夕刻のマイヤー織

作者:猫鮫樹


 太陽がゆっくりと沈み、力強く生える竹藪を赤く染め上げていた。
 人の出入りがあまりないのだろうか。生い茂る竹は無造作に生えていて、そんな人の出入りのない場所のせいからか、不法投棄された大きなゴミが目立っている……そんな寂しい場所だった。
 赤色に染まる竹藪にカラスが鳴けば、その中から機械の足が蠢く様が見える。
 雨風に晒され続けたゴミの中、コギトエルゴスムはその寂しい光景からなのか、温かくなれるような物へと潜り込んでいった。
 ――ひらり、
 風もないのに揺れたそのマイヤー織の電気カーペットがはためき、そこから巨大な腕が生える。
「かーぺっと! かーっぺ!」
 電気カーペットから生えた腕は、力強く生える竹をなぎ倒しては人を……いやグラビティ・チェインを求めて赤く照らされた竹藪から抜け出すのだった。


 気温が段々と上がる季節となった今日この頃。
 それでも着物を崩さずに中原・鴻(サキュバスのヘリオライダー・en0299)は、口元に笑みを携えて、予知した事件を口にした。
「やぁ、集まってくれてありがとう。田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)さんが心配していた通り、今度は電気カーペットのダモクレスが現れたんだ」
「僕と一緒に倒しにいこうよ~!」
 鴻とは対照的に涼し気な格好をしている河野・鵠(ドラゴニアンの妖剣士・en0303)は笑顔でそう言った。
 そんな鵠に溜め息を一つ零した鴻は事件の概要の説明をと赤目を細める。
「竹藪に不法投棄された電気カーペットがダモクレスとなるわけなんだけど、人の出入りはほぼないんだ」
「近くに道路はあるけど、全然車も通らないんだよね」
「そうなんだよねぇ、だけどこのまま放っておいてしまえばグラビティ・チェインを奪うために人のいるところに向かってしまう」
 だから早急に倒してほしいと鴻は続けた。
 電気カーペットのダモクレスはどうやら生えていた腕から鞭のようなコードを出したり、あげくにミサイルのような弾丸も撃ち出し、そしてなんとふんわりとしたカーペットの布部分で相手を包み込んでくる攻撃をしてくるようだと鴻が説明すれば、暑くなってきた時期に包まれたくないと鵠がげんなりした声をあげていた。
「人々が襲われてしまう前に、なんとしてでも倒してきてねぇ」


参加者
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
ルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)
曽我・小町(大空魔少女・e35148)
田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)
グラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)
エレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)

■リプレイ

●竹を折るはマイヤー織のあいつ
 夕日によって赤く染め上げられた竹藪に、ヘリオンから降下したケルベロス達が辺りを窺うように立っていた。
 竹藪の奥からはバキバキと異常な音が響き渡り、人がいるほうへ電気カーペットのダモクレスが進んでいることがわかる。
「こっち向かってきてるみたいやね……念の為、キープアウトテープ持ってきてるから張ります」
「おー! わたしは少し周りに人がいないか確認してみるぞー!」
 持ってきていたキープアウトテープを伸ばした田津原・マリア(ドラゴニアンのウィッチドクター・e40514)は皆に声を掛けて、竹藪の周りにテープを張り巡らせていく。人の気配は感じないが、こちらも念の為にと周辺に人がいないかの確認をグラニテ・ジョグラール(多彩鮮やかに・e79264)が手をあげて作業に動けば、ならば自分もと眼鏡の位置を直しつつ東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)はボクスドラゴンのマカロンと共に辺りに人がいないかを確認していく。
 そんな三人が一般人の侵入、危険がないことを確認しているのを感じながら曽我・小町(大空魔少女・e35148)が隠された森の小路を駆使して、竹をなぎ倒しているだろうダモクレスの元へと走り出した。ふわりと赤茶色の髪を揺らす小町を追いかけるようにウイングキャットのグリも翼をふわりと揺らし向かっていき、その後ろをエレインフィーラ・シュラントッド(翠花白空のサプレション・e79280)も駆け抜ける。
 小町のおかげで進みやすくなった竹藪の中、持ってきていた光源を取り出したエレインフィーラは、その光源を辺りに置いていく。
 いくら陽が長くなってきてはいるとはいえ、こんな竹の生い茂る場所だ。赤く燃えるような夕日に照らされていられるのも時間の問題、徐々に辺りは暗闇に変わってしまう。
 そうなれば視界は悪くなってしまう。
 そうやって光源を置かれ、竹藪に人がいないことを確認していた三人が後ろから追いかけてくるのを音で感じたルベウス・アルマンド(紅い宝石の魔術師・e27820)は、蒸し暑くなってきた気温の中で、
(「電化製品はちゃんと処分しないとダメだわ、ダモクレスでなくとも、化けて出ないとは限らないもの」)
 なんて思考を巡らせていた。
「テープはしっかり張ってきたので大丈夫やと思います」
「わたしも苺と一緒に周り見てきたけど、人はいなかったぞー!」
「おー、テープと確認ありがとう! 音的にそろそろダモクレスと会いそうだよね?」
 合流したマリア、グラニテ、苺の三人を河野・鵠(ドラゴニアンの妖剣士・en0303)が笑顔で出迎えて、竹をなぎ倒す音が近づいてきたことを耳で感じて呟くと、
「電気カーペットのダモクレス、捕捉したわ」
 小町の青い瞳が、マイヤー織の暖かそうなカーペットに機械の腕を生やした異形の姿を捉え、バイオレンスギターを構えて小町は立ち止まる。他のケルベロス達も、それに合わせて各々武器を構えれば、こちらに気付いたダモクレスはその両腕からミサイルの雨を降らせるのだった。

●降り注ぐはミサイルとコード
「かーぺっ! かーぺっ!!」
「熱烈歓迎だー!」
 ダモクレスはケルベロス達が、自分の邪魔をしにきたのだろうといち早く気付き、警告するかのようにミサイルを降らせていた。
 そんな熱烈な歓迎のミサイル雨に、グラニテのわくわくした声が竹藪に響く。
「警告ってことやろか? 皆さん油断せんように、河野さんは紙兵散布と魂うつしでフォローに回って下さい」
 ケルベロス達に当てる気のないダモクレスの初撃に、マリアは油断しないようにダモクレスの様子を見て皆に指示を出していく。それにルベウスは頷き、鵠はまかせてと返事をする。
 攻撃に出るケルベロス達にダモクレスは、マイヤー織のカーペットの左右から伸びた機械の腕を振り上げて応戦する為に構えると、そこに苺が一撃。
「この季節はカーペットに包まれたら、暑すぎるから捕まらないようにしないとだね」
 言いながら苺の一撃は、大地を断ち割るかのような強烈なもの。大きな音を立てれば、そこにマカロンが炎の一撃も付け加えた。
「見てるだけで、暑い……! グリ、皆に清浄の翼を!」
 続くは小町とグリ。気温もあがり、夏も近づく季節に、こんな冬に活躍するダモクレスなんてと、じわりと滲みそうな汗を感じながら祈るように両手を組んだ。
「希望の輝きよ、未来への道を切り拓け! ――シャイニング・デストーーームッ!」
 グリが清浄の翼で浄化していく最中、小町の両手に纏った光輝く竜巻がダモクレスに放たれた。
 眩い光の中に今度はマリアがオウガ粒子を放出。
「皆さんの助けになりますよう」
 光が溢れる竹藪。ダモクレスはそんな眩い光が溢れる中、どこからともなく謎の声をひたすらに響かせていた。
 その声を聞きながら、ダモクレスとなってしまう危険があるのに不法投棄はなくならないのか……なんてマリアはぼやいてしまう程だった。それでも、人に危険があってはいけない、自分達、ケルベロスが仕留めなければいけないと前方で鳴くダモクレスの様子をしっかりとマリアは見る。
 ダモクレスの背後から伸びるコードが一本。ゆらゆらと揺れたかと思えば、それは大きくしなり風を切った。
「コード?! 皆さん気を付けて!」
 いち早く気付いたマリアが声をあげるが、それよりも早くコードが叩きつけられると、地面が抉られ土が舞い上がる。土が落ち着けばコードを小さな体で受け止める苺の姿が現れた。腕にコードを巻き付けて、これ以上の攻撃をさせないようにと苺はダモクレスの動きを静止させようとコードを引っ張っていた。
「どんどん攻撃していっちゃおう」
「かーぺっと!!」
 苺にコードを掴まれ、まるで綱引きの様にダモクレスも自分の方へと引っ張るように動いている中、グラニテが踊るように白い髪を揺らして緑色の瞳を輝かせた。
「エレン! 行くぞー!」
 グラニテはエレインフィーラと良く一緒に戦うことが多く、名前を呼んで一緒に攻撃をしようとでも言うかのように誘い、それにエレインフィーラが小さく頷いて顔の左側を仮面の様な氷で覆っていく。
 ふわりと月の弧を描くようにグラニテが日本刀でダモクレスのカーペット部分を斬りつけるのと同時に、エレインフィーラは藍色の髪をはためかせながらの電光石火の蹴りで追撃。
 二人の連撃にルベウスが後方からダモクレスを狙う。身に纏ったオウガメタルで、ルベウスは『黒太陽』を具現化していく。
 赤色の光が差し込み、金色の光がその中に溢れていたその場所。
 そこに絶望の黒い光を、ルベウスはダモクレスに向けて照射する。伏し目がちのルベウスの瞼は赤色の瞳に睫毛の影を落とした。
 次々来る攻撃に緩むコード。苺はそれを一度振り払い、ダモクレスから距離を取り、それを見た鵠が自分の番だとばかりに、霊力を帯びた紙兵を竹藪に巻き散らして、仲間に守護を施していった。

●厚くて暑いマイヤー織
「かーぺ! かーぺ!!」
 駄々を捏ねるように、悔しそうに、機械の両手を大きく振っている様がまるで子どものようなダモクレスの姿。
 降り注ぐミサイルの雨はケルベロス達を狙い撃ちにしていた。
 赤色に染まっていた竹藪も、もうその赤を黒く染めていっている。日が伸びたとはいえ、暗くなるのはあっという間ということだろうか。
 エレインフィーラは光源を設置しておいてと良かったと思いながら、ダモクレスと戦っていた。
「勇敢なる戦士に戦う力を与えたまえ!」
 苺は盾役として動き回り、その傷を大地の恵みで癒し、振り下ろされるコードが他の仲間に向かないように立ち向かい、
「あんま使わない武器だけど、カーペットを裁断するには丁度いいわね!」
「異常回復は任せて下さい」
 小町の握るチェーンソー剣の轟音が竹藪に響き、ダモクレスのカーペット部分を斬り裂いていけば、その間に皆のケガや状態異常を取り除くためにマリアが薬液の雨を降らせる。
 じわりと温かくなる癒しの雨が傷を少しずつ癒せば、また次の攻撃へと出ることができるのだ。そうしてズタボロになっていくダモクレスは、ただ悔しそうに鳴き声を上げて駄々を捏ねる子どもの様に暴れていく。
 厚くて暑いカーペット。エレインフィーラやグラニテの氷界形成で幾分かは、周囲の気温は下がっているけれども、それでも動き回って戦い……そして、
「カーペット!!」
 ダモクレスが激しく両腕を動かして鳴き叫ぶ。
 はためくカーペットが一瞬縒れたのが見えた。
「気を付けて! 攻撃きます!」
 叫ぶマリアの声と共にグラニテの惨殺ナイフがカーペットを斬り裂くも、それを怯むこともなくダモクレスは己の体であるマイヤー織のカーペットでエレインフィーラを包み込んでしまった。
「エレン!!」
 惨殺ナイフを振り抜いたグラニテが、包み込まれてしまったエレインフィーラに叫ぶ。周りのケルベロス達もエレインフィーラを助けようと武器を構えるが、
「大丈夫です」
 柔らかなマイヤー織に包まれる中、ダモクレスの攻撃に何かを感じた。
 人を恨む心があるのかは分からない。でも、エレインフィーラはその攻撃に何かしらのものが滲み出している様に感じたのだ。
 その恨み諸共、制圧してみせよう。
「アイスエルフの氷、味わってください」
 熱には冷気を。
 全てを凍てつかせる冷たい吐息をダモクレスに浴びせれば、その冷たさにダモクレスは引きつった鳴き声をあげて、慌ててエレインフィーラから離れていく。
 凍り付くカーペットをすかさず、ルベウスが黄金色の巨大な槍のような魔法生物で狙い撃つ。
「轍のように芽出生せ……彼者誰の黄金、誰彼の紅……長じて年輪を嵩塗るもの……転じて光陰を蝕むるもの……櫟の許に刺し貫け」
 魔力を籠めた宝石の触媒で作り出したルベウスの魔術。
 鮮やかな赤い瞳は獲物であるダモクレスを見据えたまま、ルイン・アッサルは軌跡を残してダモクレスを撃ち抜いていった。

「かーぺっと……かーぺー」
 最初程の熱も勢いも減ってきたダモクレス。それでも度重なるミサイルの雨は厄介だ。
 その攻撃の手を更に抑えるべく、マリアが麻酔弾をダモクレスに撃ち込む。
「その厄介な勢い、止めます!」
 神鎖抑制閃弾(グラビティインヒビター)がダモクレスの左腕を撃ち抜けば、だらりと力なくぶら下がるだけのものと化していく。
 力ない鳴き声は小さいながらも、暗闇に染まる中、白い光源が蛍のように光る竹藪に木霊していた。
 そんな風に弱ってきたダモクレスを完全に止めるために、次々と竹藪の中に攻撃が飛び交う。もはや、ダモクレスが吐き出すコードもミサイルも……ケルベロスの敵ではない。
「あと1、2回の攻撃で倒せそうやと思います」
「うん、あと少し……」
「頑張って片付けていきましょう」
 弱り切ったダモクレスを片付ける為に動き出す。
 まずは苺がダモクレスの守りをさらに崩すために突撃し、小町がそこに時空凍結弾を撃ちこむ。
「遠慮せんと食らっときや!」
 逃げようともがくダモクレスにマリアの魔法の光線と、ルベウスのルイン・アッサルが追撃して、右腕を打ち砕いた。
 もう残るは温かかったカーペット部分のみ。
「かーぺ……」
 小さな鳴き声が響くけれども、人に危害を加えてしまうものは倒してしまわなければいけないのだ。
 エレインフィーラの深い紫の瞳がダモクレスを捉え、アイスエイジインパクトを放てば、グラニテへと視線を移す。
 それにグラニテが小さく頷いて返し、竹藪の暗闇に言葉を落とす。
「きらきら煌めく夜の中で、ひときわ輝くもの。ほら、きみにもきっと見えるはずだよー。だって、あれは」
 どんな表情をすればダモクレスに気持ちが伝わるかなんてわからないけれども、竹藪に落ちる夜の帳も、足元を照らす星のような光源も、ダモクレス自体を流れ星のように思わせて一つの流星の様に落下させれば、もうダモクレスはただの電気カーペットへと戻っていくのだった。

●弔うは雪に
 荒れた竹藪の中、ボロボロになった電気カーペットを前にしてケルベロス達は少しだけ肩の力を抜く。
「終わりましたわね」
 一息ついた小町が呟けば、グリが金色の翼をはためかせて同意し、
「ええ、なんとか無事に倒せてよかった」
「あとは、ここを戻せばいいだけかしら……」
 マリアもほっとしたように頷き、周りを見回していたルベウスが竹藪の惨状を見て呟いた。
 荒れた場所を片付ける為に各自動き出すのはそう時間がかからず、エレインフィーラはダモクレスとなった電気カーペットの場所で吹雪を生み出していく。
 薄汚れて、使い物にならなくなった電気カーペットだけども、きっとこんな風になりたくはなかっただろう。
 きちんと終わらせてあげるのが気付いたものの務めだと、エレインフィーラは思うのだ。
「電気で温めなくても、カーペットでそのままで十分だけどなー……?」
 寒さが苦ではないアイスエルフだからなのか、グラニテはふと思った疑問を口にする。
 それにマリアが答えようかと数瞬悩んだが、グラニテは自分の持てる範囲のゴミを拾おうと右往左往していて、その答えを言うタイミングが見つかりそうもなかった。
 小町の演奏と歌声が竹藪に響き折れた竹を修復していくのを見聞きしていたルベウスは、仲間の負傷はないかと確認しつつ、同じように辺りにヒールを施していく。
 片付けが苦手なルベウスも自分なりに、ヒールと手作業での片付けに勤しんでいけば、その傍で鵠も同じように作業へと向かっていく。
「綺麗になったかな? なんか涼しい場所で遊びたいよねー」
 こつこつと一通りのゴミを回収した苺が、体を伸ばしてそんな提案をあげた。
 竹藪を抜けて、人のいるところに出ればきっと何かしらのものはあるだろう。
 苺の提案に各々頷けば、回収したゴミを持って竹藪を後にするのだった。

作者:猫鮫樹 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月11日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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