黒曜夜

作者:崎田航輝

 漆黒のヴェールがかかったような、深い暗雲の夜だった。
 風は緩く、遥か遠くに草木のそよぐ音が聞こえるだけの静寂の景色。
 ふわり、と。
 金色の長髪が大きく揺れて、ベリザリオ・ヴァルターハイム(愛執の炎・e15705)はその空気に違和感を覚えた。
「何か──居るようだな」
 自然の風は相変わらず弱く、風景に変化はない。だが時折強い風圧が吹き下ろして──肌を痺れさせるような気配が漂っている。
 早めに家路に着いたほうがよかったか、と一度思って。
 それからベリザリオはいや、と思い直す。
 それは気配の元をたどって空を仰いだ時、それを見つけたからだった。
 夜空を一層暗くするように、影を落とす存在。尖った翼で風を掻いて、降り立ってくるそれは見上げるほどの巨体を持つデウスエクスだった。
 鋭利な爪、体を覆う硬質な鱗、淡い光を湛える角、研ぎ澄まされた牙──ドラゴン。
 吠え声とも唸り声とも違う、地の轟きのような声を響かせる。
「小さき竜人。今此処で、我に喰らわれ糧となれ」
 それは戦い食らうことを求める、欲望のままの言葉。眼前にいるもの全てを蹂躙する強者の声音。
 ベリザリオは、退かない。どちらにしろ、退くことは叶わなかったろう。
 いつしか風が吹き荒ぶほど強くなっていた。仰ぐ空だけは変わらず、黒曜石のように暗いままで。

「ベリザリオ・ヴァルターハイムさんが、デウスエクスに襲撃されることが判りました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は集まった皆へ説明を始めていた。
 現段階では敵と接触はしていないが、時間の猶予はほぼ無いのだという。
 ベリザリオは既に現場の野原におり連絡も取れない。故に、一対一で戦闘が始まってしまうところまでは避けられないだろう。
「けれど、今から急行して戦闘に加勢することは出来ます」
 合流までは、時間のラグはある程度生まれてしまうだろう。それでもベリザリオを危険から救い、戦いを五分に持ち込むことは可能だ。
「ですから、皆さんの力をお借りしたいのです」
 現場は街と街の境に在る、自然の野原。
 広々とした所で、周囲に人の姿はない。敵も人払いをしているのだろうか、少なくともこちらが一般人の流入に気を使う必要は無いだろう。
「皆さんはヘリオンで到着後、合流し戦闘に入ることに注力して下さい」
 周辺は静寂。視界も悪くはないはずなので、ベリザリオを発見することは難しくないはずだ。
「ベリザリオさんを襲った敵ですが、ドラゴンのようです」
 個体の名は『ルストアグラ』。戦意の強い性格のようだ。だけに、放っておけばベリザリオの命が危機であることだけは間違いない。
 だからこそ一刻を争う事態なのだと言った。
「ベリザリオさんを助け、敵を撃破するために……さあ、行きましょう」


参加者
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
深月・雨音(小熊猫・e00887)
カナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955)
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)
アリューシア・フィラーレ(亡羊の翼・e04720)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
狼炎・ジグ(恨み喰らう者・e83604)

■リプレイ

●宿縁
 暗雲が空で蠢いて、空が闇色に明滅する。
 その世界にすら昏い影を落とす巨体に、しかしベリザリオ・ヴァルターハイム(愛執の炎・e15705)は一歩たりとも退かなかった。
「──貴様の方から出て来たか、我が呪わしい父よ」
 呼気に紫の獄炎を交えて、声音に含めるのは殺意と愛憎。
 暴力的な戦意と共に、想起するのは失われた日々だ。
「よくも私から愛するものを奪ったな」
「ならば、どうする」
 巨竜、ルストアグラは声を響かせた。
 まるで戦いの意志を確認するかのように。そのまま力を込めた尾撃を叩き込んでくる。
 地を滑りながら、ベリザリオは倒れない。口元に血を付着させて、見せるのは病的なまでの愛執だった。
「負けはしない。この怨嗟は貴様等を滅ぼしても収まる事はないだろうが──」
 それでも、滅ぼす。
 必ず殺す。
「殺して喰らってやる!」
 夜闇に声を劈かせ、獄炎を噴き上げて傷を吹き飛ばしながら護りの壁と成す。
 巨竜はそれを捻り潰そうとするように。咆哮で大気を震わせ、ベリザリオの体と魂を削ってきた。
 血煙が舞って、ベリザリオは意識が飛びかける。
 余りに強かった。敵があの竜である以上、それは判っていはいたが──防戦すら容易ではないとその強大さを再認識した。
 けれど、それでもベリザリオの忿怒の焔は消えない。
 だからこそ巨竜も一切の油断なく、牙で止めを刺そうと大口を開ける──が。
「確かに巨体ですね。打ち直した刀の試し斬りには、よい機会です」
 刹那、夜の暗がりを切り裂くように鋭い疾風が奔った。
 それは西院・織櫻(櫻鬼・e18663)が放った剣閃。ベリザリオの傍らをすり抜けたそれは、巨竜の牙に直撃し、甲高い音を上げてあぎとを弾き返す。
 巨竜が視線を戻す暇もなく、次に聞こえるのは涼やかな声音。
「お食事が希望なら……鉛玉のデリバリーはいかがかしら?」
 機巧が駆動し、砲身が光を反射する。
 カナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955)。背中のアームドフォートから切り離した砲台を周囲に展開、集中砲火する形に配置していた。
「──今ならお代わり自由よ?」
 刹那、その全てに一斉に火を吹かせる。『お願い! 自動砲台先生!』。爆炎と衝撃の乱舞に、巨竜は一歩下がって留まった。
 その頃には、ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)が銀の髪を揺らがせて、ひらりとベリザリオの傍に舞い降りている。
「ベリザリオさん、大丈夫ですか?」
「……ああ」
 膝をついていたベリザリオはゆっくり立ち上がり視線を巡らす。
「来てくれたのか」
「……無事、というわけではなさそうだな」
 ハットのつばを軽く上げ、その傷に瞳を微かに細めるのはゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)。待っていろ、と呟くと鎖を操り空間に光を線引いて。魔法陣を輝かせて治療と防護を行っていた。
「……それじゃ、ボクも手伝っておくね」
 と、淡い光からカラフルなヨーヨー風船を形成するのはアリューシア・フィラーレ(亡羊の翼・e04720)。
 可憐な相貌に、薄い表情を保たせたまま。その『夢色風船』を投げて割ることで光を纏う癒やしの風を生み出して、心地よい涼しさで傷を濯い流していく。
「これで、あと少しかな」
「雨音に任せるにゃ!」
 金色の瞳をきらりと耀かせ、深月・雨音(小熊猫・e00887)も朗らかに駆け寄っていた。
 手をそっとかざすと眩いオーラを治癒力にして与え、ベリザリオの負傷を治してみせる。
 うん、とひとつ頷くと、勇ましさを表情に含めて。がるるぅ、と正面に向き直った。
「で──ベリちゃんをいじめてるのはだーれかにゃ!?」
「ドラゴン、か」
 ゼフトも闇間に視線を向ける。
 その威容も気配も、遠くにいる段階から肌に感じられてはいた。たった一人で戦う事がどれほど厳しいかということも。
 何にしても、と、ベリザリオへも視線を向ける。
「決闘の時間はここまでだ。これからは討伐の時間だぞ」
「ええ。全員で、戦いましょう。モード・エスコート。オープンコンバット」
 ミオリは乙女座の白銀剣を掲げると、そこに埋め込まれた紫水晶を瞬かせる。
「星域結界演算」
 瞬間、星空が現れたかのように、美しい光粒が皆を囲った。それは星屑のヴェールとなって皆へ護りの加護を齎していく。
 巨竜も反撃の咆哮を放とうとしていた。が、風を切って胴体に突き刺さる衝撃がある。
 それは地獄の焔を揺蕩わせ、狼炎・ジグ(恨み喰らう者・e83604)が投擲していた槍。
「簡単には、させないぜ」
 体を覆う地獄によって、爆発的に身体能力を向上させながら。分裂した槍による攻撃はまだ終わりではない。
「でかければ何でも強いと思ったか? 随分と当てやすい的じゃないか」
 だから串刺しにしてやる、と。光条と化した矛を光線のように放って連撃。巨竜の体を深く穿っていく。

●闘争
 番犬達はルストアグラを包囲するように位置取っていた。
 無論、竜相手であればこそ油断する者はない。ただ、それ故にアリューシアは呟いた。
「……今、ドラゴンって大変なんじゃなかったっけ?」
「そういえばそうにゃ。迷子のドラゴンちゃんかにゃ?」
 雨音が小首を傾げると、アリューシアはベリザリオに視線を向ける。
「……何にしても、随分変わったひと? に気に入られたねー。お知り合い?」
「──奴は、父だよ」
 ベリザリオはただ揺ら揺らと、紫焔に赫怒を顕していた。
 愛するもののため、嘗て愛したもののため。そこにあるのは何よりも強い憎しみ。
 ルストアグラは睥睨するように、視線を下ろす。
「結果は変わらぬ。仲間諸共、お前の命も喰らいつくして終わるだろう」
「──いいえ」
 静やかに声を返したのは織櫻だった。巨竜の威容に臆す様子もなく、事実を語るように口にする。
「命を喰らわれるのは、あなたの方になるでしょう」
「織櫻……」
 ベリザリオが瞳を隣へ向けると、織櫻はそちらへ視線を合わせた。
「ヴァルターの敵なれば、私が斬ります。私を相方と言ったのはあなたですから──あなたを狙った敵の生殺与奪権は私にもあるでしょう」
「──ああ、そうだな」
 ベリザリオが応えると、アリューシアも前方を向く。
「……なら、ボクはボクの出来るお手伝いをさせてもらうよ。ボクらの仲間をご飯にさせるつもりは微塵もないし。……そこんとこよろしくねライオンさん」
 わざと間違えるように声を向けてみせると、巨竜は翼を広げ魔力を纏う。
「いいだろう。その心も、意志も、全てを蹂躙するまでのこと」
 瞬間、夜が明けたと空目するほどの雷撃を放射してきた。
 けれどベリザリオが惑わずドローンを展開し回復防護すると──織櫻は疾駆。師の愛刀と自身の刀を打ち直した二振り──鬼刃斬【櫻鬼】、そして【瑠璃丸】を交差させ二撃。『雨音断ち』で硬質な鱗を斬り飛ばしてみせる。
 合わせてベリザリオも即時に蹴撃。鉤爪でその表皮を抉ってみせれば、雨音も追随して唐刀を抜いて奔り込んでいた。
「これでも、喰らうにゃ!」
 地を跳んで、巨竜の足元を蹴り上がり高高度へ。まるで宙に踊るよう、美しい動線を描いて頭上を取る。
 そのまま、巨獣すら取って食うかのように獰猛に。雷の如き直下の刺突。
 衝撃にぐらつく巨体から飛び退くと──反撃に放たれた嵐すら、身を挺して受け止め後ろに通さない。
「これぐらいじゃ、なんでもないにゃ!」
「……ありがとう。すぐに回復するよ」
 直後には、アリューシアが月輪のパンジャを煌めかせ、癒やしの旋律で傷を癒やす。
 同時、ミオリも結界を重ねて星灯りを一層眩くすることで体力を保たせていた。
 そのまま隙を作らず、ミオリは宙に光の頂点を作り出す。巨竜を囲うように半透明の辺と面を描き出すそれは──。
「絶対零度領域構築完了、投擲」
 ミオリが投げ放つ爆弾の衝撃を一点に集めるための檻。刹那、領域内だけに広がった零下の爆撃が巨体の表皮を凍らせる。
「次手をお願いします」
「ああ、次は炎で焼き肉にしてやる」
 応え、前進するのはジグ。躊躇わず敵の至近にまで迫ると、手元に焔を収束させていた。
 巨竜は嵐を吹かせ、薙ぎ払おうとしてくる。けれどジグがその渦中へ炎を投げ放つと、逆に増幅するように燃え上がり、竜の全身を熱波で包み込んだ。
 僅かにふらつく巨竜、それでも踏みとどまってジグへ反撃を狙う、が。
「──おっと、やらせないわよ!」
 宙を高速の弾丸が奔る。
 弾けて放射状に爆炎を上げるそれは、カナネがガトリングガンから放った射撃。
 巨竜が傾ぐと、カナネは好機を逃さずフル稼働で弾丸をばらまいて。焔の雨を降らすよう、巨体の足を穿ち、翼を貫き、肉を燃やす。
 同時に展開したままの砲台からも光弾を連射し、動きを鈍らせるのも忘れない。
「さあ、今よ!」
「ああ」
 応えるゼフトは既に巨竜の背後にいた。
 漆黒のライフル銃の引き金に指を当て、既に照準は巨体に合わせている。
「仮にもドラゴンだ。パワーはかなりのものだが──その図体でかわせるのかな?」
 声音は、まるで挑発するよう。巨竜は体を動かそうとするが、既に遅い。放たれたビームは一直線に飛来しその腹を貫いた。
「本当に当てやすい的だな。これならば、ブルズ・アイを狙うより楽でいい」
 呟くジグも、再度槍を握り込んでいる。腕をしならせ、高速で飛ばす矛は違わず巨体の胸部に突き刺さり、濃色の血を噴かせた。
 ゼフトも銃口を下げず二の手の準備をしている。巨竜は距離を詰めて、力で制圧しようと目論むが──近づいてくるのならば寧ろ好都合。
 闇色のマズルフラッシュを瞬かせ、ゼフトが撃ち出したのは宙で形を変える流体。至近から命中したそれは、竜の体に深々と突き刺さり血潮を散らせた。

●空
 低い風音が耳朶を打つ。
 それは死に近づきつつある巨竜が零す、苦痛の呼気だ。
 カナネは真っ直ぐに見上げて言ってみせる。
「どんな事情があれど。狙った相手が悪かったわね」
「……死するその刻まで、戦いは終わらぬ」
 巨体を一歩前進させて、ルストアグラは言った。この果てに何が待っていようと、退かぬという意志の表れ。
「御せると思うな。我は眼前の命を喰らわず滅ぶつもりはない」
「……いいや、貴様にこれ以上奪わせん」
 ベリザリオは睨み上げるように、紫に煌々と照る瞳を向ける。
「今度こそ織櫻を守る。そして貴様を、殺す」
「……ボクらも、仲良く竜のご飯になる気もさらさら無いしね」
 アリューシアは言いながら、ヨーヨー風船を生成していた。
「……ていうかよく考えたらボクら番犬だし、寧ろこちらが『いただきます』って言わなきゃ駄目なやつかな」
 声音はゆるゆるとしながらも、鹵獲する気は満々に。瞬間、投げ飛ばした風船から、閃光伴う大爆発を起こさせて巨竜を後退させる。
「……さあ、皆も」
「ええ、一気にいくわよ!」
 頷くカナネも一心に敵へ駆けて、ガトリングガンを大振りに振り上げる。
 ベリザリオには助けてもらった借りだってあるから。全力を尽くし──銃床で一撃。強烈な殴打で敵の牙を砕いた。
 巨竜はよろめきながら尾を振るう、けれど雨音はひらりと避けて、流れるようにステップを踏むと逆に眼前に迫っていく。
「もう覚悟しといてにゃ!?」
 くるりと翻り、『千尾円流舞』──尻尾でのビンタを繰り出した。
 振り払おうとする巨竜、だがその猶予すら与えずミオリは砲口を向け、加速した電子の束を閃かせていた。
「──荷電粒子束放射」
 刹那、空間に長大な耀が奔る。【AccES】──雷光の爆発に巻き込まれた巨竜は麻痺に蝕まれ行動を失った。
 ジグは自身の地獄を一層燃え上がらせて、懐にまで入り込んでいる。
「──かましてやるよ!」
 瞬間、咆哮と共に無数の黒い刃を全方向に放出する。【暴虐型】空前絶食。巨体の全身を切り刻み命を削り取っていく。
 同時、ゼフトはゼロ距離から接射。『死の遊戯』で魂を打ち抜き精神を瓦解させた。
「さあ、最後は君の手で引導を渡してやれ」
「──ああ」
 ベリザリオは言って、織櫻へ視線を合わす。
 すると織櫻は二刀に焔を揺蕩わせながら接近。刃を踊らせて巨竜を切り裂き、断ち、灰にしていく。
 紛れもなく敵は強大な存在だった。故にこそ、織櫻の刃は一層鋭さを増して全てを喰らう。
 ベリザリオはそこへ、忿怒の焔を吹き出していた。
 ──これで、終わりだ。
 その毒花色の炎は『Alptraum Gift』。
 裂かれ砕かれ奪われた愛の残滓。それを幾度も見る悪夢を煮詰めた怨嗟の塊。
 五臓六腑も焼き尽くす憎しみの獄炎は、竜を斃し、その命を朽ちさせていった。

「終わりましたか」
 織櫻が刃を収める頃には、いつしか風が緩やかになっている。
 ジグは周囲を見て回り、静寂を確認した。
「他のデウスエクスは──居ないみたいだな」
「ええ、そのようですね。周囲に敵性存在なし。クローズコンバット。お疲れ様でした」
 ミオリも頷いて、にっこりと戦闘終了を告げる。
 カナネは息をついて振り返った。
「無事に終わってよかったわね?」
「ああ。お疲れ様だ、ベリザリオ」
 ゼフトも銃を収めてベリザリオに歩み寄る。
「君と共に戦うのは初めてだったな。ふふ、いい戦いぶりだったぞ」
「そちらこそな。加勢してもらわなければ、危なかった」
 ベリザリオは応えつつ、竜の残骸に視線を遣る。
 一度目を閉じると、一旦一人にしてもらってから……その亡骸を見据えた。
「殺された己を呪うがいい」
 そうしてそう最後に言うと、その残骸を喰らい、己のものとした。
 その後皆の元へ戻り──改めて礼を言った。
「……それじゃ、後はヒールだけしておこうか」
 アリューシアは頷いて応えると、荒れた地面を修復。戦闘痕を消していく。
 織櫻はベリザリオへ声をかけた。
「ヴァルター、気が済んだなら帰りますよ」
「ああ」
 と、ベリザリオは織櫻へと歩み寄り、共に帰路へついていく。
 そんな二人の様子に雨音はやれやれとばかりに、肩をすくめていた。
「心配は……しなくとも、大丈夫みたいにゃ」
 生暖かいような、遥か彼方を見る遠い目のような、そんな視線で見守りつつ。
「それより腹が減ったにゃ」
 ご飯まだかにゃ、と。自分も歩み出して野原を後にしていく。
 織櫻は夜のしじまを歩みながら、ベリザリオに言った。
「折角です、飲んでいきましょうか」
「ほう、酒に付き合ってくれるのか」
「夜風の散歩も血腥いままでは興醒めですしね。今日は三本までなら付き合いましょう」
 そんな言葉も、織櫻が心配している証拠だとベリザリオには判る。
 ──ああ……今の私は、帰る事が出来るんだ。
 今はその実感が、嬉しく思えた。
 空を見ると雲が晴れ、星が覗いている。暗い空に瞬く幾ばくかの光──それを短い時間仰ぐと、それきり視線を戻し、ベリザリオは歩んでいった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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