氷華絢爛

作者:東間

●鉄牙再生
 腹部を上にして、ごろん。
 一目見て「壊れているな」と判る犬型ロボットが、自分よりもずっとずっと背の高い雑草に囲まれて――まるで誰かが抱き上げてくれるのを待つように、『へそ天』状態で前足と後ろ足をぴんと上へ伸ばしていた。
 そこへようやく現れた訪問者は、まあ可哀想にと抱き上げてくれる誰か――ではなく、コギトエルゴスムをくっつけた小型ダモクレス。
 小型ダモクレスは犬型ロボットの過去も現在もお構いなし。無言かつ勝手に犬型ロボットの中に入り込み、機械的ヒールで全てを変えていく。
 雑草の塊がガサガサバサバサ揺れた後、そこから勢いよく飛び出したのは――。

●氷華絢爛
「犬のダモだろ?」
「紛れもなく犬型だ。ただしビフォーアフターが激しいのなんの……元の姿とは欠片も似ていなくって」
 残念そうなラシード・ファルカ(赫月のヘリオライダー・en0118)に、腰を下ろしていたサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は「ほー?」と口の端を上げる。
 柴の子犬をモデルとした愛らしいフォルムだったのが、血も涙もない牙剥き出しの犬型クリーチャー……っぽいダモクレスになったらしい。
 こんな感じ、とタブレットに表示されたのは、某国アクション映画に登場した狩猟犬型ロボ。メタリックシルバーのボディとクールなデザインの狩猟犬型ロボは、作中では味方だったようだ。
「体高は約2メートル。現場は水路脇の砂利道で、周りは田んぼで人気無し。ただし少し行った先から住宅街が広がっていて、ダモクレスはそこにあるカフェへ突っ込むから、何としても砂利道で撃破してほしいんだ」
 犬型ダモクレスは、その鋭い牙や爪を使った攻撃に加え、喉の奥に仕込んである発射口からエネルギー光線も放ってくる。
 火力は高く、単機ではあるが、ケルベロス達を食い尽くすべく最後まで凄まじい勢いで攻撃してくる筈だ。
「それとボディが銀色だから少し眩しい」
「視界にギラギラしたものが残りそうね……」
 瞼を閉じると、緑や赤色でちらつく、あの。
 花房・光(戦花・en0150)の呟きにラシードは頷いて――そんな犬型ダモクレスだが、ケルベロス達が一丸となって挑めば、絶対に大丈夫だと笑った。
「君達がダモクレスを撃破すれば、被害を受ける筈だった『とまり木』っていうカフェは助かる。そこでは、どの飲み物にもフラワーアイスキューブを使っててね。全部終わったら華やかな涼を味わってきたらどうだい?」
「フラワーアイスキューブ?」
「フラワーアイスキューブ……」
 光の後にオウム返ししたサイガは、ほんの僅かに空中を眺めた後、「ああ、」と、いいものを見つけたようにニヤリと笑った。
「氷ん中に花入れたアレ」
「そうそう」
 花を抱いた美しい氷の形は、どの家庭にもあるだろう四角い氷や、ころりとまあるいもの。
 花はパンジーやキンレンカ、薔薇等々。種類も色も多彩で、しかも全てがエディブルフラワー。氷が溶けた後、飲み物と一緒に味わう人もいるようだ。
 『とまり木』の飲料メニューは、アイスティーにアイスコーヒー、蜂蜜柚子茶、乳酸飲料、果汁のソーダ割り。何色のフラワーアイスキューブがいいかリクエスト出来るので、それと合わせて飲み物を頼むという楽しみ方もある。
「メイン料理はオムライス、カレーライス、ハヤシライス、ピラフの四つ。プラス百円で大盛りも可能だって」
 タブレットをしゅっしゅと操作し、カフェのホームページを見たラシードからの情報に、そりゃまたいい感じでとサイガは頷き、立ち上がる。
「ダモをぶっ飛ばした後なら、腹、いい具合に減ってっかもな」
 大盛りにしたメニューも、美しく凍えるフラワーアイスキューブも――どちらもケルベロスの心身を、満たすだろう。


参加者
ティアン・バ(尽きぬ此の雨・e00040)
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
スバル・ヒイラギ(忍冬・e03219)
サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)
美津羽・光流(水妖・e29827)
アレクシア・ウェルテース(カンテラリア・e35121)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
四十川・藤尾(七絹祷・e61672)

■リプレイ

●銀の獣
 茂る雑草を背に立つ機械の犬という図はなかなか様になっていた。それが壊れていた犬の機械だったなら尚更。しかし。
「待望の帰還――とみかせけ、悪の手に落ちたなんざどらまちっくが過ぎんだろ、いぬっころサンよ」
『グルッ……』
 サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)の声にダモクレスとなった犬が唸り声を上げる。聞こえるそれは大変機械らしさに溢れ、びっしり並ぶ鋭い牙にキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)は肩を竦めてみせた。
「またイイ具合に凶悪面ンなったねぇ……てか眩し! デカいのカッコイイとかちょっと思ったケド!」
 眩しいなら視界を灼くようなギラギラではなく、今吹かせた雷孕んだ旋風のような眩しさの方が、ずっといい。
「うん、犬は好きだけどあれはダメだなぁ。普通の柴犬はかわいいよね。さて、被害が出る前に片付ける!」
 からりと笑ったスバル・ヒイラギ(忍冬・e03219)は闘気を狼に変える。鋭く駆けたその爪が銀の胴を切り裂いた瞬間、アレクシア・ウェルテース(カンテラリア・e35121)の持つ竜槌は砲撃形態を取っていた。
「そうね。大事にされたなら、良かったのだけれど。こんなのは、本意じゃないでしょうから。せめて、綺麗に片付けてあげるわ」
 鋼鉄の犬に立ち向かう勇士達の戦いぶりも興味深い。
 曲作りが捗る予感に轟音が被る間、無言で視線交えたティアン・バ(尽きぬ此の雨・e00040)と花房・光(戦花・en0150)の癒しが前衛に広がった。
 砂利道に咲いた無数の花々がその姿を鮮やかに残し、消える刹那。その上を機械犬が咆吼と共に駆けて突っ込んだ先は。
「そーそ! やっぱこんくれえ歯応えねえと」
『ッギャン!』
 散らされた赤色も痛みもサイガは笑みで蹴り飛ばし、満月の力重ねた黒一色の刃で斬りつける。ただどらまちっくなだけであるより、この方がこちらの喰い応えがあって良し。
 しかしこの構図、もしかして。
 長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)はハッとした。
「鋼の猟犬と地獄の番犬が縄張り争い……? いや、変なこと考える暇あったらさっさとスクラップにして飯にしたい! 飯ー!」
 オムライス、カレーライス、ハヤシライス、ピラフがプラス百円で大盛り。何て素晴らしい。
 全力の食欲を滾らせ放った一撃は鎖付きの枷となり、千翠の願いを速やかに形にすべく機械犬へガッチリ食らい付いて離さない。その激しさはまるで、死ぬまで愛すと宣言するかのよう。
 機械犬が解放されようと暴れる度にする固い金属音は、ボディがつるつるだからこそ。眩しそうに目を細めた美津羽・光流(水妖・e29827)は機械犬の耳先から尻尾の先端までを見て、
「こらまたえらいつるんとした犬ロボやな。夏毛に生え変わるのに失敗してもうたんやな……もふれへんならまあ良えわ。とっとと去ね」
 バッサリ。
 三重の加護持つ輝ける盾を受けた四十川・藤尾(七絹祷・e61672)は礼を言い、如何なる攻撃にも耐えられる構えを取る。
 愛くるしい仔だったのだろうと、機械犬の過去に想いを馳せても慰めにはならないのだろう。だとしても。
(「わたくしは、今の素敵なあなたも好きですよ?」)
『グルァァオ!!』
 微笑に対し、機械犬の返事は咆吼のみ。思いきり砂利道を蹴って後ろに跳んだそこに、キソラは迷わず掌のガネーシャパズルを向ける。
「怒ンならオレの方にしときな?」
 現れた『女神』に機械犬がけたたましく吼える隙に、光流は守り手の一人であるキソラへとすかさず輝く盾を届け、ティアンもまた、同じ盾でもって攻撃手であるサイガをたちまち癒した。
「いぬ」
 静かな声に、機械犬の耳がグルッと向く。
「抱き上げては、やれないが。最期くらい、あそんでやるさ」

●ほしの獣達
 機械犬の鋭い爪はケルベロスも雑草も、砂利道も遠慮なく切り裂いては荒らしていく。しかし、そのギラギラとした姿は砂利道の外へは決して至らない。
 瞬き一回。その瞬間。直後。どちらにも残るギラギラの名残にサイガは面白そうに笑み、腕を流れてきた銀色の姿を変えていく。
「眩しさ対決なら、こっちのもなかなか」
 ほらよと頭部に叩き込んだ鋼鬼の拳が周囲にゴィン、と鈍い音を響かせる。
 バウンドした頭部からグルルと聞こえた唸り声。機械犬が四肢に力を入れた、その瞬間。
「そぉら! もう一撃ッ!」
『!』
 反応した機械犬が口をガッと開いた。ぐるりと並ぶ牙の群れに触れられるより早く、千翠は並ぶ牙弾いた如意棒をぐるんっと回転させ、思いきり叩き付ける。
 ガァンと響いた音は凄まじく、しかし、凄い音ねと微笑んだアレクシアは上品なまま。機械犬の足を止めようか。そう考えるも、視えた確率にすぐ切り替え『衣通姫』の柄を握った。
「さあ、たっぷり遊んであげるわ」
 宣言通り、剣の先端から溢れた花嵐が鮮やかに機械犬の体を呑み込んでいく。
 美しい輝きが晴れる直前、光から“満月”を受け取ったスバルは晴れやかな表情で機械犬へと突っ込んだ。人払いが不要なら思いきり戦えるが、晴れやかな理由はそこではなく――視界に入る田んぼに、これっぽっちも被害を出さず戦えている事。
 米は大事だ。道路や建物はヒールグラビティで癒せるが、米作りに励んだ誰かの時間や心は、癒せない。だからなるべく、と抱いていた想いが強固になる。
「カフェも、田んぼも! 荒らさせないし荒らさない!」
 顔に叩き込んだ拳は大岩が落ちたように機械犬の片目を砕き、機械犬の喉からギャウンと悲鳴が飛び出した。しかし鋭い爪が砂利道をぐっと押し込んだ瞬間、機械犬が一人のケルベロス目がけ跳躍する。
 がば、と開いた口はスバルと同じクラッシャーたるサイガへと。牙は褐色の肌に突き刺さり――しかし、機械犬が覚えた固さは男にしては柔らかい。
『ッグ……ルルゥ……!』
「ふふ」
 目の前にある銀の煌めきと影。網膜に鮮やかに焼け付く軌跡に藤尾は目を細めた。
(「嗚呼……これが」)
 受けた加護と向こうが花嵐に酔った影響で、ダメージはそれ程ではない。しかし無ではない傷みと肌伝う血の滴り、相反する高揚感にこめかみが粟立つのを感じた。
 間を置かず光流は頭上で空間を真一文字に切り裂き、溢れさせたあかね色の輝きで虹色の蹴撃見舞った仲間を癒していく。
「これからメシ食いに行こうちゅうのに、逆に犬に食われるわけにはいかへんのや」
『グルルルッ!』
 余計な真似をと言うように牙を剥き出しにした機械犬の目が、引き寄せられるようにして、ぐんっとキソラの方を向いた。閃いた爪はそのままキソラの腕を抉るが、意識を向けた当人であるキソラは「よくできました」と余裕の笑み。
 しかし、勢いよく動いた機械犬の頭部は、スバルにとってそれはもうアレだった。
「うっわ。眩しいなあ」
 感じた事をそのまま言葉にして、跳ぶ。戦士の跳躍は一瞬。見舞った一撃は技術の粋を集めた見事なもので――。
「ギラギラしてる犬モドキはさっさと倒して、涼しいカフェで一息つきたいな!」
 思った事そのまま、再び。しかし異を唱えるものは誰もおらず――いるとしたら、ぐらつく四肢で立ち上がろうとする機械犬くらいだが、漆黒の爪を握り締めた、とある拳が容赦なく封じていく。
「ま、こっちも伊達にイヌやってませんので?」
 ニヤリ笑ったサイガの前、砂利道に叩き付けられた機械犬の全身から力が抜けていく。
 機械犬は元の姿より遥かに大きく、強く、凶悪になっていた。
 しかし、地球に住まうケルベロスの方が何枚も上手だった。それだけの事。

●涼し華彩
 労いの後の「ちょっとだけ可愛かったね」に、光流は疑問符付きでせやなと笑みつつ、青い花を抱いた丸い華氷をストローで突く。
「これは紫陽花やろか」
「たぶんパンジーだね。紫陽花は食べられないから」
 ベジタリアンなウォーレンはサラダと乳酸飲料に舌鼓。華氷は赤やオレンジといったビタミンカラーを抱いていてカラフルだ。ストローで吸うと花蜜を吸っているようで心が躍る。
「そういえば……あれから一年になんねんな」
 もう? まだ?
 どちらであれ、不思議な気分だと言った光流がウォーレンと恋仲になって一年。
「好きって言ってくれたのずっと覚えてる」
「俺の恋心自体は一年どころやないから……」
 付き合い始めも全然距離を詰められなかった思い出多々。故にあまり実感が湧かないが、それでも記念というものは嬉しいわけで。
「僕も前から好きだったよ?」
「へ? そうなん? いつから?」
「はっきりとはわからないけど、少なくともジュエリーアイスを見に行った時にはもう」
 その言葉で光流は幸せで胸いっぱい。しかし目の前には大盛りオムライス。食べきれるだろうか。
「花食べても良えよ」
「おなかいっぱいー? じゃあ、もらうね?」
 オムライスは、注文した当人が普通に感触したモヨウ。

 ソーダ割の中、二種の花を抱いた氷が踊ってカランッと音を立てた。大盛りカレーを暫し味わっていたスバルは、ボリジとベゴニアが寄り添う華氷をちらり。それから向かいに座るヒナキを見る。
「先ず、この前はありがとう」
 自分が宿敵と出遭ったあの瞬間、ヒナキは駆け付けてくれた。家族以上で婚約者で。恋人未満だが、とにかく大事なヒナキ。彼女が来てくれて、本当に嬉しかった。
「みっともないところ、見せちゃったなと思って……」
 どうしてだろう。伝えたい事は色々あるのに言葉にしようとすると上手くいかない。ひたすらカレーを食べるしかなくなる。
「スバルは、私の時も来てくれたから」
 今度は私がスバルを助けたかったの。ヒナキは柔らかに微笑むとオムライスを食べる手を止め、同じ華氷を浮かべたアイスティーのグラスに触れる。
「スバルは、泣かないから。辛くても、苦しくても、私の前では笑顔しか見せてくれなかったから」
 一番近くにいたのに一番遠いような気がして、それが少しだけ寂しくて。だから、泣いてくれたあの時――少しだけ、嬉しかった。だって。
「どんな時も、スバルと分かち合いたいよ」
 家族以上で、婚約者で。恋人未満かもしれないけれど、大事な人だから。泣いて笑って楽しんで、苦しんで。そんな日々を一緒に過ごしたいと願うのは、あなただけ。

 ティアンのシィラのメイン料理はオムライスと“お揃い”。飲み物はソーダ割り。違うのは果汁と――。
「……少し辛いな。でも、蜜のような甘さもある」
 氷を噛み砕いて花の味を確かめたティアンは、目が合った光と互いの華氷を確認済み。後で味を訊こう、と思う間に、シィラの丸い華氷からピンクの撫子が顔を出す。
 ライチの果実ソーダ割と共に味わった、可愛らしい氷から溢れた花の味はわからなくても、広がった香りが微笑みを連れてくる。
「ふふ、とびきりの贅沢をしてる気分。ティアンさんの氷も見せて下さいな」
 赤橙の花の名をティアンは知らない。でも。
「これは、色がいいなって、思って」
「ええ、とても華やかで。わたしは撫子と薔薇と百合しか知らなくて」
「その三つの花は好きな花?」
 ゆら、と小首傾げたティアンの問いに、シィラの肯定が返ったのは少し間が置かれた後。
「あ、とても綺麗な飲み物ですから、食べる前にスマホで写真を撮りましょう」
「……ああそうだ、ティアンも写真、撮ろう。この手の綺麗な食べ物、いつもはつい写真を撮る前に食べてしまうんだ」
 シィラがいてくれてよかった。デジカメを手にした友の声に、良かったと笑顔が咲いて。一緒に記念を残せる嬉しさに、花咲く涼が刻まれる。

「花を好まれる殿方も心当たりますけれど……こういったものを分ちあうのもまた楽しいですわ」
 ピラフ味わう藤尾の手が蜂蜜柚子茶のグラスに触れる。からん、と涼やかな音は真珠を想起させる球の華氷から。白いペンタスを見つめたアラタの双眸が楽しげに輝いた。
「藤尾のは回すと転がって可愛いな! 光は氷以外はアラタと同じだな、星みたいだ」
「本当ね」
 揺れる華氷は青いビオラを抱いた四角形。感謝しながら食事を――命を継いで明日への頑張りを蓄えるという、アラタ風ランチを過ごしながらお星様も飲めるのは、二人が一緒に考えてくれたお陰だと光が笑う。
「どういたしまして」
「力になれて嬉しいぞ!」
 アラタが迷いに迷って選んだ柔らかな白色に浮かぶ華氷は、多色多様な四角形。色と形の花が共演している。
 大好きなオムライスを食べたアラタが浮かべるものは、注文時と変わらず屈託のない笑顔。共に過ごす日の浅い藤尾にも、その笑顔は影を追い遣るような眩しさで。
(「彼の人の瞳にも、嘗て……同じ風に映ったのかしら」)
 微笑の裏、胸中でそう思っても、一片の悋気すら立ち昇らない。
「千翠さんのはバーベナ?」
「らしいな。丸いからプチトマトみたいだ」
 光にそう返した千翠は大盛りピラフを既に半分平らげた後。胃はまだまだ余裕。喉はレモンスカッシュで潤して気分をスッキリさせたが、キューブは、まだ。
「アレクシアのは凄く夏! って感じだな」
「見た目も涼し気で素敵でしょう?」
 シュワシュワ弾ける青色果汁。花氷に宿る薔薇の花びらは陽光のような黄色だ。アレクシアは溶けた氷から放れ、ソーダの気泡に揺れる花びらをひと掬いし、口へ。
「花って、優しい味がするのよ」
 そう言われると千翠は俄然興味が湧いた。早速自分の華氷をバリボリ齧り、びっくりする。
「これ甘いな? 味は……何か、優しい?」
「あら、美味しそうね。光さんのお花は、どんな味かしら?」
「結構あっさりしてるわ。飲み物の味を邪魔しないタイプみたい」
「そうなの? 丁寧に作られているオムライスとの相性も良さそうね」
 丁寧と聞き千翠はオムライスへ熱視線。玉子ふんわりだぞ、チキンライスもとても美味しいわ、とアラタと光もアレクシアに続いてオムライスを推し――カシャッ。
「あら、皆さん写真を撮られるんですね? わたくし達もやってみましょうか。さぁ、お笑いになってくださいな」
 聞こえた音を切欠に、まずはそちらからと藤尾が捉えた先。千翠は笑顔でグラスを軽く上げ、アラタもパッと笑顔見せて写メの波へ。店主から笑顔の許可を得たら、藤尾の肩をトントンと。
「藤尾も寄って一緒に収まろう!」
 笑顔は多い方がいいと笑う顔は変わらず無垢で。藤尾は、ええ、と微笑んだ。
 シャッター音と華氷の音、そして穏やかで心躍る時間にアレクシアは目を閉じる。
「こういうお店って、ずっといたくなるわね」
 楽しんだ分は、創作活動のエネルギーの源へ。

 林檎果汁のソーダ割りは雲に覆われた空のような薄金色で、そこにキンセンカの花弁抱いた華氷が漂う。思った通り綺麗だったから、キソラはスマートフォンで即パシャリ。その目はすぐに別の“綺麗”も発見していて。
「光ちゃんのちょっと撮らせてもらってもイイ?」
「ええ。あ、ライゼさんのも綺麗ね?」
「ドーゾ撮ってって?」
 名刺交換のようにシャッター音を交えたら食事開始。千翠にもシェアした大盛りカレーライスは肉も野菜もたっぷりで、リンゴソーダは口内でパチパチ弾けて実に爽快。
 ところで。
(「薔薇は食ったコトあるし食える花があるの知ってても、まだ不思議な気分なんだよネ」)
 ファンシー過ぎて別の生き物にでもなった気分というか――。
「水部分の違いはまあ分かっケドよ、花も味違えの?」
「あ、おま」
 ぬ、と伸びたティースプーンに華氷がさらわれる。ボリボリ齧るサイガは花の味を探している様子。さて、そのお味は。
「空の味する?」
「食った事ねえし……空ってちぃと苦いか?」
「さぁ? てかお前自分のは、」
 しょーがねぇなと笑って見た先のメイン料理、大盛りハヤシライスはだいぶサイガの腹に収まった後。飲み物はマスカットソーダ。華氷は何色もの薔薇花弁が虹色作る縦長スティック状で――そちらも一本、腹に収めた後らしい。
「カラフルな氷山だったわ。つか縦長ばっかじゃ飽きんじゃん、バエよ映え……」
 味は――と、そこに聞こえたシャッター音はカラフル華氷をちゃっかり撮っていたキソラから。そだ、とサイガもスマホを構えテーブルの上を弄る。
「光の飲みモンもちょいこっち寄せてみ。ラシードに見せびらかしたろーぜ」
「いいわね。食レポも付けようかしら?」
「お、二人とも悪い顔しちゃってまぁー」
 カシャリ、パシャリ。
 音と会話は絶えず、涼と共に広がるばかり。

作者:東間 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年7月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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