ドラゴン・ハートレス

作者:のずみりん

 東京都は夢の島に、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)は竜を見た。
「ダモクレス、ではない……!?」
 かつて戦いのさなかにフラッシュバックした姿、奇妙なセンサー反応を追って辿り着いた元廃棄物処分場の埋め立て地から、それは現れた姿は異形の巨体。
 夕日にさらされた姿は戦艦竜ともまた違う生機のキメラ……その竜鱗は装甲板で、爪は連結されたプラズマグラインダー、背に接続された要塞砲さながらのアームドフォートはさながらダモクレスで生物らしさはほとんどない。
 ドラゴンを模したダモクレスの新型と言われても、違和感はさして感じなかっただろう。
「キカイ……キカイ……!」
「機械を……ダモクレスを食らったのか!?」
 だがマークは確信した。
 戦闘システム機動。脚部クローラーを全力で逆進した瞬間、マークのいた舗装路が粉砕機じみた爪に抉りぬかれていく。
「P.G……!」
 見間違えようもない、深々と残された痕はダレモクスの戦友が振るったプラズマグラインダーの痕跡。その竜鱗の模様はどこか見覚えがあり、何処か歪んでいる。追いかけたセンサー反応もそうだ。
 すべては逆。このドラゴンこそが、ダモクレスを、かつてのマークだった『307部隊』を食らったものなのか。
『HEARTLESS』
 記憶が宿敵のコードネームを伝えてくる。
 その名の由来であろう、心を失ったセンサーライトの瞳がマークを照準した。

「東京都、夢の島にドラゴンが出現した。因縁あるマーク・ナインと戦闘に入ろうとしている」
 リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は奇妙なドラゴンとレプリカントの邂逅を、集まったケルベロスたちにそう告げた。
「一見してドラゴン型のダモクレスにも見えるが、実態は逆だ。マークが呼ぶには、ハートレスと」
 それはグラビティチェインの枯渇か、あるいは定命化に抗するためか? 理由はわからないが、無限増殖機械軍の属性を帯びたドラゴンはマークを追い詰め、今まさに食らおうとしている。
「ハートレスは強力なデウスエクスだが、他のドラゴンと同様にグラビティ・チェインの枯渇と定命化で消耗している。マークを迅速に救援し、力を取り戻す前に撃破してほしい」

 機械と進化、ハートレスの能力は極めてシンプルかつ強力である。
 クラッシャーのポジションを取り、有り余る火力と防御力で正面から叩き潰す……強者のみに許された王道の単純さだ。
「確認されているグラビティは背部アームドフォートによる一斉砲撃、全身のプラズマグラインダー……チェーンソー剣による斬撃。そして接近を拒む超重力の装甲」
 一斉砲撃はほぼ凌駕不能なフィニッシュの威力。プラズマグラインダーは射程こそ短いが守りをズタズタに引き裂く破壊力を誇り、そのどちらもが列範囲を巻き込む広範囲の代物だ。
「超重力装甲はヒールグラビティの一種……マークの使用するグラビティと似ているが、ハートレスは広出力での照射や体当たりとの組み合わせで攻撃にも使用してくる。癒しの頻度には注意が必要だろう」
 危険域に追い込まれたが最後、一斉砲撃でまとめて吹き飛ばされる危険もある。体力は常に高めに保っておかないと危険な相手だ。
「それとこれも食らった力ゆえかはわからないが、ハートレスは危険を感じた際に進化する兆候が見えている。攻める時は注意してほしい」
 発動するタイミングは短時間で強力な攻撃を連続で受けた場合。この進化による強化はブレイクできず、BS体制と壊・狙・盾のエンチャントが高ランクで付与される。
「だが……極めて危険だが、この強化はハートレス自身の負荷にもなる。うまく誘発できれば、逆にチャンスをつかめるかもしれない」
 急激な進化の反動は大きく……強力なドラゴンでも、かなりのダメージを受けると予想される。
 どのタイミングで使わせるかの計画、止めを打ち込める策があるなら、あえて進化させてダメージを与える手も危険だが使えるかもしれない。
「ハートレスは理性をほとんど失っており、レプリカントや機械らしい特徴のものをえらう傾向にあるようだ。あわせて参考としてくれ」

 説明に頷き、ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)は自身の剣をとった。
「ソフィアも援護いたします。敵はドラゴン、今は知性を失っていると言え、このままグラビティ・チェインを確保されれば、特にレプリカントにとっての大災害につながりかねません」
 そうなる前にここで倒さなければならない。
 マークと彼のいた部隊に報いるためにも……握った拳を胸元にあて、ソフィアは一言を呟いた。


参加者
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
ピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)
ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754)

■リプレイ

●COMBINED FORCE
 砲撃の津波がマーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)を夢の島ごと飲み込んでいく。
『キカイ! キカイ!!』
 爆風と熱波。ハートレスの火砲にめくりあげられた、樹脂と金属片まじりの土砂が『ジョイントガード』に守られた四肢をガンガンと叩いてくる。
『撤退を推奨。彼敵の火力は本エリアを消滅破壊可能。有効戦術なし。撤退を強く推奨する!』
「NO」
 脚は止めず、しかしヒステリックに叫ぶ『R/D-1』戦術支援AIを叱咤し、夢の島公園を中心地へ駆ける。
 マークには一種の確信があった。
 立場が逆でも自分ならそこに向かう。自分ならそこに駆け付けると。
『撤退を……!』
「このチームなら勝てる……大丈夫だ」
 付け加えた声にかぶせるように、それはきた。
「切り裂け!! デウスエクリプス!!」
「ギュィッ!?」
 中央広場に飛び出したマークへ急降下する巨体が、撥ねられた。
 それはテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)からティーシャ・マグノリアへ、ライドキャリバー『テレーゼ』ごと託された、マスドライバー型アームドフォート『ジャイロフラフープ・オルトロス』の姿。
「助けに来ましたよマークさん……アレがハートレスですか」
「開けた埋め立て地にあんな巨大で奇妙な反応、見逃す方が難しいわ」
 テレサに頷いたリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)は『メディカルドローン』を展開しながら、自身の『強行偵察型アームドフォート』が収集したデータにうめき声を漏らした。
「この周波数パターン、戦艦竜とも違う……ダモクレス? ドラゴン? 検討がつかない」
「資料にあった姉のコンセプトと似てますが、生身で行うとは」
 機動する『エアロスライダー』に同乗するピコ・ピコ(ナノマシン特化型疑似螺旋忍者・e05564)は送られる情報に目を細め、『擬似オウガメタル【Pメタル】』よりメタリックバーストを放つ。
 覚醒する超感覚のなか、打ち上げられるミサイル。そして時間差で放たれるアームドフォートの一斉砲撃。
「この威力が直撃すれば……ちょっと、洒落にならない事態になる……!」
「降下しましょう、今のうちに」
 巧みに掻い潜るエアロスライダーだが、ピコが提案を口にするかどうかのタイミング。
「そううまくは……いかないらしい……」
 強く風がひいた。否、風だけでない。あらゆるものが重く、鈍くのしかかる。
『喰ウ……喰ラウ……!』
「重力装甲、か……!」
 吹き荒れる強烈なグラビティの影響か、不規則にダウンする戦闘システムにマークが叫ぶ。
 通常は攻撃を反発させる斥力場を形成する能力は、逆向きに放てばあらゆるものが中心……ハートレスに向けて落ちていく、まるで超小型の惑星かブラックホールだ。
 リティ達の滑り落ちたエアロスライダーが地に突き立った。かつてダモクレス『トッドローリー』が装甲としたこともあるサーフボード型高機動ユニットは破壊こそ免れたが、もはや空には戻れなさそうだ。
 しかし勢いづく重力場がすべてを飲み込もうとした時、また頼もしい仲間たちの声がする^。
「マークさん!」
 突き進むハートレスの巨体が停止する。
 ケルベロスたちは見た。
 重力の嵐下を猛進する紫水晶の輝き……『アメジスト・シールド』『【トゥルー・ヴァイオレット】』、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の両腕に備えられた二つの守りの顕現を。
「事情は、お聞きしました……少々複雑では、ありますが!」
 彼女を含めケルベロス、レプリカントにとってダモクレスは敵だ。敵だが、戦友にはそれだけでない事もわかっている。
 彼女のまとう決戦用アームドスーツ、『ジェムズ・グリッター』のパワーアームが『屠竜の構え』で受け止める。竜の尾を掴む。引きずり、引き倒す。
 もがき立ち上がろうとするハートレスに、更に絡みつく漆黒のケルベロスチェイン。
「お前なら何とか生きてるだろうとは思ったが……こいつは『徳』を積ませてもらうぜ」
『ト……ク……ゴァ!?』
 絡みつけた『破落戸ノ黒鎖』の黒を遡る怒號雷撃。軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)の一撃が、超重力の戒めからケルベロスを解き放った。
「よくわからんが感謝する! R/D-1、SYSTEM REBOOT!」
『YES SIR』
 さしもの巨体もゆらぐ怒涛の攻撃。マークに応える戦闘支援AIシステムも、気持ち軽く感じられる。立ち直る巨体は再び向かってくるが――ケルベロスたちの手札はまだある。
「敵はレプリカントだけではありませんよ! マークさんには恩ある身、この銃撃の聖乙女が相手をします!」
「危険上等! ブレイブハート・イグニッション! 勇気一輪胸に抱き、藤堂・武光、ここに見参!」
 ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)の『制圧射撃』がドラゴンの足場を吹き飛ばし、よろめいた横腹に突き立てられるは藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754)と共に飛んできたの穿孔機械ブレイヴランス。
 ドラゴンが気を取られた隙をつき、変形合体。巨大なドリル状削孔機械『ブレイヴランス』は彼女の右手の地獄に装着された。
「赤く焼けた右手の誓い、正義の炎と燃え上がる。人の叡智が形と成して、今、出づるは希望の槍!皆様お待たせしました拍手喝采の熱血合体!」
『熱血合体! ぶれいぶぅぅ……、ッランスッ!!』
 螺旋を描き、削孔機械のブレードはハートレスの脇腹に炸裂した。

●DRAGON FIRE
 地獄の炎をまとった螺旋槍にドラゴンが叫ぶ。それは苦悶か、あるいは怒りか。
「な、な、なにこれぇっ!?」
「翼……では、ないです!」
 ジェット推進で突き刺さるブレイヴランスを叩き落す異形の第三肢。
 武光の裏返った声と同時、ソフィア・グランペール(レプリカントの鎧装騎兵・en0010)の展開したスターサンクチュアリを騒音が裂いた。
「両手、両足……いや全身チェーンソーって事ですか!」
 光翼をはばたかせ、低空をすべるようなスターゲイザー。勢いのままに一撃離脱しながら、ジェニファーは深く切り裂かれたジャケットに戦慄する。
 既にソフィアは構えた二枚の盾を、武光も地獄を覆う『獅子吼』を砕かれ大きく傷を負っている。
「離脱して。すぐ癒す……ドローン各機、支援体指定……」
『ギィッ!』
 即座に飛ばされるリティのメディカルドローン。大げさでなく、敵は一手ごとに癒しが求められる強敵だ。
 もちろん、対するハートレスも黙ってはいない。再び超重力の投網が空からの救援を叩き落さんと展開されかけるが、そこには三者三条のフォートレスキャノン。
「引き寄せ、叩き落すというのなら……」
「受け取っていただきます!」
 身を飾る『テレサ専用メイド服【スカイ・ウォーク】』のダブルジャンプで上空をとったテレサの加速器型アームドフォート『ジャイロフラフープ・オルトロス』から放たれる白と黒、フローネの『ジェムズ・グリッター』肩部に接続された『トパーズ・キャノン』からの黄昏色。
『オノレ……!』
「FULL BLAST!」
 守りに切り替えようとした超重力の制御が弾幕に阻止され、瞬間。とどめの一撃。
 正面から撃つ本命マークの『XMAF-17A/9』アームドフォートの質量弾がハートレスに苦悶と怒りの咆哮を上げさせた。
「とことん独りでやろうって気か。テメーんとこのゲートがどうなってるか知らねーのか、おーい!」
 双吉の挑発に打ち返される一斉砲撃は返事か怒りか? ダメージはある、がまだ決定打には遠い。
「どうあれ、その生き方は認めるわけにいかない……マークを、同じレプリフォースとして……放ってはおけない」
 身をかわす双吉に割ってはいる霧崎・天音の髪で赤と黄のリボンが揺れる。天変・地異の残霊と共に放たれる地獄の炎と氷の温度破壊『氷炎・天地太極波』が砲塔と共に、彼の宿敵の殺意を砕いていく。

●SINGULARITY
「また装甲を!」
「しかし間隔は短くなってきてる……むむむっ、そこだ!」
 吹き消される『熾炎業炎砲』に、ジェニファーがピンと帽子のツバを弾く。防御から攻撃へと解放される超重力に、武光のサイコフォースがぶつかり、閃光の爆発を放った。
「仕掛けますか?」
「hm……」
 ジョルディ・クレイグの展開した『Guard Drone』を受け取りながら、『増設型擬似螺旋炉』の出力を上げるピコが確認する。
「押せてはいるぜ。本願投影!」
 霧状のブラックスライムを展開し、双吉が応える。フワフワのピンク髪とツインテールの美少女の愛らしさはドラゴンにも通じたか? 自らの手元に飲み込もうと開いた口をすかさず黒鎖が絡み裂いた。
「ただなぁ……っ!」
『ヌガァッ』
 意表を突く振り回されるハートレスの尾撃が双吉を見舞う。
 肉体に並べられ駆動するプラズマグラインダーは、その一つ一つがチェーンソーの鎖刃に等しく、超巨大な刃物と化してマークの肩口を『HW-13S』防盾ごと易々と食いちぎってくる。
「正直、状況は芳しくはありませんね。読みは大丈夫ですが、火力が……っく」
 二人を護り、水平に立てたテレサの『ジャイロフラフープ・オルトロス』の回転防御が火花を散らす。
 だが彼女もまた、乗騎たるテレーゼと共に、アームドフォートの装甲は徐々に損傷が増していた。
 こまめなヒールグラビティは前線を維持してはいるが、積み重なる致命ダメージまでは癒せない。
 仕掛けるタイミングを間違えれば、攻撃する間もなく進化の力に押しつぶされてしまう可能性もある。
「ですが、私たちにも予想以上の支えがあります」
「そう臆するな。お前が選ぶのなら、耐え抜き、応えて見せよう」
 決断を後押ししたのは荒い息で前を向くフローネ、そしてドローンの盾を託したジョルディの激励だった。
「……EX-GUNNER SYSTEM TARGET LINK」
 マークのアイセンサーが輝き、タイミングを調整する。目標諸元入力三十三秒後に一斉砲撃を開始。
『キィ……?』
 進化の瞬間への追撃で一気呵成に破壊する……ケルベロスたちの動きを察したのか、ハートレスが飛び退こうとする。
 飛び退こうとした巨体が、よろめいた。
「Das Adlerauge……逃しません」
 突き刺した『鷲の目』さながらに、佐祐理のアイコンタクトがケルベロスたちに告げる。
『今だ!』
「OPEN FIRE!」
 腰だめの『DMR-164C』ライフルと全武装で突進射撃を仕掛けるマークを皮切り、ケルベロスたちの最大火力は火を噴いた。
 フォートレスキャノンが大地を抉り、二つの螺旋がドラゴンを消滅させんと『螺旋相剋撃』を描く。飛びかかるアームドフォート、その中心をジェニファーの銃弾が撃ち抜いた。
「ヴァルキュリアの弾丸よ、敵を貫け!」
『ガッ!?』
 リボルバーを打ち出された銃弾が、翼をはばたかせて加速する。必殺の『ブラストショット』は異形のドラゴンを切り裂いていく。
「やけにあっけないじゃねぇか、おい。 こういうのは……やべぇぞ」
「そのようね、周波数パターン集束……くる!」
 修羅場の記憶が双吉を行動させた。『北斗七星ヘルメット』を落とし、ブラックスライムを『破落戸ノ黒鎖』に絡ませ展開。リティの『対艦戦用城塞防盾』、仲間たちをの盾を支え上げ壁と為す。
「おかしいです。まだ崩壊には――」
 爆発がソフィアの声を遮った。

●ONLY LAST ONE
『THANK……GRATEFUL……』
 壊れかけのラジオが唸るような声が響く。ノイズ交じりの視界で、倒れ動かないソフィア、ジョルディ……仲間たち。
「やられたのか」
「いいえ、まだ。ですが、あれは」
 身を護り停止した『飛行ユニットだった物』に一礼したピコが、螺旋の一撃でマークに示す。
 ハートレスの身体を走る赤光のラインがまがまがしく脈打っている。四肢の装甲より漏れ出るほどだったそれは、今や全身に広がった。
 まるでドラゴンの体内模型、皮をはぎ、裏返しに着つけたような。
「クレイドール・クレイドルの進化は、開花でした……あれはっ」
 ピコ、そしてフローネが連想したのは進化をテーマとしたダモクレスの一機。開花と脱皮、その類似性はわからなくもない。
 だが、決定的に違うのは。
『I……NEEDED……THANK……THANK』
「テレーゼ、後は……!」
 再び唄うような鳴き声。テレサの声が周囲ごと消えた。
 一瞬遅れ、爆轟。
 極限まで強化された砲撃はハウリングフィスト以上の速度だ。衝撃だけが襲い、遠雷のような音が追撃する。
「反応に低下なし……むしろ、まさかこれは」
 ディフェンダーたちに託した『電磁施術攻杖』のエレキブーストの火花がリティを遮る。あくまで主観で、戦闘中の憶測だ。
 響くハートレスの声は落ち着きを取り戻し、失ったはずの知性すら感じさせる……とても認めたくはない話だが、進化途上で自滅するものの反応ではない!
「この島地下には半世紀近く蓄積された不燃ゴミ……無機物資源、有機物が分解された可燃ガスもまだ発生しているといいます。あるいはリザレクトジェネシスの……?」
 推測する時間はあまりない。ピコの起動したブレイブマインの煙幕も、超重力にあっけなく押し流されていく。彼女を護る武光の唇が震える。
「こんなのと戦って……戦えるの……!?」
 理性は叫んでいる、ここで倒さなければならない敵だと。だが倒せるのか?
 進化に注力したハートレスの生命は多くみて残り二割足らずだろう。だが殺しきられる前に、その二割を殺せるか?

「……て……滅、しろ……」
 消え入るティーシャの声に、マークは自分が庇われた事を知った。
 身体が動いた。
「……SYSTEM REBOOT! COMBAT MODE!」
『ROGER.FORCE 307 ENGAGE』
 兵装状況確認。『DMR-164C』を懸架。最大火力、強襲突撃。
 マークは自身の全てを『R/D-1』システムに預けた。今やマークは一人にして一個の部隊、その部隊を内包するケルベロスは少なくも巨大な軍集団と化し、ドラゴンを狩ろうとしている。
「いいものを見せてもらった。俺もまた死の先を目指している、お前のように」
『TOKU? TOKU?』
 だがお前とは違う。やってみるかと構える双吉へチェーンソーの鉤爪が突き刺さる速度はもはや視認できない。
 視認できないが、予測していれば打つ手はあった。
「捕らえましたよ……ハートレス」
「後は、頼んだ……俺は美少女に生まれ変わる……」
 彼の服下、既にレゾナンスグリードは放たれていた。貫いた鉤爪をブラックスライムが捕食する速度は、切り裂き引きぬこうとするハートレスを上回っており、それを許さぬ鉄槌があった。
 覚悟の相殺から託された一手、フローネの『ダイヤモンド・ハンマー』がその腕を抉れた地面へと縫い付ける。
 ただの打撃ではない。細く、硬く鋭く伸ばした『アメジストシールド』を釘とした『紫黒金剛撃』が、フレームまでを撃ち抜き、ドラゴンの右手を完全に封じられた。
「左だ、マークさん!」
『NO』
 矮小な者たちの奮闘に猛るハートレス、苛立たし気な砲の連射が武光を飲み込む。指し示した先は自由を奪われた左翼、爆風を一人飛び出したのは傷ついたテレサのサーヴァント。
「SUGGEST……EX-GUNNER SYSTEM……?」
「本格的に嫌われた……ってヤツですか?」
 三度目のブラストショットと見た光景に、ぱちんとジェニファーは帽子の唾を弾いた。
 死角を作るのは『エアロスライダー』、そこからの勝機を提案する『エクスガンナーシステム ver.β』。マークを先導するライドキャリバー『テレーゼ』もまたダモクレスに由来する一つだ。
 彼女の好きなロボットアニメでもたまにある話……偶然か、機械の魂が応えたか、答えをぼかした少しの奇跡。
 ディ・ロックの癒しの拳に背中を押され、マークは傾いたエアロスライダーを盾に、そしてジャンプ台に飛んだ。
 ハートレスの中枢は全身を走るラインが示してくれている。宿敵が向けた砲を、テレーゼのキャリバースピンが受け止め、共に爆発に消える。
「MODE ASSAULT……BUNKER DISCHARGE」
 託されたものへ、マークは構えた『DMR-164C』ライフルを大きく突き出した。
 全力で放たれた『pile bunker charge』でも、体の奥深くまで届くかは怪しい。だが今は違う。
「……ずっと負け続けた部隊だったが、皆のおかげで最後に勝利することができた」
『NO……THANK……』
 引き抜かれたのはパイルバンカーのロッド、その先端では武光のブレイヴランスの先端。託し、運ばれたキャリバーソウが装着され、かの竜の中枢を掴んでいた。
 掲げられたコアが明滅する。その輝きと仲間たちの礼に見送られ、ハートレスと呼ばれた竜は機械の残骸へと姿を変えていった。
「『T307D・CORE』……その、マークさんの」
「ココロはそこにあったのですね」
 傷ついた仲間たち……言葉に悩む武光と後を継いだフローネの鎮魂に、マークは頷き、敬礼をして返した。

作者:のずみりん 重傷:軋峰・双吉(黒液双翼・e21069) 藤堂・武光(必殺の赤熱爆裂右拳・e78754) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年6月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。