ミッション破壊作戦～竜に奪われた地を取り戻せ！

■リプレイ

●竜の巣の中心
　ケルベロスたちがヘリオンから降下した先は、青森県。太平洋に面した場所に存在するむつ小川原港だった。
　キラキラと輝きを放ちながら、ケルベロスの最後の１人が落ちてくる。
　宝石のついたロッドを振り回すと、輝きの中でぼんやりと見える幼げな体のラインに防具が装着されていく。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
　シルフィリアス・セレナーデ（紫の王・e00583）は、着地の衝撃をこらえて可愛らしいポーズをとって見せた。
「ここがミッション地域の中枢だね。できれば、事前に情報が集められたらよかったんだけど」
　少女のような顔立ちの平・和（平和を愛する脳筋哲学徒・e00547）が周囲を見回した。
　事前にミッション地域に挑んだ者から情報収集したいと考えていた和だが、わかったのはヘリオンを利用しなければとてもたどり着けないということだけだった。
「いろいろ節操なく取り込んで進化するみたいだし、一番強い奴は多分一番でっかい奴……というかみんなについていけば大丈夫よね」
　青い髪をポニーテールにしたトリューム・ウンニル（碧き天災の運び手・e61351）が、明るい声を出す。
「大丈夫かはともかく、でかいやつは何体かいたっすよ。落ちるのが早くて実力を確かめる時間はなかったっすけど」
　シルフィリアスが言った。
「これは予想ですが、エネルギーを奪うと言っても、人が居なけりゃ発電所は動かないですよね」
　巻島・菫（サキュバスの螺旋忍者・e35873）が発言する。
「そうなると、元々エネルギーとして利用できるモノがある場所……石油備蓄基地辺りが怪しい気がするんですよね」
　ぐるぐる眼鏡の奥から、彼女は周囲の要塞を見回した。
「それじゃ、シルフィリアスさんが見かけた中で、備蓄基地のあたりにいるやつを探せしてみようよ！」
　子供っぽい口調のシルディ・ガード（平和への祈り・e05020）が高々と手をあげる。
　要塞になる前は備蓄基地だった場所を探して皆は移動し始めた。
　移動するケルベロスたちは、身を隠す気流を発生させられる者が他の者を囲む形で隊列を組んでいる。
　気流を生み出している中によく似た色の、青い髪と瞳を持った２人がいた。
「ドラゴンゲートの破壊……竜十字島の発見から３年半、オラトリオの名家、神白家……いや人類の悲願の１つがこんなに早く叶うとはな。あの時散った奴らも浮かばれるだろ」
　神白・煉（死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023）は思いを込めて拳を握る。
「そうだね。わたし達姉弟の死神との因縁は終わってないけど、神白家としては大きな区切り。ご先祖様……鈴はやりました」
　神白・鈴（天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623）も、弟の言葉に深く頷く。
「さぁ、残党処理だ。デス・グランデリオンとやりあえなかった鬱憤、ぶつけさせてもらう」
　はやる気持ちを抑え、煉はにらみつけるような視線で敵を探し続ける。
「そうだね……と、和さんは親友のヒナちゃんの宿敵、デス・グランデリオンを退治してくださってありがとうございました」
「ん？　礼を言われるようなことじゃないけどね。どういたしましてだよ」
　礼を述べた鈴に、首をかしげて和が応じる。
　言葉を交わしながらも、ケルベロスたちは敵を探していた。
　やがて、低空を飛ぶトリュームがひときわ大量の武器を全身から生やしたドラゴンの姿を見つけた。
　幾人かのケルベロスが眼力で能力を見極める。これまでに見かけたどのアムドコレクトよりも命中率が低い。
　この敵がミッション地域の首魁だろうと皆は頷きあう。
「オレ達はドラゴンに勝利した。けどここに残されてるのは間違いなく強者だ。気を抜かずに行かないとな」
　そう語るハインツ・エクハルト（光を背負う者・e12606）の顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
　油断はない。しかし恐れもしていない。
　金髪のドラゴニアンは茶色い子犬のオルトロスを伴い、アムドコレクトへ突き進む。
「ケルベロスか！　いつの間にここまで入り込んだ！」
　狼狽しながらも、素早い動きでドラゴンが襲撃に対応してくるが、８人のケルベロスとサーヴァントたちは全力で敵へと挑みかかった。

●激怒する竜
　混乱のお陰で、幾人かのケルベロスはアムドコレクトの先手を取ることができた。
「その攻撃力、削がせてもらうぜ」
　煉の蒼星狼牙棍がアムドコレクトの体から生えた刃を打ち、姉の鈴が戦場に陣形を見いだして敵の能力を打ち破る力を仲間たちに与えた。
　ハインツが敵に接近してオウガメタル粒子をばらまく。
　シルディは彼と並び、オオアリクイ型のオウガメタルから粒子を前衛へと散布した。
　そしてアムドコレクトへと話しかける。
「なぜデウスエクスたちはここへ、地球へ来なければならなかったの？　未だにボクはピラーの故障くらいしか知らないんだ。キミたちならきっともっと知ってるよね？　ボクは何も知らないまま戦い続けたくないんだ！」
「貴様らの都合など、知ったことか！」
「この地にいた人達の事を想うとこの地を奪還する以外には考えられないけど、根本の問題も解消したいんだ。ピラー故障の原因やそれを解決する為に些細な事でもいい」
　シルディは必死にドラゴンへと語りかける。
「教えてよ！　共に生きる未来の為に。例えもし理解し合えないとしても住み分けならできると思うんだ」
　だがアムドコレクトは凶悪な目をさらに吊り上げた。
「……元より敵と語る言葉などないが……ドラゴニアから生きる術を奪っておいて『共に生きる』？　その傲慢な言葉、さすがに許し難いぞ！」
　アムドコレクトの翼が、爪が鋭さを増した。
「だって、仲良くはしたいけど、地球の人をまず優先しなきゃいけないもの。お願い、わかってよ！」
「つまらん自己満足に付き合ういわれはない！　貴様が地球を守るのと同様、我らは残る仲間を生き長らえさせるため、人間を狩り続けるのみだ！」
　棍の攻撃で少しひび割れた翼がシルディへと襲いかかってきた。
　彼の体をたやすく両断できそうな刃を、リボンがついたハンマーで受け止める。
　衝撃だけでも体に切り傷ができて強い痛みが走った。
　残念なことだが、個人の感情はどうあれケルベロスがゲートを破壊した以上、なにを言ってもドラゴンは怒るだけだろう。
　シルディの心の痛みを癒す間もなく戦いは続く。
「今こそドラゴンから人々の土地を取り戻す時！　がんばろー！　おー！」
　和は気合いを入れて、惨殺ナイフを構える。
　その名のごとく平和を愛する和は、全力で平和を取り戻そうとしていた。
　黒い瞳で敵を見定める。オウガメタル粒子の影響を受けていない和は、すぐにより当たりやすい技へと切り替えた。
「知恵を崇めよ。知識を崇めよ。知恵なきは敗れ、知識なきは排される。知を鍛えよ。知に勝るものなど何もない。我が知の全てをここに示す」
　現れたのは一冊の本。
　和の知識の集大成ともいえる重たい一冊。
　アムドコレクトの頭上に出現したそれは雷鳴の早さでデウスエクスへと落下した。
　本の角が兜へ命中し、金属音が高らかに響く。
　目を白黒させるドラゴンに、後衛から攻撃が飛んだ。
　華麗に飛んだトリュームの飛び蹴りが突き刺さり、砲撃形態へと変わった菫のモップから放たれた竜砲弾が打ち据える。さらにチビ助も霊剣で敵の武器を切り裂く。
　動きが鈍った敵へと、ケルベロスたちはさらに攻撃をしかけていく。
　ドラゴンも無数の武器を一気に放って前衛全体へと反撃してきた。
　トリュームのボクスドラゴン、ギョルソーがシルフィリアスをかばう。
　かばわれた少女が放つ雷撃が直後に敵に命中した。
「攻撃する瞬間を狙っても変わらないっすね。別の手を考えたほうがよさそうっす」
　思案しながらシルフィリアスは敵や味方の動きを確かめていた。
　他の者たちも、同じく反撃を繰り出している。
「レンちゃん、気を付けてね！」
　鈴は反撃に向かう弟へと声をかけた。
「わかってる！　回復は頼んだぜ、姉ちゃん！」
　呼びかけに答えながら、煉はシルディと共に、オウガメタルの天牙を鋼の鬼に変えて敵の装甲を砕く。
「うん、空間に咲く氷の花盾……皆を守ってっ！」
　前衛たちの前に、氷でできた花が開く。
　実体あるものではない。オラトリオの秘技で空間を操り、凍結させて盾としたのだ。
「ハインツさんも、回復をお願いできますか？　わたしだけじゃ支えきれないかもしれません。リューちゃんもお願いね」
「任せておきな。攻撃は頼んだぜ、チビ助！」
　頷きながら、ハインツがまたオウガメタル粒子をばらまいて回復に加わる。
　各々のサーヴァントも主の意図通りに動いた。ボクスドラゴンのリュガはギョルソーを回復し、チビ助の攻撃はドラゴンを捉える。
　彼女たちに支えられながら、ケルベロスたちは攻撃を続けていく。
　和が生み出したトラウマも敵の体力を削っていたが、まだまだ倒れる様子はない。
　とりあえずこの数分で増援が現れる気配はなかったが、だからといって悠長に構えてはいるわけにはいかない。
「とっとと倒しましょう。追加オーダーの相手を倒しても、別にボーナスが出る訳じゃないんですからね」
「そうねー。確かに、あんまり楽しいことにはならなそう」
　後方から敵の動きを制限する技をしかけている菫とトリュームが言葉をかわす。
「なら、そらそろこれの出番かしらね」
　トリュームは身につけていたオサレアイテムに触れた。
　それは彼女の手の中でレーザー銃に変化する。
「はーい、動かないで……ちょっとビリッとくるだけだから！」
　それは極めて安全な児童用の玩具だった。
　ちょっとだけ、やたらと太いレーザーが飛び出すだけだ。
　敵は素早いけれど、しっかり狙えばまあ当たる。
　極太レーザーの一閃がこれまでに与えた傷口をさらに開いていく。
　菫が放つ氷結の螺旋が、さらにその傷口を凍らせる。
　アムドコレクトの動きは少しずつ、しかし確実に鈍っていっていた。

●砕ける竜の武器
　さらにしばし、戦いは続いた。
　最初は半分ほどしか命中していなかった攻撃は、大半が命中するようになっていた。
「うにゅー、負けないぞー！」
　和が、煉の蒼炎をまとった蹴りに合わせて、ナイフでジグザグに切り刻む。
「まだだ！　倒れてなどやるものか！」
　竜の叫びと共に、全身からさらに武器が生えた。
　けれど、ケルベロスたちはその動きにすぐに対応する。
　鈴の見いだした陣形の力を得て、チビ助が炎を放ち、トリュームがジグザグに敵を切り刻むが、まだ武器庫は砕けない。
　菫はどこからともなく皿を取り出した。
「お店で鍛えた皿割りのテクニック、その身でしかと味わうといいですよ！」
　投げつけた皿は回転しながら空を裂いてアムドコレクトに迫る。
　乾いた音と共に皿が割れた瞬間、ドラゴンが生成した武器もすべて割れていた。
「残念だったわね！　行き当たりばったりじゃ対策にならないのよ！」
　ドヤ顔でトリュームが敵に告げる。
「起きて、大地のネコさん。遊び相手がそこにいるよ！」
　残っている刃にも、シルディがどこからともなく呼び出した粘土の猫が飛びついて切れ味を落とす。
　もっとも、そのシルディやハインツ、ギョルソーはこれまでの攻撃でかなりの傷を負っている。特にことあるごとに狙われているシルディはいつ倒れてもおかしくない。
　またしてもシルディにアムドコレクトが襲いかかる。
　ハインツは素早く愛用の盾を構えてその前に割り込んだ。
「あんたの守りに負けるわけにはいかないんだぜ」
　受け止めてなお強烈な斬撃が青年の体を傷つける……が、それでも彼は笑って見せた。
「助かったよ、ハインツさん」
　シルディの声を聞きながら、ハインツは黄金のオーラを蔦状に伸ばして傷口に這わす。
　攻性植物の魂を喰らって得た技が彼の体を強力に癒した。
「全員無事で帰りたいからな。これで大丈夫だ。あと一歩頑張ってこうぜ！　トイ、トイ、トイ！」
　故郷に伝わる魔除けのおまじないを口にし、ハインツは腕に力を込めた。
　鈴も輝く盾を作り出してハインツを守ってくれた。リュガはシルディに属性をインストールしている。
　敵も、味方も、誰も倒れることなく戦いの時間は続いた。
　シルフィリアスはできる限り仲間の動きに合わせて攻撃を続けていた。
　煉が鋼のブーツに蒼炎をまとわせて、空中から蹴りを叩き込む。
　炎を浴びた瞬間を狙って、シルフィリアスは宝石の輝くロッドに光を集めた。
　同時に紫の髪が伸びてアムドコレクトの足を止める。
「いくっすよ！　グリューエンシュトラール！」
　輝くエネルギーの塊が、カラミティプリンセスから飛び出してドラゴンの巨体を飲み込んでいく。
　ウインクをして決めポーズをとったシルフィリアスの視線の先で、もはやボロボロとなったアムドコレクトが光の中から現れた。
「悪いけど、倒させてもらうよ！」
　シルディが続いてオウガメタルの拳を敵に叩き込む。
「まだだ……せめて１人だけでも道連れにさせてもらう！」
　拳が命中した瞬間、アムドコレクトの刃もまたシルディの体を薙いでいた。
　堰を切ったように血があふれだし、ドワーフの小柄な体が床に倒れる。
　しかし、それは最後のあがきに過ぎなかった。
「シルディ！　よくもやりやがったな！」
　ハインツの叫びに応えてチビ助が霊剣で敵を切り裂き、鈴の放つ弾丸が凍結させる。
　菫が蹴り飛ばした星形のオーラが、トリュームの極太レーザーが、そしてサーヴァントたちの攻撃が敵を次々に打つ。
　脚に蒼炎をまとったままの煉が、アムドコレクトの眼前に着地した。
「鬱憤ばらし以外にも、ぶちのめす理由ができたぜ！」
　煉は拳を固めた。そこに、狼の姿をした蒼炎が宿る。
「こいつが俺と姉ちゃんの親父が磨き研ぎ澄ました牙だ！」
　姉が合わせて前進してきているのは、見ずともわかっていた。
「うん、お父さんの技はわたし達の中に生きてる。生き続けてるんだから！」
　白光を宿した鈴が煉の隣に並ぶ。
「これが俺（わたし）達の絆っ！　『双星狼牙』だっ！」
　繰り出した２つの拳と共に、蒼と白の顎が敵を挟み込む。
　炎と光に噛み砕かれたアムドコレクトが、叫びと共に消えていった。
「いえーい！　びーくとりー！　……って言ってる場合じゃないね！」
「大丈夫か、シルディ！　チビ助、運んでやってくれ！」
　和の言葉を受けて、ハインツが傷の浅いオルトロスに指示を出す。
　死んではいないようだが、シルディはかなりの重傷だ。彼を支えて、ケルベロスたちは急いで撤退する。
　駆けつけてこようとしているドラゴンもいたが、指揮者を失った敵を避けるのは容易い。
　残る敵は烏合の衆に過ぎないのだ。
　近く、すべての敵は掃討されるだろう。
　要塞に作り替えられた港がもとの姿を取り戻す日を待ち望んでいる人たちのもとへ、ケルベロスたちは駆けていった。

作者：青葉桂都	重傷：シルディ・ガード（平和への祈り・e05020）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年6月11日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。