしまったようである。
「特にパフェ! 何がトッピングし放題だ! アイスにホイップクリームに、フルーツ盛り盛り! そこにチョコレートをぶっ掛け、花火を刺す! つーか、花火いるか!? いらんだろ! いや、俺は毎回ぶっ刺して、一人で盛り上がっていたんだが……」
 ビルシャナが浮かれている頃の自分自身を思い出し、自己嫌悪に陥った。
「しかも、食べ放題なのは、パフェだけではない。プリンに、アイス、ケーキまで食べ放題ッ! これでダイエットなど出来ると思うか? 俺は無理だ! いわば、あの場所はデブ製造工場ッ! 俺達のようなデブを、これ以上生み出さないためにも、滅ぼさなくてはならないッ!」
 そう言ってビルシャナが殺気だった様子で、信者達を嗾けるのであった。

●セリカからの依頼
「不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
 今回のビルシャナは、スイーツを憎んでおり、まず手始めとしてスイーツバイキングを襲撃しようとしているようだ。
「今回の目的は、悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事です。ただし、ビルシャナ化した人間は、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やしています。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまうため、注意をしておきましょう。ここでビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
 セリカがケルベロス達に対して、今回の資料を配っていく。
 それはスイーツバイキングのメニュー表。
 どうやら、ビルシャナが現れるまで、スイーツバイキングで、時間を潰してほしいという事のようである。
 店内はケーキエリア、アイスエリア、フルーツエリア、トッピングエリアなどで仕切られており、窓から外の景色が見えるため、ビルシャナを確認次第、外に飛び出しても問題が無いように、話を通してあるようだ。
「またビルシャナは破壊の光を放ったり、孔雀の形の炎を放ったりして攻撃してくる以外にも、鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させる事が出来るようです。信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。とにかく、ビルシャナを倒せば問題が無いので、皆さんよろしくおねがいします」
 そう言ってセリカが、ケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。


参加者
不入斗・旭(アンダーボス・e06562)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)
湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)
不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)
エレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)
 

■リプレイ

●都内某所
「……スイーツですか、確かにあの魅力は凄まじいものがありますよね」
 湯川・麻亜弥(大海原の守護者・e20324)は複雑な気持ちになりながら、都内某所にあるスイーツバイキングにやってきた。
 室内は、まるで宮殿のような造りになっており、色取り取りのスイーツがショーケースの中に所狭しと並んでいた。
 一応、時間制限になっているようだが、ケルベロス達に至っては、時間無制限ッ!
 それ故に、好きなだけ食べでも、文句を言われないッ!
「食べすぎて太ったのを食べ物のせいにするなんて……農家の人間として絶対に許せないな……」
 そんな中、不入斗・旭(アンダーボス・e06562)が、静かに怒りを膨らませた。
 食べ過ぎて、太ったのは、自制が出来なかった、自分自身の責任。
 その責任を放棄して、スイーツに責任を押し付けているのだから、ビルシャナ達を許せるわけがない。
「メタボになったのは自業自得なの。スイーツの材料を作った人や丹精込めて、スイーツを作った人のためにも、メタボな鳥さんには退場して貰わないと……」
 不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)が、自分自身に気合を入れた。
 ビルシャナにとって、スイーツは敵ッ!
 あまりの恐怖に、目の前から消し去りたい衝動に襲われ、胃袋の中に収めてしまうほど恐ろしい相手のようである。
「確かに、自分の不摂生と怠惰を呆れる位見事にすり替えた教義ですね。……仕方がありません。カロリー消費の足しになって頂くとしましょう」
 エレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)が、瞳をキランと輝かせた。
 だが、戦う前に、腹ごしらえ。
 せっかく時間無制限でスイーツ食べ放題の許可が出ているのだから、食べなければ……損であるッ!
「せっかくスイーツがあるのに食べないなんて、もったいないですわね。でも、どれもおいしそうで困ってしまいますの。これでは体重が増えてしまうのも仕方がないですわね。私はスイーツを戴いて楽しみ、その分しっかり運動もしてますから、心配はありませんが……」
 そんな空気を察したのか、霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)が苦笑いを浮かべて、スイーツをトレイの上に置いていく。
 元々、太りにくい体質なので、多少食べたくらいでは、困る事もないようだ。
「……そうですね。食べ物に罪はありません。皆で美味しい物を食べて、幸せな気分になりましょう」
 麻亜弥が納得した様子で答えを返し、色取り取りのスイーツをテーブルの上に置いた。
 まわりには女性客の姿もあり、みんな幸せそうな表情を浮かべて、スイーツをパクついていた。
 旭も妹である葵のために、ベリー系のスイーツを少しずつトレイの上に置き、近くの椅子に腰かけた。
 そこで使われているスイーツの中には、実家で生産したモノもあり、家で食べた時とは、また違った味わいであった。
 葵もケーキコーナーに置かれていた果物のタルトに舌鼓を打ちながら、至福の時間を過ごしていた。
「……はぁ、地球のスイーツは素晴らしすぎます……。特に、このアイスケーキと言う発想が素敵です。アイスもケーキもこれ一つとは……。プリンも、フルーツサンデーも実に美味です」
 エレインフィーラもウットリとした表情を浮かべ、幸せそうに溜息をもらす。
 どのスイーツも美味しそうなので、これは全て回るべきッ!
 例え、食べ過ぎたとしても、ビルシャナとの戦いで、消費すればイイだけの話である。
「何がスイーツだ! 全部、ぶっ壊してやる!」
 そんな中、姿を現したのは、ビルシャナであった。
 ビルシャナは信者達を引き連れ、親の敵と言わんばかりに勢いで、スイーツを睨みつけた。
 その途端、狂ったようにスイーツを食べまくっていた過去の自分が思い浮かんだのか、ビルシャナの瞳には涙がキラリッ!
 信者達も同じように涙を流し、選択を誤った過去の自分を悔いているようだった。

●メタボなビルシャナ
「一体、何の権利があって、そんな馬鹿げた事を言っている! 食べ物を粗末に扱う奴は誰であっても許さん!」
 すぐさま、旭が鋭い殺気を放ちながら、ビルシャナ達の前に陣取った。
 ナノナノのバッカルも、何やら御立腹ッ!
 重低音ヴォイスで、自らの怒りを示していた。
 その間、まわりにいた客達が表情を強張らせ、脳内で究極の選択を迫られているようだった。
 普通に考えれば、このまま逃げるべきではあるのだが、それではスイーツを食べ損ねてしまう。
 まだ自由にスイーツを食べる時間が残っているような状況で、この場から避難する事が果たして正しい事なのか、答えが出ない。
 身の安全を確保するため、スイーツを諦めるか。
 それとも、危険を承知で時間いっぱいまでスイーツを楽しむか、ふたつにひとつ……。
 そんな気持ちになりつつ、一定の距離を保ちつつ、スイーツをパクついているような感じであった。
「そこを退けぇ! 退きやがれ! スイーツは敵ッ! 俺達の敵だァ!」
 ビルシャナが殺気立った様子で、ケルベロス達に吠える。
 まわりにいた信者達も、スイーツ憎しと言わんばかりの勢いで、釘バットを握り締めた。
「スイーツに……特にフルーツに罪は無いの! 甘いのはダイエットで体型キープを怠った貴方達の心でしょう?」
 それでも、葵が怯む事なく、ビルシャナ達の行く手を阻む。
「いや、俺達は悪くないッ! 悪いのはスイーツだ!」
 だが、ビルシャナは自分の非を認めない。
 それどころか、太った原因がスイーツにあると、完全に決めつけている様子であった。
「スイーツは太るから罪だと言いますけど、別に太る原因はスイーツだけでは無いと思います。焼肉の脂肪分とか、思いっきり太る原因になりますし、麺類や穀物の炭水化物も、消費しきれなければ脂肪になってしまいますよ? それなのに、自分達が太った原因をスイーツだけに限定するのですか?」
 麻亜弥が信じられない様子で、ビルシャナ達に視線を送る。
「ああ、その通りだ! 何故なら、俺達の主食はスイーツだった。だから言える! 太った原因がスイーツにある、と!」
 ビルシャナがくわっと表情を険しくさせ、躊躇う事なくキッパリと言い放つ。
 どうやら、元々は此処の常連客であったらしく、みんなこの店のポイントカードを持っていた。
「食べた後に、ちゃんと運動したり、しっかり消費していけば、そこまで太ったりしませんわっ! そうしたら、また食べる時においしく食べれて、太らずいい感じになると思いますの。……ですから、食べた時の幸せな気持ちを忘れてはいけませんわっ」
 ちさが真剣な表情を浮かべ、ビルシャナに語り掛けていく。
「何故、運動をしなければいけないッ! そんなの、面倒だろうが!」
 その途端、ビルシャナがキレた。
 俺様モード全開で!
 完全に開き直っているのか、信者達と一緒に踏ん反り返って、自分中心に世界が回っているような勢いであった。
「運動しないのは、あなた方が怠惰で、スイーツに罪はありません! 例え、スイーツを滅ぼしたとしても、次に太ったら、どうするのですか? また、それを滅ぼすのですか? だったら、食料全てを滅ぼすまで、あなた方の戦いは終わりませんよね? そんな状況、耐えられますか?」
 エレインフィーラが余裕な態度で、優雅に紅茶を嗜んだ。
「そ、それは……」
 ビルシャナが気まずい様子で、言葉に詰まる。
 まわりにいた信者達も、同じような気持ちになったのか、激しく目を泳がせた。
「食べ過ぎたなら何故、翌日から摂生し、運動をしようとしない! スイーツを滅ぼすと言うのであれば、果物、畜産、穀物の農家さん……卸売業者さんに店のオーナー、パティシエさんに店員さん……異国のカカオ栽培地で働く方々……、スイーツに携る人達の生活を保証する覚悟はあるんだな? 覚悟がないなら失せろ!」
 そこに追い打ちをかけるようにして、旭がビルシャナ達に喝を入れた。
「それでも、俺達はスイーツが憎いッ!」
 その途端、ビルシャナがキレた。
 何も返す言葉が無かったのか、ちゃぶ台返しの勢いで、逆ギレである。
「それほどのスイーツ好きを捨ててまで、そのような行動に動いてしまうのは残念ですの。これほどのスイーツがある場所で食べないのは、むしろ罪かもしれませんわっ。食べた後の運動にはお付き合いしますから食べて欲しいですの」
 ちさが天使のような笑みを浮かべ、ビルシャナ達に視線を送る。
「……!」
 その言葉に信者達の心がグラついた。
 冷静になって考えてみると、どうしてここまで我慢しなければいけないのか、まったく分からない。
 本音を言えば、太っても構わないので、スイーツが食べたい。
 そう思ってしまうほど、辺りには甘いニオイが漂っていた。
「みんな、鳥さんを見て? ……あんなに太っちゃって……まるでフォアグラを目指しているみたい。例え、スイーツを滅ぼしたとしても、痩せる訳ではないのに、こんな事をしていていいの?」
 そんな空気を察したのか、葵が信者達に問いかけた。
「そ、それは……」
 信者達は、何も言えない。
 例え、スイーツを滅ぼしたとしても、痩せない事は分かっていた。
 だが、ビシルャナに言われ、スイーツさえ滅ぼせば、何とかなると思い込んでいたようだ。
 おそらく、それはビルシャナに、洗脳されていたため。
 冷静に考えれば、おかしな事ではあるのだが、洗脳されているせいで、訳が分からなくなっていた。
「もう答えは出ているだろ! 分かったら、ブートキャンプ開始だ、メタボ共!」
 そう言って旭が物凄くイイ笑顔を浮かべ、信者達に視線を送るのであった。

●怒り
「ええい、怯むなッ! 運動したって、痩せる訳がねぇ! 何故なら、これはスイーツの呪いッ! この世からスイーツが滅びるまで、俺達は痩せねぇ!」
 ビルシャナが、再びキレた。
 その場にいる誰もが『そんな馬鹿なッ!』と思ってしまうキレ方で!
 だが、信者達は洗脳状態。
 そのため、洗脳された様子でグルグルと目を回しながら、うわ言のように『運動は嫌だ。疲れるから嫌だ!』と呟き、ケルベロス達に襲い掛かってきた。
「さて、鳥さん。制圧のお時間ですわ」
 それを迎え撃つようにして、エレインフィーラが顔の左側に仮面の様な氷を出現させ、氷界形成で周囲の温度を下げて、襲い掛かってきた信者達を気絶させた。
 気のせいか、ドサクサに紛れてスイーツを食べていた客達も、巻き添えを喰らって気絶しているような気もするが、ここで気にしたら負けである。
「な、なんだと!? 俺の信者が一瞬で……」
 それを目の当たりにしたビルシャナが、信じられない様子で言葉を失った。
「それでも、現実ですわ」
 その間に、ちさがウイングキャットのエクレアと連携を取りつつ、一気に間合いを詰め、ビルシャナに降魔真拳を叩き込んだ。
「ぐはっ!」
 その一撃を食らったビルシャナが両目をギョッとさせ、大量の血をゲフッと吐いた。
 だが、いくら傷ついても、心配する信者達はいない。
 いくら、まわりをチラ見しても、駆け寄ってくる信者達はいなかった。
「農家の子として……奴が息絶えるまで攻撃は止めない! 行くぞ、葵ッ!」
 旭が葵に声を掛けながら、勢いよく飛び上がった。
 その途端、旭の背後に穀物の農家さん、卸売業者さん、店のオーナー、パティシエさん、店員さん、異国のカカオ栽培地で働く方々が浮かび、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りをビルシャナに炸裂させた。
「はい、兄様ッ!」
 その間に葵が死角に回り込み、葵が織炎業火砲を撃ち込み、ビルシャナの身体を炎に包む。
「馬鹿なッ! 俺にも見えるッ! スイーツに携る人達の顔がッ!」
 ビルシャナにとって、それは受け入れる事の出来ない現実。
 みんな怒っていた。
 ビルシャナに対して、怒っていた!
 彼らの怒りが炎となって、ビルシャナの身体を包み込むようにして、激しく燃え上がっていた。
「これで、氷漬けにしてあげますよ」
 次の瞬間、麻亜弥が達人の一撃を放ち、ビルシャナの身体を氷漬けにした。
「どうやら、終わったようですわね。……良い運動になりましたわ。後片付けをしたら、もう一度バイキングを楽しみますよ」
 そう言ってエレインフィーラが、テキパキと戦いの後片付けをし始めた。
「まだスイーツも残っている事ですし、少しくらい良いですよね? 苺のショートケーキに、チョコレートケーキに、あとはチーズスフレも頂きましょうか」
「甘いものは別腹ですしね、沢山食べておきましょう」
 麻亜弥も上機嫌な様子でスイーツに想いを馳せながら、一緒に後片付けをするのであった。

作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月5日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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