ミッション破壊作戦~荒れ狂う竜骨に終止符を

作者:木乃

●追撃は神速のごとく
「まずドラゴン・ウォーの一戦、本当にお疲れさまでした。ドラゴンのゲート破壊成功という歴史的大勝利は、英雄譚として語り継がれていくでしょう……そして、ゲートが破壊されたことで、ドラゴン勢力のミッション地域の強襲型魔空回廊が消滅しましたわ」
 興奮気味に状況を伝達するオリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)だが、ひとつ咳払いして普段の調子に戻す。
「現在はドラゴン、ドラグナー、竜牙兵、オークのミッション地域の完全開放が可能になりましたが、強襲型魔空回廊が消失したからと言って、敵戦力が消えてなくなる訳ではありません。ゲートを失ったことで戦力の補充がされず、奪還されるのも時間の問題――自暴自棄になって周辺地域を道連れにしようとするかもしれませんわ」
 そうなれば被害という言葉も生ぬるい、地域一帯が消失することだって考えられる。
 ならばこそ、今、行動に移さねばならない。
「そこで皆様には、強襲型魔空回廊を失って混乱している、敵の頭上からヘリオンより降下作戦を行い。敵の首魁の撃破を行ってくださいませ。強襲型魔空回廊そのものがなくなったことで、『ドーム型バリアも失われ、グラディウスも必要としない』……まさに丸裸の状態なのです」
 さらにそこで首魁を失えば、混乱した敵戦力はケルベロスの敵ではない。
 周囲への進撃を行うまでもなく、殲滅することが出来る。
「危険な強襲作戦には変わりませんが、今この時、皆様ならば実現できると思いましてよ」
 オリヴィアは柔らかく笑み、次の話題へ。

「今回の強襲するエリアは『竜牙兵』の制圧地域としますわ。突入方法も従来通り、ヘリオンから中枢部上空へ移動し、高高度からの降下作戦となります」
 しかし、これまでと異なる点がいくつかある。
「先に申した通り、『グラディウスは使用しません』わ。ドーム型バリアもなくなっておりますので。そのため『魂の叫びも必要としません』わよ、戦闘に集中していただいて問題ありません」
 ただし、グラディウス使用時に発生する雷光や爆炎、煙幕も頼りに出来ない。
 連携が甘かったり、不測の事態を引き起こすなど、状況が悪くなればタダでは済まない。
「危険性が高い作戦には変わりないですよ」とオリヴィアは釘を刺す。
「その代わりという訳ではありませんが、すでに敵地は混乱を極めています。敵戦力のトップを潰すことが出来れば、あとは立て直しも図れない戦力を一気に制圧するのみでしてよ」
 最後に、
「同じ竜牙兵でもミッション地域によって、特色があるようですわね。奇襲する地域を選ぶ際には、参考にするようお願いいたします」
 と、作戦地域の選定を忘れないようオリヴィアは付け加える。

 ドラゴン勢力は大打撃を受け、再起することも敵わない。
 ここで一気に拠点を制圧できれば、ドラゴン勢力の全滅も現実味を帯びてくる。
「兵は神速と貴ぶ、まさにスピード勝負ですわよ。士気が削がれた竜牙兵達にきっちり御礼参りを済ませてくださいな」


参加者
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)
ロイ・ベイロード(剣聖・e05377)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
アンネ・フィル(つかむ手・e45304)
 

■リプレイ

●美しき流紋岩の浜で
 静穏と波音で満ちた岩手県浄土ヶ浜。その浜辺を燃やす緑の焔。
 それはドラゴンのゲート破壊と共に、荒れ狂う波浪へと変じ、焼き尽くす波紋を広げようとしていた。
「燃やせ! 焼き払え! 全てを我らの緑炎で焼き尽くせぇ!!」
 一等大きな竜骨は吠え猛る。
 母星への帰路は潰えた、還る先は見知らぬ星の風の中。
 救いはない。救いがない。もう救われない。
 ならば、いっそ――全てを連れて逝こうじゃないか!
 天高くこだまする下卑た嘲笑、潮風に舞う熱気……だがその暴虐も遂に終わりが近づいていた。

 真昼の空より降下する、5つの人影はひときわ目立つ個体を捕捉し、そこ目掛けて飛来していた。
 砂埃舞う浄土ヶ浜へ真っ先に降り立ったのは、相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)だ。
「旋風、斬鉄脚!」
 着地の衝撃を利用し、瞬時に間合いを詰める。
 自慢の健脚は光の軌跡を描き、炎をまとう竜骨を揺るがした。
「解放、する……!」
 続けて着地した空鳴・無月(宵星の蒼・e04245)は身構えると同時に、戦線を確保しようと警戒度を高め、後続も次々に降り立つ。
「あなた達の蛮行もこれまでです」
「我々の地球を荒らしまくったツケ、今こそ倍返しさせてもらう!」
 軽やかに跳躍する彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)は、砂塵を巻き上げ、泰地が蹴り抜いた部位へ一撃を加え、巨体を揺るがす。
 続けざまにロイ・ベイロード(剣聖・e05377)の剣戟が迫る。
「現れたか、ケルベロス!」
 悠乃の蹴り足は許した竜牙兵だが、ロイの刃は大鎌ではね除け、緑炎で返礼。
「すぐ治療しますねっ」
 アンネ・フィル(つかむ手・e45304)の激励の歌は風に乗り、炎に身を焦がす勇者を癒やす。
 その一撃は『直撃』というレベルではなかったが、初撃としては充分すぎる威力を発揮していた。
「我が激情の前に朽ちるがいい!」
「勝手に居座ってる連中の台詞じゃねぇんだよ!」
 泰地の剛拳と魂魄狩りの大鎌が激突し、迸る衝撃が周囲の砂塵を吹き飛ばす。
 白波を割り開かん勢いで打ち合う両者の闘志が肌を震わせ、そこへアンネが三角錐のパズルを向ける。
(「遠距離からしかければ、大鎌でのこうげきは届かないはず」)
 パズルより現れた戦女神の幻影は装甲めがけ、無数のシミターを振り下ろす。
 ――理力を込めた攻撃は狙い通り、竜牙兵を捉えた。
 同時に、想定外の事態へと展開する。

「邪魔だァッ!!」
 泰地と大きく間合いを開き、魂魄狩りは我が身の焔を擲つ。
(「は、はや――!?」)
 その速度は対策を講じたアンネの想定を大きく上回り、回避できないと直感させた。
 この地域は比較的、危険性も低いだろう。
 遠距離ならば、見切ってしまえば済むだろう。
 対策を講じれば、やり過ごせるだろう。
 ――それらの確証を得られぬ推測が、かえって危険な状況を招いてしまった。
「……させない」
 緑炎の豪速球に向かって無月は飛び込んだ。
 軌道へ割り入ることは容易くとも、背筋を冷たいものが垂れていく。
「無月さん!?」
「支援を、お願い」
 ジリジリと蝕む感覚を覚えながら、黒翼のドラゴニアンは矢のごとく走りだす。
(「強化状態なら、解除すればいい……けど」)
 魂魄狩りは異常状態への対策を――少なくとも、データ上では――確認されていない。
 戦法として回復を優先しているか? 見極める必要も出てくるが、可能性としては低いだろう。
 ロイの念力で魂魄狩りの注意が逸れ、その僅かな隙に、無月は星天槍を地面に突き立てる。
「足元……注意……」
 砂地にグラビティを促すと、直線上に穂先の大群が顔を出す。
 天高く突き上げたスカイスクレーパーが、竜骨の兵(つわもの)を捕らえる――。
「余所見はいけませんね。見て下さい、私のことを」
 自らにも狙いを向けさせようと悠乃が刃先を立てる。
 ゴリ、と骨の削れる手応えは確かにあった。
 ……煩わしいと感情のまま放たれる轟炎、それを悠乃は頭上にやり過ごす。
 それでも、狙いが悠乃とアンネの双方に向かいやすくなっただけ。
 予断を許さない状況には変わりない。
「小癪な連中だ……!」
 左手の灯篭が揺れ、赤く燃ゆる眼(まなこ)の光が増す――。

●暴れ喰らい舐めずる焔
 戦局は大きく傾きはしなかったが、少しずつ。
 少しずつ生じるズレに、緊迫感を増していた。
「渾身の一撃、受けるが良い!」
 一撃の重みより、着実に一撃を与えていく。
 ロイの戦術は前線を支え、充分に機能した。
「――――砕け散れ!!」
 最上段から叩き落とした大剣、それを返す刀で伝家の宝刀、アベル・ストライクを叩き込む。
 だが、ロイの動きは仲間の動きを慮っていたとは言い難かった。
「易いわ小僧!!」
 鬼火のごとき眼光は、青鎧を逃しはしない。
 ガシャリと骨子を鳴らし、勢い立った邪なる緑炎が追い撃つ。
 ――戦局が思わしくなかった要因のひとつは、事前に懸念されていた。
『連携の甘さ』が全体として大きく影響してきたこと。
 仲間の動きを意識してコンビネーションを仕掛ける……乱戦で一手でも早く動く為に連携は必須となる。
 ただし、互いを思う『感情』がなければ、呼吸を合わせることも難しい。
「しまっ――」
 特に防衛役を兼ねた、無月と動きを意識しあわなかったことは拙かった。
 無月も後衛の守備に意識はあったが、狙いは二手に分かれ、かつ自らの守りにも気が抜けない。
 そんな状況に置かれては、一歩遅れてしまうのは無理からぬことだった。
『危険性が高い作戦には変わりない』――ヘリオライダーの警告が思い起こされる。
「っ!! ぐ、あ、ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ――――ッッ!!?」
 劫炎は容赦なくロイに飛来し、傷つく肌をさらに爛れさせた。
 肉の焼けるニオイが潮風に雑じり、激痛を伴うロイの叫びに戦場に嫌な空気を増していく。

「ハァ……っ、かいふく、しないと…………」
 自身の負傷も癒やすべく、アンネはエクトプラズムを広域に呼び出す。
 回復と並行して攻撃を――見切られないよう対策を考えていたものの、それは竜牙兵も同じこと。
 支援役としてポジションをとっていたのは実質、アンネのみ。
 敵の意識を引き寄せる。後方から回復役もこなす。
 結果として役割を欲張ったために、被弾率は最も高く、支援の手も後衛に留まっていた。
「アンネさん下がってください、ロイさんの手当をお願いします」
 招来した御業の鎧を纏い、悠乃は砂浜を滑走する。
(「もっと、もっと引きつけなくては……!」)
 凶刃へ果敢に挑む泰地に合わせ、さらに狙いを引きつけようと抉りこむ。
 こぼれ落ちる骨片が魂魄狩りの損耗を物語るが、至近距離で拳を揮い続ける泰地の消耗も目立ってきた。
「オ、ラァァ!!」
 頑強な肉体を真っ赤に染めて、全体重を乗せた回し蹴りを放つ。
 気勢をあげた一撃で距離を離すと泰地は視線だけ背後に寄越す。
(「まだ動けそうなのは……俺と悠乃と、無月か」)
 無月、悠乃と違って、泰地は立て直す手段を用意していない。
 長丁場になれば押し切られる恐れも――――いや、違う。
(「ここを取り返すって、腹ぁ括ってきてんだ……ビビってられるか!」)
「屍を晒せ、番犬ども!」
 爆発的な突進を無月が遮り、押し返される反動を抑えようと、腰を落としつつ超重弾で反撃する。
「動けるか」
 無月の問いに「ああ」と切れた腔内に溜まる血ヘドを吐き出し、泰地は砂場を踏み締める。
「てめぇらも味わって逝きな……地球人の意地って奴をなぁ!!」
 大きく息を吐き、泰地は何度目かの肉薄戦へ。

 ゆらり、赤い双眼が油断なく視線を巡らす。
 魂吸いの灯籠で自身を照らし、魂魄狩りは標的を見定める。
「残る3匹、まず目障りな羽虫から狩り取ってやろう」
 アンネから狙いを引き離そうと奮闘したこともあって、後方の悠乃から脱落させようと炎を舞い上げる。
「動きを、もっと、鈍らせないと」
 小さく呟き、無月は火花を散らして突貫する。
 摩天槍楼と重力弾は、竜牙兵の動きを鈍らせたものの、悠乃の動きにはまだ対応しきれていた。
 ならば、行動そのものを鈍らせれば……接触する穂先が炎を裂き、竜骨を紫電が貫く。
 裂帛の叫びをあげた悠乃は、竜牙兵との間に無月が立ったと見るや、宙に身を翻す。
(「――――そこです!」)
 装甲の亀裂、その中央へ意識を集中させる――狙い、能うことなし。
 砂にまみれた細足を鏃に悠乃は鋭く射貫いた……!
 ピシッ……バキ、バキバキバキバキィッ!!
 肩部の繋ぎ目が音を立てて崩れて、魂魄狩りの重心がふらりと傾く。
 ……ガラ空きになった懐を泰地が見逃すハズもない。
「こいつで――」
 光り輝く左腕が喉元を手繰り寄せる。
 ミシミシミシッと骨の軋む音を響かせ、直後。
「終いだぜッ!!」
 上体を限度いっぱいまで引き絞り、放たれた漆黒の右ストレートが突き出した鼻先を押し潰す。
 まさに全身全霊、鬼気迫る正拳突きが魂狩りの狩人を返り討ちにしたのだった。

 粉微塵になる亡骸を見下ろし、勝利の余韻に浸る余裕はない。
「まだ気づかれてない、急いで離れよう」
 満身創痍になりながら無月は、浅い呼吸を繰り返すロイに肩を貸す。
 熱傷が多数見られたが、見た目ほど深い傷ではなかったことは、不幸中の幸いといえよう。
「閃光手榴弾……は、むしろ俺達の存在を教えちまうことになるか」
「こちらに敵を引きつけてしまっては本末転倒ですよね……通常通り、この場から離れてしまえば問題ないでしょう」
 アンネを背負った泰地の言葉に悠乃も頷き返した。
 後はこの地の奪還に駆けつけたケルベロスに任せよう。
 海風を浴びながら、無月達は急ぎその場からの離脱を図る。
 潮騒を掻き消す不穏な気配は、じき消え失せるだろう。
 野を焼くように広がる緑色の炎はひとつ、またひとつと失われ――浄土ヶ浜に再び穏やかな景色が戻っていくのだった。

作者:木乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月11日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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